特許第5776734号(P5776734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5776734鉄スケール防止剤及びこれを用いた蒸気発生設備の鉄スケール防止方法
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  • 特許5776734-鉄スケール防止剤及びこれを用いた蒸気発生設備の鉄スケール防止方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776734
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】鉄スケール防止剤及びこれを用いた蒸気発生設備の鉄スケール防止方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 5/10 20060101AFI20150820BHJP
   C02F 5/00 20060101ALI20150820BHJP
   F22B 37/52 20060101ALI20150820BHJP
   F22B 37/56 20060101ALI20150820BHJP
   F28G 9/00 20060101ALN20150820BHJP
【FI】
   C02F5/10 620A
   C02F5/00 610G
   C02F5/00 620D
   C02F5/10 620C
   C02F5/10 620D
   F22B37/52 Z
   F22B37/56 Z
   !F28G9/00 L
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-140930(P2013-140930)
(22)【出願日】2013年7月4日
(65)【公開番号】特開2015-13252(P2015-13252A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2014年7月25日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 優
(72)【発明者】
【氏名】志村 幸祐
【審査官】 目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−162999(JP,A)
【文献】 特開2010−168619(JP,A)
【文献】 特開平01−165780(JP,A)
【文献】 特開平01−299699(JP,A)
【文献】 特開昭62−144741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F5/00−5/14
C23F11/00−11/18
C23F14/00−17/00
F22B37/48−37/56
F28G9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリメタクリル酸及び/又はその塩と、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体及び/又はその塩とを含有してなる蒸気発生設備用の鉄スケール防止剤。
【請求項2】
前記ポリメタクリル酸及び/又はその塩と、前記共重合体及び/又はその塩とを、1:1〜10:1の質量比で含有してなる、請求項1に記載の蒸気発生設備用の鉄スケール防止剤。
【請求項3】
蒸気発生設備において、請求項1又は2に記載の鉄スケール防止剤を添加する、蒸気発生設備の鉄スケール防止方法。
【請求項4】
給水の全鉄に対して、質量基準で、前記鉄スケール防止剤を1〜100倍添加する、請求項3に記載の蒸気発生設備の鉄スケール防止方法。
【請求項5】
給水の溶存酸素濃度に対して、当量以上の脱酸素剤を添加する、請求項に記載の蒸気発生設備の鉄スケール防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄スケール防止剤及びこれを用いた蒸気発生設備の鉄スケール防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2MPaを超える運転圧力の高いボイラ等の蒸気発生設備においては、一般的に補給水に純水が用いられ、復水を回収し、給水として再利用している。この復水には配管等から溶出した鉄成分が含まれており、鉄成分がボイラ缶内に持ち込まれることにより、伝熱面でスケール化して伝熱障害が生じたり、スラッジ化した鉄スケール下部での二次腐食(鉄スケールの下部は周辺に比べて酸素が供給されず酸素濃度が低くなり、酸素濃淡電池が形成されて腐食が生じる)等の障害を引き起こす。
ボイラ缶内に持ち込まれる鉄の形態は、マグネタイト及びヘマタイト等の酸化鉄、イオン状の鉄が挙げられるが、全ての形態の鉄に対して分散効果を発揮し、スケール化を防止する分散剤は提案されていない。
【0003】
ボイラ用のスケール防止剤としては、一般的に、ポリアクリル酸や、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体(以下、「AA/AMPS」と称する場合もある。)が用いられている。これらのスケール防止剤は、主として軟水給水で0〜2MPa程度までの運転圧力で使用されている。
しかし、ポリアクリル酸やAA/AMPSは熱安定性が十分ではないため、運転圧力の高いボイラに用いた場合、ボイラ缶内で分解してしまうという問題がある。また、ポリアクリル酸やAA/AMPSは、カルシウム等の硬度成分のスケール分散効果ほど鉄に対するスケール分散効果が高くないため、十分に鉄スケールを防止することができない。
【0004】
2MPaを超える運転圧力条件での鉄スケール防止のため、特許文献1では、非イオン性ポリマーが提案されている。しかし、特許文献1の非イオン性ポリマーは、実施例における鉄スケールの防止効果が不十分であるとともに、一般的に流通しておらず高コストとなる課題がある。
【0005】
また、非特許文献1には、ポリメタクリル酸又はメタクリル酸とスチレンスルホン酸とのコポリマーからなる鉄分散剤が示されているが、鉄スケールの防止効果は不十分である。
【0006】
また、特許文献2には、ポリメタクリルアミド又はその部分加水分解物と、アクリル酸塩系重合体とを含むボイラ水用鉄分散剤が提案されている。しかし、特許文献2の鉄分散剤は、高濃度で高温部に注入すると鉄に対する腐食性が高く、薬注配管が鉄製の場合、薬注箇所近傍の配管に腐食が生じる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−224596号公報
【特許文献2】特開昭62−144741号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ダニエル・J・フリン(Daniel J.Flynn)編、「ナルコ ウォーター ハンドブック(Nalco Water Handbook)、マクグロウ−ヒル プロフェッショナル(McGraw-Hill Professional)、(米国)、第3版、2009年7月22日、P. 11.13〜11.15、ISBN-10: 0071548831、ISBN-13: 978-0071548830
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような状況下になされたものであり、高温部における鋼材への腐食性が低く、高温条件で高い熱安定性を有し、蒸気発生設備の鉄スケールを防止する鉄スケール防止剤、及びこれを用いた蒸気発生設備の鉄スケール防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明は、次の[1]〜[5]を提供する。
[1]ポリメタクリル酸及び/又はその塩と、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体及び/又はその塩とを含有してなる鉄スケール防止剤。
[2]前記ポリメタクリル酸及び/又はその塩と、前記共重合体及び/又はその塩とを、1:1〜10:1の質量比で含有してなる、上記[1]に記載の鉄スケール防止剤。
[3]蒸気発生設備において、上記[1]又は[2]に記載の鉄スケール防止剤を添加する、蒸気発生設備の鉄スケール防止方法。
[4]給水の全鉄に対して、質量基準で、前記鉄スケール防止剤を1〜100倍添加する、上記[3]に記載の蒸気発生設備の鉄スケール防止方法。
[5]給水の溶存酸素濃度に対して、当量以上の脱酸素剤を添加する、上記[3]又は[4]に記載の蒸気発生設備の鉄スケール防止方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の鉄スケール防止剤及び鉄スケール防止方法は、蒸気発生設備の伝熱面への鉄スケールの付着を効果的に防止し、熱効率の低下を阻止できるとともに、鉄スケール下部での二次腐食を防止することでボイラの高効率、安定運転に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明を実施するための蒸気発生設備の一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[鉄スケール防止剤]
本発明の鉄スケール防止剤は、ポリメタクリル酸及び/又はその塩と、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体及び/又はその塩とを含有してなるものである。
【0014】
<ポリメタクリル酸及び/又はその塩>
ポリメタクリル酸(以下、「PMAA」と称する場合もある。)の重量平均分子量は1,000〜200,000であることが好ましく、5,000〜100,000であることがより好ましく、10,000〜75,000であることがさらに好ましい。
重量平均分子量を1,000以上200,000以下とすることにより良好な鉄分散効果が得られる。
【0015】
ポリメタクリル酸塩は、ポリメタクリル酸の構成単位の少なくとも一部にメタクリル酸塩を含むものである。すなわち、本発明においてポリメタクリル酸塩とは、ポリメタクリル酸の完全中和物のみならず、部分中和物を含むものとする。
ポリメタクリル酸塩は、上記ポリメタクリル酸のナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。(圧力や採用する処理方式により、適した塩が異なるので一概には言えない。)
ポリメタクリル酸塩は、そのベースとなるポリメタクリル酸が上記の重量平均分子量を満たすことが好ましい。
【0016】
ポリメタクリル酸塩は、例えば、ポリメタクリル酸を中和することにより得ることができる。また、原料モノマーであるメタクリル酸を中和してメタクリル酸塩として、これを重合してポリメタクリル酸塩としてもよい。
ポリメタクリル酸又は原料モノマーであるメタクリル酸の中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のアルカリ金属系の中和剤の他、アンモニア、モルフォリン、ジエチルエタノールアミン等が挙げられる。これら中和剤は、後述するAA/AMPS又はその原料モノマーの中和剤としても用いることができる。
【0017】
<アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体及び/又はその塩>
アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体(AA/AMPS)は、モノマー単位として、アクリル酸と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とを有する共重合体である。
AA/AMPSの重量平均分子量は1,000〜200,000であることが好ましく、2,000〜80,000であることがより好ましく、5,000〜75,000であることがさらに好ましく、10,000〜50,000であることが最も好ましい。
重量平均分子量を1,000以上200,000以下とすることにより良好な鉄分散効果が得られる。
【0018】
AA/AMPS中における、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とのモノマーのモル比は、99:1〜5:95であることが好ましく、90:10〜50:50であることがより好ましい。アクリル酸99に対してAMPSを1以上かつ、アクリル酸5に対してAMPSを95以下とすることにより、良好な鉄分散効果が得られる。
【0019】
AA/AMPSの塩は、上記AA/AMPSの構成単位の少なくとも一部にアクリル酸塩及び/又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸塩を含むものである。すなわち、本発明においてAA/AMPSの塩とは、AA/AMPSの完全中和物のみならず、AA/AMPSの部分中和物を含むものとする。
AA/AMPSの塩は、上記AA/AMPSのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。
AA/AMPSの塩は、そのベースとなるAA/AMPSが上記の重量平均分子量を満たすことが好ましい。
【0020】
AA/AMPSの塩は、例えば、AA/AMPSを中和することにより得ることができる。また、原料モノマーであるアクリル酸及び/又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を中和して、アクリル酸塩及び/又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸塩として、これらを用いて共重合してAA/AMPSの塩としてもよい。
【0021】
<含有比率>
鉄スケール防止剤中では、ポリメタクリル酸及び/又はその塩と、AA/AMPS及び/又はその塩とを、質量比で1:1〜10:1の割合で含有することが好ましく、1.5:1〜9:1の割合で含有することがより好ましい。AA/AMPS及び/又はその塩1に対してポリメタクリル酸及び/又はその塩を1以上、および、AA/AMPS及び/又はその塩1に対してポリメタクリル酸及び/又はその塩を10以下とすることにより、全ての形態の鉄に対して高い鉄分散効果を発揮できる。
【0022】
スケール防止剤は、本発明の効果を害しない範囲で、ポリメタクリル酸及び/又はその塩と、AA/AMPS及び/又はその塩以外の成分を含んでいてもよい。但し、スケール防止剤の全固形分に対して、ポリメタクリル酸及び/又はその塩と、AA/AMPS及び/又はその塩を合計で90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましく、100質量%含むことがさらに好ましい。
【0023】
<鉄スケール防止剤の剤型>
本発明の鉄スケール防止剤は、水溶液の剤型が好ましいが、粉末やペレット状の固体でもよい。固体の場合は使用直前に溶解タンク(薬注タンク)にて溶解して水溶液状にして使用するのが好ましい。
また、ポリメタクリル酸及び/又はその塩と、AA/AMPS及び/又はその塩とは、各々独立した剤型でもよく、両者を混合して一剤化した剤型でもよい。
【0024】
[鉄スケール防止方法]
本発明の鉄スケール防止方法は、蒸気発生設備において、上述した本発明の鉄スケール防止剤を添加する工程を有してなるものである。これにより、薬注配管に腐食を生じさせることなく、蒸気発生設備の伝熱面への鉄スケールの付着を効果的に防止し、熱効率の低下を阻止できる。
【0025】
本発明の鉄スケール防止方法の対象は、ボイラ等の蒸気発生設備である。また、本発明の鉄スケール防止方法は、蒸気発生設備の中でも、運転圧力が2.0MPaを超えるものに対して効果を発揮しやすく、4.0MPa以上のものに対してより効果を発揮しやすい。運転圧力が2.0MPaを超えるような高圧力の蒸気発生設備においても、本発明の鉄スケール防止剤は熱安定性が高く効果が発揮される。
なお、運転圧力が高すぎると鉄スケール防止剤の分解により、鉄スケール防止効果が損なわれる可能性がある。そのため、運転圧力は14.0MPa以下とすることが好ましく、6.5MPa以下とすることがより好ましい。
【0026】
また、本発明の鉄スケール防止方法では、蒸気発生設備の給水の鉄濃度が0.01〜5.0mg/Lであることが好ましく、0.01〜2.0mg/Lであることがより好ましい。このような範囲において、鉄スケール防止効果を発揮しやすくできる。
【0027】
図1は、本発明を実施するための蒸気発生設備の一実施形態を示す図である。
図1は、復水タンク1、復水ライン11、補給水タンク2、補給水ライン21、給水タンク3、給水ライン31、薬注タンク4、薬注配管41、蒸気発生部(ボイラ缶)5、蒸気供給ライン51及びドレン回収ライン52を有する、循環式の蒸気発生設備6を示している。なお、図示しないが、給水タンク3又は給水ライン31には、給水の全鉄濃度を測定する機器が接続されていることが好ましい。
【0028】
図1では、給水タンク3中に鉄スケール防止剤を添加しているが、鉄スケール防止剤の添加箇所は他の箇所であってもよい。ただし、効果的に鉄スケールを防止する観点からは、鉄スケール防止剤は、蒸気発生部よりも上流で添加することが好ましい。具体的には、鉄スケール防止剤は、補給水タンク、補給水ライン、給水タンク及び給水ラインから選ばれる何れかの箇所で添加することが好ましく、給水タンク及び給水ラインの何れかの箇所で添加することがより好ましい。
【0029】
鉄スケール防止剤は、給水の全鉄に対して、質量基準で、1〜100倍添加することが好ましく、2〜50倍添加することがより好ましい。例えば、給水の全鉄の濃度が10mg/Lの場合、鉄スケール防止剤は給水中で有効成分濃度が10〜1000mg/Lとなるように添加することが好ましい。
全鉄に対して鉄スケール防止剤を1倍以上添加することにより、鉄スケール防止効果を十分にしやすくでき、100倍以下添加することにより、水質の調整を容易にできる。
なお、給水の全鉄とは、給水に含まれるイオン状の鉄、酸化鉄等の全鉄成分を意味する。
【0030】
また、本発明の鉄スケール防止方法では、スケール防止成分の熱安定性という観点から、給水中の溶存酸素濃度対して、当量以上の脱酸素剤を添加することが好ましい。
脱酸素剤としては、アスコルビン酸、エリソルビン酸、グルコース、ジエチルヒドロキシアミン(DEHA)、亜硫酸、ヒドラジン、タンニン、タンニン酸、及びこれらの苛性アルカリとの反応物、これらの中和塩等が挙げられる。これらの中でも、給水中での脱酸素速度が速い、アスコルビン酸又はその塩、エリソルビン酸又はその塩が好適である。
【0031】
脱酸素剤を添加する箇所は特に制限されないが、鉄スケール防止剤の添加箇所と同じか、あるいはそれより上流であることが好ましい。
なお、脱酸素剤を給水中の溶存酸素濃度の当量以上添加するために、給水タンク又は給水ラインには、給水の溶存酸素濃度を測定する機器が接続されていることが好ましい。
【0032】
<任意添加成分>
本発明においては、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて、蒸気発生設備の系内の何れかの箇所で、各種の添加成分、例えば、清缶剤、復水処理剤、防食剤等を有効量添加することできる。これらの添加成分は一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例において、「PMAA」はポリメタクリル酸、「PAA」はポリアクリル酸、「PAAM」はポリアクリル酸アミド、「AA/AMPS」はモノマー単位としてアクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とを有する共重合体、「AA/スチレンスルホン酸」はモノマー単位としてアクリル酸とスチレンスルホン酸とを有する共重合体を示す。
【0034】
表1の組成からなる実施例1〜9及び比較例1〜6の鉄スケール防止剤について、以下の熱安定試験を行った。結果を表1に示す。
[熱安定性試験]
表1の組成の鉄スケール防止剤を表1の濃度になるように純水に溶解し、さらに、脱酸素剤有りの場合は、エリソルビン酸ナトリウムを濃度が30mg/Lとなるように添加し、液温25℃、pH9.5±0.1に調整した液1.0Lを、オートクレーブに注ぎ密閉した。オートクレーブはSUS316製で、内容量が1.5Lであり、試験中に液相および気相から試験液が採取可能なバルブ付サンプリング配管が設置してなるものである。
次いで、液相サンプリング配管から窒素を1.0L/minで15分間脱気して酸素を除去した後、282℃、6.5MPaで48時間加熱し、熱安定性を評価した。
なお、熱安定性の評価はポリマーの残存率により行った。残存率の算出方法は、試験前、加熱開始後24時間、48時間の時点で試験液を液相サンプリング配管より50mL採取し、下記の非特許文献2に示された方法に準じて、あらかじめそれぞれのポリマーについて作成したX軸をポリマー濃度、Y軸を吸光度とした検量線を用いてポリマー濃度の分析をした。分析結果に基づき試験前と加熱開始後24時間および48時間でのポリマー濃度の比率から残存率を求めた。
[非特許文献2]SPE Reservoir Engineering、1987年5月号、184〜188頁
【0035】
【表1】
【0036】
表1の結果から、ポリメタクリル酸及び/又はその塩と、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体及び/又はその塩とを含有してなる実施例1〜9の鉄スケール防止剤は、比較例1〜6のものに比べて熱安定性が高いことが確認できる。特に、ポリメタクリル酸及び/又はその塩と、AA/AMPS及び/又はその塩とを、1:1〜10:1の質量比で含有してなる実施例1〜8の鉄スケール防止剤は、熱安定性がより高いことが確認できる。また、その中でも、脱酸素剤を添加する実施例2、4〜6のものは、熱安定性にさらに高いことが確認できる。
【0037】
表2の組成からなる実施例10〜15及び比較例7〜8の鉄スケール防止剤について、以下の腐食性試験を行った。結果を表2に示す。
[腐食性試験]
表2の組成の鉄スケール防止剤を表2の濃度になるように純水に溶解し、さらにリン酸ナトリウム(Na3PO4)を1.0質量%の濃度で溶解させた液1.0Lを、オートクレーブに注ぎ密閉した。オートクレーブ内には冷間圧延鋼板(SPCC)製のテストピース(1mm×15mm×50mm)を2枚設置した。オートクレーブは熱安定試験で用いたものと同様のものである。
次いで、液相サンプリング配管から空気を1L/minで15分間バブリングして酸素を飽和濃度にした後、282℃、6.5MPaで48時間加熱した。加熱終了後、50℃まで放冷してテストピースを取り出し、JIS K0100:1990に準じた後処理(脱錆)を行い、試験前後のテストピースの質量差から腐食速度を算出した。
腐食速度(mdd)={試験前質量(mg)−試験後質量(mg)}/{試験片の表面積(dm2)×試験日数(日)}
【0038】
【表2】
【0039】
表2の結果から、ポリメタクリル酸及び/又はその塩と、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体及び/又はその塩とを含有してなる実施例10〜15の鉄スケール防止剤は、比較例7〜8のものに比べて薬注点近傍の腐食を低減できることが確認できる。特に、ポリメタクリル酸及び/又はその塩と、AA/AMPS及び/又はその塩とを、1:1〜10:1の質量比で含有してなる実施例10〜14の鉄スケール防止剤は、薬注点近傍の腐食をより低減できることが確認できる。
【0040】
表4の組成からなる実施例16〜24及び比較例9〜10の鉄スケール防止剤を、下記の模擬給水中で表4の濃度になるように添加して、以下の鉄スケール付着防止性試験を行った。結果を表4に示す。
[鉄スケール付着防止性試験]
実機水管ボイラの水循環を模擬したステンレス製電気式テストボイラを用いて、表3の運転条件で鉄スケール付着防止性の評価を行った。該試験では、様々な形態の鉄が含まれる実際の給水を模擬するために、表3の濃度でイオン状鉄、マグネタイト、ヘマタイトを添加した。テストボイラの運転時間は加熱開始後144時間とした。
鉄スケール付着防止性の評価は、テストチューブへの鉄スケール付着量で評価した。具体的には、テストチューブとして、ボイラの伝熱面を再現するために、内部に電気ヒーターが挿入されたステンレス製のテストチューブ(伝熱面面積φ37mm×250mm)を用いた。該テストチューブを試験終了後に取り出し、付着したスケール成分を塩酸で溶解し、溶解液中の鉄濃度から鉄スケール付着量を算出した。そして、鉄スケール付着防止剤を添加しない条件での鉄スケール付着量との比較から、鉄スケール付着防止率を算出して行った。
鉄スケール付着防止率(%)={1−(各実施例又は比較例での鉄スケール付着量/鉄スケール付着防止剤を添加しない条件での鉄スケール付着量)}×100
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
表4の結果から、ポリメタクリル酸及び/又はその塩と、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体及び/又はその塩とを含有してなる実施例16〜24の鉄スケール防止剤は、比較例9〜10のものに比べてスケール付着防止性に優れ、様々な形態の鉄が含まれる給水に対して、鉄成分の分散効果に優れることが確認できる。特に、ポリメタクリル酸及び/又はその塩と、AA/AMPS及び/又はその塩とを、1:1〜10:1の質量比で含有してなる実施例16〜22の鉄スケール防止剤は、上記効果がより際立っていることが確認できる。
【符号の説明】
【0044】
1:復水タンク 11:復水ライン
2:補給水タンク 21:補給水ライン
3:給水タンク 31:給水ライン
4:薬注タンク 41:薬注配管
5:蒸気発生部(ボイラ缶)51:上記供給ライン 52:ドレン回収ライン
6:蒸気発生設備
図1