特許第5774061号(P5774061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5774061電磁波シールド用金属箔、電磁波シールド材及びシールドケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5774061
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】電磁波シールド用金属箔、電磁波シールド材及びシールドケーブル
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20150813BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20150813BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20150813BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20150813BHJP
   C25D 7/06 20060101ALI20150813BHJP
   C25D 5/30 20060101ALI20150813BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20150813BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20150813BHJP
   C23C 14/16 20060101ALI20150813BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20150813BHJP
   C23C 30/00 20060101ALI20150813BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20150813BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20150813BHJP
   H01B 7/17 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   H05K9/00 W
   B32B7/02 104
   B32B15/08 A
   B32B15/01 Z
   C25D7/06 A
   C25D7/06 Z
   C25D5/30
   C23C28/00 A
   C23C14/14 D
   C23C14/16 Z
   C25D5/50
   C23C30/00 B
   C22C13/00
   C22C19/03 D
   H01B7/18 D
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-139915(P2013-139915)
(22)【出願日】2013年7月3日
(65)【公開番号】特開2015-15300(P2015-15300A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2013年9月13日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸一郎
【審査官】 遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−274417(JP,A)
【文献】 特開2010−236041(JP,A)
【文献】 特開2002−275657(JP,A)
【文献】 特開2013−088004(JP,A)
【文献】 特開平10−226898(JP,A)
【文献】 特開2012−132040(JP,A)
【文献】 特開2005−281794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 7/02
B32B 15/01
B32B 15/08
C22C 13/00
C22C 19/03
C23C 14/14
C23C 14/16
C23C 28/00
C23C 30/00
C25D 5/30
C25D 5/50
C25D 7/06
H01B 7/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔からなる基材の片面又は両面に、Snを20〜80質量%含むSn−Ni合金層が厚さ30nm以上形成され、
前記Sn−Ni合金層のJIS B 0601に規格する算術平均粗さRaが0.12μm以下であり、
かつ該合金層の最表面の水に対する接触角が80°以上である電磁波シールド用金属箔。
【請求項2】
前記合金層の表面にSnの純金属層が存在せず、
かつ前記合金層をSEMで表面観察したとき、一つ一つの突起の凸部を取り囲むことのできる最小円の直径の平均値で表される平均径0.1〜2.0μmの複数の針状又は柱状の突起を有しない請求項1に記載の電磁波シールド用金属箔。
【請求項3】
前記Sn−Ni合金層がさらに、P、W、Fe、Co及びZnの群から選ばれる1種以上の元素を含む請求項1又は2に記載の電磁波シールド用金属箔。
【請求項4】
前記Sn−Ni合金層と前記基材との間に、Niからなる金属層、又はNiと、P、W、Fe、Co又はZnとからなる合金層によって構成される下地層が形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の電磁波シールド用金属箔。
【請求項5】
前記Sn−Ni合金層の表面に、Sn−Ni合金層の酸化物が形成され、該酸化物を含む前記Sn−Ni合金層の最表面の水に対する接触角が80°以上である請求項1〜4のいずれかに記載の電磁波シールド用金属箔。
【請求項6】
前記基材が金、銀、白金、ステンレス、鉄、ニッケル、亜鉛、銅、銅合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金からなる請求項1〜5のいずれかに記載の電磁波シールド用金属箔。
【請求項7】
前記基材がアルミニウムまたはアルミニウム合金であって、前記基材と前記下地層の間に、Zn層が形成されている請求項1〜6のいずれかに記載の電磁波シールド用金属箔。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の電磁波シールド用金属箔の片面に、樹脂層が積層されている電磁波シールド材。
【請求項9】
前記樹脂層は樹脂フィルムであることを特徴とする請求項8に記載の電磁波シールド材。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の電磁波シールド材でシールドされたシールドケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂層又は樹脂フィルムを積層されて電磁波シールド材に用いられる金属箔、それを用いた電磁波シールド材及びシールドケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
Snめっき被膜は耐食性に優れ、かつ、はんだ付け性が良好で接触抵抗が低いと言う特徴を持っている。このため、例えば、車載電磁波シールド材の複合材料として、銅等の金属箔にSnめっきされて使用されている。
上記の複合材料としては、銅又は銅合金箔からなる基材の一方の面に樹脂層又はフィルムを積層し、他の面にSnめっき被膜を形成した構造が用いられている(特許文献1参照)。
又、アルミニウム又はアルミニウム合金箔の表面に亜鉛置換めっき層、電気ニッケルめっき層、又は電気スズめっき層を形成することで、耐湿性、耐食性を改善した多層めっきアルミニウム(合金)箔が開発されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2009/144973号
【特許文献2】特開2013―007092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Snめっきは柔らかいため、表面が腐食して塩化物や酸化物が形成されても、相手材と接触して塩化物等が容易に削れ、新たな純Snが表面に現れる。このため、Snめっきは耐食性に優れ、腐食環境でも低い接触抵抗を維持できる。
しかしながら、Snは拡散層を形成しやすいため、長期にわたって使用するとSnめっき中のSnがすべて合金となって純Snが残存しなくなり、耐食性が低下する。このため、長期の耐食性を確保するにはSnめっきの厚みを厚くする必要があり、コストアップに繋がる。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、腐食環境においても耐食性に優れ、低コストである電磁波シールド用金属箔、電磁波シールド材及びシールドケーブルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは種々検討した結果、金属箔の表面に水に対する接触角が80°以上であるSn−Ni合金層を形成することで、腐食環境においても耐食性に優れ、かつSnの使用量を低減して低コストである電磁波シールド用金属箔を得ることに成功した。
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の電磁波シールド用金属箔は、金属箔からなる基材の片面又は両面に、Snを20〜80質量%含むSn−Ni合金層が厚さ30nm以上形成され、前記Sn−Ni合金層のJIS B 0601に規格する算術平均粗さRaが0.12μm以下であり、かつ該合金層の最表面の水に対する接触角が80°以上である。
前記合金層の表面にSnの純金属層が存在せず、かつ前記合金層をSEMで表面観察したとき、一つ一つの突起の凸部を取り囲むことのできる最小円の直径の平均値で表される平均径0.1〜2.0μmの複数の針状又は柱状の突起を有しないことが好ましい。


【0008】
記Sn−Ni合金層がさらに、P、W、Fe、Co及びZnの群から選ばれる1種以上の元素を含むことが好ましい。
前記Sn−Ni合金層と前記基材との間に、Niからなる金属層、又はNiと、P、W、Fe、Co又はZnとからなる合金層によって構成される下地層が形成されていることが好ましい。
前記Sn−Ni合金層の表面に、Sn−Ni合金層の酸化物が形成され、該酸化物を含む前記Sn−Ni合金層の最表面の水に対する接触角が80°以上であることが好ましい。
前記基材が金、銀、白金、ステンレス、鉄、ニッケル、亜鉛、銅、銅合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金からなることが好ましい。
前記基材がアルミニウムまたはアルミニウム合金であって、前記基材と前記下地層の間に、Zn層が形成されていることが好ましい。
【0009】
本発明の電磁波シールド材は、前記電磁波シールド用金属箔の片面に、樹脂層が積層されている。
前記樹脂層は樹脂フィルムであることが好ましい。
【0010】
本発明のシールドケーブルは、前記電磁波シールド材でシールドされてなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、腐食環境においても耐食性に優れ、かつ低コストである電磁波シールド用金属箔が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る電磁波シールド用金属箔を示す断面図である。
図2】本発明の第2の実施の形態に係る電磁波シールド用金属箔を示す断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る電磁波シールド材を示す断面図である。
図4】実施例1の試料のSTEMによる断面像を示す図である。
図5】実施例1の試料のSTEMによる線分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明において%とは、特に断らない限り、質量%を示すものとする。
【0014】
図1(b)に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る電磁波シールド用金属箔10は、金属箔からなる基材1と、基材1の片面に形成されたSn−Ni合金層2とを有する。
(基材)
基材1は、電磁波シールド効果を発揮する導電性の高い金属であればなんでもよい。基材1としては金、銀、白金、ステンレス、鉄、ニッケル、亜鉛、銅、銅合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金などの箔が挙げられるが、銅又はアルミニウムの箔が一般的である。
基材1の形成方法は特に限定されず、例えば圧延して製造してもよく、電気めっきで箔を形成してもよい。又、後述する電磁波シールド材の樹脂層又は樹脂フィルムの表面に、乾式めっきして基材1を成膜してもよい。
基材1の厚みは、電磁波シールドの対象とする周波数と表皮効果を考慮して決定するのがよい。具体的には、基材1を構成する元素の導電率と、対象となる周波数を下式(1)に代入して得られる表皮深さ以上とするのが好ましい。例えば、基材1として銅箔を使用し、対象となる周波数が100MHzの場合、表皮深さは6.61μmであるので、基材1の厚みを約7μm以上とするのがよい。基材1の厚みが厚くなると、柔軟性や加工性に劣り、原料コストも増加することから100μm以下とする。基材1の厚みは4〜50μmがより好ましく、5〜25μmがさらに好ましい。
d={2/(2π×f×σ×μ)}1/2 (1)
d:表皮深さ(μm)
f:周波数(GHz)
σ:導体の導電率(S/m)
μ:導体の透磁率(H/m)
【0015】
基材1として銅箔を用いる場合、銅箔の種類に特に制限はないが、典型的には圧延銅箔や電解銅箔の形態で用いることができる。一般的には、電解銅箔は硫酸銅めっき浴やシアン化銅めっき浴からチタン又はステンレスのドラム上に銅を電解析出して製造され、圧延銅箔は圧延ロールによる塑性加工と熱処理を繰り返して製造される。
圧延銅箔としては、純度99.9%以上の無酸素銅(JIS-H3100(C1020))又はタフピッチ銅(JIS-H3100(C1100))を用いることができる。又、銅合金箔としては要求される強度や導電性に応じて公知の銅合金を用いることができる。公知の銅合金としては、例えば、0.01〜0.3%の錫入り銅合金や0.01〜0.05%の銀入り銅合金が挙げられ、特に、導電性に優れたものとしてCu-0.12%Sn、Cu-0.02%Agがよく用いられる。例えば、圧延銅箔として導電率が5%以上のものを用いることができる。電解銅箔としては、公知のものを用いることができる。
又、アルミニウム箔としては、純度99.0%以上のアルミニウム箔を用いることができる。又、アルミニウム合金箔としては、要求される強度や導電率に応じて公知のアルミニウム合金を用いることができる。公知のアルミニウム合金としては、例えば、0.01〜0.15%のSiと0.01〜1.0%のFe入りのアルミニウム合金、1.0〜1.5%のMn入りアルミニウム合金が挙げられる。
【0016】
(Sn−Ni合金層)
Sn−Ni合金層2は、Snを20〜80質量%含む。Sn−Ni合金層2は、他のSn合金(例えば、Sn−Cu合金)層に比べて、耐食性が高く、かつ比較的安価である。
Sn−Ni合金層中のSnの割合が20質量%未満であると、合金層の耐食性が低下する。一方、Snの割合が80質量%を超えると、合金層が柔らかくなり、削れやすくなるため、表面粗さが大きくなりやすく耐食性が低下する。
Sn−Ni合金層2はNiSn、NiSnまたはNiSnの金属間化合物であることが好ましい。これらの金属間化合物は非平衡合金層と比較して耐食性が良好である。
【0017】
(Sn−Ni合金層表面の接触角)
塩水やガスによる腐食は、塩水や腐食ガスが溶け込んだ水分が材料表面に吸着するか、又は材料に水が掛かる等により吸着した水分に腐食元素が溶け込むことが原因である。そして、水に対する接触角が大きいと、撥水性に優れることを示し、水分が吸着しにくくなるために耐食性が向上する。
そして、電磁波シールド用金属箔の最表面の水に対する表面の接触角が80°以上であると腐食環境においても耐食性が向上する。一方、最表面の接触角が80°未満であると、腐食元素が溶け込んだ水分が表面に吸着しやすくなるため、耐食性が低下する。
なお、電磁波シールド用金属箔の最表面には、Sn−Ni合金層又は後述するSn酸化物が存在する。又、Sn酸化物がSn−Ni合金層の一部分に形成されている場合は、最表面にはSn−Ni合金層とSn酸化物の両方が存在する。
接触角は、市販の接触角計を使用し、水としては蒸留水を使用する。
【0018】
水に対する最表面の接触角を80°以上とする方法としては、基材1の算術平均粗さRa(JIS B 0601)を小さくすることが挙げられる。基材1の算術平均粗さRaを小さくするほど、最表面の接触角は大きくなる。基材1の算術平均粗さRaが0.12μmを超えると、最表面の接触角が80°未満に低下する。一方、基材1の算術平均粗さRaは小さいほど良いが、0.01μm以下とするには通常の圧延や電解析出などの基材製造工程だけではなく、化学研磨等の工程を追加する必要があり、高コストである。
このようなことから、基材1の算術平均粗さRaは0.01〜0.12μmが好ましく、0.02〜0.10μmがより好ましく、0.04〜0.08μmがさらに好ましい。
【0019】
Sn−Ni合金層の厚さは30nm以上であることが必要であり、好ましくは30〜500nm、より好ましくは50〜300nm、さらに好ましくは70〜150nmである。Sn−Ni合金層の厚さが500nmを超えると、基材1の表面形状がSn−Ni合金層表面に反映されにくくなる。このため、基材1の算術平均粗さRaが0.12μm以下であっても最表面の接触角が80°未満となる。一方、Sn−Ni合金層の厚さが30nm未満であると耐食性が低下する。
【0020】
Sn−Ni合金層はさらに、P、W、Fe、Co及びZnの群から選ばれる1種以上の元素(C元素群という)を含んでもよい。Sn−Ni合金層がこれら元素を含むと、層を硬くすることができる。Sn−Ni合金層中の上記元素の合計割合は、1〜40質量%が好ましく、5〜30質量%がさらに好ましい。
【0021】
(Sn−Ni合金層の形成方法)
Sn−Ni合金層は、合金めっき(湿式めっき)、合金層を構成する合金のターゲットを用いたスパッタ、合金層を構成する成分を用いた蒸着等によって形成することができる。
又、図1(a)に示すように、例えば、基材1の片面にまずNiからなる第1層21を形成し、第1層21の表面にSnからなる第2層22を形成した後、熱処理して第1層21の元素を第2層22中に拡散させ、図1(b)に示すSn−Ni合金層2を形成することもできる。熱処理の条件は特に限定されないが、例えば、80〜500℃で2秒〜15時間程度とすることができる。熱処理温度がSnの融点以下であると、合金化が緩やかに進み、均一なSn−Ni合金層を得やすいため、温度80〜220℃で1〜10時間程度熱処理することがさらに好ましい。
【0022】
次に、図2を参照し、本発明の第2の実施の形態に係る電磁波シールド用金属箔11について説明する。電磁波シールド用金属箔11は、第1の実施の形態に係る電磁波シールド用金属箔10において、さらに基材1とSn−Ni合金層2との間に、下地層3が形成されている。
熱処理によってSn−Ni合金層を形成する場合、基材中の元素がSn−Ni合金層に拡散する場合があるが、下地層3は基材中の元素の拡散を防止し、Sn−Ni合金層中のSnの割合をコントロールしやすくなる。
下地層3は、(1)Niからなる金属層、又は(2)Niと、P、W、Fe、Co又はZnとからなる合金層、によって構成されている。(2)の例としては、Ni−Zn合金層が挙げられる。
下地層3は、例えば図1(a)の第1層21の厚みを厚くし、熱処理後に第1層21の一部をSn−Ni合金層2とせずにNi層として残存させることで形成することができる。勿論、基材1の表面に、熱処理せずに直接下地層3、Sn−Ni合金層2をこの順にめっき等で形成してもよい。又、下地層3、Sn−Ni合金層2は、湿式めっきの他、蒸着、PVD、CVD等によって形成することもできる。
又、基材としてアルミニウムやアルミニウム合金箔を使用する場合、下地層3を電気めっきするための下地めっきとして、下地層3と基材1との間に亜鉛置換めっき層を形成してもよい。
【0023】
Sn−Ni合金層の表面にSn酸化物が形成されていると好ましい。Sn酸化物は耐食性が高く、Sn−Ni合金層の表面にSn酸化物が存在すると、Sn−Ni合金層の耐食性がさらに向上する。
なお、図1(a)に示すように、加熱によりSn−Ni合金層を形成する場合、Snからなる第2層22を形成したときに自然酸化でSn酸化物が第2層22に形成され、その後の加熱による合金化によってもSn−Ni合金層中に残存する。このSn酸化物は、耐食性といった特性を向上させる効果がある。
Sn酸化物は、層となっていなくてもよく、Sn−Ni合金層の表面に存在すればよいが、2〜30nmの厚みとすると好ましい。Sn酸化物はSn−Ni合金層と比較すると接触抵抗が高いため、層の厚みが30nmを超えると接触抵抗が増加する。
なお、Sn−Ni合金層を熱処理によって形成した場合、熱処理の際に厚いSn酸化物が積極的に形成されるので好ましい。
【0024】
次に、図3を参照し、本発明の実施の形態に係る電磁波シールド材100について説明する。電磁波シールド材100は電磁波シールド用金属箔10と、この金属箔10の片面に樹脂層又は樹脂フィルム4とを積層してなる。
樹脂層としては例えばポリイミド等の樹脂を用いることができ、樹脂フィルムとしては例えばPET(ポリエチレンテレフタラート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)のフィルムを用いることができる。樹脂層や樹脂フィルムは、接着剤により金属箔に接着されてもよいが、接着剤を用いずに溶融樹脂を金属箔上にキャスティングしたり、フィルムを金属箔に熱圧着させてもよい。又、樹脂フィルムにPVDやCVDで直接銅やアルミニウムの層を基材として形成したフィルムや、樹脂フィルムにPVDやCVDで銅やアルミニウムの薄い層を導電層として形成した後、この導電層上に湿式めっきで金属層を厚く形成したメタライズドフィルムを用いてもよい。
樹脂層や樹脂フィルムとしては公知のものを用いることができる。樹脂層や樹脂フィルムの厚みは特に制限されないが、例えば1〜100μm、より好ましくは3〜50μmのものを好適に用いることができる。又、接着剤を用いた場合、接着層の厚みは例えば10μm以下とすることができる。
材料の軽薄化の観点から、電磁波シールド材100の厚みは1.0mm以下、より好ましくは0.01〜0.5mmであることが好ましい。
そして、電磁波シールド材100をケーブルの外側に巻くことで、シールドケーブルが得られる。
【実施例】
【0025】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(基材)
圧延銅箔としては、圧延油の粘度や圧延ロールの算術平均粗さRaなどの製造条件を調整することで、表1に示す算術平均粗さRaで厚さ8μmの圧延銅箔(JX日鉱日石金属製の型番C1100)を用いた。
電解銅箔としては、厚さ8μmの無粗化処理の電解銅箔(JX日鉱日石金属製の型番JTC箔)を用いた。
Cuメタライズドフィルムとしては、厚さ8μmのメタライジングCCL(日鉱金属製の製品名「マキナス」)を用いた。
アルミニウム箔としては、厚さ12μmのアルミニウム箔(サン・アルミニウム工業社製)を用いた。
Alメタライズドフィルムとしては、厚さ12μmのPETフィルム(東洋紡績社製)に真空蒸着でアルミニウムを6μm形成したものを用いた。
基材、及び後述するSn−Ni合金層形成後の最表面の算術平均粗さRaは、非接触型3次元形状測定装置(三鷹光器社製NH−3)を用い、下記条件で測定した。
レーザー種類:He−Neレーザー
レーザー波長:633nm
レーザー出力:1.8mW
【0026】
(Sn−Ni合金層)
Sn−Ni合金層を、上記基材の片面に形成した。表1に、Sn−Ni合金層の形成方法を示す。
表1において「めっき」とは、図1(a)に示す方法で第1層(Ni層)21、第2層(Sn層)22をこの順でめっきした後、窒素雰囲気下において表1の条件で熱処理したものであり、熱処理後に第1層21が残存した場合、その層を下地層として表1に組成を記載した。表1において「合金めっき」は、合金めっきによりSn−Ni合金層を形成したものである。
又、実施例14〜17は、第1層21として、Ni層の代わりに表1に示す組成のNi合金めっき(NiにC元素群を加えた組成)を施した。そして、熱処理によりSn−Ni合金層を形成した際、Sn−Ni合金層の下層にNi合金めっき層が下地層として残存した。又、熱処理の際、下地層からNi以外の元素(P、W、Fe、Co)も拡散し、3成分を含むSn−Ni合金層が形成された。
又、実施例9、10はアルミニウム箔に置換めっきによってZn層を形成した後、Zn層の上に下地Ni層、下地Ni層の上にSnめっきを施し、さらに熱処理によりSn−Ni合金層を形成した。
【0027】
なお、各めっきは、以下の条件で形成した。
Niめっき:硫酸Ni浴(Ni濃度:20g/L、電流密度:2〜10A/dm
Snめっき:フェノールスルホン酸Sn浴(Sn濃度:40g/L、電流密度:2〜10A/dm
Zn置換めっき:ジンケート浴(Zn濃度:15g/L)
Ni−Snめっき:ピロリン酸塩浴(Ni濃度10g/L、Sn濃度10g/L、電流密度:0.1〜2A/dm
【0028】
Ni−P:硫酸浴(Ni濃度:20g/L、P濃度:20g/L、電流密度:2〜4A/dm
Ni−W:硫酸浴(Ni濃度:20g/L、W濃度:20g/L、電流密度:0.1〜2A/dm
Ni−Fe:硫酸浴(Ni濃度:20g/L、Fe濃度:10g/L、電流密度:0.1〜2A/dm
Ni−Co:硫酸浴(Ni濃度:20g/L、Co濃度:10g/L、電流密度:0.1〜2A/dm
【0029】
表1において「スパッタ」は、Ni,Snをこの順でスパッタした後、熱処理したものである。
表1において「合金スパッタ」は、対応する合金のターゲット材を用いてスパッタして合金層を形成したものである。なお、合金スパッタで成膜される層は合金層そのものの組成であるので、熱処理は行わなかった。
なお、スパッタ、合金スパッタは以下の条件で行った。
スパッタ装置:バッチ式スパッタリング装置(アルバック社、型式MNS−6000)
スパッタ条件:到達真空度1.0×10-5Pa、スパッタリング圧0.2Pa、スパッタリング電力50W
ターゲット:Ni(純度3N)、Ni−Sn(それぞれ(質量%で)Ni:Sn=85:15、85:25、60:40、27:73、20:80、15:85)
【0030】
(Sn−Ni合金層、下地層、Sn酸化物の同定及び厚みの測定)
得られた電磁波シールド用金属箔の断面試料について、STEM(走査透過型電子顕微鏡、日本電子株式会社製JEM−2100F)による線分析を行い、層構成を判定した。分析した指定元素は、Sn、Ni、Cu、P、W、Fe、Co、Zn、C、S及びOである。また、上記した指定元素の合計を100%として、各層における各元素の割合(wt%)を分析した(加速電圧:200kV、測定間隔:2nm)。
図5に示すように、Snを5wt%以上含み、かつNiを5wt%以上含む層をSn−Ni合金層とし、その厚みを図5上(線分析の走査距離に対応)で求めた。Sn−Ni合金層よりも下層側に位置し、Snが5wt%未満であり、Niを5wt%以上含む層を下地層とし、その厚みを図上で求めた。Sn−Ni合金層より上層側に位置し、Snが5wt%以上であり、かつOが5wt%以上である層をSn酸化物とし、その厚みを図上で求めた。STEMの測定を3視野で行い、3視野×5カ所の平均値を各層の厚さとした。
【0031】
(Sn−Ni合金層、下地層の組成)
図5で同定したSn−Ni合金層、下地層のそれぞれについて、各元素を示す曲線の面積を求め、この面積を各元素の量とみなした。そして、各元素の面積比から組成(wt%)を算出した。例えば、図5のSn−Ni合金層の場合、Sn−Ni合金層の範囲を示す図5の横軸の区間A−Bの間でSn及びNiを示す曲線の面積をそれぞれ求め、面積比からSn−Niの割合を算出した。
【0032】
(接触角の測定)
接触角計(協和界面科学株式会社製、CA−D型)を使用し、下記条件で蒸留水に対する電磁波シールド用金属箔のSn−Ni合金層側の最表面の接触角を測定した。
水滴:1.5μL
水温:25℃
測定倍率:36倍
【0033】
(接触抵抗及び耐食性の評価)
得られた電磁波シールド用金属箔のSn−Ni合金層側の面について、塩水噴霧試験およびガス腐食試験を行い、試験前の初期及び各試験後のSn−Ni合金層側の最表面の接触抵抗を測定した。
接触抵抗の測定は山崎精機株式会社製の電気接点シミュレーターCRS−1を使用して四端子法で測定した。プローブ:金プローブ、接触荷重:20gf、バイアス電流:10mA、摺動距離:1mm
塩水噴霧試験は、JIS−Z2371(温度:35℃、塩水成分:塩化ナトリウム、塩水濃度:5wt%、噴霧圧力:98±10kPa、噴霧時間:48h)に従った。
◎:接触抵抗が20mΩ未満
○:接触抵抗が20mΩ以上、100mΩ未満
×:接触抵抗が100mΩ以上
【0034】
ガス腐食試験は、IEC60512−11−7の試験方法4(温度:25℃、湿度:75%、H2S濃度:10ppb、NO2濃度:200ppb、Cl2濃度:10ppb、SO2濃度:200ppb、試験時間:7日間)に従った。
接触抵抗は以下の基準で評価した。
◎:接触抵抗が10mΩ未満
○:接触抵抗が10mΩ以上100mΩ未満
×:接触抵抗が100mΩ以上
なお、初期、塩水噴霧試験後、及びガス腐食試験後の評価がいずれも◎か○であれば、腐食環境においても耐食性に優れている。
【0035】
得られた結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1から明らかなように、基材の表面にSnを20〜80質量%含むSn−Ni合金層が厚さ30nm以上形成され、かつ最表面の水に対する接触角が80°以上である各実施例の場合、腐食環境においても耐食性に優れたものとなった。
なお、図4、5は、それぞれ実施例1の試料のSTEMによる断面像、及びSTEMによる線分析の結果を示す。断面像におけるX層、Y層は、線分析の結果から、それぞれSn−Ni合金層、Ni層(下地層)であることがわかる。
【0038】
Sn−Ni合金層の厚みが30nm未満である比較例1の場合、耐食性が劣った。
Sn−Ni合金層の厚みが500nmを超えた比較例2の場合、最表面のRaが0.12μmを超えて大きくなり、接触角が80°未満となって耐食性が劣った。
Sn−Ni合金層中のSn割合が20質量%未満である比較例3の場合、耐食性が劣った。
Sn割合が80質量%を超えた比較例4の場合、最表面のRaが0.12μmを超えて大きくなり、接触角が80°未満となって耐食性が劣った。
Sn−Ni合金の代わりにSn−Cu合金を形成した比較例5の場合、耐食性が劣った。
基材のRaが0.12μmを超えた比較例6の場合、最表面のRaも0.12μmを超えて大きくなり、接触角が80°未満となって耐食性が劣った。


【符号の説明】
【0039】
1 金属箔
2 Sn−Ni合金層
3 下地層
4 樹脂層又は樹脂フィルム
10 電磁波シールド用金属箔
100 電磁波シールド材
図1
図2
図3
図5
図4