(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フルオロポリマー樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン、及びポリフッ化ビニルからなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の流体分離用複合多孔質膜。
フルオロポリマー樹脂からなる微多孔質膜の少なくとも片側にシリカ前駆体の塗膜を形成した後、熱処理および水蒸気処理から選択された少なくとも一つの処理を施して前記シリカ前駆体をSiO2ガラスに転化させることにより、前記微多孔質膜の少なくとも片側にSiO2ガラス層を形成し、SiO2ガラスで被覆された複合多孔質膜を得ることを特徴とする流体分離用複合多孔質膜の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微多孔質膜は耐薬品性、耐熱性に優れることからエアフィルター、バグフィルター、液濾過用フィルターとして幅広く使用されている。PTFE微多孔質膜の製法としては、例えば、PTFEパウダーと液状潤滑剤とを混合してペーストを作製し、このペーストを押出成形により予備成形体を作製した後、得られた予備成形体を押出しおよび/または圧延等の手法でシート状物とし、更にシート状物を少なくとも1軸方向に延伸してPTFE微多孔質膜を得る方法がある。
【0003】
このような手法により得られたPTFE微多孔質膜は、耐酸性、耐アルカリ性、耐有機溶剤性の全てを有する高い耐薬品性と、高融点と連続使用可能温度(例えば、260℃)に由来する耐熱性とを兼ね揃えることから、特に半導体の製造および洗浄分野において使用される高温且つ高反応性の洗浄薬液を濾過する際、欠かすことのできない素材である。
【0004】
近年の半導体製造分野は、更なるメモリの高容量化を達成するために論理回路の高密度化が急速に進んでおり、これに伴い回路ハーフピッチ(溝幅)も短くなってきている。このため、ピッチ閉塞の原因となる不純物(パーティクル)に対して、これまでの要求である100nmサイズから50nm〜30nmのサイズまで微小化した不純物粒子をも除去可能な高精度なフィルターの開発が求められてきた。
【0005】
フィルターの開発において、PTFE微多孔質膜の高精度化が検討されている。これまで使用されていたPTFE微多孔質膜の平均孔径は50nmサイズであったが、更なる高精度化の要望に伴い30nmサイズの平均孔径を有する微多孔質膜が現在使用されている。しかし、これらの微多孔質膜からなるフィルターは、約100nmサイズの不純物には十分対応できていたが、これ以下のサイズ、特に50nm〜30nmレベルの不純物に対しては、平均孔径以上のサイズであるにもかかわらず、以下の事由により十分な濾過精度を確保することができなかった。
【0006】
半導体洗浄工程では、レジスト膜の除去及び付随するパーティクル、有機不純物の分解を効率よく進めるため、洗浄液を約120℃付近に保った状態で循環させる。例えば洗浄工程の一つであるSPM(Sulfuric Acid Hydrogen Peroxide Mixture)洗浄では、濃硫酸と過酸化水素水を混合して高温に保つことで非常に強い酸化力を持つ過硫酸(H
2SO
5)を生成し、有機不純物の分解に大きく作用させる。しかし、PTFEの熱変形温度は約115℃であり、かかる条件のような高温の流体を循環させる状況においては、濾過時にかかる濾過圧力或いはその他の要因に伴う物理的応力により、空孔部の目開きや変形が容易に生じてしまう。このため、常温の流体で十分に濾過精度が保証された微多孔質膜であっても、高温の流体ではその濾過精度を維持することができず、特に平均孔径に近いサイズの不純物粒子では殆ど捕集されないという問題がある。
【0007】
上記問題を解決する手法として、PTFE微多孔質膜の更なる高精度化が挙げられ、一部では平均孔径15nmサイズの微多孔質膜と表示されたフィルターが流通しており、今後も高精度化の傾向は進みつつある。
【0008】
一方で、微多孔質膜の表面を無機成分で覆うことにより、微多孔質膜に付加的機能を付与する技術が知られている。例えば、平均公称孔径が0.02〜15μmの連続細孔を有する高分子微多孔質体と、該微多孔質体の細孔内表面を被覆するシリカゲルとからなるシリカゲル複合化高分子多孔質体、ならびにこれを用いたフィルターが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また、微多孔質支持体上にポリオレフィン類、ビニル系重合体類、共役ジエン重合体類、ポリエーテル類、及びポリジメチルシロキサン等の重縮合体類に代表される高分子物質を被覆した気体分離用複合膜に、非重合性ガスによる低温プラズマ処理を施した後、含ケイ素重合体を塗布することで、気体透過性に優れ、気体選択性と耐久性を向上させた気体分離用積層複合膜が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
前述の高精度化を目的に、PTFE微多孔質膜の平均孔径を15nm以下にまで小さくすることは同時に圧力損失の増加をも招くため、実際の運用では微多孔質膜の厚さを約30μm〜10μm以下と極めて薄くして使用している。しかしながら、膜を薄くすることにより膜のコシや物理強度が低下してしまい、フィルターへの成形性及び長期使用における耐久性を維持することが難しく、単にPTFE微多孔質膜を緻密化および高精度化するのみでは限界が生じてしまう。また、仮にフィルターの高精度化を達成できたとしても、高温の流体下における熱変形の問題が解決できた訳ではなく、今後予測される更なる濾過精度の向上に対応することは困難である。
【0011】
また、微多孔質膜の表面を無機成分で覆う公知技術に関しては、特許文献1は、微多孔質体の細孔内表面に脱落し難く、且つ薄く均一にシリカゲルを付着させることで親水性を付与させたものであるが、本質的に水分との結合がし易いことを目的とするシリカゲルでは多孔質体の強度を向上させることは困難であった。また、特許文献2の方法により得られる複合膜は、塗布された含ケイ素重合体が高分子物質へのプラズマ処理によって発現する気体選択性の経時低下を抑制するものであり、耐薬品性が特に要求される半導体製造分野におけるフィルターとして使用するには求められる特性を得ることが難しい。更に、気体透過性を維持する上でも塗布される含ケイ素重合体の膜厚は薄くなければならず、流体分離用のフィルターに必要な強度向上に繋げることは困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このようなことから、本発明の課題は、十分な耐薬品性と、120℃付近の高温流体下における熱変形を抑制することが可能な強度とを兼ね揃える複合多孔質膜及びこれを用いたフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、下記の構成を有する複合多孔質膜が前記課題を解決することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。本発明は、以下の[1]〜[10]の構成を有する。
【0015】
[1]フルオロポリマー樹脂とSiO
2ガラスとで構成されることを特徴とする流体分離用複合多孔質膜。
[2]フルオロポリマー樹脂からなる微多孔質膜と、SiO
2ガラスからなるSiO
2ガラス層とで構成される流体分離用複合多孔質膜であり、前記微多孔質膜表面の少なくとも片側が前記SiO
2ガラス層で被覆されていることを特徴とする前記[1]に記載の流体分離用複合多孔質膜。
[3]流体分離用複合多孔質膜の平均孔径が、5〜500nmであることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の流体分離用複合多孔質膜。
[4]前記フルオロポリマー樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン、及びポリフッ化ビニルからなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の流体分離用複合多孔質膜。
[5]前記フルオロポリマー樹脂がポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の流体分離用複合多孔質膜。
[6]流体分離用複合多孔質膜が、平膜の形状であることを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれか1つに記載の流体分離用複合多孔質膜。
[7]流体分離用複合多孔質膜が、中空糸膜の形状であることを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれか1つに記載の流体分離用複合多孔質膜。
[8]フルオロポリマー樹脂からなる微多孔質膜の少なくとも片側にシリカ前駆体の塗膜を形成した後、熱処理および水蒸気処理から選択された少なくとも一つの処理を施して前記シリカ前駆体をSiO
2ガラスに転化させることにより、前記微多孔質膜の少なくとも片側にSiO
2ガラス層を形成し、SiO
2ガラスで被覆された複合多孔質膜を得ることを特徴とする流体分離用複合多孔質膜の製造方法。
[9]前記シリカ前駆体が、ポリシラザンおよび有機シラザンから選択された少なくとも1種であることを特徴とする前記[8]に記載の流体分離用複合多孔質膜の製造方法。
[10]前記[1]〜[7]のいずれか1つに記載の流体分離用複合多孔質膜を用いることを特徴とするフィルター。
【発明の効果】
【0016】
本発明の流体分離用複合多孔質膜は、流体下における熱変形や目開きが最小限に抑制される。従って、濾過精度を維持した、耐薬品性と耐熱変形性に優れたフィルターを作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
尚、本発明において、質量で表わされる全ての百分率は、重量で表わされる百分率と同様である。
【0018】
本発明の流体分離用複合多孔質膜(以下、単に「複合多孔質膜」ともいう。)は、フルオロポリマー樹脂とSiO
2ガラスとで構成される。尚、本発明において、流体とは液体および気体を指し、本発明の流体分離用複合多孔質膜は、特に液体用として好適に用いることができる。
【0019】
本発明の流体分離用複合多孔質膜を構成するフルオロポリマー樹脂は、フッ素を含有するハロゲン化モノマーを材料とした乳化重合等の手法によって得ることができる。具体的には、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、フッ化エチレン、およびクロロトリフルオロエチレンのようなフッ素化オレフィンモノマー、並びにパーフルオロアルキルビニルエーテル類、パーフルオロエステル類、パーフルオロスルホニルフルオライド類、パーフルオロジオキソール類のようなフッ素化官能性モノマーを用いた単独重合体、或いは少なくとも2種類以上のモノマーを用いた共重合体である。このようにして得られたフルオロポリマー樹脂の一例として、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(別名:パーフルオロアルコキシアルカン)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン、及びポリフッ化ビニル等があり、この中でも特に、耐薬品性に優れるポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマーが好ましく、耐熱性に最も優れるポリテトラフルオロエチレンを用いることがより好ましい。これらフルオロポリマー樹脂は、1種でも2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
本発明に用いられる微多孔質膜は、特に限定されないが、前記フルオロポリマー樹脂から、次のような方法で成形できる。
まず、上記フルオロポリマー樹脂からなるパウダーと、ナフサやミネラルオイル等の成形助剤とを混合してペーストを作製し、このペーストを押出し機に投入して、円柱状、角柱状、中空状或いはシート状の押出し成形物を得る。このとき複合ノズルを用いた押出しにより、異なるフルオロポリマー同士を2層以上に積層した押出し成形物を作製してもよい。得られた押出し成形物は、例えばカレンダーロール等の熱ロールにより押出し方向または押出し方向に直交する方向に引張り乃至圧延し、中空糸状或いはシート(薄板)状とする。成形助剤を除去した後、或いは除去せずに延伸し、更に必要に応じて焼成することにより中空糸膜或いは平膜として成形された微多孔質膜を得ることができる。このようにして得られた微多孔質膜はフィブリル骨格から構成されている。一軸延伸の場合、フィブリルが延伸方向に配向且つフィブリル間が空孔となった繊維質構造となっており、また二軸延伸の場合ではフィブリルが放射状に広がったクモの巣状の繊維質構造となっている。
【0021】
本発明の流体分離用複合多孔質膜を構成するSiO
2ガラスは、シリカ前駆体を熱処理または水蒸気処理することでSiO
2ガラス(シリカガラス)に転化させたものである。前記シリカ前駆体は前記フルオロポリマー樹脂からなる微多孔質膜に塗布され、熱処理および水蒸気処理から選択された少なくとも一つの処理を受けて微多孔質膜上にSiO
2ガラス層が形成されることで本発明の複合多孔質膜を得ることができる。シリカ前駆体としては、ポリシラザン、有機シラザン、及びポリシラザンと有機シラザンの混合物などを好適に用いることができる。
【0022】
SiO
2ガラス層を形成する方法としては、例えば、ポリオルガノシロキサンを微多孔質膜に浸透付着、加熱などの手法で転化させるゾル−ゲル法、一例を挙げれば加水分解性ケイ素含有有機化合物を水と反応させて部分的にゲル化させた溶液を微多孔質膜の表面に塗布乃至噴霧等の手法で付着させた後、水と反応させて完全にゲル化、更に加熱乾燥して複合多孔質膜を得る手法や、下記式(A)で表される構成単位を有するポリシラザン類化合物を主体とする溶液(ポリシラザン溶液)を微多孔質膜に塗布乃至噴霧等の手法で付着させた後に空気加熱や熱水、或いは水蒸気等の処理を経てSiO
2ガラス層に転化させるポリシラザン法などが挙げられる。
【0024】
(式(A)中、Rはそれぞれ独立して、水素または炭素数1〜22のアルキル基を示す。)
【0025】
本発明の複合多孔質膜を得る上では、シリカ前駆体としてポリシラザンを用いたポリシラザン法が最も好ましい。ポリシラザン法は、緻密な構造を持つSiO
2ガラス層への転化が比較的容易に進むことで高強度の複合多孔質膜を得易く、架橋剤や触媒残渣等に由来する不純物溶出が少ないからである。
【0026】
本発明で用いるポリシラザンは、低温でSiO
2ガラスに転化できるポリシラザンであることが好ましい。このようなポリシラザンの例として、日本国特開平2004−155834号公報に記載されているSi−H結合を有するポリシラザンを含有する溶液や、日本国特開平5−238827号公報に記載されているケイ素アルコキシド付加ポリシラザンや、日本国特開平6−122852号公報に記載されているグリシドール付加ポリシラザン、日本国特許第3307471号公報に記載されているアセチルアセトナト錯体付加ポリシラザンなどが挙げられる。尚、ポリシラザン溶液は、例えば、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製「アクアミカ(登録商標)」として入手できる。
【0027】
本発明において、SiO
2ガラス層は、120℃雰囲気下での強度を得る上でもポリシラザン溶液を微多孔質膜の面方向に対して均質に塗布することが好ましい。一方、微多孔質膜の厚さ方向に対しては、目的に応じて、均質に塗布するのが好ましい場合や、塗布量に勾配を付けるのが好ましい場合それぞれがあるので、適切な方法を選ぶことが望ましい。いずれにせよ、複合多孔質膜に要求される通気性及び通液性を維持する必要性も考慮しながら、複合多孔質膜の表面の少なくとも片側がSiO
2ガラスで被覆されるように、微多孔質膜の少なくとも片側にSiO
2ガラス層を形成する必要がある。SiO
2ガラス層が微多孔質膜を部分的に閉塞すれば、空孔の減少を抑制することができるとともに、より緻密な空孔径を得ることができ、これにより非対称な複合多孔質膜としての利用も可能となる。
【0028】
前記SiO
2ガラスの付着量としては、特に限定はされないが、流体分離用複合多孔質膜の膜面積に対して、SiO
2ガラスが0.6〜8.0g/m
2付着されるのが好ましく、0.7〜8.0g/m
2がより好ましく、1.0〜6.5g/m
2がさらに好ましく、1.5〜6.5g/m
2が特に好ましく、1.5〜4.0g/m
2が最も好ましい。SiO
2ガラスの付着量が0.6g/m
2以上であると、複合多孔質膜が十分な耐熱変形性を得ることができるため好ましく、8.0g/m
2以下であると、SiO
2ガラス層が微多孔質膜の細孔を閉塞することに因る流体の流量低下を最小限にすることができるため好ましい。なお、本発明において、流体分離用複合多孔質膜の膜面積とは、供給液と直接接する膜の表面積として定義される。具体的には平膜の場合、方形としての面積であり、中空糸膜の場合、外表面または内表面の面積として表すことができる。
【0029】
複合多孔質膜中のSiO
2ガラス層の付着量を定量的に確認する方法としては、塗工前における微多孔質膜の重量をあらかじめ算出し、塗工後の複合多孔質膜から差し引いて求める手法の他に、複合多孔質膜を数百度の高温で焼成、微多孔質膜を分解除去した残渣から求める手法、あるいは複合多孔質膜を薬剤(例えばフッ酸などのフッ素系薬剤)中に浸漬し、SiO
2ガラス層を分解除去した後の微多孔質膜重量を差し引いて求める手法等が挙げられる。勿論、例示したこれらの方法に限定されず、他の手法でも確認可能である。
【0030】
尚、SiO
2ガラス層の厚さを定性的、定量的に確認する方法としては、複合多孔質膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で直接観察する方法の他に、複合多孔質膜の表層のSiO
2ガラスをX線光電子分光分析等の手法により表面分析を行う方法や、Siの特性X線検出による元素分布から判定する等の方法が挙げられる。勿論、例示したこれらの方法に限定されず、他の手法でも確認可能である。
【0031】
本発明において、流体分離用複合多孔質膜の平均孔径は、5〜500nmであることが好ましく、5〜450nmがより好ましく、10〜400nmが最も好ましい。流体分離用複合多孔質膜の平均孔径が5nm以上であると、濾過時の目詰まりに伴う圧力損失の増加を最小限にできるため好ましく、500nm以下であると、粗大不純物粒子の透過を抑制することができるため好ましい。
【0032】
また、本発明において、流体分離用複合多孔質膜が120℃付近の高温液体下でも濾過精度を維持するために、下記式(1)で表す強度維持率が40%以上であることが好ましい。強度維持率とは、熱変形に要する応力と高温下の濾過精度の関係を数値的に表したものであり、強度維持率が40%以上であると耐熱変形性を有すると判断できる。尚、本発明の流体分離用複合多孔質膜の強度維持率は、実用上は60%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、100%以上が最も好ましい。
強度維持率(%)=CY
120(MPa)/Y
23(MPa)×100 ・・・(1)
(Y
23は、フルオロポリマー樹脂製の微多孔質膜の常温(23±1℃)下におけるヤング率であり、CY
120は、同微多孔質膜とSiO
2ガラス層とで構成された複合多孔質膜の120℃雰囲気下におけるヤング率である。)
【0033】
前記ヤング率は曲げ弾性率であり、弾性範囲で単位ひずみあたりどれだけ応力が必要であるかを表すものである。本発明において、120℃雰囲気下におけるヤング率(CY
120)は、90MPa以上が好ましく、100MPa以上がより好ましく、150MPa以上がさらに好ましく、200MPa以上が最も好ましい。120℃雰囲気下におけるヤング率が90MPa以上であると、120℃付近の高温流体を通過させた場合であっても孔径が開くことなく十分な濾過精度を得ることができるため好ましい。
【0034】
一般に、フルオロポリマー系樹脂は、融点が高く耐熱性に優れる一方、熱変形温度(HDT:℃、0.45Pa)が低く、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の熱変形温度は約115℃と、融点の高さ(327℃)に比べるとHDTは低い。しかし、PTFE微多孔質膜にSiO
2ガラス層を形成させることで、PTFEの熱変形をSiO
2ガラス層が抑え、空孔部の大きさの変化を最小限にすることが可能となる。即ち、高温(120℃)雰囲気下におけるヤング率CY
120も十分に高くすることができる。また、上記式(1)により算出される120℃雰囲気下の強度維持率が40%以上であれば、濾過精度の維持に優れる複合多孔質膜を得ることができる。更に得られるSiO
2ガラス層は、フッ酸等一部の薬品を除いて耐酸、耐アルカリ、耐有機溶剤のいずれも優れており、PTFEの耐薬品性を殆ど妨げること無く使用可能である。
【0035】
前記ポリシラザン溶液を前記フルオロポリマー樹脂からなる微多孔質膜に塗布する方法により、複合多孔質膜の厚さ方向のSiO2ガラス付着量の勾配の大小を変化させることが可能である。塗布する方法の例としては、特に限定されないが、ロールコート、グラビアコート、ブレードコート、スピンコート、バーコート、スプレーコート等公知の方法が挙げられる。前記微多孔質膜に前記ポリシラザン溶液を塗布し、付着させた後にプレ乾燥により溶剤を蒸発、ポリシラザン層を作製する。更に加熱や熱水浸漬、スチーム暴露等の手法によってポリシラザン層をSiO
2ガラス層に転化させて、複合多孔質膜とする。尚、ポリシラザン層を形成した状態で巻き取った後、巻取り体ごと加熱やスチーム暴露等の処理を施してSiO
2ガラス層に転化させてもよい。
【0036】
ポリシラザン溶液を塗布する工程で、ポリシラザン溶液を微多孔質膜に十分浸透させることで、プレ乾燥した後のポリシラザン層の厚さが、微多孔質膜の厚さ方向で均質となり、SiO
2ガラス層の付着量が厚さ方向で均質な、あるいは付着量の厚さ方向の変化が小さな複合多孔質膜とすることができる。具体的には、例えば塗布方法としてブレードコート法を選び、ポリシラザン濃度を5〜20質量%に調整して使用する方法が挙げられる。
【0037】
一方、ポリシラザン溶液を塗布する工程で、ポリシラザン溶液を微多孔質膜上に静かに噴霧することで、微多孔質膜へのポリシラザン溶液の浸透を抑えることができ、SiO
2ガラス層が微多孔質膜の片側の面にのみ偏在して付着している複合多孔質膜とすることができる。具体的には、例えばポリシラザン濃度を0.5〜5質量%に調整し、ミスト噴霧用のノズルから窒素ガスと共に噴出させ、粒径5〜10μm程度のミストとし、そのミスト雰囲気下に微多孔膜を静置させてミストを堆積させる方法が挙げられる。
【0038】
またポリシラザン溶液を付着する過程において、複合多孔質膜の耐薬品性、耐熱変形性を妨げない範囲で、ポリシラザン溶液に適当な充填剤を加えることにより、フィルターとしての性能を更に向上させることができる。充填剤の例としては、酸化亜鉛、二酸化チタン、チタン酸バリウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカの他、炭化ケイ素、窒化ケイ素、カーボンなどの微粒子が挙げられる。カーボンとしては、グラファイトカーボン微粒子の他に活性炭、カーボンナノチューブ等の形体から構成される微粒子も含まれる。これら充填剤の少なくとも1種がポリシラザンと共に微多孔質膜に付着し、SiO
2ガラス層中に強固に固着することにより脱落のない複合多孔質膜を得ることができる。
ポリシラザン溶液中の充填剤の濃度は、通常0〜20質量%、好ましくは0〜10質量%である。このような濃度範囲であると、フィルターとしての性能を更に向上させることができる。
【0039】
このようにして得られた複合多孔質膜は、緻密性と膜の強度(コシ)を両立しているため、フィルターへの加工が容易であり、耐薬品性は勿論、熱変形温度以上の流体を濾過しても濾過精度を維持できる液体、気体用フィルターの提供が可能となる。更に微多孔質膜の素材であるフルオロポリマーを物理的に補強することから、フィルターを洗浄、再利用する際に生じるダメージを最小限に抑えることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例により本発明を詳述するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、各実施例および比較例において、物性評価は以下に示す方法で行った。
【0041】
(ヤング率)
引張試験機としてオートグラフAG−10TD(型式,株式会社島津製作所製)を用いて、ASTM D882(2002)で規定されている薄いプラスチックシートの引張試験に基づきフィルムの加重と伸張率曲線(応力−歪曲線)を求め、立ち上がりの勾配よりヤング率を求めた。あらかじめ厚さを測定した複合多孔質膜について120mm×10mmの試験片を用意し、チャック間50mmで固定した後、引張速度5mm/minにて応力−歪曲線を作製する。立ち上がりの勾配より1%伸張時の加重を求め、断面積で除した値をヤング率(単位:MPa)とする。加熱条件にて行う場合は、チャック周囲を恒温層で覆った上で所定の温度条件にて同様の方法で測定した。ヤング率は、常温(23±1℃)と120℃で測定した。
【0042】
(強度維持率)
強度維持率を下記式(1)により求めた。
強度維持率(%)=CY
120(MPa)/Y
23(MPa)×100 ・・・(1)
(Y
23は、フルオロポリマー樹脂製の微多孔質膜の常温(23±1℃)下におけるヤング率であり、CY
120は、同微多孔質膜とSiO
2ガラス層とで構成された複合多孔質膜の120℃雰囲気下におけるヤング率である。)
【0043】
(平均孔径)
自動細孔径分布測定器として、以下の測定装置を用いた。
装置1:PMI社製「Capillary Flow Porometer CFP−1200AEX」
装置2:西華産業株式会社製「ナノパームポロメータ TNF−WH−M」
平均孔径はバブルポイント法(ASTM F316−86,JIS K3832)で求め、50nm以上のものは装置1を用いた平均流量径とした。50nm未満のものは装置2を用いてヘキサンの毛管凝縮にKelvinの式を適用して求めた。
【0044】
以下の実施例および比較例において、SiO
2ガラスの素材であるポリシラザン溶液として、表1に示すポリシラザン溶液を用い、適宜濃度を調整して使用した。
【0045】
【表1】
【0046】
<実施例1>
平坦なガラス板に、21cm×30cm(即ち膜面積0.063m
2)にカットしたフルオロポリマーの微多孔質膜であるPOREFLON HP−045−30(商品名,住友電工ファインポリマー株式会社製,公称平均孔径0.45μm)を固定し、シリカ前駆体の溶液として、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製「アクアミカ(登録商標)型番NL120A」(ポリシラザン溶液)を乾燥ジブチルエーテルで希釈してポリシラザン濃度を10質量%に調整したものを2.3g滴下した後、第一理科株式会社製バーコーターを用いて素早くコート処理を行った。溶媒が蒸発した後、ガラス板から剥がし、加湿雰囲気に保ったオーブン内に入れ、150℃で1時間加熱処理を行い、複合多孔質膜を作製した。SiO
2ガラスの付着量はコート前後の重量から算出(単位:g/m
2)した。
【0047】
<実施例2>
シリカ前駆体の溶液として、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製「アクアミカ(登録商標)型番NAX120」(ポリシラザン溶液)を乾燥ジブチルエーテルで希釈してポリシラザン濃度を10質量%に調整したものを用いた以外は実施例1と同様にして、複合多孔質膜を作製した。
【0048】
<実施例3>
シリカ前駆体の溶液として、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製「アクアミカ(登録商標)型番NL120A」(ポリシラザン溶液)を乾燥ジブチルエーテルで希釈してポリシラザン濃度を20質量%に調整したものを用いた以外は実施例1と同様にして、複合多孔質膜を作製した。
【0049】
<実施例4>
シリカ前駆体の溶液として、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製「アクアミカ(登録商標)型番NAX120」(ポリシラザン溶液)を乾燥ジブチルエーテルで希釈してポリシラザン濃度を20質量%に調整したものを用いた以外は実施例1と同様にして、複合多孔質膜を作製した。
【0050】
<実施例5>
シリカ前駆体の溶液として、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製「アクアミカ(登録商標)型番NL120A」(ポリシラザン溶液)を乾燥ジブチルエーテルで希釈してポリシラザン濃度を5質量%に調整したものを用いた以外は実施例1と同様にして、複合多孔質膜を作製した。
【0051】
<実施例6>
シリカ前駆体の溶液として、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製「アクアミカ(登録商標)型番NAX120」(ポリシラザン溶液)を乾燥ジブチルエーテルで希釈してポリシラザン濃度を5質量%に調整したものを用いた以外は実施例1と同様にして、複合多孔質膜を作製した。
【0052】
<実施例7>
シリカ前駆体の溶液として、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製「アクアミカ(登録商標)型番NL120A」(ポリシラザン溶液)を乾燥ジブチルエーテルで希釈してポリシラザン濃度を2質量%に調整したものを用いた以外は実施例1と同様にして、複合多孔質膜を作製した。
【0053】
<実施例8>
シリカ前駆体の溶液として、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製「アクアミカ(登録商標)型番NAX120」(ポリシラザン溶液)を乾燥ジブチルエーテルで希釈してポリシラザン濃度を1質量%に調整したものを用いた以外は実施例1と同様にして、複合多孔質膜を作製した。
【0054】
<実施例9>
シリカ前駆体の溶液として、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製有機シラザン「型番MHPS−40DB」と「アクアミカ(登録商標)型番NAX120」を共に濃度10質量%に調整し、それらを質量比1対1で混合することで、それぞれの濃度を5質量%ずつとしたものを使用した以外は実施例1と同様にして、複合多孔膜を作製した。
【0055】
<実施例10>
平坦なガラス板に、21cm×30cm(即ち膜面積0.063m
2)にカットしたフルオロポリマーの微多孔質膜であるPOREFLON HP−045−30(商品名,住友電工ファインポリマー株式会社製,公称平均孔径0.45μm)を固定した。一方、シリカ前駆体の溶液として、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製「アクアミカ(登録商標)型番NL120A」(ポリシラザン溶液)を濃度20質量%に調整したものを使用し、この液を粒径10ミクロンの液滴となるよう窒素ガスで噴霧し、その雰囲気下にガラス板上に固定した微多孔質膜を10分間おいて、沈降するポリシラザン溶液の液滴を堆積させた。溶媒が蒸発した後、ガラス板から剥がし、加湿雰囲気に保ったオーブン内に入れ、150℃で1時間加熱処理を行い、複合多孔質膜を作製した。
【0056】
<実施例11>
シリカ前駆体の溶液として、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製「アクアミカ(登録商標)型番NL120A」(ポリシラザン溶液)を濃度5質量%に調整したものを使用し、ポリシラザン溶液を粒径100ミクロンとなるよう窒素ガスで噴霧した以外は実施例10と同様にして、複合多孔質膜を作製した。
【0057】
<実施例12>
シリカ前駆体の溶液として、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製「アクアミカ(登録商標)型番NL120A」(ポリシラザン溶液)を濃度5質量%に調整したものを使用した。一方、幅21cm×長さ1mで長尺のフルオロポリマーの微多孔質膜であるPOREFLON HP−045−30(商品名,住友電工ファインポリマー株式会社製,公称平均孔径0.45μm)に、ポリシラザン溶液を速度1m毎分でロールコートし、溶媒を蒸発させた。それを加湿雰囲気に保ったオーブン内に入れ、150℃で1時間加熱処理を行い、複合多孔質膜を作製した。
【0058】
<比較例1>
実施例1において、シリカ前駆体の溶液(ポリシラザン溶液)で処理することなく、フルオロポリマーの微多孔質膜を加湿雰囲気に保ったオーブン内に入れ、150℃で1時間加熱処理を行い、複合多孔質膜を作製した。
【0059】
実施例1〜12および比較例1の複合多孔質膜について、前記評価方法に基づき、厚み、平均孔径、ヤング率(常温、120℃)、強度維持率を測定した。その結果を表2及び表3に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
表2及び表3の結果より、実施例1〜12は比較例1と比べて、120℃におけるヤング率が高く、また、強度維持率も高いものであることがわかった。従って、120℃付近の高温流体下においても、熱による変形や目開き等の影響がなく、耐熱変形性に優れることがわかった。また、SiO
2ガラスの付着量が1.5g/m
2以上の実施例1〜6、9〜12は、120℃におけるヤング率と強度維持率がより高くなり、実用的にも耐熱変形性に優れた複合多孔質膜となることがわかった。
【0063】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2010年6月18日出願の日本特許出願(特願2010−139688)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。