(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アルキルグルコシド類が、炭素数が5〜15のアルキル基を有するアルキルグルコシドまたはアルキルマルトシドである請求項1〜3のいずれか1項に記載の免疫クロマト分析キット。
前記陰イオン性界面活性剤がドデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムからなる群から選ばれた1種以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の免疫クロマト分析キット。
前記検体希釈液が前記アルキルグルコシド類を0.025〜50mM含有し、前記検出部の展開方向上流に、前記陰イオン性界面活性剤を8〜800μg含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の免疫クロマト分析キット。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0016】
本発明に用いられる血液検体は、例えば、口腔内から採取される血液、血漿または血清のような血液試料であり、特に唾液が含まれる検体である。
【0017】
本発明における被検出物質としては、例えば、α−フェトプロテイン(AFP)及びガン胎児性抗原(CEA)等の腫瘍マーカー物質、フェリチン、前立腺特異抗原(PSA)及び免疫グロブリンG(IgG)等の血清タンパク質、リューマチ因子、成長ホルモン(GH)及び副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)等のホルモン関連物質、インフルエンザウィルス、アデノウィルス、クラミジア抗原及びA群溶連菌抗原等の細菌抗原、並びにヘモグロビン由来のタンパク質等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは血液中の被検出物質、例えば、ヘモグロビン由来のタンパク質、血漿タンパク、リポタンパク、分泌タンパク、ホルモン、補体、脂質、コレステロール、糖、その他生体内成分、生体内投与薬物及びその代謝産物等が挙げられる。中でも本発明の効果の観点から、血液中の糖化アルブミンや糖化ヘモグロビン等の糖化タンパク質であることが好ましく、HbA1cであることがより好ましい。以下、被検出物質としてHbA1cを、陰性または陽性の判定の基準となる物質としてHbA1c以外のヘモグロビンを例として説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0018】
本発明の免疫クロマト分析キットは、唾液を含む血液検体を希釈して展開するための検体希釈液並びに試料添加部、標識物質保持部、検出部が担持されたクロマトグラフ媒体部及び吸収部を含む免疫クロマト分析装置を含む。
【0019】
検体希釈液は、血液検体及び標識物質を移動相としてクロマトグラフ媒体部に展開させるための展開液として作用することができる。
【0020】
検体希釈液は、展開性が良好でありかつ抗原抗体反応を阻害しないという観点から、非イオン性界面活性剤を含むことが好ましい。
【0021】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンp−t−オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンp−t−ノニルフェニルエーテル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド及びアルキルモノグリセリルエーテル等を挙げることができる。
【0022】
検体希釈液は、例えば、水を溶媒とし、非イオン性界面活性剤を、例えば、0.01〜5質量%の割合で含有することができ、0.03〜3.0質量%の割合で含有するのが好ましく、0.3〜3.0質量%の割合で含有するのがより好ましい。また、pHを調整するためにバッファー類、無機塩類等の添加剤を適宜添加してもよい。
【0023】
検体希釈液には、アルキルグルコシド類を含有させておくことが好ましい。このことにより、被検出物質が当該アルキルグルコシド類と接触し、唾液を含む血液検体中の被検出物質を安定化させ、感度の低下を防ぐことができる。
【0024】
アルキルグルコシド類としては、例えば、ベンジル−α−D−グルコシド、ベンジル−β−D−グルコシド、オクチル−α−D−グルコシド、オクチル−β−D−グルコシド、デシル−α−D−グルコシド、デシル−β−D−グルコシド、ドデシル−α−D−グルコシド、ドデシル−β−D−グルコシド、ペンタデシル−α−D−グルコシド、ペンタデシル−β−D−グルコシド、ベンジル−α−D−マルトシド、ベンジル−β−D−マルトシド、オクチル−α−D−マルトシド、オクチル−β−D−マルトシド、デシル−α−D−マルトシド、デシル−β−D−マルトシド、ドデシル−α−D−マルトシド、ドデシル−β−D−マルトシド、ペンタデシル−α−D−マルトシド及びペンタデシル−β−D−マルトシド等が挙げられ、アルキル基の炭素数が5〜15であるアルキルグルコシドまたはアルキルマルトシドであることが好ましい。かかる化合物を用いれば、唾液等に含まれる夾雑物の可溶化が促進され被検出物質と検出物質の反応性低下をより抑制でき、水を含む展開成分への溶解性の観点からも適切である。より好ましくは、アルキル基の炭素数が7〜15であるアルキルグルコシド類が用いられ、更に好ましくは、アルキル基の炭素数が8〜12であるアルキルグルコシド類が用いられる。中でも、オクチル−β−D−グルコシド、デシル−β−D−グルコシド、ドデシル−β−D−グルコシド、オクチル−β−D−マルトシド、デシル−β−D−マルトシド、ドデシル−β−D−マルトシドが最適に用いられる。
【0025】
検体希釈液におけるアルキルグルコシド類の含有量は、0.025〜50mMであることが好ましく、より好ましくは0.1〜20mMであり、さらに好ましくは5〜20mMである。0.025mM以上であることによって、アルキルグルコシド類の唾液成分の可溶化を促進し、口腔内で採取された血液検体中の被検出物質の検出反応の反応性低下を抑制する。50mM以下であることによって、アルキルグリルコシド類の濃度過多による検出反応の阻害が生じることなく高感度な検出を可能とし、且つ、経済的にも好ましい濃度だからである。
【0026】
また、検体希釈液には、アルキルグルコシド類とともに陰イオン性界面活性剤を含有させておくことが好ましい。このことにより、唾液成分による検出反応の反応性低下の抑制に寄与する。また、採取した血液中のHbA1cのエピトープをヘモグロビンタンパク質の表面に露出させる機能を有する。具体的には、ヘモグロビンβ鎖N末端をタンパク質表面に露出させる成分(N末端露出剤)として機能する。
【0027】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)、ドデシルスルホン酸ナトリウム(SDS)、C12〜C18のアルキルのスルホン酸ナトリウム(アルカンスルホン酸ナトリウム)、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(SLES)等が挙げられる。
【0028】
これらの中でも特に好ましくは、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムである。より好ましくは、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムが用いられる。
【0029】
検体希釈液における陰イオン性界面活性剤の濃度は、0.01〜1.5%(w/v)であることが好ましく、より好ましくは0.05〜1.0%であり、さらに好ましくは0.1〜0.6%であることが好ましい。0.01%以上であることによって、唾液成分による検出反応の反応性低下の抑制により寄与することができ、1.5%以下であることによって標識試薬の凝集による展開不良や陰イオン界面活性剤の濃度過多による検出反応の阻害が生じることなくより高感度な検出が可能だからである。
【0030】
免疫クロマト分析装置は、試料添加部、標識物質保持部、検出部が担持されたクロマトグラフ媒体部及び吸収部を含む。以下、図面を参照しながら本発明のクロマト分析装置について説明する。
図1(a)及び(b)は、本発明の免疫クロマト分析装置の一例を説明するための概略図であり、
図1(a)は断面図、
図1(b)は平面図である。
【0031】
図1に示すように、免疫クロマト分析装置1は、プラスチック製粘着シート11上に、試料添加部12、標識物質で標識された抗ヘモグロビン抗体を含有する標識物質保持部13、クロマトグラフ媒体部14、吸収部15の順でキットの長手方向に沿ってそれぞれ設けられている。
【0032】
また、クロマトグラフ媒体部14上には、検出部として、抗HbA1c抗体が塗布された抗HbA1c抗体塗布部16、抗ヘモグロビン抗体が塗布された抗ヘモグロビン抗体塗布部17、コントロールとして抗IgG抗体が塗布された抗IgG抗体塗布部18がそれぞれ設けられている。
【0033】
プラスチック製粘着シート11は、免疫クロマト分析装置1の基材をなすものであり、片面に粘着剤を塗布したり、粘着テープを貼り付けることにより片面が粘着面となり、該粘着面上に下記の各構成部位の一部または全部が密着する。プラスチック製粘着シート11の材質は、試料に対して不透過性、非透湿性となるようなものを適宜選択すればよい。
【0034】
試料添加部12は、下記で説明する検体処理液を迅速に吸収するが、保持力は弱く、速やかに抗原抗体反応領域へと検体処理液が移動していくような性質の多孔質シートで構成することができる。多孔質シートとしては、例えば、グラスファイバー、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリアセテート、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ナイロン、綿布等から構成されたパッド、繊維及びメンブレン等が挙げられる。中でも、グラスファイバー、セルロース及びポリエチレンテレフタレートからなる群から選ばれた1種を用い、試料添加部12を構成するのが好ましい。
【0035】
このとき、試料添加部12を構成する素材として、グラスファイバー、セルロース及びポリエチレンテレフタレートからなる群から選ばれた1種を用いた場合に、HbA1cと陰イオン性界面活性剤との接触効率が高くなり、以下に詳述する陰イオン性界面活性剤がN末端露出剤として効率的に作用するという効果を奏する。
【0036】
試料添加部12には、上述した理由により前記アルキルグルコシド類を含有させておくことが好ましい。試料添加部12におけるアルキルグルコシド類の含有量は、1〜1700μgであることが好ましく、より好ましくは3.5〜700μgであり、さらに好ましくは175〜700μgである。1μg以上であることによって、アルキルグルコシド類の唾液成分の可溶化を促進し、口腔内で採取された血液検体中の被検出物質の検出反応の反応性低下を抑制する。1700μg以下であることによって、アルキルグリルコシド類の濃度過多による検出反応の阻害が生じることなく高感度な検出を可能とし、且つ、経済的にも好ましい濃度だからである。
【0037】
また、試料添加部12には、上述した理由によりアルキルグルコシド類とともに陰イオン性界面活性剤を含有させておくことが好ましい。試料添加部12における陰イオン性界面活性剤の含有量は、8〜800μgであることが好ましく、より好ましくは10〜500μgであり、さらに好ましくは16〜480μgである。8μg以上であることによって、唾液成分による検出反応の反応性低下の抑制により寄与することができ、800μg以下であることによって標識試薬の凝集による展開不良や陰イオン界面活性剤の濃度過多による検出反応の阻害が生じることなくより高感度な検出が可能だからである。
【0038】
また試料添加部12には、必要に応じて、チオシアン酸ナトリウム、グアニジン塩酸塩またはEDTA等の各種添加剤を添加することもできる。
【0039】
標識物質保持部13は、例えば標識物質で標識された抗ヘモグロビン抗体を保持する。標識物質保持部13における抗ヘモグロビン抗体は、検体処理液中のヘモグロビンに対して特異的に結合し得る。このような抗体としては、ポリクローナル抗体やモノクローナル抗体等が挙げられる。モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体若しくはそのフラグメントは、公知であり、入手可能であり、公知の方法により調製することができる。
【0040】
抗体産生動物種としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ及びヤギ等が挙げられる。免疫グロブリンとしては、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDのいずれでもよい。モノクローナル抗体は、常法に従って、抗原で免疫したマウスの脾臓細胞と骨髄腫細胞をハイブリッドさせ、目的とする抗体を産生するハイブリドーマを選択し、このハイブリドーマから産生されてくるモノクローナル抗体を収得する[例えば、ケーラーとミルスタインの技法(Nature 256(1975)495−497)を参照]。ポリクローナル抗体は、常法により、抗原を産生動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ及びウマ等)に免疫して得た抗血清中から目的とする抗体を分離することにより得られる。
【0041】
標識物質としては、視覚的に着色を確認できる有色物質が好ましく、当業界で公知のものを適宜採用できる。例えば、金属コロイド粒子、非金属コロイド粒子、着色ラテックス及び酵素標識等が挙げられるが、時間が経過しても退色し難い金属コロイド粒子が標識の安定性の観点からとくに好ましい。金属コロイド粒子としては、金、白金、銅、銀及びパラジウムコロイドの他、それらを混合した粒子等を使用することができ、とくに金コロイド粒子は適当な粒径において赤色を呈する点で好ましい。
【0042】
金属コロイド粒子の平均粒径は、例えば、1〜500nm、強い色調が得られる点で、好ましくは10nm〜150nm、より好ましくは20〜100nmの範囲内である。非金属コロイド粒子として、セレニウムコロイド等を例示することができる。金属コロイド及び非金属コロイド粒子は、常法により調製することができ、このとき、粒径は所望の色調を呈するよう調節される。また、市販品を利用することもできる。
【0043】
着色ラテックスは、ポリスチレン等の高分子重合体の粒子が赤や青色を呈する着色剤により着色したものが挙げられ、常法により調製することができる。酵素標識としては、例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ及びガラクトシダーゼ等が挙げられる。酵素標識を使用する場合、当該酵素に対する基質及び必要に応じて発色試薬を作用させ、その反応により生じる発色を検出する。
【0044】
なお、標識物質で標識された抗体の調製は、公知の手段にしたがって行うことができる。例えば金コロイド粒子を抗体に担持する方法としては、例えば、物理吸着及び化学結合などの公知の方法が挙げられる。具体的には、例えば、金粒子がコロイド状に分散した溶液に抗体を加えて物理吸着させた後、牛血清アルブミン溶液などのブロッキングタンパクを添加して抗体が未結合である粒子表面をブロッキングすることにより調製することができる。また、抗原抗体反応は、公知のサンドイッチ法、競合法や、それらを組み合わせた方法を採用することができる。
【0045】
標識物質保持部13の材質としては、例えば、グラスファイバー、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリアセテート、ナイロン及び綿布等が挙げられる。
【0046】
標識物質保持部13には、上述した理由により前記アルキルグルコシド類を含有させておくことが好ましい。標識物質保持部13におけるアルキルグルコシド類の含有量は、1〜1700μgであることが好ましく、より好ましくは3.5〜700μgであり、さらに好ましくは175〜700μgである。1μg以上であることによって、アルキルグルコシド類の唾液成分の可溶化を促進し、口腔内で採取された血液検体中の被検出物質の検出反応の反応性低下を抑制する。1700μg以下であることによって、アルキルグリルコシド類の濃度過多による検出反応の阻害が生じることなく高感度な検出を可能とし、且つ、経済的にも好ましい濃度だからである。
【0047】
また、標識物質保持部13には、上述した理由によりアルキルグルコシド類とともに陰イオン性界面活性剤を含有させておくことが好ましい。標識物質保持部13における陰イオン性界面活性剤の含有量は、8〜800μgであることが好ましく、より好ましくは10〜500μgであり、さらに好ましくは16〜480μgである。8μg以上であることによって、唾液成分による検出反応の反応性低下の抑制により寄与することができ、800μg以下であることによって標識試薬の凝集による展開不良や陰イオン界面活性剤の濃度過多による検出反応の阻害が生じることなくより高感度な検出が可能だからである。
【0048】
クロマトグラフ媒体部14は、毛細管現象により試料検体を吸収し移動させることができるものであればよく、例えば、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ナイロン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ガラスファイバー、ポリオレフィン、セルロース及びこれらの混合繊維等から構成することができる。
【0049】
クロマトグラフ媒体部14上に設けられた、検出部の抗HbA1c抗体塗布部16、抗ヘモグロビン抗体塗布部17、抗IgG抗体塗布部18は、例えば、それぞれの抗体を担持固定できる材料から構成され、該材料としては、例えば、ニトロセルロース等が挙げられる。
【0050】
クロマトグラフ媒体部14には、上述した理由により前記アルキルグルコシド類を含有させておくことが好ましい。クロマトグラフ媒体部14におけるアルキルグルコシド類の含有量は、1〜1700μgであることが好ましく、より好ましくは3.5〜700μgであり、さらに好ましくは175〜700μgである。1以上であることによって、アルキルグルコシド類の唾液成分の可溶化を促進し、口腔内で採取された血液検体中の被検出物質の検出反応の反応性低下を抑制する。1700μg以下であることによって、アルキルグルコシド類の濃度過多による検出反応の阻害が生じることなく高感度な検出を可能とし、且つ、経済的にも好ましい濃度だからである。
【0051】
また、クロマトグラフ媒体部14には、上述した理由によりアルキルグルコシド類とともに陰イオン性界面活性剤を含有させておくことが好ましい。クロマトグラフ媒体部14における陰イオン性界面活性剤の含有量は、8〜800μgであることが好ましく、より好ましくは10〜500μgであり、さらに好ましくは16〜480μgである。8μg以上であることによって、唾液成分による検出反応の反応性低下の抑制により寄与することができ、800μg以下であることによって標識試薬の凝集による展開不良や陰イオン界面活性剤の濃度過多による検出反応の阻害が生じることなくより高感度な検出が可能だからである。
【0052】
本願発明の免疫クロマト分析装置において、前述した検出部の展開方向上流には、上述したアルキルグルコシド類及び陰イオン性界面活性剤を含有する。ここで、本明細書において、「検出部の展開方向上流」とは、免疫クロマト分析装置の長手方向について、検出部を基準とした場合の試料添加部側を上流側とした、相対的な方向を意味する。具体的には、例えば、試料添加部12、標識物質保持部13及びクロマトグラフ媒体部14等が挙げられる。
【0053】
アルキルグルコシド類及び陰イオン性界面活性剤は、上述したように、検体希釈液、検出部の展開方向上流に位置する試料添加部12、標識物質保持部13及びクロマトグラフ媒体部14の少なくとも1つに含有させておくことが好ましい。 唾液成分による検出反応の反応性低下の効果的な抑制や標識試薬の凝集による展開不良の抑制の観点から、アルキルグルコシド類及び陰イオン性界面活性剤は、検体希釈液及び試料添加部の少なくとも1つに含有させておくことがより好ましい。検体希釈液にアルキルグルコシド類、試料添加部に陰イオン界面活性剤を含有させておくことが特に好ましい。
【0054】
吸収部15を構成する材料としては、過剰の検体処理液を迅速に吸収する能力を有する材料が挙げられ、セルロース繊維又はガラス濾紙等が用いられる。
【0055】
次に本発明の免疫クロマト分析方法について説明する。本発明の免疫クロマト分析方法は、上記で説明した免疫クロマト分析装置を用いて口腔内から採取される血液検体に含まれる被検出物質を検出するものであって、以下の工程(1)〜(4)を含む。
(1)検体希釈液により前記血液検体を希釈した検体処理液を試料添加部に添加する工程
(2)標識物質保持部に保持されている標識物質により被検出物質を認識させる工程
(3)アルキルグルコシド類及び陰イオン性界面活性剤存在下で血液検体及び標識物質を移動相としてクロマトグラフ媒体部に展開させる工程
(4)展開された移動相中の被検出物質を検出部で検出する工程
【0056】
以下、被検出物質がHbA1cである場合を例として、各工程について説明する。(1)工程においては、まず、口腔内から採取される血液検体を検体希釈液で希釈した検体処理液を調製する。検体希釈液は、(3)工程における血液検体及び標識物質を移動相としてクロマトグラフ媒体部に展開させるための展開液として作用することができる。
【0057】
検体希釈液と、患者の口腔内からから採取した血液検体とを混合し、検体処理液を調製し、試料添加部12に滴下する。なお、患者からの血液検体の採取場所は、例えば、歯肉溝が挙げられる。また、採取方法は、例えば、歯間ブラシを使用する方法が挙げられる。
【0058】
(2)工程において、標識物質保持部13に到達した検体処理液中のヘモグロビンは、標識物質により標識された抗ヘモグロビン抗体と抗原抗体反応することで、複合体を形成する。すなわち、被検出物質であるHbA1cも標識物質保持部13に保持されている標識物質により認識されることになる。
【0059】
(3)工程においては、検体及び標識物質、すなわち検体処理液と、抗ヘモグロビン抗体とヘモグロビンの複合体が移動相としてクロマトグラフ媒体部14に展開される。このとき、検体処理液に含まれる非イオン性界面活性剤が該展開の展開性を良化し、また続く抗原抗体反応を阻害しない効果を奏することは上述の通りである。
【0060】
また、アルキルグルコシド類及び陰イオン性界面活性剤存在下で検体及び標識物質を移動相としてクロマトグラフ媒体部に展開させるには、アルキルグルコシド類及び陰イオン性界面活性剤を、検体希釈液及び検出部の展開方向上流の少なくとも一方に含有させておく。
【0061】
続いて、(4)工程において、クロマトグラフ媒体部14に展開された移動相中の被検出物質であるHbA1cは、抗HbA1c抗体塗布部16に到達し、HbA1cはそこを通過する間に抗HbA1c抗体と反応して固定化される。HbA1c以外のヘモグロビン及び検体処理液は、抗HbA1c抗体塗布部16を反応せずに通過するが、抗ヘモグロビン抗体塗布部17に到達すると、HbA1c以外のヘモグロビンは抗ヘモグロビン抗体と反応し固定化される。
【0062】
なお、抗原と反応しなかった標識物質や抗体塗布部16及び17で反応しなかった標識物質は抗IgG抗体塗布部18で抗IgG抗体と反応し固定化され、展開が正常に行われていることを示すコントロールとして発色する。その他の試料液成分は反応せずに吸収部15まで移動する。このようにして、各塗布部においてHbA1c及びHbA1c以外のヘモグロビンの存在による発色シグナルが確認できる。なお、抗HbA1c抗体及び抗ヘモグロビン抗体は、前述のようなモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれであってもよい。
【0063】
血中成分には個人差が存在し、単にHbA1cを発色させてその強度を確認しただけでは、糖尿病の判定は困難である。そこで、HbA1cとHbA1c以外のヘモグロビンを同時に発色させ、両者の発色度合いの比較から該判定を行うのがよい。
【0064】
具体的には、例えば、HbA1cとHbA1c以外のヘモグロビンの発色シグナルを比較し、HbA1cの発色シグナルがHbA1c以外のヘモグロビンのそれよりも強い場合、陽性と判定することができる。逆にHbA1cの発色シグナルがHbA1c以外のヘモグロビンと同等またはそれよりも弱い場合、陰性と判定することができる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【0066】
実施例1
以下の手順で、
図1に示すような免疫クロマト分析装置1を作製した。
(1)試料添加部12
試料添加部12には、グラスファイバーパッド(ミリポア社製商品名グラスファイバーコンジュゲートパッド、サイズ縦32mm(検体処理液展開方向)、横150mm、厚さ0.43mm)に、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を、60μg/cm
2の割合で均一に添加し、50℃で4時間乾燥することにより作製した。
【0067】
(2)抗HbA1c抗体塗布部16、抗ヘモグロビン抗体塗布部17、抗IgG
抗体塗布部18の作製
メンブレンとしてニトロセルロースからなるシート(ミリポア社製、商品名:HF120、250mm×25mm)を用いた。5質量%のスクロース及び5質量%のイソプロパノールを含む10mMのリン酸緩衝液(pH7.4)で1.0mg/mlの濃度になるように抗HbA1cモノクローナル抗体、抗ヘモグロビンモノクローナル抗体または抗IgGモノクローナル抗体を希釈し、その希釈された溶液150μLを抗体塗布機(BioDot社製)によりメンブラン上に1mmの幅で別々の場所に塗布し、50℃で30分間乾燥させ、室温で一晩乾燥させ、クロマトグラフ媒体部14上に抗HbA1c抗体塗布部16、抗ヘモグロビン抗体塗布部17、抗IgG抗体塗布部18をそれぞれ設けた。
【0068】
(3)標識物質溶液の作製
金コロイド懸濁液(田中貴金属工業社製:平均粒子径40nm)0.5mLに、Tris緩衝(pH8.5)で0.1mg/mLの濃度になるように希釈した抗ヘモグロビンモノクローナル抗体0.1mL加え、室温で10分間静置した。次いで、0.01質量%のPEG−SH(日本油脂株式会社製、商品名:SUNBRIGHT ME−200SH、分子量20000)を含むTris緩衝液(pH8.5)を0.1ml加え(添加後のPEG−SH濃度:0.001質量%)、室温で10分間静置した。その後、十分撹拌した後、8000×gで15分間遠心分離を行い、上清を除去した後、1質量%の牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝液(pH7.4)0.1mLを加え、標識物質溶液を作製した。
【0069】
(4)免疫クロマト分析装置1の作製
上記作製した標識物質溶液 220μlに100μlの25質量%トレハロース水溶液を含むリン酸緩衝液(pH9.0)を加えたものを8mm×100mmのグラスファイバーパッド(ミリポア社製)に均一になるように添加した後、真空乾燥機にて乾燥させ、標識物質保持部13を作製した。次に、プラスチック製粘着シート11上に、上記作製した試料添加部12、標識物質で標識された標識物質保持部13、クロマトグラフ媒体部14を貼り合わせ、汎用の吸収部15をさらに貼り合わせ、裁断機で幅が5mmとなるように裁断し、免疫クロマト分析装置1を作製した。この時、一装置あたりに含有するSDSの量は、96μgであった。
【0070】
下記の処方にて、各成分を攪拌し、検体希釈液を調製した。
グルコシド類として、C8グルコシド(同仁化学(株)社製、製品名n-Octyl-β-D-glucoside):10mM
非イオン性界面活性剤として、TritonX−100(SIGMA社製、商品名)とTween20(和光純薬(株)社製、商品名)との1:5の質量比の混合物:1.2質量%
バッファーとしてのBicine緩衝液:50mM
無機塩として塩化カリウム:0.6質量%
添加剤としてカゼインナトリウム:2.0質量%
残量:水
【0071】
検体の採取
健康成人男性及び糖尿病男性患者それぞれの指先を穿刺することにより採取されたHbA1c濃度が既知の血液を混合することにより、5.5%のHbA1c濃度を有する血液を調整した。また、健康成人男性から唾液を採取した。
【0072】
検体処理液1の調製
血液と唾液を (容量比) 1:49となるように混合し、該混合物と前記検体希釈液とを、前者:後者として(容量比)、1:19で混合し、検体処理液1を調製した。
検体処理液2の調製
唾液を含有しない血液と前記検体希釈液とを、前者:後者として(容量比)、1:1000で混合し、検体処理液2を調製した。
検体処理液3の調製
健康成人男性及び糖尿病男性患者それぞれの指先を穿刺することにより採取されたHbA1c濃度が既知の血液を混合し調整された6.5%のHbA1c濃度を有する血液1μLと、健康成人男性の口腔内から、歯間ブラシを歯肉溝に穿刺し採取した唾液を含む血液検体とを、1.0mLの検体希釈液に浸漬し攪拌し、検体処理液3を調製した。
【0073】
免疫クロマト分析の実施
上記のようにして作製した免疫クロマト分析装置1の試料添加部12に、検体処理液1を110μl供給し、展開10分後に検出部の発色の度合いをイムノクロマトリーダー(浜松ホトニクス(株)社製 製品名)により測定した。イムノクロマトリーダーによる測定値は、各実施例及び比較例において繰り返し3回の試験を行った。
同様の方法で、検体処理液2についても免疫クロマト分析を実施した。
【0074】
唾液を含む血液検体(検体処理液1)と血液検体(検体処理液2)における発色度変化率の評価
下記式で求められる発色度変化率を表1及び
図2に示す。
発色度変化率(%)=100×(検体処理液1の平均測定値)/(検体処理液2の平均測定値)
100%は変化なしを示し、数値が小さくなるほど唾液を含む検体での感度低下が大きいことを示す。
【0075】
実施例2
実施例1において、検体希釈液中のアルキルグルコシド類を、C8グルコシドからC12グルコシドのn-Dodecyl-β-D-glucoside(花王(株)社製、製品名マイドール12)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1及び
図2に示す。
【0076】
実施例3
実施例1において、検体希釈液中のアルキルグルコシド類を、C8グルコシドからC12グルコシドのn-Decyl-β-D-glucoside(花王(株)社製、製品名マイドール10)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1及び
図2に示す。
実施例4
実施例1において、試料滴下部に含有させる陰イオン性界面活性剤を、SDSからSDBS(関東化学 (株) 社製、製品名ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1及び
図2に示す。
実施例5
実施例1において、検体希釈液中のアルキルグルコシド類を、C8グルコシドからC8マルトシド((株)同仁化学研究所 社製、製品名n-Octyl-β-D−maltoside)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1及び
図2に示す
【0077】
比較例1
実施例1において、検体希釈液中にアルキルグルコシド類及び試料滴下部にSDSを含有させないこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1及び
図2に示す。
【0078】
比較例2
実施例1において、検体希釈液中にC8グルコシドを含有させないこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1及び
図2に示す。
【0079】
比較例3
実施例1において、試料滴下部にSDSを含有させないこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1及び
図2に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1及び
図2に示す実施例の結果から、検出部の展開方向上流にアルキルグルコシド類及び陰イオン性界面活性剤を含有することにより、血液検体が唾液を含むことによる検出感度の低下が抑制されていることが分かる。
【0082】
また、比較例1及び2において、アルキルグルコシド類を含有しない場合において、陰イオン性界面活性剤を含有していても含有していなくとも、発色度の変化率に差はなかった。
【0083】
一方、比較例3と実施例1において、アルキルグルコシド類を含有する場合においては、陰イオン性界面活性剤を含有している方が、検出感度の低下が抑制されていることが分かる。
【0084】
したがって、アルキルグルコシド類と陰イオン性界面活性剤の両者が存在することで、相乗的に作用し、唾液を含有することによる血液検体の検出感度の低下を抑制していることが分かった。
【0085】
実施例6
実施例1の検体処理液1の調製において、5.5%、6.0%、6.5%の各種HbA1c濃度を有する血液を用い、唾液を含む血液検体の分析のみを実施したこと以外は実施例1を繰り返した。また、免疫クロマト分析において、イムノクロマトリーダーを用いずに、検出部での発色の度合いを目視で判定した。結果を表2に示す。なお表中の評価基準は以下の通りである。
+:赤色の発色を確認できるもの
++:強い赤色の発色を確認できるもの
+++:非常に強い赤色の発色が確認できるもの
【0086】
【表2】
【0087】
実施例7
実施例6において、検体処理液1に代え検体処理液3を用い唾液を含む血液の実検体について試験したこと以外は、実施例6を繰り返した。目視判定の結果は、非常に強い赤色の発色(+++)が確認された。また、6.5%以上のHbA1c濃度を有する糖尿病患者の血液検体を歯間ブラシで採取し、検体希釈液で1000倍に希釈処理し試験した場合でも同様の結果が得られる。
【課題】口腔内から採取される血液検体であっても、高感度な検出を実現し、痛みやストレスを感じることなく、免疫クロマト分析ができる免疫クロマト分析キット、免疫クロマト分析装置及び免疫クロマト分析方法を提供することを課題とする。
【解決手段】唾液を含む血液検体を希釈して展開するための検体希釈液並びに試料添加部、標識物質保持部、検出部が担持されたクロマトグラフ媒体部及び吸収部を含む免疫クロマト分析装置を含む免疫クロマト分析キットであって、