【文献】
N.G. RUDAWSKI,Amorphization and Solid-Phase Epitaxial Growth of C-ClusterIon-Implanted Si,Journal of ELECTRONIC MATERIALS,2009年,Vol. 38, No. 9,pages.1926-1930
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
チョクラルスキー法によりCOP発生領域を有する単結晶シリコンインゴットを引き上げ、得られた単結晶シリコンインゴットに対して切り出し加工を施してCOPを含むシリコンウェーハを作製するウェーハ作製工程と、
作製されたシリコンウェーハにゲッタリングに寄与する構成元素を含むクラスターイオンを照射して、前記シリコンウェーハの表面に、前記クラスターイオンの構成元素から形成された改質層を形成するクラスターイオン照射工程と、
前記シリコンウェーハの改質層上にエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程と、
を有し、該エピタキシャル層形成工程後の改質層における前記構成元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅が100nm以下であるエピタキシャルシリコンウェーハを得ることを特徴とするエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
前記単結晶シリコンインゴットの引き上げは、1200〜1000℃の温度領域における前記単結晶シリコンインゴットの滞在時間が150分以下となる育成条件で行う、請求項1に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
前記クラスターイオン照射工程の後、前記シリコンウェーハに対して結晶性回復のための熱処理を行うことなく、前記シリコンウェーハをエピタキシャル成長装置に搬送してエピタキシャル層形成工程を行う、請求項1〜3のいずれか一項に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
前記クラスターイオン照射工程では、前記シリコンウェーハの表面からの深さが150nm以下の範囲内に、前記改質層における前記構成元素の深さ方向の濃度プロファイルのピークが位置するように、前記クラスターイオンを照射する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
前記シリコンウェーハの表面からの深さが150nm以下の範囲内に、前記改質層における前記濃度プロファイルのピークが位置する、請求項10または11に記載のエピタキシャルシリコンウェーハ。
請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法で製造されたエピタキシャルシリコンウェーハまたは請求項10〜15のいずれか一項に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの、表面に位置するエピタキシャル層に、固体撮像素子を形成することを特徴とする固体撮像素子の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1、特許文献2、および特許文献3に記載された技術は、いずれもエピタキシャル層形成前にモノマーイオン(シングルイオン)をシリコンウェーハに注入するものである。しかしながら、本発明者の検討によれば、モノマーイオン注入を施したエピタキシャルシリコンウェーハから製造した固体撮像素子では、白傷欠陥を十分に抑えることができず、このエピタキシャルシリコンウェーハにはより強力なゲッタリング能力が求められることがわかった。
【0011】
また、こうした強力なゲッタリング能力を有するエピタキシャルシリコンウェーハは、高い生産性を以て製造できることが肝要であり、高いゲッタリング能力を有するエピタキシャルシリコンウェーハを効率的に製造する方法の確立が希求されていた。
【0012】
そこで本発明の目的は、より高いゲッタリング能力を発揮することで金属汚染を抑制できるエピタキシャルシリコンウェーハを効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者の更なる検討によれば、シリコンウェーハにクラスターイオンを照射することにより、モノマーイオンを注入する場合に比べて、以下の有利な点があることを知見した。すなわち、クラスターイオンを照射した場合、モノマーイオンと同等の加速電圧で照射しても、1原子または1分子あたりのエネルギーは、モノマーイオンの場合より小さくしてシリコンウェーハに衝突させることができ、また、一度に複数の原子を照射できるため、照射した元素の深さ方向プロファイルのピーク濃度を高濃度とすることができ、ピーク位置をよりシリコンウェーハ表面に近い位置に位置させることができる。その結果、ゲッタリング能力が向上することを知見した。
【0014】
また、エピタキシャルシリコンウェーハの基板として、空孔凝集欠陥(COP:Crystal Originated Particle)を含むシリコンウェーハを用いることにより、素材となる単結晶シリコンインゴットの育成を大きな引き上げ速度で行うことができるため、エピタキシャルシリコンウェーハの製造を効率的に行うことができることも知見し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法は、チョクラルスキー法によりCOP発生領域を有する単結晶シリコンインゴットを引き上げ、得られた単結晶シリコンインゴットに対して切り出し加工を施してCOPを含むシリコンウェーハを作製するウェーハ作製工程と、作製されたシリコンウェーハに
ゲッタリングに寄与する構成元素を含むクラスターイオンを照射して、前記シリコンウェーハの表面に、前記クラスターイオンの構成元素
から形成された改質層を形成するクラスターイオン照射工程と、前記シリコンウェーハの改質層上にエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程とを有
し、該第2工程後の改質層における前記構成元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅が100nm以下であるエピタキシャルシリコンウェーハを得ることを特徴とする。
【0016】
ここで、前記単結晶シリコンインゴットの引き上げは、1200〜1000℃の温度領域における前記単結晶シリコンインゴットの滞在時間を150分以下とする育成条件で行うことが好ましい。また、前記単結晶シリコンインゴットの引き上げは、該単結晶シリコンインゴットの周囲を冷却させながら行うことができる。
【0017】
本発明では、前記クラスターイオン照射工程の後、前記シリコンウェーハに対して結晶性回復のための熱処理を行うことなく、前記シリコンウェーハをエピタキシャル成長装置に搬送してエピタキシャル層形成工程を行うことができる。
【0018】
ここで、前記クラスターイオンが、構成元素として炭素を含むことが好ましく、構成元素として炭素を含む2種以上の元素を含むことがより好ましい。
【0019】
また、前記クラスターイオン照射工程では、前記シリコンウェーハの表面からの深さが150nm以下の範囲内に、前記改質層における前記構成元素の深さ方向の濃度プロファイルのピークが位置するように、前記クラスターイオンを照射することができる。
【0020】
また、前記クラスターイオン照射工程は、クラスターイオンの加速電圧が50keV/atom以下、クラスターサイズが100個以下、炭素のドーズ量が1×10
16atoms/cm
2以下の条件で行うことが好ましい。さらに、クラスターイオンの加速電圧が
40keV/atom以下、クラスターサイズが60個以下、炭素のドーズ量が5×10
15atoms/cm
2以下の条件で行うことがより好ましい。
【0021】
次に、本発明のエピタキシャルシリコンウェーハは、COPを含むシリコンウェーハと、該シリコンウェーハの表面に形成された、該シリコンウェーハ中に
固溶しゲッタリングに寄与する所定元素
から形成された改質層と、該改質層上のエピタキシャル層とを有し、前記改質層における前記所定元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅が100nm以下であることを特徴とする。
【0022】
ここで、前記COPの最大サイズが0.25μm以下であることが好ましい。
【0023】
また、前記シリコンウェーハの表面からの深さが150nm以下の範囲内に、前記改質層における前記濃度プロファイルのピークが位置することが好ましく、ピーク濃度が、1×10
15atoms/cm
3以上であることが好ましい。
【0024】
さらに、前記所定元素が炭素を含むことが好ましく、前記所定元素が炭素を含む2種以上の元素を含むことがより好ましい。
【0025】
そして、本発明の固体撮像素子の製造方法は、上記いずれか1つの製造方法で製造されたエピタキシャルシリコンウェーハまたは上記いずれか1つのエピタキシャルシリコンウェーハの、表面に位置するエピタキシャル層に、固体撮像素子を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法によれば、COPを含むシリコンウェーハにクラスターイオンを照射して、このシリコンウェーハの表面に前記クラスターイオンの構成元素からなる改質層を形成したので、この改質層がより高いゲッタリング能力を発揮することにより、金属汚染を抑制できるエピタキシャルシリコンウェーハを効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。また、
図1では説明の便宜上、実際の厚さの割合とは異なり、シリコンウェーハ10に対してエピタキシャル層20の厚さを誇張して示す。
【0029】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハ100の製造方法は、
図1に示すように、チョクラルスキー法(CZ法)によりCOP発生領域を有する単結晶シリコンインゴット(図示せず)を引き上げ、得られた単結晶シリコンインゴット(図示せず)に対して切り出し加工を施してCOPを含むシリコンウェーハ10を作製するウェーハ作製工程と(
図1(A))、作製されたシリコンウェーハ10にクラスターイオン16を照射して、シリコンウェーハ10の表面10Aに、このクラスターイオン16の構成元素が固溶してなる改質層18を形成するクラスターイオン照射工程(
図1(B),(C))と、シリコンウェーハ10の改質層18上にエピタキシャル層20を形成するエピタキシャル層形成工程(
図1(D))と、を有することを特徴とする。
図1(D)は、この製造方法の結果得られたエピタキシャルシリコンウェーハ100の模式断面図である。
【0030】
まず、本発明においては、エピタキシャルシリコンウェーハ100の基板として、COPを含むシリコンウェーハ10を用いる。このシリコンウェーハ10の素材である単結晶シリコンインゴットの製造方法として、CZ法を採用する。このCZ法による単結晶シリコンインゴットの製造では、石英ルツボ内に供給されたシリコン融液に種結晶を浸漬し、石英ルツボおよび種結晶を回転させながら種結晶を引き上げることにより、種結晶の下方に単結晶シリコンインゴットが育成される。
【0031】
こうして育成された単結晶シリコンインゴットには、デバイス作製工程で問題となる様々の種類のGrown−in欠陥が生じることが知られている。その代表的なものは、低速な引き上げ条件での育成により格子間シリコンが優勢な領域(以下、「I領域」ともいう)に発生する転位クラスター、および高速な引き上げ条件での育成により空孔が優勢な領域(以下、「V領域」ともいう)に発生するCOPである。また、I領域とV領域との境界付近には酸化誘起積層欠陥(OSF:Oxidation induced Stacking Fault)と呼ばれるリング状に分布する欠陥が存在する。
【0032】
育成された単結晶シリコンインゴットにおけるこれらの欠陥の分布は、2つの要因、すなわち、結晶の引き上げ速度Vおよび固液界面における温度勾配Gに依存することが知られている。
図2は、固液界面における温度勾配Gに対する引き上げ速度Vの比V/Gと単結晶シリコンインゴットを構成する結晶領域との関係を示す図である。この図に示すように、単結晶シリコンインゴットは、V/Gが大きい場合には、COPが検出される結晶領域であるCOP発生領域41に支配され、V/Gが小さくなると、特定の酸化熱処理を施すとリング状のOSF領域として顕在化するOSF潜在核領域42が形成され、このOSF領域42にはCOPは検出されない。また、高速引き上げ条件で育成した単結晶シリコンインゴットから採取されたシリコンウェーハは、ウェーハの多くをCOP発生領域41が占めるため、結晶径方向のほぼ全域に亘ってCOPが発生することになる。
【0033】
V/Gを小さくしていくと、酸素析出物が存在しCOPが検出されない結晶領域である酸素析出促進領域(以下、「Pv領域」ともいう)43が、次いで酸素の析出が起きにくくCOPが検出されない結晶領域である酸素析出抑制領域(以下、「Pi領域」ともいう)44が形成され、転位クラスターが検出される結晶領域である転位クラスター領域45が形成される。
【0034】
V/Gに応じてこのような欠陥分布を示す単結晶シリコンインゴットから採取されるシリコンウェーハにおいて、COP発生領域41および転位クラスター領域45以外の結晶領域は、一般的には欠陥のない無欠陥領域と見なされる結晶領域であり、これらの結晶領域からなる単結晶シリコンインゴットから採取されるシリコンウェーハは、転位クラスターおよびCOPを含まないシリコンウェーハとなる。
【0035】
しかし、上記無欠陥領域を有する単結晶シリコンインゴットの育成は、インゴットの引き上げ速度Vを小さくして行う必要があり、その結果、生産性が低下してしまう。そこで、本発明においては、上記無欠陥領域ではなく、COP発生領域41を有する単結晶シリコンインゴットを育成し、このインゴットから採取した、COPを含むシリコンウェーハを、エピタキシャルシリコンウェーハ100の基板として使用する。本明細書においては、「COPを含むシリコンウェーハ」は、上記COP発生領域41を有する単結晶シリコンインゴットから採取されるシリコンウェーハを意味する。このCOPを含むシリコンウェーハの素材となる単結晶シリコンインゴットを育成するに当たって、引き上げ速度Vを大きくすることができるため、生産性が向上し、コストの低減を図ることができる。
【0036】
なお、上記COP発生領域41を有する単結晶シリコンインゴットを育成する過程において、育成中のインゴットが受ける熱履歴によって、COP発生領域41内に形成されるCOPのサイズや密度が異なる。ここで、COPサイズが大きすぎる場合には、育成されたインゴットから採取されたシリコンウェーハ10上にエピタキシャル層20を形成すると、エピタキシャル層20にCOPを起因とするエピタキシャル欠陥やCOP痕などが発生するおそれがある。
【0037】
本発明者は、エピタキシャル欠陥の発生を抑制する条件について鋭意検討した結果、単結晶シリコンインゴットの引き上げを、1200〜1000℃の温度領域における単結晶シリコンインゴットの滞在時間が150分以下となる育成条件で行うことが有効であることを見出した。
図3は、単結晶シリコンインゴットの引き上げを模式的に示す図である。上記1200〜1000℃の温度領域は、COPが形成される温度領域であり、この1200〜1000℃の温度領域(以下、「COP形成温度領域」ともいう)における単結晶シリコンインゴットIの滞在時間が短いほど、形成されるCOPのサイズが小さくなる。発明者らは、上記温度領域におけるインゴットIの滞在時間が150分以下であれば、インゴットI中に形成されるCOPの最大サイズは0.25μm以下となり、エピタキシャル欠陥の発生を抑制できることを見出した。
【0038】
上記温度領域におけるインゴットIの滞在時間は、育成中のインゴットIを上方に引き上げる引き上げ速度を調整することにより滞在時間を調整することができる。ただし使用する単結晶引き上げ装置の炉内温度環境によってインゴットI中に形成される結晶領域分布(欠陥分布)も異なるため、COP発生領域が得られる引き上げ速度範囲内で設定すればよい。
【0039】
また、上記COP形成温度領域における単結晶シリコンインゴットIの滞在時間は、インゴットIの冷却速度を増加させることによりさらに低減することができる。この冷却速度の増加は、具体的には、単結晶シリコンインゴットIの引き上げを、インゴットIの周囲を強制的に冷却させながら行うことにより実現できる。ここで、インゴットIの冷却は、水冷体などの冷却部材を、インゴットIを囲繞するように設置して行うことができる。これにより、上記温度範囲におけるインゴットIの滞在時間をさらに短縮して、生産性をさらに向上させることができる。
【0040】
こうして用意したシリコンウェーハ10の極性はn型またはp型としてもよい。また、後述するクラスターイオンの照射に加えて、結晶内に炭素および/または窒素が添加されたシリコンウェーハを使用して、ゲッタリング能力をさらに高めるようにしてもよい。
【0041】
次に、本発明の特徴的工程であるクラスターイオン照射工程について、この工程を採用することの技術的意義を、作用効果とともに説明する。クラスターイオン16を照射した結果形成される改質層18は、クラスターイオン16の構成元素がシリコンウェーハ10の表面10Aの結晶の格子間位置または置換位置に固溶して局所的に存在する領域であり、ゲッタリングサイトとして働く。その理由は、以下のように推測される。すなわち、クラスターイオンの形態で照射された炭素やホウ素などの元素は、単結晶シリコンの置換位置・格子間位置に高密度で局在する。そして、単結晶シリコンの平衡濃度以上にまで炭素やホウ素を固溶すると、重金属の固溶度(遷移金属の飽和溶解度)が極めて増加することが実験的に確認された。つまり、平衡濃度以上にまで固溶した炭素やホウ素により重金属の固溶度が増加し、これにより重金属に対する捕獲率が顕著に増加したものと考えられる。
【0042】
ここで、本発明ではクラスターイオン16を照射するため、モノマーイオンを注入する場合に比べて、より高いゲッタリング能力を得ることができ、さらに回復熱処理も省略することができる。そのため、高いゲッタリング能力を有するエピタキシャルシリコンウェーハ100をより効率的に製造することが可能となり、本製法により得られるエピタキシャルシリコンウェーハ100から製造した裏面照射型固体撮像素子は、従来に比べ白傷欠陥の発生の抑制が期待できる。なお、本明細書において「クラスターイオン」とは、原子または分子が複数集合して塊となったクラスターに正電荷または負電荷を与え、イオン化したものを意味する。クラスターは、複数(通常2〜2000個程度)の原子または分子が互いに結合した塊状の集団である。
【0043】
本発明者は、このような効果が得られる作用を以下のように考えている。
【0044】
シリコンウェーハに、例えば炭素のモノマーイオンを注入する場合、
図4(B)に示すように、モノマーイオンは、シリコンウェーハを構成するシリコン原子を弾き飛ばし、シリコンウェーハ中の所定深さ位置に注入される。注入深さは、注入イオンの構成元素の種類およびイオンの加速電圧に依存する。この場合、シリコンウェーハの深さ方向における炭素の濃度プロファイルは、比較的ブロードになり、注入された炭素の存在領域は概ね0.5〜1μm程度となる。複数種のイオンを同一エネルギーで同時照射した場合には、軽い元素ほど深く注入され、すなわち、それぞれの元素の質量に応じた異なる位置に注入されるため、注入元素の濃度プロファイルはよりブロードになる。
【0045】
さらに、モノマーイオンは一般的に150〜2000keV程度の加速電圧で注入するが、各イオンがそのエネルギーをもってシリコン原子と衝突するため、モノマーイオンが注入されたシリコンウェーハ表面部の結晶性が乱れ、その後にウェーハ表面上に成長させるエピタキシャル層の結晶性を乱す。また、加速電圧が大きいほど、結晶性が大きく乱れる。そのため、イオン注入後に乱れた結晶性を回復させるための熱処理(回復熱処理)を高温かつ長時間で行う必要がある。
【0046】
一方、シリコンウェーハに、例えば炭素とホウ素からなるクラスターイオン16を照射する場合、
図4(A)に示すように、クラスターイオン16は、シリコンウェーハに照射されるとそのエネルギーで瞬間的に1350〜1400℃程度の高温状態となり、シリコンが融解する。その後、シリコンは急速に冷却され、シリコンウェーハ中の表面近傍に炭素およびホウ素が固溶する。すなわち、本明細書における「改質層」とは、照射するイオンの構成元素がシリコンウェーハ表面の結晶の格子間位置または置換位置に固溶した層を意味する。シリコンウェーハの深さ方向における炭素およびホウ素の濃度プロファイルは、クラスターイオン16の加速電圧およびクラスターサイズに依存するが、モノマーイオンの場合に比べてシャープになり、照射された炭素およびホウ素が局所的に存在する領域(すなわち、改質層)の厚みは、概ね500nm以下の領域(例えば50〜400nm程度)となる。なお、クラスターイオンの形態で照射された元素は、エピタキシャル層20の形成過程で多少の熱拡散は起こる。このため、エピタキシャル層20形成後の炭素およびホウ素の濃度プロファイルは、これらの元素が局所的に存在するピークの両側に、ブロードな拡散領域が形成される。しかし、改質層の厚みは大きく変化しない(後述の
図7(A)参照)。その結果、炭素およびホウ素の析出領域を局所的にかつ高濃度にすることができる。また、シリコンウェーハの表面近傍に改質層18が形成されるため、より近接ゲッタリングが可能となる。その結果、より高いゲッタリング能力を得ることができるものと考えられる。なお、クラスターイオンの形態であれば、複数種のイオンを同時に照射することができる。
【0047】
また、クラスターイオンは一般的に10〜100keV/Cluster程度の加速電圧で照射するが、クラスターは複数の原子または分子の集合体であるため、1原子または1分子あたりのエネルギーを小さくして打ち込むことができるため、シリコンウェーハ10の結晶へ与えるダメージは小さい。さらに、上記のような注入メカニズムの相違にも起因して、クラスターイオン照射の方がモノマーイオン注入よりもシリコンウェーハ10の結晶性を乱さない。そのため、クラスターイオン照射工程の後、シリコンウェーハ10に対して回復熱処理を行うことなく、シリコンウェーハ10をエピタキシャル成長装置に搬送してエピタキシャル層形成工程を行うことができる。
【0048】
クラスターイオン16は結合様式によって多種のクラスターが存在し、例えば以下の文献に記載されるような公知の方法で生成することができる。ガスクラスタービームの生成法として、(1)特開平9−41138号公報、(2)特開平4−354865号公報、イオンビームの生成法として、(1)荷電粒子ビーム工学:石川 順三:ISBN978-4-339-00734-3 :コロナ社、(2)電子・イオンビーム工学:電気学会:ISBN4-88686-217-9 :オーム社、(3)クラスターイオンビーム基礎と応用:ISBN4-526-05765-7:日刊工業新聞社。また、一般的に、正電荷のクラスターイオンの発生にはニールセン型イオン源あるいはカウフマン型イオン源が用いられ、負電荷のクラスターイオンの発生には体積生成法を用いた大電流負イオン源が用いられる。
【0049】
以下で、クラスターイオン16の照射条件について説明する。まず、照射する元素は特に限定されず、炭素、ホウ素、リン、砒素などを挙げることができる。より高いゲッタリング能力を得る観点からは、クラスターイオン16が、構成元素として炭素を含むことが好ましい。格子位置の炭素原子は共有結合半径が単結晶シリコンインゴットと比較して小さいため、シリコン結晶格子の収縮場が形成されるため、格子間の不純物を引き付けるゲッタリング能力が高い。
【0050】
また、構成元素として炭素を含む2種以上の元素を含むことがより好ましい。析出元素の種類により効率的にゲッタリング可能な金属の種類が異なるため、2種以上の元素を固溶させることにより、より幅広い金属汚染に対応できるからである。例えば、炭素の場合、ニッケル、銅などを効率的にゲッタリングすることができ、ホウ素の場合、銅、鉄を効率的にゲッタリングすることができる。
【0051】
イオン化させる化合物も特に限定されないが、イオン化に適した化合物を列挙すると、炭素源としては、エタン、メタン、プロパン、ジベンジル(C
14H
14)、二酸化炭素(CO
2)などが挙げられ、ホウ素源としては、ジボラン、デカボランガス(B
10H
14)などを挙げることができる。例えば、ジベンジルとデカボランを混合したガスを材料ガスとした場合、炭素、ホウ素および水素が集合した水素化合物クラスターを生成することができる。また、シクロヘキサン(C
6H
12)を材料ガスとすれば、炭素および水素からなるクラスターイオン16を生成することができる。また、炭素源化合物としては、特に、ピレン(C
16H
10)、ジベンジル(C
14H
14)などより生成したクラスターC
nH
m(3≦n≦16,3≦m≦10)を用いることが好ましい。これは、小サイズのクラスターイオンビームを形成しやすいためである。
【0052】
次に、クラスターイオン16の加速電圧およびクラスターサイズを制御することにより、改質層18における構成元素の深さ方向の濃度プロファイルのピークの位置を制御することができる。本明細書において「クラスターサイズ」とは、1つのクラスターを構成する原子または分子の個数を意味する。
【0053】
本発明のクラスターイオン照射工程では、より高いゲッタリング能力を得る観点から、シリコンウェーハ10の表面10Aからの深さが150nm以下の範囲内に、改質層18における構成元素の深さ方向の濃度プロファイルのピークが位置するように、クラスターイオン16を照射することが好ましい。なお、本明細書において、「構成元素の深さ方向の濃度プロファイル」は、構成元素が2種以上の元素を含む場合は、合計ではなく、それぞれ単独の元素についてのプロファイルを意味するものとする。
【0054】
ピーク位置を当該深さの範囲に設定するために必要な条件として、クラスターイオン16としてC
nH
m(3≦n≦16,3≦m≦10)を用いる場合、炭素1原子あたりの加速電圧は、0keV/atom超え50keV/atom以下とし、好ましくは、40keV/atom以下である。また、クラスターサイズは2〜100個、好ましくは60個以下、より好ましくは50個以下とする。
【0055】
なお、加速電圧の調整には、(1)静電加速、(2)高周波加速の2方法が一般的に用いられる。前者の方法としては、複数の電極を等間隔に並べ、それらの間に等しい電圧を印加して、軸方向に等加速電界を作る方法がある。後者の方法としては、イオンを直線状に走らせながら高周波を用いて加速する線形ライナック法がある。また、クラスターサイズの調整は、ノズルから噴出されるガスのガス圧力および真空容器の圧力、イオン化する際のフィラメントへ印加する電圧などを調整することにより行うことができる。なお、クラスターサイズは、四重極高周波電界による質量分析またはタイムオブフライト質量分析によりクラスター個数分布を求め、クラスター個数の平均値をとることにより求めることができる。
【0056】
また、クラスタードーズ量は、イオン照射時間を制御することにより調整することができる。本発明では、炭素のドーズ量は1×10
13atoms/cm
2以上1×10
16atoms/cm
2以下とする。これは、1×10
13atoms/cm
2未満の場合、ゲッタリング能力を十分に得ることができない可能性があり、1×10
16atoms/cm
2超えの場合、エピタキシャル表面に大きなダメージを与えるおそれがあるからである。好ましくは1×10
14atoms/cm
2以上5×10
15atoms/cm
2以下とする。
【0057】
本発明によれば、既述のとおり、RTAやRTOなどの、エピタキシャル装置とは別個の急速昇降温熱処理装置などを用いて回復熱処理を行う必要がない。それは、以下に述べるエピタキシャル層20を形成するためのエピタキシャル装置内で、エピタキシャル成長に先立ち行われる水素ベーク処理によって、シリコンウェーハ10の結晶性を十分回復させることができるからである。水素ベーク処理の一般的な条件は、エピタキシャル成長装置内を水素雰囲気とし、600℃以上900℃以下の炉内温度でシリコンウェーハ10を炉内に投入し、1℃/秒以上15℃/秒以下の昇温レートで1100℃以上1200℃以下の温度範囲にまで昇温させ、その温度で30秒以上1分以下の間保持するものである。この水素ベーク処理は、本来はエピタキシャル層成長前の洗浄処理によりウェーハ表面に形成された自然酸化膜を除去するためのものであるが、上記条件の水素ベークによりシリコンウェーハ10の結晶性を十分回復させることができる。
【0058】
もちろんクラスターイオン照射工程の後、エピタキシャル層形成工程の前に、エピタキシャル装置とは別個の熱処理装置を用いて回復熱処理を行ってもよい。この回復熱処理は、900℃以上1200℃以下で10秒以上1時間以下行えばよい。ここで、熱処理温度を900℃以上1200℃以下とするのは、900℃未満では、結晶性の回復効果が得られにくいためであり、一方、1200℃を超えると、高温での熱処理に起因するスリップが発生し、また、装置への熱負荷が大きくなるためである。また、熱処理時間を10秒以上1時間以下とするのは、10秒未満では回復効果が得られにくいためであり、一方、1時間超えでは、生産性の低下を招き、装置への熱負荷が大きくなるためである。
【0059】
このような回復熱処理は、例えば、RTAやRTOなどの急速昇降温熱処理装置や、バッチ式熱処理装置(縦型熱処理装置、横型熱処理装置)を用いて行うことができる。前者は、ランプ照射加熱方式のため、装置構造的に長時間処理には適しておらず、15分以内の熱処理に適している。一方、後者は、所定温度までに温度上昇させるために時間がかかるものの、一度に多数枚のウェーハを同時に処理できる。また、抵抗加熱方式のため、長時間の熱処理が可能である。使用する熱処理装置は、クラスターイオン16の照射条件を考慮して適切なものを選択すればよい。
【0060】
改質層18上に形成するエピタキシャル層20としては、シリコンエピタキシャル層が挙げられ、一般的な条件により形成することができる。例えば、水素をキャリアガスとして、ジクロロシラン、トリクロロシランなどのソースガスをチャンバー内に導入し、使用するソースガスによっても成長温度は異なるが、概ね1000〜1200℃の温度範囲の温度でCVD法によりシリコンウェーハ10上にエピタキシャル成長させることができる。エピタキシャル層20は、厚さが1〜15μmの範囲内とすることが好ましい。1μm未満の場合、シリコンウェーハ10からのドーパントの外方拡散によりエピタキシャル層20の抵抗率が変化してしまう可能性があり、また、15μm超えの場合、固体撮像素子の分光感度特性に影響が生じるおそれがあるからである。エピタキシャル層20は裏面照射型固体撮像素子を製造するためのデバイス層となる。
【0061】
次に、上記製造方法により得られるエピタキシャルシリコンウェーハ100について説明する。このエピタキシャルシリコンウェーハ100は、
図1(D)に示すように、シリコンウェーハ10と、このシリコンウェーハ10の表面に形成され、シリコンウェーハ10中に所定元素が固溶してなる改質層18と、この改質層18上のエピタキシャル層20と、を有する。ここで、シリコンウェーハ10は、COPを含むシリコンウェーハであり、改質層18における所定元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅が100nm以下であることを特徴とする。すなわち、本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法によれば、モノマーイオン注入に比べて、クラスターイオンを構成する元素の析出領域を局所的かつ高濃度にすることができ、その結果、上記半値幅を100nm以下とすることが可能となった。下限としては10nmと設定することができる。
【0062】
なお、本明細書における「深さ方向の濃度プロファイル」は、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Iron Mass Spectrometry)にて測定した深さ方向の濃度分布を意味する。また、「所定元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅」とは、測定精度を考慮して、エピタキシャル層の厚さが1μm超えの場合は、エピタキシャル層を1μmに薄膜化した状態で、SIMSにて所定元素の濃度プロファイルを測定したときの半値幅を意味する。
【0063】
ここで、シリコンウェーハ10に含まれるCOPは、最大サイズが0.25μm以下であることが好ましい。これにより、エピタキシャル欠陥の数が抑制(低減)されたエピタキシャルシリコンウェーハ100となる。なお、本明細書において、COPのサイズは、アクセントオプティカルテクノロジーズ社製OPP(Optical Precipitate Profiler)を用いて測定したサイズを意味する。
【0064】
また、所定元素としては、シリコン以外の元素であれば特に限定されないが、炭素または炭素を含む2種以上の元素とすることが好ましいのは既述のとおりである。
【0065】
より高いゲッタリング能力を得る観点から、エピタキシャルシリコンウェーハ100において、シリコンウェーハ10の表面からの深さが150nm以下の範囲内に、改質層18における濃度プロファイルのピークが位置することが好ましい。また、濃度プロファイルのピーク濃度が、1×10
15atoms/cm
3以上であることが好ましく、1×10
17〜1×10
22atoms/cm
3の範囲内がより好ましく、1×10
19〜1×10
21atoms/cm
3の範囲内がさらに好ましい。
【0066】
また、改質層18の深さ方向厚みは、概ね30〜400nmの範囲内とすることができる。
【0067】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハ100によれば、従来に比べ高いゲッタリング能力を発揮することで、金属汚染をより抑制することができる。
【0068】
本発明の実施形態による固体撮像素子の製造方法は、上記の製造方法で製造されたエピタキシャルシリコンウェーハまたは上記のエピタキシャルシリコンウェーハ、すなわちエピタキシャルシリコンウェーハ100の表面に位置するエピタキシャル層20に、固体撮像素子を形成することを特徴とする。この製造方法により得られる固体撮像素子は、従来に比べ白傷欠陥の発生を十分に抑制することができる。
【0069】
以上、本発明の代表的な実施形態を説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、シリコンウェーハ10上に2層のエピタキシャル層を形成しても良い。
【実施例】
【0070】
まず、1200℃〜1000℃の温度領域(COP形成温度領域)の滞在時間を変化させて単結晶シリコンインゴットを育成した。具体的には、異なるホットゾーン構造を持つ3水準の単結晶引き上げ装置を用いて、育成する単結晶シリコンインゴットが1200〜1000℃の温度領域に滞在する時間が、(a)50分、(b)80分、(c)150分、(d)160分となるように引き上げ速度を調整して、COP形成温度領域におけるインゴットの滞在時間が異なる、4水準のCOP発生領域からなる単結晶シリコンインゴット(a)〜(d)を育成した。
【0071】
上記4水準の単結晶シリコンインゴット(a)〜(d)の育成に使用した単結晶引き上げ装置を
図5に示す。
図5(A)に示した単結晶引き上げ装置200は、チャンバー51内に、単結晶シリコンインゴットIの原料物質となる多結晶シリコンおよび炭素を収容するための、石英ルツボ52aと黒鉛ルツボ52bとからなるルツボ52と、このルツボ52の下部に設けられ、ルツボ52を円周方向に回転させるとともに、ルツボ52を鉛直方向に昇降させるルツボ回転昇降軸53と、ルツボ52内の原料物質を加熱して原料融液Mとするためのヒーター54と、引き上げ軸55の先端に取り付けられ、種結晶Sを保持する種結晶保持器56と、インゴットIの育成中に、チャンバー51内に不活性ガスを供給するガス導入口57と、チャンバー51内に供給された不活性ガスを排出する排気口58と、育成中のインゴットIを囲繞するように配置した円筒状の熱遮蔽体60と、熱遮蔽体60の内方に配置され、育成中のインゴットIを囲繞するように配置した冷却部材(水冷体)59とを備える。熱遮蔽体60は、育成中のインゴットIに対して、ルツボ52内の原料融液Mやヒーター54やルツボ52の側壁からの高温の輻射熱を入光量や、結晶成長界面近傍の熱の拡散量を調整するもので、冷却部材59は、育成中の単結晶インゴットを強制的に冷却するものである。
また、
図5(B)に示した単結晶引き上げ装置300は、装置200における冷却部材59を有していない以外は、装置200と同じである。
これら以外に、インゴット(c)については、装置300における、熱遮蔽体60の下端と原料融液Mとの間隔を拡大させて、育成中(融点〜1370℃間)の単結晶インゴットの中心部と外周部の温度勾配差を小さくした状態でインゴットIを育成できる単結晶引き上げ装置400(図示せず)を用いた。
【0072】
上記装置200を用いた場合を例に、単結晶シリコンインゴットIを育成する方法について説明すると、まず、チャンバー51内を減圧下のArガス雰囲気に維持した状態で、ルツボ52内に充填した多結晶シリコンなどの固形原料をヒーター54の加熱により溶融させ、原料融液Mを形成する。その後、引き上げ軸55を下降させて種結晶Sを原料融液Mに浸漬し、ルツボ52および引き上げ軸55を所定の方向に回転させながら、引き上げ軸55を上方に引き上げ、種結晶Sの下方にインゴットIを育成する。また、インゴットIの引き上げは、冷却部材59により育成中のインゴットIの周囲を冷却しながら行う。装置300および400を用いる場合には、インゴットIの冷却は行わない。以下、各インゴットの育成条件について説明する。
【0073】
まず、インゴット(a)については、1200〜1000℃の温度領域におけるインゴットの滞在時間を短縮するために、
図5(A)に示した単結晶引き上げ装置200を用いて育成した。その際、1200〜1000℃の温度領域におけるインゴットIの滞在時間を50分となるように引き上げ速度を設定した。
また、インゴット(b)については、
図5(B)に示した単結晶引き上げ装置300を用いて育成した。その際、1200〜1000℃の温度領域におけるインゴットIの滞在時間を80分となるように引き上げ速度を設定した以外は、インゴット(a)と同じである。
さらに、インゴット(c)については、インゴットの径方向に同一の結晶領域が広がるように、
図5(B)に示した装置300における、熱遮蔽体60の下端と原料融液Mとの間隔を拡大させて、育成直後(融点〜1370℃間)の単結晶インゴットの中心部と外周部の温度勾配差を小さくした単結晶引き上げ装置400(図示せず)を用いた。その際、1200〜1000℃の温度領域におけるインゴットIの滞在時間を150分となるように引き上げ速度を設定した以外は、インゴット(a)の育成条件と同じである。
さらにまた、インゴット(d)については、インゴット(b)と同様に、
図5(B)に示した装置300を用いて育成したが、1200〜1000℃の温度領域におけるインゴットIの滞在時間を160分としてインゴット(b)よりも遅い引き上げ速度条件で育成した以外は、インゴット(a)の育成条件と同じである。
育成したインゴット(a)〜(d)は、全て結晶方位<100>、直径300mmのn型の単結晶シリコンインゴットであり、n型ドーパントはリンとし、その濃度を1×10
15atoms/cm
3以上1×10
17atoms/cm
3以下の範囲とした。また、酸素濃度(ASTM F121-1979)は12×10
17atoms/cm
3以上14×10
17atoms/cm
3以下の範囲とした。
【0074】
次に、育成された4水準の単結晶シリコンインゴット(a)〜(d)に対して、公知の外周研削、スライス、ラッピング、エッチング、鏡面研磨の加工工程を施して、厚さ725μmのシリコンウェーハ(a)〜(d)をそれぞれ作製した。
【0075】
(本発明例1〜4)
続いて、クラスターイオン発生装置(日新イオン機器社製、型番:CLARIS)を用いて、クラスターイオンとしてC
5H
5クラスターを生成し、ドーズ量1.00×10
14Clusters/cm
2(炭素のドーズ量5.00×10
14atoms/cm
2)、炭素1原子当たりの加速電圧14.8keV/atomの条件で、上述のように作製されたシリコンウェーハ(a)〜(d)に照射した。その後、各シリコンウェーハを枚葉式エピタキシャル成長装置(アプライドマテリアルズ社製)内に搬送し、装置内で1120℃の温度で30秒の水素ベーク処理を施した後、水素をキャリアガス、トリクロロシランをソースガスとして1150℃でCVD法により、シリコンウェーハ上にシリコンのエピタキシャル層(厚さ:10μm、ドーパント種類:リン、ドーパント濃度:1×10
15atoms/cm
3)をエピタキシャル成長させ、本発明に従うエピタキシャルシリコンウェーハとした。なお、本発明例1〜4では、80keV/Clusterでクラスターイオンを照射したが、各クラスターは、5の炭素原子(原子量12)および5の水素原子(原子量1)からなる。そのため、炭素原子1つが受けるエネルギーは、約14.8keV/atomとなる。
【0076】
(比較例1〜4)
クラスターイオン照射工程に替えて、CO
2を材料ガスとして、炭素のモノマーイオンを生成し、ドーズ量1.00×10
14atoms/cm
2、加速電圧300keV/atomの条件でモノマーイオン注入工程を行った以外は、本発明例1〜4と同様にして、比較例に係るエピタキシャルシリコンウェーハを製造した。
【0077】
上記本発明例および比較例で作製した各ウェーハについて評価を行った。評価方法を以下に示す。
【0078】
(1)SIMS測定
まず、クラスターイオンの照射直後と、モノマーイオンの注入直後における、炭素の分布の相違を明らかにするため、本発明例1および比較例1について、エピタキシャル層形成の前のシリコンウェーハについて、SIMS測定を行った。得られた炭素濃度プロファイルを
図6に参考に示す。ここで、
図6の横軸の深さはシリコンウェーハの表面をゼロとしている。
【0079】
次に、本発明例1および比較例1のエピタキシャルシリコンウェーハについて、SIMS測定を行った。得られた炭素濃度プロファイルを
図7(A),(B)にそれぞれに示す。
図7の横軸の深さはエピタキシャルシリコンウェーハの表面をゼロとしている。
【0080】
また、各本発明例および比較例で作製した各サンプルについて、エピタキシャル層を1μmまで薄膜化した後にSIMS測定したときの炭素濃度プロファイルの半値幅を表1に示す。なお、既述のとおり、表1に示す半値幅はエピタキシャル層を1μmに薄膜化した後にSIMS測定したときの半値幅であるため、表1に示す半値幅と、
図7(A),(B)の半値幅とは異なる。また、薄膜化した後にSIMS測定したときの濃度のピーク位置およびピーク濃度についても表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
(2)ゲッタリング能力評価
本発明例および比較例で作製した各サンプルのシリコンウェーハ表面を、Cu汚染液(1.0×10
12/cm
2)で、それぞれスピンコート汚染法を用いて故意に汚染し、引き続き900℃、30分の熱処理を施した。その後、SIMS測定を行った。測定結果を代表して、本発明例1および比較例1についてのCu濃度プロファイルを、それぞれ炭素濃度プロファイルとともに示す(
図7(A),(B))。他の本発明例および比較例については、ゲッタリング能力評価の結果を表1に示す。なお、評価基準をCu濃度プロファイルのピーク濃度の値によって以下のとおりに分類した。
◎:1.0×10
17atoms/cm
3以上
○:7.5×10
16atoms/cm
3以上1.0×10
17atoms/cm
3未満
△:7.5×10
16atoms/cm
3未満
【0083】
(3)COP形成温度領域滞在時間とCOPサイズとの関係
単結晶シリコンインゴットの育成過程における、1200〜1000℃の温度領域(COP形成温度領域)における単結晶シリコンインゴットの滞在時間によって、インゴット内に形成されるCOPサイズ分布およびCOP密度分布がどのように変化するかについて調査した。具体的には、クラスターイオン照射する前の単結晶シリコンインゴットから切り出されたシリコンウェーハ(a)〜(d)のそれぞれについて、SC−1洗浄(アンモニア水:過酸化水素水:超純粋=1:1:15の混合液による洗浄)を行った後、SC−1洗浄後の各ウェーハを赤外レーザー明視野干渉法、アクセントオプティカルテクノロジーズ社製OPPを用いてCOPのサイズおよび密度を評価した。得られたCOP形成温度領域滞在時間とCOP最大サイズとの関係を
図8に示す。また、COPサイズとCOP密度との関係を
図9に示す。
シリコンウェーハ(a)〜(c)については、いずれも1200℃〜1000℃の温度領域における単結晶シリコンインゴットの滞在時間が短いため(150分以内)、最大サイズが0.25μmを超えるCOPは観察されなかった。
一方、シリコンウェーハ(d)については、1200℃〜1000℃の温度領域の滞在時間が長いため(150分超)、COPの最大サイズは0.33μmとなり、シリコンウェーハ(a)〜(c)よりも大きかった。
【0084】
(4)エピタキシャル欠陥の評価
本発明例および比較例で作製した各サンプルのエピタキシャルシリコンウェーハの表面を、KLA−Tenchor社製:Surfscan SP−2を用いて観察評価し、LPDの発生状況を調べた。その際、観察モードはObliqueモード(斜め入射モード)とし、表面ピットの推定は、Wide Narrowチャンネルの検出サイズ比に基づいて行った。続いて、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて、LPDの発生部位を観察評価して、LPDが積層欠陥(SF:Stacking Fault)であるか否かを評価した。その後、収束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)加工により、SFの発生部位を含む断面観察用評価サンプルを作製した。最後に、この評価サンプルを透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いて観察評価して、COP起因のSFであるか否かを評価した。SFの個数を表1に示す。
【0085】
まず、クラスターイオン照射に替えてモノマーイオン注入を行った点のみで異なる本発明例1と比較例1とを用いて比較する。
図6に示すように、クラスターイオンの照射直後と、モノマーイオンの注入直後における中間製造物であるエピタキシャル層形成前のシリコンウェーハの炭素濃度プロファイルを比較すると、クラスターイオン照射の場合は炭素濃度プロファイルがシャープであり、モノマーイオン注入の場合は炭素濃度プロファイルがブロードである。このことから、エピタキシャル層形成後も、炭素濃度プロファイルの傾向は同様となることが推定される。実際に、これら中間製造物にエピタキシャル層を形成したときの炭素濃度プロファイル(
図7(A),(B))からもわかるように、クラスターイオン照射により、モノマーイオン注入よりも局所的かつ高濃度の改質層が形成されている。さらに、
図7(A),(B)に示したCuの濃度プロファイルから、本発明例1と比較例1とを比較すると、本発明例1ではクラスターイオン照射により形成された改質層が多量のCuを捕獲して、高いゲッタリング能力を発揮していることがわかる。
【0086】
また、表1に示すとおり、クラスターイオン照射した本発明例1〜4については、全て半値幅が100nm以下であり、十分なゲッタリング能力を備えていることがわかる。一方、モノマーイオン注入した比較例1〜4については、いずれも半値幅が100nm超であり、ゲッタリング能力が不足している。このように、クラスターイオンを照射した本発明例1〜4については、モノマーイオンを注入した比較例1〜4に比べ、炭素濃度プロファイルの半値幅が小さくなるために、より高いゲッタリング能力を得ることができていると言える。
【0087】
さらに、エピタキシャル層に形成されたSFについては、シリコンウェーハ(a)〜(d)のいずれについても、SFは10個以下/ウェーハと良好であった。特に、COP形成温度領域の滞在時間を短縮した単結晶インゴットから採取されたシリコンウェーハ(a)〜(c)を用いた場合には、COPの最大サイズが0.25μm以下となり、エピタキシャル層におけるCOP起因のSFが極めて少ない(4個以下/ウェーハ)エピタキシャルシリコンウェーハを得ることができることが確認された。