特許第5776573号(P5776573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5776573リチウム二次電池用正極活物質とその製造方法および該正極活物質の前駆体とその製造方法、並びに該正極活物質を用いたリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776573
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質とその製造方法および該正極活物質の前駆体とその製造方法、並びに該正極活物質を用いたリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20150820BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   H01M4/58
   C01B25/45 Z
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-22717(P2012-22717)
(22)【出願日】2012年2月6日
(65)【公開番号】特開2013-161654(P2013-161654A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】池内 研二
(72)【発明者】
【氏名】大迫 敏行
【審査官】 山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2003/012899(WO,A1)
【文献】 特開2007−035295(JP,A)
【文献】 特開2012−012279(JP,A)
【文献】 特開2009−054576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−587
C01B 25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、
リチウム、鉄およびリン酸から構成され、リチウム:鉄:リン酸のモル比が1:0.8:0.8〜1:1.2:1.2である組成物を含み、炭素、窒素の含有量が鉄に対するモル比でそれぞれ0.4以下であるリン酸鉄リチウム(LiFePO)からなる、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体を、不活性または還元雰囲気中において200〜500℃で熱処理する工程を含み、
前記前駆体は、2価の鉄イオンとリン酸イオンの共存原料溶液を、pH7〜10の範囲に調整した反応水溶液中に、添加して共沈させることにより、鉄およびリン酸を含有する共沈殿物を得る第1工程と、リチウムに対するモル比で鉄が0.8〜1.2となるリチウム量を有するアルコール溶媒スラリー中でリチウムと前記共沈殿物を反応させる第2工程とを、備える製造方法により得られる、
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理の前に、予め、前記前駆体に炭素源を添加する工程を含むことを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理の前に、予め、前記前駆体を粉砕する工程を含むことを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法によって得られ、
リン酸鉄リチウムを含み、該リン酸鉄リチウムの走査電子顕微鏡観察により測定した一次粒子の平均粒径が50〜200nmであり、一次粒子の平均粒径に対するX線回折におけるリチウム鉄リン酸のピークからシェラーの式を用いて算出される結晶子径の比(結晶子径/平均粒径)が0.4以上であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項5】
BET法による比表面積が10〜50m/gであることを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む正極を具備することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質とその製造方法および該正極活物質の前駆体とその製造方法、並びに該正極活物質を用いたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、軽量でエネルギー密度が高いことから、携帯電話、ノート型パソコン、その他IT機器などの小型電池に幅広く使用されており、これらの用途には、主としてLiCoO、LiCoNiMnO、LiNiAlOなどの層状岩塩化合物正極材が用いられている。その需要は、IT機器の発展、普及に伴い、現在も世界的な規模で伸びている。
さらに、これらの小型電池に加えて、産業用の大型電池においても、ハイブリッド自動車(HEV)用、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(EV)用、電力平準化用、電力貯蔵用など、さらに、多方面にその需要の拡大が期待され、研究開発も盛んに行われている。
【0003】
このような状況下、産業用の大型電池が本格的に実用化されるための課題として、正極材料には、高い安全性、高寿命、高出力、低価格が要求されている。その中で高い安全性と優れたサイクル性能を示し、低価格で製造可能なリン酸鉄リチウム(LiFePO)が、LiCoOやLiMn等の代替正極材料として、注目されている。
上記LiFePOは、リン酸の強固な骨格を有するため、安全で放電容量が高く、サイクル寿命の良い材料である。また、Coなどに比べ、Feは安価であり、資源的な制約もはるかに少ない。しかし、現状は必ずしも、従来の正極材料に比べ、性能、コスト的に優位であるとは言えず、十分に市場に受け入れられていない。このような状況において、安価で高性能のLiFePOを提供することは、大型電池の実用化に向けてその意義は社会的に非常に大きい。
【0004】
LiFePOの合成は、2価の鉄が酸化されやすく不安定であるため、様々な方法が検討されている。また、LiFePOは、電子伝導性が低いため、数ミクロン以上の粒子では、良好な電極特性を得られない。そのため、粒子を数十〜数百nmに微細化し、さらに、黒鉛などの導電性材料の被覆・複合化により、導電性を付与することが試みられ、良好な特性が得られることが知られている。
しかし、付加的な処理が加わることにより、LiFePOの製造コストを押し上げ、材料的な優位性が失われる。したがって、できる限り簡易な方法で微細なLiFePO粒子を得、また、導電材複合化が可能であることが重要である。
一般的なLiFePOの製造方法としては、2価の鉄原料である蓚酸鉄を、炭酸リチウム及び燐酸二水素アンモニウム等と混合し焼成することで、固相反応により高純度のリン酸鉄リチウムが得られることが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、蓚酸鉄の価格が非常に高く、焼成時の収率も低いため、得られるLiFePOは、非常に高価なものとなるために、価格的に大型電池用に適さない。また、蓚酸鉄には、毒性があるために、人体や環境面でも好ましくなく、多量に合成する方法も、確立されていない。
さらに、一般的に固相法では、反応に必要な温度が高いために、1次粒子の粗大化や凝集成長しやすく、粒子径が大きくなる。また、上記のように、LiFePOは、導電率が低く、このようにして得たLiFePOは、強力な微細化処理が必要となる。
また、リン酸リチウムとリン酸鉄を原料として用いる製造方法も、提案されている(例えば、特許文献2参照。)。無害なリン酸塩を用い、焼成時に副生するものがHOだけなので、工業的に有利である。しかし、この提案も、固相反応であり、LiFePOの合成用原料のFe(PO・nHOは、リチウム原料との反応性が低く、さらに高温焼成が必要となり、粒子の粗大化が著しい。強力な微粒子化処理が必要となる。微粒子化処理には、湿式ミルでアルミナやジルコニア球等を媒体として処理することが一般的であるが、粉砕時に不純物が混入しやすく、処理後の乾燥処理も必要であり、最凝集により粗大化するおそれがある。
以上のように固相反応法に関しては、焼成工程での効率は、非常に良好であるが、高温処理による粒子の粗大化が避けられず、非常に時間とコストがかかるという問題がある。
【0005】
また、反応前駆体として、燐酸鉄アンモニウム塩を用いる方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。アンモニウム塩を用いることから、ナトリウム(Na)の残留がなく、高特性のLiFePOが得られるとされるが、水酸化リチウム、炭酸リチウムなどのリチウム塩と混合して焼成するため、高温処理による粒成長は、避けられない。
また、導電性が低いLiFePOでは、黒鉛などの導電材による導電性の付与が必要であり、導電材は、LiFePO粒子の表面を均一に被覆することが望ましい。そのためには、LiFePOを微細化した後に、炭素源を添加して、再度熱処理を行うことが必要となり、工程が長くなりコストが増加する。固相反応法において、前駆体段階で炭素源を添加すると、LiFePOの合成反応を阻害してしまうので、一段の熱処理で導電性炭素複合化を行うのは、極めて困難である。
【0006】
一方、原料を水熱法で合成し低温で焼成することにより、LiFePOを得ることが可能であり、水熱合成を基本とする方法によるLiFePO4の製造が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。この水熱法によれば、低温反応で、LiFePOを合成できるため、粒径が100nm以下の微細粒子を得ることができることが明らかになっている。しかし、水熱法は、溶媒に対するLi、Fe、P原料濃度が低く、また、反応には、高圧容器を用いるため、効率的な大量合成には向かないという欠点があり、価格的にも安価なことが要求される大型電池用に適さない。
以上のように、これまでの製造法では、上記のような問題があり、微細で高性能なLiFePOを、工業的で安価に製造する方法は、開発されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−294238号公報
【特許文献2】特開2003−292309号公報
【特許文献3】特開2006−056754号公報
【特許文献4】特開2005−276474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、リチウム二次電池用正極活物質(以下、単に正極活物質と記載することがある。)の製造原料として、好適な均一微細な前駆体とその製造方法を提供するとともに、均一微細なリチウムイオン二次電池用正極材料とその製造方法、およびその正極材料を用いて高容量、高出力の優れた特性を有するリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、低温の熱処理により合成が可能なリン酸鉄リチウムの前駆体について、鋭意研究を重ねた結果、鉄とリン酸の共沈殿物と、微細なリチウム化合物とを、アルコール中で反応させることにより、上記リン酸鉄リチウムの前駆体が得られることを見出し、この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明の第の発明によれば、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、リチウム、鉄およびリン酸から構成され、リチウム:鉄:リン酸のモル比が1:0.8:0.8〜1:1.2:1.2である組成物を含み、炭素、窒素の含有量が鉄に対するモル比でそれぞれ0.4以下であるリン酸鉄リチウムからなる、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体を、不活性または還元雰囲気中において200〜500℃で熱処理する工程を含み、前記前駆体は、2価の鉄イオンとリン酸イオンの共存原料溶液を、pH7〜10の範囲に調整した反応水溶液中に、添加して共沈させることにより、鉄およびリン酸を含有する共沈殿物を得る第1工程と、リチウムに対するモル比で鉄が0.8〜1.2となるリチウム量を有するアルコール溶媒スラリー中でリチウムと前記共沈殿物を反応させる第2工程とを、備える製造方法により得られる、ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
また、本発明の第の発明によれば、第の発明において、前記熱処理の前に、予め、前記前駆体に炭素源を添加する工程を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第の発明によれば、第の発明において、前記熱処理の前に、予め、前記前駆体を粉砕する工程を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第の発明によれば、第のいずれかの発明に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法によって得られ、リン酸鉄リチウムを含み、該リン酸鉄リチウムの走査電子顕微鏡観察により測定した一次粒子の平均粒径が50〜200nmであり、一次粒子の平均粒径に対するX線回折におけるリチウム鉄リン酸のピークからシェラーの式を用いて算出される結晶子径の比(結晶子径/平均粒径)が0.4以上であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質が提供される。さらに、本発明の第の発明によれば、第の発明において、BET法による比表面積が10〜50m/gであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質が提供される。
【0016】
また、本発明の第の発明によれば、第又はの発明に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む正極を具備することを特徴とするリチウムイオン二次電池が提供される。
【0017】
本発明は、上記の如く、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法などに係るものであるが、その好ましい態様として、次のものが包含される。
(1)第1の発明において、前記第1工程におけるリン酸イオンの供給源として、水溶性の正リン酸を用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
(2)第1の発明において、前記第2工程におけるリチウムの供給源として、水酸化リチウム、炭酸リチウムなどの一般的なリチウム化合物の粒径が200μm以下の微粒子を用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
(3)第1の発明において、前記第2工程におけるアルコールは、水分含有量が10質量%以下、好ましくは5質量%以下のエタノールまたはイソプロパノールであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法によれば、リチウム二次電池用正極活物質の製造原料として、好適な均一微細な前駆体が得られ、また、該正極活物質の前駆体は、熱処理することにより、容易に正極活物質を得ることができる。
また、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法によれば、前駆体段階でリチウム、鉄、リン酸を湿式反応させているので、正極活物質の合成において、高い合成温度を必要とせず、リン酸鉄リチウム粒子を工業的に容易に製造できる。
さらに、得られる正極活物質は、均一微細なリン酸鉄リチウム粒子からなり、その正極活物質を用いて、正極が形成されたリチウムイオン二次電池は、高容量、高出力の優れた物性を示し、工業的価値が極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る実施例1で得られた前駆体のX線回折チャートである。
図2】本発明に係る実施例1における銀粉の体積積算の粒度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を項目毎に、詳細に説明する。
【0021】
1.リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法は、鉄およびリン酸を含有する共沈殿物を得る第1工程と、アルコール溶媒スラリー中でリチウムと前記共沈殿物を反応させる第2工程を備えるものである。
【0022】
上記第1工程においては、2価の鉄イオンとリン酸イオンの共存原料溶液を、pH7〜10の範囲に調整した反応水溶液中に、添加して共沈殿させる。原料溶液は、酸性を示すので、反応水溶液中にアルカリを滴下して、pHを上記範囲に維持しながら原料溶液を滴下することにより、共沈澱物を得ることができる。
リン酸アニオンと鉄イオンを混合した原料溶液中では、完全に均一な組成となり、これをpH7〜10、好ましくは7〜9に制御された反応水溶液中に滴下することにより、鉄とリン酸の比が厳密に制御され、均一な組成の共沈殿物を得ることができる。共沈殿物の鉄とリン酸のモル比は、原料溶液のモル比と一致するため、原料溶液において調整すればよく、そのモル比は、化学量論比である1を中心に鉄に対するリン酸の比を0.6〜1.5までの範囲とすることができるが、0.9〜1.1とすることが好ましい。
【0023】
反応水溶液のpH調整には、アルカリ源として水酸化ナトリウム、水酸化リチウム又はアンモニアから選ばれた一種以上を用いることができる。
水酸化ナトリウムは、安価なアルカリ源であり、上記pHの制御範囲である9以下に保持した場合には、共沈殿物中の残留ナトリウム(Na)も少ない。上記アルカリ源は、水溶液として用いることにより、pH制御が容易であり好ましい。
また、水酸化リチウムを用いた場合には、基本的には、リチウムは沈澱しないが、共沈殿物に少量のリチウムが残留しても当然のことながら問題にならない。
さらに、pH9以下では、アンモニアでpH調整することも可能であるが、アンモニウム塩が残留すると、正極活物質製造時の熱処理における結晶化が遅くなるので、窒素の含有量が鉄に対するモル比で0.4以下とすることが好ましい。
【0024】
第1工程における共沈殿反応の後、得られた共沈殿物のpH調整および不純物低減の観点から、必要に応じて、洗浄を行うことができる。共沈殿反応のpH調整に水酸化ナトリウムを用いた場合には、水洗により、Na不純物を低減することが好ましい。また、pH調整にアンモニアを用いた場合には、アンモニウム塩の残留を低減するために、洗浄することが好ましい。
【0025】
第1工程において用いる水は、反応水溶液、洗浄のいずれにも、不純物混入のおそれがないものが好ましく、純水、蒸留水、イオン交換水のいずれかを用いることが、より好ましい。
【0026】
上記2価の鉄イオンの供給源としては、硫酸第一鉄(FeSO)を用いることが好ましい。硫酸第一鉄は、入手が容易であるとともに、共沈殿物への不純物混入が少ない。また、リン酸イオンの供給源としては、水溶性のものであればあればよく、好ましくは正リン酸を用いることができるが、特に限定されるものではない。
【0027】
次に、第2工程において、第1工程において得られた共沈殿物とリチウム化合物をアルコール溶媒スラリー中でリチウムとを反応させることにより、リン酸鉄リチウム(LiFePO)の前駆体を得る。
ここで、上記スラリーの溶媒としてアルコールを用いることが重要である。リチウム源としては、水酸化リチウム、炭酸リチウムなどの一般的なリチウム化合物を用いることができるが、これらのリチウム化合物は水溶性であり、上記スラリーの溶媒として、水を用いると、スラリーが強いアルカリ性となり、鉄が酸化されて3価となる。3価の鉄が生じると、鉄が2価の状態であるLiFePOを得ることが困難になる。これに対して、アルコール中では、リチウム化合物の溶解度が非常に低いため、上記スラリー中でも、鉄の酸化が生じず、2価の鉄を保持できる。
【0028】
上記溶媒に用いるアルコールとしては、安価なエタノール、イソプロパノールなどを用いることができる。これらのアルコールは、水分の含有によりリチウムの溶解度が増加する可能性があるが、不可避的な水分含有量であれば問題はなく、水分含有量は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下とすることがより好ましい。
【0029】
上記スラリー中では、微粒子のリチウム化合物と上記共沈殿物が反応することにより、リン酸鉄リチウム(LiFePO)の前駆体が生成される。
反応の詳細は、不明であるが、微粒子とすることで、リチウム化合物が活性化してリチウムと鉄およびリン酸との反応が促進されると。考えられる。反応をより促進させるためには、予め、溶媒中において粉砕して、リチウム化合物微粒子に、新生面を形成しておくことが好ましい。リチウム化合物は、好ましくは粒径が200μm以下、より好ましくは100μm以下とすることが好ましい。粉砕方法は、湿式粉砕が可能な方法であればよく、ボールミルのほか、遊星ミル、ビーズミルなどを用いることができる。
【0030】
上記スラリーの調製は、アルコール溶媒に、上記共沈殿物とリチウム化合物を加えて混合し撹拌してもよく、上記共沈殿物とリチウム化合物を個々にアルコールと混合してスラリー化した後、それぞれのスラリーを混合し撹拌してもよい。リチウム化合物の粉砕は、共沈殿物とリチウム化合物との混合後、あるいは個々のリチウム化合物のスラリー化後のいずれで行ってもよい。
【0031】
得られるリン酸鉄リチウムの前駆体の組成比は、上記共沈殿物の組成とスラリーに添加するリチウム量により制御できる。スラリーへのリチウムの添加量をリチウムに対するモル比で鉄が0.8〜1.2となるように調製することが好ましい。スラリー中のリチウム:鉄:リン酸のモル比は、1:0.8:0.8〜1:1.2:1.2の組成範囲となるように調製することが好ましい。この組成範囲を超えると、規則オリビン相以外の相が多くなり、電池特性が低下することがあり、好ましくない。
【0032】
上記反応中のスラリー温度は、30℃以上で行うことが好ましい。30℃以上の温度とすることで反応が促進され、効率よく上記前駆体を得ることができる。30度未満では、反応を十分に進行させるために、長時間が必要となり、生産性が低下することがある。スラリー温度は、アルコール溶媒の沸点以下であればよいが、アルコールの揮発を抑制するために、80℃以下とすることが好ましく、60℃以下とすることがより好ましい。
【0033】
上記反応による生成物は、必要に応じて、アルコールにより洗浄され、固液分離された後、非酸化性雰囲気中、具体的には不活性雰囲気、還元雰囲気、真空のいずれかの雰囲気中で乾燥されることが好ましい。前記非酸化性雰囲気は、反応性生物中の鉄が2価から3価に酸化されない雰囲気を意味するものであり、鉄の酸化が防止できる程度の減圧雰囲気でもよい。アルコールの揮発に必要な条件としては、80〜200℃で3〜10時間乾燥することが好ましい。揮発したアルコールは、コンデンサなどで回収でき、コスト低減のために再使用することが好ましい。
【0034】
上記第2工程における反応中または反応後に、スクロースなどの有機物を混合して含有させ、リン酸鉄リチウムに導電性を付与するための炭素源としてもよい。
上記共沈殿反応、およびスラリー中の反応のいずれにおいても、鉄の酸化を抑制するため、窒素、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましいが、不活性ガスを導入する程度で鉄の酸化を十分に抑制することができる。
また、用いる反応容器は、反応を均一化するため、撹拌羽根などの攪拌装置を備えることが好ましいが、容器に上蓋が取り付けられ、上記雰囲気制御が可能な構造のものが好ましい。
【0035】
2.リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体は、リン酸鉄リチウムからなるリチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体であって、上記製造方法で得られ、リチウム、鉄、リン酸から構成され、リチウム:鉄:リン酸のモル比が1:0.8:0.8〜1:1.2:1.2である組成物を含み、炭素、窒素の含有量が鉄に対するモル比でそれぞれ0.4以下である。
【0036】
上記前駆体は、ほぼ均一なリチウム、鉄、リン酸により構成されるリン酸鉄リチウムの上記組成になっており、アルコールその他に起因する残留炭素がLiFePO結晶相の生成を阻害する可能性は小さい。
しかしながら、炭素含有量が鉄に対するモル比で0.4を超えると、単位体積中の活物質量が減少して、体積エネルギー密度が低下する。また、窒素含有量が鉄に対するモル比で0.4を超えて、アンモニウム塩などの形態で残留すると、正極活物質製造時の熱処理における結晶化が遅くなる。
【0037】
また、前記前駆体は、最終の活物質組成に近いリチウム−鉄−リン酸化合物であるが、一部未反応物を含有する可能性があるものの、X線回析において、明瞭な回折ピークが未検出の状態となっている。
すなわち、前記前駆体は、非晶質の状態にあると、推察され、反応性に優れ、低温での焼成により、容易に結晶化して、微細なリン酸鉄リチウム粒子が生成する。
ここで、上記回折ピークが未検出の状態とは、ピークがブロードな状態となり、回折角が特定されない状態、すなわち、X線回析装置で機械的に検出されない状態にあることを意味する。
【0038】
このような前駆体を、不活性または還元雰囲気中200〜500℃で熱処理することにより、良好な結晶性を有するリン酸鉄リチウム(LiFePO)を得ことができる。これは、固相反応法において、LiFePOの合成に700℃程度以上の温度が必要であるのに対し、著しく低温で合成可能であり、粒子成長が抑制され、微細で電池特性に優れる正極活物質を得ることができる。
一方、上記回折ピークが検出されるような結晶性の高い前駆体は、リン酸鉄リチウム粒子を生成させるためには、反応性が低く、固相反応法の場合と同様に、高温での焼成が必要となり、該粒子も粗大化する。
上記前駆体は、オリビン構造が形成されておらず、非晶質的な構造を持っているが、一部にFe(POやLiPOの結晶性ピークが弱く見られる場合がある。しかし、この場合においても、極めて微細に各相が分散しているため、反応性は高い。
【0039】
3.リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、上記前駆体を、不活性または還元雰囲気中、200〜500℃で熱処理するものである。上述のように、上記前駆体は、反応性が極めて高いため、固相反応法における熱処理温度より、著しく低い200〜500℃で結晶化させ、LiFePOの合成可能である。
上記結晶化の熱処理前に、必要に応じて、粉砕を行ってもよい。これにより、より微細なLiFePO粒子を得ることができる。結晶化熱処理後に、強力な粉砕を行うと、LiFePO粒子に歪が導入され、電池特性に影響を与える可能性がある。
【0040】
また、LiFePO粒子は、導電性に乏しいため、導電性を付与することが好ましいが、固相反応法では、導電性付与のために焼成前に炭素源を添加すると、合成反応を阻害する可能性がある。そのため、LiFePO合成の熱処理後に、炭素源を添加し、再度熱処理する必要がある。
それに対して、本発明の製造方法によれば、すでに最終組成に近い均一な組成物で、かつ反応性が非常に高い前駆体であるので、炭素源を添加する工程を結晶化の熱処理前に、組み入れることができる。これにより、結晶化と導電性付与の熱処理を連続して行うことができるので、工業的に有利である。
その場合には、用いる炭素源にもよるが、600℃以上で黒鉛化が進行するので、例えば、上記合成の熱処理として400〜500℃で1〜10時間保持して結晶化させた後、黒鉛化処理として、600〜700℃で1〜10時間保持することにより、リチウムイオン二次電池用正極活物質として、好適な導電性黒鉛と複合化したLiFePO微粒子を得ることができるのである。
【0041】
導電性付与の熱処理は、600〜700℃と結晶化熱処理より高温であるが、LiFePOの結晶化が完了しているため、粒子の粗大化が抑制される。したがって、本発明においては、上記炭素源の添加を結晶化熱処理後に行い、さらに導電性付与の熱処理を行っても、特性的に良好なLiFePO微粒子を得ることができる。
上記炭素源としては、例えば、天然黒鉛、人工黒鉛等の黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック類、炭素繊維、スクロース、アスコルビン酸その他、分解によって炭素質を生じる有機化合物等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いることができる。この中で、アセチレンブラック、スクロースは、導電性炭素材料による被覆を容易に形成でき、工業的に入手も容易であるため、特に好ましい。
また、導電性炭素材料に含まれる炭素原子の量は、熱処理により、導電性炭素材料生成物より減少する傾向がある。このため、導電性炭素材料生成物の配合量は、前駆体に含まれる炭素量も考慮して熱処理後に含有させる炭素量に対して、含まれる炭素の質量比で40〜100%多くすることが好ましく、50〜100%多くすることがより好ましい。
上記混合は、上記前駆体と導電性炭素質材料生成物が均一に混合されるように、ブレンダー等を用いて、乾式で十分に行うことが好ましい。
【0042】
また、上記前駆体の粉砕は、上記混合時、もしくは混合後において、乾式または湿式により行うことが、より好ましい。炭素源と共存状態で粉砕することによって、その後の熱処理で得られる正極活物質がより微細となるとともに、微細なLiFePOの粒子表面を、導電性炭素材料で均一に被覆することができるため、電池の正極材に用いられた場合における放電容量を向上させることができる。
上記粉砕は、上記共沈殿物の粉砕と同様に、容器中に上記前駆体または混合物とボール、ビーズ等の粉砕媒体を入れ、該媒体同士を衝突させることで、主として該媒体の剪断・摩擦作用によって行うことが好ましい。粉砕媒体を用いた混合により、炭素源の添加後においては、混合と粉砕を同時に行うことができる。
用いることができる粉砕機としては、転動ボールミル、振動ミル、遊星ミル、媒体攪拌ミルなどせん断力を有する粉砕機が好ましい。このような装置としては、市販されているものを利用することができる。
上記粉砕媒体の粒径は、1〜15mmであると、粉砕が十分に行えるため、好ましい。また、該媒体の材質は、ジルコニア、アルミナのセラミックであることが、硬度が高く、耐摩耗性が高いこと及び被砕物の金属汚染を防止することができることから、好ましい。
また、前記粉砕媒体は、空間容積50〜90%で容器内に粉砕媒体を収納し、流動媒体による剪断力と摩擦力を適切に管理するため、粉砕機の運転条件を適宜調整して、粉砕処理することが好ましい。
上記前駆体は、すでに安定なリン酸塩になっているが、乾式ミルの場合には、酸化を十分に抑制するため、不活性ガスを導入することが好ましい。
【0043】
本発明の方法によれば、水熱合成装置のような高圧容器を用いる必要がなく、工業的に容易な方法でリン酸鉄リチウムからなるリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造可能である。
上記熱処理に用いる炉としては、例えば、バッチ炉、ローラーハースキルン、プッシャー炉、ロータリーキルン、流動床炉など一般的な熱処理炉を用いることができる。熱処理時の雰囲気は、熱処理中の鉄の酸化を抑制するため、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気、またはアルゴンと水素の混合ガスなどの還元雰囲気とする。
【0044】
4.リチウムイオン二次電池用正極活物質
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、微細な一次粒子から二次粒子が構成されたリン酸鉄リチウムを含み、一次粒子の平均粒径が50〜200nmであり、二次粒子の平均粒径が1〜20μmであり、BET法による比表面積が10〜50m/gである。一次粒子の平均粒径は、走査電子顕微鏡(SEM)観察により測定した100個以上の粒子の粒子径を個数平均することで求めることができる。
上記正極活物質においては、一次粒子が微細で、かつ結晶性に優れていることから、X線回折におけるリチウム鉄リン酸のピークからシェラーの式を用いて算出される結晶子径が50〜200nm、より好ましくは50〜150nmである。結晶子径は大きいほど、結晶性が高く、良好な電池特性が得られ、上記一次粒子の平均粒径に対する比(結晶子径/平均粒径)が大きいほど結晶性が良好である。したがって、上記一次粒子径に対する結晶子径の比は、0.4以上とすることにより、用いられた電池を高容量とすることができる。結晶子径は、一次粒子内の結晶の大きさを示す尺度であるため、通常は一次粒子の大きさを超えることはない。したがって、測定の誤差を考慮しても、上記結晶子径の比の上限は1.1程度である。
BET比表面積が10m/g未満の場合は、電池に用いた場合に電解液との反応面積が十分に得られず、高容量とならない。また、BET比表面積が50m/gを超えると、かさ密度が低くなりすぎ、容積が制限される電池材料としては、不利である。
【0045】
また、前記一次粒子表面は、リチウム二次電池用正極活物質全量に対して、含有される炭素量で3〜10質量%、好ましくは3〜8質量%の導電性炭素質材料で被覆されていることが好ましい。
本発明の正極活物質を構成するリン酸鉄リチウム粒子は、導電性が低いため、上記範囲の導電性炭素質材料で被覆されることにより、該粒子間で十分な導電性が確保され、正極活物質として、優れた特性が得られる。
導電性炭素質材料の被覆量が3質量%未満では、十分な導電性が確保されず、一方、導電性炭素質材料の被覆量が10質量%、好ましくは8質量%を超えると、正極活物質の体積当たりのリン酸鉄リチウム粒子量が減少するため、電池の体積当たりの電池容量が減少して、不利である。
【0046】
本発明の正極活物質は、正極、負極、セパレータ及びリチウム塩を含有する非水電解質からなるリチウム二次電池の正極活物質として、好適に用いることができ、得られるリチウムイオン二次電池は、高容量でレート特性に優れ、安全性の高いものとなる。
また、上記正極活物質は、公知の他のリチウムコバルト系複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物またはリチウムマンガン系複合酸化物などのリチウム金属複合酸化物と併用して用いることにより、従来のリチウム二次電池の安全性を、更に向上させることができる。この場合、併用する上記他のリチウム金属複合酸化物は、特に制限されるものではなく、一般的なものを用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下に、本発明の実施例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例で用いた試料の分析および評価は、以下の方法により行った。
【0048】
(1)金属元素の分析:
ICP発光分析装置(VARIAN社、725ES)を用いて、ICP発光分析法により分析した。
(2)X線回折:
粉末X線回折装置(PANALYTICAL社製、X‘Pert PRO MRD)を用いて、Cu−Kα線による粉末X線回折で測定した。
(3)平均粒径:
走査型電子顕微鏡観察により、50個の一次粒子の粒径を測定して個数で平均することにより求めた。
(4)比表面積:
窒素ガス吸着によるBET法により測定した。
(5)炭素(C)含有量:
炭素分析計(LECO社製)を用いて測定した。
【0049】
[実施例1]
1.第1工程
硫酸第一鉄7水和物(和光社製試薬特級:純度99.5質量%)1モル(278g)とリン酸(和光社製:純度85.0質量%以上)1モル(115g)を蒸留水1Lに入れ、攪拌機で1時間よく攪拌し、原料溶液とした。また、25質量%水酸化ナトリウム水溶液をpH調整溶液とした。
次に、撹拌機付5Lのセパラブルフラスコに1Lの純水をいれ、内部を窒素で置換しながら、30分間攪拌した。pH調整溶液の供給量を、反応水溶液のpHが8.0〜8.2となるようにpHコントローラで制御しながら、原料溶液を毎分10mlの速度で添加した。滴下終了後、セパラブルフラスコを窒素で置換しながら30分間撹拌を継続して反応を完全に進行させた。
この反応液を吸引濾過で濾過し、蒸留水で洗浄して生成した共沈殿物を回収した。回収した共沈殿物を真空乾燥機中50℃で乾燥して、共沈殿物粉を得た。
【0050】
2.第2工程
温度40℃の温水浴に設置した撹拌機付2Lのセパラブルフラスコに250mlのエタノールを入れ、窒素置換した後、得られた共沈殿物粉100gをエタノール中に分散して共沈殿物スラリーを得た。
この共沈殿物スラリーに、エタノール50ml中に炭酸リチウム約20g(関東化学社製鹿特級:99.0%)を分散させたスラリーを毎分5mlの速度で添加しながら攪拌を続けた。添加終了後、セパラブルフラスコを窒素で置換しながら撹拌を3時間継続して反応を進行させた。反応後のスラリーを吸引濾過で濾過し、反応生成物を回収した。これを真空乾燥機に入れ、100℃で4時間乾燥して前駆体を得た。
得られた前駆体の化学分析を行ったところ、リチウム、鉄、リン、炭素、窒素は、それぞれ3.8、30.2、16.8、1.6、0質量%であり、リチウム:鉄:リンのモル比は、1.0:0.99:0.99となった。この前駆体のX線回折を行ったが、ブロードな非晶質のピークのみが見られ、結晶構造を示す明確なピークは、確認されなかった。図1に、この前駆体のX線回折チャートを示す。
【0051】
3.活物質製造工程
この前駆体を、電気炉を用いて、アルゴン−2容量%水素混合ガスを1L/分の流量で炉内をパージしながら、昇温速度10℃/分で昇温して、500℃で5時間の熱処理を行い、リン酸鉄リチウム粒子からなる正極活物質を得た。
得られた正極活物質は、X線回折によりオリビン構造のリン酸鉄リチウム(LiFePO)と同定された。図2に、正極活物質のX線解析チャートを示す。X線回折におけるLiFePOの(131)面のピークからシェラーの式を用いて結晶子径を算出したところ、82nmであった。また、この正極活物質の一次粒子径は、130nmであり、比表面積は17.3m/gであった。
【0052】
[実施例2]
1.第1および2工程
pH調整溶液に25質量%アンモニア水を用いる以外は、実施例1と同様にして、前駆体を得た。
得られた前駆体は、リチウム、鉄、リン、炭素、窒素がそれぞれ3.7、30.2、16.6、1.2、2.4質量%であり、リチウム:鉄:リン:炭素:窒素のモル比は、1.0:1.01:1.01:0.19:0.32となった。この前駆体のX線回折を行ったが、ブロードな非晶質のピークのみが見られ、結晶構造を示す明確なピークは、確認されなかった。
【0053】
2.活物質製造工程
次に、この前駆体を、電気炉を用いて、アルゴン−2容量%水素混合ガスを1L/分の流量で炉内をパージしながら、昇温速度10℃/分で昇温して500℃で5時間の熱処理を行い、正極活物質を得た。
得られた正極活物質は、X線回折によりオリビン構造のリン酸鉄リチウム(LiFePO)と同定された。実施例1と同様に、正極活物質を評価したところ、結晶子径は、71nmであり、一次粒子径は、100nmであり、比表面積は、17.9m/gであった。
この正極活物質に、炭素源としてスクロースを、リン酸鉄リチウムに対して等モル(正極活物質に対する炭素量で5質量%)になるように添加し、ミキサーで10分間混合した。得られた混合物を電気炉で、アルゴン−4容量%水素混合ガスを2L/分野流量で炉内をパージしながら、昇温速度10℃/分で昇温して700℃で5時間の熱処理による導電性付与処理を行った。導電性付与後の正極活物質の炭素(C)量は、正極活物質全体に対して5.1質量%であった。
【0054】
4.電池特性の評価
導電性付与した正極活物質の電池特性は、C2032コイン型電池で評価した。コイン型電池は、以下の手順で作製した。
正極活物質に、導電材としてアセチレンブラック15質量%、結着材としてポリビニリデンフルオライド(PVDF)10質量%、N−メチルピロリドン(NMP)溶液を添加混合し、正極活物質75質量%−導電材15質量%−PVDF15質量%の混合物を得た。この混合物をアルミ箔上に塗布し、80℃で乾燥後、電極寸法の直径11mmφに打ち抜き、プレス圧98MPa(1.0tonf/cm)でプレスし、正極板を作製した。
この正極板を用いて、グローブボックス内でコイン型セル2032を作製した。
この際、負極は、金属リチウム箔を用い、また、電解液には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの容積比1:1の等量混合液1リットルにLiClO1モルを溶解したものを使用した。
作製したリチウム二次電池を室温において、充電0.2mA/cm、休止60分、4.1V、放電0.2mA/cm、2.0Vで作動させ、初期放電容量を測定した。初期充電容量は166mAh/g、初期放電容量は156mAh/g、初期効率は96%であった。
【0055】
[実施例3]
1.第1工程
硫酸第一鉄7水和物(和光社製試薬特級:純度99.5質量%)1モル(278g)とリン酸(和光社製:純度85.0質量%以上)1モル(115g)を蒸留水1Lに入れ、攪拌機で1時間よく攪拌し、原料溶液とした。また、25質量%アンモニア水溶液をpH調整溶液とした。
次に、撹拌機付5Lのセパラブルフラスコに1Lの純水をいれ、内部を窒素で置換しながら、30分間攪拌した。pH調整溶液の供給量を、反応水溶液のpHが8.0〜8.2となるように、pHコントローラで制御しながら、原料溶液を毎分10mlの速度で添加した。滴下終了後、セパラブルフラスコを窒素で置換しながら30分間撹拌を継続して反応を完全に進行させた。
この反応液を吸引濾過で濾過し、蒸留水で洗浄して生成した共沈殿物を回収した。回収した共沈殿物を真空乾燥機中50℃で乾燥して、共沈殿物粉を得た。
【0056】
2.第2工程
この共沈殿物粉30gを遊星ボールミル用ジルコニアポットに入れ、さらに、炭酸リチウム(関東化学社製鹿特級:99.0%)を6.0gとエタノールを70mlおよび、ジルコニア製ボール(1mmφ)を550g入れて、遊星ボールミル(フリッチュジャパン製)を用いて350rpmで30分間粉砕するとともに反応させた。粉砕後、篩を用いてジルコニア製ボールを取り除き、得られたスラリーを真空乾燥機に入れ、100℃で4h時間乾燥して反応生成物を回収し、前駆体とした。
得られた前駆体の化学分析を行ったところ、リチウム、鉄、リン、炭素、窒素は、それぞれ3.7、30.2、16.4、1.3、2.6質量%となり、リチウム:鉄:リンのモル比は、1.0:1.01:1.02となった。前駆体のX線回折を行ったが、ブロードな非晶質のピークのみが見られ、明確な結晶構造は見られなかった。
【0057】
3.活物質製造工程
この前駆体を電気炉で、アルゴン−2容量%水素混合ガスを1L/分で炉内をパージしながら、昇温速度10℃/分で500℃、熱処理を行い、リン酸鉄リチウム粒子からなる正極活物質を得た。
得られた正極活物質は、X線回折によりオリビン構造のリン酸鉄リチウムと同定された。実施例1と同様に、正極活物質を評価したところ、結晶子径は、46nmであった。また、この正極活物質の一次粒子径は、100nmであり、比表面積は、36.9m/gであった。
【0058】
4.電池特性の評価
また、正極活物質の電池特性を実施例2と同様に評価したところ、初期充電容量は、166mAh/g、初期放電容量は、159mAh/g、初期効率は96%であった。
【0059】
[比較例1]
第1工程において、反応水溶液のpHを6.5〜6.7に制御した以外は、実施例1と同様に、共沈殿物を得た。
共沈殿物を固液分離した際の濾液が黄色く着色しており、分析を行ったところ、濾液に鉄とリンが50%以上ロスしていたため、共沈殿物の組成制御ができず、実験を中止した。
【0060】
[比較例2]
第1工程において、反応水溶液のpHを10.5〜10.7に制御した以外は、実施例1と同様に、正極活物質を得た。
第1工程における共沈殿物の固液分離の際、共沈殿物が茶褐色に変色しており、鉄が3価に酸化されていることが確認された。また、得られた正極活物質のX線回折を行ったところ、オリビン構造のリン酸鉄リチウムとリン酸鉄のピークが検出された。酸化された鉄は、焼成時に十分に還元されず、異相が生成されたと、考察できる。
【0061】
[比較例3]
第2工程において、溶媒をエタノールに替えて水を用いた以外は、実施例1と同様に、正極活物質を得た。
炭酸リチウムが水に溶解してpHが上昇したため、第2工程の反応時にスラリー中の粒子が茶褐色に変色し、鉄が酸化されたことが確認された。また、得られた正極活物質のX線回折を行ったところ、オリビン構造のリン酸鉄リチウムとリン酸鉄のピークが検出された。酸化された鉄は、焼成時に十分に還元されず、異相が生成されたと、考察できる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法によれば、リチウム二次電池用正極活物質の製造原料として、好適な均一微細な前駆体を得ることができ、また、該正極活物質の前駆体は、熱処理することにより、容易にリチウム二次電池用正極活物質を得ることができるので、産業上の利用可能性は、高い。
さらに、得られた本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、均一微細なリン酸鉄リチウム粒子からなり、その正極活物質を用いて、正極が形成されたリチウムイオン二次電池は、高容量、高出力の優れた物性を示し、工業的価値が極めて高い。
図1
図2