【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明の思想は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
成膜中にZnO系膜に通電しジュール加熱するため、成膜操作前に、
図1に示すようにガラス基板表面の両端にPtの金属膜電極を形成した。
図1中、符号1は、ガラス基板を示し、符号2、2’のそれぞれは、金属膜電極を示す。電極2−2’間の距離は1cmとした。
【0032】
次いで、ドーパントとして酸化ガリウム(Ga
2O
3)を5wt%添加したZnO原料粉末を加圧成形し、GaドープZnO焼結体のターゲットを作製した。
【0033】
次いで、
図2に示すレーザーアブレーション装置100を用い、前記ターゲットを試料としたGaドープZnO薄膜を形成した。
ここで、レーザーアブレーション装置100は、KrFエキシマレーザー15から設定繰り返し周波数で出射されるパルスレーザー光をマスク16、アッテネータ17、集光レンズ18を介して真空チャンバ12内に配置されたターゲット10に導き、該レーザー光の照射によりターゲット10から生成されるレーザーアブレーションプルーム19をガラス基板1の表面に照射するように構成されている。
ガラス基板1に形成される金属膜電極2、2’は、ソースメジャーユニット20に接続され、トリガー21の操作により、ガラス基板1の表面に堆積されるZnO系膜11に対して、直流電流を通電可能とされている。また、通電によるジュール加熱時のZnO系膜11の温度は、真空チャンバ12に配設されたBaF
2窓22を介して、赤外線放射式センサ23で測定可能とされる。金属膜電極2、2’に供給される直流電流は、赤外線放射式センサ23に表示される温度と、ソースメジャーユニット20に表示される電流値とをモニタリングしながら、適宜調整することができる。
なお、真空チャンバ12内では、真空ポンプ13により圧力調整されるとともに、酸素ガス14の導入により、ターゲット10周囲のガス雰囲気を適宜調整することができる。
【0034】
このレーザーアブレーション装置100を用いて、真空チャンバ12内にGaドープZnO焼結体のターゲット10を配置後、KrFエキシマレーザー15からナノ秒レーザーパルスをターゲット10の表面に集光照射し、レーザーアブレーションプルーム19を生成させた。
レーザーフルエンスを1Jcm
−2とし、真空チャンバ12内の圧力を4×10
−4Pa以下に排気後、酸素ガス14を微量導入し、真空チャンバ12内を1Paの酸素雰囲気下とした。生成したアブレーションプルーム19を、ターゲット10から50mmの位置に対向配置したガラス基板1の表面に10Hz、45分間照射することで、GaドープZnO薄膜を堆積させた。
成膜中の膜への通電によるジュール加熱のため、成膜開始後ただちに、金属膜電極2−2’間に一定の直流電圧を印加し、電流値も同時モニタリングした。印加電場は、30V/cm及び60V/cmとした。電流値が使用電源の許容電流値域を超えないように、30V/cmの場合は、成膜終了後までの電圧印加とし、60V/cmの場合は、成膜開始後7.5分(膜厚約100nm)までの電圧印加とし、その後は電圧印加を行わず成膜を続けた。
これにより、実施例1における透明導電膜を製造した。なお、比較用として、GaドープZnO薄膜の堆積後、電場印加を行わない(0V/cm)膜も製造した。
【0035】
<測定・評価>
実施例1における透明導電膜の膜厚方向の結晶性を薄膜X線回折装置(Rigaku、Ultima IV/PSK、λ=0.154056nm)を用いて薄膜X線回折測定により評価した。その結果を
図3に示す。
図3に示すように、電場印加の無い(0V/cm;電圧0V)膜からもZnO(100)と(002)に帰属されるX線回折ピークが観察され、室温でのZnOの多結晶化が確認された。一方、30V/cm、60V/cmの電場印加(印加電圧;30V、60V)により膜自体をジュール加熱した場合、ZnO(002)及び(103)に帰属される二つの回折ピークが現れ、特に主ピークであるZnO(002)強度は大幅に増大した。よって、ジュール加熱成膜によるZnO多結晶の結晶成長の促進が確認された。
【0036】
実施例1における透明導電膜の面内方向における結晶の平均粒子径を以下のように測定した。即ち、集束イオンビーム(FIB;Focused Ion Beam)装置(Hitachi High−Technologies、FB−2100)を用いて試料膜の一部を表面から除去加工を行い、得られた膜断面を前記FIB装置付属の走査イオン顕微鏡(SIM;Scanning Ion Microscopy)を利用した45度観察により、測定を行った。
図4にその結果を示す。
なお、GaドープZnO膜上のPt層及びアモルファスタングステン(W)層のそれぞれは、観察時にZnO膜がガラス基板により帯電するのを防止するため堆積させたものである。
図4(a)は、ジュール加熱により成膜した場合(印加電場60V/cm)の試料断面を示し、
図4(b)は、電場印加を行わない場合の試料断面を示している。
前者(a)では、膜表面と垂直方向に成長した柱状結晶が明瞭に観察されたのに対し、後者(b)では、より小さい微結晶の点在が観察されるにとどまった。
各々のSIMイメージの任意10箇所の粒径から求めた膜の面内方向における結晶の平均粒子径は、前者(a)で約57nm、後者(b)で約21nmであり、ジュール加熱による成膜に基づき、ZnO多結晶の粒成長効果が認められた。
【0037】
実施例1における透明導電膜の光学特性を紫外可視近赤外分光光度計(Shimadzu、UV−3100)を用いて測定した。
得られた膜は、全て優れた可視光透過性を示し、可視域では平均透過率85%以上であった。よって、ジュール加熱により成膜された膜についても、高い可視光透過性を維持することができている。
【0038】
実施例1における透明導電膜の電気特性をホール効果測定装置(Toyo、ResiTest8300)を用いて、Van der Pauw法により測定した。
その結果、電場印加を行わない場合の抵抗率は、5.2×10
−4Ω・cmであり、60V/cmの電場を印加してジュール加熱した場合の抵抗率は、2.8×10
−4Ω・cmであり、電場印加がない場合に比べ、約半分に低抵抗化することができた。
この低抵抗化は、電場印加がない場合に比べ、電場を印加してジュール加熱を行った場合のキャリア移動度が、5.7cm
2・V
−1・s
−1から15.5cm
2・V
−1・s
−1と3倍近くに向上したことによる。
【0039】
(実施例)
実施例1の透明導電膜の製造において、印加する電場条件を20V/cm及び60V/cmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2における透明導電膜を製造した。なお、比較用として、GaドープZnO薄膜の堆積後、電場印加を行わない(0V)膜も製造した。
【0040】
この実験においては、ジュール加熱による膜の温度変化を非接触で計測するため、波長8μm〜14μmに感度を有する赤外線放射式温度センサ23を用い、この感度波長域にて高透過率を示すフッ化バリウムBaF
2窓22を通して、膜表面の温度を測定することとした。その結果を
図5に示す。
図5(a)は、印加電場が20V/cmの場合の特性を示し、
図5(b)は、印加電場が60V/cmの場合の特性を示している。ZnO系膜11内を流れる電流値は、成膜時間、即ち膜厚とともに増加しており、膜温度も上昇する結果、
図5(a)に示す系では、膜温度の最高が約465℃に達し、
図5(b)に示す系では、膜温度の最高が約485℃に達した。
この結果から、本実験における電場印加によるZnO結晶化の駆動力が、基板1表面の電界の存在ではなく、膜中を流れる電流によるジュール加熱であることわかる。なお、電場を印加しない場合(即ち、印加電圧0Vの場合)、膜温度の上昇は観測されない。また、
図5(b)における挿入図に示すが、成膜開始後タイムラグをおいて、電流値が検出され始める。これは、膜が不連続から連続膜に変化する時間に相当する。