特許第5775248号(P5775248)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5775248光触媒材料、有機物分解方法、内装部材、空気清浄装置、酸化剤製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775248
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】光触媒材料、有機物分解方法、内装部材、空気清浄装置、酸化剤製造装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20150820BHJP
   A61L 9/00 20060101ALI20150820BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20150820BHJP
   B01J 23/85 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   B01J35/02 J
   A61L9/00 C
   A61L9/01 B
   B01J23/85 M
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2008-73930(P2008-73930)
(22)【出願日】2008年3月21日
(65)【公開番号】特開2009-226299(P2009-226299A)
(43)【公開日】2009年10月8日
【審査請求日】2010年12月13日
【審判番号】不服2014-26787(P2014-26787/J1)
【審判請求日】2014年12月26日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト 光触媒関連基礎技術の研究開発ならびに新環境科学領域の創成事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087767
【弁理士】
【氏名又は名称】西川 惠清
(74)【代理人】
【識別番号】100155745
【弁理士】
【氏名又は名称】水尻 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100143465
【弁理士】
【氏名又は名称】竹尾 由重
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087767
【弁理士】
【氏名又は名称】西川 惠清
(74)【代理人】
【識別番号】100155745
【弁理士】
【氏名又は名称】水尻 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100143465
【弁理士】
【氏名又は名称】竹尾 由重
(74)【代理人】
【識別番号】100136696
【弁理士】
【氏名又は名称】時岡 恭平
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和仁
(72)【発明者】
【氏名】入江 寛
(72)【発明者】
【氏名】三浦 脩平
(72)【発明者】
【氏名】神谷 和秀
(72)【発明者】
【氏名】三木 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼濱 孝一
(72)【発明者】
【氏名】矢口 充雄
【合議体】
【審判長】 大橋 賢一
【審判官】 川端 修
【審判官】 河原 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−149312(JP,A)
【文献】 特開9−192496(JP,A)
【文献】 特開2009−189952(JP,A)
【文献】 ARAI, T. et al,Promotion effect of CuO co−catalyst on WO3−catalyzed photodegradation of organic substances,Catalysis Communications,2007年11月21日,Vol.9, No.6,p.1254−1258,doi:10.1016/j.catcom.2007.11.012
【文献】 MARUTHAMUTHU, P. et al,Hydrogen evolution from water with visible radiation in presence of Cu(II)/WO3 and electron relay,International Journal of Hydrogen Energy,1989年,Vol.14, No.8,p.525−528,doi:10.1016/0360−3199(89)90109−2
【文献】 MARUTHAMUTHU, P. et al,Hydrogen generation using Cu(II)/WO3 and oxalic acid by visible light,International Journal of Hydrogen Energy,1988年,Vol.13, No.11,p.677−680,doi:10.1016/0360−3199(88)90077−8
【文献】 ARAI, T. et al,The enhancement of WO3−catalyzed photodegradation of organic substances utilizing the redox cycle of copper ions,Applied Catalysis B: Environmental,2008年 3月15日,Vol.84,No.1−2,p.42−47,doi:10.1016/j.apcatb.2008.03.002
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三酸化タングステン微粒子の表面に、銅二価塩を担持して成り、前記三酸化タングステン微粒子に担持された銅二価塩は、三酸化タングステンに対する銅元素の質量比率が、0.0001〜1%であり、前記三酸化タングステン微粒子の表面に担持された前記銅二価塩の陰イオンが、水酸イオンであり、前記三酸化タングステン微粒子の粒径は1μm以下であることを特徴とする可視光活性を有する光触媒材料。
【請求項2】
請求項1に記載の可視光活性を有する光触媒材料に可視光を照射して、有機物を分解することを特徴とする有機物分解方法。
【請求項3】
請求項1に記載の可視光活性を有する光触媒材料を、表層に含むことを特徴とする内装部材。
【請求項4】
請求項1に記載の可視光活性を有する光触媒材料を使用して形成されたことを特徴とする空気清浄装置。
【請求項5】
請求項1に記載の可視光活性を有する光触媒材料を使用して形成されたことを特徴とする酸化剤製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光活性を有する光触媒材料に関するものであり、またこの光触媒材料を用いた有機物分解方法、この光触媒材料を用いて形成した内装部材、空気清浄装置、酸化剤製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒材料は、エネルギー源として低コストかつ環境負荷が非常に小さい光を利用して、有機物や、窒素酸化物等の一部無機物を、酸化・分解する活性を発現することから、近年、環境浄化、脱臭、防汚、殺菌などの応用が進められており、種々の光触媒材料が開発・研究されている。
【0003】
光触媒としては、紫外線照射下で活性を発現する酸化チタンなどが広く知られているが、住宅内部など、紫外線照射が少ない環境下での利用を前提として、可視光照射下で活性を発現する光触媒材料が要望されており、その研究・開発が進められている、
例えば、特許文献1には、酸化チタン結晶の酸素サイトの一部を窒素原子で置換した可視光活性を有する光触媒材料が開示されている。
【0004】
この特許文献1で開示される光触媒材料は、酸化チタン結晶の酸素サイトの一部を窒素原子で置換することで、酸化チタンのバンドギャップ内に新たな孤立準位を形成することにより、可視光活性を発現させるようにしたものである。孤立準位に存在する電子は、孤立準位から伝導帯のエネルギーギャップ以上のエネルギーを有する光子が当たると、酸化チタンの伝導帯に励起され、一方、孤立準位には正孔が生成し、これにより活性が発現されるものである。
【0005】
しかしながら、酸化チタンのバンドギャップ内に上記のように形成された孤立準位は電位が小さく、可視光照射によって電子が励起した際に生成する正孔の酸化力は低いものであり、また孤立準位に生成した正孔は移動が制限されており、酸化対象となる基質との反応性は低いものである。このため、特許文献1で開示されている光触媒材料は、可視光活性を有するものの酸化分解活性が低いという問題があった。
【0006】
また、三酸化タングステンは、価電子帯の電位が大きく(3.1〜3.2Vvs.SHE,pH=0)、光照射により生成した正孔は強い酸化力を有するものであり、伝導帯下端の電位も0.3〜0.5V(3.1〜3.2Vvs.SHE,pH=0)であることから、可視光活性を有する光触媒材料として知られている。
【0007】
しかし、伝導帯下端の電位が酸素一電子還元電位(−0.046Vvs.SHE,pH=0)より大きいことから、光励起電子が酸素を一電子還元することができない。光励起電子は、生成した正孔と再結合したり、三酸化タングステンのW(VI)をW(V)に還元してフォトクロミズム性を示すなどして、酸化分解活性を失活するものであり、このため、三酸化タングステンは、非常に小さな酸化分解活性しか示さないという問題があった。
【特許文献1】特許第3601532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、可視光の照射によって高い酸化分解活性を示す三酸化タングステン系の光触媒材料を提供することを目的とするものであり、またこの高い酸化分解活性を利用した有機物分解方法、内装部材、空気清浄装置および酸化剤製造装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る可視光活性を有する光触媒材料は、三酸化タングステン微粒子の表面に、銅二価塩を担持して成ることを特徴とするものである。
【0010】
三酸化タングステン微粒子に担持された銅二価塩は、三酸化タングステン微粒子に対する銅元素の質量比率、0.0001〜1%の範囲であり、また銅二価塩の陰イオンは、水酸イオンであり、前記三酸化タングステン微粒子の粒径は1μm以下である。
【0011】
本発明は、銅二価塩が酸素の多電子還元触媒として作用することを利用したものである。三酸化タングステン微粒子の表面に銅二価塩を担持して形成される光触媒材料に、三酸化タングステンのバンドギャップ以上のエネルギーを有する光が照射されると、三酸化タングステンの価電子帯から励起された光励起電子は、三酸化タングステンの伝導帯から三酸化タングステン上に担持された銅二価塩のCu(II)イオンへ移動し、Cu(II)イオンをCu(I)イオンに還元する。Cu(I)イオンは、環境中の酸素原子を多電子還元し、2電子還元の場合は過酸化水素を、4電子還元の場合は水を発生させ、自身はCu(II)に戻る。
【0012】
:2電子還元
2Cu(I)+O+2H → 2Cu(II)+H
:4電子還元
4Cu(I)+O+4H → 4Cu(II)+2H
あるいは
3Cu(I)+O+4H → 2Cu(II)+Cu(III)+2H
すなわち、三酸化タングステン上に担持された銅二価塩のCu(II)イオンは酸素の多電子還元触媒として作用する。
【0013】
このメカニズムにより、三酸化タングステンの価電子帯から励起された光励起電子が効率的に消費されて、水もしくは酸化活性種である過酸化水素を生成するため、従来の三酸化タングステンの問題であった光励起電子の活性の低さが解消され、本発明の光触媒材料は、可視光照射によって高効率で酸化分解活性を発現するものである。
【0014】
また、三酸化タングステンの価電子帯の電位は酸化チタン同様に大きく、光照射により生成した正孔は強い酸化力を有する。このため、特許文献1で開示されているような窒素ドープ酸化チタンでは孤立準位に生成した正孔が弱い酸化力しか有さないのに比して、本発明の光触媒材料は高効率で酸化分解活性を発現するものである。
【0015】
また本発明に係る有機物分解方法は、上記の可視光活性を有する光触媒材料に可視光を照射して、有機物を分解することを特徴とするものである。
【0016】
上記のように本発明に係る光触媒材料は、可視光の照射で高い酸化分解活性を有するものであり、この光触媒材料に接触する有機物を、酸化分解することができるものである。
【0017】
また本発明に係る内装材は、上記の可視光活性を有する光触媒材料を表層に含むことを特徴とするものであり、本発明に係る空気清浄装置、酸化剤製造装置は、上記の可視光活性を有する光触媒材料を使用して形成したことを特徴とするものである。
【0018】
本発明の光触媒材料は、三酸化タングステンのバンドギャップ以上のエネルギーを有する可視光を照射すると、強い酸化力を持った正孔と、銅二価塩を介して酸化力を有する過酸化水素を生成する。ここで、三酸化タングステンの吸収波長端は470nm程度であり、一方、一般的な光触媒材料の酸化チタンの吸収波長端は400nm程度である。そして室内で一般に用いられる白色蛍光灯は400〜450nm程度に強い輝線を有するため、従来の酸化チタン光触媒では活性が発現しないが、本発明の光触媒材料は、室内を代表とするこのような波長領域の可視光照射下において強い酸化分解活性を発現するものである。
【0019】
また、従来の酸化チタン光触媒では、酸化チタンの伝導帯下端電位が小さいため、環境中の酸素を一電子還元して、活性酸素種であるスーパーオキサイドアニオン(O2−)を生成する。
【0020】
:1電子還元
+e → ・O2−
一方、本発明における光触媒材料は、可視光照射によって励起された光励起電子が、Cu(II)イオンを介して酸素の多電子還元に消費され、過酸化水素あるいは水を生成する。このように本発明の光触媒材料は、活性酸素種であるスーパーオキサイドアニオンを生成しないという安全面での利点もある。
【0021】
また、銅二価塩を担持しない三酸化タングステンにバンドギャップ以上の光を照射する場合には、光励起電子が三酸化タングステンのW(VI)をW(V)に還元して、フォトクロミズム性を示して色が変化するが、一方、本発明における光触媒材料は、可視光照射によって励起された光励起電子が、Cu(II)イオンを介して酸素の多電子還元に消費されるため、三酸化タングステンのフォトクロミズム性は抑制され、ほとんど色が変わらないという特性を有する。
【0022】
すなわち、本発明の光触媒材料は、可視光照射下において強い酸化分解活性を示すとともに、有害な活性酸素種であるスーパーオキサイドアニオンを生成せず、さらに三酸化タングステンに特徴的なフォトクロミズム性が抑制されて変色しないという特徴を有する。これは、可視光活性、安全性、外観の安定性といった、光触媒材料を住宅の内装部材に用いる際に特に重視される性能を満たすことを意味するものであり、本発明の光触媒材料は、住宅の内装部材に適用するのに特に適しているものである。つまり、本発明の光触媒材料を表層に設けて形成した住宅の内装部材は、高い可視光活性と、安全性を有し、また外観の安定性にも優れたものになるものである。
【0023】
また、本発明の光触媒材料は、可視光照射下において強い酸化分解活性を示すことから、空気清浄装置への利用においても好適である。すなわち、従来の酸化チタンなどの光触媒を利用した空気清浄装置では、高価な紫外線光源を使用して活性を発現させる必要があったが、本発明の光触媒材料を利用すれば、安価な蛍光灯を光源として使用して強い酸化分解活性を発現させることができるので、安価に空気清浄装置を作製することができるものである。
【0024】
さらに、本発明の光触媒材料は、可視光照射下で上記のように過酸化水素を生成する。過酸化水素は、酸化剤としては安定であり、しかも比較的寿命が長いものであり、このため光照射を終了した後もある程度の時間、本発明の光触媒は酸化分解活性を保持する可能性がある。さらに、このように生成した過酸化水素を適切な媒体で移動させるようにすれば、本発明の光触媒材料の表面以外の場所で、酸化分解活性を利用することができるものである。従って本発明の光触媒材料を用いて酸化剤製造装置を形成することによって、安定して寿命が長い酸化剤を製造することができるものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、可視光の照射によって高い酸化分解活性を示す三酸化タングステン系の光触媒材料を提供することができるものである。
【0026】
またこの高い酸化分解活性を利用した有機物分解方法、内装部材、空気清浄装置および酸化剤製造装置を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0028】
本発明において三酸化タングステンは、微粒子状のものが用いられる。三酸化タングステン微粒子の大きさは特に限定されないが、1ミクロン以下、より好ましくは500nm以下の粒径であることが望ましい。また三酸化タングステンは、一部のW(VI)がW(V)に還元されている場合もあり、本発明の光触媒材料として用いるにあたっては、高温で焼成するなどしてW(V)をW(VI)に酸化しておくことが望ましい。
【0029】
三酸化タングステン微粒子の表面に、銅二価塩を担持させることによって、本発明の光触媒材料を得ることができるものである。三酸化タングステン微粒子の表面に銅二価塩を担持させる方法については特に限定されるものではなく、例えば水溶液含浸法などを挙げることができる。
【0030】
三酸化タングステン微粒子への銅二価塩の担持量は、三酸化タングステンに対する銅二価塩中の銅元素の質量比率が、0.0001〜1%の範囲になるようするのが望ましい。本発明の光触媒材料において、光励起を受けるのは三酸化タングステン微粒子であるので、三酸化タングステン微粒子の表面が銅二価塩で広く被覆されると、三酸化タングステンへの光照射が阻害され、光触媒活性が低下するおそれがある。さらに、銅二価塩は酸素の多電子還元触媒として作用するため、触媒活性を効率的に発現するためには凝集せずに高い分散性の微細粒子の形態で三酸化タングステン微粒子に担持されていることが望ましい。このため、銅二価塩の担持量は、三酸化タングステンに対する銅元素の質量比率は1%以下であることが望ましいのである。また逆に、銅二価塩の担持量が少なすぎると、多電子還元触媒としての働きが不十分となるため、三酸化タングステンに対する銅元素の質量比率は0.0001%以上であることが望ましいのである。
【0031】
本発明において、銅二価塩の陰イオンは、水酸イオンであることが望ましい。銅二価塩の出発物質としては例えば塩化第二銅(CuCl・2HO)などを用いることができるが、本発明の光触媒材料を製造するに際して、水溶液中で三酸化タングステン微粒子に含浸・加熱という工程を経ることにより、銅二価塩は高分散の微細粒子として三酸化タングステン微粒子の表面に担持されるとともに、陰イオンが水酸イオンとなる。Cu(II)は6配位の状態にあると推測され、銅二価塩は具体的には、三酸化タングステンの酸素原子と結合している場合は、W−O−Cu(OH)・3HO、吸着されている場合は、Cu(OH)・4HOという状態であると推測される。
【0032】
上記のようにして得られる本発明の光触媒材料は、三酸化タングステンのバンドギャップ以上のエネルギーを有する可視光を照射することによって、既述のように、強い酸化力を持った正孔と、銅二価塩を介して酸化力を有する過酸化水素を生成し、それらにより有機物を酸化分解することができるものである。そして三酸化タングステンの吸収波長端は470nm程度であり、室内で一般に用いられる白色蛍光灯は400〜450nm程度に強い輝線を有するため、本発明の光触媒材料は、室内を代表とする可視光照射下において強い酸化分解活性を発現することができるものである。
【0033】
本発明の光触媒材料によって酸化分解される有機物は特に制限されるものではなく、例えば、シックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドやアセトアルデヒドといったアルデヒド・ケトン類や、トルエン等の揮発性有機化合物(VOC)などを挙げることができる。またその他、例えばメチルメルカプタンやトリメチルアミン等の臭気物質、皮脂・石鹸垢・油脂・調味料等の汚染物質、大腸菌や黄色ブドウ球菌等の細菌類なども酸化分解される有機物として挙げることができる。このように、本発明の光触媒材料は、環境浄化・脱臭・防汚・殺菌などといった機能を有し、これらの機能を必要とする用途に用いることができるものである。
【0034】
本発明の光触媒材料を利用することができる部材・設備等は特に制限されるものではない。本発明の光触媒材料は可視光照射下だけでなく、紫外光照射下でも酸化分解活性に優れているものであり、現状の光触媒材料が用いられている適用先においても好適に利用することができる。中でも、特に内装部材、空気清浄装置への適用に好適である。
【0035】
本発明の光触媒材料は、既述のように、可視光照射下において強い酸化分解活性を示すとともに、有害な活性酸素種であるスーパーオキサイドアニオンを生成せず、さらに三酸化タングステンに特徴的なフォトクロミズム性が抑制されて変色しないという特性を有する。これは、可視光活性、安全性、外観の安定性といった、光触媒材料を住宅の内装部材に用いる際に特に重視される性能を満たすものであり、本発明の光触媒材料は、住宅の内装部材に適用するのに特に適しているものである。
【0036】
内装部材への適用は、内装部材の表層に本発明の光触媒材料を含有させることによって行なうことができる。光触媒材料を内装部材の表層に含有させる方法としては、特に限定されるものではなく、例えばコーティング材に光触媒材料を配合し、このコーティング材を内装部材の表面に塗装することによって、光触媒材料を含有する表層を形成する方法などが挙げられる。
【0037】
このような、本発明の光触媒材料を表層に含む内装部材の具体例としては特に限定されるものではなく、例えば、ドア・収納扉・天井材・壁材・床材・間仕切り・造作材・階段・框・手すり・窓枠・洗面台・キッチン・トイレ・浴室部材などが挙げられる。
【0038】
また、本発明の光触媒材料は、既述のように、可視光照射下において強い酸化分解活性を示すことから、空気清浄装置への利用においても好適である。すなわち、従来の酸化チタンなどの光触媒を利用した空気清浄装置では、高価な紫外線光源を使用して活性を発現させる必要があったが、本発明の光触媒材料を利用すれば、安価な蛍光灯を光源として使用して強い酸化分解活性を発現させることができるので、安価に空気清浄装置を作製することができるものである。
【0039】
本発明の光触媒材料を空気清浄装置に利用する方法は特に限定されるものではないが、例えば、空気を濾過するフィルターに光触媒材料を担持させ、このフィルターを空気清浄装置に組み込む方法などが挙げられる。
【0040】
さらに、本発明の光触媒材料は、既述のように、可視光照射下において過酸化水素を生成するという特徴がある。過酸化水素は、酸化剤としては安定であり、しかも比較的寿命が長いものであり、このため光照射を終了した後もある程度の時間、本発明の光触媒は酸化分解活性を保持する可能性がある。さらに、このように生成した過酸化水素を適切な媒体で移動させるようにすれば、本発明の光触媒材料の表面以外の場所で、酸化分解活性を利用することができるものである。従って本発明の光触媒材料は、酸化剤製造装置に適用することもできる。
【0041】
本発明の光触媒材料を酸化剤製造装置として利用する方法は特に限定されるものではないが、例えば、本発明の光触媒材料を担持した部材と光源とを備えて酸化剤製造装置を形成する方法が挙げられる。この酸化剤製造装置を洗濯機に組み込み、水を過酸化水素の媒体として洗濯槽内で過酸化水素を生成させ、洗濯槽中の汚れや臭いをこの過酸化水素で酸化分解することができるものである。
【実施例】
【0042】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
WO粉末(平均粒径250nm、(株)高純度化学研究所)をフィルターに通して粒径1μm以上の粒子を除去し、650℃で3時間焼成する前処理を行なうことによって、三酸化タングステン微粒子を得た。
【0044】
そしてこの三酸化タングステン微粒子を蒸留水中に懸濁させ(10質量%:WOvs.HO)、次にこれに、0.1質量%(Cu(II)vs.WO)の量でCuCl・2HO(和光純薬工業株式会社製)を加え、攪拌しながら90℃に加熱して1時間保持した。次に、得られた懸濁液を吸引濾過によって濾別した後に、残渣を蒸留水によって洗浄し、さらに110℃で加熱乾燥することによって、銅二価塩を担持した三酸化タングステン微粒子を評価用サンプルとして得た。
【0045】
この銅二価塩担持三酸化タングステン微粒子について、誘導結合プラズマ発光分析(ICP−AES,P−4010,HITACHI)および偏光ゼーマン原子吸光分析(Polarized Zeeman AAS,Z−2000,HITACHI)でCu(II)担持量を評価したところ、0.0050質量%(Cu(II)vs.WO:仕込量の5質量%)が担持されていた。
【0046】
(実施例2)
三酸化タングステンの焼成前処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、評価用サンプルとなる銅二価塩担持三酸化タングステン微粒子を得た。
【0047】
(比較例1)
WO粉末(平均粒径250nm、(株)高純度化学研究所)をフィルターに通して粒径1μmの粒子を除去し、650℃で3時間焼成することによって、評価用サンプルとなる三酸化タングステン微粒子を得た。
【0048】
(比較例2)
アナターゼ型酸化チタン(ST−01、石原産業(株))をアンモニア気流中(1SCCM)、550℃で3時間アニールすることによって、評価用サンプルとなる窒素ドープ酸化チタン微粒子を得た。
【0049】
(比較例3)
三酸化タングステン微粒子の代わりに、ルチル型TiO粉末(MT−150A、TAYCA Co.,Ltd.)を用い、実施例1と同様にしてこのルチル型TiO粉末に銅二価塩を担持させることによって、評価用サンプルとなる銅二価塩担持酸化チタン微粒子を得た。
【0050】
(性能評価)
上記のように実施例1〜2、比較例1〜3で得た評価サンプルについて、光触媒活性を、可視光照射下で2−プロパノール(IPA)が気相酸化分解される結果生じるアセトンおよびCO濃度を定量することにより評価した。以下に詳細を示す。
【0051】
まず、評価用サンプル300mgを内径26.5mmのシャーレ(面積5.51cm)内に均一に広げ、これを容量500mlの石英製ベッセルに封入した。次に、ベッセル内を合成空気に置換した後に、Xeランプ全光(Luminar Ace 251、林時計工業社製)を照射して、評価用サンプルの表面に残留する有機物の分解を行なった。残留有機物からのCOの発生がなくなったことを確認した後、再びベッセル内を合成空気によって置換した。
【0052】
一方、反応IPAガスを、IPAに乾燥窒素を通じてIPA蒸気としてテドラパックに捕集した。そして捕集したこのIPAガスを300ppmv(6.1μmol)相当分、合成空気で置換したベッセル中に導入した。次にこのベッセルを暗所に静置し、導入したIPAが表面に吸着する過程を10時間以上観測して吸着平衡を確認した。吸着平衡を確認後、Xeランプを光源とし、ガラスフィルター(L−42,B−47,C−40C、旭テクノグラス)を用いて照射光波長域を400〜530nmに制限し、ベッセル上方より照射した。そして照射の一定時間毎にベッセル内の気体をサンプリングし、水素炎イオン化法ガスクロマトグラフ(GC−8A、島津製作所)によってIPA及び分解生成物であるアセトンおよびCOを定量した。ただし、COは水素流通下の金属Ni触媒によりメタン化処理を行なうメタナイザ(MT−N、島津製作所)を介して定量した。照射光は分光放射照度計(USR−30V、ウシオ電機)を用いて波長毎の入射光強度を測定し、照射強度1.00×103mWcm−2となるように調整した。また、各評価用サンプルの拡散反射スペクトルを用いて求めた吸収割合(1−reflectance)および照射面積(シャーレ面積5.51cm)の積を取ることで単位時間当たりに吸収された光子数(吸収光子数)を求めた。
【0053】
実施例1の評価用サンプルを用いた場合のIPA気相分解の結果を図1に示す。図1は、IPA気相分解で生じたアセトン濃度及びCO濃度と照射時間との関係を示すものであり、アセトンの生成・分解、および誘導期を経たCOの生成が確認された。図1中のCO濃度の変化を示す破線の傾きから求めた量子収率は17%であった。またCu(II)量に対し反応のターンオーバー数は後述の計算のように50以上であり、可視光のもと触媒的にIPAがCOまで分解できていると考えられる。
【0054】
一方、比較例1の評価サンプルおけるCu(II)イオンを担持しないWOでは、同じ実験条件でIPA分解を行なうと、僅かなアセトンの生成のみが確認でき、COの発生は確認できなかった。このことからも、Cu(II)イオンを担持することによって初めてWOは高い可視光活性を示すと結論することができる。
【0055】
なお、量子収率とターンオーバー数については、以下のようにして求めた。
【0056】
量子収率については、一分子のIPAが三分子のCOへ分解される過程では、18個の光子の吸収を必要とすると仮定した(CO+5HO+18h → 3CO+18H)。すなわち、CO発生の量子収率(QE)は、QE=6×CO発生速度/吸収光子数で表される。よって実施例1では、量子収率(QE)=6×1.9×10−10molsec−1×6.0×1023quanta・mol−1/(5.5cm×7.1×1014quanta・cm−2・sec−1)=1.7×10−1(=17%)となる。
【0057】
ターンオーバー数については、実施例1の評価サンプルには、300mgのCu(II)WOが存在し、Cu(II)イオンが0.005質量%含まれる。そのためWOに担持されているCu(II)イオンは0.015mgであり、0.24molに相当する。そしてCO発生量は1.5日で12.2molであることを確認した。よって実施例1ではターンオーバー数は12.2mol/0.24mol=51である。
【0058】
実施例1〜2、比較例1〜3について、吸収光子数、CO発生速度、量子収率の評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1にみられるように、本発明の光触媒材料における実施例は、従来の光触媒材料の比較例に対して、非常に高い性能を有していることが確認された。
【0061】
また、比較例3(Cu(II)/TiO)に対して、実施例1(Cu(II)/WO)の量子収率は2倍であり、その光利用効率が大きく向上している。さらに注目すべきは、光触媒活性のトータル評価であるCO発生速度(=光吸収効率×量子収率)に関して、実施例1(Cu(II)/WO)は比較例3(Cu(II)/TiO)に対して約8倍である。これは表1、図2(a)(b)(c)に示すように、Cu(II)/WOはバンド間遷移で可視光を吸収できるのに対して、Cu(II)/TiOはバンド間で可視光を吸収できず、光吸収量が少ないからである。
【0062】
さらに、従来の典型的な可視光活性を有する光触媒材料である比較例2の窒素ドープ酸化チタンに対して、実施例1(Cu(II)/WO)のCO発生速度(=光吸収効率×量子収率)は約16倍にも達している。これはCu(II)/WOはバンド間遷移で可視光を吸収できるのに対し、窒素ドープ酸化チタンでは窒素の孤立準位による可視光の吸収しかできないためであり、またCu(II)/WOでは光吸収量が大きいこと、さらに窒素ドープ酸化チタンの孤立準位の電位が高く、生成した正孔が充分な酸化力を有さないのに対し、Cu(II)/WOの価電子帯に生成した正孔は、WOの価電子帯の電位が低く、充分な酸化力を有するからである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】実施例1におけるCO濃度及びアセトン濃度と照射時間との関係を示すグラフである。
図2】紫外可視拡散スペクトルを示すグラフである。
図1
図2