(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
蒸気発生設備において、ボイラの稼働中に、ボイラ水のpHを11.3以上に調整し、かつボイラ水のpHの値に応じて、下記計算式(1)から導かれる基準重量平均分子量の0.50〜2.00倍の重量平均分子量を有するポリアクリル酸又はその塩を添加することにより、ボイラ缶内に付着したスケールを除去する、蒸気発生設備のスケール除去方法。
基準重量平均分子量 = -8462×(pHの値−11.3)+61538 ・・・(1)
蒸気発生設備において、ボイラの稼働中に、ボイラ水のpHを11.3以上に調整し、かつボイラ水のpHの値に応じて、下記の手法により算出される基準重量平均分子量の0.50〜2.00倍の重量平均分子量を有するポリアクリル酸又はその塩を添加することにより、ボイラ缶内に付着したスケールを除去する、蒸気発生設備のスケール除去方法。
[基準重量平均分子量の算出方法]
(1)pH11.3以上の少なくとも3つのpH値において、スケール除去率が最大となるポリアクリル酸の重量平均分子量(Mwmax)を測定する。
(2)pHをx軸、Mwmaxをy軸として、最小二乗法によりpHとMwmaxとの関係式を求め、該関係式から得られる各pHでの重量平均分子量を、基準重量平均分子量とする。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーコストを削減するため、系外にブローされる水の量を減らして、高濃度で運転する水系システムが増加している。このような水系システムでは、水中のカルシウム、マグネシウム及びシリカなどのスケール成分も高濃度となるため、これらの成分がスケール化して析出することにより、熱交換器の熱効率の低下や閉塞などを引き起こすことがある。
特に、ボイラ水系では、ボイラ缶内に持ち込まれたカルシウム、マグネシウム、シリカ及び鉄などのスケール成分は、熱負荷の高い伝熱面でスケール化して付着するため、鋼材の過熱による膨張、湾曲、破裂や熱効率の低下を引き起こす原因となる。
また、伝熱面へのスケールの付着は、伝熱阻害を引き起こし、エネルギーロスが生じるため、燃料費の増加にもつながる。このため、ボイラ水系などでは、スケールの付着を防止するために、原水中の硬度成分であるカルシウムやマグネシウムを軟水器によって取り除き、軟水化したものを給水としている。
【0003】
また、ボイラ水中にスケール分散剤を添加することにより、ボイラ缶内に持ち込まれた給水中の微量の硬度成分やシリカなどのスケール成分の系内への付着を抑制するとともに、ブローよってこれらの成分を系外に排出する水処理方法も行われている。
ここで、スケール防止剤とは、水系システムに持ち込まれた硬度成分のスケール化を防止するものであり、例えばリン酸三ナトリウムやトリポリリン酸ナトリウムなどのリン酸塩、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリマーが使用されている。
【0004】
一方、このようなスケール防止方法を採用した場合でも、不測の硬度リークなどが発生し、スケールが付着した場合はボイラの運転を停止し、ボイラ水を全ブローにより排出した後、スケール溶解除去剤を用いた化学洗浄が行われている。例えば、特許文献1には、高濃度のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤やスルファミン酸等の有機酸を用いた化学洗浄によるスケール除去方法が記載されている。
しかし、特許文献1のスケール除去方法では、ボイラを一度停止するため生産性が損なわれることと、洗浄コストが別途発生するといった問題がある。
【0005】
上記問題を解消するものとして、ボイラの運転を停止することなくスケールを除去する方法が提案されている。例えば、特許文献2には、ボイラ缶中に、EDTA、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミン等の特定のキレート剤とポリマレイン酸などの特定の分散剤とを添加し、ボイラを運転しながらスケールを除去する方法が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の蒸気発生設備のスケール除去方法は、蒸気発生設備において、ボイラの稼働中に、ボイラ水のpHを11.3以上に調整し、かつボイラ水のpHの値に応じて、下記計算式(1)から導かれる基準重量平均分子量の0.50〜2.00倍の重量平均分子量を有するポリアクリル酸又はその塩を添加することにより、ボイラ缶内に付着したスケールを除去するものである。
基準重量平均分子量 = -8462×(pHの値−11.3)+61538 ・・・(1)
【0014】
図1は、本発明を実施するための蒸気発生設備の一実施形態を示す図である。
図1は、復水タンク1、復水ライン11、補給水タンク2、補給水ライン21、給水タンク3、給水ライン31、ポリアクリル酸又はその塩の添加手段4、アルカリ添加手段5、蒸気発生部(ボイラ缶)6及びドレン回収ライン71を有する、循環式の蒸気発生設備7を示している。
なお、
図1は循環式の蒸気発生設備を示しているが、本発明のスケール除去方法は、貫流式の蒸気発生設備にも適用することができる。
【0015】
<pHの調整>
本発明の蒸気発生設備のスケール除去方法では、まず、ボイラ水のpHを11.3以上に調整する。
図2は、pH11.1〜12.0の領域における、ポリアクリル酸の重量平均分子量とスケール除去率との関係を示す図である。
図2に示すように、pHが高くなるにつれてスケール除去率が高くなっており、特に、pH11.1と11.3との間で劇的な差があることが認められる。なお、
図2は、後述する試験例1の結果に基づくものである。
このように、本発明では、ボイラ水のpHを11.3以上とすることにより、ボイラ缶内に発生したスケールの除去率を良好にすることができる。ボイラ缶内に付着しているスケールは単一成分が付着することは少なく、多くはカルシウム、マグネシウム及びシリカ等の多成分の混合物である。ここでpHが11.3以上に上昇すると発生したスケール混合物中のシリカの溶解性が上がるため、同時にカルシウムやマグネシウム由来のスケール混合物が除去されやすくなると考えられる。
ボイラ水のpHは、スケール除去率の観点から11.5以上とすることが好ましく、ボイラ缶内や蒸気発生設備系内の腐食防止の観点から12.0以下とすることが好ましい。
【0016】
ボイラ水のpHを11.3以上に調整するには、アルカリ剤を添加する手段と、ブロー量及び/又は給水量を調整して濃縮倍率を調整する手段等が挙げられる。pHの調整のし易さの観点から、アルカリ剤を添加する手段が好適である。
【0017】
アルカリ剤としては、例えばアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩、中和性アミン等が挙げられる。
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられ、アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられ、アルカリ金属リン酸塩としては、リン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等が挙げられる。
また、中和性アミンとしては、モノエタノールアミン、シクロへキシルアミン、モルホリン、ジエチルエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、3−メトキシプロピルアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等が挙げられる。
アルカリ剤の中でも中和性アミンは、蒸気復水系へ移行するため、ボイラ水のpHを11.3以上に調整するには高濃度添加しなければならず、またそのような濃度添加をすると蒸気や復水に臭気が生じたり、蒸気復水系のpHが上昇しすぎてしまい系内に銅系材質があると腐食を引き起こす可能性がある。このため、アルカリ剤としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩が好ましく、経済性の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等がより好ましい。
上記アルカリ剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
アルカリ剤は補給水又は給水に添加することが好ましい。なお、蒸気発生設備が循環式の場合、復水に添加してもよい。
なお、適量のアルカリ剤を供給するために、ボイラ缶の上流側及び/又は下流側に、pH測定手段を有することが好ましい。
【0019】
給水は、原水を逆浸透膜で処理したもの、原水を軟化処理したもの、原水をイオン交換処理したもの等を用いることができる。
【0020】
<ポリアクリル酸又はその塩>
本発明では、ボイラ水のpHを11.3以上に調整しつつ、ポリアクリル酸又はその塩の添加を行う。
ポリアクリル酸は特に限定されず、後述する重量平均分子量の条件を満たすものを用いることが可能である。ポリアクリル酸塩は、前記ポリアクリル酸のナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。ポリアクリル酸塩は、ポリアクリル酸とともに、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩等を添加することにより得ることができる。
【0021】
また、本発明では、ボイラ水のpHの値に応じて、下記計算式(1)から導かれる基準重量平均分子量の0.50〜2.00倍の重量平均分子量を有するポリアクリル酸又はその塩を用いる。
基準重量平均分子量 = -8462×(pHの値−11.3)+61538 ・・・(1)
また、ポリアクリル酸の重量平均分子量は、上記計算式(1)から導かれる基準重量平均分子量の0.70〜1.70倍であることが好ましく、0.80〜1.60倍であることがより好ましく、0.90〜1.40倍であることがさらに好ましい。
なお、ポリアクリル酸の塩の場合、ポリアクリル酸塩のベースとなるポリアクリル酸の重量平均分子量が上記条件を満たしていればよい。
【0022】
図3は、pH11.1〜12.0の領域における、pHと、スケール除去に最適なポリアクリル酸の重量平均分子量との関係を示す図である。
図3に示すように、pHが高くなるにつれて最適なポリアクリル酸の重量平均分子量が小さくなっており、pH11.3と〜pH12.0の間では略直線的な関係が認められる。
図3のベースとなる各pHでの最適なポリアクリル酸の重量平均分子量は、
図2から読み取ったものである。
そして、略直線的関係であるpH11.3と〜pH12.0の区間の最小二乗法を行うことにより、上記計算式(1)を算出することができ、各pHでの基準重量平均分子量を得ることができる(
図4参照)。
なお、
図4では、pH11.3、11.5、12.0の3点の最小二乗法から基準重量平均分子量を得るための計算式を算出しているが、pH11.3以上の少なくとも3つのpH値において、スケール除去率が最大となるポリアクリル酸の重量平均分子量(Mw
max)を測定し、pHをx軸、Mw
maxをy軸として、最小二乗法によりpHとMw
maxとの関係式を求め、該関係式から得られる各pHでの重量平均分子量を、基準重量平均分子量としてもよい。
【0023】
このように、本発明では、ボイラ水のpHの値に応じて、上記計算式(1)の条件を満たすポリアクリル酸又はその塩を添加することによって、スケール除去率を良好にすることができる。
【0024】
ポリアクリル酸又はその塩の添加量は、前記ボイラ水中での濃度が10〜500mg/Lとなるような量とすることが好ましい。10mg/L以上とすることにより、スケール除去効果を発揮しやすくでき、500mg/L以下とすることにより、CODの上昇による排水処理の煩雑さを防止しつつ、費用対効果を良好にできる。
また、ポリアクリル酸又はその塩の添加量は、前記ボイラ水中での濃度が20〜400mg/Lとすることがより好ましく、30〜300mg/Lとすることがさらに好ましく50〜250mg/Lとすることがよりさらに好ましい。
【0025】
ポリアクリル酸又はその塩は、補給水又は給水に添加することが好ましい。なお、蒸気発生設備が循環式の場合、復水に添加してもよい。
なお、ボイラ缶の上流側及び/又は下流側にpH測定手段を設け、該手段と、ポリアクリル酸又はその塩の添加手段との関連付けを行うことにより、適切な重量平均分子量のポリアクリル酸を自動的に選択して添加する構成をとることが好ましい。
【0026】
<任意添加成分>
本発明においては、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて、蒸気発生設備の系内の何れかの箇所で、各種の添加成分、例えば、脱酸素剤、防食剤、スケール防止剤等を用いることができる。
スケール防止剤としては、例えば、各種リン酸塩、上述した条件を満たさないポリアクリル酸(重量平均分子量が低いもの)、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、及びこれらのナトリウム塩等の水溶性高分子化合物、ホスホン酸塩、キレート剤等が挙げられる。これらの中でもポリメタクリル酸は、上述した条件を満たすポリアクリル酸又はその塩と組み合わせて用いることにより、ボイラ給水中の鉄濃度が0.3mg/Lを超えて含む場合、(例えば0.3〜5.0mg/Lの高濃度の場合)のスケール除去効率を劇的に高めることができる点で好適である。
ポリメタクリル酸は、ボイラ水中での濃度が1〜1,000mg/Lとすることが好ましく、10〜500mg/Lとすることがより好ましい。また、ポリメタクリル酸は、ボイラ水中において、ポリアクリル酸(塩):ポリメタクリル酸(塩)の質量比が1:100〜100:1、とりわけ1:50〜50:1となるように添加するのが好ましい。
また、ポリメタクリル酸は、重量平均分子量が1,000〜100,000以下であることが好ましく、5,000〜60,000であることがより好ましい。ポリメタクリル酸は、重量平均分子量が1,000未満では十分な鉄スケール防止効果を得ることができない場合があり、ポリメタクリル酸の重量平均分子量が100,000を超えると効果が低下する。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0028】
[試験例1]
下記の条件で、pH及びポリアクリル酸の重量平均分子量がスケール除去率に与える影響について検討した。
試験装置:ステンレス製テストボイラ
合成水A:給水中の濃度としてCa硬度:10mgCaCO
3/L、Mg硬度:5mgCaCO
3/L、シリカ15mg/L、炭酸ナトリウム25mg/L
合成水B:給水中の濃度としてシリカ15mg/L、表1記載の重量平均分子量のポリアクリル酸を20mg/L(ボイラ缶内濃度として200 mg/L)、表1記載のボイラ水pHとなるように炭酸ナトリウムを給水に添加
給水温度:40℃
運転圧力:2.0MPa
給水量:9L/h
濃縮倍率:10倍
スケール除去率の測定:試験前の伝熱チューブ(鋼材製、表面積200cm
2×3本)を秤量し記録する。ステンレス製テストボイラ(保有水量5L)に、ボイラ缶内濃度10倍濃縮相当(合成水Aの10倍濃縮相当)の合成水を調製して投入し、合成水Aを給水しながら圧力2.0MPa、蒸発量8.2L/h、ブロー量0.8L/h、濃縮倍率10倍となるようにして21時間運転した。運転後にスケールが付着した伝熱チューブ(鉄製、表面積200cm
2×3本)を取り出し秤量し、スケール付着量を算出した。その後、伝熱チューブを再度挿入し、缶内に合成水Bの10倍濃縮相当の合成水を調製して投入し、合成水Bで3日間、同じ条件で運転し、スケール除去工程を行った。運転後に同様に伝熱チューブを秤量し、スケール除去工程前後のスケール付着量からスケール除去率を算出した。結果を表1に示す。また、
図2に、pHごとの、ポリアクリル酸の重量平均分子量とスケール除去率との関係を示す。
【0029】
【表1】
【0030】
表1及び
図2より、pHを11.3以上にした際にスケール除去率が飛躍的に向上することが分かる。また、ポリアクリル酸の重量平均分子量が低いとスケール除去率が低下する一方で、高すぎてもスケール除去率が低下することが分かる。
【0031】
また、
図2の各pHの曲線から、各pHにおいて、スケール除去に最適なポリアクリル酸の重量平均分子量が存在することが分かる。具体的には、pH11.1では81,500、pH11.3では62,500、pH11.5では58,500、pH12.0では56,000と読み取れる。
図3は、各pHでの最適なポリアクリル酸の重量平均分子量を示す図である。
図3より、pH11.3と〜pH12.0の間では略直線的な関係が認められることが分かる。
略直線的関係であるpH11.3と〜pH12.0の区間の最小二乗法を行うと、切片が61,538、傾きが−8,462となる。
図4は、pH11.3〜12.0の領域における、pHと、スケール除去に最適なポリアクリル酸の重量平均分子量との関係の最小二乗法による図である。スケール除去率を高めるためには、pHとの関係で、
図4の直線(下記計算式(1))を基準としてポリアクリル酸の重量平均分子量を決定すればよいことが分かる。
基準重量平均分子量 = -8462×(pHの値−11.3)+61538 ・・・(1)
【0032】
また、
図2より、スケール除去に最適なポリアクリル酸の重量平均分子量の前後でも同等のスケール除去率を有すること、および最適重量平均分子量より低い側に比べて高い側の方がスケール除去率が低下しづらいことが分かる。
以上の結果から、ボイラ水のpHの値に応じて、上記計算式(1)から導かれる基準重量平均分子量の0.50〜2.00倍の重量平均分子量を有するポリアクリル酸又はその塩を添加するという条件を満たすことにより、スケール除去率を高めることができることがわかる。
上記試験例では、試験例1−7、1−8、1−9、1−12、1−13、1−14、1−17、1−18及び1−19が該条件を満たしており、pHが同一である他の試験例に比べてスケール除去率が良好であることが分かる。
【0033】
[試験例2]
下記の条件で、ポリアクリル酸及び薬剤濃度がスケール除去率に与える影響について検討した。
試験装置 :ステンレス製テストボイラ
合成水C:給水中の濃度としてCa硬度:20mgCaCO
3/L、Mg硬度:10mgCaCO
3/L、シリカ15mg/L、炭酸ナトリウム35mg/L
合成水D:給水中の濃度としてシリカ15mg/L、炭酸ナトリウム20mg/Lとなるように添加し、表2記載の薬剤を表2記載のボイラ缶内濃度となるように給水に添加
給水温度:40℃
運転圧力:2.0MPa
給水量:9L/h
濃縮倍率:10倍
スケール除去率の測定:試験前の伝熱チューブ(鋼材製、表面積200cm
2×3本)を秤量し記録する。ステンレス製テストボイラ(保有水量5L)に、ボイラ缶内濃度10倍濃縮相当(合成水Cの10倍濃縮相当)の合成水を調製して投入し、合成水Cを給水しながら圧力2.0MPa、蒸発量8.2L/h、ブロー量0.8L/h、濃縮倍率10倍となるようにして21時間運転した。運転後にスケールが付着した伝熱チューブ(鉄製、表面積200cm
2×3本)を取り出し秤量し、スケール付着量を算出した。その後、伝熱チューブを再度挿入し、缶内に合成水Dの10倍濃縮相当の合成水を調製して投入し、合成水Dで6日間、同じ条件で運転し、スケール除去工程を行った。運転後に同様に伝熱チューブを秤量し、スケール除去工程前後のスケール付着量からスケール除去率を算出した。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
表2の結果から、ポリアクリル酸の濃度を高めることにより、スケール除去率が向上することが分かる。一方、ポリアクリル酸を用いない場合、薬剤の濃度を高めてもスケール除去率を十分高くすることができないことが分かる。
上記試験例では、試験例2−9〜2−22が本発明のポリアクリル酸の重量平均分子量の条件を満たしており、ポリアクリル酸の濃度が同一である他の試験例に比べてスケール除去率が良好であることが分かる。
【0036】
[試験例3]
試験例2と同様の条件で、合成水D(ただし、薬剤の種類、分子量、ボイラ缶内濃度は表3の条件のもの)を用いてスケール除去を行っている際に、ボイラ缶内に鋼材製のテストピース(SGP、15×50×10mm、♯400研磨)を設置して、試験後に脱錆処理し、下記計算式(2)により腐食速度を求めた。
腐食速度(mdd)=テストピースの腐食減量(mg)/テストピースの表面積(dm
2)×試験期間(day)
【0037】
【表3】
【0038】
表3の結果から、EDTAやNTAのようなキレート剤を用いないスケール除去の方式は、腐食速度が遅いことが分かる。
【0039】
[試験例4]
(全スケール除去率)
合成水Cに対して、鉄濃度が1.5mg/Lとなるように、塩化鉄と水酸化鉄とを1:1の質量割合で添加してなる合成水Fを給水として用いた以外は、試験例2と同様の条件で、伝熱チューブ(鋼材製、表面積200cm
2×3本)を有するテストボイラを21時間運転した。運転後に、伝熱チューブの3本のうちの1本を取り出し、研磨された伝熱チューブに交換した。また、取り出した伝熱チューブを秤量し、スケール付着量を算出した。
次いで、合成水Dに対して、鉄濃度が1.5mg/Lとなるように、塩化鉄と水酸化鉄とを1:1の質量割合で添加してなり、かつ薬剤を表4に記載の薬剤、分子量、ボイラ缶内濃度のものに変更してなる合成水Gを給水として用いた以外は、試験例2と同様の条件で、6日間テストボイラを運転し、スケール除去工程を行った。追加運転後に先の運転後に交換していない伝熱チューブを秤量し、スケール除去工程前後のスケール付着量から全スケール除去率を算出した。結果を表4に示す。
【0040】
【表4】
【0041】
上記試験例では、試験例4−2〜4−11のポリアクリル酸が本発明の重量平均分子量の条件を満たしている。これら試験例は良好なスケール除去率を示しているが、その中でも試験例4−8〜4−11は際立って優れたスケール除去率を示している。この結果から、ボイラ給水中に鉄が比較的高濃度で含まれている場合、ポリアクリル酸の単独処理よりも、ポリアクリル酸にポリメタクリル酸を組み合わせた方が、全スケール除去率を劇的に向上できることが確認できる。このことは、ポリアクリル酸単独では、鉄スケールの分散効果を最適にすることができず、硬度スケールの上にさらに鉄スケールが付着し、その結果、硬度スケールの除去効果が低下していると推定される。一方、ポリアクリル酸にポリメタクリル酸を組み合わせた場合、硬度スケールの上に鉄スケールが付着することが防止され、ポリアクリル酸による硬度スケール除去効果が十分に発揮されていることが分かる。