(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773250
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】インダクタ及び2相インターリーブ制御方式力率改善コンバータ
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20150813BHJP
【FI】
H01F37/00 A
H01F37/00 N
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-65719(P2011-65719)
(22)【出願日】2011年3月24日
(65)【公開番号】特開2012-204454(P2012-204454A)
(43)【公開日】2012年10月22日
【審査請求日】2014年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】阿部 徹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亨
(72)【発明者】
【氏名】芦谷 直樹
【審査官】
堀 拓也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−016234(JP,A)
【文献】
特開2000−150255(JP,A)
【文献】
特開平10−135054(JP,A)
【文献】
特開平4−355906(JP,A)
【文献】
実開平5−36821(JP,U)
【文献】
特開昭39−16865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00 − 21/12
H01F 27/00 − 27/02
H01F 27/06 − 27/08
H01F 27/23 − 27/30
H01F 27/36
H01F 27/42
H01F 30/00 − 30/04
H01F 30/08
H01F 30/12 − 30/14
H01F 36/00 − 37/00
H01F 38/02
H01F 38/08 − 38/12
H01F 38/16
H01F 38/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行な2面を有するI型に形成されたフェライトコアと、
前記フェライトコアの前記2面の面内であって、それぞれの両端部分において、
同形状のU型、またはC型に形成されたFe基合金圧粉コアの2端面が、磁気ギャップを介してそれぞれ接続されて、前記フェライトコアを挟んで前記Fe基合金圧粉コアが配置され、
前記Fe基合金圧粉コアのそれぞれに、同方向、同巻数になるように導線を巻回したコイルを備え、
前記Fe基合金圧粉コアの磁路断面積が前記I型フェライトコアの磁路断面積よりも小さいことを特徴とするインダクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のインダクタにおいて、
前記磁気ギャップは、有機フィルムで形成され、
前記フェライトコアはMnZn系フェライトで形成され、
前記Fe基合金圧粉コアはFe基アモルファス合金薄帯の粉砕粉で形成されていることを特徴とするインダクタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインダクタは、2相インターリーブ制御方式力率改善コンバータ用であることを特徴するインダクタ。
【請求項4】
請求項1または2に記載のインダクタを用いたことを特徴とする2相インターリーブ制御方式力率改善コンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2相インターリーブ制御方式での使用に好適な一体型インダクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種電子電気機器の高調波対策として、力率改善(PFC:Power Factor Correction)コンバータが使用されている。PFCコンバータとは、機器の電源内における入力電流を入力電圧と同様の波形に制御することにより、無効な電力の発生を抑制するものである。
PFCコンバータを小型で高効率かつ低価格で実現する手段のひとつに、インターリーブ制御方式がある。インターリーブ制御方式は、電源を複数系統に分けて、各相に位相差をもたせ、リップルなどを互いに打ち消しあう制御方式の1つである。2相のインターリーブ制御方式の場合には、電流位相が180度の位相差(逆相)を持つことでリップルが相殺され、ノイズフィルタなどの他の部品の小型化が可能となる。トータルの部品点数は増えるが、個々のインダクタや出力コンデンサ、スイッチング素子などを小型化でき実装面積の小面積化が可能である。
【0003】
図5にインターリーブ制御方式のPFCコンバータの概略例を示す。インダクタL1、スイッチング素子SW1及びダイオードD1からなる回路と、インダクタL2、スイッチング素子SW2及びダイオードD2からなる回路とを並列に接続した構成を有している。スイッチング素子はMOS−FETやIGBTが用いられる。2つのスイッチング素子SW1、SW2の位相は制御ICにより位相差が180度になるように制御される。
【0004】
2相インターリーブ制御方式では、各相毎にインダクタが1つ必要であるため、合計2つ必要であるが、特許文献1には、2つのインダクタを一体化することによる小型化、実装面積の省面積化について提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−258395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1に記載の構造での一体型インターリーブ制御方式PFC用インダクタでは、コアとしてフェライトを使用しているが、フェライトの飽和磁束密度が低いため、小型化に限界があった。
【0007】
そこで、発明者は、前記問題点を鑑み、2相インターリーブ制御方式での使用に好適な一体型インダクタおいて、小型化が可能なインダクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、前記コアとして、飽和磁束密度の高いFe基合金圧粉コアと、フェライトコアを組み合わせることにより、小型化が可能なインダクタを見出したものである。
【0009】
つまり、本発明は、平行な2面を有するI型
に形成されたフェライトコアと、前
記フェライトコアの前記2面の
面内であって、それぞれの両端部分において、
同形状のU型、またはC型
に形成されたFe基合金圧粉コアの2端面が、磁気ギャップを介してそれぞれ接続さ
れて、前記フェライトコアを挟んで前記Fe基合金圧粉コアが配置され、前
記Fe基合金圧粉コア
のそれぞれに、同方向、同巻数になるように導線を巻回
したコイル
を備え
、前記Fe基合金圧粉コアの磁路断面積が前記I型フェライトコアの磁路断面積よりも小さいことを特徴とするインダクタである。
また、本発明
においては、
前記磁気ギャップは、有機フィルムで形成され
、前記フェライトコアはMnZn系フェライトで形成され、前記Fe基合金圧粉コアはFe基アモルファス合金薄帯の粉砕粉で形成されている
のが好ましい。
また、本発明は、前記インダクタは、2相インターリーブ制御方式力率改善コンバータ用である
のが好ましい。
また、本発明は、前記インダクタを用いたことを特徴とする2相インターリーブ制御方式力率改善コンバータである。
【0010】
ここで、同方向に導線が巻回されているとは、2つの巻回された導線に、商用周波数を全波整流した電流成分が流れる場合、フェライトコアを介して接続されたU型またはC型コアに同方向の磁束が発生するように導線が巻回されていることを意味している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、Fe基合金圧粉コアの飽和磁束密度が大きいので、小型化が可能である。更には、従来の例えばトライダル形状のFe基合金圧粉コアを用いたインダクタを2つ使用する場合に比べて、実装面積を小さくできる。
また、Fe基合金圧粉コア形状が、U型、C型であるため、予めコアにコイルを容易に巻回することができる。従って、インダクタの作製が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明実施例1のインダクタの概略上面図(A)、概略XX‘断面図(B)、及び概略YY’断面図(C)
【
図2】本発明のインダクタを同相励磁する場合の磁束方向を説明する図
【
図3】本発明のインダクタを逆相励磁する場合の磁束方向を説明する図
【
図5】本発明のインターリーブ制御方式PFCコンバータの概略例
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、2相インターリーブ制御方式の使用に好適なインダクタにおいて、Fe基合金圧粉コアとフェライトコアから構成することにより、作製が容易で、小型化が可能となり、実装面積の低面積化が可能という効果を見出したものである。
【0014】
(構造)
本発明のインダクタでは、同形状の2つのU型またはC型コアに、磁気ギャップを介してI型フェライトコアが挟まれるように配置されている。前記U型またはC型コアには、それぞれ、同方向、同巻数の導線が巻回されて、2つのインダクタが形成されている。同形状のC型コアは、トロイダル形状を2分割することによって得ることができる。
【0015】
(同相励磁)
前記2つのインダクタには、全波整流された商用周波数成分の電流Iが流れる。
図2に示すように、2つのFe基合金圧粉コア2の磁束方向が同方向になるように(矢印方向の)磁束が発生する。また、この場合、フェライトコアでは、前記発生した磁束は打ち消す方向であって、相殺される。
【0016】
(逆相励磁)
他方、前記2つのインダクタには、スイッチングによって発生したリップル成分である高周波成分(数10kHz)Iも流れる。
図3(A)(B)に示すように、スイッチングにより、2つのインダクタには、高周波のリップル成分が流れるが、位相差が180度であり、2つのFe基合金圧粉コアに発生する磁束は逆方向となる。このため、フェライトコアを磁路とする(矢印方向の)磁束が発生する。また、2つのFe基合金圧粉コアで発生する磁束は、一方が最大となるとき、他方は最小に近くなるため、片側のFe基合金圧粉コアで発生する最大の磁束が、フェライトコアに通る最大の磁束となると考えて良い。
【0017】
(Fe基合金圧粉コア)
本発明における、Fe基合金圧粉コアを構成するFe基合金粉は、Fe−3%Si組成などのFe−Si系合金のアトマイズ粉や粉砕粉、または、Fe基アモルファス合金のアトマイズ粉、Fe基アモルファス合金薄帯の粉砕粉などを用いることができる。また、アトマイズ粉と粉砕粉を混合して用いても良い。Fe基合金圧粉コアは、前記Fe基合金粉をバインダーと混合し、プレス成形により成形し、磁気特性を得るための熱処理(アニール)を行ったものが使用できる。コアとして磁気飽和しにくくするためには、飽和磁束密度Bsdとして、1T以上であることが好ましい。
【0018】
(フェライトコア)
フェライトコア材料としては、Mn系とNi系、いずれも使用することができる。高周波での損失を少なくするにはMn系が好ましいが、材料の比抵抗が小さいために、必要に応じてコアの表面を絶縁コーティングなどによる絶縁処理を施こす方が好ましい。
【0019】
(Fe基合金圧粉コアとフェライトコアの断面積)
フェライトコアの飽和磁束密度Bsfは0.4〜0.5Tであり、前記Fe基合金圧粉コアの飽和磁束密度Bsdが約1Tであることより、BsfはBsdに比べて約半分である。従って、Fe基合金圧粉コアに発生する磁束で、フェライトコアが磁気飽和しないようにするためには、Fe基合金圧粉コア端面の面積をSd、I型フェライトコアの長手方向中央部の長手方向に垂直な断面の面積をSfとすると、Sf×Bsf≧Sd×Bsdの関係を満たすことが必要である。
しかし、実際の使用において、Fe基合金圧粉コアが飽和磁束密度Bsdに達するような使用はされない。つまり、Fe基合金圧粉コアの端面での発生する最大の磁束の数を、I型フェライトコアの、長手方向中央部の長手方向に垂直な断面面積で除した値が、フェライトの飽和磁束密度Bsf以下であれば良い。
Fe基合金圧粉コアの形状としては、トロイダル形状のコアを2分割することによるC型形状や、矩形のコアを2分割することによるU型(コの字)形状を採用できる。
上記コアの構造やコアの形状、コア材料の仕様については、所望とする外形、磁気特性に応じて適宜設計、選択されるものである。
【0020】
(磁気ギャップ)
一般に直流重畳特性を向上させるために、磁路の一部に磁気ギャップを設けることが行われる。本発明においては、U型またはC型のFe基合金圧粉コアの端面と接続されているフェライトコアの間に設けるのが容易であり、好ましい。磁気ギャップはポリエチレンナフタレートフィルムやポリイミドフィルムなどの有機フィルムをコアの間に挟むことにより容易に形成することができ、好ましい。
【0021】
本発明は、
平行な2面を有するI型フェライトコアと、
前記I型フェライトコアの前記2面のそれぞれの両端部分に、
2つの同形状のU型、またはC型コアの2端面が、磁気ギャップを介してそれぞれ接続されているFe基合金圧粉コアと、
前記2つのFe基合金圧粉コアに、同方向、同巻数になるように導線を巻回されたコイルと、
を備えることを特徴とするインダクタである。
また、本発明は、前記磁気ギャップは、有機フィルムで形成されていることを特徴とするインダクタである。
また、本発明は、前記インダクタは、2相インターリーブ制御方式力率改善コンバータ用であることを特徴するインダクタである。
また、本発明は、前記インダクタを用いたことを特徴とする2相インターリーブ制御方式力率改善コンバータである。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に述べる。
(実施例)
設計条件として、(1)入力電圧:AC200V、(2)入力電流:10A、(3)出力電圧:DC360V、(4)力率:0.98、(5)周波数:25kHzのPFCコンバータに搭載するものとし、15Aにおけるインダクタンス値を150μHとしてインダクタを設計、作製した。
以下にFe基合金圧粉コアの作製方法を記す。日立金属株式会社製Fe基アモルファス合金薄帯Metglas(R)2605SA1を窒素雰囲気中360℃で2時間加熱し、脆化させた後、株式会社ダルトン製のインパクトミルで粉砕する。前記粉砕粉に、無機バインダーとしてフェニルメチルシリコーンを粉砕粉質量に対して2質量%、及び有機バインダーとしてアクリル系樹脂を同様に2質量%加えて混合し、造粒する。得られた造粒粉を圧力2GPa、保持時間2秒でプレス成形し、更に、前記成形体を400℃、1時間の熱処理を行うことでFe基合金圧粉コア作製することができる。
2つの同形状のFe基合金圧粉コアは、外径40mm、内径22mm、高さ13mmのトロイダル形状を作製したのち、2分割し、C型としたものを使用した。端面(分割面)の形状は、
図1の(C)に示すように、径方向の長さが9mm、高さが13mmとなる。
前記、コイルが形成された2つのC型Fe基合金圧粉コアの全ての端面に、端面形状と同じサイズ(9mm×13mm)で0.2mm厚さのポリエチレンナフタレートフィルムを接着した。前記0.2mm厚さのポリエチレンナフタレートフィルムは磁気ギャップとして機能するものである。
2つのC型Fe基合金圧粉コアのそれぞれに、直径1.5mmのAIW線を50回巻回し、コイルを形成した。50回巻回すると、少なくとも内径側は2重(2層)に巻回される。
フェライトコアには日立金属株式会社製のMnZnフェライトML24D材を使用した。I型フェライトコアは、焼成、加工後の形状を、長さ42mm、幅15mm、高さ20mmとしたものを使用した。
前記、2つのC型Fe基合金圧粉コアのポリエチレンナフタレートフィルムの9mm×13mmの大きさの面が露出した面を、I型フェライトコアのサイズが42mm×15mmの平行な2面の両端部分に、それぞれ接着剤で接着、固定し接続した。
固定する位置は、
図1(C)に示すように、前記フェライトコア面の長手方向両端から中央側に、C型Fe基合金圧粉コアのポリエチレンナフタレートフィルムの露出面(大きさ9mm×13mm)の2面が等しい距離になるようにし、かつ、前記フェライトコア面の長手方向の中心線に前記露出面の中心が位置するように、固定、接続した。
以上によりインダクタを作製した。
【0023】
(比較例)
比較例として、外径40mm、内径22mm、高さ13mmのトロイダル形状のFe基合金圧粉コアを2つ作製した。前記2つのトロイダル形状圧粉コアのそれぞれに、直径1.5mmのAIW線を50回巻回し、コイルを形成し、2つのインダクタを作製した。
【0024】
(インダクタサイズ及び実装面積)
実施例では、I型フェライトの長手方向の長さが45mm、前記方向に対して垂直方向の長さが、60mmであり、高さが25mmであった。実装面積として、I型フェライトの長手方向を垂直にして実装するため、60mm×25mm=1500mm
2=15cm
2となった。
比較例では直径45mm、高さ25mmであった。1つのインダクタの、実装面積として、トロイダル形状の径方向を垂直にして実装するため、45mm×23mm=1035mm
2=10.35cm
2となり、2つのインダクタでは2倍の20.7cm
2となった。
以上より、実施例は比較例に比べて、約27%小さい値であった。
【0025】
(直流重畳特性)
作製したインダクタの直流重畳特性を測定した結果を
図4に示す。実施例と比較例で同等の特性であることが分かる。
【0026】
(コンバータ特性)
作製したインダクタを2相インターリーブ制御方式力率改善コンバータに搭載して、コンバータ効率を測定したところ、実施例と比較例で共に98%であり、同等であった。
【符号の説明】
【0027】
1 インダクタ
2 Fe基合金圧粉コア
3 フェライトコア
4 導線
5 コイル