(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電力分配型移相器は、高周波信号の線路長を機械的に変化させることにより、位相が変化させられた高周波信号を設計電力分配比に応じて複数の出力端子から出力している。電力分配型移相器は、例えば、フェイズドアレイアンテナの給電系に用いられる。
【0003】
そして、このような電力分配型移相器は、伝送線路と分配器と結合線路等によって構成され、一部の線路が回転可能な構成のものは、構成が簡単なため、広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1の移相器では、1番目からn番目までの出力側ストリップ導体を配置しているため、入力される高周波信号をn個以上に分配することができる。
【0004】
また、特許文献2が開示する電力分配型移相器は、第1及び第2誘電体基板を備え、第1誘電体基板には、信号出力用ストリップ導体と信号入力用固定ストリップ導体が設けられている。信号出力用ストリップ導体は円環部及び2つの出力部を有してU字型をなし、信号入力用固定ストリップ導体は、出力部と平行に延びている。
【0005】
第2誘電体基板には、可動ストリップ導体が設けられ、可動ストリップ導体は、アーム部及び線状部を有する。アーム部は、信号入力用固定ストリップ導体とピンによって回転可能に連結され、線状部は、信号出力用ストリップ導体の円環部と同一の曲率を有する。可動ストリップ導体がピンを中心として回転すると、線状部は、円環部に沿って移動する。
【0006】
信号入力用固定ストリップ導体に対し高周波信号を入力すると、可動ストリップ導体の回転角度に応じて、2つの出力部から、位相が変化させられた高周波信号が出力される。
また、線状部は、設計電力分配比に対応した幅、及び、設計周波数の波長の1/4或いはその奇数倍の長さを有する。このため、設計電力分配比にしたがって、2つの出力部の各々から高周波信号が出力される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態のアンテナ装置10を概略的に示す図である。
アンテナ装置10は、高周波回路(送信回路)12を有し、高周波回路12は、送信すべき高周波信号を生成し、電力分配型移相器(以下、単に移相器ともいう)14に向けて出力する。移相器14は、入力された高周波信号を、それぞれ適当な位相及び電力を有する複数の高周波信号に分割し、フェイズドアレイアンテナ(以下、PAアンテナともいう)16に向けて出力する。アンテナ装置10は、例えば携帯電話機の基地局用のアンテナとして用いられる。
【0019】
PAアンテナ(アンテナ部)16は、適当に配列された複数のアンテナ素子18を有し、アンテナ素子18は、入力された高周波信号を電波として放射する。本実施形態では、移相器14は、例えば、1入力5出力の電力分配型移相器であり、PAアンテナ16は、移相器14の出力数に対応して5つのアンテナ素子18を有する。なお、PAアンテナ16の各アンテナ素子18は、位相及び電力(強度)が相互に異なる電波を放射し、これによって、PAアンテナ16は、全体として特定の指向性をもって電波を放射する。
【0020】
〔電力分配型移相器〕
図2は、第1実施形態の移相器14を分解して概略的に示す斜視図である。
移相器14は、四角形形状の第1誘電体基板20を有する。第1誘電体基板20は、例えば、ガラスエポキシ及びPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等からなる群より選択される一種からなる。
【0021】
第1誘電体基板20の一方の面(図中裏面)には、全面に渡って、導電体からなる接地層22が設けられている。接地層22は、例えば、第1誘電体基板20に積層された、銅等の金属からなる箔やめっき膜によって構成される。
【0022】
〔第1導体パターン〕
第1誘電体基板20の他方の面(図中表面)には、所定形状の第1導体パターン24が設けられている。第1導体パターン24は、例えば、第1誘電体基板20の表面に積層された、銅等の金属からなる箔又はめっき膜をエッチングすることによって作製可能である。
【0023】
また、第1導体パターン24は、入出力用ストリップ線路26、第1出力用ストリップ線路28及び第2出力用ストリップ線路29を含む。
【0024】
〔入出力用ストリップ線路〕
入出力用ストリップ線路26は、第1誘電体基板20の一辺(長辺)に沿って、端から端まで真っ直ぐに延びている。入出力用ストリップ線路26は、長手方向中央に囲繞部(第1囲繞部)30を含み、囲繞部30の内周縁は、貫通孔32の壁面を構成している。貫通孔32は、第1誘電体基板20、接地層22及び入出力用ストリップ線路26を、第1誘電体基板20の厚さ方向に貫通している。
なお、囲繞部30は、平面でみて環状をなしているが、円弧形状やC字形状であってもよい。すなわち、囲繞部30は、貫通孔32の少なくとも一部を囲むような形状とすることができる。また、囲繞部30は、貫通孔32の壁面を構成せずに、貫通孔32から離間して設けることもできる。
【0025】
入出力用ストリップ線路26の一方の端部は、第1誘電体基板20に固定されたコネクタ34aに接続され、コネクタ34aを通じて、高周波回路12に接続される。一方、入出力用ストリップ線路26の他方の端部は、第1誘電体基板20に固定されたコネクタ34bに接続され、コネクタ34bを通じて、アンテナ素子18に接続される。
【0026】
ここで、入出力用ストリップ線路26のうち、囲繞部30からコネクタ34a側の部分を入力用ストリップ線路26aとも称し、囲繞部30からコネクタ34b側の部分を出力用ストリップ線路26bとも称する。そして、入力用ストリップ線路26aと出力用ストリップ線路26bとは、囲繞部30を介して同軸上に配置されている。
また、入力用ストリップ線路26a及び出力用ストリップ線路26bには、特性インピーダンスの調整のため、適当な形状の拡幅部が設けられている。ここで、特性インピーダンスとは、伝送線路に発生する電圧と電流との比である。
【0027】
〔第1出力用ストリップ線路〕
第1出力用ストリップ線路28は、貫通孔32の中心を曲率中心として円弧状に延びる円弧部(第1円弧部)36と、円弧部36の両端に一体に連なり、それぞれ入出力用ストリップ線路26と平行に延びる直線部38とを含む。つまり、直線部38は、円弧部36の両端に連なるとともに入出力用ストリップ線路26と平行に延び、円弧部36と協働して第1出力用ストリップ線路28を構成している。
円弧部36と直線部38とが繋がっている部分には、面取りが施されており、円弧部36の径方向内側の円弧と直線部38の側辺とは、面取り線39を介して繋がっている。
【0028】
直線部38の両端部は、第1誘電体基板20に固定されたコネクタ34c,34dにそれぞれ接続され、第1出力用ストリップ線路28は、コネクタ34c,34dを通じて、アンテナ素子18に接続されている。
【0029】
〔第2出力用ストリップ線路〕
第2出力用ストリップ線路29は、第1出力用ストリップ線路28と同様に、円弧部(第1外側円弧部)120及び直線部122を有する。つまり、直線部122は、円弧部120の両端に連なるとともに入出力用ストリップ線路26と平行に延び、円弧部120と協働して第2出力用ストリップ線路29を構成している。
【0030】
円弧部120の曲率中心は、貫通孔32の中心に一致し、円弧部120の曲率半径は、円弧部36よりも大である。直線部122は、直線部38と平行に延びており、直線部122の長さは、直線部38の長さよりも短い。
【0031】
また、第2出力用ストリップ線路29の両端には、コネクタ34e,34fがそれぞれ接続され、第2出力用ストリップ線路29は、コネクタ34e,34fを通じて、アンテナ素子18に接続されている。また、円弧部120の径方向内側の円弧と直線部122の側辺は、面取り線128を介してそれぞれ繋がっている。なお以下では、コネクタ34a〜34fをコネクタ34ともいう。
【0032】
〔誘電体シート〕
第1誘電体基板20には、少なくとも円弧部36及び円弧部120を覆う位置に誘電体シート40が積層される。誘電体シート40は、例えば、超高分子量ポリエチレン、PTFE、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、及び、ポリエステル等からなる群より選択される一種からなる。誘電体シート40には、第1誘電体基板20の貫通孔32に対応する位置に、連通孔42が形成されている。
【0033】
〔第2誘電体基板〕
第1誘電体基板20上には、誘電体シート40を間に挟んで、第2誘電体基板44が配置されている。第2誘電体基板44は、例えば、ガラスエポキシ、及び、PTFE等からなる群より選択される一種からなり、五角形形状を有する。
【0034】
第2誘電体基板44の頂部には、貫通孔46が設けられ、貫通孔46は、誘電体シート40の連通孔42や、第1誘電体基板20の貫通孔32と重なる位置に配置されている。
そして、貫通孔32、連通孔42、及び貫通孔46には、樹脂製の螺子48が挿通され、螺子48の先端に2つのナット50が結合される。螺子48及びナット50によって、第2誘電体基板44は、第1誘電体基板20に対し、螺子48を回転軸として相対回転可能に連結される。第1誘電体基板20に対する第2誘電体基板44の相対回転角度は、例えば、図示しないアクチュエータによって適宜調整される。第1誘電体基板20に対して第2誘電体基板44を回転させることにより、各コネクタから出力される高周波信号の位相を変化させることができる。
【0035】
〔第2導体パターン〕
第2誘電体基板44の第1誘電体基板20側の面(図中裏面)には、所定形状の第2導体パターン52が設けられている。第2導体パターン52は、例えば、第2誘電体基板44の表面に積層された、銅等の金属からなる箔又はめっき膜をエッチングすることによって作製可能である。
【0036】
図3は、第1実施形態の第1導体パターン24及び第2導体パターン52の形状を説明するための平面図である。
図3では、誘電体シート40が省略され、且つ、第2誘電体基板44が1点鎖線にて示されている。
【0037】
図3に示すように、第2導体パターン52は、五角形形状の外形形状であり、第1領域140及び第2領域142を有する。
【0038】
〔第1領域〕
第1領域140は、三角形形状(扇形形状)の外形形状を有する。第1領域140に形成された貫通孔46は、第1領域140の頂部を貫通しており、第1領域140の頂部は、貫通孔46の壁面を規定する囲繞部(第2囲繞部)54を有する。囲繞部54は、第1導体パターン24の囲繞部30と対向して配置される。
なお、囲繞部54は、平面でみて環状をなしているが、囲繞部30と同様に、貫通孔46の少なくとも一部を囲むような円弧形状やC字形状等の形状とすることができ、貫通孔46から離間して設けることもできる。
【0039】
第1領域140の外形形状は、囲繞部54の一部の外縁と、囲繞部54から径方向外側に向かって延びる2本の線分(半径線)56a,56bと、貫通孔46の中心を曲率中心とする円弧58によって主に構成されている。
【0040】
また、第1領域140の中央部分には、扇形形状の開口60が形成されており、第1領域140は、開口60を囲む閉ループによって構成されている。
より詳しくは、第1領域140は、開口60を規定する半径線62aと半径線56aの間に位置するアーム部(第1アーム部)64aと、開口60を規定する半径線62bと半径線56bの間に位置するアーム部(第2アーム部)64bと、開口60を規定する円弧66と円弧58の間に位置する円弧部(第2円弧部)68とを有する。
【0041】
アーム部64a及びアーム部64bは、径方向外側に向かうに連れて相互に離間するようにそれぞれ直線状に延び、円弧部68の両端に連なっている。
ここで、開口60の円弧66の曲率中心は、貫通孔46の中心(回転中心)に一致しており、また、円弧部36及び円弧58の曲率中心に一致している。ただし、第1領域140において、開口60の位置は、半径線62aの側に偏っている。このため、本実施形態では、径方向と直交する方向でのアーム部64aの幅がアーム部64bの幅よりも狭くなっている。例えば、アーム部64aの幅を2mmとし、アーム部64bの幅を4mmとすることができる。
【0042】
このように、アーム部64aの幅が、アーム部64bの幅と異なっているのは、アーム部64a,64bの各々の幅が、コネクタ34c,34dから出力されるべき電力の比(電力分配比)に応じて設定されるからである。
【0043】
また、径方向でみて、円弧66は円弧部36の内側に位置し、円弧58は円弧部36の外側に位置している。従って、径方向での円弧部68の幅は、円弧部36の幅よりも広い。
円弧部68の幅方向中心は、円弧部36の幅方向中心に一致しており、また、円弧部68の曲率中心は、円弧部36の曲率中心に一致しているので、第2誘電体基板44が第1誘電体基板20に対して相対回転すると、円弧部68は、円弧部36と対向しながら、円弧部36に沿って移動する。
【0044】
そして、アーム部64a,64b及び円弧部68の各々の幅方向中心での長さは、好ましくは、使用周波数に対応する波長の1/4の奇数倍に設定されるが、必ずしもこれに限定されることはない。
【0045】
〔第2領域〕
第2領域142は、略四角形形状の外形形状であり、第1領域140の径方向外側に連結されている。なお、円弧部68は、第1領域140にも第2領域142にも属する。
【0046】
第2領域142の外形形状は、円弧部68の円弧66と、円弧部68の両端から互いに平行に延びる2本の直線146a,146bと、貫通孔46の中心を曲率中心とする円弧148とによって主に構成されている。
【0047】
また、第2領域142には、略四角形形状の開口152が形成されており、第2領域142は、開口152を囲む閉ループによって構成されている。
より詳しくは、第2領域142は、開口152を規定する直線154aと直線146aの間に位置するアーム部(第1外側アーム部)158aと、開口152を規定する直線154bと直線146bの間に位置するアーム部(第2外側アーム部)158bと、開口152を規定する円弧58と円弧66の間に位置する円弧部68と、開口152を規定する円弧156と円弧148の間に位置する円弧部(第2外側円弧部)160とを有する。
【0048】
アーム部158a及びアーム部158bは、それぞれ円弧部68と円弧部160との間を、互いに平行に直線状に延びている。
ここで、開口152の円弧156の曲率中心は、貫通孔46の中心に一致しており、また、円弧部120及び円弧148の曲率中心に一致している。第2領域142において、開口152の位置は、直線154aの側にも直線154bの側にも偏っていない。このため、本実施形態では、アーム部158aの幅とアーム部158bの幅とは同じである。例えば、アーム部158aの幅を5mmとし、アーム部158bの幅を5mmとすることができる。
【0049】
また、径方向でみて、円弧156は円弧部120の内側に位置し、円弧148は円弧部120の外側に位置している。従って、径方向に沿う方向での円弧部160の幅は、円弧部120の幅よりも広い。
円弧部160の幅方向中心は、円弧部120の幅方向中心に一致しており、また、円弧部160の曲率中心は、円弧部120の曲率中心に一致しているので、第2誘電体基板44が第1誘電体基板20に対して相対回転すると、円弧部160は、円弧部120と対向しながら、円弧部120に沿って移動する。
【0050】
ここで、アーム部(第1アーム部)64a及びアーム部(第1外側アーム部)158aにより構成されるアーム部を第1アーム群とし、アーム部(第2アーム部)64b及びアーム部(第2外側アーム部)158bにより構成されるアーム部を第2アーム群とする。
本実施形態では、アーム部158aとアーム部158bとの幅が同一であるため、アーム部158aとアーム部158bとの特性インピーダンスは同一である。一方、アーム部64aの幅はアーム部64bの幅よりも狭くなっているため、アーム部64aとアーム部64bとの特性インピーダンスは異なる。したがって、結果として第1アーム群と第2アーム群とは、特性インピーダンスが異なっている。
【0051】
次に、高周波信号の伝わり方について説明する。
高周波回路12からコネクタ34aに高周波信号が入力されると、高周波信号は、入力用ストリップ線路26aを経由して、囲繞部30や囲繞部54等により構成される回転中心に達する。そして、回転中心を構成する囲繞部30から、高周波信号の一部が出力用ストリップ線路26bを経由してコネクタ34bに達する。コネクタ34bに達する高周波信号は位相が変化しない。ただし、出力用ストリップ線路26bには、適当な形状の拡幅部が設けられているため、特性インピーダンスが調整されており、コネクタ34bに分配される電力を変化させることができる。
【0052】
また、回転中心を構成する囲繞部54に達した高周波信号の一部は、アーム部64a,64bを経由し、結合線路を構成する円弧部68を経由し、第1出力用ストリップ線路28を経由してコネクタ34c,34dに達する。このとき、高周波信号は、アーム部64a,64bと円弧部68とを周回して伝わるため、入力ポートに該当するコネクタ34aに反射してリターンロスが劣化することを低減させることができる。そして、高周波信号の一部は、コネクタ34c,34dから出力される。本実施形態では、アーム部64aとアーム部64bとの幅を異ならせているため、両者の特性インピーダンスが異なり、結果としてコネクタ34cとコネクタ34dとに分配される電力を異ならせることができる。
【0053】
回転中心を構成する囲繞部54からアーム部64aを経由してきた高周波信号の一部は、アーム部158aを経由し、第2出力用ストリップ線路29を経由してコネクタ34eに達することもあれば、アーム部158aを経由し、さらに結合線路を構成する円弧部160を経由し、第2出力用ストリップ線路29を経由してコネクタ34fに達することもある。
【0054】
また、回転中心を構成する囲繞部54からアーム部64bを経由してきた高周波信号の一部は、アーム部158bを経由し、第2出力用ストリップ線路29を経由してコネクタ34fに達することもあれば、アーム部158bを経由し、さらに結合線路を構成する円弧部160を経由し、第2出力用ストリップ線路29を経由してコネクタ34eに達することもある。
【0055】
このように、高周波信号は、アーム部158a,158bと円弧部160とを周回して伝わることがあるため、入力ポートに該当するコネクタ34aに反射してリターンロスが劣化することを低減させることができる。そして、高周波信号の一部は、コネクタ34e,34fから出力されることになる。本実施形態では、アーム部64aとアーム部64bとの幅を異ならせているため、両者の特性インピーダンスが異なり、コネクタ34eとコネクタ34fとに分配される電力を異ならせることができる。このため、アーム部158aとアーム部158bとの幅を異ならせなくても、コネクタ34eとコネクタ34fとに分配される電力を異ならせることができる。
【0056】
このように、第1実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)移相器14では、2つのアーム部64a,64bの幅を相互に異ならせているため、所望の電力分配比が達成される。より詳細には、コネクタ34cとコネクタ34dとに分配される電力を異ならせることができる。また、コネクタ34eとコネクタ34fとに分配される電力も異ならせることができる。その結果、PAアンテナ16のサイドローブ抑制など指向性をきめ細かく設計(設定)することができ、セルラー通信において隣接セクタとの干渉を抑えることができる。
【0057】
(2)移相器14では、第2導体パターン52が閉ループによって構成されているため、リターンロスが低減される。すなわち、リターンロスを悪化させることなく、所望の電力分配比に合わせることができる。
【0058】
ここで、リターンロスとは、反射損失のことである。例えば、本実施形態の移相器14には、コネクタ34aを介して高周波信号が供給されることになるが、コネクタ34aは一種の接続点となる。この場合、第1導体パターン24や第2導体パターン52、コネクタ34a等は、当然にインピーダンスのマッチングがなされているものである。しかし、厳密にはコネクタ34a等といった接続点はインピーダンスの値が変化することになるため、これらの接続点はインピーダンスの不連続点となる。そして、リターンロスを低減させるためには、このような不連続点をなるべく最小限に抑える必要がある。この点、本実施形態の移相器14では、第2導体パターン52の一部が閉ループによって構成されているため、インピーダンスの不連続点を最小のものとし、リターンロスを低減させることができる。
【0059】
(3)移相器14では、第1導体パターン24の円弧部36と直線部38との交差部分が面取りされているため、より一層、リターンロスの低減が図られている。
【0060】
〔第2実施形態〕
図4は、第2実施形態の第2導体パターン52−2の形状を説明するための平面図である。なお、以下の説明では、上述した第1実施形態と共通する事項については、同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
【0061】
先に説明した第1実施形態では、第1領域140に関して、アーム部64aの幅とアーム部64bの幅とを異ならせる例で説明したが、第2実施形態では、アーム部74aの幅とアーム部74bの幅とを異ならせていない。例えば、アーム部74aの幅を4mmとし、アーム部74bの幅を4mmとすることができる。
その代わり、第2領域142に関して、アーム部178aの幅とアーム部178bの幅とを異ならせている。例えば、アーム部178aの幅を2.5mmとし、アーム部178bの幅を5mmとすることができる。
【0062】
ここで、アーム部(第1アーム部)74a及びアーム部(第1外側アーム部)178aにより構成されるアーム部を第1アーム群とし、アーム部(第2アーム部)74b及びアーム部(第2外側アーム部)178bにより構成されるアーム部を第2アーム群とする。
本実施形態では、アーム部74aとアーム部74bとの幅が同一であるため、アーム部74aとアーム部74bとの特性インピーダンスは同一である。一方、アーム部178aの幅はアーム部178bの幅よりも狭くなっているため、アーム部178aとアーム部178bとの特性インピーダンスは異なる。したがって、結果として第1アーム群と第2アーム群とは、特性インピーダンスが異なっている。
【0063】
この場合、アーム部74aの幅とアーム部74bの幅とは同一であるが、コネクタ34cから出力される高周波信号の電力の値と、コネクタ34dから出力される高周波信号の電力の値は異なる値となる。また、アーム部178aの幅とアーム部178bの幅とを異ならせているため、コネクタ34eから出力される高周波信号の電力の値と、コネクタ34fから出力される高周波信号の電力の値は異なる値となる。コネクタ34cから出力される高周波信号の電力の値と、コネクタ34dから出力される高周波信号の電力の値が異なる値となる理由は、円弧部68を含む1段目の部分から、円弧部160を含む2段目の部分に流れる電力が異なるためであり、電力は各アーム部や各円弧部等を周回しながら伝達されていくためである。
【0064】
このように、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に、2つのアーム部178a,178bの幅を相互に異ならせているため、所望の電力分配比が達成される。すなわち、アーム部74aの幅とアーム部74bの幅とを異ならせなくても、コネクタ34eから出力される高周波信号の電力の値と、コネクタ34fから出力される高周波信号の電力の値とを異ならせることができる。また、第2導体パターン52−2が閉ループによって構成されているため、リターンロスが低減される。
【0065】
しかも、本実施形態では、コネクタ34cから出力される高周波信号の電力の値と、コネクタ34dから出力される高周波信号の電力の値は同一の値とし、コネクタ34eから出力される高周波信号の電力の値と、コネクタ34fから出力される高周波信号の電力の値は異なる値とすることができる。このため、一部の出力電力は同一としつつ、他の出力電力は異なる値とすることができ、所望の設計や仕様に従った電力分配比を実現することができる。
【0066】
本発明は、上述した一実施形態に制約されることなく、各種の変形や置換を伴って実施することができる。
【0067】
第1実施形態では、第2導体パターン52の閉ループの外形形状は、好ましい態様として五角形形状の外形形状により構成する例で説明したが、他の形状により構成されていてもよい。すなわち、アーム部64a,64bは、径方向に真っ直ぐに延びていたが、折れ曲がっていても、径方向に対して傾いていてもよい。
【0068】
また、移相器14は、出力用ストリップ線路28,29の数が2本であり、これに対応して、第2導体パターン52が2つの領域140,142によって構成されていたが、出力用ストリップ線路の数は2本以上であればよく、これに対応して、第2導体パターンを構成する領域の数を設定することができる。例えば、出力用ストリップ線路の数が3本であれば、第2導体パターン52は、第1領域140及び第2領域142に加えて第3領域を有する形態、すなわち3つの閉ループを有する形態によって構成させることができる。この場合、第3領域は、第2領域及び第3領域における第2外側円弧部の一方の端部同士の間に延びる第1外側アーム部と、第2領域及び第3領域における第2外側円弧部の他方の端部同士の間に延びる第2外側アーム部とを含むことになる。
【0069】
さらに、移相器14では、第1導体パターン24と第2導体パターン52との間に誘電体シート40が配置されていたが、第1導体パターン24と第2導体パターン52との間に誘電層が設けられていればよい。誘電層は、設計によっては、空気からなる層であってもよい。
【0070】
移相器14は、1入力5出力の5分配を実現する電力分配型移相器の例で説明したが、他の分配数を実現する電力分配型移相器であってもよい。
【0071】
上述した実施形態では、アーム部の幅を異ならせることにより、特性インピーダンスを異ならせる例で説明したが、アーム部の幅を同一とし、例えばアーム部の接地層(グラウンド面)からの高さを異ならせることにより特性インピーダンスを異ならせてもよい。
アーム部の接地層からの高さを異ならせる方法としては様々な方法が挙げられるが、例えばアーム部(第1アーム部)64aと、アーム部(第2アーム部)64bとを非同一平面上に配置したり、2つのアーム部の高さ方向の厚みを異ならせたりする方法を挙げることができる。
【0072】
上述した実施形態では、第2導体パターン52や第2導体パターン52−2は、第2誘電体基板44の下面側(裏面側)に配置する例で説明したが、第2誘電体基板44の上面側(表面側)に配置してもよい。
【0073】
最後に、本発明の電力分配型移相器は、フェイズドアレイアンテナとともに用いることによって、アンテナ装置に好適に用いることができるが、他の装置やシステムにも適用可能であるのは勿論である。