(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を、1)フルオレン化合物、2)フルオレン化合物を含有する安定化剤、及び、3)組成物に項分けして詳細に説明する。
【0027】
1)フルオレン化合物
本発明のフルオレン化合物は、下記式(I)で示される化合物である。
【0029】
式(I)中、Y
1は、化学的な単結合、−O−、−S−、−C(=O)−O−、−C(=O)−NR
1−、−C(=O)−、−S(=O)−、−O−C(=O)−、−NR
1−C(=O)−、−SO
2−、−O−C(=O)−O−、又は、−(CH
2)
n−O−を表す。
【0030】
ここで、R
1は、水素原子;又は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;を表す。
nは1〜6のいずれかの整数を表す。
【0031】
また、aは0又は1であるが、後述するb又はdが0のときは、aも0である。
【0032】
X
1〜X
8はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルケニル基、シアノ基、ニトロ基、−OR
2、−O−C(=O)−R
2、−C(=O)−OR
2、−O−C(=O)−OR
2、−N(R
3)R
4、−NR
3−C(=O)−R
2、−C(=O)−N(R
3)R
4、又は、−O−C(=O)−N(R
3)R
4を表す。
【0033】
前記X
1〜X
8のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基の炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
【0034】
炭素数1〜12のアルキル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基等のアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基等が挙げられる。
炭素数2〜12のアルケニル基としては、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基等が挙げられる。
【0035】
前記R
2、R
3及びR
4はそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の有機基を表す。
【0036】
前記R
2、R
3及びR
4の炭素数1〜20の有機基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等の炭素数1〜20のアルキル基;
シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の炭素数3〜20のシクロアルキル基;
フェニル基、ナフチル基、アントラニル基等の炭素数6〜20のアリール基;
メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基;等が挙げられる。
【0037】
前記有機基の置換基としては、該有機基がアルキル基である場合には、ハロゲン原子、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられ、シクロアルキル基及びアリール基である場合には、ハロゲン原子、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、アルキル基;等が挙げられ、アルコキシ基の場合には、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。
【0038】
これらの中でも、X
1〜X
8としては、入手容易性等の観点から、それぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基が好ましい。
【0039】
Aは、下記式(A1)又は(A2)で表される基を表す。
【0041】
式(A1)中、G
1は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の(b+1)価の有機基を表す。ここで、bは0又は1であり、cは1〜3のいずれかの整数である。
【0042】
すなわち、bが1で、cが1のとき、G
1は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の有機基であり、bが1で、cが2のとき、G
1は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の3価の有機基であり、bが1で、cが3のとき、G
1は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の4価の有機基である。
G
1の炭素数1〜20の2価の有機基の具体例としては下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
(上記式中、pは1〜20の整数を表し、qは1〜6の整数を表す。)
G
1の炭素数1〜20の3価の有機基の具体例としては下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
(上記式中、rは0〜19の整数を表す。)
G
1の炭素数1〜20の4価の有機基の具体例としては下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
(上記式中、sは0〜14の整数を表す。)
前記G
1の炭素数1〜20の有機基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;等が挙げられる。
【0049】
Y
2は、化学的な単結合、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR
5−C(=O)−、−C(=O)−NR
5−、−O−C(=O)−NR
5−、−NR
5−C(=O)−O−、−NR
5−C(=O)−NR
6−、−O−NR
5−、又は、−NR
5−O−を表す。
【0050】
ここで、R
5、R
6はそれぞれ独立して、水素原子、又は、前記R
2、R
3及びR
4の置換基を有していてもよい炭素数1〜20の有機基と同様の、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の有機基を表す。
【0051】
X
9〜X
12はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルケニル基、シアノ基、ニトロ基、−OR
7、−O−C(=O)−R
7、−C(=O)−OR
7、−O−C(=O)−OR
7、−N(R
8)R
9、−NR
8−C(=O)−R
7、−C(=O)−N(R
8)R
9、又は、−O−C(=O)−N(R
8)R
9を表す。
ここで、R
7、R
8及びR
9はそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の有機基を表す。
【0052】
X
9〜X
12の、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルケニル基の具体例としては、前記X
1〜X
8の、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルケニル基の具体例として列記したものと同様のものが挙げられる。
【0053】
また、R
7、R
8及びR
9の置換基を有していてもよい炭素数1〜20の有機基の具体例としては、前記R
2、R
3及びR
4の置換基を有していてもよい炭素数1〜20の有機基の具体例として列記したものと同様のものが挙げられる。
式(A)で表される基の好ましい具体例としては、下記式(A11)で表される基が挙げられる。
【0055】
(上記式(A11)中、X
9〜X
12は前記と同じ意味を表す。)
【0057】
式(A2)中、G
2は炭素数1〜20の2価の有機基を表す。
G
2の炭素数1〜20の2価の有機基の具体例としては、前記G
1の炭素数1〜20の2価の有機基の具体例として列記したものと同様のものが挙げられる。
【0058】
Y
3は前記Y
2と同じ意味を表し、dは0又は1である。
X
13〜X
21はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルケニル基、シアノ基、ニトロ基、−CF
3、−OR
10、−O−C(=O)−R
10、−C(=O)−OR
10、−O−C(=O)−OR
10、−N(R
11)R
12、−NR
11−C(=O)−R
10、−C(=O)−N(R
11)R
12、又は、−O−C(=O)−N(R
11)R
12を表す。
ここで、R
10、R
11及びR
12は、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の有機基を表す。
【0059】
X
13〜X
21の、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルケニル基の具体例としては、前記X
1〜X
8の、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルケニル基の具体例として列記したものと同様のものが挙げられる。
【0060】
また、R
10、R
11及びR
12の置換基を有していてもよい炭素数1〜20の有機基の具体例としては、前記R
2、R
3及びR
4の置換基を有していてもよい炭素数1〜20の有機基の具体例として列記したものと同様のものが挙げられる。
【0061】
式(A)で表される基の好ましい具体例としては、下記式(A21)で表される基が挙げられる。
【0063】
(上記式(A21)中、X
13〜X
21は前記と同じ意味を表す。)
【0064】
本発明においては、前記式(I)で表される化合物の中でも、前記式(I)中、Y
1、Y
2及びY
3がそれぞれ独立して、化学的な単結合、−C(=O)−O−、−C(=O)−NR
13−、又は、−C(=O)−(ここで、R
13は、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の有機基を表す。)であり、X
1〜X
21がそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基である化合物が好ましく、
Y
1が、−C(=O)−O−又は−C(=O)−NR
1−(R
1は前記と同じ意味を表す。)である化合物がさらに好ましく、下記式(I−1)及び(I−2)
【0066】
(上記式(I−1)及び(I−2)中、A
11、A
21は前記と同じ意味を表す。)で示される化合物が特に好ましい。
【0067】
上記式(A11)の特に好ましい具体例は下記の通りである。
【0069】
上記式(A21)の特に好ましい具体例は下記の通りである。
【0071】
(フルオレン化合物の製造方法)
式(I)で示されるフルオロレン化合物は、下記式(II)
【0073】
で表される化合物(以下、「式:Q−L
1で表される化合物」と略記する。)と、式:A−L
2で表される化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0074】
ここで、X
1〜X
8は前記と同じ意味を表し、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルケニル基、シアノ基、ニトロ基、−OR
2、−O−C(=O)−R
2、−C(=O)−OR
2、−O−C(=O)−OR
2、−N(R
3)R
4、−NR
3−C(=O)−R
2、−C(=O)−N(R
3)R
4、又は、−O−C(=O)−N(R
3)R
4を表す。L
1とL
2は、式:Q−L
1で表される化合物と式:A−L
2で表される化合物が反応して、式:Q−Y
1−Aで表される化合物を生成する基を表す。
Y
1、L
1及びL
2の組合せの例を下記に示す。
【0076】
式:Q−L
1で表される化合物と、式:A−L
2で表される化合物とを反応させる方法としては、−O−、−S−、−NR
1−C(=O)−、−C(=O)NR
1−、−NR
1C(=O)NR
1−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−等の種々の化学結合を形成する公知の方法(例えば、サンドラー・カロ官能基別有機化合物合成法[I]、[II] 廣川書店、1976年発行参照)を採用することができる。
【0077】
本発明のフルオレン化合物は、典型的には、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−C(=O)−O−)、アミド結合(−C(=O)−NR
1−)、及び酸クロライド(−COCl)の形成反応を任意に組み合わせて、所望の構造を有する公知化合物を適宜結合・修飾することにより製造することができる。
【0078】
エーテル結合(−O−)の形成は、例えば、以下に示す、1)〜5)の方法により行うことができる。
1)式:Q−OM(Qは前記と同じ意味を表し、Mはアルカリ金属を表す。以下にて同じ)で表される化合物と式:A−X(Aは前記と同じ意味を表し、Xはハロゲン原子を表す。以下にて同じ。)で表される化合物とを混合して縮合させる。この反応は一般的にウイリアムソン合成と呼ばれる。
2)式:Q−OHで表される化合物と式:A−Xで表される化合物とを、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基存在下、混合して縮合させる。
3)式:Q−E(Eはエポキシ基を表す。)で表される化合物と式:A−OHで表される化合物とを、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基存在下、混合して縮合させる。
4)式:Q−OFN(OFNは不飽和結合を有する基を表す。)で表される化合物と式:A−OMで表される化合物を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基存在下、混合して付加反応させる。
5)式:Q−Xで表される化合物と、式:A−OMで表される化合物とを、銅あるいは塩化第一銅存在下、混合して縮合させる。この反応は一般的にウルマン縮合と呼ばれる。
【0079】
エステル結合及びアミド結合の形成は、例えば、以下のようにして行うことができる。
1)式:Q−COOHで表される化合物と、式:A−OH又はA−NH
2で表される化合物とを、後述する脱水縮合剤の存在下に脱水縮合させる。
【0080】
ここで用いる脱水縮合剤としては、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミド(WSC)、1,1−カルボニルジイミダゾール(CDI)、N,N−ジスクシンイミジルカルボナート(DSC)、Bop試薬(Aldrich、米国)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロホスファート(HBTU)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム テトラフルオロボラート(TBTU)、ブロモトリスピロリジノホスホニウム ヘキサフルオロホスファート(PyBroP(登録商標):Novabiochem、ドイツ)、ジフェニルリン酸アジド(DPPA)、オキシ塩化リン、三塩化リン、トリフェニルホスフィン/N−ブロモスクシンイミド等が挙げられる。
脱水縮合剤の使用量は、式:Q−COOHで表される化合物1モルに対し、通常、1〜3モルである。
【0081】
またこの場合、反応系に、ピリジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)等の塩基を共存させることが好ましい。これらの塩基は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
塩基の使用量は、式:Q−COOHで表される化合物1モルに対し、通常、0.0001〜1モルである。
【0082】
2)式:Q−COOHで表される化合物にハロゲン化剤を作用させることにより、式:Q−COXで表される酸ハライドを得、当該酸ハライドと式:A−OH又はA−NH
2で表される化合物とを、塩基の存在下に反応させる。
【0083】
酸ハライドの形成は、例えば、以下のようにして行うことができる。
(i)式:Q-COOHで表される化合物に三ハロゲン化リンあるいは五ハロゲン化リンを作用させる。
(ii)式:Q-COOHで表される化合物にハロゲン化チオニルを作用させる。
(iii)式:Q-COOHで表される化合物にハロゲン化オキサリルを作用させる。
(iv)式:Q-COOAgで表される化合物に塩素または臭素を作用させる。
(v)式:Q-COOHで表される化合物に、赤色酸化第二水銀の四ハロゲン化炭素溶液を作用させる。
【0084】
ここで用いる塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)等の有機塩基;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド等の無機塩基;が挙げられる。これらの塩基は一種単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。
塩基の使用量は、式:Q−COXで表される化合物1モルに対して、通常、1〜3モルである。
【0085】
3)式:Q−COOHで表される化合物に、酸無水物を作用させることにより、混合酸無水物を得た後、当該混合酸無水物に、式:A−OH又はA−NH
2で表される化合物を反応させる。
用いる酸無水物としては、特に限定されない。例えば、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水モノクロロ酢酸等が挙げられる。
酸無水物の使用量は、式:Q−COOHで表される化合物1モルに対して、通常、1〜10モルである。
【0086】
4)式:Q−COOHで表される化合物と、式:A−OH又はA−NH
2で表される化合物とを、酸触媒あるいは塩基触媒の存在下に脱水縮合させる。
【0087】
また、本発明のフルオレン化合物の合成では、中間体に存在する水酸基を保護することで収率を向上させることができる。水酸基を保護する方法としては、公知の方法(例えば、Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis 第3版 出版:Wiley−Interscience、1999年発行参照)を利用して製造することができる。
【0088】
水酸基の保護基の脱保護は、保護基の構造、種類によって、公知の方法を利用することで脱保護することができる。
【0089】
いずれの反応も、適当な溶媒中で行うことができる。
用いる溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば、特に限定されない。例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,3−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリノン、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒;アセトニトリル;ジメチルスルホキシド;及び、これらの溶媒の2種以上からなる混合溶媒;等が挙げられる。
溶媒の使用量は、前記式:Q−L
1で表される化合物1gに対して、通常、0.1〜1000gである。
【0090】
反応は、−20℃から用いる溶媒の沸点までの温度範囲で円滑に進行する。
反応時間は、反応規模にも依存するが、通常、数分から数時間である。
【0091】
いずれの反応においても、反応終了後は、有機合成化学における通常の後処理操作を行い、所望により、カラムクロマトグラフィー、再結晶法、蒸留法等の公知の分離・精製手段を施すことにより、目的物を単離することができる。
目的物の構造は、NMRスペクトル、IRスペクトル、マススペクトル等の測定、元素分析等により、同定することができる。
【0092】
以上のようにして得られるフルオレン化合物は、ポリマー等の有機材料に高い加工安定性や耐熱性,長寿命を付与することができる。
【0093】
本発明のフルオレン化合物が老化防止性能に優れることは、例えば、次のようにして確認することができる。
すなわち、所定量のポリオレフィン(ポリエチレン等)粉末に、フルオレン化合物を所定量添加し、得られた混合物を混練する。この間、耐混練性はトルクとして、連続的に記録される。混練時間の途中において、安定化剤(老化防止剤)が消費されて効果が弱くなってくると、ポリマーは架橋を始めるので、その劣化はトルクの増加として測定される。トルクに関して増加が始まるまでにかかる時間は、安定化作用(老化防止性能)の目安とすることができる。
本発明のフルオレン化合物は、トルクに関して増加が始まるまでにかかる時間が、従来の老化防止剤に比して格段に長くなっており、安定化作用(老化防止性能)に優れている。
【0094】
また、本発明のフルオレン化合物を含有するゴム組成物は、耐熱性が格段に改善されている。例えば、本発明のフルオレン化合物を含有するゴム組成物を190℃の環境下で504時間放置する前後で、JIS K6301に従い、伸びを測定した場合、その変化率は、従来の老化防止剤を添加したゴム組成物に比して小さくなっており、本発明のフルオレン化合物を含有するゴム組成物は耐熱性に優れることがわかる。
【0095】
2)フルオレン化合物を含有する安定化剤
本発明の第2は、上記フルオレン化合物を含有する安定化剤である。
本発明のフルオレン化合物は、酸化的、熱的又は光誘起性崩壊に対し、有機材料を安定化する機能を有する。特に、本発明のフルオレン化合物は、高温下で使用される有機材料の自然酸化及び熱による劣化を抑制して、有機材料の耐熱性や加工安定性を向上させ、長寿命化を図ることができる。
【0096】
適用できる有機材料としては、特に限定されず、天然有機材料であっても合成有機材料であってもよい。なかでも、合成有機材料、特に、ポリオレフィン、ゴム、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド等、耐熱性が求められる用途に使用されてきた合成ポリマー材料が好ましく、近年従来に比べより高い耐熱性が求められるようになってきたポリオレフィン、ゴムがより好ましい。
【0097】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、シクロオレフィンポリマー等のうち、耐熱性が求められる分野に使用されるポリオレフィンが挙げられ、特に耐熱性材料として知られ、半導体等の実装部品、車輛部品や土木建築用部材等の分野に用いられているシクロオレフィンポリマーに適用することによって、従来に比べより高温環境下で使用できるようになる。
【0098】
シクロオレフィンポリマーは、分子内に炭素原子で形成される環構造を有し、該環中に炭素−炭素二重結合を有するシクロオレフィンモノマーを重合することで得られるものである。
【0099】
シクロオレフィンモノマーとしては、単環シクロオレフィンモノマーや、ノルボルネン系モノマー等が挙げられ、ノルボルネン系モノマーが好ましい。ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環構造を分子内に有するシクロオレフィンモノマーである。これらは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基等の炭化水素基や、極性基によって置換されていてもよい。また、ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環の二重結合以外に、二重結合を有していてもよい。
【0100】
単環シクロオレフィンモノマーとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5−シクロオクタジエン等が挙げられる。
【0101】
ノルボルネン系モノマーの具体例としては、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン等のジシクロペンタジエン類;テトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−4−エン、9−エチリデンテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−4−エン、9−フェニルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−4−エン、テトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸無水物等のテトラシクロドデセン類;2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、アクリル酸5−ノルボルネン−2−イル、メタクリル酸5−ノルボルネン−2−イル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物等のノルボルネン類;7−オキサ−2−ノルボルネン、5−エチリデン−7−オキサ−2−ノルボルネン等のオキサノルボルネン類;テトラシクロ[9.2.1.0
2,10.0
3,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンともいう)、ペンタシクロ[6.5.1.1
3,6.0
2,7.0
9,13]ペンタデカ−4,10−ジエン、ペンタシクロ[9.2.1.0
2,10.0
3,8]ペンタデカ−5,12−ジエン等の四環以上の環状オレフィン類;等が挙げられる。
【0102】
重合方法は、塊状重合でも溶液重合でもよいが、シクロオレフィンモノマーをメタセシス触媒を使用して塊状開環重合することが好ましい。
【0103】
ゴムとしては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(ニトリルゴム)、スチレン−ブタジエン−イソプレン共重合ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合ゴム、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合ゴム等の共役ジエン単位が含まれるゴム;アクリルゴム;ヒドリンゴム、エチレンプロピレンゴム;等が挙げられる。これらのゴムは、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシシリル基、アミノ基及びエポキシ基等を有していてもよい。また、これらのゴムは水素化されていてもよく、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム水素添加物(水素化ニトリルゴム)が挙げられる。これらのゴムは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、特に、高い耐熱性が求められるアクリルゴムまたは水素化ニトリルゴムに適用することが耐熱性の改善効果の観点から好ましい。
【0104】
本発明のフルオレン化合物を有機材料の安定化剤として使用する場合、本発明のフルオレオン化合物の配合量は、有機材料100質量部に対して、本発明のフルオレン化合物が、0.01〜10質量部、好ましくは0.03〜5質量部、特に好ましくは0.05〜3質量部でよい。本発明のフルオレン化合物の配合量が、0.01質量部より少ないと安定化剤としての効果が奏されず、一方、10質量部より多いと、安定化剤としての効果の向上はみられず、また、ブリードアウトや成形品の変色が生じる可能性があり好ましくない。
【0105】
本発明のフルオレン化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、発明の効果を損なわない範囲で、従来から用いられているその他の老化防止剤等と組み合わせて用いることができる。
【0106】
3)組成物
本発明の第3は、成分(a):有機材料、及び、成分(b):本発明のフルオレン化合物を含有する組成物である。
【0107】
成分(a)の有機材料としては、特に限定されず、天然有機材料であっても合成有機材料であってもよい。なかでも、合成有機材料、特に、ポリオレフィン、ゴム、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド等、耐熱性が求められる用途に使用されてきた合成ポリマー材料が好ましく、近年従来に比べより高い耐熱性が求められるようになってきたポリオレフィン、ゴムがより好ましく、ポリオレフィンが特に好ましい。これらの具体例は、上記したものと同様である。
【0108】
成分(b)のフルオレン化合物は本発明のフルオレン化合物である。本発明のフルオレン化合物は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0109】
本発明の組成物は、前記成分(a)及び成分(b)に加えて、更に他の添加剤を含有していてもよい。
他の添加剤としては、合成高分子材料を用いる分野において通常使用される添加剤が挙げられる。例えば、カーボンブラック、シリカ等の補強性充填剤;炭酸カルシウムやクレー等の非補強性充填材;光安定剤;スコーチ防止剤;可塑剤;加工助剤;滑剤;粘着剤;潤滑剤;難燃剤;防黴剤;帯電防止剤;着色剤;シランカップリング剤;架橋剤(加硫剤);架橋促進剤;架橋遅延剤;等が挙げられる。これらの添加剤の配合量は、本発明の目的や効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、配合目的に応じた量を適宜配合することができる。
【0110】
(組成物の調製方法)
本発明の組成物は、成分(a)、成分(b)及び所望により他の添加剤の所定量をバンバリーミキサーやニーダー等で混合・混練し、次いで、混練ロールを用いて、さらに混練することにより調製することができる。
各成分の配合順序は特に限定されないが、熱で反応や分解しにくい成分を充分に混合した後、熱で反応や分解しやすい成分である架橋剤などを、反応や分解が起こらない温度で短時間に混合することが好ましい。
【実施例】
【0111】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこれら製造例及び実施例に限定されるものではない。
(実施例1)化合物1の合成
【0112】
【化21】
【0113】
冷却器、温度計を備えた4つ口反応器に窒素気流中、フルオレンカルボン酸15g(71.35mmol)、2,6−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシメチルフェノール16.86g(71.35mmol)、4−(ジメチルアミノ)ピリジン1.53g(8.56mmol)をN−メチルピロリドン(NMP)500mLに溶解した。この溶液に1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)16.41g(85.62mmol)を加え、全容を室温で14時間攪拌した。
反応終了後、反応液を水5リットル中に投入し、酢酸エチル800mLで2回抽出操作を行った。得られた酢酸エチル層を500mLの飽和食塩水で洗浄した。酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、吸引ろ過した。ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮し、30gの黄色オイルを得た。得られたオイルをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン:トルエン=2:1(体積比))で精製を行い、淡黄色固体として化合物1を20.3g(収率66.4%)得た。
【0114】
構造は
1H−NMRで同定した。
1H−NMR(500MHz、CDCl
3、TMS、δppm):7.70(d、2H、J=4.0Hz)、7.34−7.29(m、2H)、7.22(d、4H、J=4.0Hz)、6.85(s、2H)、5.03(s、1H)、4.15(t、1H、J=7.0Hz)、3.06(d、2H、J=7.0Hz)、1.36(s、18H)
【0115】
(実施例2)化合物2の合成
【0116】
【化22】
【0117】
冷却器、温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、フルオレンカルボン酸10g(47.57mmol)、4−アミノジフェニルアミン7.89g(42.81mmol)、4−(ジメチルアミノ)ピリジン0.7g(5.7mmol)をN−メチルピロリドン(NMP)300mLに溶解した。この溶液に、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)10.94g(57.1mmol)を加え、全容を室温で12時間攪拌した。
反応終了後、反応液を水3リットル中に投入し、酢酸エチル500mLで2回抽出操作を行った。得られた酢酸エチル層を300mLの飽和食塩水で洗浄した。酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、吸引ろ過した。ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮し、15gの黄色オイルを得た。得られたオイルをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=9:1(体積比))で精製を行い、淡灰色固体として化合物2を12.1g得た。(収率67.6%)
【0118】
構造は
1H−NMRで同定した。
1H−NMR(500MHz、CDCl
3、TMS、δppm):7.83(d、2H、J=7.5Hz)、7.77(d、2H、J=7.5Hz)、7.48(t、2H、J=7.5Hz)、7.40(t、2H、J=7.5Hz)、7.23−7.20(m、4H)、6.97−6.94(m、4H)、6.89(t、1H、J=7.5Hz)、6.78(s、1H)、5.60(s、1H)、4.91(s、1H)
【0119】
(老化防止性能の評価)
実施例1、2で合成した化合物1,2の老化防止性能を以下のようにして評価した。
なお、比較例として、以下に示す老化防止剤A〜Jを用いた。
化合物(a)〜(g)は下記に示す化合物である。
【0120】
【化23】
【0121】
老化防止剤A;化合物(a)、(b)及び(c)を、化合物(a):化合物(b):化合物(c)=15:28.3:56.7の質量比で含有する組成物(IRGANOX HP2251、チバスペシャルズケミカルズ社製)
老化防止剤B;化合物(b)及び(d)を、化合物(b):化合物(d)=66.7:33.3の質量比で含有する組成物(IRGANOX B921、チバスペシャルズケミカルズ社製)
老化防止剤C;化合物(e)(スミライザーGS、住友化学社製)
老化防止剤D;化合物(c)(IRGANOX 1010、チバスペシャルズケミカルズ社製)
老化防止剤E;化合物(f)及び(b)を含有する組成物(IRGASTAB FS 301、チバスペシャルズケミカルズ社製)
老化防止剤F;化合物(e)及び(b)を、化合物(e):化合物(b)=50:50の質量比で含有する組成物
老化防止剤G;化合物(g)
老化防止剤H;化合物(g)及び(b)を、化合物(g):化合物(b)=70:30の質量比で含有する組成物
【0122】
(I)評価試験I
100質量部のポリエチレン粉末(サンファインUH900D、旭化成社製)に、化合物1、老化防止剤A〜Fのそれぞれを0.1質量部混合し、得られた混合物をラボプラストミル(20C200型、東洋精機製作所社製)中、220℃及び50rpmで混練する。
この間、耐混練性はトルクとして連続的に記録される。混練時間の途中において、老化防止剤(化合物1)が消費されて効果が弱くなってくると、ポリマーは架橋を始めるので、その劣化はトルクの増加として測定される。トルクに関して増加が始まるまでにかかる時間を、安定化作用の目安として測定した。その結果を表1に示す。
【0123】
【表1】
【0124】
表1より、実施例1のフルオレン化合物を添加した樹脂組成物(実施例3)では、トルクに関して増加が始まるまでにかかる時間が、従来のリン系の老化防止剤を含有する老化防止剤A〜Fを使用した場合(比較例1〜6)に比して長くなっており、実施例1のフルオレン化合物は、ポリエチレンの安定化作用(老化防止性能)に優れていることがわかる。
【0125】
(II)評価試験II
(II−1)ゴム組成物の調製
アクリル系エラストマー(Nipol AR22、日本ゼオン社製)100質量部、カーボンブラック(シーストSO、東海カーボン社製)60質量部、ステアリン酸2質量部及び、化合物2、老化防止剤G、Hをそれぞれ3質量部加えて、全容を、0.8リットルバンバリーを用いて50℃で混練した後、架橋剤としてヘキサメチレンジアミンカルバメート(Diak No.1、デュポンダウエラストマージャパン社製)0.5質量部、架橋促進剤としてジ−o−トリルグアニジン(ノクセラーDT、大内新興化学工業社製)2質量部をオープンロールで混練して、ゴム組成物を調製した。
【0126】
(II−2)試験片の作成
(II−1)で調製したゴム組成物を170℃、20分間のプレスによって成形、架橋した後、15cm×15cm×2mm(厚み)のシートを作製した。更に、このシートを170℃で4時間加熱して二次架橋させた。得られたシートを試験片として用いた。
【0127】
(II−3)耐熱性の評価
(II−2)で作製した試験片を190℃の環境下で504時間放置する前後で、JIS K6301に従い、伸びを測定し、以下の計算式に従い、その変化率を計算した。変化率はゼロに近いほど耐熱性が高いと判断され、好ましい結果となる。耐熱性評価の結果を表2にまとめた。
【0128】
【数1】
【0129】
【表2】
【0130】
表2より、実施例2のフルオレン化合物を含有するゴム組成物(実施例4)の場合には、変化率が、従来の老化防止剤を添加したゴム組成物(比較例7〜9)に比して小さくなっており、実施例2のフルオレン化合物を含有するゴム組成物は耐熱性に優れることがわかる。