【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例を
図3から
図14を参照して説明する。
[熱衝撃試験用試料]
熱衝撃試験のために、熱衝撃試験用試料1、熱衝撃試験用試料2及び熱衝撃試験用比較試料を用意した。
【0033】
熱衝撃試験用試料1において、半導体装置用接合材130として純亜鉛(純度99.99wt%、縦4mm、横4mm、厚さ0.2mm)を用いた。絶縁層111として、Si
3N
4層(縦15mm、横15mm、厚さ0.5mm)を用いた。基板100の片面(第2Cu層113(縦13mm、横13mm、厚さ0.5mm))側に第1保護層142としてAu層(縦13mm、横13mm、厚さ200nm)を、第1バリア層141としてTiN層(縦13mm、横13mm、厚さ800nm)を用いた。Au層は半導体装置用接合材130側に積層され、TiN層は第2Cu層113側に積層されている。半導体部材120の片面(縦3mm、横3mm、厚さ1mm)側に第2保護層152としてAu層(縦3mm、横3mm、厚さ200nm)を、第2バリア層151としてTiN層(縦3mm、横3mm、厚さ800nm)を用いた。Au層は半導体装置用接合材130側に積層され、TiN層は半導体部材120側に積層されている。
【0034】
熱衝撃試験用試料2は、熱衝撃試験用試料1の各層のうち、第1コート層140以外の層を含む。熱衝撃試験用比較試料は、半導体装置用接合材としてPb−5Sn(融点は315℃)を用いる点以外は、熱衝撃試験用試料1と同様の構成である。
【0035】
第1Cu層の表面を研磨し、第1コート層を蒸着することにより、熱衝撃試験用試料1及び熱衝撃試験用比較試料を作製した。熱衝撃試験用試料1、熱衝撃試験用試料2及び熱衝撃試験用比較試料において、赤外線炉(Ar雰囲気、450℃×60s(融点420℃以上、100s))で半導体装置用接合材を溶融した。
【0036】
[熱衝撃試験]
熱衝撃試験用試料1、熱衝撃試験用試料2及び熱衝撃試験用比較試料の各々に対し、大気中、−50℃と300℃との間の温度サイクル(0〜500回)を実施した。各回において、30min保持した。
【0037】
図3は、熱衝撃試験後の熱衝撃試験用試料1の断面の写真を示す図である。熱衝撃試験後の熱衝撃試験用試料1は、SiC層(半導体部材120)、TiN層(第2バリア層151)、Zn層(半導体装置用接合材130)及びCu層(第2Cu層113)を含む。半導体部材120と半導体装置用接合材130との接合面及び基板110と半導体装置用接合材130との接合面の各々は完全に濡れ、ボイドを見つけることができなかった。Zn層(半導体装置用接合材130)内部では、AuZn化合物が確認されたが、微量であり定量が困難であった((18−22at%)Au−(78−82at%)Zn)。熱衝撃試験後の熱衝撃試験用試料1を外観観察及び低倍率観察しても、大きな接合欠陥(亀裂、界面剥離等)は確認されず、半導体部材120と半導体装置用接合材130及び基板110と半導体装置用接合材130は良好に接合していた。半導体部材120と半導体装置用接合材130との接合面における界面及び基板110と半導体装置用接合材130との接合面における界面では、TiN層(第2バリア層151)のみ形成されていた。
【0038】
図4は、熱衝撃試験後の熱衝撃試験用試料2の断面の写真を示す図である。熱衝撃試験後の熱衝撃試験用試料2は、SiC層(半導体部材120)、TiN層(第2バリア層151)、Zn層(半導体装置用接合材130)、CuZn
5層、Cu
5Zn
8層及びCu層(第2Cu層113)を含む。Zn層(半導体装置用接合材130)とCu層(第2Cu層113)との界面では、Zn層(半導体装置用接合材130)とCu層(第2Cu層113)とが反応し、CuZn
5層、Cu
5Zn
8層が形成された。Cu
5Zn
8層部分から亀裂が発生しているが、Zn層(半導体装置用接合材130)内部には伝播していない。熱衝撃試験後の熱衝撃試験用試料2を外観観察及び低倍率観察しても、大きな接合欠陥(亀裂等)は確認されず、半導体部材120と半導体装置用接合材130及び基板110と半導体装置用接合材130は良好に接合していた。半導体部材120とZn層(半導体装置用接合材130)との接合面における界面では、TiN層(第2バリア層151)のみ形成されていた。
【0039】
図5は、熱衝撃試験後の熱衝撃試験用比較試料の断面の写真を示す図である。熱衝撃試験後の熱衝撃試験用比較試料は、SiC層、TiN層、Pb−5Sn層(半導体装置用接合材)及びCu層を含む。Pb−5Sn層(半導体装置用接合材)内部に亀裂が発生している。
【0040】
[せん断試験用試料]
図6は、せん断試験用試料の構成及びせん断試験結果を説明する図である。
図6(a)は、せん断試験用試料の構成を示す模式図である。せん断試験のために、せん断試験用試料1、せん断試験用試料2及びせん断試験用比較試料を用意した。せん断試験用試料1、及びせん断試験用比較試料の各々は、下から第1Cu層213(縦7mm、横11mm、厚さ0.8mm)、第1コート層240(Au層242の厚さ200nm、TiN層241の厚さ800nm)、半導体装置用接合材層230(縦4mm、横4mm、厚さ0.2mm)、第2コート層250(Au層252の厚さ200nm、TiN層251の厚さ800nm)、第2Cu層220(縦4mm、横4mm、厚さ0.8mm)を含む。せん断試験用試料2は、せん断試験用試料1の各層のうち、第1コート層240以外の層を含む。せん断試験用試料1及びせん断試験用試料2の半導体装置用接合材は、純亜鉛(純度99.99wt%)であり、せん断試験用比較試料の半導体装置用接合材は、Pb−5Snである。
【0041】
せん断試験用試料1、せん断試験用試料2及びせん断試験用比較試料の各々に対して、大気中、−50℃と300℃との間の温度サイクル(0〜500回)を実施している。各回において、30min保持した。温度サイクルが0回目、250回目及び500回目の各々において、ヘッドによる衝撃を与えた。試験高さ(ヘッドの位置)は、第1コート層240の上面から0.1mmの部分、試験速度(ヘッドスピード)は50μm/sである。せん断力を付与する部分を
図6(a)において矢印で示す(半導体装置用接合材層230の部分)。
【0042】
[せん断試験結果]
図6(b)は、せん断試験用試料1、せん断試験用試料2及びせん断試験用比較試料に対するせん断試験結果を示すグラフである。縦軸はせん断強度(MPa)を示し、横軸は温度サイクル数(回)を示す。
【0043】
せん断試験用試料1では、サイクル数が500回目であっても、極めて微細な亀裂が生じる以外は微細組織に変化がなく、初期強度が維持される信頼性の高いダイアタッチ接合を得ることができた。せん断試験用試料2では、金属間化合物層(Cu
5Zn
8層)で亀裂が生じるが、接合部分(半導体装置用接合材内部)には亀裂は伝播しないため、初期強度が維持される信頼性の高いダイアタッチ接合を得ることができた。
【0044】
せん断試験用試料1は約36〜39MPaのせん断強度を示し、せん断試験用比較試料のせん断強度の約3.5倍であった。
【0045】
このように、本発明の半導体装置100及び半導体装置用接合材130によれば、融点が420℃である亜鉛を主成分とする半導体装置用接合材を用いるため、300℃までの温度サイクルに耐え得る耐熱疲労に優れた次世代パワー半導体装置を得ることができる。
【0046】
[不純物元素の添加による特性の変化]
不純物元素の添加による特性の変化を調べるために試料1〜5を用意した。試料1として、不純物元素を添加しない市販の亜鉛を用意した。この亜鉛の純度は99.99wt%であった。このような亜鉛は4Nと表される。ここでは、試料1における不純物元素の添加を行わない亜鉛を純亜鉛と呼ぶことがある。
【0047】
試料2〜5として、上述の亜鉛に不純物元素Ca、Mn、Ti、Crがそれぞれ0.1質量パーセント(0.1wt%)となるように添加した4つの添加物を用意した。試料2〜5には、それぞれ、Ca、Mn、TiおよびCrが添加されている。
【0048】
具体的には、不純物を添加した亜鉛をアーク炉においてAr雰囲気において融解し、その後、ひっくり返した。溶解およびひっくり返しを交互に3回行い、不純物元素を含む亜鉛合金を試料2〜5として作製した。
【0049】
次に、試料1〜5を引張試験用の試験片に加工した。
図7に、試験片の模式図を示す。具体的には、試料1〜5をそれぞれ鋳造し、それぞれの厚さが10〜13mmから1.3mmになるまで圧延し、その後、放電加工を行った。このようにして、試料1〜5から試験片1〜5をそれぞれ形成した。
【0050】
次に、試験片1〜5のそれぞれの厚さが1.2mmになるように研磨を行い、180℃で3時間の熱処理を行い、残留応力を除去した。その後、アルミナ研磨剤で試験片1〜5のそれぞれの研磨を行った。研磨では、アルミナ研磨剤の粒径を徐々に小さくしていき、最終的に粒径0.3μmの研磨剤を用いた。
【0051】
以上のようにして試験片1〜5をそれぞれ10個用意し、引張試験を行った。伸長速度は7×10
−4mm/秒であった。なお、引張試験において標点距離以外の部分において破断した試験片の結果を無視し、また、残りの試験片の測定結果のうちの最大値および最小値を除外した6個ずつの平均を算出した。
【0052】
図8に、引張試験の結果を示す。
図8(a)は、公称ひずみ(Nominal Strain)に対する公称応力(Nominal Stress)を示し、
図8(b)に、試験片1〜5の最大引張強さ(Ultimate Tensile Stress:UTS)を示す。
図8(a)および
図8(b)では、試験片1〜5の結果をそれぞれ、Zn、0.1Ca、0.1Mn、0.1Cr、0.1Tiと示している。Ca、Mn、CrおよびTiの添加により、弾性域が拡大したとともにヤング率が増大した。特に、Tiの添加により、ヤング率は著しく増大した。
【0053】
図9(a)に、試験片1〜5のそれぞれの伸び率(Elongation)の結果を示す。試験片1の伸び率は5.0%と比較的低かったのに対して、不純物元素の添加された試験片2〜4の伸び率は20%以上を示した。このように、不純物元素の添加により、伸び率が増大することが分かった。
【0054】
図9(b)に、0.2%耐力(proof strength)の結果を示す。Ca、Mn、Tiの添加された試料2、3、5の耐力は試料1と比べて高かったが、Crの添加された試料4の耐力は試料1とほぼ同程度であった。試料4のように、試料2、3、5と比べて耐力の低い材料で半導体装置用接合材を形成することにより、半導体装置が衝撃を受けた場合の半導体部材へのダメージを吸収することができる。
【0055】
図10に、各試料1〜5の拡大像を示す。
図10(a)〜
図10(e)は、それぞれ、試料1〜5の像である。試料1における亜鉛の結晶粒は比較的大きかったが、不純物元素の添加により、亜鉛の結晶の粒径が小さくなった。特に、CrおよびTiの添加された試料4、5では亜鉛の結晶の粒径がかなり小さくなった。
【0056】
図11(a)および
図11(b)にTiの添加された試料5および試料1のそれぞれの初期組織における破断面の拡大像を示す。試料5には金属間化合物と考えられるところがある。試料5に対してエネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:EDS)を行ったところ、ZnおよびTiの質量%(wt%)は99.43、0.57であり、原子数%(at%)は99.23、0.77であった。
【0057】
また、試料1〜5の酸化速度を熱重量分析(Thermogravimetry Analysis:TGA)で測定した。ここでは、大気中400℃で酸化を行った。
図12に、試料1〜5の酸化時間に対する重量増加量(weight gain)の結果を示す。酸化時間に対する試料1の重量増加量は比較的大きかったのに対して、不純物元素の添加により、酸化時間に対する試料2〜5の重量増加量は比較的小さくなった。特に、Crの添加により、重量増加量はかなり小さくなった。このように、不純物元素の添加(特に、Crの添加)により、亜鉛を主成分とする試料の酸化を抑制することができた。
【0058】
以上から、不純物元素の添加により、亜鉛の結晶が微細化し、これにともない、強度および伸び率が向上したと考えられる。
【0059】
[亜鉛の純度による特性の変化]
純度の異なる亜鉛を用いてその特性の比較を行った。ここでは、純度99.99wt%(4N)の亜鉛と、純度99.9999wt%の亜鉛とを比較した。なお、純度99.99wt%の亜鉛(4N)の特性は
図8および
図9を参照して上述した結果と同様である。ここでは、試料6として純度99.9999wt%の亜鉛を用意した。このような亜鉛は6Nと表される。試料6を厚さが10〜13mmから1.3mmになるまで圧延した後、
図7に示した形状となるように放電加工を行った。このようにして、試料6から試験片6を形成した。
【0060】
次に、試験片6のそれぞれの厚さが1.2mmになるように研磨を行い、180℃で3時間の熱処理を行い、残留応力を除去した。その後、アルミナ研磨剤で試験片6の研磨を行った。研磨では、アルミナ研磨剤の粒径を徐々に小さくしていき、最終的に粒径0.3μmの研磨剤を用いた。以上のようにして試験片6を3個用意し、引張試験を行った。伸長速度は7×10
−4mm/秒であった。
【0061】
図13に、引張試験の結果を示す。
図13(a)は、公称ひずみ(Nominal Strain)に対する公称応力(Nominal Stress)を示し、
図13(b)に、試験片1、6の最大引張強さ(Ultimate Tensile Stress:UTS)を示す。
図13(a)および
図13(b)では、試験片1、6の結果をそれぞれ、4NZn、6NZnと示している。亜鉛の高純度化に伴って弾性域が拡大した。
【0062】
図14(a)に、試験片1、6のそれぞれの伸び率(Elongation)の結果を示す。試験片1の伸び率は5.0%と比較的低かったのに対して、試験片6の伸び率は8%以上であった。このように、亜鉛の高純度化に伴って伸び率が向上した。
【0063】
図14(b)に、0.2%耐力(proof strength)の結果を示す。亜鉛の高純度化に伴って耐力が低減した。このように耐力の比較的低い材料で半導体装置用接合材を形成することにより、半導体装置が衝撃を受けた場合の半導体部材へのダメージを好適に吸収することができる。