【文献】
Diagnostic Microbiology and Infectious Disease,2008年,Vol.62,pp.374-381
【文献】
Applied and Environmental Microbiology,2011年 4月,Vol.77, No.7,pp.2531-2533
【文献】
Journal of Applied Microbiology,2010年12月,Vol.110,pp.605-617
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
転写因子PrfAのゲノム遺伝子座が欠失しているリステリア・モノサイトゲネス種遺伝子組み換え細菌であって、内部増幅コントロール(IAC)として作用する人工配列をゲノムレベルで含むことを特徴とするリステリア・モノサイトゲネス細菌。
前記プライマー結合配列が、野生型リステリア・モノサイトゲネスのゲノムprfA遺伝子座のプライマー結合配列と同一である、請求項2に記載のリステリア・モノサイトゲネス細菌。
2010年5月20日にDSM 23639の番号でリステリア・モノサイトゲネスΔprfA/+IACとしてDSMZに寄託された配列番号:1の内部増幅コントロール配列(IAC)を含んでなる、転写因子PrfAのゲノム遺伝子座が欠失している遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネスEGDe菌株。
野生型リステリア・モノサイトゲネスで汚染されている疑いのあるサンプル中における前記微生物の存在を定性的および/または定量的に検出および決定するための、請求項1〜6のいずれかに記載の遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネスの使用。
リアルタイムPCRアッセイのための内部サンプルプロセスコントロール(ISPC)としての、請求項1〜6のいずれかに記載の遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネスの使用。
工程(d)(ii)で用いられる蛍光標識プローブが、IAC配列を検出するためのpLucLm4(配列番号:4)およびprfA遺伝子座を検出するためのLipProbe(配列番号:5)である、請求項10または11に記載の方法。
野生型リステリア・モノサイトゲネスで汚染されている疑いのあるサンプル中における前記微生物を検出および決定するためのアッセイにおいて用いるためのキットであって、少なくとも、一または二以上のパッケージ中に、
(i)請求項1〜6のいずれかに記載の遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネス、
(ii)野生型リステリア・モノサイトゲネスのゲノムprfA遺伝子座および請求項1〜6のいずれかに記載の遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネスのIAC配列に特異的なプライマー、および
(iii)前記prfA遺伝子座と特異的にハイブリッド形成することができる蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブおよび前記IAC配列と特異的にハイブリッド形成することができる蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブ
を含んでなるキット。
前記蛍光標識プローブが、IAC配列を検出するためのpLucLm4(配列番号:4)およびprfA遺伝子座を検出するためのLipProbe(配列番号:5)である、請求項14または15に記載のキット。
【発明を実施するための形態】
【0013】
従って、本発明の第一の局面は、転写因子PrfAのゲノム遺伝子座が欠失しているリステリア・モノサイトゲネス種遺伝子組み換え細菌であって、内部増幅コントロール(IAC)として作用する人工配列をゲノムレベルで含むことを特徴とするリステリア・モノサイトゲネス細菌である。
【0014】
リステリア・モノサイトゲネス種遺伝子組み換え細菌は、遺伝子組み換え技術を用いて遺伝物質を変化させることにより生じるリステリア・モノサイトゲネス種を意味する。遺伝子組み換えには、遺伝子の挿入および/または欠失が挙げられる。prfA遺伝子の欠失は、例えば、Boeckmann et al. (1996) Mol. Microbiol. 22, 643-653に開示のように達成される。
【0015】
転写因子PrfAのゲノム遺伝子座は、タンパク質PrfAをコードしている核酸配列を意味する。これは、705個の塩基対からなる配列である(Leimeister-Wachter et al., 1990; Proc Natl Acad Sci USA, 87, 8336-40; Glaser et al., 2001 ; Science, 294, 849-52)。その遺伝子は、リステリア・モノサイトゲネスのリステリオリシン遺伝子(lisA)の周りの染色体領域内に位置する(GeneID:987031; http://www.ncbi.nlm.nih. gov/gene/987031#pageTop)。転写因子PrfAに関する情報は、Scortti et al.(2007) Microbes and Infection 9, 1 196-1207にも与えられており、それをここで参照として援用する。PrfAは、リステリア・モノサイトゲネスの主要病原性決定因子の発現を調節する。PrfAは、237個の残基からなる27kDaのタンパク質である。転写因子PrfAのゲノム遺伝子座の欠失は、突然変異による非病原菌を提供する。
【0016】
本発明によれば、内部増幅コントロール(IAC)は、Hoorfar et al. (2003) Lett. Appl. Microbiol. 38, 79-80により定義されているように、PCR反応中にサンプル管内に存在して特定の標的配列と共増幅される人工核酸配列を意味する。IACの存在により、偽陰性の結果を決めることができる。IAC配列は、どんなポリヌクレオチド配列であってもよい。この配列の大きさは、特異的PCRアッセイおよびその反応条件により変わり得る。
【0017】
IAC配列は、単一コピーヌクレオチド配列、すなわちリステリア・モノサイトゲネス細菌のハプロイドゲノム中に1回だけ存在するヌクレオチド配列であることが好ましい。
【0018】
好ましくは、IAC配列は、検査される一つのサンプルまたはサンプルマトリクスそのものの中に自然に存在することが予想されるリステリア・モノサイトゲネス、または何らかの他の種の中に存在しない配列である。
【0019】
IAC配列は、5’および3’末端にプライマー結合配列を含むことが好ましい。
【0020】
本発明によれば、IACは競合的IACである、すなわち遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネスのIACと野生型リステリア・モノサイトゲネスの標的配列prfAとが、リアルタイムPCR中、同じ条件下に同じPCR管内で共通の1セットのプライマーを用いて増幅されることが好ましい。従って、IACのプライマー結合配列は、野生型リステリア・モノサイトゲネスのゲノムprfA遺伝子座のプライマー結合配列と同一であることが特に好ましい。
【0021】
本発明の特に好ましい態様において、人工IAC配列は、配列番号:1:5'-GAT ACA GAA ACA TCG GTT GGC GTA TTC GAA ATG TCC GTT CGG TTG GCG CTA TGA AGA GAT ACG CGG TGG AAC CTG GAA CCT GAT GGC ATC AAG ATT ACA C-3'による100bp配列である。
【0022】
このIAC配列は、Rossmanith et al. (2006) Res. Microbiol. 157, 763-771に開示されている。本発明によれば、配列番号:1への相同性が80%を超えるIAC配列を用いることができる。好ましくは、配列相同性は90%を超え、より好ましくは95%を超える。
【0023】
本発明によれば、先に特定したような遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネスEGDe菌株が好ましい。
【0024】
リステリア・モノサイトゲネスEGDe菌株は、リステリア・モノサイトゲネス血清型1/2a臨床製剤である。この菌株は、科学的用途において最も広まっているモデル生物である(GenBank: AL591978; Glaser et al. (2001) Science 294 (5543), 849-52)。
【0025】
本発明のさらなる局面は、2010年5月20日にDSM 23639の番号でリステリア・モノサイトゲネスΔprfA/+IACとしてDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Braunschweig)に寄託されている配列番号:1の内部増幅コントロール(IAC)配列を含んでなる、転写因子PrfAのゲノム遺伝子座が欠失している遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネスEGDe菌株である。
【0026】
本発明のリステリア・モノサイトゲネス種遺伝子組み換え細菌は、信頼性ある内部サンプルプロセスコントロールに課せられる要求を満たす。これは、野生型リステリア・モノサイトゲネスにできるだけ近いものである。これは、リアルタイムPCRによる主検出反応を妨げず、コントロールの検出のための基本となる化学反応の性能は、主反応に等しい。さらに、ISPCとしてリステリア・モノサイトゲネス細胞を適用することにより、サンプル調製からリアルタイムPCRを用いる検出までの食物病原菌検出に含まれる必要な方法の全工程を対象することができる。
【0027】
本発明のもう一つの局面は、野生型リステリア・モノサイトゲネスで汚染されている疑いのあるサンプル中における前記微生物の存在を定性的および/または定量的に検出および決定のための、先に特定された遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネスの使用である。
【0028】
好ましくは、そのサンプルは、食物サンプル、体液、特に血液、血漿もしくは血清;水または組織サンプルである。
【0029】
例示的サンプルとしては、食物(例えば、雌牛、雌羊、雌山羊、雌馬、ロバ、ラクダ、ヤク、水牛およびトナカイの乳;乳製品;牛、山羊、子羊、羊、豚、蛙足、子牛、齧歯動物、馬、カンガルー、家禽(例えば、鶏、七面鳥、アヒル、ガチョウ、土鳩またはハト)、ダチョウおよびエミューの肉;海産物(例えば、サケおよびテラピアのようなフィンフィッシュ(finfish)、並びに軟体動物、甲殻類および巻貝のようなシェルフィッシュ(shellfish));肉製品;植物生成物;種子;イネ科の穀類(例えば、トウモロコシ、小麦、米、大麦、ソルガムおよび雑穀);非イネ科の穀類(例えば、ソバ、アマランスおよびキノア);マメ科植物(例えば、豆、落花生、エンドウおよびレンティル);堅果(例えば、アーモンド、クルミおよび松の実);油糧種子(例えば、ヒマワリ、菜種およびゴマ);根菜のような野菜(例えば、ジャガイモ、キャッサバおよびカブ);葉菜(例えば、アマランス、ホウレンソウおよびケール);海藻(例えば、デュルセ、コンブおよびバダーロックス);茎菜(例えば、タケノコ、ノパレスおよびアスパラガス);花序野菜(例えば、アーティチョーク、ブロッコリーおよび萱草);および果菜(例えば、カボチャ、オクラおよび茄子);果物;ハーブおよびスパイス);全血;尿;痰;唾液;羊水;血漿;血清;肺洗浄液および組織(例えば、限定はされないが、肝臓、脾臓、腎臓、肺、腸、脳、心臓、筋肉および膵臓);等が挙げられるがこられに限定されない。当業者は、前記例示的サンプルのいずれかから得られる溶解物、抽出物または(均質化)材料、前記例示的サンプルの混合物、または前記例示的サンプルの一種または二種以上を含む組成物も、本発明の範囲内のサンプルであることを理解する。
【0031】
食物サンプルは、好ましくは乳製品、好ましくは乳、特に生乳、粉乳、ヨーグルト、チーズまたはアイスクリーム、魚製品、好ましくは生魚、肉製品、好ましくは生肉、濯ぎ肉(meat rinse)またはソーセージ、濯ぎサラダ(salad rinse)、チョコレート、卵または卵製品、マヨネーズ等である。
【0032】
本発明の方法において用いられる特に好ましい食物サンプルは、発病させる可能性のあるリステリア・モノサイトゲネスを含むことが通常知られているサンプル、例えばチーズである。
【0033】
好ましくは、先に特定した遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネスは、リアルタイムPCRアッセイのための内部サンプルプロセスコントロール(ISPC)として用いられる。
【0034】
本発明によれば、ISPCは、サンプル調製前にオリジナルサンプルに加えられるモデル生物である。ISPCは、サンプル調製から標的分子検出までの全分析連鎖の効率に対する尺度を提供し、従来のまたはリアルタイムPCRを用いた信頼性ある定量的病原菌検出に必要な全ての系統的工程を対象とする。
【0035】
本発明のさらなる局面は、野生型リステリア・モノサイトゲネスで汚染されている疑いのあるサンプル中における前記病原性微生物の存在を検出および決定するための方法であって、
(a)先に特定した遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネス細菌の所定量の細胞を前記サンプルに添加する工程、
(b)そのサンプルを抽出溶液と共にインキュベーションする工程、
(c)標準的方法によりDNAを単離する工程、
(d)(i)野生型リステリア・モノサイトゲネスのゲノムprfA遺伝子座および先に特定した遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネスのIAC配列に特異的なプライマー、並びに(ii)前記prfA遺伝子座と特異的にハイブリッド形成することができる蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブおよび前記IAC配列と特異的にハイブリッド形成することができる蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブを用いて、リアルタイムPCRを適用する工程、
(e)工程(d)により生じた蛍光信号を定性的および/または定量的に決定する工程、および
(f)野生型リステリア・モノサイトゲネスで汚染されている疑いのあるオリジナルサンプル中における前記微生物の細胞の存在および/または量を、工程(e)から決定するおよび/または計算する工程
を含んでなる方法である。
【0036】
工程(a)において、先に特定した遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネス細菌の所定量の細胞をサンプルに添加する。サンプルへの添加量はサンプルの大きさに依存する。好ましくは、25〜100000CFU(コロニー形成単位)の量の遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネスを、例えば25gのサンプルに添加する。25g当たり100〜5000CFUの量が特に好ましい。
【0037】
コロニー形成単位(CFU)は、サンプル中の生存細胞の評価基準である。これは、培養方法により、例えば細菌培養ゲル上にサンプルを均一に塗り広げることにより決めることができる。適切な培養条件下でのインキュベーションの結果としてコロニーが形成される。コロニーの数はサンプル中のコロニー形成単位の数を表す。別の方法として、細胞計数は、例えばLive/Dead(登録商標) BacLight(商標) Bacterial Viability Kit (Molecular Probes, Willow Creek, OR, USA)を用いる蛍光染色細胞の顕微鏡的計数または匹敵する商業的方法により決めることができる。
【0038】
工程(b)で用いられる抽出溶液は、水溶液または緩衝溶液である。典型的には、そのpH値は5を超え9を下回る、好ましくは6を超え8を下回る、好ましくは6.5〜7.5の間である。抽出溶液は、さらに、20%までの一種または二種以上の水混和性有機溶媒を含んでよい。
【0039】
本発明の方法で用いることができる緩衝液は、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水緩衝液(PBS)、2−アミノ-2-ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(TRIS)緩衝液、TRIS緩衝生理食塩水緩衝液(TBS)およびTRIS/EDTA(TE)からなる群より選択されることが好ましい。
【0040】
本発明の一つの態様において、抽出溶液は、さらに、MgCl
2および/またはイオン液体を含む。MgCl
2は、存在する場合、典型的には0.05〜3M、好ましくは0.1〜2M、より好ましくは0.3〜1Mの間の濃度で存在する。
【0041】
本発明のもう一つの態様において、抽出溶液は、さらに、少なくとも一種のカオトロープおよび少なくとも一種の洗剤を含む。
【0042】
イオン液体は、存在する場合、典型的には、混合物の重量を基準に0.5〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の間の濃度で存在する。このイオン液体は、一種のイオン液体または二種以上のイオン液体の混合物であり得る。好ましい態様において、抽出溶液はMgCl
2またはイオン液体を含む。
【0043】
本発明で用いられるイオン液体は、有機カチオンおよび通常は無機のアニオンからなるイオン種である。これらは、いかなる中性分子も含まず、通常、融点が373Kを下回る。イオン液体についての総説は、例えばR. Sheldon "Catalytic reactions in ionic liquids", Chem. Commun., 2001, 2399-2407; M.J. Earle, K.R. Seddon "Ionic liquids. Green solvent for the future", Pure Appl. Chem., 72 (2000), 1391-1398; P. Wasserscheid, W. Keim "lonische Fluessigkeiten - neue Loesungen fuer die Uebergangsmetallkatalyse" [Ionic liquids - Novel Solutions for Transition-Metal Catalysis], Angew. Chem., 1 12 (2000), 3926-3945; T. Welton "Room temperature ionic liquids. Solvents for synthesis and catalysis", Chem. Rev., 92 (1999), 2071-2083またはR. Hagiwara, Ya. Ito "Room temperature ionic liquids of alkylimidazolium cations and fluoroanions", J. Fluorine Chem., 105 (2000), 221-227である。
【0044】
通常、当業者に知られている一般式K
+A
−で示される全てのイオン液体、特に水と混和性であるものが、本発明の方法において適している。
【0045】
さらに好ましい態様において、イオン液体またはMgCl
2が存在する場合、抽出溶液は洗剤を含まない、これは、ドデシル硫酸ナトリウム、CHAPS、ルテンゾールAO−7のようなアニオン性、両性イオン性または非イオン性洗剤が抽出溶液に添加されないことを意味している。
【0046】
ここで用いられる「カオトロープ」という用語は、例えば、限定はされないが、一次構造はそのまま残しつつ二次、三次または四次構造を変化させることによりタンパクまたは核酸において無秩序を引き起こす物質を意味する。例示的カオトロープとしては、グアニジン塩酸塩(GuHCl)、チオシアン酸グアニジン(GuSCN)、チオシアン酸ナトリウム(KSCN)、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、尿素等が挙げられるが、こられに限定されない。カオトロープおよびカオトロピック塩の記述を、例えば、K. Hamaguchi et al. (Proc.Natl.Acad.Sci.(1962)62:1129-1136)に見つけることができる。
【0047】
ここで用いられる「洗剤」という用語は、親油性および親水性も有する(すなわち両親媒性の)分子を意味する。本発明による洗剤は、例えば脂肪酸残基および親水性(例えばアニオン性またはカチオン性)部分を含んでよい。
【0048】
さらに、特定のサンプル中に存在する物質の分解を促す生体高分子分解酵素または不安定化剤のような一種または二種以上のさらなる物質を抽出溶液に加えることが可能である。一例は、多量のコラーゲンおよび/またはデンプンを含む食物サンプル用のデンプン分解酵素の添加である。
【0049】
インキュベーションは、典型的には18℃〜50℃、好ましくは25℃〜45℃、より好ましくは30℃〜42℃の間の温度で行われる。
【0050】
サンプルは、典型的には、抽出溶液と共に10分〜6時間、好ましくは20分〜1時間インキュベーションされる。
【0051】
サンプルの溶解を容易するために、前記サンプルを、例えば、抽出溶液と共にインキュベーションする前にストマッカーを用いて均質化することができる。インキュベーション中に混合物を攪拌すると溶解がさらに支持および/または促進される。
【0052】
さらなる抽出方法を、例えばBrehm-Stecher et al. (2009) Journal of Food Protection 72: 1774-1789に見ることができる。
【0053】
本発明によれば細菌材料のDNAを工程(c)で単離する。当該分野で知られている種々の方法、例えばSambrook et al. (1989) Molecular cloning: a laboratory manual, 2nd ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.に開示された方法を用いてDNAを抽出することができる。通常、DNA抽出は、細胞溶解と、沈殿または、種々の基質、例えばシリカへの特異的結合によるDNA精製とを含む。
【0054】
細胞溶解は、標準的方法により、例えば、酵素法、ビード法、超音波処理、洗剤法またはそれらの組み合わせにより達成することができる。好ましくは洗剤法が用いられる。酵素的細胞溶解のための適切な酵素は、例えば、リゾチーム、リゾスタフィン、ザイモラーゼ、セルラーゼ、ムタノライシン、グリカナーゼ、プロテアーゼおよびマンナーゼである。
【0055】
細胞破壊に適したビードは、ガラス、セラミック、ジルコニウムまたはスチールである。ビードを細胞に添加した後、混合物のかき回しまたは揺り動かしによる攪拌が適用される。攪拌は、例えば一般的実験室用ボルテックスミキサーによりまたは特別に設計されたクランプ中で適用することができる。
【0056】
本発明によれば、細胞溶解のためのさらなる方法は超音波処理である。この方法はサンプルへの超音波(典型的には20−50kHz)の適用を含む。
【0057】
洗剤系細胞溶解の結果として、細胞を取り囲む脂質バリアが破壊される。適切な洗剤は、非イオン性、両性イオン性およびイオン性洗剤、例えば、CHAPS、Triton(登録商標)XまたはTWEEN(登録商標)から選択することができる。好ましくはイオン性洗剤が用いられる。適切なイオン性洗剤に対する一例はSDSである。
【0058】
洗剤の選択に加えて、最適な細胞溶解のための他の重量な考慮事項には、緩衝液、pH、イオン強度および温度が挙げられる。溶解溶液は、典型的には、pH値が5を超え9を下回る、好ましくは6を超え8を下回る、より好ましくは6.5〜7.5の間である。
【0059】
用いることができる緩衝液は、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水緩衝液(PBS)、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(TRIS)緩衝液、TRIS緩衝生理食塩水緩衝液(TBS)およびTRIS/EDTA(TE)からなる群より選択されることが好ましい。
【0060】
任意に、一種または二種以上のキレート剤を溶解溶液に加えて二価カチオンを封鎖することができる。適切なキレート剤は、例えば、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、EGTA(エチレングリコール四酢酸)またはエチレンジアミンである。好ましくはEDTAが用いられる。
【0061】
前記細胞溶解法には、典型的には、細胞材料からDNAを分離するための遠心分離が続く。当業者は遠心分離のためのパラメーターを容易に決めることができる。典型的には、遠心分離はSambrook et al. (1989) Molecular cloning: a laboratory manual, 2nd ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.に開示されたように行われる。
【0062】
細胞溶解後、DNAは、通常、アルコール、好ましくはエタノールまたはイソプロパノールを添加することにより沈殿させられる。
【0063】
さらに、NucleoSpin(登録商標)組織キットのような市販のDNA単離キットおよびグラム陽性細菌用のサポートプロトコール(Machery-Nagel, Duren, Germany)または細菌からのゲノムDNA用のNexttec(登録商標)キット(Nexttec GmbH Biotechnologie, Leverkusen, Germany)を用いて、増幅に適した状態でDNAを提供することができる。
【0064】
本発明のさらなる態様において、細菌材料は、工程(c)におけるDNA単離の前に分離される。このさらなる工程は、得られるPCRサンプル中のDNAの高濃度を達成可能にするので特に好ましい。細菌材料の分離は、遠心分離、濾過、誘電泳動および超音波または親和結合のような任意の既知の方法により、例えば、好ましくはビード上に固定された抗体、レクチン、ウイルス結合性タンパク、アプタマーまたは抗微生物ペプチド(AMP)を用いて達成することができる。好ましくは、細胞は濾過または遠心分離により、最も好ましくは遠心分離により単離される。本発明の方法でほとんど抽出できないまたは抽出できない材料を複合サンプルが含む場合、抽出サンプルの濾過が特に必要である。典型的には、これらの材料はデンプンおよび/または繊維を含む。しかしながら、抽出混合物から細胞を単離するための好ましい方法は遠心分離である。
【0065】
サンプルマトリクスに応じて、インキュベーション工程を1回または複数回、例えば2回、3回、4回、5回または10回繰り返してよい。これらのインキュベーション工程の間に、細菌材料および残存サンプルマトリクスを、例えば遠心分離により上澄みから分離することができる。
【0066】
細菌材料の分離後、細胞を水、緩衝溶液および/または洗剤含有溶液で洗うことが好ましい。洗浄工程は数回繰り返してよい。
【0067】
工程(d)において、PCR、好ましくはリアルタイムPCRが適用される。リアルタイムPCRは、PCRの開始前のテンプレート核酸の量に比例する、PCRの各サイクル中に生じる産物を検出および測定するための方法である。増幅曲線のような得られた情報を用いてテンプレート核酸配列の最初の量を定量することができる。
【0068】
検出は、好ましくは設定温度においてサイクル毎に蛍光をモニターすることに基づく。蛍光は、通常、サンプル中に存在する特定の蛍光染料についての特異的励起および発光波長におけるデータを収集するために光学デバイスを用いてモニターされる。サンプルからの蛍光が、バックグラウンドを超える蛍光の検出についての閾値を交差するサイクルはサイクル閾値Ctと呼ばれ、開始テンプレートの定量を可能にする。
【0069】
PCR条件は特に限定されないが、各PCR装置について最適条件を選択することができる。例えば以下の条件を用いることができる:
・二本鎖DNAから一本鎖DNAへの熱変性:
加熱は、通常約90〜98℃、好ましくは約92〜96℃で、通常約3秒〜1分間、好ましくは約30秒〜1分間行う
・アニーリング:
加熱は、通常約40〜70℃、好ましくは約55〜65℃で、通常約5秒〜2分間、好ましくは約30秒〜90秒間行う
・DNA伸長反応:
加熱は、通常約60〜75℃、好ましくは約70〜74℃で、通常約10秒〜3分間、好ましくは約30秒〜2分間行う
・反応液中のMgイオン濃度:
通常約1〜5mM、好ましくは約1.5〜3.5mM。
【0070】
この反応は、典型的には約20〜50サイクル、好ましくは約45サイクルで行われ、それにより標的DNAを検出可能水準まで増幅することができる。
【0071】
任意の市販のリアルタイムPCR装置を用いることができる。
【0072】
本発明の方法の工程(d)(i)によれば、野生型リステリア・モノサイトゲネスのゲノムprfA遺伝子座および先に定義したような遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネスのIAC配列に特異的なプライマーが用いられる。
【0073】
通常、「プライマー」という用語は、標的核酸、すなわちゲノムprfA遺伝子座およびIAC配列のストランドに沿った部分に相補的な、ヌクレオチド9個以上の長さのDNAオリゴヌクレオチドのような短い核酸分子を意味し、プライマーの目的は、そのストランドに沿ってより長い核酸の核酸複製を開始することである。本発明によれば、ヌクレオチド15〜40個のプライマーが好ましい。本発明において、「プライマー」という用語は、増幅すべき標的配列の側面に位置するプライマー対のために用いられる。
【0074】
好ましくは、工程(d)(i)で用いられるプライマーはLip1およびLip2である。Lip1の配列は5'-GAT ACA GAA ACA TCG GTT GGC-3'(配列番号:2)であり、Lip2の配列は5'-GTG TAA TCT TGA TGC CAT CAG G-3'(配列番号:3)である。
【0075】
本発明の方法の工程(d)(ii)によれば、前記prfA遺伝子座と特異的にハイブリッド形成することができる蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブおよび前記IAC配列と特異的にハイブリッド形成することができる蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブが用いられる。
【0076】
本発明によれば、「特異的にハイブリッド形成」という用語は、検出可能にかつ特異的に結合することを意味する。非特異的核酸への検出可能結合の感知できる量を最少化するハイブリッド形成条件下に、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチドおよびそのフラグメントが選択的に核酸ストランドにハイブリッド形成する。
【0077】
蛍光標識オリゴヌクレオチドは、典型的には共有結合した蛍光色素分子を提示するオリゴヌクレオチドである。蛍光色素分子は、特定の光波長に晒されて励起したときに、例えば異なる光波長で、光(蛍光)を発する化学的化合物である。
【0078】
好ましくは、前記prfA遺伝子座および前記IAC配列と特異的にハイブリッド形成することができるオリゴヌクレオチドプローブは、異なる波長の光を発する異なる蛍光色素分子を提示する。これにより、一つのプローブを他から独立して検出できるようになる。
【0079】
リアルタイムPCRに典型的に用いられる蛍光標識プローブは、例えば、ライトサイクラー(LightCycler)(ハイブリッド形成)プローブ、分子指標または加水分解プローブ(いわゆるTaqMan(登録商標)プローブ)である。好ましくは、加水分解プローブが用いられる。
【0080】
ライトサイクラー・プローブは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の技術を利用する。この方法のために、FRET供与体およびFRET受容体にそれぞれ結合している2つの異なるオリゴヌクレオチドプローブが、各標的配列のために用いられる。これらのプローブは、並んで標的配列に結合し、蛍光色素分子を近接させる。
【0081】
分子指標(Tyagi et al., Nat. Biotechnol.14:303-8,1996)は、レポーター蛍光色素分子およびクエンチャーに結合したオリゴヌクレオチドプローブである。5’末端のヌクレオチドは3’末端のヌクレオチドに相補的であり、ステム・ループ構造を形成している。蛍光色素分子とクエンチャーとが近接しているので、蛍光が観察されない。リアルタイムPCR中にプローブが標的配列とハイブリッド形成することにより、レポーターとクエンチャーとの距離が増し、その結果、レポーターの蛍光をもたらす。
【0082】
好ましくは、加水分解プローブ(TaqMan(登録商標)プローブ)が用いられる(Lee et al., Nucleic Acids Res. 21 :3761-6, 1993)。これらのプローブは、また、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の技術を利用する。これらのプローブは一端において蛍光レポーター、反対端において蛍光のクエンチャーを提示する。レポーターがクエンチャーに極めて近接しているので、レポーター蛍光の検出は抑制される。PCRのアニーリング段階中に、プライマーとプローブの両方がDNA標的にアニーリングされる。新しいDNAストランドを重合することにより、ポリメラーゼの5'−3'エキソヌクレアーゼ活性によりプローブが分解されると共に、蛍光レポーターがクエンチャーから物理的に分離し、その結果、蛍光が増す。リアルタイムPCRサーマルサイクラーにおいて蛍光を検出および測定することができ、産物の指数関数的増加に対応するその幾何学的増加を用いて、各反応における閾値サイクル(Ct)を決める(下記参照)。
【0083】
例示的レポーターとして、6−カルボキシフルオレセイン;カルボキシフルオレセイン(FAM);ホウ素ジピロメテンジフルオリド(BODIPY);アクリジン、スチルベン、6−カルボキシ-フルオレセイン(HEX)、TET(テトラメチルフルオレセイン)、6−カルボキシ−X−ローダミン(ROX)、ローダミン−6G、Texas Red、2',7'−ジメトキシ−4',5'−ジクロロ−6−カルボキシフルオレセイン(JOE)、Cy(登録商標)3、Cy(登録商標)5、VIC(登録商標)(Applied Biosystems)、LC Red 640、LC Red 705、Texas Red、Yakima Yellow(登録商標)、また、それらの誘導体が挙げられるが、こられに限定されない。本発明において、FAMおよびHEXから選択されるレポーターが好ましく用いられる。
【0084】
例示的クエンチャーとして、BHQ1(商標)およびBHQ2(商標)のようなBlack Hole Quenchers(WO01/86001A1)、MGB(マイナー−グルーブ−バインダー、EP0819133B1)、N,N,N',N'−テトラメチル−6−カルボキシローダミン(TAMRA)、Eclipse(登録商標) Dark Quencher、DABCYL、DABSYL、DDQ IおよびDDQ IIが挙げられるが、こられに限定されない。本発明によれば、好ましく用いられるクエンチャーはMGBまたはBHQ1(商標)である。
【0085】
当業者はレポーターとクエンチャーとの適切な組み合わせを容易に選択することができる。典型的には、クエンチャーの吸収スペクトルは、最適クエンチングを可能とするためにレポーターの発光スペクトルと充分に重複している必要がある。
【0086】
好ましくは、工程(d)(ii)のIAC配列とハイブリッド形成する蛍光標識プローブは、Rossmanith et al. (2006) Res. Microbiol. 157, 763-771に開示されているpLucLm4(配列番号:4)である。prfA遺伝子座とハイブリッド形成する蛍光標識プローブは、好ましくはLipProbe(配列番号:5)である。
【0087】
蛍光標識プローブpLucLm4は、好ましくはレポーター蛍光色素分子としてHEXをクエンチャーとしてBHQ1(商標)を提示する。
【0088】
蛍光標識プローブLipProbeは、好ましくはレポーターとしてFAMをクエンチャーとしてMGBを提示する。
【0089】
本発明によれば、工程(d)で生じる蛍光信号は、工程(e)において定性的および/または定量的に決められる。
【0090】
検出は、好ましくは設定温度においてサイクル毎に蛍光をモニターすることに基づく。蛍光は、通常、サンプル中に存在する特定の蛍光色素分子についての特異的励起および発光波長におけるデータを収集するために光学デバイスを用いてモニターされる。
【0091】
工程(f)において、野生型リステリアモノサイトゲネスで汚染されている疑いのあるオリジナルサンプル中における前記微生物の細胞の存在および/または量を、工程(e)から決定するおよび/または計算する。
【0092】
オリジナルサンプル中における野生型リステリアモノサイトゲネス細胞の存在は、典型的には、工程(e)において蛍光信号を定性的に決定することにより決められる。
【0093】
オリジナルサンプル中における野生型リステリアモノサイトゲネス細胞の量は、典型的には、以下の工程を含む方法で計算される。
【0094】
・リアルタイムPCR増幅後のそれぞれの蛍光信号に基づいてCt法(閾値法)を用いて遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネスおよび野生型リステリア・モノサイトゲネスのDNAコピーによりDNAの最初の量を計算する。閾値法は、調査サンプルのそれぞれの信号を校正基準と比較することに基づく(Kaltenbock et al. (2005), Advances in Clinical Chemistry 40: 219-259)。
【0095】
・サンプル中の遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネスの最初の細胞の既知の値とリアルタイムPCR後にCt法により得られる細胞の値とに基づいて、分析手順(本発明の方法の工程(b)、(c)および(d)によるサンプル調製、DNA精製および単離、およびリアルタイムPCRを含む)中の損失を計算する。
【0096】
・分析手順中の遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネス細胞の計算された損失に基づいて、野生型リステリア・モノサイトゲネスで汚染されている疑いのあるサンプル中に存在する前記微生物の細胞の数を計算する。
【0097】
本発明の方法は、分子生物学的病原菌検出のための内部サンプルプロセスコントロール(ISPC)としてリステリア・モノサイトゲネスを用いることにより、標的生物への類似性が最も高くなり、従って、細菌性病原菌検出への適用性が最も高くなるので、有利である。リステリア・イノキュア(Listeria innocua)のような関係の近い種であっても、リアルタイムPCR中に第二のプライマー対を必要とする非競合的内部コントロールとなる。存在するIACから誘導されるDNA系ISPCを検出プロセスの極初期から単体使用することは、同様に、コントロールと標的との最も高い類似性の要件を満たさない。さらに、大部分のDNAは、PCR検出前の種々の系統的工程中に失われる。
【0098】
本発明のさらなる局面は、野生型リステリア・モノサイトゲネスで汚染されている疑いのあるサンプル中における前記微生物を検出および決定するためのアッセイにおいて用いるためのキットであって、少なくとも一または二以上のパッケージ中に、
(i)先に特定した遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネス、
(ii)野生型リステリア・モノサイトゲネスのゲノムprfA遺伝子座および先に特定した遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネスのIAC配列に特異的なプライマー、および
(iii)前記prfA遺伝子座と特異的にハイブリッド形成することができる蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブおよび前記IAC配列と特異的にハイブリッド形成することができる蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブ
を含んでなるキットである。
【0099】
好ましくは、キットのプライマーはLip1(配列番号:2)およびLip2(配列番号:3)である。
【0100】
蛍光標識プローブは、好ましくは、IAC配列を検出するためのpLucLm4(配列番号:4)およびprfA遺伝子座を検出するためのLipProbe(配列番号:5)である。
【0101】
本発明によれば、キットは、さらに抽出溶液を含んでよい。
【0102】
本発明のもう一つの局面は、先に特定された遺伝子組み換えリステリア・モノサイトゲネス細菌を生成する方法であって、
(a)リステリア・モノサイトゲネス細菌種の転写因子PrfAのゲノム遺伝子座を欠失させる工程、
(b)IACを含むベクターをクローニングする工程、および
(c)工程(b)のベクターを、工程(a)の細菌種中に形質転換する工程
を含んでなる方法である。
【0103】
工程(a)によるPrfAのゲノム遺伝子座の欠失は、当該分野で知られている技術により達成され、例えばBockmann et al. (1996) Mol. Microbiol. 22, 643-653に開示のように達成することができる。原理上はノックアウトプラスミドが構築される。このプラスミドはリステリア・モノサイトゲネス細胞中に形質転換される。遺伝交差の結果prfA遺伝子が切除される。得られる生物はΔ−prfAリステリア・モノサイトゲネスとも呼ばれる。
【0104】
リステリア・モノサイトゲネス細菌のための最適培養条件は、当業者により容易に決めることができる。典型的には、細菌は、通気しながら、TSB−Y(トリプトンソーヤブロス-酵母エキス)中、37℃で培養される。
【0105】
工程(b)において、IACを含むベクターが生成される。
【0106】
クローニング用の適量のIAC配列が、典型的には、従来法PCRによる配列の増幅により生成される(Rossmanith et al. (2006) Res. Microbiol. 157, 763-771)。PCRに用いられるプライマーは、典型的には、ベクター中への後のインテグレーションを可能にする特別の制限酵素のための制限部位を含む。配列番号:1によるIAC配列のために、制限部位BamHIおよびSallをそれぞれ含む修飾プライマーLipBam(配列番号:6)およびLipSal(配列番号:7)が好ましく用いられる。
【0107】
LipBamの配列は、5'GCG CGG ATC CGA TAC AGA AAC ATC GGT TGG C'3 (配列番号:6)である。
【0108】
LipSalの配列は、5'GCG CGT CGA CGT GTA ATC TTG ATG CCA TCA GG'3 (配列番号:7)である。
【0109】
増幅産物の精製後、制限消化、脱リン酸化、および適当なインテグレーションベクターとのライゲーションが行われる。
【0110】
制限消化は、典型的には、PCRに用いられるプライマーの制限部位に対応する市販の制限酵素を用いて増幅産物をインキュベーションすることにより行われる。好ましくはBamHIおよびSallが用いられる。
【0111】
IACフラグメントの脱リン酸化は、適切なホスファターゼ、例えばFast AP(商標)感熱性アルカリホスファターゼ(Fermentas)を用いてインキュベーションすることにより達成することができる。適切なインテグレーションベクターは、当業者が容易に選択することができる。ベクターは、陽性クローンの後の選択を可能にするために、細菌の意図する受容菌株が感受性のある抗生物質(例えばクロラムフェニコール)への抵抗力を与える遺伝子配列を含む。好ましくは、ファージ挿入ベクター、例えばLauer et al. (2002) J. Bacteriol. 184, 4177-4186に開示されているpPL1またはpPL2が用いられる。ファージ挿入ベクターpPL2(6123bp)は、リステリア・モノサイトゲネスのゲノム中に単一コピーを安定に挿入するので、特に好ましい。
【0112】
適量の挿入ベクターは、細菌、例えばE.coli 10F'中でベクターを増幅させ、その後、前述したような単離、制限消化および脱リン酸化を行うことにより生成することができる。典型的には、ベクターのマルチクローニイングサイト(MCS)において制限部位を見つけることができる。
【0113】
ライゲーションは、典型的には、DNAリガーゼ、例えばFermentasから入手されるT4 DNAリガーゼの添加により成される。
【0114】
得れらるベクターは、陽性クローンの増幅および選択のために、適切な細菌、例えばE.coli TOP10F'中に形質転換される。この選択は、典型的には、前記抗生物質を含む培地上で細菌を平板培養することにより成される。
【0115】
工程(c)において、工程(b)のベクターが工程(a)のリステリア・モノサイトゲネス細胞中に移される。形質転換は、最新技術において良く知られている種々の方法を用いて行うことができる。例は、ヒートショックまたはエレクトロポレーションによる形質転換である。好ましくは、形質転換はエレクトロポレーションにより成される。
【0116】
ヒートショックによる形質転換は、細胞膜をプラスミドDNAに対して透過性にするCa
2+(CaCl
2)またはRb
2+(RbCl
2)のような二価カチオンの存在下に細胞を冷却することにより達成される。細胞を、DNAと共に氷上で培養し、次に、短時間、ヒートショックを与える(典型的には、41〜43℃で30〜120秒間)。
【0117】
エレクトロポレーションのためには、10−25kV/cmの電場で細胞に短時間ショックを与える。好ましくは、エレクトロポレーションはPark et al. (1990) Gene 94, 129-132に従って達成される。
【0118】
クローニングが成功すると、得られる生物を検査することができる。Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスゲノム中へのベクターの挿入の成功は、PCR(Lauer et al. (2002) J. Bacteriol. 184, 4177-4186に従って)により499bpフラグメントを増幅し、配列決定することにより検査することができる。
【0119】
Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスのゲノム中へのIACの単一コピー挿入は、リステリアゲノムの既知の寸法(Nelson et al.(2004) Nucleic Acids Res. 32, 2386-2395)に基づき、UV/VIS分光法で測定した形質転換リステリア・モノサイトゲネスのゲノムDNA量を、野生型データと比べてリアルタイムPCR後のデータと比較することにより確認することができる。
【0120】
本発明を以下の図面および実施例によりさらに説明するが、それらに限定されるわけではない。
【0121】
図1:pPL2−IAC,E.coliおよびIAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeの確認(実施例1.4および1.6による)
(A)プラスミド中の人工IACを目的とした、形質転換およびプラスミド単離後のpPL2−IAC,E.coliクローンのリアルタイムPCR増幅。左側の増幅プロットは、標的としてのプラスミド製剤を含む。右側の増幅プロット(ss IAC)は、校正機能を表す(効率:96.8%;Rsq:0.999)。(B)リステリアゲノム中へのベクターpPL2−IACのインテグレーションを確認するための、ゲノム中の人工IACを目的とした、IAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeクローンのリアルタイムPCR増幅(効率:96.0%;Rsq:0.999)。左側の増幅プロットは、標的としての4種のIAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeクローンのゲノムDNAを含む。
【0122】
図2:リステリアゲノム中へのpPL2−IACの陽性インテグレーションの確認、および得られたIAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDe菌株の従来法PCRによる確認(実施例1.6による)
(A)リステリア・モノサイトゲネスと確認されるクローニング菌株のアガロースゲル。M:マーカー、1:リステリア・イバノビー(L. ivanovii)、リステリア・シーリゲリ(L. seeligeri)およびリステリア・ウェルシメリ(L. welshimeri)、2:リステリア・イノキュア(L. innocua)、3:リステリア・モノサイトゲネス、4:リステリア・グレイ(L. grayi)、および5〜8:4種のIAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeクローン。(B)全てのリステリア種に特異的な16S rRNA遺伝子およびリステリア・モノサイトゲネスに特異的なhly遺伝子を増幅させる、IAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeの確認。9:リステリア種、10:リステリア・モノサイトゲネス、および11〜14:4種のIAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeクローン。(C)Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDe菌株のインテグレーションの確認。1〜4:4種のIAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeクローンのゲノム中へのpPL2−IAC得られるPCR後の499bpフラグメントは、インテグレーションを示す。PCR産物は1%アガロースゲル中に分散され、臭化エチジウムで染色される。
【0123】
上記および以下において引用された全ての出願、特許および公報の開示全体が、ここで参照として援用される。
【実施例】
【0124】
以下の実施例は、本発明の実用を記載している。
【0125】
1.1 細菌菌株および培養条件
リステリア・モノサイトゲネスEGDe(1/2a、内部番号2964)は、Institute of Milk Hygiene, Milk Technology and Food Science, Department of Veterinary Public Health and Food Science, University of Veterinary Medicine, Vienna, Austria (IMML)における細菌菌株のコレクションの一部である。Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDe(1/2a)は、Department of Microbiology, Theodor Boveri Institute, University of Wuerzburg, Wuerzburg, Germanyにおける細菌菌株のコレクションの一部である。エレクトロコンピテントE.coli TOP10F’はInvitrogen(Carlsbad, CA, USA)から入手される。全ての細菌菌株は、MicroBank(商標)技術(Pro-Lab Diagnostics, Richmont Hill, Canada)を用いて−80℃に維持される。
【0126】
細菌培養物の光学濃度の測定は、HP 8452分光光度計(Hewlett Packard, Paolo Alto, CA, USA)を用いて、600nm(OD600)で二回行われる。リステリア・モノサイトゲネスEGDe wtおよびIAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeの選択的平板培養は、RAPID’L.mono(Bio-Rad laboratories GmbH, Muenchen, Germany)、OCLA(Oxoid Chromogenic Listeria agar; Oxoid, Hampshire, UK)、PALCAM(Solabia Biokar Diagnostics, Pantin Cedex, France)および血液寒天培地(Biomerieux, Marcy I'Etoile, France)の上において、細菌培養物100μlを筋状にプレートに付けるまたはループ技術により行われる。細菌懸濁液の計数は、プレートカウント法またはLive/Dead(登録商標) BacLight(商標) Bacterial Viability Kit(Molecular Probes, Willow Creek, OR, USA)を用いて、製造者の指示に従って行われる。
【0127】
1.2 オリゴヌクレオチド、プラスミドおよび酵素反応
オリゴヌクレオチドおよびプラスミドの配列を表1に提示する。従来のおよびリアルタイムPCR用のプライマーおよびHEX−標識プローブpLuclm4はMWG Biotech (Ebersberg, Germany)から入手され、MGB−修飾LipProbeはApplied Biosystems(Foster City, CA, USA)から入手される。IACのための人工100bp標的は、VBC Genomics(Vienna, Austria)により合成される。pPL2ファージ挿入ベクターは、Lauer et al. (2002) J. Bacteriol. 184, 4177-4186による。
【0128】
【表1】
【0129】
【表2】
【0130】
【表3】
【0131】
制限消化は、Fermentas(Fermentas International Inc., Burlington, Canada)から入手されるFastDigest(登録商標)制限酵素BamHIおよびSallを用いて、製造者の指示に従って行われる。合計反応体積20μlを37℃で1時間インキュベーションする。ライゲーションの前のベクターおよびICAフラグメントの脱リン酸化は、FastAP(商標) Thermosensitive Alkaline PHosphatase(Fermentas)を用いて、製造者の指示に従って、37℃で30分間行う。T4 DNAリガーゼ(Fermentas)を用いて、ベクターpPL2と人工IACフラグメントとのライゲーションを4℃で一晩行う。
【0132】
prfA遺伝子の274bpフラグメントを標的することによるリステリア・モノサイトゲネスのリアルタイムPCR検出は、以前に公開されたフォーマットに従って、プライマーLip1およびLip2並びにFAM−標識LipProbe(D'Agostino et al. (2004) J. Food Prot. 67, 1646-1655; Rossmanith et al. (2006) Res. Microbiol. 157, 763-771)を用いて行う。人工IACフラグメントのリアルタイムPCR検出は、Rossmanith et al. (2006)に従って、Lip1およびLip2並びにHEX−標識pLucLm4を用いて行う。
【0133】
フォワードプライマー(Lip1: 5'-GATACAGAAACATCGGTTGGC-3')およびリバースプライマー(Lip2: 5'-GTGTAATCTTGATGCCATCAGG-3')がprfA遺伝子の274bpフラグメントを増幅させる。融点の上がった2種の異なるTaqMan(商標)プローブフォーマットを用いる。Lip−Probe(5'-FAM-CAGGATTAAAAGTTGACCGCA-MGB-3')はMGB修飾を用いる。
【0134】
アッセイのIAC用のプローブ(pLucLm 4: 5'-HEX-TTCGAAATGTCCGTTCGGTTGGC -BHQ1-3')をHEXで標識する。プライマーおよびプローブpLucLm 4は、MWG Biotech (Ebersberg, Germany)で購入することができる。MGB−修飾プローブは、Applied Biosystemsで購入する。Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeゲノム中へのpPL2−IACの挿入を確認するための従来法PCRは、プライマーNC16およびPL95(Lauer et al. (2002) J. Bacteriol. 184, 4177-4186)を用いて行われる。IAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeは、Bubert et al. (1999, Appl. Environ. Microbiol. 65, 4688-4692)に従ってリステリア・モノサイトゲネスのiap−遺伝子座を増幅し、Border et al. (1990, Lett. Appl. Microbiol. 11, 158-162)に従って全てのリステリア種に特異的な16S rRNA遺伝子およびリステリア・モノサイトゲネスに特異的なhly遺伝子を標的することにより、リステリア・モノサイトゲネスEGDeであると同定される。
【0135】
従来のおよびリアルタイムPCR反応は、Mx3000pリアルタイムPCRサーモサイクラー(Stratagene, La Jolla, CA, USA)において行われる。体積25μl中に、20mMのTris−HCl、50mMのKCl、3.5mMのMgCI
2、500nMの各プライマー、250nMの各プローブ、(各)200μMのdATP、dTTP、dGTPおよびdCTP、1.5UのPlatinum(登録商標) Taq DNAポリメラーゼ(Invitrogen, Lofer, Austria)および5μlの単離DNAを含む。94℃で2分間の最初の変性後の増幅は、94℃で15秒間および64℃で1分間で45サイクル行う。
【0136】
リアルタイムPCR定量用のDNA標準のために、リステリア・モノサイトゲネス菌株EGDeの純培養物1mlを、NucleoSpin(登録商標)組織キットおよびグラム陽性細菌用のサポートプロトコールを用いて、DNA単離に付する。DNA濃度は、Hoefer DyNA Quant200デバイス(Pharmacia Biotech)を用いて蛍光分析により測定する。リステリア・モノサイトゲネスのゲノムの分子量に基づいて、DNAの1ngが全ゲノムの3.1×10
5コピーに相当すると仮定すると共に、prfA遺伝子が単一コピー遺伝子であると仮定して、prfA遺伝子のコピー数を決定する。標準曲線のスロープを用いて、以下の等式を用いて、PCR効率(E)を計算する:E=10
−1/s−1 [21]。
【0137】
リアルタイムPCRの結果を、細菌細胞等価物(BCE)として表す。リステリア・モノサイトゲネスのゲノムの分子量に基づいて、DNAの1ngが全ゲノムの3.1×10
5コピーに相当すると仮定すると共に、prfA遺伝子およびIACインサートがそれぞれ単一コピー遺伝子およびゲノム中の単一コピーインサートである(Nelson et al.(2004) Nucleic Acids Res. 32, 2386-2395)と仮定して、prfA遺伝子およびIACインサートのコピー数を決定する。全てのリアルタイムPCR反応は、特記しない限り2回行う。
【0138】
従来法PCRのPCR産物を、1.5%アガロースゲル中に90Vで25分間分散させ、0.5μg/mlの臭化エチジウム(Sigma-Aldrich GmbH, Steinheim, Germany)で染色する。GeneRuler 100bp(MBI Fermentas, St. Leon-Rot, Germany)を標準として用いた。
【0139】
1.3 DNA抽出および測定
一晩細胞培養物1mlのゲノムDNAを、NucleoSpin(登録商標)組織キット(Macherey-Nagel)およびグラム陽性細菌用サポートプロトコールを用いて抽出する。クローニング実験用のプラスミドDNAを、Quiagen Plasmid Midi Kit(Hilden, Germany)を用いて、製造者の指示に従って抽出する。DNA濃度を、Hoefer DyNA Quant200装置(Pharmacia Biotech, San Francisco, CA, USA)および8452A Diode Array Spectrophotometer(Hewlett Packard, Palo Alto, CA, USA)を用いて蛍光分析測定により分析的に決定する。
【0140】
1.4 pPL2−IACのクローニング
制限部位BamHIおよびSallを含む修飾プライマーLipBamおよびLipSalを用いてRossmanith et al. (2006, Res. Microbiol. 157, 763-771)に従って従来法PCRにより100bpフラグメントを増幅することにより、クローニング用の適量のIAC(IAC: 5'-GAT ACA GAA ACA TCG GTT GGC GTA TTC GAA ATG TCC GTT CGG TTG GCG CTA TGA AGA GAT ACG CGG TGG AAC CTG GAA CCT GAT GGC ATC AAG ATT ACA C-3')を生成する。NucleoSpin(登録商標) Extract II(Macherey-Nagel)を用いて増幅産物を精製した後、前述のように制限消化および脱リン酸化を行い、続いてベクターpPL2を用いてライゲーションを行う。ライゲーションの前に、ファージインテグレーションベクターpPL2を、増幅のために標準的ヒートショック技術(Sambrook et al. (1989) Molecular cloning: a laboratory manual, 2nd ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.)によりE.coli TOP10F’中に形質転換する。ベクターを前述のように抽出し、精製、制限消化および脱リン酸化の後のライゲーションのために用いる。得られたプラスミドpPL2−IACを、次に、ヒートショックによりE.coli TOP10F’中に形質転換する。クロラムフェニコール25pg/mlを含むルリア・ベルターニブロス(Luria-Bertani broth)(LB;Oxoid)上で平板培養することにより、pPL2−IAC陽性クローンを選択する。
【0141】
単一細菌コロニーを取り出し、pPL2−IACを含む大腸菌の陽性形質転換についてスクリーニングする。制限消化分析により、ベクターおよびインサートの長さに対応する約6000bpおよび100bpの長さの2つのフラグメントが得られ、pPL2−IACの大腸菌中への形質転換が示される。pLucLm4を用いるIACを標的とするリアルタイムPCRの結果として標的が増幅され、制限消化分析が確認される(
図1A)。
【0142】
1.5 Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDe中へのpPL2−IACの形質転換
修正エレクトロポレーションプロトコール(Park et al. (1990) Gene 94, 129-132)を用いて、Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeをpPL2−IACを用いて形質転換する。エレクトロコンピテントΔ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDe細胞は、以下のように調製する。細胞を、ペニシリンGを5pg/ml含むブレインハートインフージョンブロス(Brain heart infusion broth)(BHI;Oxoid)中において37℃でOD600が0.3になるまで培養する。細胞を、4℃で8000×g下に10分間採取し、ペレットを、1/10(体積基準)の3.5×SMHEM緩衝液(72mMスクロース、1mM MgCl
2および2mM HEPES)中で2回洗う。1/100(体積基準)の3.5×SMHEM緩衝液中にペレットを再懸濁させた後、100μlの分量を−80℃で貯蔵する。
【0143】
エレクトロポレーションのために、100μlの分量のエレクトロコンピテントΔ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeを氷上で溶解し、pPL2−IACを含む5μlのDNA懸濁液(約1pg/反応液)と混合する。氷上で1分間インキュベーションした後、Gene Pulser Xcell(商標)エレクトロポレーションシステム(Bio-Rad Laboratories, Inc, Hercules, CA, USA)においてエレクトロポレーションを行う(100Ω,50μF,1000V)。予め温めたBHIの1mlを加え、サンプルを37℃で6時間インキュベーションし、その後、クロラムフェニコール25μg/mlを含むBHI寒天培地上で平板培養する。37℃で24〜48時間インキュベーションした後、個々のコロニーを採取し、pPL2−IAC陽性Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeクローンについてスクリーニングする。
【0144】
1.6 IAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeの確認
IAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeの4種類のクロラムフェニコールスクリーニング陽性クローンを、Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDe中におけるIAC配列の存在を検査することにより確認する。これは、プローブpLucLm4を用いてIACの100bpフラグメントを増幅することにより成される。IAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeからのゲノムDNAは、リアルタイムPCRに付され、結果として陽性増幅が生じる(
図1B)。検査したクローンは、平均5.36×10
7コピーに対応する平均Ct−値11.5(SD(標準偏差):0.16)を達成する。クローニングした菌株のΔ−prfA状態を、野生型リステリア・モノサイトゲネスのprfA遺伝子座の274bpフラグメントをハイブリッド形成するプローブLipProbeを用いるリアルタイムPCRにより検査すると、増幅は見られない。
【0145】
ゲノム中へのベクターのインテグレーションを、パラグラフ1.2に記載の従来法PCRを用いて検査する。電気泳動後の得られたフラグメントは、増幅産物の計画長さ499bpに相当する(
図2C)。このことは、プライマーNC16およびPL95が、リステリア・モノサイトゲネス血清型1/2aにおける付着部位tRNA
Arg−attBP'を横切る増幅を可能にし、その結果、ベクター(3')の配列およびリステリアゲノム(5')の一部を含むハイブリッド増幅物が得られるので、リステリアゲノム中へのベクターの挿入を示唆している。
【0146】
IAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeの配列決定分析は、プライマーNC16およびPL95を用いるこのハイブリッドPCR増幅物を用いて行われる。得られる配列は、シャトルインテグレーションベクターpPL2の210bpフラグメントと100%一致し、計画付着部位tRNA
Arg−attBP'(菌株EGDe、完全ゲノム、セグメント6/12;emb/AL591978.1)を含むリステリア・モノサイトゲネスの261bpフラグメントに100%一致する。さらに、得られるIAC+,Δ−prfA菌株がリステリア・モノサイトゲネスEGDeであることを確認する検査を、パラグラフ1.2に記載の従来法PCRにより行う。結果を
図2AおよびBに提示する。両PCRアッセイについてIAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeおよびコントロールリステリア・モノサイトゲネスEGDeのフラグメント寸法の調和が示される。
【0147】
1.6 IAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDe配列決定
増幅後の陽性クローンからのPCR産物を、NucleoSpin(登録商標) Extract II Kit(Macherey-Nagel)を用いて、製造者の指示に従って精製する。精製されたPCR産物を、DNA配列決定のためにMacrogen Inc. (Seoul, Korea)に送る。サンプルを、サイクル配列決定反応においてNC16およびPL95プライマーを用いて両ストランド上で配列決定する。
【0148】
得られる配列を、National Center for Biotechnology Information website (http://www. ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)において入手されるBLASTサーバーを用いて、分析および整列させる。
【0149】
1.7 Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeのゲノム中へのpPL2−IACの単一コピー挿入の確認のための定量的リアルタイムPCRおよびリステリア・モノサイトゲネスEGDe野生型データに対する校正
ゲノムIAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeのDNAおよびリステリア・モノサイトゲネスEGDe野生型の校正標準を、プローブpLucLm4およびLipProbeを用いるマルチプレックスシステムにおいてprfAリアルタイムPCRアッセイを用いて比較する。prfAが単一コピー遺伝子であるという仮定に基づき、両DNA標的の10倍希釈を比較する。10倍希釈は、蛍光分析およびUV−VIS測定により決められるゲノムDNAの5ngに相当する1.58×10
6コピーで始める。結果は、表3に示され、両標準系列のCt−値の確実な一致を示している。これは、反応中の両プローブの同等な性能も示している。基本的データは、4回のリアルタイムPCRランにおいて繰り返された複製に由来するものである。これらの結果の確認のために、IAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeの培養物の濃度を、生存率染色により決め、リアルタイムPCRの結果と比較する。リアルタイムPCRにより得られるサンプル当たり3.2×10
3(RSD.:6.7%)BCEの数は、生存率染色により決められるサンプル当たり2.8×10
3(RSD.:25.0%)CFUに匹敵する。
【0150】
【表4】
【0151】
野生型菌株のprfA遺伝子座および主細菌標的を増幅する主反応の性能に対する、IAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeから誘導されるゲノムDNAの増加量の影響を、マルチプレックスリアルタイムPCRにより調べる。Lip−ProbeおよびpLucLm4を用いて、1.58×10
6〜1.58×10
1コピーで始まるゲノムリステリア・モノサイトゲネスEGDe野生型DNAの10倍希釈を、ゲノムIAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeのDNAの1.58×10
6〜1.58×10
1コピーの10倍希釈のバックグランドに対して上行性および下行性マトリクスにおいて検査する。全ての検査した組み合わせについて得られるCt値は、標準濃度の全ての組み合わせに対して平均標準偏差が0.3である両菌株のゲノム標準のモノプレックス実験により得られるそれぞれの値から外れる。例として、リステリア・モノサイトゲネスEGDeのゲノムDNAの10倍希釈について得られるCt−値を、IAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeの1.58×10
5コピーのバックグラウンドに対して表3に示す。
【0152】
1.8 人工および天然汚染食物サンプル
人工汚染させるためのUHTミルクを地元のスーパーマーケットで購入し、リステリア・モノサイトゲネスのprfA遺伝子座を標的としてリアルタイムPCRを行って植菌前にリステリア・モノサイトゲネス陰性であることを検査する。8.5×10
8CFU/mlを含むリステリア・モノサイトゲネスEGDeの純培養物のリンゲル液(Oxoid)中での10倍希釈系列を用いて、人工汚染を行う。適切な希釈物100μlをサンプルに添加する。10
1−10
2、10
2−10
3、10
3−10
4および10
4−10
5のCFU/mlを含むように希釈系列を調製する。0.6%酵母を含むトリプトン大豆寒天(TSA−Y;Oxoid)を用いてプレートカウント法により、希釈系列の各工程についてCFUの数を得る。実験を3回行う。天然汚染ソフトチーズサンプルは、規制当局から提供され、オーストリアのスチリアにおける近年のリステリア・モノサイトゲネスの勃発に由来するものであり、4℃で貯蔵されている。2種の異なる製造貯蔵物からの2つのサンプルを4回加工し、その結果8つの個々のサンプルを得る。さらに、各サンプルについてISO11290−2を行って、実験の定量的結果をこの標準的方法と比較する(ISO11290−2;ISO11290−2/Amd1)。
【0153】
1.9 サンプル処理
Mester et al. (2010) J. Food Protect. 73, 680-687およびRossmanith et al. (2007) J. Microbiol. Methods 69, 504-511により公開されているマトリクス溶解プロトコールを用いて、サンプル処理を行う。
【0154】
1.10 統計的分析
2群比較をカイ2乗検定により分析する。P値を計算し、0.05以下の値を有意とみなす。
【0155】
2.適用例
2.1 OCLA、PALCAM、血液寒天培地およびRAPID'L.mono寒天培地の上でのIAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeの表現型
血液寒天培地上では、IAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeは溶血を示さない。PALCAM寒天培地上では、IAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeは、表2に示すように、リステリア・モノサイトゲネスEGDe野生型と同じ表現型を示す。OCLA上でのIAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeの形態および色も、24時間および48時間のインキュベーション後、IAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeについて観察されないハロー形成を除いて、野生型に類似している。72時間のインキュベーション後、IAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeは、同様に弱いハロー形成を示す。RAPID'L.mono上で平板培養した場合、クローニングした菌株は白色を呈し、RAPID'L.mono寒天培地上でのリステリア・モノサイトゲネスEGDe野生型菌株の特徴的緑色を欠く。
【0156】
【表5】
【0157】
2.2 内部プロセスコントロールとしてのIAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeの、人工汚染UHTミルクおよび天然汚染Quargelチーズへの適用
人工および天然汚染食物サンプルを、Rossmanith et al. (2007) J. Microbiol. Methods 69, 504-511に開示の方法に従って加工する。この方法は、食物マトリクスの溶解によるサンプル調製、その後の遠心分離を用いる標的細菌の分離、それに続くDNA単離およびリアルタイムPCR検出に基づく。サンプル調製中、イオン液体であるチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウム([emim]SCN)を溶媒として用いる。
【0158】
人工汚染については、セクション1.8に記載のようなリステリア・モノサイトゲネスEGDe野生型の4段階10倍希釈系列をUHTミルクのサンプル12.5gに垂らす。さらに、内部サンプルプロセスコントロールであるIAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeのサンプル当たり1.4×10
3(RSD.:29.0%)CFUを加える。
【0159】
主標的病原菌であるリステリア・モノサイトゲネスEGDe野生型を、顕微鏡的計数で比べて55%(RSD(相対標準偏差):10.9%)だけUHTミルクから回収する。対数尺度での相対的標準偏差は10.9%であり、これは対数尺度回収率の観点で高水準の正確さおよび再現性を表し、IAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDe細胞による内部サンプルプロセスコントロールの偏りの無い影響を示唆する。
【0160】
内部サンプルプロセスコントロールは、顕微鏡的計数で比べて49%(RSD.:27.1%)の回収率を示唆する。最初にサンプル当たり1.4×10
3(RSD.:29.0%)のCFU(colony形成単位)が、回収およびリアルタイムPCR検出の後に6.9×10
2(RSD.:27.0%)のBCEとなる。
【0161】
次に、システムを、Quargelチーズの天然汚染サンプルに適用する。さらに、サンプル当たり1.4×10
3(RSD.:29.0%)CFUのIAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeを加える。
【0162】
サンプルを2つの方法で加工する。リステリア・モノサイトゲネスの値の直接定量が、マトリクス溶解およびその後のリアルタイムPCRにより成される。ISO11290−2も、比較のために行う。さらに、サンプルを、マトリクス溶解により、およびその後の、タンパク質分解酵素K工程を除くDNA単離プロトコールを用いるリアルタイムPCRにより加工する。これは、消化性能および結果としての全プロトコールの効率を人工的に偏らせる。
【0163】
リアルタイムPCRの後に直接得られるサンプルのリステリア・モノサイトゲネス汚染の値は、2つのそれぞれのQuargelチーズ貯蔵物に対して平均で1.4×10
6(RSD.:5.9%)BCEおよび1.1×10
8(RSD.:8.9%)BCEとなる。これらの値は、リアルタイムPCR後の6.9×10
2(RSD.:5.9%)BCEのIAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeプロセスコントロールの平均値に各複製の値を比較することにより得られる各サンプルについての有効率に従って補正される。この補正後、リステリア・モノサイトゲネス汚染は、2つの貯蔵物について平均で1.1×10
6(RSD.:35.8%)BCEおよび2.3×10
8(RSD.:10.2%)となる。最初の1.4×10
3(RSD.:29.0%)CFUからリアルタイムPCR後に6.9×10
2(RSD.:5.9%)となるIAC+,Δ−prfAリステリア・モノサイトゲネスEGDeプロセスコントロール細胞の全体損失を含むさらなる補正を行う。このことにより、ISO 11290−2により得られる2.07×10
6(RSD.:91.1%)CFU/gおよび4.9×10
8(RSD.:73.2%)CFU/gに対して、2つのチーズ貯蔵物について2.32×10
6(RSD.:36.0%)BCE/gおよび5.0×10
8(RSD.:9.9%)BCE/gの結果となる。人工的に偏らせたDNA単離により加工されたサンプルは、それぞれのチーズ貯蔵物に対して平均して4.9×10
5(RSD.:6.3%)BCEおよび3.7×10
7(RSD.:2.9%)の基本的値となる。先に規定したように補正した後、それぞれのリステリア・モノサイトゲネス汚染は1.8×10
6(RSD.:47%)BCEおよび4.6×10
8(RSD.:10.1%)BCEである。
【0164】
【表6-1】
【0165】
【表6-2】
【0166】
【表6-3】