特許第5776617号(P5776617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776617
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】シャーシ型スイッチ
(51)【国際特許分類】
   H04L 12/939 20130101AFI20150820BHJP
   H04L 12/703 20130101ALI20150820BHJP
   H04L 12/28 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   H04L12/939
   H04L12/703
   H04L12/28 200Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-93103(P2012-93103)
(22)【出願日】2012年4月16日
(65)【公開番号】特開2013-223077(P2013-223077A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2014年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】澤口 力
【審査官】 浦口 幸宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−130155(JP,A)
【文献】 特開2011−049958(JP,A)
【文献】 特開2009−105540(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/104847(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 12/00−12/955
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内に複数のラインカードを備えたシャーシ型スイッチであって、
前記複数のラインカードの障害を検知する障害検知部と、
前記複数のラインカードのそれぞれに搭載され、宛先MACアドレスと転送先のラインカード及び出力ポートを対応付けたデータベースであるFDB(Forwarding Database)を参照し、受信したフレームの宛先MACアドレスが前記FDBに登録されている場合、当該フレームをユニキャストフレームと判断するフレーム処理部と、
前記複数のラインカードのそれぞれに搭載され、前記フレーム処理部において受信したフレームがユニキャストフレームと判断した場合であって、当該ユニキャストフレームの転送先のラインカードで障害が検知されているとき、前記受信したフレームを、自ラインカードの受信ポート以外の全てのポート及び他の全てのラインカードに強制的に転送する強制フラッディング処理部と、
を備えたことを特徴とするシャーシ型スイッチ。
【請求項2】
前記フレーム処理部は、受信したフレームに、フレームの種別、転送先のラインカードの識別子を含む機器内転送用ヘッダを付与し、
前記複数のラインカードのそれぞれに搭載され、前記機器内転送用ヘッダ内のフレームの種別がユニキャストフレームであるときは、当該フレームを転送先のラインカードのみに転送し、前記機器内転送用ヘッダ内のフレームの種別が宛先不明フレームであるときは、当該フレームを自ラインカードの受信ポート以外の全てのポート及び他の全てのラインカードに転送する転送処理部と、を備え、
前記強制フラッディング処理部は、受信したユニキャストフレームの転送先のラインカードで障害が検知されているとき、当該受信したユニキャストフレームに付与する前記機器内転送用ヘッダ内のフレームの種別を、宛先不明フレームに強制的に変更することで、前記受信したユニキャストフレームを、自ラインカードの受信ポート以外の全てのポート及び他の全てのラインカードに強制的に転送するように構成される
請求項1記載のシャーシ型スイッチ。
【請求項3】
前記障害検知部は、前記複数のラインカードのそれぞれに搭載され、前記各ラインカード間で互いに定期的に疎通確認フレームを送受信し、任意のラインカードから前記疎通確認フレームを所定時間受信しないとき、当該ラインカードにて障害が発生したと判断するように構成される
請求項1または2記載のシャーシ型スイッチ。
【請求項4】
前記障害検知部は、複数のラインカードにわたってLAGが設定されており、かつ、そのLAGが設定されている複数のラインカードのいずれかで障害を検知したとき、当該LAGが設定されている複数のラインカードの全てで障害を検知したとみなす
請求項1〜3いずれかに記載のシャーシ型スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体内に複数のラインカードを備えたシャーシ型スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
筐体内に複数のラインカードを備えたシャーシ型スイッチが知られている。
【0003】
シャーシ型スイッチとして、各ラインカードにFDB(Forwarding Database)を搭載し、そのFDBに基づいてラインカード間のフレーム転送を行うものがある。なお、FDBとは、宛先MACアドレスと出力ポート(転送先のラインカードの識別子及び出力ポートの識別子、あるいはLAG(Link Aggregation Group)の識別子)を対応付けるデータベースである。また、LAGとは、複数の伝送路を束ね、仮想的に1つの伝送路として用いる技術であり、LAGに設定された複数のポートは全体で1つのポートとして扱われる。
【0004】
このシャーシ型スイッチでは、ユニキャストフレームを受信した場合、当該フレームを受信したラインカードが、自身に搭載されたFDBを参照して、受信したフレームの宛先MACアドレスに対応する転送先のラインカードの識別子及び出力ポートの識別子(あるいはLAGの識別子)を抽出し、抽出した転送先にフレーム転送を行うようになっている。受信したフレームの宛先MACアドレスがFDBに登録されていない場合は、当該フレームを宛先不明フレーム(アンノウン)として、自ラインカードの受信ポート以外の全てのポート及び他の全てのラインカードに転送する処理(フラッディングという)を行う。
【0005】
ところで、シャーシ型スイッチにおいて、装置内のラインカードに故障など障害が発生すると、その障害が発生したラインカードに転送されるユニキャストフレームの中継が正常に行われなくなり、通信断となってしまう。よって、ラインカードが故障した場合には、なるべく短時間でバックアップ経路へ切り替えを行うことが望ましい。
【0006】
従来のシャーシ型スイッチでは、装置内のラインカードで障害が発生したことを検知すると、その障害を検知したラインカードに対応するFDBエントリをソフトウェアにより消去する(FDBフラッシュという)。FDBフラッシュが実施されると、ユニキャストフレームは宛先不明フレームとしてフラッディングされることになり、バックアップ経路への切り替えが行われることになる。
【0007】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1〜3がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−263395号公報
【特許文献2】特開2008−136013号公報
【特許文献3】特開2011−29829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の従来のシャーシ型スイッチでは、ラインカードの障害検知から経路切り替えまでに数百ms程度かかってしまい、通信断となる時間が非常に長くなってしまうという問題がある。以下、この理由を具体的に説明する。
【0010】
図4(a)に示すように、従来のシャーシ型スイッチ42aを含む4つのネットワーク中継機器42a〜42dを反時計回りに順次リング状に接続したリングネットワーク41において、シャーシ型スイッチ42aに接続された端末43a(MACアドレスは01:0a)から、ネットワーク中継機器42cに接続された端末43b(MACアドレスは01:0b)にユニキャストフレームを送信する場合を考える。ここでは、端末43aは、シャーシ型スイッチ42aの10番のラインカードのポート10に接続されており、シャーシ型スイッチ42aの1番のラインカードに設定されているLAG10がネットワーク中継機器42bに接続されているとする。また、ネットワーク中継機器42dのネットワーク中継機器42cに接続されるポートは、フレームの送受信を禁止するブロッキングの状態に設定されているとする。
【0011】
端末43aから端末43b宛てのユニキャストフレームをシャーシ型スイッチ42aの10番のラインカードで受信すると、10番のラインカードは、自身に搭載されたFDB44を参照して、受信したフレームの宛先MACアドレス(01:0b)に対応する転送先(LAG10)を抽出する。ここでは、LAG10は1番のラインカードに設定されているので、10番のラインカードで受信したユニキャストフレームは、10番のラインカードから1番のラインカードに転送され、1番のラインカードのLAG10が設定されているポートのいずれかから送信されることになる。シャーシ型スイッチ42aの1番のラインカードから送信されたフレームは、ネットワーク中継機器42b,42cを経て端末43bに到達する。
【0012】
ここで、図4(b)に示すように、シャーシ型スイッチ42aの1番のラインカードに障害が発生したとする。従来のシャーシ型スイッチ42aでは、ラインカードの障害は、シャーシ型スイッチ42a内の管理カード(図示せず)にて検知され、管理カードは、例えば、障害を検知したラインカードのFDBエントリを消去するために、全てのラインカードに制御フレームを送信して、各ラインカードにてFDBフラッシュを実施することになる(制御フレームを送信しない方式もある)。FDBフラッシュが終了するまで、両端末43a,43b間は通信断となる。
【0013】
FDBフラッシュが終了すると、端末43b宛てのユニキャストフレームは、10番のラインカードにて宛先不明と判断されフラッディングされることになる。その結果、ネットワーク中継機器42dに当該ユニキャストフレームが転送され、経路の切り替えが行われる。
【0014】
このように、従来のシャーシ型スイッチ42aでは、管理カードでラインカードの障害を検知した後に、管理カードと各ラインカード間で制御フレームの通信を行い、全てのラインカードの対応するFDBエントリをソフトウェアにより消去する必要があり、さらにFDBを消去する動作自体にも時間がかかってしまうため、結果的に、ラインカードの障害検知から経路切り替えまでに数百ms程度の時間がかかってしまう(なお、制御フレームを送信しない方式でもFDBを消去する時間は必要となるため、ラインカードの障害検知から経路切り替えまでに数百ms程度時間がかかってしまう)。ラインカードの障害検知から経路切り替えまでの時間は、両端末43a,43b間が通信断となるため、できるだけ短縮することが望ましい。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑み為されたものであり、ラインカードに障害が発生した際のバックアップ経路への切り替え時間を短縮可能なシャーシ型スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、筐体内に複数のラインカードを備えたシャーシ型スイッチであって、前記複数のラインカードの障害を検知する障害検知部と、前記複数のラインカードのそれぞれに搭載され、受信したユニキャストフレームを他のラインカードに転送する際に、当該転送先のラインカードで障害が検知されているとき、前記受信したユニキャストフレームを、自ラインカードの受信ポート以外の全てのポート及び他の全てのラインカードに強制的に転送する強制フラッディング処理部と、を備えたものである。
【0017】
前記複数のラインカードのそれぞれに搭載され、受信したフレームに、フレームの種別、転送先のラインカードの識別子を含む機器内転送用ヘッダを付与するフレーム処理部と、前記複数のラインカードのそれぞれに搭載され、前記機器内転送用ヘッダ内のフレームの種別がユニキャストフレームであるときは、当該フレームを転送先のラインカードのみに転送し、前記機器内転送用ヘッダ内のフレームの種別が宛先不明フレームであるときは、当該フレームを自ラインカードの受信ポート以外の全てのポート及び他の全てのラインカードに転送する転送処理部と、を備え、前記強制フラッディング処理部は、受信したユニキャストフレームの転送先のラインカードで障害が検知されているとき、当該受信したユニキャストフレームに付与する前記機器内転送用ヘッダ内のフレームの種別を、宛先不明フレームに強制的に変更することで、前記受信したユニキャストフレームを、自ラインカードの受信ポート以外の全てのポート及び他の全てのラインカードに強制的に転送するように構成されてもよい。
【0018】
前記障害検知部は、前記複数のラインカードのそれぞれに搭載され、前記各ラインカード間で互いに定期的に疎通確認フレームを送受信し、任意のラインカードから前記疎通確認フレームを所定時間受信しないとき、当該ラインカードにて障害が発生したと判断するように構成されてもよい。
【0019】
前記障害検知部は、複数のラインカードにわたってLAGが設定されており、かつ、そのLAGが設定されている複数のラインカードのいずれかで障害を検知したとき、当該LAGが設定されている複数のラインカードの全てで障害を検知したとみなしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ラインカードに障害が発生した際のバックアップ経路への切り替え時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施の形態に係るシャーシ型スイッチの概略構成図である。
図2図1のシャーシ型スイッチにおいて、疎通確認フレームの経路を示す図である。
図3】(a),(b)は、図1のシャーシ型スイッチをリングネットワークに適用した場合の動作を説明する図である。
図4】(a),(b)は、従来のシャーシ型スイッチをリングネットワークに適用した場合の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0023】
図1は、本実施の形態に係るシャーシ型スイッチの概略構成図である。
【0024】
図1に示すように、シャーシ型スイッチ1は、筐体10内に複数のラインカード3を備えている。ここでは、3つのラインカード3a〜3c(LC1,LC2,LC3)を備える場合を示しているが、ラインカード3の数はこれに限定されるものではない。シャーシ型スイッチ1は、例えばリングネットワークに適用される。
【0025】
各ラインカード3は、中継経路であるクロスバースイッチ2を介して装置内で相互に接続されている。ここでは、2つのクロスバースイッチ2a,2b(図1ではクロスバースイッチ1,クロスバースイッチ2として示している)を備えて中継経路を冗長化した場合を示しているが、クロスバースイッチ2の数はこれに限定されるものではない。
【0026】
各ラインカード3には、フレーム処理部4と、転送処理部5と、が搭載されている。
【0027】
フレーム処理部4は、FDB6を参照して、受信したフレームの宛先MACアドレスに対応する転送先のラインカード3の識別子及び出力ポートの識別子(あるいはLAGの識別子)を抽出し、その抽出した転送先の情報を基に、受信したフレームに、フレームの種別、転送先のラインカード3の識別子、出力ポートの識別子を含む機器内転送用ヘッダを付与して、転送処理部5に出力する。
【0028】
ここでいうフレームの種別とは、当該フレームがユニキャストフレームであるか、宛先不明フレームであるか、ブロードキャストフレームであるか等を識別するためのものである。例えば、受信したフレームの宛先MACアドレスがFDB6に登録されていればユニキャストフレーム、FDB6に登録されていなければ宛先不明フレーム、受信したフレームの宛先MACアドレスがブロードキャストアドレスであればブロードキャストフレーム、と判断する。
【0029】
本実施の形態では、フレーム処理部4にさらにLAG用転送先テーブル7を備え、LAGに対応できるようにしている。LAG用転送先テーブル7は、分散IDと転送先のラインカード3の識別子及び出力ポートの識別子とを対応付けるデータベースであり、LAGごとに設定される。フレーム処理部4は、FDB6を参照して抽出した転送先(出力ポート)がLAGである場合、そのLAG用に設定されたLAG用転送先テーブル7を参照し、所定の方法で設定された分散IDに応じた転送先のラインカード3の識別子及び出力ポートの識別子を抽出することになる。なお、LAGが設定されたポートのうちどのポートからフレームを出力するか決定する方法(所謂分散ルール)は種々提案されているため、LAG用転送先テーブル7と分散IDを用いた方法に限らず、他の方法で出力ポートを決定するようにしてもよい。
【0030】
また、フレーム処理部4は、受信したフレームの送信元MACアドレスと、当該フレームを受信したポートとを関連付けて、FDB6の学習を行うようになっている。FDB6の学習方法は公知であるため、ここでは説明を省略する。
【0031】
転送処理部5は、フレーム処理部4で付与した機器内転送用ヘッダに基づき、フレームの転送処理を行うものである。転送処理部5は、機器内転送用ヘッダ内のフレームの種別がユニキャストフレームであるときは、当該フレームを転送先のラインカード3のみに転送し、機器内転送用ヘッダ内のフレームの種別が宛先不明フレームであるときは、当該フレームを自ラインカード3の受信ポート以外の全てのポート及び他の全てのラインカード3(ただし、VLANが同じに設定されているポートに限る)に転送する(フラッディングする)。
【0032】
さて、本実施の形態に係るシャーシ型スイッチ1は、障害検知部8と、強制フラッディング処理部9と、をさらに備えている。
【0033】
障害検知部8は、ラインカード3の障害を検知するものである。なお、ここでいうラインカード3の障害とはラインカード3間で通信に障害が発生している状態をいい、ラインカード3の故障の他、中継経路等に障害が発生した場合も含むものとする。
【0034】
本実施の形態では、障害検知部8を、複数のラインカード3のそれぞれに搭載し、各ラインカード3間で互いに定期的に疎通確認フレームを送受信し、任意のラインカード3から疎通確認フレームを所定時間受信しないとき、当該ラインカード3にて障害が発生したと判断するように構成した。このように構成することで、任意のラインカード3で障害が発生した場合にはその情報を全てのラインカード3が検知できることとなり、ラインカード3間で障害の情報を共有することが可能になる。障害検知部8と強制フラッディング処理部9は、共にフレーム処理部4内に備えられる。
【0035】
本実施の形態では、疎通確認フレームを1000pps(1msに1回)の送信周期で送信するように障害検知部8を構成した。これにより、各ラインカード3のフレーム処理部4間において、転送処理部5及びクロスバースイッチ2経由で、非常に短い間隔で疎通確認フレームを送受信し、ラインカード3の障害検知(中継経路の健全性の確認を含む)を高速に行うことが可能になる。本実施の形態では、任意のラインカード3から疎通確認フレームを3.5ms(疎通確認フレームの送信周期の3.5倍)受信しないときに、当該ラインカード3にて障害が発生したと判断するようにした。
【0036】
一例として、図示左側のラインカード3a(LC1)のフレーム処理部4から送信される疎通確認フレームの経路を示すと、図2のようになる。図2に示すように、本実施の形態ではクロスバースイッチ2を2つ備えているため、図示左側のクロスバースイッチ2aを通る経路(破線)と、図示右側のクロスバースイッチ2bを通る経路(一点鎖線)の2つの経路を介して、疎通確認フレームが送信される。
【0037】
強制フラッディング処理部9は、複数のラインカード3のそれぞれに搭載され、受信したユニキャストフレームを他のラインカード3に転送する際に、当該転送先のラインカード3で障害が検知されているとき、受信したユニキャストフレームを、自ラインカード3の受信ポート以外の全てのポート及び他の全てのラインカード3に強制的に転送する(つまり強制的にフラッディングする)ものである。
【0038】
より具体的には、強制フラッディング処理部9は、受信したユニキャストフレームの転送先のラインカード3で障害が検知されているとき、当該受信したユニキャストフレームに付与する機器内転送用ヘッダ内のフレームの種別を、宛先不明フレームに強制的に変更するように構成される。これにより、転送先のラインカード3に障害があるユニキャストフレームは、転送処理部5で宛先不明フレームとして扱われてフラッディングされ、結果的にバックアップ経路への切り替えが行われることになる。強制フラッディング処理部9における機器内転送用ヘッダ内のフレームの種別の変更は、ハードウェアによる処理で行われるため、ラインカード3の障害を検知した後、瞬時にバックアップ経路へ切り替えることが可能になる。
【0039】
以下、本実施の形態に係るシャーシ型スイッチ1をリングネットワークに適用した場合の動作を図3を用いて説明する。
【0040】
図3(a)に示すように、4つのネットワーク中継機器32a〜32dを反時計回りに順次リング状に接続したリングネットワーク31において、ネットワーク中継機器32aとして本発明のシャーシ型スイッチ1を用い、シャーシ型スイッチ1(ネットワーク中継機器32a)に接続された端末33a(MACアドレスは01:0a)から、ネットワーク中継機器32cに接続された端末33b(MACアドレスは01:0b)にユニキャストフレームを送信する場合を考える。
【0041】
端末33aは、シャーシ型スイッチ1の10番のラインカード3のポート10に接続されており、シャーシ型スイッチ1の1番のラインカード3に設定されているLAG10がネットワーク中継機器32bに接続されているとする。また、ネットワーク中継機器32dのネットワーク中継機器32cに接続されるポートは、フレームの送受信を禁止するブロッキングの状態に設定されているとする。
【0042】
端末33aから端末33b宛てのユニキャストフレームをシャーシ型スイッチ1の10番のラインカード3で受信すると、10番のラインカード3のフレーム処理部4は、自身に搭載されたFDB6を参照して、受信したフレームの宛先MACアドレス(01:0b)に対応する転送先(LAG10)を抽出する。ここでは、転送先がLAGであるため、フレーム処理部4は、さらにLAG用転送先テーブル7を参照して、転送先のラインカード3の識別子(ここでは1番)及び出力ポートの識別子を抽出する。
【0043】
フレーム処理部4は、フレームの種別(ユニキャストフレーム)、転送先のラインカード3の識別子(ここでは1番)及び出力ポートの識別子を含む機器内転送用ヘッダをフレームに付与して、転送処理部5に出力する。なお、このとき、転送先である1番のラインカード3では障害が検知されていないため、強制フラッディング処理部9は処理を行わない。
【0044】
転送処理部5は、入力されたフレームの種別がユニキャストフレームであるため、当該フレームを転送先である1番のラインカード3のみに転送する。1番のラインカード3に転送されたフレームは、機器内転送用ヘッダにて指定された出力ポートから送信され、ネットワーク中継機器32b,32cを経て端末33bに到達する。
【0045】
ここで、図3(b)に示すように、シャーシ型スイッチ1の1番のラインカード3に障害が発生したとする。10番のラインカード3では、1番のラインカード3から疎通確認フレームを所定時間(ここでは3.5ms)受信しないことで、1番のラインカード3の障害を検知する。このラインカード3の障害の検知は、シャーシ型スイッチ1の全てのラインカード3で略同時に行われる。
【0046】
1番のラインカード3の障害を検知した後、端末33aから端末33b宛てのユニキャストフレームを10番のラインカード3で受信したときの動作は、以下のようになる。
【0047】
まず、10番のラインカード3のフレーム処理部4が、自身に搭載されたFDB6を参照して、受信したフレームの宛先MACアドレス(01:0b)に対応する転送先(LAG10)を抽出する。ここでは、転送先がLAGであるため、フレーム処理部4は、さらにLAG用転送先テーブル7を参照して、転送先のラインカード3の識別子(ここでは1番)及び出力ポートの識別子を抽出する。
【0048】
その後、フレーム処理部4は、フレームの種別や転送先のラインカード3の識別子(ここでは1番)及び出力ポートの識別子を含む機器内転送用ヘッダをフレームに付与して、転送処理部5に出力するが、このとき、転送先の1番のラインカード3で障害が検知されているため、強制フラッディング処理部9が、機器内転送用ヘッダ内のフレームの種別を、宛先不明フレームに強制的に変更する。
【0049】
転送処理部5は、入力されたフレームの種別が宛先不明フレームであるため、当該フレームをフラッディングする。フラッディングされたフレームは、ネットワーク中継機器32d,33cを経て端末33bに到達する。
【0050】
なお、このリングネットワーク31では、シャーシ型スイッチ1とネットワーク中継機器32d間で、リング疎通確認フレームを用いて相互に障害の有無を監視しており、シャーシ型スイッチ1にて障害が発生したときには、直ちにネットワーク中継機器32dのブロッキングしているポート(ネットワーク中継機器32dのネットワーク中継機器32cに接続されるポート)を開放するようになっている。このとき、障害を検知したシャーシ型スイッチ1のLAG10はブロッキングの状態に設定される。
【0051】
リング疎通確認フレームを用いたブロッキング状態のポートの切り替え制御は公知であるため、ここでは詳細な説明を省略するが、例えばリング疎通確認フレームの送信周期を3.3msとすると、図3のリングネットワーク31では、ネットワーク中継機器32dのポート開放よりも早く、シャーシ型スイッチ1にてフラッディングされたフレームがネットワーク中継機器32dに到達してしまい、ネットワーク中継機器32dにて多少の時間のロスが生じてしまう。ただし、このような時間のロスを合わせても通信断となる時間は50ms以内であり、従来の数百msと比較して通信断となる時間の大幅な短縮が可能である。
【0052】
その後、図示しない管理カードからの制御フレームによりFDBフラッシュが実施されると、端末33aから端末33b宛てのユニキャストフレームは、FDB未学習の宛先不明フレームとして扱われるようになり、従来通りの制御に移行する。つまり、本発明の処理は、FDBフラッシュを実施するソフトウェアの処理を待つ間に、通信不可となるユニキャストフレームをハードウェアで強制的にフラッディングさせる処理、と換言することもできる。
【0053】
以上説明したように、本実施の形態に係るシャーシ型スイッチ1は、複数のラインカード3の障害を検知する障害検知部8と、複数のラインカード3のそれぞれに搭載され、受信したユニキャストフレームを他のラインカード3に転送する際に、当該転送先のラインカード3で障害が検知されているとき、受信したユニキャストフレームを強制的にフラッディングする強制フラッディング処理部9と、を備えている。これにより、従来と比較して、ラインカード3に障害が発生した際のバックアップ経路への切り替え時間、すなわち通信断となる時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0054】
また、本実施の形態では、障害検知部8を、複数のラインカード3のそれぞれに搭載しており、各ラインカード3間で互いに定期的に疎通確認フレームを送受信し、任意のラインカード3から疎通確認フレームを所定時間受信しないとき、当該ラインカード3にて障害が発生したと判断するように構成しているため、障害の検知を高速に(例えば3.5ms以内に)行うことができ、ラインカード3に障害が発生した際のバックアップ経路への切り替え時間をより短縮することが可能となり、通信断となる時間を50ms以内と非常に短時間にすることが可能になる。
【0055】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0056】
例えば、上記実施の形態では、疎通確認フレームを用いてラインカード3の障害検知を行ったが、独自の方式でラインカード3の障害検知を行うようにしてもよい。
【0057】
また、上記実施の形態では、障害検知部8を複数のラインカード3のそれぞれに搭載したが、これに限らず、従来通り管理カードに障害検知部8を搭載してもよい。この場合、各ラインカード3で障害を認識するまでの時間が長くなってしまうが、この場合でも、従来必須であったFDBフラッシュが終了するまでの時間は短縮できるので、従来と比較してバックアップ経路への切り替え時間、すなわち通信断となる時間は短縮できる。
【0058】
さらに、上記実施の形態では言及しなかったが、複数のラインカード3にわたってLAGを設定することも可能である。この場合、障害検知部8は、LAGが設定されている複数のラインカード3のいずれかで障害を検知したとき、当該LAGが設定されている複数のラインカード3の全てで障害を検知したとみなすようにすれば、フレームのループを防止して上述と同様の動作を行うことが可能である。例えば、1〜3番のラインカード3にLAGを設定している場合、障害検知部8は、1番のラインカード3に障害が発生すると、2,3番のラインカード3にも障害が発生したと判断し、当該LAGに転送する全てのユニキャストフレームを強制的にフラッディングさせるようにすればよい。
【符号の説明】
【0059】
1 シャーシ型スイッチ
2 クロスバースイッチ
3 ラインカード
4 フレーム処理部
5 転送処理部
6 FDB
7 LAG用転送先テーブル
8 障害検知部
9 強制フラッディング処理部
10 筐体
図1
図2
図3
図4