特許第5774505号(P5774505)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5774505銅−ポリイミド積層体、立体成型体、及び立体成型体の製造方法
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  • 特許5774505-銅−ポリイミド積層体、立体成型体、及び立体成型体の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5774505
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】銅−ポリイミド積層体、立体成型体、及び立体成型体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/088 20060101AFI20150820BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20150820BHJP
   H05K 1/02 20060101ALI20150820BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   B32B15/088
   H05K1/09 A
   H05K1/02 L
   H05K1/03 610N
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-7233(P2012-7233)
(22)【出願日】2012年1月17日
(65)【公開番号】特開2013-146870(P2013-146870A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小野 俊之
(72)【発明者】
【氏名】冠 和樹
(72)【発明者】
【氏名】町田 英明
(72)【発明者】
【氏名】栗原 均
【審査官】 岸 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−005003(JP,A)
【文献】 特開2005−340184(JP,A)
【文献】 特開2000−212661(JP,A)
【文献】 特開2010−100887(JP,A)
【文献】 特開2002−240195(JP,A)
【文献】 特開2000−103010(JP,A)
【文献】 特開2004−261961(JP,A)
【文献】 特開2008−144049(JP,A)
【文献】 特開2003−151328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
H05K 1/00− 1/03
H05K 1/09
H05K 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量率でAgを50〜300ppm、酸素を100〜300ppmを含有し、残部が銅と不可避的不純物からなる圧延銅箔と、
芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを縮重合してなり、ガラス転移温度が260℃以上320℃未満で、25℃〜200℃の貯蔵弾性率が1×109〜4×109 Paである熱可塑性ポリイミドフィルムとを、
ガラス転移温度が200℃以上260℃未満で、25℃〜200℃の貯蔵弾性率が1 ×109〜4 ×109 Paである熱可塑性ポリイミドからなる接着層によって接着してなる銅−ポリイミド積層体。
【請求項2】
前記圧延銅箔が電気回路をなす請求項1記載の銅-ポリイミド積層体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の銅-ポリイミド積層体を立体成型してなる立体成型体。
【請求項4】
請求項3記載の立体成型体を製造する方法であって、260℃以下の温度で前記銅−ポリイミド積層体を立体成型する立体成型体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅箔とポリイミドフィルムとを積層してなる銅-ポリイミド積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線板(FPC)用の銅張積層板(CCL)として、銅箔に接着性、耐熱性、耐侯性等を付与するために表面処理を施し、この銅箔と熱硬化性ポリイミド樹脂フィルムとを熱可塑性ポリイミド等の接着層を介して積層した構成が主に使用されている(例えば、特許文献1)。そして、この銅張積層板の銅箔部分に電気回路を形成し、スルーホールなどの加工やめっきを施し、銅箔にカバーレイを被せてフレキシブル配線板が製造される。フレキシブル配線板は、柔らかくて折り曲げることができるため、スペースの限られた電子機器の筐体内に折り曲げながら実装することができる。
一方、ポリイミドフィルム単体を立体成型する技術が報告されており(例えば、特許文献2)、又、一般に樹脂フィルムはそのガラス転移温度以上の温度で成型される(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−100887号公報
【特許文献2】特許第4251343号公報
【特許文献3】特開2008−291099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フレキシブル配線板を単に曲げて電子機器の筐体内に実装する方法では、実装がし難く、又、フレキシブル配線板が筐体内で撓み、安定した形状を保たないおそれがある。そのため、予めフレキシブル配線板を3次元的(立体的)に成型した後、筐体内に収容すれば、フレキシブル配線板の形状が保たれるので、さらなる省スペース化が図られる。
ところが、フレキシブル配線板は、1軸曲げ等の平面応力状態の加工には対応できるが立体成型のような過酷な加工には耐え切れず、破断する可能性がある。一方、ポリイミドフィルム単体の成型は可能であるが、一般のポリイミドフィルムを銅箔と貼り合せた後に成型すると、銅箔が破断することが判明した。なお、ポリイミドフィルム単体を成型した後、その表面に銅箔を蒸着等によって形成するとコストアップとなると共に成型後に回路パターンを形成するため、電気回路も粗くなる。
【0005】
従って、本発明の目的は、熱可塑性ポリイミドフィルムと銅箔のいずれも破断させずに立体成型することが可能な銅-ポリイミド積層体、立体成型体、及び立体成型体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、所定のガラス転移温度と貯蔵弾性率を有するベースとなる熱可塑性ポリイミドフィルムを用いて銅箔と積層することにより、ベースとなる熱可塑性ポリイミドフィルムと銅箔のいずれも破断させずに立体成型できることを見出し、本発明に至った。又、上記熱可塑性ポリイミドフィルムよりガラス転移温度が低い熱可塑性ポリイミドを接着層として用い、上記熱可塑性ポリイミドフィルムと銅箔とを貼り合わせることで、上記熱可塑性ポリイミドフィルムと銅箔との接着性を向上させることに成功した。
すなわち、本発明の銅-ポリイミド積層体は、質量率でAgを50〜300ppm、酸素を100〜300ppmを含有し、残部が銅と不可避的不純物からなる圧延銅箔と、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを縮重合してなり、ガラス転移温度が260℃以上320℃未満で、25℃〜200℃の貯蔵弾性率が1×109〜4×109 Paである熱可塑性ポリイミドフィルムとを、ガラス転移温度が200℃以上260℃未満で、25℃〜200℃の貯蔵弾性率が1 ×109〜4 ×109 Paである熱可塑性ポリイミドからなる接着層によって接着してなる。
【0007】
前記圧延銅箔が電気回路をなしてもよい。
【0008】
本発明の立体成型体は、前記銅-ポリイミド積層体を立体成型してなる。
本発明の立体成型体の製造方法は、前記立体成型体を製造する方法であって、260℃以下の温度で前記銅−ポリイミド積層体を立体成型する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱可塑性ポリイミドフィルムと銅箔のいずれも破断させずに銅-ポリイミド積層体を立体成型することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る銅-ポリイミド積層体の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る銅-ポリイミド積層体10は、圧延銅箔4とベースとなる熱可塑性ポリイミドフィルム8とを、熱可塑性ポリイミドからなる接着層6を介して貼り合せて構成されている。銅-ポリイミド積層体10は、銅箔部分に電気回路を形成しない電磁波シールド材、面状発熱体、放熱体等に適用することができる。又、銅-ポリイミド積層体10は、銅箔部分に電気回路を形成したFPC(フレキシブルプリント基板)、RF-ID(無線ICタグ) 等に適用することができる。又、銅-ポリイミド積層体10から製造したFPCを立体成型した成型体としては、照明機器用反射体が挙げられる。尚、FPCには回路保護のため、図1の圧延銅箔4の上に樹脂層(カバーレイ)が形成されることやポリイミド両面に銅箔層がある両面積層体などの構成もあるが本発明は銅-ポリイミド積層体10が含まれるものすべてに適用される。
【0012】
<圧延銅箔>
圧延銅箔は、質量率でAgを50〜300ppm、酸素を100〜300ppmを含有し、残部が銅と不可避的不純物からなる。Agは、再結晶特性や結晶方位を改善して銅箔の加工性を向上させるために添加する。Agが50質量ppm未満の場合、銅箔の加工性が向上せず、300質量ppmを超えると再結晶温度が高くなりすぎて再結晶しない場合がある。密着性を向上させる粗化処理を銅箔表面に施すのが好ましく、又、防錆のための処理層を銅箔表面に形成してもよい。
圧延銅箔として、質量率で酸素を100〜300ppmを含有するタフピッチ銅(例えば、JIS−H3100 C1100 に規格するもの)をベース組成として用いることで、銅箔を安価に量産することができる。不可避的不純物としては、数質量ppmのS、Fe、Al、P等が挙げられる。
圧延銅箔の厚みは、6〜70μmであることが好ましい。厚みが6μm未満の場合、銅箔のハンドリング性が低下し、厚みが70μmを超えると銅箔の柔軟性が低下することがある。
銅箔として、圧延銅箔を用いると、再結晶により加工性を向上させることができる。
【0013】
<ベースとなる熱可塑性ポリイミドフィルム>
銅-ポリイミド積層体の樹脂層として、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを縮重合してなり、ガラス転移温度が260℃以上320℃未満で、25℃〜200℃の貯蔵弾性率が1 ×109〜4 ×109 Paである熱可塑性ポリイミドフィルムを用いる。
ポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸と脂肪族又は芳香族ジアミンとの縮合物であり、代表的にはピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などの酸二無水物と、パラフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミンを縮重合してアミド酸を生成させ、これを熱又は触媒で閉環硬化させて得られるものである。熱可塑性ポリイミドは、例えば次のような化合物を共重合させることによって得ることができる。
酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、4,4'−オキシジフタール酸二無水物、3,3'、4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3'、4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2'、3,3'ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2'−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1−ビス(2,3ージカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパンニ無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、m−フェニレンビス(トリメリット酸)二無水物等を挙げることができる。
ジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、3,3'−ジメチルペンタメチレンジアミン、3−メチルヘキサメチレンジアミン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、1,1,6,6−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、2,2,5,5−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、4−アミノフェニル−3−アミノベンゾエート、m−アミノベンゾイル−p−アミノアニリド、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、ビス(4−アミノフェニル)メタン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)エタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2'−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)]プロパン,4,4'−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2'ージアミノゼンゾフェノン、1,2−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3ービス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼン、4,4'−ジベンズアニリド、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)フェニルエーテル、2,2'−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2'−ビス(4−アミノフェニル)−1,3−ジクロロ−1、1,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、1,12−ジアミノドデカン、1,13− ジアミノドデカン、ポリシロキサンジアミンなどが挙げられる。
【0014】
上記化合物の中で、本発明において使用される熱可塑性ポリイミドとしては、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(RODAと略称)、ピロメリット酸二無水物(PMDAと略称)及び4,4'−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)の共重合物、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(ODAと略称)と3,3'4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDAと略称)との共重合物、及びODA,PMDA及びBPDAとの共重合物、3,3'、4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)及びPMDAと2,2'−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)]プロパン(BAPPと略称)との共重合物が特に好ましい。
【0015】
通常、銅張積層板には熱硬化性ポリイミドフィルム(例えば、東レ・デュポン株式会社製のカプトン(登録商標)H、EN)が用いられるが、本発明では熱可塑性ポリイミドフィルムを用いることで、立体成型性が向上する。
熱可塑性ポリイミドフィルムとしては、東レ・デュポン株式会社製のカプトン(登録商標)JPが市販されている。
【0016】
熱可塑性ポリイミドフィルムのガラス転移温度が260℃以上320℃未満であれば、立体成型性と半田耐熱性(銅-ポリイミド積層体の銅箔部分の回路を外部と半田付けする際の熱影響への耐性)を共に良好とすることができる。熱可塑性ポリイミドフィルムのガラス転移温度が260℃未満の場合、半田耐熱性が劣り、ガラス転移温度が320℃以上になると熱可塑性ポリイミドフィルムが硬くなり過ぎて立体成型性が劣る。
なお、ガラス転移温度(Tg)は非平衡状態での温度であり、1点でなく温度範囲を持つ。又、ガラス転移温度は昇温速度等の温度条件でも変わる。そこで、本発明においては、昇温速度1℃/min、歪0.1%、周波数1Hzの条件で動的粘弾性測定から求めたtanδのピークをガラス転移温度と定める。
【0017】
25℃〜200℃において、ベースとなる熱可塑性ポリイミドフィルムの貯蔵弾性率が1 ×109〜4 ×109 Paであると、立体成型性を向上させることができる。熱可塑性ポリイミドフィルムの貯蔵弾性率が1 ×109 Pa未満であると、立体成型時に熱可塑性ポリイミドフィルムは成型できるものの、銅箔が破断する。熱可塑性ポリイミドフィルムの貯蔵弾性率が4 ×109 Paより大きいと、熱可塑性ポリイミドフィルムが硬くなり過ぎて立体成型時に割れやすい。
なお、貯蔵弾性率は、JIS K7244−4に準じて、引張モードにおける動的粘弾性を測定することで求めることができ、各温度にて、10000×45000×50μmのサンプルを、歪み1%、測定周波数1Hz、昇温速度1℃/分で測定した値とする。又、温度が高いほど、貯蔵弾性率の値は小さくなる。
熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みは、12〜200μmであることが好ましい。この厚みが12μm未満であると、成型時にポリイミドフィルムが割れることがある。この厚みが200μmより厚いと、熱可塑性ポリイミドフィルムの柔軟性(フレキシブル性)が低下して剛性が高くなり過ぎ、加工性が劣化することがある。
【0018】
<接着層>
上記した熱可塑性ポリイミドフィルムは、ガラス転移温度が高い(260℃以上)ために銅箔との密着性に劣ることがある。そこで、銅箔と熱可塑性ポリイミドフィルムとを接着するため、ガラス転移温度が低い(200℃以上260℃未満)の熱可塑性ポリイミドを接着層として用いる。接着層として、ポリイミド以外の樹脂(例えばエポキシ樹脂、アクリル系樹脂など)を用いると、熱可塑性ポリイミドフィルムとの物性の違いにより立体成型中に応力集中を引き起こし、銅箔や熱可塑性ポリイミドフィルムが割れやすくなる。
25℃〜200℃において、接着層(熱可塑性ポリイミド)の貯蔵弾性率が1 ×109〜4 ×109 Paであると、立体成型性を向上させることができる。接着層の貯蔵弾性率が1 ×109 Pa未満であると、立体成型時に熱可塑性ポリイミドフィルムと接着層は成型できるものの、銅箔が破断する。接着層の貯蔵弾性率が4 ×109 Paより大きいと、接着層が硬くなり過ぎて立体成型時に割れやすい。
接着層の厚みは、2〜50μmであることが好ましい。この厚みが2μm未満であると、成型により厚みが薄くなり、最終的には銅箔と熱可塑性フィルムが剥離して割れることがある。この厚みが50μmより厚いと、接着層の柔軟性(フレキシブル性)が低下して剛性が高くなり過ぎ、加工性が劣化することがある。
【0019】
<銅-ポリイミド積層体>
上記した銅箔と熱可塑性ポリイミドフィルムとを積層する銅-ポリイミド積層体の組み合わせとしては、銅箔/熱可塑性ポリイミドフィルムの2層構造や、銅箔/熱可塑性ポリイミドフィルム/銅箔の3層構造が挙げられる。
又、銅箔部分に電気回路を形成した場合、その表面にカバーレイフィルムを積層してもよい。又、カバーレイフィルムを積層せずに回路を露出させ、照明機器用反射体(例えばLED用)の基板等としてもよい。
【0020】
<立体成型>
通常、樹脂フィルムの成型は、その樹脂のガラス転移温度以上の温度で行うが、上記した熱可塑性ポリイミドフィルムの場合、ガラス転移温度以上の温度で貯蔵弾性率が1 ×109 Pa未満に低下し、成形の際に貼り合せた銅箔が割れやすくなる。そこで、銅箔の破断を防止するため、熱可塑性ポリイミドフィルムの貯蔵弾性率が1 ×109Pa以上となる温度(つまり、熱可塑性ポリイミドフィルムのガラス転移温度以下の温度)で立体成型を行うことが好ましい。又、この条件で立体成型を行うと、従来より低温で成型するために生産性が向上する。
【実施例】
【0021】
<圧延銅箔>
Cu:99.99質量%の電気銅を溶解し、Agを50〜300質量ppm添加して大気中で鋳造し、インゴットを作製した。作製したインゴットを熱間圧延後に面削し、冷間圧延、焼鈍、酸洗を繰り返して圧延銅箔(厚み32μm)とした。銅箔の片面に対し、処理液(Cu:10〜25g/L、H2SO4:20〜100g/L)を用い、温度20〜40℃、電流密度30〜70A/dm、電解時間1〜5秒で電解処理を行った。その後、銅箔の電解処理面に対し、Ni−Coめっき液(Coイオン濃度:5〜20g/L、Niイオン濃度:5〜20g/L、pH:1.0〜4.0)を用い、温度25〜60℃、電流密度:0.5〜10A/dmでNi−Coめっきした。さらに、銅箔のNi−Coめっきを施していない面に対し、クロメート浴(K2Cr2O7:0.5〜5g/L)を用い、電流密度1〜10A/dmでクロメート処理を行った。
【0022】
<熱可塑性ポリイミドフィルム>
4,4'-ジアミノジフェニルエーテルとN,N'-ジメチルアセトアミドを入れ、窒素雰囲気下で攪拌し、3,3'-4,4'―ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を投入、3,3'−4,4'ビフェニルテトラカルボン酸二無水物をN,N'-ジメチルアセトアミド中に分散させた溶液を投入した。この液をガラス基板上にバーコーターで均一に塗工し、熱可塑性ポリイミドフィルム厚み25μmを得た。
【0023】
<接着層となる熱可塑性ポリイミドの調製>
接着剤層となる熱可塑性ポリイミドとして、ガラス転移温度220℃である東レ・デュポン株式会社製の商品名カプトン(商標登録)KJ(厚み25μm)を用いた。
【0024】
<銅-ポリイミド積層体の製造>
上記した圧延銅箔の粗化処理面に、接着層となる熱可塑性ポリイミドフィルム、熱可塑性ポリイミドフィルムの順で積層し、真空中で380℃×1h、0.2kN/cm2の圧力でプレスして銅-ポリイミド積層体を製造した。
なお、圧延銅箔にAgを添加しなかったものを比較例1,3とし、圧延銅箔中のAg添加量が300質量ppmを超えたものを比較例5とした。
又、熱可塑性ポリイミドフィルムを用いず、その代わりにガラス転移温度を有しない熱硬化性ポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製の商品名カプトン(登録商標)H、厚み25μm)を用いたものを比較例1,2とした。
接着層として市販のエポキシ系樹脂接着剤を用いたものを比較例4とした。
圧延銅箔中の酸素量が300質量ppmを超えたものを比較例6とした。
実施例4と同一の積層体を用い、成型温度が熱可塑性ポリイミドフィルムのガラス転移温度を超える310℃のものを比較例7とした。
【0025】
<フレキシブル配線板(FPC)の作製、及び立体成型>
得られた銅-ポリイミド積層体の銅箔面にドライフィルムレジストをラミネートし、フォトマスクを上に乗せて露光、剥離、エッチング、洗浄を行って回路を形成した。さらに、回路の上にカバーレイフィルムを積層し、フレキシブル配線板(FPC)を作製した。成型性を評価するため、回路パターンはL/S=500/5000μmの格子状とした。次に銅箔保護のため、カバーフィルムを銅箔面に積層した。
次に、圧空プレスを用い、熱可塑性ポリイミドフィルムの貯蔵弾性率が表1の値となる条件で、0.1〜1.0MPaの圧力をかけてフレキシブル配線板を立体成型した。成型は、直径50mm、高さ15mmのバルーン状の型を用いた。
成型性の評価は以下のように行った。成型後のフレキシブル配線板において、圧延銅箔(回路)、熱可塑性ポリイミドフィルムのいずれも破断が生じなかったものを評価○、圧延銅箔(回路)と熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも一方に破断が生じたものを評価×とした。
得られた結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
表1から明らかなように、各実施例の場合、銅箔部分に回路を形成しない銅-ポリイミド積層体、及びFPCのいずれにおいても成型性が優れたものとなった。
一方、銅箔にAgを添加しなかった比較例1、3の場合、銅箔の加工性が低下し、銅-ポリイミド積層体、及びFPCのいずれにおいても成型性が劣った。
圧延銅箔中のAg添加量が300質量ppmを超えた比較例5の場合、銅箔が再結晶せずに加工性が低下し、銅-ポリイミド積層体、及びFPCのいずれにおいても成型性が劣った。
圧延銅箔中の酸素量が300質量ppmを超えた比較例6の場合、亜酸化銅の介在物が多く存在するため銅箔が割れた。銅-ポリイミド積層体、及びFPCのいずれにおいても成型性が劣った。
熱可塑性ポリイミドフィルムを用いず、その代わりにガラス転移温度を有しない熱硬化性ポリイミドフィルムを用いた比較例2の場合、このフィルムが硬くなり過ぎて立体成型時に割れ、成型性が劣った。
接着層として市販のエポキシ系樹脂接着剤を用いた比較例4の場合、25℃〜200℃の貯蔵弾性率が1 ×109〜4 ×109 Paの範囲から外れ、成型温度では接着層の貯蔵弾性率が4 ×109 Paより大きくなった。そのため、接着層が硬くなり過ぎ、銅-ポリイミド積層体、及びFPCのいずれにおいても成型性が劣った。成型温度が260℃を超えた比較例7の場合、銅-ポリイミド積層体、及びFPCのいずれにおいても成型性が劣った。
【符号の説明】
【0028】
4 圧延銅箔
6 接着層6
8 熱可塑性ポリイミドフィルム
10 銅-ポリイミド積層体
図1