(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一級アルコールは、炭素数が2以上の一級アルコールである第1の一級アルコールと、炭素数1〜4の一級アルコールから選択され且つ前記第1の一級アルコールよりも炭素数の小さい一級アルコールである第2の一級アルコールとの混合物であり、前記工程は、前記第1の一級アルコールを酸化し、さらに、前記第1の一級アルコールの酸化により生成したアルデヒドと前記第2の一級アルコールからヘミアセタールを生成し、さらに生成したヘミアセタールの酸化によりカルボン酸エステルを得る工程である、請求項1又は2に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで、金クラスターを触媒として用いる例が多数報告されているが、適用可能な基質が限られていることや、選択性が悪いといった問題点が残っている。
【0008】
本発明は、高い選択性及び高い転化率をもって、一級アルコールからカルボン酸エステルを一段で製造する方法、並びに、当該製造方法に好適に使用される触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の該架橋性官能基を架橋させてなる担体並びに該担体に担持された金−パラジウムのナノサイズクラスター及びカーボンブラックを有する触媒の存在下、一級アルコールの一部を酸化し、さらに、酸化により生成したアルデヒドと一級アルコールの残部からヘミアセタールを生成し、さらに生成したヘミアセタールの酸化によりカルボン酸エステルを得る工程を備えるカルボン酸エステルの製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の該架橋性官能基を架橋させてなる担体並びに該担体に担持された金−パラジウムのナノサイズクラスター及びカーボンブラックを有する触媒と、塩基との存在下、一級アルコールの一部を酸化し、さらに、酸化により生成したアルデヒドと一級アルコールの残部からヘミアセタールを生成し、さらに生成したヘミアセタールの酸化によりカルボン酸エステルを得る工程を備えるカルボン酸エステルの製造方法を提供する。
【0011】
本発明のカルボン酸エステルの製造方法において、上記一級アルコールは、炭素数が2以上の一級アルコールである第1の一級アルコールと、炭素数1〜4の一級アルコールから選択され且つ第1の一級アルコールよりも炭素数の小さい一級アルコールである第2の一級アルコールとの混合物であり、上記工程は、第1の一級アルコールを酸化し、さらに、第1の一級アルコールの酸化により生成したアルデヒドと第2の一級アルコールからヘミアセタールを生成し、さらに生成したヘミアセタールの酸化によりカルボン酸エステルを得る工程であることが好ましい。かかる場合において、第2の一級アルコールは、エステル化の原料アルコールであるとともに、溶媒としての機能を有し得る。
【0012】
なお、本発明のカルボン酸エステルの製造方法においては、一級アルコールとして単一組成の一級アルコール(1種の一級アルコールのみからなるもの)を用いることもできる。この場合は、一級アルコールの一部は酸化に供され、アルデヒドが生成する。そして、そのアルデヒドと、一級アルコールの残部からヘミアセタールを生成し、さらに生成したヘミアセタールの酸化により、カルボキシル基の炭素数とエステルアルキル基の炭素数が等しいカルボン酸エステルが得られる。
【0013】
本発明のカルボニル化合物の製造方法は、上記スチレン系高分子が上記架橋性官能基としてエポキシ基及び水酸基を含むことが好ましい。
【0014】
本発明のカルボニル化合物の製造方法は、上記スチレン系高分子が下記式(1)で表される重合性単量体と、下記式(2)で表される重合性単量体と、下記式(3)で表される重合性単量体との重合体であることが好ましい。
【化1】
【化2】
【化3】
【0015】
本発明は、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の該架橋性官能基を架橋させてなる担体と、該担体に担持された金−パラジウムのナノサイズクラスター及びカーボンブラックとを有する触媒を提供する。
【0016】
また、本発明は、1価又は3価の金化合物及び2価又は4価のパラジウム化合物を、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子及びカーボンブラックを含む溶液中で還元剤により還元する第1の工程と、上記溶液に、上記スチレン系高分子に対する貧溶媒を加えて相分離させることにより金−パラジウムのナノサイズクラスター及び上記カーボンブラックをスチレン系高分子に担持する第2の工程と、上記第2の工程の後で上記スチレン系高分子の上記架橋性官能基を架橋させる第3の工程と、を経て、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の該架橋性官能基を架橋させてなる担体と、該担体に担持された金−パラジウムのナノサイズクラスター及びカーボンブラックとを有する触媒を得る触媒の製造方法を提供する。
【0017】
上記スチレン系高分子の重量平均分子量は1万〜15万であることが好ましい。
【0018】
また、上記第3の工程において、上記スチレン系高分子の上記架橋性官能基を加熱により架橋させることが好ましい。
【0019】
本発明の触媒の製造方法は、上記還元剤が水素化ホウ素化合物、水素化アルミニウム化合物又は水素化ケイ素化合物であることが好ましい。
【0020】
また、上記金化合物は、ハロゲン化金又はハロゲン化金のトリフェニルホスフィン錯体であることが好ましい。
【0021】
また、上記パラジウム化合物は、ハロゲン化パラジウム、ハロゲン化パラジウムアルカリ金属塩、又はパラジウム酢酸塩であることが好ましい。
【0022】
また、上記金化合物は、AuCl(PPh
3)であり、上記パラジウム化合物が(CH
3COO)
2Pdであることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高い選択性及び高い転化率をもって、一級アルコールからカルボン酸エステルを一段で製造する方法、並びに、当該製造方法に好適に使用される触媒及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0026】
[第1実施形態:触媒及びその製造方法]
本発明の第1実施形態に係る触媒は、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の該架橋性官能基を架橋させてなる担体と、該担体に担持された金−パラジウムのナノサイズクラスター及びカーボンブラックとを有する。
【0027】
また、本発明の第1実施形態に係る触媒の製造方法は、1価又は3価の金化合物及び2価又は4価のパラジウム化合物を、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子及びカーボンブラックを含む溶液中で還元剤により還元する第1の工程と、上記溶液に、上記スチレン系高分子に対する貧溶媒を加えて相分離させることにより金−パラジウムのナノサイズクラスター及び上記カーボンブラックをスチレン系高分子に担持する第2の工程と、上記第2の工程の後で上記スチレン系高分子の上記架橋性官能基を架橋させる第3の工程と、を経て、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の該架橋性官能基を架橋させてなる担体と、該担体に担持された金−パラジウムのナノサイズクラスター及びカーボンブラックとを有する触媒を得るものである。
【0028】
上記第1及び第2の工程で、金−パラジウムのナノサイズクラスター及びカーボンブラックをスチレン系高分子に担持するには、1価又は3価の金化合物及び2価又は4価のパラジウム化合物と、スチレン系高分子及びカーボンブラックとを、a)適当な極性の良溶媒に溶解し還元剤と混合した後適当な非極性の貧溶媒で凝集させる、又はb)適当な非極性又は低極性の良溶媒に溶解し還元剤と混合した後適当な極性の貧溶媒で凝集させる、ことにより行われる。金−パラジウムクラスターはスチレン系高分子の芳香環との相互作用により担持される。
【0029】
尚、極性の良溶媒としてはテトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などがあり、非極性又は低極性の良溶媒としてはトルエン、ジクロロメタン、クロロホルムなどが使用できる。極性の貧溶媒としてはメタノール、エタノール、ブタノール、アミルアルコールなどがあり、非極性の貧溶媒としてはヘキサン、ヘプタン、オクタンなどが使用できる。
【0030】
金−パラジウムクラスターを架橋性ポリマーに担持する際のポリマーの濃度は、用いる溶媒やポリマーの分子量によっても異なるが、約5.0〜200mg/mL、好ましくは10〜100mg/mlである。1価又は3価の金化合物は、ポリマー1gに対して、0.01〜0.5mmol、好ましくは0.03〜0.2mmol使用する。2価又は4価のパラジウム化合物は、ポリマー1gに対して、0.01〜0.5mmol、好ましくは0.05〜0.2mmol使用する。還元剤は、還元に必要な量の1〜10当量使用するが、例えば1価の金化合物及び2価のパラジウム化合物を、水素化ホウ素ナトリウムで還元する場合の水素化ホウ素ナトリウムは、金化合物及びパラジウム化合物の0.5〜5倍モルが好適である。還元に必要な温度および時間は金化合物、パラジウム化合物及び還元剤の種類によるが、通常は0℃〜50℃の間、好ましくは室温で、1〜24時間で行われる。相分離する際の貧溶媒は、良溶媒に対して1〜10(v/v)倍量、好ましくは2〜5倍量使用し、0.5〜5時間程度で滴下する。
【0031】
1価又は3価の金化合物としては、ハロゲン化金や、ハロゲン化金のトリフェニルホスフィン錯体が好ましい。特に、AuCl(PPh
3)が好ましい。
【0032】
2価又は4価のパラジウム化合物としては、ハロゲン化パラジウム、ハロゲン化パラジウムアルカリ金属塩、パラジウム酢酸塩が好ましい。特に、(CH
3COO)
2Pdが好ましい。
【0033】
カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック等が挙げられる。
【0034】
還元剤としては、水素化ホウ素化合物、水素化アルミニウム化合物又は水素化ケイ素化合物、好ましくは水素化ホウ素ナトリウム又はボランを用いることができる。
【0035】
スチレン系高分子は、架橋性官能基を含む側鎖を有する。上記架橋性官能基としてエポキシ基及び水酸基を含むことが好ましい。架橋性官能基を含む側鎖としては、架橋性官能基のみから成るものであっても、二価の基に架橋性官能基が結合したものでもよい。
【0036】
上基二価の基としては、比較的短いアルキレン基、例えば、炭素数が1〜6程度のアルキレン基であってもよいが、−R
1(OR
2)
w−、−R
1(COOR
2)
x−、又は−R
1(COOR
2)
y(OR
2)
z−(式中、R
1は共有結合又は炭素数1〜6、好ましくは共有結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を表し、R
2はそれぞれ独立して炭素数2〜4、好ましくは炭素数2のアルキレン基を表し、w、x及びzは1〜10の整数、yは1又は2を表す。)で表される主鎖をもつものが親水性であるため好ましい。このような好ましい二価の基として、−CH
2(OC
2H
4)
4−や−CO(OC
2H
4)
4−等が挙げられる。
【0037】
このようなスチレン系高分子として、例えば、下記式(4):
【化4】
(式中、X
aはアルキレン基又はエーテル結合を含むアルキレン基を表す。)又は下記式(5):
【化5】
(式中、X
bはアルキレン基又はエーテル結合を含むアルキレン基を表す。)で表される構造を有するモノマーを全モノマー中に5〜60%含み、下記式(6):
【化6】
(式中、X
cはアルキレン基又はエーテル結合を含むアルキレン基を表す。)又は下記式(7):
【化7】
(式中、X
dはアルキレン基又はエーテル結合を含むアルキレン基を表す。)で表される構造を有するモノマーを全モノマー中に10〜60%含み、かつこれらの合計が100%以下となるように含み、更にこれらの合計が100%未満の場合には残部としてスチレンモノマーを含むモノマー混合物を共重合して得られたスチレン系高分子が挙げられる。
【0038】
好ましいスチレン系高分子として下記式(1)で表される重合性単量体と、下記式(2)で表される重合性単量体と、下記式(3)で表される重合性単量体との重合体が挙げられる。
【化8】
【化9】
【化10】
【0039】
上記スチレン系高分子は、式(2)で表される重合性単量体を、全単量体中に5〜60%含むことが好ましく、10〜50%含むことがより好ましい。また、式(3)で表される重合性単量体を、10〜60%含むことが好ましく、20〜50%含むことがより好ましい。また、式(2)及び(3)で表される重合性単量体の合計が100%未満となるように含み、残部として式(1)で表されるスチレンモノマーを含むことが好ましい。
【0040】
スチレン系高分子の重量平均分子量は、1万から15万であることが好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0041】
上述したようなスチレン系高分子、カーボンブラック、金化合物及びパラジウム化合物を、上記のような適当な溶媒に還元剤と共に溶解すると、金化合物及びパラジウム化合物がまず還元を受ける。金化合物及びパラジウム化合物に配位子が結合していた場合は、その際に配位子が脱離する。還元された金及びパラジウムはクラスターとして高分子の疎水性部分に取り込まれ、高分子の芳香環から電子供与を受け微小な状態でも安定化される。その後、高分子に対する貧溶媒を加えることにより、金−パラジウムクラスター及びカーボンブラックを担持した、スチレン系高分子を相分離させることができる。
【0042】
カーボンブラックと共にスチレン系高分子に担持されている金−パラジウムクラスター1個の平均径は20nm以下、好ましくは0.3〜20nm、より好ましくは0.3〜10nm、更に好ましくは0.3〜5nm、より更に好ましくは0.3〜2nm、最も好ましいのは0.3〜1nmであり、数多くの金−パラジウムクラスターがミセルの疎水性部分(スチレン系高分子の芳香環)に均一に分散して存在していると考えられる。このように金属が微小なクラスター(微小金属塊)となっているため、高い触媒活性を示すことができる。
【0043】
金−パラジウムクラスターの径及び価数等の周辺環境は、透過型電子顕微鏡(TEM)又は拡張X線吸収微細構造(EXAFS)で測定することができる。
【0044】
上記第3の工程では、上述のように金−パラジウムクラスター及びカーボンブラックを担持したスチレン系高分子の架橋性官能基を架橋させる。架橋により金−パラジウムクラスターは安定化すると共に種々の溶剤に対して不溶化し、担持した金−パラジウムクラスターの漏れを防止することができる。架橋反応により、金−パラジウムクラスターを担持した高分子鎖同士を結合させることや、架橋基を有する材料など適当な担体に結合させることもできる。架橋反応は、無溶媒条件で、加熱や紫外線照射、好ましくは加熱により架橋性官能基を反応させることにより行う。架橋反応は、これらの方法以外にも、使用する直鎖型有機高分子化合物を架橋するための従来公知の方法である、例えば架橋剤を用いる方法、過酸化物やアゾ化合物等のラジカル重合触媒を用いる方法、酸又は塩基を添加して加熱する方法、例えばカルボジイミド類のような脱水縮合剤と適当な架橋剤を組み合わせて反応させる方法等に準じても行うことができる。
【0045】
架橋性官能基を加熱により架橋させる際の温度は、通常50〜200℃、好ましくは70〜180℃、より好ましくは100〜160℃である。加熱架橋反応させる際の反応時間は、通常0.1〜100時間、好ましくは1〜50時間、より好ましくは2〜10時間である。
【0046】
上記の様にして製造した、高分子担持金−パラジウムクラスターは、塊や膜としたり、担体に固定したりすることもできる。ガラス、シリカゲル、樹脂などの担体表面の架橋性官能基(例えば、水酸基やアミノ基など)と金−パラジウム含有ポリマーの架橋性官能基とを架橋反応させると、高分子担持金−パラジウムクラスターは担体表面に強固に固定される。また、適当な樹脂やガラスで出来た反応容器の表面に、ミセルの架橋性官能基を使用して高分子担持金−パラジウムクラスター組成物を固定化してやれば、より再使用が簡便な触媒担持反応容器として使用できる。
【0047】
このようにして得られた架橋型金−パラジウム含有ポリマーミセルは多くの空孔を有しており、適当な溶剤で膨潤して表面積を拡大する。また担持された金及びパラジウムは数ナノメートル以下の非常に小さいクラスターを形成する。
【0048】
[第2実施形態:カルボン酸エステルの製造方法]
本発明の第2実施形態に係るカルボン酸エステルの製造方法は、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の該架橋性官能基を架橋させてなる担体並びに該担体に担持された金−パラジウムのナノサイズクラスター及びカーボンブラックを有する触媒の存在下、一級アルコールの一部を酸化し、さらに、酸化により生成したアルデヒドと一級アルコールの残部からヘミアセタールを生成し、さらに生成したヘミアセタールの酸化によりカルボン酸エステルを得る工程を備える。上記製造方法を用いると、高い選択性及び高い転化率をもって、一級アルコールから得られるカルボン酸と炭素数が同じまたは小さい溶媒一級アルコールとのカルボン酸エステルを一段で製造することができる。
【0049】
本実施形態に係るカルボン酸エステルの製造方法において、一級アルコールは、炭素数が2以上の一級アルコールである第1の一級アルコールと、炭素数1〜4の一級アルコールから選択され且つ第1の一級アルコールよりも炭素数の小さい一級アルコールである第2の一級アルコールとの混合物であり、上記工程は、前記第1の一級アルコールを酸化し、さらに、第1の一級アルコールの酸化により生成したアルデヒドと第2の一級アルコールからヘミアセタールを生成し、さらに生成したヘミアセタールの酸化によりカルボン酸エステルを得る工程であることが好ましい。かかる態様において、第1の一級アルコールは酸化反応の基質である。一方、第2の一級アルコールはエステル化反応の基質であり且つ溶媒としての機能を有し得る。なお、上記の態様において選択率及び転化率を一層向上できる理由は必ずしも明確ではないが、第2の一級アルコールが炭素数1〜4の一級アルコール(いわゆる低級アルコール)から選択されるものであるため、エステル化反応の基質だけでなく第1の一級アルコールに対する溶媒としても有効に機能していることが一因であると本発明者らは推察する。
【0050】
上記の態様において、第1の一級アルコールをR
3CH
2OHで表した場合、R
3は脂肪族基、脂環式脂肪族基、又は芳香族基を示し、R
3にはヘテロ原子が含まれていてもよい。本実施形態に係るカルボン酸エステルの製造方法は、特にR
3が炭素数1〜7のアルキル基を示す場合に効果的である。第1の一級アルコールの量は、第1の一級アルコールと第2の一級アルコールとの混合物全量を基準として、第1の一級アルコール濃度が0.05mol/l以上となるように選定することが好ましい。
【0051】
また、上記の態様において、第2の一級アルコールをR
4CH
2OHで表した場合、R
4は直鎖状でも分岐状でも良い。
【0052】
なお、本実施形態に係るカルボン酸エステルの製造方法においては、一級アルコールとして単一組成の一級アルコール(1種の一級アルコールのみからなるもの)を用いることもできる。この場合は、一級アルコールの一部は酸化に供され、アルデヒドが生成する。そして、そのアルデヒドと、一級アルコールの残部からヘミアセタールを生成し、さらに生成したヘミアセタールの酸化により、カルボキシル基の炭素数とエステルアルキル基の炭素数が等しいカルボン酸エステルが得られる。
【0053】
本実施形態に係るカルボン酸エステルの製造方法で用いる酸化剤としては、酸素ガス、又は空気が挙げられる。
【0054】
その他の添加剤として、反応に不活性な反応溶媒(第1の一級アルコールと第2の一級アルコールとを組み合わせて用いる場合には、第2の一級アルコール以外の反応溶媒)を加えても良い。反応溶媒としては、高分子を膨潤させ基質アルコールを溶解するものであれば、単一溶媒でも混合溶媒でも使用できる。水と有機溶媒の混合溶媒が有効な場合もある。有機溶媒としてはベンゾトリフルオリド(BTF)などが挙げられる。混合溶媒を用いる場合、水と有機溶媒の混合比は1:1〜1:10(容積比)であることが好ましい。
【0055】
触媒量は、基質に対して、金として0.1〜10%(mol/mol)、パラジウムとして0.1〜10%(mol/mol)であることが好ましい。基質の濃度は、0.01〜1mmol/ml、好ましくは0.05〜0.5mmol/mlである。反応温度は、0〜80℃、好ましくは室温〜60℃であり、反応時間は、1〜50時間である。
【0056】
[第3実施形態:カルボン酸エステルの製造方法]
本発明の第3実施形態に係るカルボン酸エステルの製造方法は、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の該架橋性官能基を架橋させてなる担体並びに該担体に担持された金−パラジウムのナノサイズクラスター及びカーボンブラックを有する触媒と、塩基との存在下、一級アルコールの一部を酸化し、さらに、酸化により生成したアルデヒドと一級アルコールの残部からヘミアセタールを生成し、さらに生成したヘミアセタールの酸化によりカルボン酸エステルを得る工程を備える。上記製造方法を用いると、高い選択性及び高い転化率をもって、一級アルコールから得られるカルボン酸と炭素数が同じまたは小さい溶媒一級アルコールとのカルボン酸エステルを一段で製造することができる。
【0057】
なお、第3実施形態に係るカルボン酸エステルの製造方法は、上記特定の触媒に加えて塩基を存在させている点で第2実施形態と相違するが、他は第2実施形態と同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
【0058】
第3実施形態に係るカルボン酸エステルの製造方法において、上記工程は塩基の共存下で行われる。塩基としては、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属カルボン酸塩や水酸化物塩の水溶液の使用が好適である。例えば炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが上げられる。好ましくは炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩が挙げられ、特に炭酸カリウムが好ましい。塩基の量は、基質に対して0.01〜20当量用いることが好ましい。さらに好ましくは0.05〜15当量である。水溶液としての濃度は特に限定されないが、0.05〜2.0mol/l程度が好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。4−ビニルベンジルグリシジルエーテルは特許文献1に記載の方法に従って合成した。他の化合物は市販品を必要に応じて精製して使用した。酸化反応で得られたカルボン酸エステルの収率は内部標準を用いたガスクロマトグラフィーで定量した。ガスクロマトグラフとして、島津製作所(株)製GC−2010を用いた。
【0060】
[製造例1]
150mLのTHFにソジウムハイドライド(60% in mineral oil,5.2g)を加え、0℃にてその反応液にテトラエチレングリコール(25.4g,131mmol)を加えた。室温で1時間撹拌した後、1−クロロメチル−4−ビニルベンゼン(13.3g,87.1mmol)を加え、さらに12時間撹拌を続けた。0℃に冷却しジエチルエーテルを加え、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、反応を停止した。水相をエーテルで抽出した後、併せた有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧下留去した。得られた残さをシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、2−(2−(2−(2−(4−vinylbenzyloxy)ethoxy)ethoxy)ethoxy)ethanolを得た(20.6g,66.2mmol,76%)。
1H−NMR(CDCl
3) δ2.55−2.59(m,1H),3.59−3.73(m,16H),4.55(s,2H),5.25(d,1H,J=6.4Hz),5.53(d,1H,J=18Hz),6.71(dd,1H,J=11.0,17.9Hz),7.22−7.27(m,3H),7.31−7.39(m,2H);
13C−NMR δ61.8,69.5,70.5,70.69,70.74,72.6,73.0,113.8,126.3,128.0,136.0,137.1,138.0。
【0061】
[製造例2]
スチレン(2.6g、25mmol)、4−ビニルベンジルグリシジルエーテル(WO2005/085307に記載の方法に従って合成した。)(4.75g、25mmol)、製造例1で得た2−(2−(2−(2−(4−vinylbenzyloxy)ethoxy)ethoxy)ethoxy)ethanol(7.67g、25mmol)、及び重合開始剤(和光純薬工業社製V−70、308mg、1mmol)をクロロホルム(15ml)に溶解させ、脱気操作後アルゴン中で室温、72時間攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、THF100mlを加えた反応液をジエチルエーテル1l中に室温にてゆっくりと滴下し、得られた沈殿物を濾過分取した後、ジエチルエーテルにて十分に洗浄した。その後、室温にて減圧乾燥させ透明ガム状固体として下式のスチレン系高分子(高分子A)(8.98g、x:y:z=29:35:36)を得た。コポリマーのモノマー成分の比は
1H−NMRにより決定した。
【化11】
【0062】
[製造例3]
以下のようにして、触媒(PI−CB/Au−Pd)を製造した。
製造例2で得た高分子A500.0mgをジグライム(和光純薬工業社製、特級)32mLに溶解させ、0℃まで冷却した後、ケッチェンブラック(ライオン社製、カーボンECP)500.0mgを加えた。この混合液を0℃で15分間攪拌した後に、この混合液へ水素化ホウ素ナトリウム53mgのジグライム8mLに溶解させた溶液をゆっくり加えた。この混合液を0℃で15分間攪拌した後に、この混合液へAuClPPh
3(Strem社製、特級)141.0mg及びPd(CH
3COO)
2(Strem社製、特級)63.0mgのジグライム20mLに溶解させた溶液をゆっくり加えた。この混合液を0℃から室温で12時間攪拌した後に、ジエチルエーテル120mLを室温でゆっくり加えた。分散した金属を包み込んだ内包した黒色の粉末(触媒カプセル)が生じた。この触媒カプセルをジエチルエーテルで数回洗浄し、室温で乾燥した。次にこの触媒カプセルを無溶媒条件で120℃で5時間加熱し、生成した黒色粉末を塩化メチレンと水とテトラヒドロフランで洗浄し、室温で乾燥することで黒色粉末1.019gが生成した(以下「PI−CB/Au−Pd」という。)。
PI−CB/Au−Pd 10−20mgを硫酸及び硝酸の重量比1:1の混合液中で200℃で3時間加熱し、室温に戻した後に王水を加えた。この溶液のICP分析により触媒中の金とパラジウムの含量を測定したところ、Au:0.1470mmol/g,Pd:0.1377 mmol/gであった。
【0063】
[実施例1]
1−オクタノール(東京化成社製、特級)(32.6mg,0.25mmol)、製造例3で得られたPI−CB/Au−Pd(17mg、Au含量0.1470mmol/g,Au換算で1mol%)、炭酸カリウム(和光純薬・特級)(103.7mg,0.75mmol)、水(2.0mL)、メタノール(蒸留した後にモレキュラーシーブス3Aを加えて保存した)(2.0mL)を丸底フラスコ内で混合した。酸素雰囲気下、室温で24時間撹拌した後、触媒を濾過して酢酸エチルと水で洗浄することによって回収した。回収した濾液に1M塩酸を加えて中和した。収率は、アニソールを内部標準物質としてガスクロマトグラフィーで決定した。反応式を下式に示す。また、反応結果(アルデヒド収率、カルボン酸収率、エステル収率、アルコール回収率)を表1に示す。
【化12】
【0064】
[実施例2]
炭酸カリウムの量を345.6mg,2.5mmolとしたこと、及び溶媒としてメタノールの代わりにエタノール(蒸留した後にモレキュラーシーブス3Aを加えて保存したもの)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酸化反応を行った。反応結果(アルデヒド収率、カルボン酸収率、エステル収率、アルコール回収率)を表1に示す。
【0065】
[実施例3]
実施例1における1−オクタノール(0.25mmol)の代わりに表1に示す基質(0.25mmol)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、酸化反応を行った。反応結果(アルデヒド収率、カルボン酸収率、エステル収率、アルコール回収率)を表1に示す。
【0066】
[実施例4]
実施例2における1−オクタノール(0.25mmol)の代わりに表1に示す基質(0.25mmol)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、酸化反応を行った。反応結果(アルデヒド収率、カルボン酸収率、エステル収率、アルコール回収率)を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
[実施例5]
本実施例では、
図1に示す流通系装置を用いて、以下の手順で反応を行った。
図1に示す流通系装置において、ガラス製カラム1(内径5mm、全長100mm)の頂部(上流側)にはラインL1、L2及びL3が連結されており、ラインL1、L2及びL3の他端にはそれぞれ酸素ボンベ2並びに容器3、4が連結されている。また、ガラス製カラム1の底部(下流側)にはラインL4が連結されており、ラインL4の他端には容器5が連結されている。
製造例3で得られたPI−CB/Au−Pd(Au含量0.1470mmol/g)100mg、セライト(関東化学社製)380mgを混合し、カラム1に充填した。また、1−オクタノール(東京化成社製、特級)を0.108mmol/mL溶解させたメタノールを容器3に、炭酸カリウム(和光純薬・特級)0.324mmol/Lを溶解させた水を容器4にそれぞれ収容した。次にカラム1を60℃へ加熱し、容器3からの1−オクタノール(東京化成社製、特級)を0.108mmol/mL溶解させたメタノールを0.0070mL/min、容器4からの炭酸カリウム(和光純薬・特級)0.324mmol/Lを溶解させた水を0.0035mL/min、酸素ボンベ2からの酸素ガスを2mL/minで、それぞれポンプおよびマスフローコントローラーを用いてカラム1に導入し、流通系での酸化反応を行った。カラム1を通過した液相を回収し、酢酸エチルで希釈した後に、1M塩酸を加えて中和した。収率は、アニソールを内部標準物質としてガスクロマトグラフィーで決定した。反応結果(アルデヒド収率、カルボン酸収率、エステル収率、アルコール回収率)を表2に示す。
【0069】
[実施例6]
1−オクタノールを0.108mmol/mL溶解させたアルコールをエタノールとし、流量を0.0035mL/minとしたこと以外は、
★実施例5と同様に酸化反応を行った。反応結果(アルデヒド収率、カルボン酸収率、エステル収率、アルコール回収率)を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
[実施例7]
製造例3で得られたPI−CB/Au−Pd(17.0mg,Au含量0.1470mmol/g,Au換算で0.0025mmol)、炭酸カリウム(和光純薬・特級)(345.6mg,2.5mmol)、水(4.0mL)、エタノール(蒸留した後にモレキュラーシーブス3Aを加えて保存したもの)(2.0mL)を丸底フラスコ内で混合した。酸素雰囲気下、室温で72時間撹拌した後、触媒を濾過することによって回収した。酢酸エチルの収率は、クロロホルムを内部標準物質としてガスクロマトグラフィーで決定した。このときの触媒回転数は767であった。また、選択性について、ガスクロマトグラフィーで検出された反応生成物は酢酸エチルが100%であり、アルデヒドは検出されなかった。この結果は、全てのエタノールが酢酸エチルに変換されたことを示唆するものである。
【0072】
[製造例4]
以下のようにして、触媒(PI−CB/Au−Pd)を製造した。
製造例2で得た高分子A500.0mgをジグライム(和光純薬工業社製、特級)32mLに溶解させ、0℃まで冷却し、15分間撹拌した後、ケッチェンブラック(ライオン社製、カーボンECP)500.0mgを加えて更に撹拌した。この混合液に、水素化ホウ素ナトリウム112mgのジグライム8mLに溶解させた溶液を滴下し、次いで、AuClPPh
3(Strem社製、特級)70.0mg及びPd(CH
3COO)
2(Strem社製、特級)95.0mgのジグライム20mLに溶解させた溶液を滴下漏斗でゆっくり加え、室温で一晩(16時間)撹拌した。その後、ジエチルエーテル200mLを室温でゆっくり加え、濾過し、得られた固体をジクロロメタン、THF、水、THFの順で洗浄した。その後、固体を乳鉢ですり潰し、目的の触媒(PI−CB/Au−Pd)1.065gを得た。ICPにてAu及びPdの濃度を測定した。その結果、触媒中のAu及びPdの濃度は、Au:0.107mmol/g、Pd:0.327mmol/gと定量された。
【0073】
[実施例8]
試験管に、製造例4で得られたPI/CB−Au/Pd(21.5mg、Au:0.107mmol/g、Pd:0.327mmol/g、Au:Pd=1:3)をとり、エタノール(1.65g、35.9mmol)を加えた。オートクレーブを用いて、酸素10atmで3回置換した後、試験管を密閉し、150℃、1000rpmで5時間攪拌した。反応後反応容器を氷浴で冷却した後、試験管内を常圧に戻し、テトラクロロエタン(32.0mg、190.6μmol)を内部標準として加え、重クロロホルムで薄めて
1H−NMRで定量を行った。その結果、アセトルデヒド0.14mmol(0.41%)、酢酸5.0mmol(14%),酢酸エチル10.3mmol(58%)と算出された。