特許第5773013号(P5773013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5773013
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】冷却排出水の回収方法及び回収装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20150813BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20150813BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20150813BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20150813BHJP
   B01D 61/08 20060101ALI20150813BHJP
   B01D 61/18 20060101ALI20150813BHJP
   B01D 61/12 20060101ALI20150813BHJP
   B01D 61/22 20060101ALI20150813BHJP
   C02F 5/00 20060101ALI20150813BHJP
   C02F 5/08 20060101ALI20150813BHJP
   C02F 5/10 20060101ALI20150813BHJP
   C02F 1/56 20060101ALI20150813BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   C02F1/44 D
   C02F1/44 A
   B01D61/58
   B01D61/02 500
   B01D61/14 500
   B01D61/08
   B01D61/18
   B01D61/12
   B01D61/22
   C02F5/00 620C
   C02F5/08 E
   C02F5/10 610A
   C02F5/10 610Z
   C02F1/56 Z
   B01D21/01 106
   C02F5/10 620C
   C02F5/10 620D
【請求項の数】20
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-52048(P2014-52048)
(22)【出願日】2014年3月14日
【審査請求日】2015年2月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】早川 邦洋
(72)【発明者】
【氏名】内田 隆彦
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−001256(JP,A)
【文献】 特開平11−033362(JP,A)
【文献】 特開2000−202445(JP,A)
【文献】 特開2010−188344(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/132892(WO,A1)
【文献】 特開2010−029757(JP,A)
【文献】 特開2013−255923(JP,A)
【文献】 特開平07−151491(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0056413(US,A1)
【文献】 特表2012−501833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
C02F 5/00− 5/14
C02F 1/52− 1/56
B01D 21/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スケール成分を分散させる分散剤が添加されている循環冷却水系からの排出水を、前処理膜と逆浸透膜とを含む水回収システムで処理し、処理水を該循環冷却水系に戻す冷却排出水の回収方法において、該循環冷却水系において添加されている前記分散剤を、該前処理膜を透過させた後、該逆浸透膜用分散剤として利用する冷却排出水の回収方法であって、
前記前処理膜は、精密濾過膜又は限外濾過膜であり、
前記前処理膜の給水のpHは5以上であり、
前記分散剤がスルホン酸基とカルボキシル基を有する重合物であることを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【請求項2】
請求項1において、前記前処理膜の、下記式で算出される前記分散剤の透過率が80%以上であることを特徴とする冷却排出水の回収方法。
透過率=(前処理膜透過水の分散剤濃度/前処理膜給水の分散剤濃度)×100
【請求項3】
請求項1又は2において、前記前処理膜の分画分子量が30,000以上であることを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記分散剤が、メタアクリル酸及び/又はアクリル酸と、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及び/又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とを共重合してなる共重合物であることを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれか1項において、前記逆浸透膜の給水のpHを4.0〜7.5に調整することを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれか1項において、前記逆浸透膜の給水の前記分散剤濃度を測定し、該分散剤濃度が所定の濃度になるように該逆浸透膜給水に該分散剤を添加することを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【請求項7】
請求項1ないしのいずれか1項において、前記排出水、逆浸透膜給水及び/又は逆浸透膜濃縮水の導電率を測定し、該導電率の測定値に応じて、該逆浸透膜の水回収率を調整することを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【請求項8】
請求項1ないしのいずれか1項において、前記排出水及び/又は逆浸透膜給水の前記分散剤濃度を測定し、該分散剤濃度の測定値に応じて該逆浸透膜の水回収率を調整することを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【請求項9】
請求項1ないしのいずれか1項において、フェノール系水酸基を有する高分子化合物を前記排出水に添加することを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【請求項10】
請求項1ないしのいずれか1項において、前記水回収システムの停止時に、前記逆浸透膜透過水を循環するか、或いは純水又は脱イオン水を通水し、該逆浸透膜濃縮水を系外へ排出する運転を行った後、該水回収システムを停止することを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【請求項11】
循環冷却水系からの排出水が通水される前処理膜装置と、該前処理膜装置の透過水が通水される逆浸透膜装置と、該逆浸透膜装置の透過水を該循環冷却水系に戻す返送手段とを有する冷却排出水の回収装置において、前記循環冷却水系は、スケール成分を分散させる分散剤を該水系に添加する分散剤添加手段を有し、該分散剤添加手段で添加された前記分散剤が前記前処理膜を透過した後、前記逆浸透膜用分散剤として利用される冷却排出水の回収装置であって、
前記前処理膜は、精密濾過膜又は限外濾過膜であり、
前記前処理膜の給水のpHが5以上であり、
前記分散剤がスルホン酸基とカルボキシル基を有する重合物であるものであることを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【請求項12】
請求項11において、前記前処理膜の、下記式で算出される前記分散剤の透過率が80%以上であることを特徴とする冷却排出水の回収装置。
透過率=(前処理膜透過水の分散剤濃度/前処理膜給水の分散剤濃度)×100
【請求項13】
請求項11又は12において、前記前処理膜の分画分子量が30,000以上であることを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【請求項14】
請求項11ないし13のいずれか1項において、前記分散剤が、メタアクリル酸及び/又はアクリル酸と、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及び/又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とを共重合してなる共重合物であることを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【請求項15】
請求項11ないし14のいずれか1項において、前記逆浸透膜の給水のpHを4.0〜7.5に調整するpH調整手段を有することを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【請求項16】
請求項11ないし15のいずれか1項において、前記逆浸透膜の給水の前記分散剤濃度を測定する分散剤濃度測定手段と、該分散剤濃度測定手段で測定される該分散剤濃度が所定の濃度になるように該逆浸透膜給水に該分散剤を添加する分散剤調整手段とを有することを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【請求項17】
請求項11ないし16のいずれか1項において、前記排出水、逆浸透膜給水及び/又は逆浸透膜濃縮水の導電率を測定する導電率測定手段と、該導電率測定手段の測定値に応じて該逆浸透膜の水回収率を調整する水回収率調整手段とを有することを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【請求項18】
請求項11ないし17のいずれか1項において、前記排出水及び/又は逆浸透膜給水の前記分散剤濃度を測定する分散剤濃度測定手段と、該分散剤濃度測定手段の測定値に応じて該逆浸透膜の水回収率を調整する水回収率調整手段とを有することを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【請求項19】
請求項11ないし18のいずれか1項において、前記排出水に、フェノール系水酸基を添加する凝集助剤添加手段を有することを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【請求項20】
請求項11ないし19のいずれか1項において、前記逆浸透膜装置は、該逆浸透膜透過水を該逆浸透膜装置の前段に循環する透過水循環手段、或いは純水又は脱イオン水を該逆浸透膜装置に通水する手段と、該逆浸透膜濃縮水を系外へ排水する濃縮水排出手段とを有し、該冷却排出水の回収装置の停止時に、該逆浸透膜透過水を前段に循環するか、或いは純水又は脱イオン水を通水すると共に、該逆浸透膜濃縮水を系外へ排出する運転を行った後、該冷却排出水の回収装置を停止させる制御手段を有することを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビル空調や、化学工業、製紙工業、製鉄工業、電力工業等の工業プロセスにおいて使用される冷却設備における冷却排出水の回収方法及び回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水系、ボイラ水系などの水と接触する伝熱面や配管内では、スケール障害が発生する。特に、省資源、省エネルギーの立場から、冷却水の系外への排出(ブロー)量を少なくして高濃縮運転を行う場合、水中に溶解している塩類が濃縮されて、伝熱面が腐食しやすくなるとともに、難溶性の塩となってスケール化する。装置の壁面などにスケールが付着すると、熱効率の低下、配管の閉塞など、ボイラや熱交換器の運転に重大な障害が生ずる。
近年、節水や省エネルギーを目的に、可能な限り水を有効利用するという動きが顕著になってきているが、更なる高濃縮運転の場合には、スケールの析出を抑制するには限界があることは周知の事実となっている。
【0003】
そこで、一部では冷却水ブロー水を回収システムで回収し、その処理水を冷却塔に戻す取り組みが行われている。その回収システムとしては、逆浸透膜(RO膜)で塩類(イオン)を除去し、処理水を冷却塔に戻すものが一般的であり、例えば、以下のようなシステムが検討されている(特許文献1〜3)。
【0004】
システム1:凝集→砂濾過→保安フィルター→RO膜
システム2:凝集→砂濾過→前処理膜→RO膜
システム3:凝集→加圧浮上→砂濾過→保安フィルター→RO膜
システム4:脱炭酸塔→前処理膜→RO膜
システム5:RO膜
【0005】
上記従来のシステム1〜5のうち、システム5はRO膜装置のみの簡易なシステムであるが、ブロー水中に含まれる濁質がRO膜を閉塞させるため、安定処理が困難である。
システム1〜4のように、RO膜の前段で凝集処理や前処理膜でブロー水中の濁質を除去することで、RO膜処理を安定化させることができるが、ブロー水中には、循環冷却水系で添加された分散剤が含まれており、この分散剤が凝集処理を阻害するため、システム1〜3の凝集処理では、処理に必要な凝集剤の添加量が非常に多くなる。一方で、RO膜装置では、スケール成分を分散させて、高い水回収率で処理を安定化させるために、分散剤が必要となるが、凝集処理により、ブロー水中の分散剤を除去してしまうため、RO膜でのスケール分散、処理の安定化のために、RO膜給水に分散剤を添加することが必要となる。
凝集処理を行わず、前処理膜でブロー水中の濁質を除去するシステム4においても、前処理膜でブロー水中の分散剤が除去されてしまうため、RO膜装置の処理安定化のためには、RO膜給水に分散剤を添加することが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−1256号公報
【特許文献2】特開2002−18437号公報
【特許文献3】特開2009−297600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、従来の水回収システムでは、RO膜装置の安定運転のためにRO膜給水への分散剤の添加が必要となり、そのためのコストと作業が処理コストを押し上げていた。
【0008】
本発明は、循環冷却水系のブロー水等の冷却排出水をRO膜処理して水回収するに当たり、水処理コストを低減すると共に、水回収率の向上と安定化を図る冷却排出水の回収方法及び回収装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、循環冷却水系のブロー水等の冷却排出水をRO膜処理して水回収するに当たり、RO膜の前処理膜として、循環冷却水系で添加されている分散剤を透過するものを用い、循環冷却水系で添加され、冷却排出水中に含まれる分散剤を、前処理膜を透過させてRO膜の分散剤として有効利用することにより、水回収システムでの分散剤の添加を不要とするか、或いは分散剤添加量を低減し、水処理コストを低減すると共に、水回収率の向上と安定化を図ることができることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] スケール成分を分散させる分散剤が添加されている循環冷却水系からの排出水を、前処理膜と逆浸透膜とを含む水回収システムで処理し、処理水を該循環冷却水系に戻す冷却排出水の回収方法において、該循環冷却水系において添加されている前記分散剤を、該前処理膜を透過させた後、該逆浸透膜用分散剤として利用する冷却排出水の回収方法であって、前記前処理膜は、精密濾過膜又は限外濾過膜であり、前記前処理膜の給水のpHは5以上であり、前記分散剤がスルホン酸基とカルボキシル基を有する重合物であることを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【0012】
[2] [1]において、前記前処理膜の、下記式で算出される前記分散剤の透過率が80%以上であることを特徴とする冷却排出水の回収方法。
透過率=(前処理膜透過水の分散剤濃度/前処理膜給水の分散剤濃度)×100
【0015】
] [1]又は2]において、前記前処理膜の分画分子量が30,000以上であることを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【0017】
] [ないし[3]のいずれかにおいて、前記分散剤が、メタアクリル酸及び/又はアクリル酸と、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及び/又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とを共重合してなる共重合物であることを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【0018】
] [1]ないし[]のいずれかにおいて、前記逆浸透膜の給水のpHを4.0〜7.5に調整することを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【0019】
] [1]ないし[]のいずれかにおいて、前記逆浸透膜の給水の前記分散剤濃度を測定し、該分散剤濃度が所定の濃度になるように該逆浸透膜給水に該分散剤を添加することを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【0020】
] [1]ないし[]のいずれかにおいて、前記排出水、逆浸透膜給水及び/又は逆浸透膜濃縮水の導電率を測定し、該導電率の測定値に応じて、該逆浸透膜の水回収率を調整することを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【0021】
] [1]ないし[]のいずれかにおいて、前記排出水及び/又は逆浸透膜給水の前記分散剤濃度を測定し、該分散剤濃度の測定値に応じて該逆浸透膜の水回収率を調整することを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【0022】
] [1]ないし[]のいずれかにおいて、フェノール系水酸基を有する高分子化合物を前記排出水に添加することを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【0023】
10] [1]ないし[]のいずれかにおいて、前記水回収システムの停止時に、前記逆浸透膜透過水を循環するか、或いは純水又は脱イオン水を通水し、該逆浸透膜濃縮水を系外へ排出する運転を行った後、該水回収システムを停止することを特徴とする冷却排出水の回収方法。
【0024】
11] 循環冷却水系からの排出水が通水される前処理膜装置と、該前処理膜装置の透過水が通水される逆浸透膜装置と、該逆浸透膜装置の透過水を該循環冷却水系に戻す返送手段とを有する冷却排出水の回収装置において、前記循環冷却水系は、スケール成分を分散させる分散剤を該水系に添加する分散剤添加手段を有し、該分散剤添加手段で添加された前記分散剤が前記前処理膜を透過した後、前記逆浸透膜用分散剤として利用される冷却排出水の回収装置であって、前記前処理膜は、精密濾過膜又は限外濾過膜であり、前記前処理膜の給水のpHが5以上であり、前記分散剤がスルホン酸基とカルボキシル基を有する重合物であるものであることを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【0025】
12] [11]において、前記前処理膜の、下記式で算出される前記分散剤の透過率が80%以上であることを特徴とする冷却排出水の回収装置。
透過率=(前処理膜透過水の分散剤濃度/前処理膜給水の分散剤濃度)×100
【0028】
13] [11又は12]において、前記前処理膜の分画分子量が30,000以上であることを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【0030】
14] [11ないし[13]のいずれかにおいて、前記分散剤が、メタアクリル酸及び/又はアクリル酸と、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及び/又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とを共重合してなる共重合物であることを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【0031】
15] [11]ないし[14]のいずれかにおいて、前記逆浸透膜の給水のpHを4.0〜7.5に調整するpH調整手段を有することを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【0032】
16] [11]ないし[15]のいずれかにおいて、前記逆浸透膜の給水の前記分散剤濃度を測定する分散剤濃度測定手段と、該分散剤濃度測定手段で測定される該分散剤濃度が所定の濃度になるように該逆浸透膜給水に該分散剤を添加する分散剤調整手段とを有することを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【0033】
17] [11]ないし[16]のいずれかにおいて、前記排出水、逆浸透膜給水及び/又は逆浸透膜濃縮水の導電率を測定する導電率測定手段と、該導電率測定手段の測定値に応じて該逆浸透膜の水回収率を調整する水回収率調整手段とを有することを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【0034】
18] [11]ないし[17]のいずれかにおいて、前記排出水及び/又は逆浸透膜給水の前記分散剤濃度を測定する分散剤濃度測定手段と、該分散剤濃度測定手段の測定値に応じて該逆浸透膜の水回収率を調整する水回収率調整手段とを有することを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【0035】
19] [11]ないし[18]のいずれかにおいて、前記排出水に、フェノール系水酸基を添加する凝集助剤添加手段を有することを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【0036】
20] [11]ないし[19]のいずれかにおいて、前記逆浸透膜装置は、該逆浸透膜透過水を該逆浸透膜装置の前段に循環する透過水循環手段、或いは純水又は脱イオン水を該逆浸透膜装置に通水する手段と、該逆浸透膜濃縮水を系外へ排水する濃縮水排出手段とを有し、該冷却排出水の回収装置の停止時に、該逆浸透膜透過水を前段に循環するか、或いは純水又は脱イオン水を通水すると共に、該逆浸透膜濃縮水を系外へ排出する運転を行った後、該冷却排出水の回収装置を停止させる制御手段を有することを特徴とする冷却排出水の回収装置。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、RO膜の前段の前処理膜で冷却排出水を処理することにより、冷却排出水中の濁質を除去し、後段のRO膜処理を安定化させることができる。
しかも、本発明では、循環冷却水系で添加され、冷却排出水に含まれている分散剤が、この前処理膜を透過するようにすることにより、この分散剤をRO膜の分散剤として有効利用することができる。このため、従来システムのように、RO膜の前段で除去された分散剤の再添加が不要となり、経済的にも処理操作的にも効率化することができ、処理コストを大幅に低減することができる。そして、前処理膜を透過した分散剤を利用して、RO膜処理の安定化、水回収率の向上を図ることができる。
このようなことから、本発明の冷却排出水の回収方法及び回収装置によれば、より簡素なシステムでRO膜装置のスケール障害を防止して長期にわたり安定な水回収を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0039】
<冷却排出水>
本発明において、水回収処理に供する冷却排出水としては、代表的には、冷却塔のブロー水が挙げられるが、ブロー水に限らず、本発明は、循環冷却水系から排出されるすべての排出水に適用することができる。例えば、循環冷却水系の循環配管から循環冷却水の一部又は全部を引き抜いて本発明に従って処理した後当該循環冷却水系に戻すようにしても良い。また、サイドフィルター、ライトフィルターの配管から分岐して排出した排出水を処理対象として水回収することもできる。
本発明では、このような冷却排出水を処理対象水として、前処理膜装置及びRO装置で順次処理し、処理水を循環冷却水系に返送する。
【0040】
<ストレーナー>
上記の冷却排出水は、そのまま前処理膜装置で処理することもできるが、冷却排出水には、粗大な濁質や異物が含有されている場合があるため、前処理膜装置の前段にストレーナーを設け、これらをストレーナーで予め除去した後、前処理膜装置において除濁処理を行うことが好ましい。ストレーナーを省略しても運転可能であるが、この場合には、冷却排出水中の粗大な濁質や異物により、前処理膜が破損する可能性がある。
【0041】
ストレーナーとしては、特に自動で洗浄処理を行うオートストレーナーが好適に使用される。
【0042】
ストレーナーの形状には特に制限はなく、Y型、バケット型などいずれの形状のものをも使用することができる。
ストレーナーの孔径は100〜500μmであることが好ましい。ストレーナーの孔径が100μmより小さいとストレーナーの閉塞が激しくなり、500μmを超えるとストレーナーを透過した粗大な濁質や異物が前処理膜を破損させる可能性が高くなり、好ましくない。
【0043】
ストレーナーの代わりに糸巻きフィルター、プリーツフィルターなどのフィルターを使用してもよいが、交換頻度、洗浄効率の点からはストレーナーが好適である。
【0044】
<前処理膜装置>
好ましくは、上記のストレーナーで除濁処理した後の冷却排出水は、次いで前処理膜装置で処理される。
【0045】
前処理膜装置は、RO膜装置の膜汚染の原因となる冷却排出水中の濁質やコロイダル成分を除去するためのものであり、精密濾過膜(MF膜)や限外濾過膜(UF膜)を用いることができる。その膜型式には特に制限はなく、中空糸型、スパイラル型等の膜濾過装置を採用することができる。また、濾過方式にも制限はなく、内圧濾過、外圧濾過、クロスフロー濾過、全量濾過のいずれの方式も適用可能である。
【0046】
前処理膜であるUF膜の分画分子量としては30,000以上であることが好ましい。UF膜の分画分子量が30,000より小さいと、冷却排出水中の分散剤を透過させることができず、RO膜装置の前段で分散剤を改めて添加する必要を生じるおそれがある。UF膜の分画分子量の上限に特に制限はないが、1,000,000以下であると、冷却排出水中のRO膜の閉塞原因となりうる高分子多糖類などを除去できるため、好ましい。前処理膜であるMF膜の孔径は、UF膜の分画分子量と同様の理由から、好ましくは0.1〜0.01μm程度である。
【0047】
このような前処理膜において、下記式で算出される後述の分散剤の透過率は80%以上、特に85%以上であることが好ましい。この分散剤の透過率が上記下限より低いと本発明の効果を有効に得ることができない。分散剤の透過率の上限は通常100%である。
透過率=(前処理膜透過水の分散剤濃度/前処理膜給水の分散剤濃度)×100
【0048】
上記の分散剤透過率を得るために、分散剤として、後述の好適な分散剤を用いると共に前処理膜装置においては、前処理膜の給水のpHを5以上とすることが好ましい。前処理膜の給水のpHが5よりも低いと、分散剤として後述のスルホン酸基とカルボキシル基を有する重合物を用いても、前処理膜の透過率が低くなり、本発明の効果を得ることができない場合がある。前処理膜の給水のpHは、5以上であればよく、その上限には特に制限はないが、通常、冷却塔ブロー水等の冷却排出水は、pH8〜10、通常は8〜9程度程度であるため、これをそのまま前処理膜装置で処理することが好ましい。
【0049】
<分散剤>
本発明において、循環冷却水系に添加される分散剤は、上記の前処理膜を透過するものである。
【0050】
この分散剤としては、スルホン酸基とカルボキシル基を有する重合物を用いることが好ましい。
即ち、分散剤は高pH条件下であるほど解離して分散剤としての機能が高くなるが、前処理膜装置の後段のRO膜装置では、高pH条件であると、RO膜装置内で濃縮されたカルシウム等がスケールとして析出し易くなるため、後述のように低pH条件で処理が行われる。このような低pH条件でのRO膜装置では、分散剤がカルボキシル基のみを有し、スルホン酸基を有さないものであると、不溶化して分散剤として機能し得なくなる。このため、分散剤としては、スルホン酸基とカルボキシル基とを有する重合物を用いることが好ましい。
【0051】
分散剤として好適なスルホン酸基とカルボキシル基を有する重合物としては、スルホン酸基を有する単量体と、カルボキシル基を有する単量体との共重合物、或いは、更に、これらの単量体と共重合可能な他の単量体との三元共重合体が挙げられ、このうち、スルホン酸基を有する単量体としては、2−メチル−1,3−ブタジエン−1−スルホン酸などの共役ジエンスルホン酸、3−(メタ)アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有する不飽和(メタ)アリルエーテル系単量体や2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−ヒドロキシ−3−アクリルアミドプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、メタリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、又はこれらの塩など、好ましくは、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(HAPS)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)が挙げられ、これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
一方、カルボキシル基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ビニル酢酸、アトロパ酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ヒドロキシエチルアクリル酸又はこれらの塩など、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられ、これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0053】
また、これらの単量体と共重合可能な単量体としては、N−tert−ブチルアクリルアミド(N−tBAA)、N−ビニルホルムアミドなどアミド類が挙げられる。
【0054】
本発明に好適な分散剤としては、特に、アクリル酸(AA)と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)をAA:AMPS=70〜90:10〜30(モル比)の割合で共重合させた共重合物、AAとAMPSとN−tert−ブチルアクリルアミド(N−tBAA)等のアミド類を、AA:AMPS:アミド類=40〜90:5〜30:5〜30(モル比)の割合で共重合させた共重合物、AAと3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(HAPS)を、AA:HAPS=70〜90:10〜30(モル比)の割合で共重合させた共重合物などが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0055】
上記のスルホン酸基とカルボキシル基を有する重合物の重量平均分子量は、1,000〜30,000であることが好ましい。この重合物の重量平均分子量が1,000未満であると分散効果が不十分であり、30,000を超えると、前処理膜を透過し難くなり、また、この重合物自体が前処理膜やRO膜に吸着し、膜閉塞の要因となるおそれがある。
【0056】
上記の分散剤の循環冷却水系における添加量は、冷却塔における分散効果と経済性、さらには、RO膜給水における分散効果の面から、有効成分(即ち、上記の重合物)の濃度として特に3〜30mg/L、とりわけ5〜20mg/Lとすることが好ましい。分散剤の添加方法や添加箇所には特に制限はない。
【0057】
なお、添加する分散剤としては、上記のスルホン酸基とカルボキシル基を有する重合物の他、十分な分散効果が得られるものであれば、他の重合物やホスホン酸などのリン酸化合物などを使用することもできる。分散剤は、循環冷却水系の原水水質から発生しうるスケール成分を見極め、その発生を防止し得る種類の分散剤を、効果が得られる濃度となるように添加すればよい。
【0058】
<RO膜装置>
冷却排出水を前述の前処理膜装置で処理した後の処理水(前処理膜透過水)は、次いでRO膜装置で脱塩処理される。
【0059】
RO膜装置のRO膜の種類としては、特に制限はなく、処理する冷却排出水の水質(循環冷却水系に供給される原水水質や循環冷却水系での濃縮倍率)によって適宜決定されるが、脱塩率については80%以上、特に85%以上のものが好ましい。RO膜の脱塩率がこれよりも低いと、脱塩効率が悪く、良好な水質の処理水(透過水)を得ることができない。RO膜の材質としてはポリアミド複合膜、酢酸セルロース膜などいずれの材質の膜も使用可能である。RO膜の形状についても特に制限はなく、中空糸型、スパイラル型など、いずれのものも使用可能である。
【0060】
本発明において、RO膜給水(RO膜装置に被処理水として通水される水)には、以下の通り好適pHが存在し、RO膜給水のpH調整のために、前処理膜装置とRO膜装置との間に酸を添加してpHを調整するpH調整手段を設けることが好ましい。このpH調整手段としては、RO膜の給水導入ラインやライン中に設けたラインミキサに直接或いは、別途設けたpH調整槽に、酸を薬注ポンプ等により添加する手段などを挙げることができる。ここで使用される酸は特に限定されるものではなく、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸を好適に用いることができる。
【0061】
前述の如く、通常、循環冷却水系では濃縮循環運転により、循環冷却水のpHが8〜9程度に上昇しており、前処理膜装置における分散剤の透過にはこのような高pHの方が好適である。一方、RO膜装置では、冷却排出水をさらに濃縮するため、スケールの発生が懸念される。スケール抑制の面から、RO膜装置ではpHを下げて運転することが好適である。RO膜給水のpH範囲としては4.0〜7.5が好ましい。pHが7.5を超えると水質によっては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等のスケール類が析出する場合がある。
さらに、冷却排出水中のシリカ濃度が30mg/Lを超える場合はその析出を抑制するために、RO膜給水のpHを4.0〜5.5に下げることが好ましい。RO膜給水のpHは低い程スケール析出防止の点では好ましいが、pHを4.0より低くするには、必要な酸の量が多量になり、経済的に好ましくない。
また、冷却排出水中にフミン酸やフルボ酸が多く含まれていると、RO膜の閉塞が生じる場合があるため、その場合には、冷却排出水のpHを5.5〜7.0、特に5.5〜6.5とすることが好ましい。このpHの範囲であれば、フミン酸やフルボ酸が酸解離してRO膜の閉塞が抑制されるとともに、冷却水中のCaが分散剤により効果的に分散し、フルボ酸とのコンプレックスを形成し難くなる。
【0062】
本発明では、循環冷却水系に添加する分散剤として、前処理膜を透過するものを用いることにより、冷却排出水に含有されて本発明に係る水回収システムに持ち込まれた分散剤を前処理膜の処理水(透過水)中に透過させ、前処理膜を透過した分散剤によりRO膜装置におけるスケール分散処理を行う。従って、RO膜給水中には、スケール分散処理に有効な濃度で分散剤が含まれている必要がある。
【0063】
この場合、RO膜装置のスケール分散処理に必要なRO膜給水の分散剤濃度は、冷却排出水の水質、前処理膜及びRO膜の処理条件(水回収率)等により異なり、一概に規定することはできないが、一般的には、RO膜給水の分散剤濃度は、3mg/L以上、特に5〜30mg/L程度であることが好ましい。
【0064】
RO膜給水の分散剤濃度がRO膜装置において十分なスケール分散効果を得るには不足する場合には、RO膜装置の入口側(前処理膜装置とRO膜装置との間)で分散剤を追加添加することが好ましい。ここで添加する分散剤としては、前述の循環冷却水系で用いる分散剤として好適なものを用いることができるが、循環冷却水系で添加される分散剤と必ずしも同一のものである必要はなく、異なる分散剤を用いてもよい。
【0065】
この場合、RO膜給水の分散剤濃度を測定し、その分散剤濃度が所定の濃度となるように分散剤添加量を制御することもできる。分散剤濃度の測定方法としては比濁法(例えば特開2006−64498号公報に記載の方法)による方法を採用することができる。分散剤は、例えば、RO膜給水の分散剤濃度測定手段に連動する分散剤添加手段によりRO膜給水に追加添加することができる。
【0066】
なお、本発明に従って、循環冷却水系に添加した分散剤をRO膜装置の分散剤として利用するためには、循環冷却水系に添加後、冷却排出水に含まれて排出された分散剤が、RO膜装置に達した際に、分散剤として機能するだけの活性が残っている必要がある。この分散剤の活性には、循環冷却水系の冷却塔における冷却水の滞留時間が影響することから、RO膜装置において分散剤が十分な活性を発揮するように循環冷却水系の冷却塔の滞留時間を調整することが好ましい場合もある。
【0067】
また、RO膜装置における水回収率は、RO膜装置におけるスケールの析出傾向を考慮して決定することが好ましい。例えば、本発明で処理する冷却排出水の導電率や、スケール要因となる冷却排出水中のCa、Mgなどの濃度は変動する可能性があるため、RO濃縮水の導電率やCa濃度、Mg濃度等に応じてRO膜の水回収率を調整してもよい。また、pHや分散剤濃度、水質等から、スケール発生有無を判定し、水回収率を設定してもよい。
【0068】
具体的には、冷却排出水、RO膜給水及び/又はRO膜濃縮水の導電率を測定する導電率計を設け、その測定値に基づいて、RO膜装置におけるスケール析出傾向を評価し、RO膜装置の水回収率を制御することが挙げられる。この場合、導電率計の測定値が高い場合、スケール析出傾向が高いと判断し、水回収率が低くなるように、RO膜の透過水取出側のバルブ開度を小さくし、逆に導電率計の測定値が低い場合スケール析出傾向が低いと判断し、水回収率が高くなるように、RO膜装置の透過水取出側のバルブの開度を大きくすることが挙げられる。
【0069】
或いは、冷却排出水及び/又はRO膜給水の分散剤濃度を測定し、分散剤濃度の測定値が高い場合にはスケール析出傾向が低いと判断し、水回収率が高くなるようにRO膜装置の透過水取出側のバルブの開度を大きくし、逆に、分散剤濃度の測定値が低い場合にはスケール析出傾向が高いと判断し、水回収率が低くなるように、RO膜装置の透過水取出側のバルブの開度を小さくすることが挙げられる。
【0070】
また、RO膜装置において、特にシリカスケールの発生が懸念される場合には、RO膜装置を停止する際は、装置内部を濃縮されていない冷却排出水や、RO膜透過水、純水、又は脱イオン水でフラッシングすることが好ましい。これは、RO膜装置内に濃縮水が残留したままRO膜装置を停止した場合、停止時間によってはシリカスケールやその他のスケールが発生し、運転再開時にRO膜装置の安定運転を行えなくなることがあるためである。この場合、例えばRO膜装置の運転停止に際して、RO膜透過水をRO膜装置の入口側へ循環させ、RO膜濃縮水を系外へ排出し、RO膜装置内を、RO膜の一次側(給水側)も二次側(濃縮水側)もRO膜透過水で置換する操作を行うことが挙げられる。
【0071】
<その他の処理>
本発明に係る循環冷却水系においては、スライムコントロール剤として、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)等の次亜塩素酸塩、塩素ガス、クロラミン、塩素化イソシアヌル酸塩などの塩素剤、モノクロルスルファミン酸などの塩素とアミド硫酸、アミド硫酸基を有する化合物の反応した結合塩素剤、ジブロモヒダントインなどの臭素剤、DBNPA(ジブロモニトリロプロピオンアシド)、MIT(メチルイソチアゾロン)などの有機剤、ヒドラジン、ヒダントイン(5,5−ジメチルヒダントイン)などを添加してもよい。
また、RO膜装置において、循環冷却水系で添加されたこれらのスライムコントロール剤を利用してスライムコントロール処理を行ってもよく、RO膜装置の前段で更にスライムコントロール剤を追加添加してスライムコントロール処理を行ってもよい。また、塩素剤等によるRO膜の酸化劣化が問題となる場合は、冷却排出水中の塩素剤を一旦還元除去してから、別途スライムコントロール剤を添加してもよい。
これらのスライムコントロール剤は、一種類を添加しても良いし、二種類以上を同時又は交互に添加しても良い。また、連続的に添加してもよく間欠添加としてもよい。
【0072】
また、冷却排出水に熱交換器由来の銅、鉄などの重金属イオンが含まれている場合、酸化還元作用を持つ薬剤、例えば次亜塩素酸トリウム、ヒドラジンと、重金属イオンの存在下でRO膜が促進劣化を受けることがある。その場合、重金属のキレート作用がある物質(たとえばEDTA)を添加することで、膜と重金属の接触を防止し、促進劣化を防止することができる。
ポリアミド系RO膜は重金属の有無にかかわらず、次亜塩素酸塩との接触で劣化する。次亜塩素酸塩は膜劣化の原因になる可能性が高いため、できる限り適用を避け、適用する場合には残留塩素を除去した後、RO膜装置に通水するのが好ましい。
【0073】
また、本発明においては、前処理膜装置やRO膜装置を安定化させるために、被処理水である冷却排出水に凝集助剤としてフェノール系水酸基を有する高分子化合物(以下「フェノール性高分子」と称す場合がある。)を添加してもよい。
このフェノール性高分子としては、ビニルフェノールの単独重合体、変性ビニルフェノールの単独重合体、ビニルフェノールと変性ビニルフェノールとの共重合体、ビニルフェノール及び/又は変性ビニルフェノールと疎水性ビニルモノマーとの共重合体のようなポリビニルフェノール系重合体;フェノールとホルムアルデヒドの重縮合物、クレゾールとホルムアルデヒドの重縮合物、キシレノールとホルムアルデヒドの重縮合物といったフェノール系樹脂;が挙げられるが、本発明では、特に特開2010−131469号公報、特開2013−255922号公報、特開2013−255923号公報等に記載されるノボラック型フェノール樹脂にレゾール型の2次反応を行って得られた反応物を用いることが好ましい。
【0074】
ノボラック型フェノール樹脂にレゾール型の2次反応を行って得られるフェノール性高分子の融点は130〜220℃、特に150〜200℃であることが好ましい。また、このフェノール性高分子の重量平均分子量は5,000〜50,000であることが好ましく、10,000〜30,000であることがより好ましい。
これらのフェノール性高分子の添加量は、冷却排出水の水質により異なり、特に制限はないが、有効成分濃度として0.01〜10mg/L程度とすることが好ましい。
【0075】
本発明において、長時間冷却排出水の処理を行うことで、MF膜装置等の前処理膜装置やRO膜装置が閉塞し、得られる処理水(透過水)量が低下した場合(即ち、水回収率が低下した場合)には、これらの膜装置を洗浄処理することで閉塞物を除去し、処理水量を回復させることができる。洗浄処理に使用する薬品としては閉塞物質、膜素材に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、次亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸、シュウ酸等を選択することができる。
【実施例】
【0076】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例により限定されるものではない。
【0077】
[分散剤]
以下の実施例及び参考例で用いた分散剤の仕様は以下の通りである。
AA/AMPS:アクリル酸とAMPMとの共重合物、アクリル酸:AMPM(モル比)=70:30、重量平均分子量10,000
AA/HAPS:アクリル酸とHAPSとの共重合物、アクリル酸:HAPS(モル比)=70:30、重量平均分子量8,000
AA/AMPS/N−tBAA:アクリル酸とAMPSとN−tert−ブチルアクリルアミドの三元共重合物、アクリル酸:AMPM:N−tBAA(モル比)=70:20:10、重量平均分子量12,000
AA/MA:アクリル酸とマレイン酸との共重合物、アクリル酸:マレイン酸(モル比)=70:30、重量平均分子量25,000
【0078】
[冷却排出水]
以下の実施例及び参考例で水回収処理に供した冷却排出水は、千葉工業用水を原水として、濃縮倍率3.5倍で運転を行っている循環冷却水系の冷却塔ブロー水(以下、単に「ブロー水」と称す。)である。
この循環冷却水系では、それぞれの実施例及び比較例に記載の分散剤を系内の分散剤濃度が所定の保持濃度となるように添加すると共に、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)を、系内の残留塩素濃度が0.5mg/Lになるように添加してスライムコントロール処理が行われている。
ブロー水のpHは8.5〜8.9(約8.8)である。
【0079】
[実施例1]
前処理膜としてMF膜を用い、ストレーナー、MF膜装置、RO膜装置の順でブロー水を処理することにより水回収を行った。
ストレーナーのメッシュ孔径は400μmであり、MF膜はクラレ社製「ピューリアGS(親水化PVDF、孔径0.02μm、外圧式)」を用いた。RO膜は栗田工業(株)製「KROA−2032−SN(ポリアミド超低圧RO膜)」を用いた。MF膜装置の洗浄頻度は1回/30分とした。
【0080】
ブロー水は、pH調整せずにストレーナー、MF膜装置に順次通水した後、RO膜装置の入口側で硫酸を添加してpH5.0に調整した。また、同様にRO膜装置の入口側で重亜硫酸ナトリウムを添加して、残留塩素濃度を0.05mg/L以下とすると共に、栗田工業(株)製「クリバーター(登録商標)IK−110」(結合塩素系スライムコントロール剤)を10mg/L添加して、RO膜装置のスライムコントロール処理を行った。
【0081】
MF膜装置及びRO膜装置の水回収率はそれぞれ90%、80%から開始し、トータルの水回収率は72%とした。ブロー水は有機物濃度が高いことから、MF膜装置及びRO膜装置の水回収率は経時により徐々に低下する。このため、水回収率が50%を切った場合、装置を一度停止して洗浄処理を行い、再度トータルの水回収率が72%となる条件で通水を再開し、一ヶ月間、通水、回収処理を継続した。
【0082】
上記の水回収処理において、前処理膜(MF膜)の給水の分散剤濃度は10.5mg/L、RO膜の給水の分散剤濃度は10.3mg/Lであり、一ヶ月間の平均水回収率は70%であった。
【0083】
[実施例2]
分散剤として、AA/AMPSの代りにAA/HAPSを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でブロー水の回収を行った。前処理膜及びRO膜の給水の分散剤濃度と、平均水回収率は表1に示す通りであった。
【0084】
[実施例3]
分散剤として、AA/AMPSの代りにAA/AMPS/N−tBAAを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でブロー水の回収を行った。前処理膜及びRO膜の給水の分散剤濃度と、平均水回収率は表1に示す通りであった。
【0085】
[実施例4]
MF膜の給水のpHを5.5に調整したこと以外は実施例1と同様の方法でブロー水の回収を行った。前処理膜及びRO膜の給水の分散剤濃度と、平均水回収率は表1に示す通りであった。
【0086】
[実施例5]
循環冷却水系における分散剤の保持濃度を3mg/Lとし、RO膜給水に分散剤を7mg/L追加添加した以外は実施例1と同様の方法でブロー水の回収を行った。前処理膜及びRO膜の給水の分散剤濃度と、平均水回収率は表1に示す通りであった。
【0087】
[実施例6]
特開2013−255923号公報の実施例I−1の方法に従って製造した、重量平均分子量12000、融点170℃のフェノール性高分子のアルカリ溶液(有効成分濃度16重量%、pH12)を、ブロー水に、有効成分濃度として1mg/L添加したこと以外は実施例1と同様の方法でブロー水の回収を行った。前処理膜及びRO膜の給水の分散剤濃度と、平均水回収率は表1に示す通りであった。
【0088】
[参考例1]
MF膜給水のpHを4.5に調整した以外は実施例1と同様の方法でブロー水の回収を行った。前処理膜及びRO膜の給水の分散剤濃度と、平均水回収率は表1に示す通りであった。
【0089】
[参考例2]
前処理膜として分画分子量が10,000のUF膜(GE社製「PW2540C30」)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でブロー水の回収を行った。前処理膜及びRO膜の給水の分散剤濃度と、平均水回収率は表1に示す通りであった。
【0090】
[参考例3]
RO膜給水のpHを7.0にしたこと以外は実施例1と同様の方法でブロー水の回収を行った。前処理膜及びRO膜の給水の分散剤濃度と、平均水回収率は表1に示す通りであった。
【0091】
[参考例4]
分散剤として、AA/AMPSの代りにAA/MAを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でブロー水の回収を行った。前処理膜及びRO膜の給水の分散剤濃度と、平均水回収率は表1に示す通りであった。
【0092】
[参考例5]
循環冷却水系における分散剤の保持濃度を1mg/Lとしたこと以外は実施例1と同様の方法でブロー水の回収を行った。前処理膜及びRO膜の給水の分散剤濃度と、平均水回収率は表1に示す通りであった。
【0093】
【表1】
【0094】
表1より次のことが分かる。
本発明により、RO膜給水中に有効量の分散剤が残存するように処理を行うことにより、高い水回収率で安定した処理を継続することができる。
【0095】
参考例1は、膜の給水pHを低くしたために、前処理膜の分散剤透過率が低く、RO膜給水の分散剤濃度が低いために、平均水回収率が低下している。
参考例2は、前処理膜として分画分子量の小さいUF膜を用いたため、前処理膜の分散剤透過率が低く、RO膜給水の分散剤濃度が低いために、平均水回収率が低下している。
参考例3は、RO膜給水のpHが高く、RO膜におけるカルシウムスケール析出、膜閉塞の問題があるため、平均水回収率が低下している。
参考例4は、分散剤として、カルボキシル基のみで、スルホン酸基のない重合物を用いたため、RO膜給水のpHを低くすると不溶化してしまい、分散剤として機能しないため、RO膜処理が安定せず、平均水回収率が低下している。
参考例5は、循環冷却水系内の分散剤保持濃度が低く、前処理膜を透過してもRO膜給水の分散剤濃度が低いため、RO膜処理が安定せず、平均水回収率が低下している。
【要約】
【課題】循環冷却水系のブロー水等の冷却排出水をRO膜処理して水回収するに当たり、水処理コストを低減すると共に、水回収率の向上と安定化を図る。
【解決手段】循環冷却水系からの排出水を前処理膜とRO膜を含む水回収システムで処理し、処理水を循環冷却水系に戻す水回収において、循環冷却水系において、スケール成分を分散させる分散剤として、前処理膜を透過するものを添加する。RO膜の前処理膜として、分散剤を透過するものを用い、循環冷却水系で添加された分散剤を水回収システムで有効利用することにより、水処理コストを低減すると共に、水回収率の向上と安定化を図る。
【選択図】なし