【実施例】
【0052】
以下の各例において、各種物性値、性能は以下の方法より測定、評価した。
(中空状多孔質膜の外径、内径および多孔質膜層の膜厚)
支持体を有する中空状多孔質膜について、中空状多孔質膜の外径D、多孔質膜層の総膜厚tおよび中空状多孔質膜の内径rを、以下の方法で測定した。
支持体を有する中空状多孔質膜のサンプルを約10cmに切断した。切断後のサンプルを数本束ねた後、サンプル全体をポリウレタン樹脂で被覆した。ポリウレタン樹脂は支持体の中空部にも入るようにした。ポリウレタン樹脂が硬化した後、カミソリ刃を用いて厚さ(中空糸膜の長手方向の長さに相当)約0.5mmの薄片を切り出した。次に、切り出した薄片断面の光学象を、投影機(ニコン社製、PROFILE PROJECTOR V−12)を用いて、倍率100倍(対物レンズ)にてスクリーンに投影し、投影された像からサンプルの中空状多孔質膜の外径D、多孔質膜層の総膜厚tおよび中空状多孔質膜の内径rを読み取った。この測定を3回行い、測定された数値の平均値を中空状多孔質膜の外径D、多孔質膜層の総膜厚tおよび中空状多孔質膜の内径rとした。
【0053】
(透水性能)
中空状多孔質膜を長さ4cmに切断し、切断された中空状多孔質膜の一端をポリウレタン樹脂で封じたものをサンプルとした。該サンプルをエタノールに浸漬し、中空状多孔質膜内を5分間以上減圧する操作を行った後、該サンプルを純水に浸して、細孔部内を純水で置換した。
ついで、純水(25℃)を入れた容器を準備し、サンプルの他端(すなわち、ポリウレタン樹脂で封じていない方の開放端部)と容器とをチューブで繋ぎ、容器内に100kPaの空気圧をかけることにより、サンプルの孔から純水を流出させた。このようにして孔から出た純水の量を1分間測定した。これを3回測定して平均値を求めた。この数値をサンプルの表面積で割り、1MPaの圧力に換算した値を中空状多孔質膜の透水性能とした。
【0054】
(破裂圧)
中空状多孔質膜を長さ4cmに切断し、切断された中空状多孔質膜の一端をポリウレタン樹脂で封じたものをサンプルとした。該サンプルをエタノール(25℃)に浸漬し、サンプルの他端と、用意された容器とをチューブで繋ぎ、容器内に圧縮空気により徐々に内圧をかけていき、サンプルが破裂した時の圧力値を測定した。この測定を3回実施し、測定された3回の圧力値のうちの最小値を中空状多孔質膜の破裂圧とした。
【0055】
(エアスクラビング試験)
長さ35cmに切断された中空状多孔質膜を表面積が280cm
2となる本数だけ束ね、ポリウレタン樹脂で一端を封止したものをサンプル(α)とした。
純水(25℃)を入れた容器にサンプル(α)を浸漬し、サンプル(α)の封止していない端部にチューブを繋ぎ、チューブを通じてサンプル(α)に100kPaの空気により内圧をかけた。このとき、サンプル(α)からの気泡の発生は認められなかった。これにより、エアスクラビング試験前のサンプル(α)には欠陥点がないことを確認した。
一方、このサンプル(α)が充分に入る容量の容器に純水を満たし、該純水中に
図3に示す木質系の活性炭(picahydroMP23 Pica USA,Inc)を濃度6000ppmとなるように添加して、活性炭分散溶液を調製した。サンプル(α)をエタノールに浸漬し、中空状多孔質膜内を5分間以上減圧する操作を行った後、該サンプル(α)を純水に浸して、細孔部内を純水で置換した。その後、サンプル(α)を活性炭分散溶液中に浸漬させた。活性炭分散溶液が入った容器の下部より、35Nm
3/m
2/hrの空気を連続的に35日間供給し、エアスクラビング試験を行った。
なお、上述の木質系の活性炭は、鋭利な形状を有し、膜に突き刺さりやすい。よって、この木質系の活性炭を用いたエアスクラビング試験により、活性炭の突き刺さりが生じない膜は、他の種類の活性炭や、砂、カオリンなどの無機粒子の突き刺さりも起こらないものと考えることができる。
【0056】
(エアスクラビング試験後の欠陥点の有無)
エアスクラビング試験前の確認と同様に、純水(25℃)を入れた容器を用意した。該容器に、上記のエアスクラビング試験を行った後のサンプル(α)を浸漬し、サンプル(α)の封止していない端部にチューブを繋ぎ、チューブを通じてサンプル(α)に100kPaの空気により内圧をかけた。このとき、サンプル(α)から発生する気泡の有無を目視で確認し、それによりエアスクラビング試験後のサンプル(α)の欠陥点の有無を調べた。
【0057】
(ウイルス除去性能)
供試菌としてEscherichia coli phage MS2(粒径約25nm)を用い、大腸菌中で10
6pfu/mlオーダーに増殖させ、0.1mlMリン酸バッファーにてpH7に調製し、これを試験原液とした。そして、次の非破壊性試験により、中空状多孔質膜のウイルス除去性能を評価した。
(1)エアスクラビング試験後のウイルス除去性能
エアスクラビング試験に用いた上述のサンプル(α)の両端部を切り落とし、束ねられていた中空状多孔質膜を一旦ばらばらにした。その後、それらのうちの15本を再度束ねてU字に曲げた。一方、一端が開口した筒状ケースを用意した。そして、U字状に曲げられた中空状多孔質膜の両端の開口が維持されるように、ポリウレタン樹脂を用いて、中空状多孔質膜を筒状ケース内に固定した。そして、筒状ケースの壁面に設けられた穴から、筒状ケース内に、1000mlのファージ溶液を20kPaの圧力をかけて送液し、out−inにより、ファージ溶液を中空状多孔質膜に濾過させた。そして、中空状多孔質膜の開口した端部から濾過液を取り出し、その終流20mlをサンプリングした。試験原液、サンプリングされた濾過液のMS2をそれぞれ定量し、以下の式(2)より、エアスクラビング試験後のMS2ファージの除去性能を算出した。
なお、欠陥点が生じた場合、ウイルス除去性能は顕著に低下することがわかっているため、エアスクラビング試験後のウイルス除去性能評価は、エアスクラビング試験後に欠陥点が認められなかったサンプルに対してのみ実施した。
(2)エアスクラビング試験前のウイルス除去性能
エアスクラビング試験を行っていない中空状多孔質膜を用いた以外は、上述の方法と同様にして、エアスクラビング試験前のMS2ファージの除去性能も算出した。
【0058】
【数2】
【0059】
[実施例1]
次のようにして、マルチフィラメントを円筒状に丸編みした編紐支持体の外周面に、質量平均分子量が50万以上のポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜層が2層形成され、破裂圧が200kPa以上で、MS2ファージを供試菌として用いた場合のウイルス除去性能がLRV4以上である中空状多孔質膜を製造した。
なお、編紐支持体としては、
図1の支持体製造装置を用いて、繊度167dtexのポリエステル製のマルチフィラメントを円筒状に丸編みしたものを使用した。
【0060】
(第1の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量:6.8×10
5)の12.9質量%と、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量:4.0×10
4)の11.9質量%と、溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンの75.2質量%を常温にて撹拌混合して、第1の製膜原液を得た。
(第2の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量:1.1×10
6)の18.3質量%と、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量:4.0×10
4)の8.3質量%と、溶媒であるN−メチルピロリドンの73.4質量%を常温にて撹拌混合して、第2の製膜原液を得た。
(中空状多孔質膜の製造)
【0061】
図2に示す製造装置を用いて中空状多孔質膜を製造した。
2重管紡糸ノズルの中央の管路に編紐支持体を通過させるとともに、その外側から第1の製膜原液を送液し、編紐支持体の外周面に第1の製膜原液を塗布した後、溶剤濃度が40質量%で温度が25℃のN−メチル−2−ピロリドン水溶液(凝固液)で満たされている第1の凝固浴槽へ導き、凝固させて第1の多孔質膜層を形成した。
次いで、第2の製膜原液を、第1の製膜原液の場合と同様にして、第1の多孔質膜層上に塗布し、溶剤濃度が30質量%で温度が61℃のN−メチル−2−ピロリドン水溶液(凝固液)で満たされている第2の凝固浴槽へ導き、凝固することで第2の多孔質膜層を形成した。
これを濃度13質量%で常温の次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸漬した後、100℃の水蒸気雰囲気中に滞在させ、さらに90℃の温水中に浸漬するという一連の工程を3回繰り返し、膜中に残存するポリビニルピロリドンを洗浄、除去した。
洗浄の後に、105℃に熱した乾燥炉にて膜中に残存する水分を蒸発させて乾燥し、中空状多孔質膜を得た。
【0062】
得られた中空状多孔質膜は、表1のとおり、外径:1.56mm、内径:0.88mm、ポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜層の総膜厚:77μm、破裂圧:343kPa、純水の透水性能:11.0m
3/m
2/hr/MPaであった。エアスクラビング試験後の欠陥点はなかった。ウイルス除去性能(LRV)は、エアスクラビング試験前は6.2で、試験後は5.4であり、ウイルス除去性能の大きな低下はなかった。
【0063】
[実施例2]
次のようにして、マルチフィラメントを円筒状に丸編みした編紐支持体の外周面に、質量平均分子量が50万以上のポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜層が2層形成され、破裂圧が200kPa以上で、MS2ファージを供試菌として用いた場合のウイルス除去性能がLRV4以上である中空状多孔質膜を製造した。
(第1の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量:6.8×10
5)の12.9質量%と、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量:4×10
4)の11.9質量%と、溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンの75.2質量%を常温にて撹拌混合して、第1の製膜原液を得た。
(第2の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量:1.1×10
6)の15.2質量%と、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量:4×10
4)の8.6質量%と、溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンの76.2質量%を常温にて撹拌混合して、第2の製膜原液を得た。
【0064】
(中空状多孔質膜の製造)
上述の第1の製膜原液、第2の製膜原液を用い、第1の凝固浴槽のN−メチル−2−ピロリドン水溶液(凝固液)の濃度を30質量%とし、温度を25℃とした以外は、実施例1と同様にして、中空状多孔質膜を製造した。
【0065】
得られた中空状多孔質膜は、表1のとおり、外径:1.59mm、内径:0.91mm、ポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜層の総膜厚:86μm、破裂圧:304kPa、純水の透水性能:13.5m
3/m
2/hr/MPaであった。エアスクラビング試験後の欠陥点はなかった。ウイルス除去性能(LRV)はエアスクラビング試験前は6.8、試験後は5.9であり、ウイルス除去性能の大きな低下はなかった。
【0066】
[実施例3]
次のようにして、マルチフィラメントを円筒状に丸編みした編紐支持体の外周面に、質量平均分子量が50万以上のポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜層が2層形成され、破裂圧200kPa以上で、MS2ファージを供試菌として用いた場合のウイルス除去性能がLRV4以上である中空状多孔質膜を製造した。
(第1の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量:6.8×10
5)の11.1質量%と、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量:4×10
4)の12.1質量%と、溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンの76.8質量%を常温にて撹拌混合して、第1の製膜原液を得た。
(第2の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量:1.1×10
6)の4.3質量%と、ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量:6.8×10
5)の10.2質量%と、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量:4.0×10
4)の12.0質量%と、溶媒であるN−メチルピロリドンの73.5質量%を常温にて撹拌混合して、第2の製膜原液を得た。
なお、第2の製膜原液には、上述のように質量平均分子量が異なる2種のポリフッ化ビニリデンを用いた。この2種の混合物の質量平均分子量は、式(1)から、8.1×10
5と算出された。
【0067】
(中空状多孔質膜の製造)
上述の第1の製膜原液、第2の製膜原液を用い、実施例2と同様にして、中空状多孔質膜を製造した。
【0068】
得られた中空状多孔質膜は、表1のとおり、外径:1.60mm、内径:0.91mm、ポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜層の総膜厚:83μm、破裂圧:230kPa、純水の透水性能:18.6m
3/m
2/hr/MPaであった。エアスクラビング試験後の欠陥点はなかった。ウイルス除去性能(LRV)はエアスクラビング試験前は4.7、試験後は4.2であり、ウイルス除去性能の大きな低下はなかった。
【0069】
[比較例1]
次のようにして、マルチフィラメントを円筒状に丸編みした編紐支持体の外周面に、質量平均分子量が50万以上のポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜層が1層形成され、破裂圧200kPa以上の中空状多孔質膜を製造した。
(第1の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量:1.1×10
6)の18.3質量%と、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量:4.0×10
4)の8.3質量%と、溶媒であるN−メチルピロリドンの73.4質量%を常温にて撹拌混合して、第1の製膜原液を得た。
【0070】
(中空状多孔質膜の製造)
図2に示す製造装置を用いて中空状多孔質膜を製造した。
2重管紡糸ノズルの中央の管路に編紐支持体を通過させるとともに、その外側から第1の製膜原液を送液し、編紐支持体の外周面に第1の製膜原液を塗布した後、溶剤濃度が30質量%で温度が60℃のN−メチル−2−ピロリドン水溶液(凝固液)で満たされている第1の凝固浴槽へ導き、凝固させて膜を形成した。
これを濃度13質量%で常温の次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸漬した後、100℃の水蒸気雰囲気中に滞在させ、さらに90℃の温水中に浸漬するという一連の工程を3回繰り返し、膜中に残存するポリビニルピロリドンを洗浄、除去した。
洗浄の後に、105℃に熱した乾燥炉にて膜中に残存する水分を蒸発させて乾燥し、中空状多孔質膜を得た。
【0071】
得られた中空状多孔質膜は、表1のとおり、外径:1.50mm、内径:0.88mm、ポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜層の総膜厚(一層の膜厚)は50μm、破裂圧は282kPa、純水の透水性能は19.7m
3/m
2/hr/MPaであった。エアスクラビング試験後の欠陥点はなかったが、ウイルス除去性能(LRV)は、エアスクラビング試験後では2.3となり、試験前の4.8から大きく低下した。
【0072】
[比較例2]
次のようにして、マルチフィラメントを円筒状に丸編みした編紐支持体の外周面に、質量平均分子量が50万以上のポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜層が2層形成され、破裂圧200kPa未満の中空状多孔質膜を製造した。
(第1の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量:6.8×10
5)の15.0質量%と、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量:4.0×10
4)の17.7質量%と、溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンの67.3質量%を常温にて撹拌混合して、第1の製膜原液を得た。
(第2の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量:6.8×10
5)の15.0質量%と、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量:4.0×10
4)の17.7質量%と、溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンの67.3質量%を常温にて撹拌混合して、第2の製膜原液を得た。
【0073】
(中空状多孔質膜の製造)
上述の第1の製膜原液、第2の製膜原液を用い、実施例1と同様にして、中空状多孔質膜を製造した。ただし、第1の凝固浴槽には、溶剤濃度が30質量%で温度が55℃のN−メチル−2−ピロリドン水溶液(凝固液)を用い、第2の凝固槽には、濃度30質量%で温度が59℃のN−メチル−2−ピロリドン水溶液(凝固液)を用いた。
【0074】
得られた中空状多孔質膜は、表1のとおり、外径:1.66mm、内径:0.91mm、ポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜層の総膜厚:93μm、破裂圧:159kPa、純水の透水性能:7.1m
3/m
2/hr/MPaであった。ウイルス除去性能(LRV)はエアスクラビング試験前は2.0であった。また、エアスクラビング試験において欠陥点が発生した。
破裂圧は前述のように、中空状多孔質膜の製造条件も影響するため、熱可塑性樹脂(a)からなる層を2層有していても破裂圧が200kPa未満の中空状多孔質膜は製造できる。この場合、熱可塑性樹脂(a)からなる層を2層有していても破裂圧が200kPa未満であることで欠陥点が生じやすい状態にあるため、エアスクラビング試験において欠陥点が生じてしまう。
【0075】
[比較例3]
次のようにして、マルチフィラメントを円筒状に丸編みした編紐支持体の外周面に、質量平均分子量が50万以上のポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜層と、質量平均分子量が50万未満のポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜層とが1層ずつ形成され、破裂圧200kPa以上の中空状多孔質膜を製造した。
(第1の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量:3.9×10
5)の23.5質量%と、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量:4.0×10
5)の11.8質量%と、溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミドの64.7質量%を常温にて撹拌混合して、第1の製膜原液を得た。
(第2の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量:6.8×10
5)の19.0質量%と、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量:4.0×10
5)の11.0質量%と、溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミドの70.0質量%を常温にて撹拌混合して、第2の製膜原液を得た。
【0076】
(中空状多孔質膜の製造)
図2に示す製造装置を用いて中空状多孔質膜を製造した。ただし、2重管紡糸ノズル42の代わりに、3重管紡糸ノズルを用いた。
3重管紡糸ノズルの中央の管路に編紐支持体を通過させるとともに、その外側から第1の製膜原液および第2の製膜原液を同時送液し、編紐支持体の外周面に、内側から第1の製膜原液、第2の製膜原液の順で塗布した後、溶剤濃度が20質量%で温度が64℃のN,N−ジメチルアセトアミド水溶液(凝固液)で満たされている第1の凝固浴槽へ導き、凝固させて膜を形成した。
これを濃度13質量%で常温の次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸漬した後、100℃の水蒸気雰囲気中に滞在させ、さらに90℃の温水中に浸漬するという一連の工程を3回繰り返し、膜中に残存するポリビニルピロリドンを洗浄、除去した。
洗浄の後に、105℃に熱した乾燥炉にて膜中に残存する水分を蒸発させて乾燥し、中空状多孔質膜を得た。
【0077】
得られた中空状多孔質膜は、表1のとおり、外径:1.62mm、内径:0.88mm、ポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜層の総膜厚:98μm、破裂圧:242kPa、純水の透水性能は19.8m
3/m
2/hr/MPaであった。ウイルス除去性能(LRV)はエアスクラビング試験前は6.4であった。また、エアスクラビング試験において欠陥点が発生した。
【0078】
[比較例4]
830dtexのマルチフィラメント16本を円筒状に織った組紐支持体の外周面に、質量平均分子量が50万未満のポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜層が2層形成され、破裂圧200kPa以上の中空状多孔質膜を製造した。
(第1の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量:5.5×10
5)の3.0質量%と、ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量:2.5×10
5)の2.0質量%と、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量:1.3×10
6)の2.0質量%と、溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミドの93.0質量%を常温にて撹拌混合して、第1の製膜原液を得た。なお、上述のように質量平均分子量が異なる2種のポリフッ化ビニリデンを用いた。この2種の混合物の質量平均分子量は、式(1)から、4.3×10
5と算出された。
(第2の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量:5.5×10
5)の12.0質量%と、ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量:2.5×10
5)の8.0質量%と、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量:1.3×10
6)の10.0質量%と、溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミドの70.0質量%を常温にて撹拌混合して、第2の製膜原液を得た。なお、上述のように質量平均分子量が異なる2種のポリフッ化ビニリデンを用いた。この2種の混合物の質量平均分子量は、式(1)から、4.3×10
5と算出された。
(中空状多孔質膜の製造)
上述の第1の製膜原液、第2の製膜原液を用い、実施例1と同様にして、中空状多孔質膜を製造した。ただし、第1の凝固浴槽には、溶剤濃度が5質量%で温度が80℃のN,N−ジメチルアセトアミド水溶液(凝固液)を用いた。
得られた中空状多孔質膜は、表1のとおり、外径:2.72mm、内径:1.20mm、ポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜層の総膜厚:433μm、破裂圧:208kPa、純水の透水性能:84.7m
3/m
2/hr/MPaであった。ウイルス除去性能(LRV)はエアスクラビング試験前は0.04であり、充分なウイルス除去性能を有していなっかった。
【0079】
【表1】
【0080】
質量平均分子量が50万以上のポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜層を2層有し、破裂圧が200kPa以上である各実施例の中空状多孔質膜は、活性炭の存在下でエアスクラビング試験を行っても、欠陥点が生じず、また、活性炭による膜表面の磨耗に対する耐性を有し、そのため、高いウイルス除去性能を維持していた。
これに対して、比較例の中空状多孔質膜は、
図4に示すように、エアスクラビング試験により活性炭が突き刺さり、欠陥点を生じたり、欠陥点を生じなくても膜表面が磨耗してウイルス除去性能が低下したりした。