(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記モリブデン化合物を含む第2水溶液を乾燥させることにより酸化モリブデン粉末を調製する工程として、樹脂容器に第2水溶液を投入した後に、温度50℃以上100℃以下で乾燥させる工程を用いることを特徴とする請求項1記載の高純度モリブデン粉末の製造方法。
前記モリブデン化合物を含む第2水溶液を乾燥させることにより酸化モリブデン粉末を調製する工程として、第2水溶液を回転板上に噴射して微細な液滴とし、モリブデン化合物を含む液滴が回転板からはじかれていて落下する途中において、スプレードライヤーにより乾燥させる工程を用いることを特徴とする請求項1記載の高純度モリブデン粉末の製造方法。
前記内壁をモリブデンで覆った容器が、純度が99.99%以上であるモリブデンボートに、純度が99.99%以上であるモリブデンを内装材とした蓋部材を載せて構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の高純度モリブデン粉末の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来から種々の精製方法を利用して高純度の金属粉末が製造されている。しかしながら、製造直後の金属粒子材料を観察すると、微細な1次粒子のみから成るものではなく、金属粒子同士が相互に付着凝集して粗大化した2次粒子の割合が多く、単一の金属成分から成る製品であっても製品部位によって特性が異なるという不具合も多かった。
【0003】
高純度モリブデン粉末は、溶解や焼結処理することによってスパッタリングターゲットの原材料として使用される用途も多い。半導体の微細回路等の配線膜を形成するためのスパッタリングターゲットに使用される原料粉末に関しては、その不純物管理が厳格化されており、純度が99.99%(4N)から99.999%(5N)程度の高純度Mo粉末を原料とする必要がある。
【0004】
その一方でスパッタリングターゲットは、単に純度が高いだけでなく、結晶粒径が微細であり、結晶方位も均一なものが求められている。このような均一組織を有するターゲットを溶解法で製造すると、原料粉末は一旦溶解されてしまうため、1次粒子や2次粒子の存在は、ある程度までは無視できるので、原料粉中における粒径のばらつき(不均一性)の影響は少ない。しかしながら、溶解法を実施するためには、大掛かりな溶解炉が必要であり、設備の初期投資が膨大になる欠点がある。
【0005】
一方、焼結法を実施するためには、小規模な焼成炉のみで足りるので、製造設備の初期投資が溶解法よりも少なくて済むので経済的な利点がある。しかしながら、得られるターゲットの組織を均一化するには複数回の熱処理を繰り返して実施する必要があり製造コストが上昇し生産効率も大幅に低下する問題があった。
【0006】
本発明者は上記金属組織の均一化を阻害する要因(つまり不均一の原因)を追及したところ、原料粉末の2次粒子の割合の多少に大きく影響を受けることが判明した。2次粒子は1次粒子が数個、場合によっては数十個も相互に付着凝集して粗大な1つの粒子となったものである。原料粉末中に2次粒子の割合が多いと焼結した時に2次粒子が固化した部分と1次粒子が固化した部分とで組織の不均一さを生じることとなり、ターゲットとしての組織の不均一さをもたらす大きな原因となっていた。
【0007】
このような製品組織の不均一さの問題はスパッタリングターゲットに限らず、高温環境下で焼成治具として使用されるモリブデンボートや焼成容器として使用されるるつぼ等でも生起している。
【0008】
従来の高純度モリブデン粉末の製造方法としては、特公平6−10317号公報(特許文献1)に開示されているように、モリブデン原料粉末を過酸化水素水で分解する工程と、得られた水溶液を陽イオン交換樹脂で処理する工程と、処理した水溶液を濃縮して水素還元する工程とを備える製造方法が一般的に使用されている。このような製造方法によれば、4N以上の高純度モリブデン粉末が得られると記載されている。
【0009】
従来から上記のように高純度化したモリブデン粉末は得られていたが、得られた粒子には粗大な2次粒子の割合が多く、その粗大な2次粒子から焼結体を形成した場合には、焼結体組織の不均一や粉末用途としての必要な表面積が大きくならないという問題が発生していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように従来の高純度モリブデン粉末は、高純度であり、しかも平均粒径が小さなものが得られていたが、1次粒子同士が付着して粗大化した2次粒子が多く含まれていたために、その粉末を使用して製品とした場合には、製品部位によって特性が異なるという不具合が多発するという問題点があった。
【0012】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、高純度モリブデン粉末、特に4N(99.99%)以上の高純度モリブデン粉末において粒径が均一で微細な1次粒子の割合が大きい高純度モリブデン粉末を提供することにある。また、そのような高純度モリブデン粉末を簡単な処理工程で効率良く得るための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る高純度モリブデン粉末は、平均粒径が0.5〜100μmであり、1次粒子の
個数割合が50%以上であり、さらに純度が99.99%以上である高純度モリブデン粉末
であって、全ての高純度モリブデン粉末の粒径が平均粒径の2倍以下であることを特徴とするものであ
る。また、純度は99.999%以上であることが好ましい。また、1次粒子の
個数割合が90%以上であることが好ましい。また、高純度モリブデン粉末の粒度分布曲線のピークが1個のみ存在することが好ましい。
【0014】
また、本発明の高純度モリブデン粉末の製造方法は、モリブデン酸アンモニウム塩粉末を水素還元することにより第1モリブデン粉末を調製する工程と、上記第1モリブデン粉末を過酸化水素と反応させることによりモリブデン化合物を含む第1水溶液を調製すると工程と、上記第1水溶液を陽イオン交換樹脂と接触させることにより、モリブデン化合物を含む第2水溶液を調製する工程と、上記第2水溶液を乾燥させることにより酸化モリブデン粉末を調製する工程と、内壁をモリブデンで覆った容器に上記酸化モリブデン粉末を投入して温度400〜600℃で熱処理する工程と、得られた酸化モリブデン粉末を粉砕する工程と、内壁をモリブデンで覆った容器に、上記粉砕した酸化モリブデン粉末を投入して温度950〜1100℃で還元する工程と、を具備することにより、純度が99.99%以上であ
り、全ての高純度モリブデン粉末の粒径が平均粒径の2倍以下であり、1次粒子の個数割合が50%以上であるモリブデン粉末を得ることを特徴とする。
【0015】
また、上記高純度モリブデン粉末の製造方法において、前記モリブデン化合物を含む第2水溶液を乾燥させることにより酸化モリブデン粉末を調製する工程として、樹脂容器に第2水溶液を投入した後に、温度50℃以上100℃以下で乾燥させる工程を用いることが好ましい。
【0016】
さらに上記製造方法において、前記モリブデン化合物を含む第2水溶液を乾燥させることにより酸化モリブデン粉末を調製する工程として、第2水溶液を回転板上に噴射して微細な液滴とし、モリブデン化合物を含む液滴が回転板からはじかれていて落下する途中において、スプレードライヤーにより乾燥させる工程を用いることが好ましい。
【0017】
また上記製造方法において、前記内壁をモリブデンで覆った容器が、純度が99.99%以上であるモリブデンで内壁を覆った容器であることが好ましい。
【0018】
さらに上記製造方法において、前記内壁をモリブデンで覆った容器が、純度が99.99%以上であるモリブデンボートに、純度が99.99%以上であるモリブデンを内装材とした蓋部材を載せて構成されていることが好ましい。
【0019】
また上記製造方法において、純度が99.999%以上である高純度モリブデン粉末が得られることが好ましい。さらに、得られる高純度モリブデン粉末中の1次粒子の割合が50%以上であることが好ましい。また、得られる高純度モリブデン粉末の平均粒径が0.5〜100μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
上記本発明に係る高純度モリブデン粉末によれば、平均粒径が0.5〜100μmと微粉末であるにも拘わらず1次粒子の割合が多い高純度モリブデン粉末を提供することができる。また、本発明に係る高純度モリブデン粉末の製造方法によれば、微細で粒子径が揃った高純度モリブデン粉末を簡素な製造設備を使用して高い製造歩留りで効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の高純度モリブデン粉末は、平均粒径が0.5〜100μmの範囲であり、さらに1次粒子の
個数割合が50
%以上であり、純度が99.99%以上であることを特徴とするものである。
【0023】
上記平均粒径が0.5μm未満と過小な場合または平均粒径が100μmを超えるように過大な場合は、後述する高純度モリブデン粉末の製造方法では製造し難くなる。この平均粒径は、好ましくは1〜30μmの範囲である。この高純度モリブデン粉末の平均粒径は、粒度分布測定器にて測定される。
【0024】
また、モリブデン粉末の純度は99.99%以上、好ましくは99.999%以上である。純度の求め方は、ウラン(U)、トリウム(Th)、ナトリウム(Na)、K(カリウム)、鉄(Fe),Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、銅(Cu),マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)の個々の含有量を質量%で求め、その合計値を100%から差し引いた値をモリブデンの純度とする。
【0025】
本発明では、モリブデン粉末中のウラン(U)含有量を0.1ppb以下、トリウム(Th)含有量を0.1ppb以下にすることができる。また、ナトリウム(Na)含有量を0.5ppm以下、K(カリウム)含有量を0.5ppm以下、鉄(Fe)含有量を0.5ppm以下,Cr(クロム)含有量を0.5ppm以下、Ni(ニッケル)含有量を0.5ppm以下、マグネシウム(Mg)含有量を0.5ppm以下、カルシウム(Ca)含有量を0.5ppm以下、銅(Cu)含有量を0.5ppm以下,マンガン(Mn)含有量を0.5ppm以下、亜鉛(Zn)含有量を0.5ppm以下、タングステン(W)含有量を0.5ppm以下、アルミニウム(Al)含有量を0.5ppm以下と低くすることができる。
【0026】
さらには、ナトリウム(Na)含有量を0.05ppm以下、K(カリウム)含有量を0.05ppm以下、鉄(Fe)含有量を0.05ppm以下,Cr(クロム)含有量を0.05ppm以下、Ni(ニッケル)含有量を0.05ppm以下、マグネシウム(Mg)含有量を0.05ppm以下、カルシウム(Ca)含有量を0.05ppm以下、銅(Cu)含有量を0.05ppm以下,マンガン(Mn)含有量を0.05ppm以下、亜鉛(Zn)含有量を0.05ppm以下、タングステン(W)含有量を0.05ppm以下、アルミニウム(Al)含有量を0.05ppm以下と低く精製することができる。
【0027】
本発明に係る高純度モリブデン粉末では、モリブデン純度99.99%以上(4N)、さらには99.999%(5N)以上と高純度であり、かつ平均粒径が0.5〜100μmと微細粒径を維持した上で、その1次粒子の割合を50%以上、さらには90%以上にすることができる。
【0028】
ここで、上記1次粒子とは、微細粒子が凝集せずに個々に分離された状態にある粒子を意味する。1次粒子同士が相互に付着して凝集したものが2次粒子となる。上記1次粒子の割合の測定方法は、粒子が200個写る視野において、1次粒子の個数および2次粒子の個数をそれぞれ計数する。そして、下記の算式で1次粒子の割合を算出する。
【0029】
[1次粒子の個数/(1次粒子の個数+2次粒子の個数)]×100%=1次粒子の割合
本発明では、1次粒子の割合が50%以上と多く、付着凝集している2次粒子が少ないため、この高純度モリブデン粉末を原材料として使用してスパッタリングターゲットや焼結部品などのような焼結体を作製した場合には、均一な組織状態を有する製品を得ることができる。
【0030】
また、高純度モリブデン粉末中に1次粒子の割合が多いので、全てのモリブデン粉末粒子を平均粒径の2倍以下にすることができる。つまり、粉末の粒度分布を作成した場合に、平均粒径の2倍以上の粒径を有する粒子が存在しない、粒径のばらつきが少なく粒径が揃った粒子を提供することができる。
【0031】
さらに、粗大な2次粒子の割合が少ないので粒度分布を測定した時に、粒度分布のピークが1個しか存在しないので、極大的または極小的な粒子群が複数出現することが無く粒径が揃った高純度モリブデン粉末が得られる。また、その粒度分布のピークの半値幅も、ピーク値の50%以下とシャープな粒度分布を有する粉末を提供することができる。
【0032】
本発明に係る高純度モリブデン粉末は、スパッタリングターゲット、焼結炉に用いる板部材(ボート等)、冷陰極管用電極などの焼結部品、モリブデン箔、各種粉末状触媒など様々な分野に適用することができる。
【0033】
本発明の高純度モリブデン粉末は、1次粒子の割合が多いので焼結体を形成した時に組織の不均一を解消することができる。また、純度も高いことから、同時に用いられる他製品への不純物の混入をも効果的に防止することができる。
【0034】
次に、本発明に係る高純度モリブデン粉末の製造方法について説明する。本発明の高純度モリブデン粉末は、その製造方法は特に限定されるものではないが、効率よく得るための製造方法として次の方法が採用される。
【0035】
本発明の高純度モリブデン粉末の製造方法は、モリブデン酸アンモニウム塩粉末を水素還元することにより第1モリブデン粉末を調製する工程と、上記第1モリブデン粉末を過酸化水素と反応させることによりモリブデン化合物を含む第1水溶液を調製すると工程と、上記第1水溶液を陽イオン交換樹脂と接触させることにより、モリブデン化合物を含む第2水溶液を調製する工程と、上記第2水溶液を乾燥させることにより酸化モリブデン粉末を調製する工程と、内壁をモリブデンで覆った容器に上記酸化モリブデン粉末を投入して温度400〜600℃で熱処理する工程と、得られた酸化モリブデン粉末を粉砕する工程と、内壁をモリブデンで覆った容器に、上記粉砕した酸化モリブデン粉末を投入して温度950〜1100℃で還元する工程と、を具備することにより、純度が99.99%以上であるモリブデン粉末を得ることを要旨とするものである。
【0036】
上記高純度モリブデン粉末の製造方法においては、まず、モリブデン酸アンモニウム塩粉末を水素還元することにより第1のモリブデン粉末を調製する工程を行う。モリブデン酸アンモニウム塩粉末としては、アンモニウムダイモリブデート((NH
4)
2Mo
2O
7・nH
2O)粉末が挙げられ、その平均粒径は50〜300μmの範囲であることが好ましい。上記平均粒径が50μm未満または平均粒径が300μmを超えると、最終的に得られる粉末の平均粒径が0.5〜100μmの範囲になり難い。また、価格的にも50〜300μmの平均粒径を有するモリブデン酸アンモニウム塩粉末が市場で入手し易い。
【0037】
また、上記水素還元操作は530〜600℃の温度で、2〜4時間に亘り、水素気流速度が1リットル/分以上、10リットル/分以下の水素還元雰囲気で実施することが好ましい。この還元工程によって、第1モリブデン粉末が得られる。この段階のモリブデン粉末は純度が低く、粒径も粗い。
【0038】
そこで次に、第1モリブデン粉末を過酸化水素と反応させることにより、モリブデン化合物を含む第1水溶液を調製すると工程を実施する。この過酸化水素水との反応により、下記反応式に基づく反応が進行する。
【0039】
2Mo+7H
2O
2→2HMoO
4+6H
2O
上記反応により、モリブデン化合物を含む第1水溶液が調製される。また、過酸化水素水との反応は温度80℃以下の条件で実施することが好ましい。すなわち、この反応温度が80℃を超えると、過酸化水素水が爆発するおそれがあるので注意すべきである。
【0040】
次に、前記第1水溶液を陽イオン交換樹脂と接触させることにより不純物を陽イオンとして陽イオン交換樹脂に吸着せしめる一方で、錯イオンとなったMo成分を含む第2水溶液を調製する工程を実施する。モリブデン化合物を含む第1の水溶液は、不純物金属が陽イオンとして存在することから陽イオン交換樹脂と接触させることにより、陽イオン不純物が除去され、MoO
4−陰イオン等のモリブデン酸陰イオンを分離する。陽イオン交換樹脂の材質は特に限定されるものではないが、例えば商品名としてダイヤイオンSK、アンバーラなどが好適に使用できる。
【0041】
陽イオン交換樹脂は平均粒径が50〜100μm程度のものを使用し、円筒状のカラムに充填される。陽イオン交換樹脂を充填したカラムにモリブデン化合物を含む第1水溶液を通して不純物陽イオンを分離除去する。
【0042】
上記陽イオン交換樹脂とモリブデン化合物を含む第1水溶液とを接触させる工程は、直径30〜50mm×長さ350mm以上のカラム内に平均粒径が50〜100μmの陽イオン交換樹脂を充填し、カラムを縦方向に配置してモリブデン化合物を含む第1水溶液を通過させる。最終製品としての純度を99.99%以上99.999%未満である場合には、上記カラムの長さは350〜450mm程度で充分である。また、99.999%以上の純度を達成する場合には、上記カラムの長さは450mm以上とすることが望ましい。
【0043】
上記カラムの長さの上限は特に限定されるものではないが、処理操作の作業性を考慮すると800mm以下が好ましい。また、カラムから被処理液への金属不純物の混入を防止するためにポリプロピレンなどの樹脂製カラムを使うことが好ましい。
【0044】
上記陽イオン交換樹脂と第1水溶液とを接触させる工程を経ることにより、モリブデン酸陰イオン(MoO
4−)を含む第2水溶液を得ることができる。
【0045】
次に第2水溶液を乾燥させることにより酸化モリブデン粉末を調製する工程を実施する。この工程では温度300℃以下の雰囲気下で第2水溶液を乾燥することにより酸化モリブデン粉末(MoO
3)を得ることができる。
【0046】
上記乾燥工程としては、例えば次に示す第1乾燥工程または第2乾燥工程のような方法が採用できる。
【0047】
すなわち第1乾燥工程としては、ポリエチレン容器に第2水溶液を入れた後、温度50℃以上100℃以下で6〜8時間に渡り乾燥させる工程である。
図1に上記第1乾燥工程の一例を示す。
【0048】
図1において、符号1は第2水溶液、2は樹脂容器、3は攪拌棒、4は加熱容器、5は加熱媒体をそれぞれ示す。
【0049】
上記樹脂容器2として、ポリエチレン容器、ポリテトラフルオロエチレン容器等を用いることにより、第2水溶液1への金属不純物の混入を防止することができる。また樹脂容器2を構成する樹脂の中では、特にポリエチレンが耐熱性、耐食性、軽量性、強度特性、価格の観点で優れている。加熱媒体5としては熱湯が好適に用いられる。必要に応じて加熱容器4を温め、間接的に樹脂容器を加熱しながら第2水溶液の加熱濃縮を実施する。
【0050】
また、上記加熱操作の際は、第2水溶液を攪拌棒3で攪拌しながら乾燥を進行させることが好ましい。
【0051】
上記乾燥工程は、第2水溶液中の水分が無くなるまで継続する。水分が除去された後は、樹脂容器2内に酸化モリブデン粉末が乾燥残渣として残る。この第1乾燥工程では、得られた酸化モリブデン粉末が樹脂容器2内に残るため、一度に得られる酸化モリブデン粉末は樹脂容器2のサイズに影響を受ける。このため、この第1乾燥工程では1バッチ(1回分処理)で得られる酸化モリブデン粉末量が1kg以下の場合に有効である。1kg以下の量であれば6〜8時間程度の乾燥時間が好ましい。
【0052】
一方で第2乾燥工程は、第2水溶液を回転板上に噴射し、モリブデン化合物が回転板ではじかれて落下する途中で、スプレードライヤーにより乾燥させる工程である。
図2に第2乾燥工程を実施する乾燥装置の構成例を模式的に示す。
図2において、符号1は第2水溶液、6は第2水溶液1を噴射する噴射口、7は回転盤8を回転させる回転機構、8は第2水溶液1を微細に分散させる回転板、9は乾燥容器、10はスプレードライヤー、11は回収容器、12は乾燥した酸化モリブデン粉末である。
【0053】
上記第2乾燥工程を実施する際には、まず回転機構7の先端に円盤状の回転板8を取り付け、回転板8を高速回転させる。回転板8の回転速度は、500〜3000rpm程度が好ましい。回転する回転板8に噴射口6から第2水溶液を連続的に滴下させると、第2水溶液1の液滴は回転板8によって弾かれて、さらに微細な液滴となって、乾燥容器9の内壁に向かって飛翔する。弾かれて微細に分散した液滴は、乾燥容器9内を落下する途中で、スプレードライヤー10から噴射された高温乾燥気流(温風)によって乾燥される。
【0054】
上記スプレードライヤー10から噴射される温風の温度は50〜100℃の範囲が好ましい。上記回転板8に液滴として投入され、回転板8の回転力によって弾かれた液滴はさらに小さくなる。上記回転板8によって微細に分散化された液滴は、微小な水滴であるために、乾燥容器9内を落下する間の僅かな時間であっても、スプレードライヤー10から噴射された温風により、瞬間的に短時間で乾燥させることが可能である。
【0055】
そして、乾燥された被処理物は、酸化モリブデン粉末12となって回収容器11に堆積される。この乾燥方法であれば連続的に乾燥工程を行うことができるので1バッチ(1回分処理)当たりに1kg以上の大量の酸化モリブデン粉末12を得ることができる。また、必要に応じ、乾燥容器9の縦方向寸法を長くしたり、スプレードライヤー10の配設本数を増加させたりすることにより、乾燥能力を適宜高めることができる。また、乾燥容器9の内壁はポリテトラフルオロエチレン等の樹脂コーティングを行うことにより、乾燥容器9から第2水溶液1への金属不純物の混入を効果的に防止することができ好ましい。また、第2水溶液1を滴下させる噴射口6の設置基数を増加させて乾燥能力を高めてもよい。
【0056】
上記のような第2乾燥工程では、第1乾燥工程のように水溶液の運搬等に要する労力手間が大幅に低減できるので作業性が良好であり、清潔な作業環境を保持することが可能である。また、第2乾燥工程では微細な液滴状態で乾燥操作を実施しているので、乾燥操作中における粉末同士の付着が少なく、最終的に得られる酸化モリブデン粉末同士の凝集を効果的に防止することができる。
【0057】
上記1次粒子の割合が多い酸化モリブデン粉末を還元して高純度モリブデン粉末を作製しているので、最終的に得られる高純度モリブデン粉末についても、1次粒子の割合が多い高純度粉末が得られる。特に、本発明に係る製造方法によれば、1次粒子の割合が90%以上であるような、粒径が揃った微細で高純度モリブデン粉末を効率的に製造できる。
【0058】
次に、得られた酸化モリブデン粉末12を、内壁をモリブデンで覆った容器に投入して温度400〜600℃で熱処理する工程を実施する。前記乾燥工程によって得られた酸化モリブデン粉末に若干でも水分が残っていると、後述する還元工程に影響が出るため、温度400〜600℃の範囲で熱処理を充分に実行することにより完全脱水を行う。
【0059】
上記熱処理工程における処理温度が400℃未満では、熱処理時間を長くする必要がある一方、上記処理温度が600℃を超えると、酸化モリブデン粉末が粒成長または昇華するおそれがある。好ましい熱処理時間は2時間以上である。
【0060】
また、上記熱処理は大気中で実施することが好ましい。大気中で熱処理を実施することにより、酸化モリブデン粉末中にMoO
3粉末とは価数が異なる酸化モリブデン(MoO
2、Mo
3O
8、Mo
9O
26など)が並存した場合でも、可及的にMoO
3粉末のみから構成されるように物質種を絞ることができる。
【0061】
また、熱処理工程は水素雰囲気中で実施しても良い。水素雰囲気中で熱処理を実施することも、モリブデン酸化物の価数を揃える効果がある。これにより後述の還元工程における効果をムラ無く一定に発揮させることができる。
【0062】
次に、得られた酸化モリブデン粉末を粉砕する工程を実施する。前記熱処理工程で得られた酸化モリブデン粉末は粒径が粗く、このまま還元工程を行っても還元効果が一定でないため、事前に粉砕工程を実施することが好ましい。粉砕工程は、ボールミル等の粉砕機を使う方法が好ましい。また、ボールミルの内壁にポリテトラフルオロエチレンなどの樹脂コーティングを施工することにより、金属不純物の酸化モリブデン粉末への混入を効果的に防止できる。また、粉砕度合を調製することにより、最終的に得られる高純度モリブデン粉末の平均粒径を調整することも可能である。
【0063】
次に、粉砕した酸化モリブデン粉末を、内壁をモリブデンで覆った容器に投入して温度950℃から1100℃に加熱して還元する工程を行う。この還元工程に使用する容器は、その内壁をモリブデンで被覆した容器を使用することが好ましい。還元容器内壁を被覆するモリブデンは可及的に高純度であることが好ましく、具体的には99.99%以上、さらには99.999%以上の高純度モリブデンを使用することが好ましい。また、モリブデンボートを使う場合にも、その純度は99.99%以上、さらには99.999%以上のものを使うものとする。
【0064】
また、上記還元工程は950〜1100℃の温度範囲で実施することが好ましい。この還元工程は、酸化モリブデンを還元して金属モリブデンに転換する工程である。還元温度が950℃未満では還元反応が十分に進行しない。一方、還元温度が1100℃を超えるとモリブデンが粒成長してしまうので目的とする「全ての高純度モリブデン粉末の粒径を平均粒径の2倍以下にする」ことが困難である。
【0065】
また、上記還元工程は、前述した還元温度に酸化モリブデンを3時間以上保持して実施することが好ましい。上記保持時間が3時間未満では、1バッチでの処理量が1kg以上と多い場合に、十分な還元反応が行われない恐れがある。また、1バッチでの処理量が1kg未満である場合には、還元剤として使用する水素気流速度は1リットル/分以上が好ましい。
【0066】
ところで、上記還元反応の進行に従って、不要となった酸素が水分となって蒸発してくるので、密閉空間で上記還元工程を実施していくと、蒸発した水分が還元反応を阻害する。そのため、水素気流環境下で還元反応を実施して還元反応が安定して継続するように配慮することが肝要である。
【0067】
このような製造工程により、純度が99.99%以上、さらには純度が99.999%以上である高純度モリブデン粉末を得ることができる。酸化モリブデン粉末の段階で粒子同士の凝集を防止し、2次粒子の割合を低減しているので得られる高純度モリブデン粉末は1次粒子の割合が50%以上、さらには90%以上とすることができる。
【0068】
また、高純度モリブデン粉末中には1次粒子の割合が多いので、得られた高純度モリブデン粉末は、篩分け操作を実施しなくても、平均粒径が0.5〜100μmである微細な粉末となる。また、粒度分布を測定した場合に、粒径が全モリブデン粉末の平均粒径の2倍以上となる粉末が存在しない。また、粒度分布曲線においても、所定の微細な粒径でのピークが1個だけ存在するような、粒径の揃ったMo粉末を得ることができる。
【0069】
[実施例]
次に本発明に係る高純度モリブデン粉末およびその製造方法の実施形態について、以下の実施例および比較例を参照しながら、より具体的に説明する。
【0070】
(実施例1〜5および比較例1)
まず各実施例及び比較例で共通する原材料としてアンモニウムダイモリブデート(平均粒径100μm)粉末を用意した。次に、上記原材料としてのアンモニウムダイモリブデート粉末を、温度580℃で3時間に渡り、流量が5リットル/分の水素気流中で還元して第1モリブデン粉末を調製した。
【0071】
次に、得られた第1モリブデン粉末を、温度60℃を超えないように調整しながら、過酸化水素水と反応させることによりモリブデン化合物を含む第1水溶液を調製した。
【0072】
一方、平均粒径70μmの陽イオン交換樹脂粉末を、直径40mm×長さ500mmのカラム内に充填した。次に上記第1水溶液を、陽イオン交換樹脂を充填したカラム内を通して陽イオンを除去したモリブデン化合物を含む第2水溶液を調製した。
【0073】
次に、上記第2水溶液の乾燥工程を表1に示すそれぞれの方法で実施した。すなわち、実施例1〜2は、
図1に示したように、第2水溶液1を投入した樹脂容器2を加熱容器4内の加熱媒体としての温水で加熱しつつ、攪拌棒3によって第2水溶液1を攪拌しながら乾燥する第1乾燥工程によって処理した。
【0074】
一方、実施例3〜5は、
図2に示したように、第2水溶液1を回転板8上に滴下して分散し、分散した微細な液滴を、スプレードライヤー10から噴射された温風によって気流乾燥する第2乾燥工程によって処理した。
【0075】
この乾燥工程により、それぞれの酸化モリブデン粉末を得た。また比較のために、乾燥工程の温度条件等を変更したものを比較例1とした。
【0076】
なお、上記乾燥工程において、使用した乾燥容器の仕様(材質、内装の有無)、1バッチ当りに乾燥容器に投入した第2水溶液1量(1バッチ量:Kg)、乾燥条件は下記表1に示す。
【表1】
【0077】
次に、乾燥工程で得られた各酸化モリブデン粉末を、内壁を純度99.999%以上のモリブデンで被覆した内装容器に投入して温度550℃で熱処理して、ほぼ水分を完全に除去する完全乾燥を実施した。次に、乾燥後の酸化モリブデン粉末をモリブデンで内壁を被覆したポットに高純度Mo材で作成した棒材を粉砕ボールとして用いたポットミルで、粉砕した。粉砕前および粉砕後における各酸化モリブデン粉末の平均粒径は、下記表2に示した通りである。
【表2】
【0078】
上記表1および表2に示す結果から明らかなように、各実施例について、乾燥工程における条件の相違によって酸化モリブデン粉末の段階で平均粒径に差異が出現することが判明した。
【0079】
次に粉砕した酸化モリブデン粉末を表3に示す条件で水素気流雰囲気中において還元処理した。すなわち、実施例1〜5については、それぞれ高純度のMo材で内装した還元容器を使用する一方、比較例1においては、内装材を使用せず、ステンレス鋼(SUS304)から成る還元容器を使用し、還元温度、還元時間および水素気流の流量は表3に示す通りとした。
【表3】
【0080】
上記の還元処理によって得られた各高純度モリブデン粉末を、篩分けは実施しない状態で平均粒径、1次粒子の割合、粒度分布および純度特性を測定した。なお平均粒径および粒度分布は、粒度分布計によって測定した。また1次粒子の割合は、各粉末が観察視野に200粒程度観察できるような倍率で拡大写真を撮影し、1次粒子の個数、2次粒子の個数を数え、下記算式:
[1次粒子の個数/(1次粒子の個数+2次粒子の個数)]×100(%)
に基づいて算出した。また、純度については、ウラン(U)、トリウム(Th)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、鉄(Fe),クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、銅(Cu),マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)の個々の質量%を求めその合計値を100%から差し引いた値をモリブデンの純度とした。
【0081】
また、比較例1では還元工程を表3に示す条件で処理したものであり、各実施例と同様の測定を実施した。
【0082】
各測定結果を下記表4に示す。
【表4】
【0083】
上記表4に示す結果から明らかなように、各実施例に係る高純度モリブデン粉末は、それらの1次粒子の割合は、何れも50%以上である。特に、第2の乾燥工程を用いた実施例3〜5の高純度モリブデン粉末においては、1次粒子の割合が何れも90%以上と良好であった。また、特別な篩分け処理を実施しなくても粒度分布のピークは1個のみであり、平均粒径の2倍を超える粒径を有する粒子は確認されなかった。
【0084】
一方、比較例1のように乾燥工程の条件が望ましいものでない場合には、1次粒子の割合が50%未満となった。また比較例1においては、最後の還元工程で高純度モリブデン材で内装された還元容器を用いていないので、ステンレス製容器からの不純物が粉末側に混入し純度も低下した。