【実施例】
【0025】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(基材)
圧延銅箔としては、圧延油の粘度や圧延ロールの算術平均粗さRaなどの製造条件を調整することで、表1に示す算術平均粗さRaで厚さ8μmの圧延銅箔(JX日鉱日石金属製の型番C1100)を用いた。
電解銅箔としては、厚さ8μmの無粗化処理の電解銅箔(JX日鉱日石金属製の型番JTC箔)を用いた。
Cuメタライズドフィルムとしては、厚さ8μmのメタライジングCCL(日鉱金属製の製品名「マキナス」)を用いた。
アルミニウム箔としては、厚さ12μmのアルミニウム箔(サン・アルミニウム工業社製)を用いた。
Alメタライズドフィルムとしては、厚さ12μmのPETフィルム(東洋紡績社製)に真空蒸着でアルミニウムを6μm形成したものを用いた。
基材、及び後述するSn−Ni合金層形成後の最表面の算術平均粗さRaは、非接触型3次元形状測定装置(三鷹光器社製NH−3)を用い、下記条件で測定した。
レーザー種類:He−Neレーザー
レーザー波長:633nm
レーザー出力:1.8mW
【0026】
(Sn−Ni合金層)
Sn−Ni合金層を、上記基材の片面に形成した。表1に、Sn−Ni合金層の形成方法を示す。
表1において「めっき」とは、
図1(a)に示す方法で第1層(Ni層)21、第2層(Sn層)22をこの順でめっきした後、窒素雰囲気下において表1の条件で熱処理したものであり、熱処理後に第1層21が残存した場合、その層を下地層として表1に組成を記載した。表1において「合金めっき」は、合金めっきによりSn−Ni合金層を形成したものである。
又、実施例14〜17は、第1層21として、Ni層の代わりに表1に示す組成のNi合金めっき(NiにC元素群を加えた組成)を施した。そして、熱処理によりSn−Ni合金層を形成した際、Sn−Ni合金層の下層にNi合金めっき層が下地層として残存した。又、熱処理の際、下地層からNi以外の元素(P、W、Fe、Co)も拡散し、3成分を含むSn−Ni合金層が形成された。
又、実施例9、10はアルミニウム箔に置換めっきによってZn層を形成した後、Zn層の上に下地Ni層、下地Ni層の上にSnめっきを施し、さらに熱処理によりSn−Ni合金層を形成した。
【0027】
なお、各めっきは、以下の条件で形成した。
Niめっき:硫酸Ni浴(Ni濃度:20g/L、電流密度:2〜10A/dm
2)
Snめっき:フェノールスルホン酸Sn浴(Sn濃度:40g/L、電流密度:2〜10A/dm
2)
Zn置換めっき:ジンケート浴(Zn濃度:15g/L)
Ni−Snめっき:ピロリン酸塩浴(Ni濃度10g/L、Sn濃度10g/L、電流密度:0.1〜2A/dm
2)
【0028】
Ni−P:硫酸浴(Ni濃度:20g/L、P濃度:20g/L、電流密度:2〜4A/dm
2)
Ni−W:硫酸浴(Ni濃度:20g/L、W濃度:20g/L、電流密度:0.1〜2A/dm
2)
Ni−Fe:硫酸浴(Ni濃度:20g/L、Fe濃度:10g/L、電流密度:0.1〜2A/dm
2)
Ni−Co:硫酸浴(Ni濃度:20g/L、Co濃度:10g/L、電流密度:0.1〜2A/dm
2)
【0029】
表1において「スパッタ」は、Ni,Snをこの順でスパッタした後、熱処理したものである。
表1において「合金スパッタ」は、対応する合金のターゲット材を用いてスパッタして合金層を形成したものである。なお、合金スパッタで成膜される層は合金層そのものの組成であるので、熱処理は行わなかった。
なお、スパッタ、合金スパッタは以下の条件で行った。
スパッタ装置:バッチ式スパッタリング装置(アルバック社、型式MNS−6000)
スパッタ条件:到達真空度1.0×10
-5Pa、スパッタリング圧0.2Pa、スパッタリング電力50W
ターゲット:Ni(純度3N)、Ni−Sn(それぞれ(質量%で)Ni:Sn=85:15、85:25、60:40、27:73、20:80、15:85)
【0030】
(Sn−Ni合金層、下地層、Sn酸化物の同定及び厚みの測定)
得られた電磁波シールド用金属箔の断面試料について、STEM(走査透過型電子顕微鏡、日本電子株式会社製JEM−2100F)による線分析を行い、層構成を判定した。分析した指定元素は、Sn、Ni、Cu、P、W、Fe、Co、Zn、C、S及びOである。また、上記した指定元素の合計を100%として、各層における各元素の割合(wt%)を分析した(加速電圧:200kV、測定間隔:2nm)。
図5に示すように、Snを5wt%以上含み、かつNiを5wt%以上含む層をSn−Ni合金層とし、その厚みを
図5上(線分析の走査距離に対応)で求めた。Sn−Ni合金層よりも下層側に位置し、Snが5wt%未満であり、Niを5wt%以上含む層を下地層とし、その厚みを図上で求めた。Sn−Ni合金層より上層側に位置し、Snが5wt%以上であり、かつOが5wt%以上である層をSn酸化物とし、その厚みを図上で求めた。STEMの測定を3視野で行い、3視野×5カ所の平均値を各層の厚さとした。
【0031】
(Sn−Ni合金層、下地層の組成)
図5で同定したSn−Ni合金層、下地層のそれぞれについて、各元素を示す曲線の面積を求め、この面積を各元素の量とみなした。そして、各元素の面積比から組成(wt%)を算出した。例えば、
図5のSn−Ni合金層の場合、Sn−Ni合金層の範囲を示す
図5の横軸の区間A−Bの間でSn及びNiを示す曲線の面積をそれぞれ求め、面積比からSn−Niの割合を算出した。
【0032】
(接触角の測定)
接触角計(協和界面科学株式会社製、CA−D型)を使用し、下記条件で蒸留水に対する電磁波シールド用金属箔のSn−Ni合金層側の最表面の接触角を測定した。
水滴:1.5μL
水温:25℃
測定倍率:36倍
【0033】
(接触抵抗及び耐食性の評価)
得られた電磁波シールド用金属箔のSn−Ni合金層側の面について、塩水噴霧試験およびガス腐食試験を行い、試験前の初期及び各試験後のSn−Ni合金層側の最表面の接触抵抗を測定した。
接触抵抗の測定は山崎精機株式会社製の電気接点シミュレーターCRS−1を使用して四端子法で測定した。プローブ:金プローブ、接触荷重:20gf、バイアス電流:10mA、摺動距離:1mm
塩水噴霧試験は、JIS−Z2371(温度:35℃、塩水成分:塩化ナトリウム、塩水濃度:5wt%、噴霧圧力:98±10kPa、噴霧時間:48h)に従った。
◎:接触抵抗が20mΩ未満
○:接触抵抗が20mΩ以上、100mΩ未満
×:接触抵抗が100mΩ以上
【0034】
ガス腐食試験は、IEC60512−11−7の試験方法4(温度:25℃、湿度:75%、H2S濃度:10ppb、NO2濃度:200ppb、Cl2濃度:10ppb、SO2濃度:200ppb、試験時間:7日間)に従った。
接触抵抗は以下の基準で評価した。
◎:接触抵抗が10mΩ未満
○:接触抵抗が10mΩ以上100mΩ未満
×:接触抵抗が100mΩ以上
なお、初期、塩水噴霧試験後、及びガス腐食試験後の評価がいずれも◎か○であれば、腐食環境においても耐食性に優れている。
【0035】
得られた結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1から明らかなように、基材の表面にSnを20〜80質量%含むSn−Ni合金層が厚さ30nm以上形成され、かつ最表面の水に対する接触角が80
°以上である各実施例の場合、腐食環境においても耐食性に優れたものとなった。
なお、
図4、5は、それぞれ実施例1の試料のSTEMによる断面像、及びSTEMによる線分析の結果を示す。断面像におけるX層、Y層は、線分析の結果から、それぞれSn−Ni合金層、Ni層(下地層)であることがわかる。
【0038】
Sn−Ni合金層の厚みが30nm未満である比較例1の場合、耐食性が劣った。
Sn−Ni合金層の厚みが500nmを超えた比較例2の場合、最表面のRaが0.12μmを超えて大きくなり、接触角が80
°未満となって耐食性が劣った。
Sn−Ni合金層中のSn割合が20質量%未満である比較例3の場合、耐食性が劣った。
Sn割合が80質量%を超えた比較例4の場合、最表面のRaが0.12μmを超えて大きくなり、接触角が80°未満となって耐食性が劣った。
Sn−Ni合金の代わりにSn−Cu合金を形成した比較例5の場合、耐食性が劣った。
基材のRaが0.12μmを超えた比較例6の場合、最表面のRaも0.12μmを超えて大きくなり、接触角が80
°未満となって耐食性が劣った。