特許第5776740号(P5776740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

特許5776740酸化物焼結体とその製造方法、ターゲット、及びそれを用いて得られる透明導電膜ならびに透明導電性基材
<>
  • 特許5776740-酸化物焼結体とその製造方法、ターゲット、及びそれを用いて得られる透明導電膜ならびに透明導電性基材 図000003
  • 特許5776740-酸化物焼結体とその製造方法、ターゲット、及びそれを用いて得られる透明導電膜ならびに透明導電性基材 図000004
  • 特許5776740-酸化物焼結体とその製造方法、ターゲット、及びそれを用いて得られる透明導電膜ならびに透明導電性基材 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776740
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】酸化物焼結体とその製造方法、ターゲット、及びそれを用いて得られる透明導電膜ならびに透明導電性基材
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/00 20060101AFI20150820BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20150820BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20150820BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20150820BHJP
   H01B 5/14 20060101ALN20150820BHJP
【FI】
   C04B35/00 J
   C23C14/24 E
   C23C14/34 A
   H01B13/00 503B
   !H01B5/14 A
【請求項の数】18
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2013-168791(P2013-168791)
(22)【出願日】2013年8月15日
(62)【分割の表示】特願2009-522592(P2009-522592)の分割
【原出願日】2008年7月2日
(65)【公開番号】特開2014-31312(P2014-31312A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2013年8月15日
(31)【優先権主張番号】特願2007-178879(P2007-178879)
(32)【優先日】2007年7月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】中山 徳行
(72)【発明者】
【氏名】阿部 能之
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−347215(JP,A)
【文献】 特開2007−084881(JP,A)
【文献】 国際公開第03/014409(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウムとガリウムを酸化物として含有する酸化物焼結体において、
ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、その中にβ−Ga型構造のGaInO相、又はGaInO相と(Ga,In)相が平均粒径5μm以下の結晶粒として微細に分散しており、
ガリウムの含有量がGa/(In+Ga)原子数比10原子%以上35原子%未満で、密度が3.4〜5.5g/cmであり、かつ下記の式で定義されるX線回折ピーク強度比が8%〜58%であることを特徴とする酸化物焼結体。
I[GaInO相(111)]/{I[In相(400)]+I[GaInO相(111)]}×100 [%]
(式中、I[In相(400)]は、ビックスバイト型構造をとるIn相の(400)ピーク強度であり、I[GaInO相(111)]は、β−Ga型構造をとる複合酸化物β−GaInO相(111)ピーク強度を示す)
【請求項2】
ガリウムの含有量が、Ga/(In+Ga)原子数比で10〜25原子%であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物焼結体。
【請求項3】
インジウムとガリウムを酸化物として含有する酸化物焼結体において、
ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、その中にβ−Ga型構造のGaInO相、又はGaInO相と(Ga,In)相が平均粒径5μm以下の結晶粒として微細に分散しており、
インジウムとガリウムのほかに、さらにスズ、又はゲルマニウムから選ばれる1種以上の添加成分を含有し、ガリウムの含有量がGa/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜30原子%、また、添加成分の含有量が(Sn+Ge)/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比1〜11原子%で、密度が3.4〜5.5g/cmであり、かつ下記の式で定義されるX線回折ピーク強度比が4%〜84%であることを特徴とする酸化物焼結体。
I[GaInO相(−111)]/{I[In相(400)]+I[GaInO相(−111)]}×100 [%]
(式中、I[In相(400)]は、ビックスバイト型構造をとるIn相の(400)ピーク強度であり、I[GaInO相(−111)]は、β−Ga型構造をとる複合酸化物β−GaInO相(−111)ピーク強度を示す)
【請求項4】
ガリウムの含有量が、Ga/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜20原子%であり、かつスズ、又はゲルマニウムから選ばれる1種以上の含有量が(Sn+Ge)/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜10原子%であることを特徴とする請求項に記載の酸化物焼結体。
【請求項5】
さらに、一般式Ga3−xIn5+xSn16(0.3<x<1.5)で表される正方晶の複合酸化物相が1種以上存在することを特徴とする請求項3に記載の酸化物焼結体。
【請求項6】
酸化インジウム粉末と酸化ガリウム粉末を含む原料粉末を混合するか、この原料粉末に、酸化スズ粉末及び/又は酸化ゲルマニウム粉末を添加して混合した後、混合粉末を成形し、成形物を常圧焼成法によって焼結するか、あるいは混合粉末をホットプレス法によって成形し焼結する酸化物焼結体の製造方法であって、
原料粉末の平均粒径を1μm以下とし、常圧焼成法の場合は、成形体を酸素の存在する雰囲気において、1000〜1200℃で10〜30時間焼結し、また、ホットプレス法の場合は、混合粉末を不活性ガス雰囲気又は真空中において、2.45〜29.40MPaの圧力下、700〜950℃で1〜10時間成形し焼結することにより、ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、その中にGaInO相、またはGaInO相と(Ga,In)相からなる平均粒径5μm以下の結晶粒が微細分散した酸化物焼結体とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の酸化物焼結体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の酸化物焼結体を加工して得られ、イオンプレーティング法による透明導電膜の形成に用いられることを特徴とするタブレット。
【請求項8】
請求項7に記載のタブレットを用いて、イオンプレーティング法で基板上に形成して得られる非晶質の透明導電膜。
【請求項9】
膜中のガリウムの含有量が、Ga/(In+Ga)原子数比で10原子%以上35原子%未満であることを特徴とする請求項8に記載の透明導電膜。
【請求項10】
膜中のガリウムの含有量がGa/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜30原子%であり、かつ、スズ、又はゲルマニウムから選ばれる1種以上の含有量が(Sn+Ge)/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で1〜11原子%であることを特徴とする請求項8に記載の透明導電膜。
【請求項11】
算術平均高さRaが1.0nm以下であることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項12】
波長400nmにおける消衰係数が、0.04以下であることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項13】
比抵抗が2×10−3Ω・cm以下であることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項14】
透明基板の片面若しくは両面に、請求項8〜13のいずれかに記載の透明導電膜が形成されてなる透明導電性基材。
【請求項15】
透明基板が、ガラス板、石英板、樹脂板若しくは樹脂フィルムのいずれかであることを特徴とする請求項14に記載の透明導電性基材。
【請求項16】
樹脂板もしくは樹脂フィルムが、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、又はポリカーボネートを材料とする単一体、若しくはその表面をアクリル系有機物で覆った積層構造体のいずれかであることを特徴とする請求項15に記載の透明導電性基材。
【請求項17】
樹脂板若しくは樹脂フィルムが、その片面若しくは両面がガスバリア膜で覆われるか、中間にガスバリア膜が挿入された積層体であることを特徴とする請求項15又は16に記載の透明導電性基材。
【請求項18】
前記ガスバリア膜が、酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、アルミニウム酸マグネシウム膜、酸化スズ系膜又はダイヤモンド状カーボン膜から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項17に記載の透明導電性基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物焼結体とその製造方法、ターゲット、及びそれを用いて得られる透明導電膜ならびに透明導電性基材に関し、より詳しくは、高速成膜とノジュールレスを実現できるスパッタリング用ターゲット或いはイオンプレーティング用タブレット、それを得るのに最適な酸化物焼結体とその製造方法、それを用いて得られ青色光の吸収の少ない低抵抗の透明導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、高い導電性と可視光領域での高い透過率とを有するため、太陽電池や液晶表示素子、その他各種受光素子の電極などに利用されているほか、自動車窓や建築用の熱線反射膜、帯電防止膜、冷凍ショーケースなどのための各種の防曇用の透明発熱体としても利用されている。
【0003】
実用的な透明導電膜としてよく知られているものには、酸化スズ(SnO)系、酸化亜鉛(ZnO)系、酸化インジウム(In)系の薄膜がある。酸化スズ系では、アンチモンをドーパントとして含むもの(ATO)やフッ素をドーパントとして含むもの(FTO)が利用され、酸化亜鉛系では、アルミニウムをドーパントとして含むもの(AZO)やガリウムをドーパントとして含むもの(GZO)が利用されている。しかし、最も工業的に利用されている透明導電膜は、酸化インジウム系である。その中でもスズをドーパントとして含む酸化インジウムは、ITO(Indium−Tin−Oxide)膜と称され、特に低抵抗の膜が容易に得られることから、幅広く利用されている。
【0004】
低抵抗の透明導電膜は、太陽電池、液晶、有機エレクトロルミネッセンスおよび無機エレクトロルミネッセンスなどの表面素子や、タッチパネルなど、幅広い用途で好適に用いられる。これらの透明導電膜の製造方法として、スパッタリング法やイオンプレーティング法が良く用いられている。特にスパッタリング法は、蒸気圧の低い材料の成膜の際や、精密な膜厚制御を必要とする際に有効な手法であり、操作が非常に簡便であるため、工業的に広範に利用されている。
スパッタリング法では、薄膜の原料としてスパッタリング用ターゲットが用いられる。ターゲットは成膜したい薄膜を構成している金属元素を含む固体であり、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物などの焼結体や、場合によっては単結晶が使われる。この方法では、一般に真空装置を用い、一旦高真空にした後、アルゴン等の希ガスを導入し、約10Pa以下のガス圧のもとで、基板を陽極とし、ターゲットを陰極とし、これらの間にグロー放電を起こしてアルゴンプラズマを発生させ、プラズマ中のアルゴン陽イオンを陰極のターゲットに衝突させ、これによってはじきとばされるターゲット成分の粒子を、基板上に堆積させて膜を形成する。
【0005】
スパッタリング法は、アルゴンプラズマの発生方法で分類され、高周波プラズマを用いるものは高周波スパッタリング法といい、直流プラズマを用いるものは直流スパッタリング法という。
一般に、直流スパッタリング法は、高周波スパッタリング法と比べて成膜速度が速く、電源設備が安価であり、成膜操作が簡単であるなどの理由で、工業的に広範に利用されている。しかし、絶縁性ターゲットでも成膜することができる高周波スパッタリング法に対して、直流スパッタリング法では、導電性ターゲットを用いなければならない。
スパッタリングの成膜速度は、ターゲット物質の化学結合と密接な関係がある。スパッタリングは、運動エネルギーをもったアルゴン陽イオンがターゲット表面に衝突して、ターゲット表面の物質がエネルギーを受け取って弾き出される現象であり、ターゲット物質のイオン間結合もしくは原子間結合が弱いほど、スパッタリングによって飛び出す確率は増加する。
【0006】
ITOなどの酸化物の透明導電膜をスパッタリング法で成膜する際には、膜の構成金属の合金ターゲット(ITO膜の場合はIn−Sn合金)を用いてアルゴンと酸素の混合ガス中における反応性スパッタリング法によって酸化物膜を成膜する方法と、膜の構成金属の酸化物焼結体ターゲット(ITO膜の場合はIn−Sn−O焼結体)を用いてアルゴンと酸素の混合ガス中でスパッタリングを行う反応性スパッタリング法によって酸化物膜を成膜する方法がある。
このうち合金ターゲットを用いる方法は、スパッタリング中の酸素ガスを多めに供給するが、成膜速度や膜の特性(比抵抗、透過率)の成膜中に導入する酸素ガス量に対する依存性が極めて大きく、安定して一定の膜厚、特性の透明導電膜を製造することはかなり難しい。
【0007】
酸化物ターゲットを用いる方法は、膜に供給される酸素の一部はターゲットからスパッタリングにより供給され、残りの不足酸素量を酸素ガスとして供給するのであるが、成膜速度や膜の特性(比抵抗、透過率)の成膜中に導入する酸素ガス量に対する依存性が合金ターゲットを用いる時よりも小さく、安定して一定の膜厚、特性の透明導電膜を製造することができるため、工業的には酸化物ターゲットを用いる方法が採られている。
【0008】
このような背景から、透明導電膜の量産成膜をスパッタリング法で行う場合には、酸化物ターゲットを用いた直流スパッタリング法が採用される場合がほとんどである。ここで生産性や製造コストを考慮すると、直流スパッタリング時の酸化物ターゲットの特性が重要となる。すなわち、同一の電力を投入した場合に、より高い成膜速度が得られる酸化物ターゲットが有用である。さらに、高い直流電力を投入するほど成膜速度が上がるため、工業的には高い直流電力を投入しても、ターゲットの割れや、ノジュール発生によるアーキングなどの異常放電、が起こらずに、安定して成膜することが可能な酸化物ターゲットが有用となる。
ここでノジュールとは、ターゲットがスパッタリングされていくと、ターゲット表面のエロージョン部分に、エロージョン最深部のごくわずかな部分を除き、発生する黒色の析出物(突起物)のことをいう。一般に、ノジュールは外来の飛来物の堆積や、表面での反応生成物ではなく、スパッタリングによる掘れ残りであるとされている。ノジュールはアーキングなどの異常放電の原因となっており、ノジュールの低減によってアーキングは抑制される(非特許文献1参照)。したがって、ノジュール、すなわちスパッタリングによる掘れ残りの発生しない酸化物ターゲットが好適である。
【0009】
一方、イオンプレーティング法は、10−3〜10−2Pa程度の圧力下で、金属あるいは金属酸化物を抵抗加熱あるいは電子ビーム加熱することで蒸発させ、さらに蒸発物を反応ガス(酸素)とともにプラズマにより活性化させてから基板に堆積させる方法である。透明導電膜の形成に用いるイオンプレーティング用タブレット(またはペレットとも呼ぶ)についても、スパッタリング用ターゲットと同様で、酸化物タブレットを用いた方が安定して一定の膜厚、一定の特性の透明導電膜を製造することができる。酸化物タブレットは均一に蒸発することが求められ、化学的な結合が安定で蒸発しにくい物質が、主相として存在する蒸発しやすい物質と共存しないほうが好ましい。
【0010】
これまで述べてきたように、直流スパッタリング法やイオンプレーティング法で形成されたITOは工業的に広範に用いられているが、近年、進歩の著しいLED(Light Emitting Diode)や有機EL(Electro Luminescence)では、ITOでは得られない特性が必要とされる場合が出てきている。それらの一例として、青色LEDでは、波長400nm付近における青色光の透過性の高い透明導電膜が、光の取り出し効率を高めるため必要とされている。ITOの可視域における光の吸収は、短波長側ほど大きくなる傾向にあり、赤色光、緑色光、青色光の順で光吸収が大きくなる。したがって、ITOを青色LEDの透明電極として用いた場合には、光吸収による損失が生じてしまう。
【0011】
このような問題を避けるべく、最近、種々の発光デバイスの電極として、可視光、特に青色光の吸収の少ない、ITOに代わる透明導電膜として、インジウムとガリウムを含有する酸化物膜からなる透明導電膜が提案されている。しかしながら、ターゲットやタブレットとして用いられる酸化物焼結体の開発が十分行われていないため、良質な透明導電膜を量産することができず、実用化に至っていないのが実情である。
【0012】
青色光の吸収の少ない透明導電膜に関しては、四価原子のような異価ドーパントを少量ドープしたガリウム・インジウム酸化物(GaInO)を含む透明導電性材料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。ここには、該酸化物の結晶膜は、透明性に優れ、約1.6の低い屈折率を示すため、ガラス基板との屈折率整合が改善される上、現在用いられている広禁制帯半導体と同程度の電気伝導率が実現できることが記載されている。そして、緑ないし青の領域で、インジウム・スズ酸化物に勝る透過率を示すこと、可視スペクトルに亘って、均一なわずかな吸収を示すこと、また、該酸化物の成膜に用いる原料であるペレットはGaIn1−xと示されるようなGaInO型構造の単一相材料であることが記載されている。
しかし、GaInO型構造の単一相材料をスパッタリング用ターゲットあるいは蒸着用ペレットとして用いた場合、該単一相材料が複合酸化物特有の安定な化学的結合を有するため、スパッタリングイールドが低く、成膜速度はITOの1/2程度と極めて遅くなってしまうため、工業的に不利である。また、スパッタリングイールドが低いことからスパッタリング電圧を上げるなどして成膜速度を上げる条件を選択したときに、前記したアーキングの原因となるノジュール発生を抑制することが可能となるような酸化物焼結体の組成、組織等について検討は全くなされていない。すなわち、上記透明導電膜の原料となる酸化物焼結体に関しては、工業的な実用面まで考慮されてはいない。
【0013】
また、上記特許文献1と同じ酸化物系の透明導電膜および酸化物焼結体として、従来知られているGaInOとはかなり異なる組成範囲で、GaInOやInより一段と高い導電性、すなわち、より低い抵抗率と、優れた光学的特性を有する透明導電膜であって、Ga−Inで示される擬2元系において、Ga/(Ga+In)で示されるGa量が15〜49原子%含有する透明導電膜が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、上記透明導電膜を得るための原料となる酸化物焼結体の作製条件については、あまり詳しい記載はなく、透明導電膜の組織に関しては、非晶質、もしくはGaInO、GaInOとIn、GaInOとGa等の混相から成る微結晶質であるとしているが、原料となる酸化物焼結体に関する記載はない。したがって、前記と同様に、原料となる酸化物焼結体の組織に関しては、成膜速度やノジュール抑制などの、工業的、実用的観点からの最適状態についての取り組みは認められない。
【0014】
さらに、上記特許文献1と同じと同じ酸化物系の透明導電膜として、従来のITO膜(Snを添加したInからなる透明導電膜)に比べ、比抵抗が低く且つ透過率が高く、特に液晶ディスプレイ(LCD)の大型化、カラー化及び高精細化に対応可能な透明導電膜として、スパッタリング法等の成膜法により形成され、Ga:1〜10at%を含有するInからなることを特徴とする透明導電膜(IGO膜と記す場合がある)膜が提案されている(例えば、特許文献3参照)。上記構成のIGO膜は、従来のITO膜に比較して、比抵抗が低く、100℃で成膜されたものでも比抵抗:1×10−3Ωcm以下であり、又、透過率が高くて可視光領域で85%以上であり、そのため、特にLCDの透明電極として好適に用いることができ、今後のLCDの大型化、カラー化、高精細化等の高機能化及び品質向上を図ることができることが記載されている。しかし、上記透明導電膜を得るためのターゲットとしては、Inターゲット上にGaチップを配置した複合ターゲット、あるいは、Gaを所定量含有するInターゲットが提示されているだけであり、酸化物焼結体の組織等に関しては何ら検討されておらず、成膜速度やノジュール抑制などの、工業的、実用的観点からの最適状態について取り組んだものではない。
【0015】
これに対して、本出願人は、前記特許文献と同じ酸化物系の透明導電膜、透明導電膜製造用焼結体ターゲット、透明導電性基材及びそれを用いた表示デバイスを提案している(例えば、特許文献4参照)。ここには、酸化物焼結体の構造に関して、Ga、In及びOからなり、前記Gaを全金属原子に対して35原子%以上45原子%以下含有し、主にβ―Ga型構造のGaInO相とビックスバイト型構造のIn相から構成され、且つIn相(400)のβ―GaInO相(111)に対するX線回折ピーク強度比が50%以上110%以下と記載され、密度は5.8g/cm以上であるとしている。また、酸化物焼結体の導電性に関しては、比抵抗値が4.0×10−2Ω・cm以下であり、これを超えた場合にはDCマグネトロンスパッタリングが可能であっても、成膜速度が低下するため、生産性が低くなる。
また、上記の酸化物焼結体の組成、組織構造に関しては、主に、これを原料として形成された透明導電膜の比抵抗または光透過率への影響を考慮したものであり、Ga量が35原子%未満では可視光短波長域の光透過性が低下してしまい、Ga量が45原子%を超えると導電性が低下する。比抵抗としては1.2×10−3Ω・cm以上8.0×10−3Ω・cm以下であり、1.2×10−3Ω・cm未満の領域は好ましいが該透明導電膜の組成はGa量35原子%未満とする必要がある。したがって、得られる膜の導電性、光学特性の観点から最適組成が選択されており、酸化物焼結体の組成、組織が及ぼすノジュール発生への影響などは課題として検討されてはいなかった。
【0016】
以上のような状況であり、青色光の吸収の少ない、低抵抗の、インジウムとガリウムを含有する透明導電膜を量産する上で重要な、成膜速度の高速化やノジュール抑制などの実用的な課題を解決したインジウムとガリウムを含有する酸化物焼結体の出現が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平7−182924号公報
【特許文献2】特開平9−259640号公報
【特許文献3】特開平9−50711号公報
【特許文献4】特開2005−347215号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】「透明導電膜の技術(改訂2版)」、オーム社、2006年 12月 20日発行、p.238〜239
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、高速成膜とノジュールレスを実現できるスパッタリング用ターゲット或いはイオンプレーティング用タブレット、それを得るのに最適な酸化物焼結体とその製造方法、それを用いて得られ青色光の吸収の少ない低抵抗の透明導電膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者等は、インジウムとガリウムを含む酸化物からなる酸化物焼結体の構成相と組織が、該酸化物焼結体を原料とするスパッタリング用ターゲットを用いたスパッタリング法或いはイオンプレーティング用タブレットを用いたイオンプレーティング法による酸化物透明導電膜の成膜速度などの製造条件、ならびにアーキングの原因となるノジュール発生にどのように影響するかについて、詳細に検討を行った。その結果、インジウムとガリウムを含有する酸化物焼結体において、(1)実質的に、ガリウムが固溶したビックスバイト型構造のIn相と、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、あるいは、ガリウムが固溶したビックスバイト型構造のIn相と、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相と、(Ga,In)相で構成されており、GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相からなる結晶粒の平均粒径を5μm以下とすること、(2)酸化物焼結体中のガリウム含有量がGa/(In+Ga)原子数比で10原子%以上35原子%未満とすることにより、基板に透明導電膜を形成する際に投入電力を大きくして成膜速度を高めようとしても、アーキングの原因となるノジュールの発生を抑制することができ、青色光の吸収の少ない、低抵抗の透明導電膜が得られることを見出すとともに、(3)ガリウムの含有量がGa/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜30原子%であり、かつ、スズ、又はゲルマニウムから選ばれる1種以上の含有量が(Sn+Ge)/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で1〜11原子%とすることによっても、同様にアーキングの原因となるノジュールの発生を抑制することができ、青色光の吸収の少ない、低抵抗の透明導電膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、インジウムとガリウムを酸化物として含有する酸化物焼結体において、ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、その中にβ−Ga型構造のGaInO相、又はGaInO相と(Ga,In)相が平均粒径5μm以下の結晶粒として微細に分散しており、ガリウムの含有量がGa/(In+Ga)原子数比10原子%以上35原子%未満で、密度が3.4〜5.5g/cmであり、かつ下記の式で定義されるX線回折ピーク強度比が8%〜58%であることを特徴とする酸化物焼結体ことを特徴とする酸化物焼結体が提供される。
I[GaInO相(111)]/{I[In相(400)]+I[GaInO相(111)]}×100 [%]
(式中、I[In相(400)]は、ビックスバイト型構造をとるIn相の(400)ピーク強度であり、I[GaInO相(111)]は、β−Ga型構造をとる複合酸化物β−GaInO相(111)ピーク強度を示す)
【0022】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、ガリウムの含有量が、Ga/(In+Ga)原子数比で10〜25原子%であることを特徴とする酸化物焼結体が提供される。
【0023】
一方、本発明の第の発明によれば、インジウムとガリウムを酸化物として含有する酸化物焼結体において、ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、その中にβ−Ga型構造のGaInO相、又はGaInO相と(Ga,In)相が平均粒径5μm以下の結晶粒として微細に分散しており、インジウムとガリウムのほかに、さらにスズ、又はゲルマニウムから選ばれる1種以上の添加成分を含有し、ガリウムの含有量がGa/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜30原子%、また、添加成分の含有量が(Sn+Ge)/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比1〜11原子%で、密度が3.4〜5.5g/cmであり、かつ下記の式で定義されるX線回折ピーク強度比が4%〜84%であることを特徴とする酸化物焼結体が提供される。
I[GaInO相(−111)]/{I[In相(400)]+I[GaInO相(−111)]}×100 [%]
(式中、I[In相(400)]は、ビックスバイト型構造をとるIn相の(400)ピーク強度であり、I[GaInO相(−111)]は、β−Ga型構造をとる複合酸化物β−GaInO相(−111)ピーク強度を示す)
さらに、本発明の第の発明によれば、第の発明において、ガリウムの含有量が、Ga/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜20原子%であり、かつスズ、又はゲルマニウムから選ばれる1種以上の含有量が(Sn+Ge)/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜10原子%であることを特徴とする酸化物焼結体が提供される。
また、本発明の第の発明によれば、第の発明において、さらに、一般式Ga3−xIn5+xSn16(0.3<x<1.5)で表される正方晶の複合酸化物相が1種以上存在することを特徴とする酸化物焼結体が提供される。
【0024】
また、本発明の第の発明によれば、第1〜のいずれかの発明において、酸化インジウム粉末と酸化ガリウム粉末を含む原料粉末を混合するか、この原料粉末に、酸化スズ粉末及び/又は酸化ゲルマニウム粉末を添加して混合した後、混合粉末を成形し、成形物を常圧焼成法によって焼結するか、あるいは混合粉末をホットプレス法によって成形し焼結する酸化物焼結体の製造方法であって、原料粉末の平均粒径を1μm以下とし、常圧焼成法の場合は、成形体を酸素の存在する雰囲気において、1000〜1200℃で10〜30時間焼結し、また、ホットプレス法の場合は、混合粉末を不活性ガス雰囲気又は真空中において、2.45〜29.40MPaの圧力下、700〜950℃で1〜10時間成形し焼結することにより、ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、その中にGaInO相、またはGaInO相と(Ga,In)相からなる平均粒径5μm以下の結晶粒が微細分散した酸化物焼結体とすることを特徴とする酸化物焼結体の製造方法が提供される。
【0025】
一方、本発明の第の発明によれば、第1〜のいずれかの発明の酸化物焼結体を加工して得られ、イオンプレーティング法による透明導電膜の形成に用いられることを特徴とするタブレットが提供される。
【0026】
一方、本発明の第の発明によれば、第の発明のタブレットを用いて、イオンプレーティング法で基板上に形成して得られる非晶質の透明導電膜が提供される。
また、本発明の第の発明によれば、第の発明において、膜中のガリウムの含有量が、Ga/(In+Ga)原子数比で10原子%以上35原子%未満であることを特徴とする透明導電膜が提供される。
また、本発明の第10の発明によれば、第の発明において、膜中のガリウムの含有量がGa/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜30原子%であり、かつ、スズ、又はゲルマニウムから選ばれる1種以上の含有量が(Sn+Ge)/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で1〜11原子%であることを特徴とする透明導電膜が提供される。
また、本発明の第11の発明によれば、第8〜10のいずれかの発明において、算術平均高さRaが1.0nm以下であることを特徴とする透明導電膜が提供される。
また、本発明の第12の発明によれば、第8〜11のいずれかの発明において、波長400nmにおける消衰係数が、0.04以下であることを特徴とする透明導電膜が提供される。
また、本発明の第13の発明によれば、第8〜12のいずれかの発明において、比抵抗が2×10−3Ω・cm以下であることを特徴とする透明導電膜が提供される。
【0027】
一方、本発明の第14の発明によれば、第8〜13のいずれかの発明において、透明基板の片面若しくは両面に透明導電膜が形成されてなる透明導電性基材が提供される。
また、本発明の第15の発明によれば、第14の発明において、透明基板が、ガラス板、石英板、樹脂板若しくは樹脂フィルムのいずれかであることを特徴とする透明導電性基材が提供される。
また、本発明の第16の発明によれば、第15の発明において、樹脂板もしくは樹脂フィルムが、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、又はポリカーボネートを材料とする単一体、若しくはその表面をアクリル系有機物で覆った積層構造体のいずれかであることを特徴とする透明導電性基材が提供される。
また、本発明の第17の発明によれば、第15又は16の発明において、樹脂板若しくは樹脂フィルムが、その片面若しくは両面がガスバリア膜で覆われるか、中間にガスバリア膜が挿入された積層体であることを特徴とする透明導電性基材が提供される。
さらに、本発明の第18の発明によれば、第17の発明において、前記ガスバリア膜が、酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、アルミニウム酸マグネシウム膜、酸化スズ系膜又はダイヤモンド状カーボン膜から選ばれる1種以上であることを特徴とする透明導電性基材が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明のガリウムとインジウムを酸化物として含有する酸化物焼結体は、ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、その中にβ−Ga型構造のGaInO相、又はGaInO相と(Ga,In)相が平均粒径5μm以下の結晶粒として微細に分散しており、酸化物焼結体中のガリウム含有量がGa/(In+Ga)原子数比で10原子%以上35原子%未満であるか、または、ガリウムの含有量がGa/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜30原子%であり、かつ、スズ、又はゲルマニウムから選ばれる1種以上の含有量が(Sn+Ge)/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で1〜11原子%であることにより、スパッタリング法やイオンプレーティング法で酸化物透明導電膜を得るとき成膜速度を高めても、アーキングの原因となるノジュール発生を抑制することができ、成膜速度を高めるような成膜条件への移行も可能となり、その結果、青色光の吸収の少ない、インジウムとガリウムを含有する低抵抗の透明導電膜を得ることができ、工業的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の酸化物焼結体を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したSEM画像である。
図2図2は、本発明の酸化物焼結体をX線回折した結果を示すチャートである。
図3図3は、酸化物焼結体を加工したターゲットでスパッタリングした時の投入直流電力とアーキング発生回数の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の酸化物焼結体とその製造方法、ターゲット、及びそれを用いて得られる透明導電膜ならびに透明導電性基材について詳細に説明する。
【0031】
1.酸化物焼結体
これまで、インジウムとガリウムを含む酸化物からなる透明導電膜スパッタリング用ターゲットあるいはイオンプレーティング用タブレットが提案されているが、その材料となる酸化物焼結体では、スパッタリング法やイオンプレーティング法で酸化物透明導電膜を得るときの製造条件と酸化物焼結体の構成相や組織との最適化などが十分に検討されていなかった。本発明では、酸化物焼結体の構成相と組織が及ぼす成膜速度ならびにアーキングの原因となるノジュール発生への影響に関して明らかにしたものである。
【0032】
本発明において、インジウムとガリウムを酸化物として含有する酸化物焼結体には、特定の相構造を有し、ガリウムの含有量がGa/(In+Ga)原子数比で10原子%以上35原子%未満であるもの(以下、これを第一の酸化物焼結体という)と、インジウムとガリウムの他に、さらにスズ、又はゲルマニウムから選ばれる1種以上を含有し、ガリウムの含有量がGa/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜30原子%であり、かつ、スズ、又はゲルマニウムから選ばれる1種以上の含有量が(Sn+Ge)/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で1〜11原子%であるもの(以下、これを第二の酸化物焼結体という)の二種類がある。
【0033】
(I)第一の酸化物焼結体
本発明の第一の酸化物焼結体は、インジウムとガリウムを酸化物として含有する酸化物焼結体において、JCPDSカード06−0416に記載されたビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、その中にJCPDSカード21−0334に記載されたβ−Ga型構造のGaInO相、又はGaInO相とJCPDSカード14−0564に記載された(Ga,In)相が平均粒径5μm以下の結晶粒として微細に分散しており、ガリウムの含有量がGa/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜30原子%、また、添加成分の含有量が(Sn+Ge)/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比1〜11原子%で、密度が3.4〜5.5g/cmであり、かつ前記の式で定義されるX線回折ピーク強度比が4%〜84%であることを特徴とする。
【0034】
(a)組成と焼結体組織
本発明において第一の酸化物焼結体の組成は、該酸化物焼結体を用いてスパッタリング法やイオンプレーティング法で得られる透明導電膜が、青色光の吸収が少なく、低抵抗を示すためには、ガリウム含有量がGa/(In+Ga)原子数比で10原子%以上35原子%未満であることが必要である。
酸化物焼結体が上記組成範囲であるだけでなく、焼結体組織は、ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、その中にβ−Ga型構造のGaInO相、又はGaInO相と(Ga,In)相が平均粒径5μm以下の結晶粒として微細に分散している。
上記ガリウムが固溶したビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、(Ga,In)相は、インジウムの一部がガリウムによって置換される、あるいは、ガリウムの一部がインジウムによって置換されていてもよく、化学量論組成からの多少のずれ、金属元素の欠損、または酸素欠損を含んでいても構わない。なお、(Ga,In)相は、常圧焼結において焼結温度1500℃以上の高温で形成される相である。(Ga,In)相は、GaInO相より電気抵抗がやや高く、成膜速度はやや低いが、少量の存在であれば問題にはならない。
【0035】
しかし、多量に存在すると成膜速度が低下し、生産性が低下するなどの問題が生じる。透明導電膜の青色光の吸収を少なくするためには、前記特許文献1にも記載されているように、透明導電膜を得るためのターゲットに用いる酸化物焼結体中にインジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相が含まれていることが必要であり、さらに(Ga,In)相が含まれていてもよい。
【0036】
また、本発明の第一の酸化物焼結体は、上記のようにガリウムが固溶したビックスバイト型構造のIn相が主相であって、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相が少ないことから、下記の式(1)で定義されるX線回折ピーク強度比が8%〜58%であることを特徴としている。X線回折ピーク強度比が8%未満であると、酸化物焼結体中のGaInO相が少なくなりすぎて透明導電膜による青色光の吸収が大きくなってしまい、一方、58%を超えると形成される透明導電膜の比抵抗が高くなりすぎる、あるいはスパッタリングの際にアーキングが多発するなどの問題が生じるため好ましくない。
I[GaInO相(111)]/{I[In相(400)]+I[GaInO相(111)]}×100 [%] (1)
(式中、I[In相(400)]は、ビックスバイト型構造をとるIn相の(400)ピーク強度であり、I[GaInO相(111)]は、β−Ga型構造をとる複合酸化物β−GaInO相(111)ピーク強度を示す)
【0037】
(b)ガリウム含有量
第一の酸化物焼結体におけるガリウムの含有量は、Ga/(In+Ga)原子数比で10原子%以上35原子%未満である。
ガリウム含有量がGa/(In+Ga)原子数比で10原子%未満の場合は、酸化物焼結体は、ほとんどガリウムが固溶したビックスバイト型構造のIn相のみによって構成される。したがって、上記複合酸化物相を含んでおらず、上記の光学特性を有する透明導電膜を形成することができない。
【0038】
一方、ガリウム含有量がGa/(In+Ga)原子数比で35原子%を超える場合には、酸化物焼結体中にインジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相や(Ga,In)相が含まれているが、この割合が増加してしまい、主として、上記2相が存在し、その中に、ガリウムが固溶したビックスバイト型構造のIn相が存在するようになってしまう。このような酸化物焼結体は、特許文献4の従来のものと同等であり、スパッタリング法等では成膜速度が遅いβ−Ga型構造のGaInO相や(Ga,In)相が多くなったために、成膜速度が低下し、工業的に生産効率が低下してしまう。また、形成される透明導電膜の比抵抗は、2×10−3Ω・cm以下を示すことは困難であり、さらには本発明の実質的な目標となる10−4Ω・cm台には到底及ばない。
【0039】
(c)焼結体組織とノジュール
本発明の酸化物焼結体を加工して、例えば、直流スパッタリング用ターゲットとした場合、ターゲット表面にはIn相とGaInO相、および/または(Ga,In)相の結晶粒が存在するが、体積比率で比較すると、酸化物焼結体中のガリウム含有量がGa/(In+Ga)原子数比で10原子%以上35原子%未満であると、上記したようにIn相の結晶粒の体積比率が高いものとなる。このターゲットであれば、通常はターゲット表面にノジュールが発生することはない。しかし、インジウムとガリウムが上記組成範囲の酸化物焼結体であっても、ターゲット表面にノジュールが発生する問題が起こる場合がある。
【0040】
それは、GaInO相ならびに(Ga,In)相が多量に存在する場合である。GaInO相ならびに(Ga,In)相は、In相と比較すると電気抵抗が高く、また複合酸化物特有の強い化学結合を有するため、スパッタリングされにくい。一般的なITOの酸化物焼結体は、平均粒径10μm程度の粗大なIn相の結晶粒で構成されているが、上記組成範囲のインジウムとガリウムを含有する酸化物焼結体が、ITOと同じような粗大な結晶粒で構成された場合は、In相の結晶粒が優先的にスパッタリングされる一方で、GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相の結晶粒のスパッタリングは進行せず、GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相の粗大な結晶粒がターゲット表面に掘れ残ってしまう。この掘れ残りを起点とし、次第にノジュールが成長するようになり、アーキングなどの異常放電が頻発するようになってしまう。
【0041】
上記掘れ残り、すなわちノジュールを抑制するためには、上記組成範囲のインジウムとガリウムを含有する酸化物焼結体の組織を微細化することが必要である。すなわち、該酸化物焼結体中のGaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相の結晶粒を微細分散させることが有効である。そもそもGaInO相ならびに(Ga,In)相は導電体であるため、それ自身が異常放電の原因となることはなく、微細分散されることによってノジュール成長の起点となりにくくなるのである。
【0042】
図1に、GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相の結晶粒を微細分散させた例として、ガリウムがGa/(In+Ga)原子数比で20原子%含まれた酸化物焼結体の走査型電子顕微鏡(SEM)によるSEM像を示す。白色のマトリクス中に、不定形の黒い粒が点在している。EDS(Energy Dispersive Spectroscopy)分析の結果、黒色の結晶粒は、GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相であり、周囲の白色の結晶粒がIn相の結晶粒であることが分かっている。GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相の結晶粒は、平均粒径が5μm以下であり、また、この酸化物焼結体を加工したターゲットを用いると、スパッタリングにおいて掘れ残りを起点としたノジュール発生はほとんど起きなかった。これにより、図1のようにIn相の中にGaInO相が微細分散された組織であればスパッタリングにおけるノジュール抑制に有効であることが明らかである。
【0043】
したがって、ノジュール抑制のためには、GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相からなる結晶粒の平均粒径が5μm以下であることが必要である。さらには、3μm以下に制御されることが好ましい。なお、酸化物焼結体中のガリウム含有量が10原子%未満の場合は、上記したように、In単相構造となるため、本発明のGaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相の微細な結晶粒を分散することによるノジュール抑制方法は有効ではない。
このように酸化物焼結体中のGaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相の分散状態が規定されるとともに、In相との構成比も規定される。本発明の酸化物焼結体における、主相のIn相と分散相のGaInO相の構成比は、前出の(1)式で定義されるX線回折ピーク強度比で8〜58%である。これに対して、本出願人による特許文献4では、透明導電膜製造用焼結体ターゲットのガリウム含有量は、Ga/(In+Ga)原子数比で35原子%以上45原子%以下であり、本発明とは組成範囲が異なっているものの、下記の(2)式で定義されるX線回折ピーク強度比は50〜110%である、すなわち前出の(1)式で定義されるX線回折ピーク強度比に換算すると48〜67%であることが記載されており、本発明とX線回折ピーク強度比範囲が一部重なっている。これは、主に原料粉末の平均粒径の差によって生じたGaInO相の粒径や分散性の違い、および焼結反応における拡散挙動の違いが影響したものと推測される。
I[In相(400)]/I[GaInO相(111)]×100 [%] (2)
(式中、I[In相(400)]は、ビックスバイト型構造をとるIn相の(400)ピーク強度であり、I[GaInO相(111)]は、β−Ga型構造をとる複合酸化物β−GaInO相(111)ピーク強度を示す)
一般に、酸化物焼結体を構成する結晶粒を微細化することによって、強度の向上が図られている。本発明においても、上記焼結体組織を有していることから、投入する直流電力を高めたことにより熱などによる衝撃を受けても、酸化物焼結体が割れにくいものとなる。
【0044】
(II)第二の酸化物焼結体
また、本発明の第二の酸化物焼結体は、インジウムとガリウムを酸化物として含有する酸化物焼結体において、ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、その中にβ−Ga型構造のGaInO相、又はGaInO相と(Ga,In)相が平均粒径5μm以下の結晶粒として微細に分散しており、インジウムとガリウムの他に、さらにスズ、又はゲルマニウムから選ばれる1種以上の添加成分を含有し、ガリウムの含有量がGa/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜30原子%、また、添加成分の含有量が(Sn+Ge)/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比1〜11原子%で、密度が3.4〜5.5g/cmであり、かつ前記の式で定義されるX線回折ピーク強度比が4%〜84%であることを特徴とする。
【0045】
すなわち、本発明においては、インジウムとガリウムを含有する酸化物焼結体には、さらにスズ、ゲルマニウム、シリコン、ニオブ、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、セリウム、モリブデン、又はタングステンから選ばれる1種以上の添加成分を含むことができる。添加成分として、特に有効なのはスズ、ゲルマニウムである。添加成分の含有量は、特に制限されるわけではないが、(Sn+Ge)/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で1〜11原子%であることが好ましい。より好ましい添加成分の含有量は、2〜10原子%である。
【0046】
酸化物焼結体がスズ、ゲルマニウムから選ばれる1種以上の添加成分を含有することによって、酸化物焼結体の比抵抗が低下し成膜速度が向上するだけでなく、形成された透明導電膜の比抵抗がより低下する。この場合、スズ、ゲルマニウムから選ばれる1種以上の含有量は(Sn+Ge)/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で1原子%未満では効果が得られず、11原子%を超えると、かえって本発明の目的を損なうことがある。なお、形成された透明導電膜の低比抵抗化を考慮すると、スズ、ゲルマニウムから選ばれる1種以上の含有量は(Sn+Ge)/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜10原子%であることがより好ましい。また、工業的に有用な低温成膜の条件で、可視域短波長側、すなわち、青色光の吸収を低下させる必要がある場合、スズ、ゲルマニウムから選ばれる1種以上を添加すると上記特性が損なわれる場合がある。低温成膜の場合、形成された非晶質膜のスズ、ゲルマニウムから選ばれる1種以上の一部が光吸収の大きいSnO、GeOとなる場合があると考えられるためである。
上記原子比の範囲のスズ、ゲルマニウムから選ばれる1種以上を含有する場合、ガリウムの含有量はGa/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜30原子%とすることが好ましい。より好ましいガリウムの含有量は、2〜20原子%である。スズ、ゲルマニウムを含有しない場合に比べて、より低Ga原子比が本発明の組成範囲に含まれる理由は、スズ、ゲルマニウムを含有する場合には、同じGa原子比であっても、前記のGaInO相および(Ga,In)相がより多量に形成されるためである。Ga原子比がこの範囲より低い場合には、前記のスズ、ゲルマニウムを含有しない場合と同様に、酸化物焼結体は、ガリウムが固溶したビックスバイト型構造のIn相のみによって構成されるため好ましくない。一方、この範囲を超える場合には、GaInO相、或いはGaInO相および(Ga,In)相が主相となり、In相が分散相となる。これを、例えばスパッタリングターゲットなどに用いて成膜した場合、そもそも懸案となるノジュールの問題は起こらない。また、成膜速度が低下してしまうだけでなく、形成された透明導電膜が低比抵抗を示すことも困難になってしまう。
【0047】
また、上記原子比の範囲のスズ、ゲルマニウムから選ばれる1種以上を含有する場合、すなわち第二の酸化物焼結体においても、第一の酸化物焼結体と同様に、ガリウムが固溶したビックスバイト型構造のIn相を主相とし、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相を分散相とする。しかし、第一の酸化物焼結体と異なる点は、スズ、ゲルマニウムから選ばれる1種以上が添加されることによって、GaInO相に配向性が生じる点である。そのため、X線回折ピーク強度比を前記式(1)ではなく、下式(3)で定義することが好ましい。このとき、下式(3)で定義されるX線回折ピーク強度比が4%〜84%であることが好ましい。
I[GaInO相(−111)]/{I[In相(400)]+I[GaInO相(−111)]}×100 [%] (3)
(式中、I[In相(400)]は、ビックスバイト型構造をとるIn相の(400)ピーク強度であり、I[GaInO相(−111)]は、β−Ga型構造をとる複合酸化物β−GaInO相(−111)ピーク強度を示す)
【0048】
第二の酸化物焼結体では、スズ、ゲルマニウムから選ばれる1種以上がGaInO相に固溶するために、(−111)面が優先的に成長するような配向性が生じるものと推定される。配向性のために、見かけ上、式(3)で定義されるX線回折ピーク強度比がとる値の範囲は、前記式(1)のそれより広くなる。なお、X線回折ピーク強度比が4%未満であると、酸化物焼結体中のGaInO相が少なくなりすぎて透明導電膜による青色光の吸収が大きくなってしまい、一方、84%を超えると形成される透明導電膜の比抵抗が高くなりすぎる、あるいはスパッタリングの際にアーキングが多発するなどの問題が生じるため好ましくない。
また、ノジュール抑制のためには、第二の酸化物焼結体についても、GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相からなる結晶粒の平均粒径が5μm以下であることが必要であり、3μm以下に制御されることがより好ましい点は、第一の酸化物焼結体と同じである。
なお、スズ、ゲルマニウムから選ばれる1種以上が添加することによって、異なる複合酸化物相が多少生じる場合がある。例えば、JCPDSカード51−0204に記載されたGa2.4In5.6Sn16相、JCPDSカード51−0205に記載されたGaInSn16相、あるいはJCPDSカード51−0206に記載されたGa1.6In6.4Sn16相など、一般式Ga3−xIn5+xSn16(0.3<x<1.5)で表される正方晶の複合酸化物相などが挙げられる。これら複合酸化物相の導電性などの諸特性は、In相には及ばないものの、GaInO相と同等の特性を有しているため、酸化物焼結体中に若干量が分散していても、スパッタリングなどの成膜においては何ら問題ない。また、形成された透明導電膜も同等の諸特性を示し、何ら問題ない。当然ながら、酸化物焼結体中におけるこれら複合酸化物相の結晶粒の平均粒径は、ノジュール抑制のために、GaInO相と同様に、5μm以下であることが必要であり、3μm以下に制御されることがより好ましい。
【0049】
また、本発明の酸化物焼結体は、実質的にZnを含まないことが望ましい。亜鉛を含んだ場合、これを原料として形成される透明導電膜の可視光の吸収が大きくなってしまうためである。低温成膜の場合、透明導電膜中で亜鉛が金属のような状態で存在するためと考えられる。
なお、スズ、ゲルマニウム、および亜鉛について述べたが、これらをはじめ、例えば、シリコン、ニオブ、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、セリウム、モリブデン、タングステン、さらにはイリジウム、ルテニウム、レニウムなどが、不純物元素として含まれていても差し支えない。
【0050】
2.酸化物焼結体の製造方法
本発明の酸化物焼結体の製造方法は、酸化インジウム粉末と酸化ガリウム粉末を含む原料粉末を混合するか、この原料粉末に酸化スズ粉末及び/又は酸化ゲルマニウム粉末を添加して混合した後、混合粉末を成形し、成形物を常圧焼成法によって特定の温度で焼結するか、あるいは混合粉末をホットプレス法によって成形し焼結する酸化物焼結体の製造方法であって、原料粉末の平均粒径を1μm以下とすることにより、ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、その中にGaInO相、またはGaInO相と(Ga,In)相からなる平均粒径5μm以下の結晶粒が微細分散した酸化物焼結体とすることを特徴とする。
【0051】
すなわち、上記の相構成ならびに各相の組成を有する酸化物焼結体の性能は、酸化物焼結体の製造条件、例えば原料粉末の粒径、混合条件および焼成条件に大きく依存する。
本発明の酸化物焼結体は、平均粒径1μm以下に調整した酸化インジウム粉末および酸化ガリウム粉末を原料粉末として用いることが必要である。本発明の酸化物焼結体の組織としては、In相が主相となり、GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相からなる結晶粒の平均粒径が5μm以下である組織がともに存在する必要がある。GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相からなる結晶粒は主相中に微細に分散しており、平均粒径が3μm以下である組織がより好ましい。なお、第二の酸化物焼結体に生じる可能性のある別の複合酸化物、例えば、Ga2.4In5.6Sn16相、GaInSn16相およびGa1.6In6.4Sn16相なども、同様の微細組織であることが好ましい。
【0052】
このような微細な組織を形成するためには、原料粉末の平均粒径を1μm以下に調整することが必要である。平均粒径1μmを超えた酸化インジウム粉末や酸化ガリウム粉末を原料粉末に用いると、得られる酸化物焼結体中に主相となるIn相とともに存在するGaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相からなる結晶粒の平均粒径が5μmを超えてしまう。前記の通り、GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相の平均粒径が5μmを超える大きな結晶粒は、スパッタリングされにくいのでスパッタリングを続けると、ターゲット表面の比較的大きな残留物となり、これがノジュールの起点となって、アーキングなど異常放電の原因となってしまう。前記特許文献4には、GaInO相、あるいはGaInO相と(Ga,In)相からなる結晶粒の存在が示されているが、結晶粒の組織とノジュールの抑制の関係には着目していない。
【0053】
酸化インジウム粉末は、ITO(インジウム−スズ酸化物)の原料であり、焼結性に優れた微細な酸化インジウム粉末の開発は、ITOの改良とともに進められてきた。そして、現在でもITO用原料として大量に使用されているため、平均粒径1μm以下の原料粉末を入手することは容易である。ところが、酸化ガリウム粉末の場合、酸化インジウム粉末に比べて使用量が少ないため、平均粒径1μm以下の原料粉末を入手することは困難である。したがって、粗大な酸化ガリウム粉末を平均粒径1μm以下まで粉砕することが必要である。また、第二の酸化物焼結体を得るために添加される酸化スズ粉末や酸化ゲルマニウム粉末の状況は、それぞれ酸化インジウム粉末、酸化ガリウムの場合と同様の状況にあり、酸化ゲルマニウムについては粗大な粉末を平均粒径1μm以下に粉砕する必要がある。
本発明の酸化物焼結体を得るためには、酸化インジウム粉末と酸化ガリウム粉末を含む原料粉末を混合した後、混合粉末を成形し、成形物を常圧焼成法によって焼結するか、あるいは混合粉末をホットプレス法によって成形し焼結する。常圧焼成法は、簡便かつ工業的に有利な方法であって好ましい手段であるが、必要に応じてホットプレス法も用いることができる。
【0054】
常圧焼成法を用いる場合、まず成形体を作製する。原料粉末を樹脂製ポットに入れ、バインダー(例えば、PVA)などともに湿式ボールミル等で混合する。本発明の、主相となるIn相とともに存在する、GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相からなる結晶粒の平均粒径が5μm以下であり、結晶粒が微細分散した酸化物焼結体を得るためには、上記ボールミル混合を18時間以上行うことが好ましい。この際、混合用ボールとしては、硬質ZrOボールを用いればよい。混合後、スラリーを取り出し、濾過、乾燥、造粒を行う。その後、得られた造粒物を、冷間静水圧プレスで9.8MPa(0.1ton/cm)〜294MPa(3ton/cm)程度の圧力をかけて成形し、成形体とする。
常圧焼成法の焼結工程では、酸素の存在する雰囲気において所定の温度範囲に加熱する。温度範囲は、焼結体をスパッタリング用とするかイオンプレーティング用とするかによって決定する。スパッタリング用であれば、1250〜1450℃、より好ましくは焼結炉内の大気に酸素ガスを導入する雰囲気において1300〜1400℃で焼結する。焼結時間は10〜30時間であることが好ましく、より好ましくは15〜25時間である。
一方、本発明のイオンプレーティング用では、成形体を酸素の存在する雰囲気において、1000〜1200℃で10〜30時間焼結する。より好ましくは焼結炉内の大気に酸素ガスを導入する雰囲気において1000〜1100℃で焼結する。焼結時間は15〜25時間であることが好ましい。
【0055】
焼結温度を上記範囲とし、前記の平均粒径1μm以下に調整した酸化インジウム粉末および酸化ガリウム粉末を原料粉末として用いることで、In相マトリックス中に、結晶粒の平均粒径が5μm以下、より好ましくは3μm以下のGaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相からなる結晶粒が微細分散した緻密な酸化物焼結体を得ることが可能である。
焼結温度が低すぎると焼結反応が十分進行しない。特に密度6.0g/cm以上の酸化物焼結体を得るためには、1250℃以上が望ましい。一方、焼結温度が1450℃を超えると、(Ga,In)相の形成が著しくなり、In相およびGaInO相の体積比率が減少し、酸化物焼結体を上記の微細分散した組織に制御することが困難となる。
焼結雰囲気は、酸素の存在する雰囲気が好ましく、焼結炉内の大気に酸素ガスを導入する雰囲気であれば、なお一層好ましい。焼結時の酸素の存在によって、酸化物焼結体の高密度化が可能となる。焼結温度まで昇温する場合、焼結体の割れを防ぎ、脱バインダーを進行させるためには、昇温速度を0.2〜5℃/分の範囲とすることが好ましい。また、必要に応じて、異なる昇温速度を組み合わせて、焼結温度まで昇温してもよい。昇温過程において、脱バインダーや焼結を進行させる目的で、特定温度で一定時間保持してもよい。焼結後、冷却する際は酸素導入を止め、1000℃までを0.2〜5℃/分、特に、0.2℃/分以上1℃/分未満の範囲の降温速度で降温することが好ましい。
【0056】
本発明においてホットプレス法を採用する場合、混合粉末を不活性ガス雰囲気又は真空中において、2.45〜29.40MPaの圧力下、700〜950℃で1〜10時間成形し焼結する。ホットプレス法は、上記の常圧焼成法と比較して、酸化物焼結体の原料粉末を還元雰囲気下で成形、焼結するため、焼結体中の酸素含有量を低減させることが可能である。しかし、950℃を超える高温では酸化インジウムが還元され、金属インジウムとして溶融するため注意が必要である。
本発明のホットプレス法による酸化物焼結体の製造条件の一例を挙げる。すなわち、平均粒径1μm以下の酸化インジウム粉末ならびに平均粒径1μm以下の酸化ガリウム粉末、あるいは、さらに平均粒径1μm以下の酸化スズ粉末や平均粒径1μm以下の酸化ゲルマニウム粉末を原料粉末とし、これらの粉末を、所定の割合になるように調合する。
調合した原料粉末を、常圧焼成法のボールミル混合と同様、好ましくは混合時間を18時間以上とし、十分混合し造粒までを行う。次に、造粒した混合粉末をカーボン容器中に給粉してホットプレス法により焼結する。焼結温度は700〜950℃、圧力は2.45MPa〜29.40MPa(25〜300kgf/cm)、焼結時間は1〜10時間程度とすればよい。ホットプレス中の雰囲気は、アルゴン等の不活性ガス中または真空中が好ましい。
【0057】
スパッタリング用ターゲットを得る場合、より好ましくは、焼結温度は800〜900℃、圧力は9.80〜29.40MPa(100〜300kgf/cm)、焼結時間は1〜3時間とすればよい。また、本発明のイオンプレーティング用タブレットを得る場合、焼結温度は700〜800℃、圧力は2.45〜9.80MPa(25〜100kgf/cm)、焼結時間は1〜3時間とする。
【0058】
なお、前記特許文献2では、酸化物焼結体の作製条件について、GaおよびInの各粉末をそれぞれ33.0、67モル%のモル分率で均一に混合した後、アルゴン中1000℃で5時間焼成した旨(参考例1)記載されている。ところがGaおよびIn粉末の平均粒径の記載はなく、1000℃の比較的低温で焼成している。このようにして製造されたターゲットでは、焼結が進行せず低密度となるため、スパッタリングにおいて高い直流電力を投入するとアーキングが多発する。また、特にGa粉末を微細な粉末に調整するなどの記載がないことから、平均粒径1μmを超える粗大な粉末を用いていることが推測され、その場合には、原料となる酸化物焼結体の組織が、GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相からなる結晶粒が平均粒径5μmを大幅に越えることになり、成膜速度を高めたスパッタリングによってノジュールが発生する。
【0059】
3.ターゲット
本発明のターゲットは、上記酸化物焼結体を所定の大きさに切断、表面を研磨加工し、バッキングプレートに接着して得ることができる。本発明におけるターゲットは、イオンプレーティング用タブレットである。
スパッタリング用ターゲットの場合、密度が6.3g/cm以上であることが好ましい。密度が6.3g/cm未満である場合、クラックや割れ、ノジュール発生の原因となる。また、本発明ではイオンプレーティング用タブレットとして用いるので、密度が3.4〜5.5g/cmに制御される。3.4g/cmを下回ると、焼結体自体の強度が劣るため、僅かな局所的熱膨張に対してもクラックや割れが起こりやすくなる。密度が5.5g/cmを上回ると、電子ビーム投入時に局部に発生した応力や歪みを吸収することができずに、クラックが生じやすくなる。
【0060】
上記酸化物焼結体の製造方法において、スパッタリング用ターゲットとイオンプレーティング用タブレットとで焼成条件が異なるのは、このためである。スパッタリング用では、常圧焼成法を採用し、成形体を酸素の存在する雰囲気において、1250〜1450℃で10〜30時間焼結するか、あるいはホットプレス法を採用し、混合粉末を不活性ガス雰囲気又は真空中において、2.45〜29.40MPaの圧力下、700〜950℃で1〜10時間成形し焼結することが好ましい。また、イオンプレーティング用では、常圧焼成法を採用し、成形体を酸素の存在する雰囲気において、1000〜1200℃で10〜30時間焼結して、密度範囲を上記の通りスパッタリング用ターゲットよりも低くすることが好ましい。
【0061】
4.インジウムとガリウムを含有する透明導電膜とその成膜方法
本発明の透明導電膜は、上記ターゲットを用いて、イオンプレーティング法で基板上に形成して得られる非晶質の透明導電膜である。
【0062】
本発明の透明導電膜には、ガリウムの含有量がGa/(In+Ga)原子数比で10原子%以上35原子%未満であるもの(以下、これを第一の透明導電膜という)と、インジウムとガリウムのほかに、さらにスズ、又はゲルマニウムから選ばれる1種以上を含有し、ガリウムの含有量がGa/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜30原子%であり、かつ、スズ、又はゲルマニウムから選ばれる1種以上の含有量が(Sn+Ge)/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で1〜11原子%であるもの(以下、これを第二の透明導電膜という)の二種類がある。
【0063】
透明導電膜を成膜するスパッタリング法等では、成膜速度を向上させるために、投入する直流電力を高めることが一般的に行われている。本発明において、インジウムとガリウムを含有する第一の酸化物焼結体は、上記の通り、該酸化物焼結体中のIn相とGaInO相、あるいは、In相とGaInO相と(Ga,In)相の結晶粒が微細化されており、酸化物焼結体中のガリウム含有量がGa/(In+Ga)原子数比で10〜30原子%、また、第二の酸化物焼結体は、ガリウムの含有量がGa/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜30原子%であり、かつ、スズ、又はゲルマニウムから選ばれる1種以上の含有量が(Sn+Ge)/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で1〜11原子%である。
GaInO相と(Ga,In)相が、In相の中に微細分散されているので、ノジュール成長の起点となりにくくなっており、投入する直流電力を高めても、ノジュール発生は抑制され、その結果アーキングなどの異常放電を抑え込むことが可能である。
【0064】
本発明の透明導電膜をスパッタリング法で基板上に形成する場合、特に、直流(DC)スパッタリング法であれば、成膜時の熱影響が少なく、高速成膜が可能であるため工業的に有利である。本発明の透明導電膜を直流スパッタリング法で形成するには、スパッタリングガスとして不活性ガスと酸素、特にアルゴンと酸素からなる混合ガスを用いることが好ましい。また、スパッタリング装置のチャンバー内を0.1〜1Pa、特に0.2〜0.8Paの圧力として、スパッタリングすることが好ましい。
本発明においては、例えば、2×10−4Pa以下まで真空排気後、アルゴンと酸素からなる混合ガスガスを導入し、ガス圧を0.2〜0.5Paとし、ターゲットの面積に対する直流電力、すなわち直流電力密度が1〜3W/cm程度の範囲となるよう直流電力を印加して直流プラズマを発生させ、プリスパッタリングを実施することができる。このプリスパッタリングを5〜30分間行った後、必要により基板位置を修正したうえでスパッタリングすることが好ましい。
本発明では、基板を加熱せずに室温で成膜できるが、基板を50〜300℃、特に80〜200℃に加熱することもできる。基板が樹脂板、樹脂フィルムなど低融点のものである場合は加熱しないで成膜することが望ましい。上記本発明の酸化物焼結体から作製したスパッタリングターゲットを用いれば、光学特性、導電性に優れた透明導電膜を、直流スパッタリング法によって、比較的高い成膜速度で、基板上に製造することができる。
【0065】
また、上記酸化物焼結体から作製したイオンプレーティング用のタブレット(ペレットとも呼ぶ。)を用いた場合にも同様の透明導電膜の形成が可能である。前述したように、イオンプレーティング法では、蒸発源となるタブレットに、電子ビームやアーク放電による熱などを照射すると、照射された部分は局所的に高温になり、蒸発粒子が蒸発して基板に堆積される。このとき、蒸発粒子を電子ビームやアーク放電によってイオン化する。イオン化する方法には、様々な方法があるが、プラズマ発生装置(プラズマガン)を用いた高密度プラズマアシスト蒸着法(HDPE法)は、良質な透明導電膜の形成に適している。この方法では、プラズマガンを用いたアーク放電を利用する。該プラズマガンに内蔵されたカソードと蒸発源の坩堝(アノード)との間でアーク放電が維持される。カソードから放出される電子を磁場偏向により坩堝内に導入して、坩堝に仕込まれたタブレットの局部に集中して照射する。この電子ビームによって、局所的に高温となった部分から、蒸発粒子が蒸発して基板に堆積される。気化した蒸発粒子や反応ガスとして導入されたOガスは、このプラズマ内でイオン化ならびに活性化されるため、良質な透明導電膜を作製することができる。
【0066】
本発明の透明導電膜は、本発明の酸化物焼結体を加工することにより作製したタブレットを用いて、上記のようにイオンプレーティング法によって作製され、基板温度によらず非晶質状態で存在する。
一般に、ITO膜は、室温で非晶質であっても、基板温度を200℃程度とした場合、結晶質となる。しかし、本発明の透明導電膜は、基板温度を300℃としても非晶質を維持している。高温でも非晶質が維持される理由として、原料である本発明の酸化物焼結体中に、5μm以下、好ましくは3μm以下に微細分散されたGaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相が存在することが考えられる。本発明の透明導電膜中には、これらの微細分散した複合酸化物相に由来する非晶質部分とIn相に由来する非晶質部分が混在しているものと考えられる。前者は400℃を超える高温でも簡単には結晶化しないため、本来結晶化しやすい後者も結晶化できないものと推察される。
【0067】
本発明の透明導電膜は、上記のように非晶質膜であるため、膜の表面粗さを表す算術平均高さRaは1.0nm以下であり、非常に平坦である。このように表面が平坦である膜は、膜の凹凸によるリークを嫌う有機ELなどの用途に好適である。また、非晶質の透明導電膜は、ウェットエッチングにおいて残渣が発生しないという利点がある。したがって、透明導電膜の配線パターニングの細線化が進む液晶デバイスのTFT用途などにおいては、特に有用である。
本発明の透明導電膜の膜厚は、用途によって異なるので特に規定できないが、10〜500nm、好ましくは50〜300nmである。10nm未満であると十分な比抵抗が確保できず、一方、500nmを超えると膜の着色の問題が生じてしまうので好ましくない。
また、本発明の透明導電膜の可視域(400〜800nm)での平均透過率は80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。平均透過率が80%未満であると有機EL素子などへの適用が困難となる。
【0068】
本発明の透明導電膜は、特に可視域短波長側での光の吸収が小さく、透過率が高い。通常、室温で成膜されたITO膜は、波長400nm付近より短波長側で吸収が大きくなり、波長400nmにおける消衰係数は0.04を超える。これに対して、本発明の透明導電膜は、波長400nmにおいて0.04以下を示し、第一の透明導電膜で、ガリウム含有量がGa/(In+Ga)原子数比で20原子%以上35原子%未満の場合には0.03以下となる。したがって、波長400nm程度の光を出力する青色LEDの透明電極として好適である。
【0069】
一般に、透明導電膜を幅広い用途で使用するためには、比抵抗が2×10−3Ω・cm以下であることが好ましい。上記の液晶デバイスや青色LEDなどの用途では、1×10−3Ω・cm未満であることが要求される。本発明のインジウムとガリウムを含有する酸化物焼結体を用いて得られる透明導電膜の比抵抗は、In成分が増加することにより低下する。本発明の透明導電膜は、2×10−3Ω・cm以下の比抵抗を示すため、様々なデバイスに適用することが可能である。さらに、第一の透明導電膜で、ガリウム含有量がGa/(In+Ga)原子数比で10〜25原子%の組成範囲では、1×10−3Ω・cm未満の比抵抗を示し、また、第二の透明導電膜で、ガリウムの含有量がGa/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜20原子%であり、かつ、添加成分の含有量が(Sn+Ge)/(In+Ga+Sn+Ge)原子数比で2〜10原子%である場合には、同様に1×10−3Ω・cm未満の比抵抗を示し、上記の可視域短波長側での光学特性の優位性も有することから、特に青色LEDなどの用途で有用である。
【0070】
5.透明導電性基材
本発明の透明導電性基材は、透明基板の片面若しくは両面に、上記透明導電膜が形成されている。透明基板は、通常、ガラス板、石英板、樹脂板または樹脂フィルムから選択される。
【0071】
この透明導電性基材は、前記の透明導電膜をLCD、PDP、或いはEL素子などの表示パネルの陽極及び/または陰極として機能させるものである。基材としては、光透過性の支持体を兼ねることから、一定の強度と透明性を有する必要がある。
樹脂板もしくは樹脂フィルムを構成する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリカーボネート(PC)などが挙げられ、これらの表面にアクリル樹脂が被覆された構造の樹脂板もしくは樹脂フィルムでもよい。
【0072】
基材の厚さは、特に限定されるわけではないが、ガラス板や石英板であれば、0.5〜10mm、好ましくは1〜5mmであり、樹脂板または樹脂フィルムの場合は、0.1〜5mm、好ましくは1〜3mmとされる。この範囲よりも薄いと強度が弱く取り扱いも難しい。一方、この範囲よりも厚いと透明性が悪いだけでなく重量が大きくなり好ましくない。
上記基材には、単層または多層からなる絶縁層、半導体層、ガスバリア層又は保護層のいずれかを形成することができる。絶縁層としては、酸化珪素(Si−O)膜または窒化酸化珪素(Si−O−N)膜などがあり、半導体層としては、薄膜トランジスター(TFT)などがあり主にガラス基板に形成され、ガスバリア層は、水蒸気バリア膜などとして、酸化珪素(Si−O)膜、窒化酸化珪素(Si−O−N)膜、アルミニウム酸マグネシウム(Al−Mg−O)膜、または酸化スズ系(例えば、Sn−Si−O)膜などが樹脂板もしくは樹脂フィルムに形成される。保護層は、基材の表面を傷や衝撃から守るためのものであり、Si系、Ti系、アクリル樹脂系など各種コーテングが使用される。なお、基材に形成しうる層はこれらに限定されず、導電性を有する薄い金属膜などを施すこともできる。
本発明によって得られる透明導電性基材は、比抵抗、光透過率、表面平坦性などの面で優れた特性をもつ透明導電膜が成膜されているため、各種の表示パネルの構成部品として極めて有用である。また、上記透明導電性基材を備えた電子回路実装部品としては、有機EL素子の他にレーザー部品などを挙げることができる。
【実施例】
【0073】
以下に、本発明の実施例を用いて、さらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例によって限定されるものではない。
【0074】
<酸化物焼結体の評価>
得られた酸化物焼結体の端材を用いて、アルキメデス法で焼結体密度を求めた。続いて端材の一部を粉砕し、X線回折装置(フィリップス製)を用いて粉末法による生成相の同定を行った。そして、インジウムとガリウムを酸化物として含有する酸化物焼結体については下記の式(1)で、定義されるX線回折ピーク強度比を求めた。
I[GaInO相(111)]/{I[In相(400)]+I[GaInO相(111)]}×100 [%] (1)
ただし、インジウムとガリウムのほかに、さらにスズ、又はゲルマニウムから選ばれる1種以上の添加成分を含有する酸化物焼結体(参考例8、11〜15)については、下記の式(3)で定義されるX線回折ピーク強度比を求めた。
I[GaInO相(−111)]/{I[In相(400)]+I[GaInO相(−111)]}×100 [%] (3)
(式中、I[In相(400)]は、ビックスバイト型構造をとるIn相の(400)ピーク強度であり、I[GaInO相(111)]あるいはI[GaInO相(−111)]は、β−Ga型構造をとる複合酸化物β−GaInO相(111)あるいは(―111)ピーク強度を示す)
粉末の一部を用いて、酸化物焼結体のICP発光分光法による組成分析を行った。さらに、SEM(カールツァイス製)を用いて、酸化物焼結体の組織観察を行った。SEM像の画像解析結果から、GaInO相からなる結晶粒の平均粒径を求めた。
【0075】
<透明導電膜の基本特性評価>
得られた透明導電膜の組成をICP発光分光法によって調べた。透明導電膜の膜厚は表面粗さ計(テンコール社製)で測定した。成膜速度は、膜厚と成膜時間から算出した。膜の比抵抗は、四探針法によって測定した表面抵抗と膜厚の積から算出した。膜の生成相は、酸化物焼結体同様、X線回折測定によって同定した。また、消衰係数を分光エリプソメーター(J.A.Woolam製)によって測定し、特に青色光の吸収特性を評価するため、波長400nmの消衰係数を比較した。
【0076】
(参考例1)
酸化インジウム粉末および酸化ガリウム粉末を平均粒径1μm以下となるよう調整して原料粉末とした。ガリウム含有量がGa/(In+Ga)で表される原子数比で10原子%となるようにこれらの粉末を調合し、水とともに樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミルで混合した。この際、硬質ZrOボールを用い、混合時間を18時間とした。混合後、スラリーを取り出し、濾過、乾燥、造粒した。造粒物を、冷間静水圧プレスで3ton/cmの圧力をかけて成形した。
次に、成形体を次のように焼結した。炉内容積0.1m当たり5リットル/分の割合で、焼結炉内の大気に酸素を導入する雰囲気で、1400℃の焼結温度で20時間焼結した。この際、1℃/分で昇温し、焼結後の冷却の際は酸素導入を止め、1000℃までを10℃/分で降温した。
得られた酸化物焼結体を、直径152mm、厚み5mmの大きさに加工し、スパッタリング面をカップ砥石で最大高さRzが3.0μm以下となるように磨いた。加工した酸化物焼結体を、無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングして、スパッタリングターゲットとした。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および(Ga,In)相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO相(111)のX線回折ピーク強度比は、8%であった。
酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.97g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO相の平均粒径は2.9μmであった。
次に、アーキング抑制機能のない直流電源を装備した直流マグネトロンスパッタリング装置(アネルバ製)の非磁性体ターゲット用カソードに、上記スパッタリングターゲットを取り付けた。基板には、無アルカリのガラス基板(コーニング♯7059)を用い、ターゲット−基板間距離を60mmに固定した。1×10−4Pa未満まで真空排気後、アルゴンと酸素の混合ガスを酸素の比率が1.5%になるように導入し、ガス圧を0.5Paに調整した。なお、上記の酸素の比率1.5%において、最も低い比抵抗を示した。
直流電力200W(1.10W/cm)を印加して直流プラズマを発生させ、スパッタリングを実施した。投入した直流電力とスパッタリング時間の積から算出される積算投入電力値12.8kwh到達まで、直流スパッタリングを継続的に実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を行った。10分間のプリスパッタリング後、スパッタリングターゲットの直上、すなわち静止対向位置に基板を配置し、加熱せずに室温でスパッタリングを実施して、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、93nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、4.9×10−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.03198であった。以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0077】
(参考例2)
ガリウム含有量をGa/(In+Ga)で表される原子数比で20原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例1と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および(Ga,In)相で構成されていることが確認された。次に、図2に酸化物焼結体のX線回折図を示す。前記式(1)で表されるGaInO相(111)のX線回折ピーク強度比は、30%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.84g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO相の平均粒径は2.6μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。図3に、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数を示した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、86nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、7.8×10−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.02769であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0078】
(参考例3)
ガリウム含有量をGa/(In+Ga)で表される原子数比で25原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例1と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および(Ga,In)相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO相(111)のX線回折ピーク強度比は、39%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.77g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO相の平均粒径は2.5μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、86nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、8.8×10−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.02591であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0079】
(参考例4)
ガリウム含有量をGa/(In+Ga)で表される原子数比で30原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例1と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および(Ga,In)相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO相(111)のX線回折ピーク強度比は、49%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.70g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO相の平均粒径は2.8μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、84nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、1.4×10−3Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.02361であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0080】
(参考例5)
ガリウム含有量をGa/(In+Ga)で表される原子数比で34原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例1と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および(Ga,In)相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO相(111)のX線回折ピーク強度比は、58%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.63g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO相の平均粒径は4.1μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、81nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、2.0×10−3Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.02337であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0081】
(参考例6)
焼結温度を1250℃に変更した以外には条件を変えず、参考例2と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および(Ga,In)相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO相(111)のX線回折ピーク強度比は28%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.33g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO相の平均粒径は2.4μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、83nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、9.1×10−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.02743であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0082】
(参考例7)
焼結温度を1450℃に変更した以外には条件を変えず、参考例2と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および(Ga,In)相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO相(111)のX線回折ピーク強度比は、31%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.88g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO相の平均粒径は3.3μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、87nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、8.0×10−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.02776であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0083】
(参考例8)
参考例2と同様のガリウム原子数比、すなわちGa/(In+Ga+Sn)で表される原子数比を20原子%とし、さらに添加成分として、平均粒径1μm以下の酸化スズ粉末をSn/(In+Ga+Sn)で表される原子数比で6原子%添加した以外には条件を変えず、参考例2と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および(Ga,In)相で構成されていることが確認された。前記式(3)で表されるGaInO相(111)のX線回折ピーク強度比は、51%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.71g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO相の平均粒径は2.9μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、89nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、9.1×10−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.03482であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。なお、酸化スズ粉末の代わりに酸化ゲルマニウム粉末を用いた場合、あるいは、酸化スズ粉末と酸化ゲルマニウム粉末を同時に用いた場合でも、ほぼ同じ結果が得られることを確認した。
【0084】
(実施例1)
成膜方法をイオンプレーティング法に変更し、参考例2と同様の組成の酸化物焼結体からなるタブレットを用いて、成膜を実施した。
酸化物焼結体の作製方法は、参考例2のスパッタリングターゲットの場合とほぼ同様の作製方法であるが、先に述べたように、イオンプレーティング用のタブレットとして用いる場合には、密度を低くする必要があるため、焼結温度を1100℃とした。タブレットは、焼結後の寸法が、直径30mm、高さ40mmとなるよう、予め成形した。得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および(Ga,In)相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO相(111)のX線回折ピーク強度比は、27%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、4.79g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO相の平均粒径は2.1μmであった。
このような酸化物焼結体をタブレットとして用い、イオンプレーティング法によるプラズマガンを用いた放電をタブレットが使用不可となるまで継続した。イオンプレーティング装置として、高密度プラズマアシスト蒸着法(HDPE法)が可能な反応性プラズマ蒸着装置を用いた。成膜条件としては、蒸発源と基板間距離を0.6m、プラズマガンの放電電流を100A、Ar流量を30sccm、O流量を10sccmとした。タブレットが使用不可となるまでの間、スプラッシュなどの問題は起こらなかった。
タブレット交換後、成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、タブレットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度は122nm/minが得られ、ITO相当の高速成膜が可能であることがわかった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、6.5×10−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.02722であった。以上のタブレット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0085】
(参考例9)
厚さ100μmのPES(ポリエーテルスルホン)フィルム基板上に、予め厚さ100nmの酸化窒化シリコン膜をガスバリア膜として形成し、該ガスバリア膜上に参考例2と同様の工程で膜厚100nmのインジウムとガリウムを含有する酸化物からなる透明導電膜を形成し、透明度導電性基材を作製した。
得られた透明度導電性基材を調べたところ、参考例2と同様に形成された透明導電膜は非晶質であり、比抵抗は7.5×10−4Ωcm、可視域の平均透過率は85%以上を示したことから、良好な特性が得られたことが確認された。
【0086】
(参考例10)
参考例8のガリウム含有量、すなわちGa/(In+Ga+Sn)で表される原子数比2原子%に変更し、ならびにスズをSn/(In+Ga+Sn)で表される原子数比で10原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例8と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および(Ga,In)相で構成されていることが確認された。前記式(3)で表されるGaInO相(−111)のX線回折ピーク強度比は、4%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.87g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO相の平均粒径は2.8μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、92nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、5.2×10−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.03891であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。なお、酸化スズ粉末の代わりに酸化ゲルマニウム粉末を用いた場合、あるいは、酸化スズ粉末と酸化ゲルマニウム粉末を同時に用いた場合でも、ほぼ同じ結果が得られることを確認した。
【0087】
(参考例11)
参考例8のガリウム含有量、すなわちGa/(In+Ga+Sn)で表される原子数比を5原子%に変更し、ならびにスズをSn/(In+Ga+Sn)で表される原子数比で10原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例8と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および(Ga,In)相で構成されていることが確認された。前記式(3)で表されるGaInO相(−111)のX線回折ピーク強度比は、7%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.90g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO相の平均粒径は2.7μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、92nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、5.0×10−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.03711であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0088】
(参考例12)
参考例8のガリウム含有量、すなわちGa/(In+Ga+Sn)で表される原子数比を10原子%に変更し、ならびにスズをSn/(In+Ga+Sn)で表される原子数比で10原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例8と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および(Ga,In)相で構成されていることが確認された。また、前記式(3)で表されるGaInO相(−111)のX線回折ピーク強度比は、48%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.99g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO相の平均粒径は2.5μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、90nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、6.4×10−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.03663であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0089】
(参考例13)
参考例8のガリウム含有量、すなわちGa/(In+Ga+Sn)で表される原子数比を15原子%に変更し、ならびにスズをSn/(In+Ga+Sn)で表される原子数比で2原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例8と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および(Ga,In)相で主に構成されていることが確認された。また、微弱ではあるが、一部、GaInSn16相の存在も確認された。前記式(3)で表されるGaInO相(−111)のX線回折ピーク強度比は、32%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、7.01g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO相の平均粒径は2.6μmであった。また、GaInSn16相の結晶粒径が3μm以下であることを確認した。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、89nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、6.2×10−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.03402であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0090】
(参考例14)
参考例8のガリウム含有量、すなわちGa/(In+Ga+Sn)で表される原子数比を30原子%に変更し、ならびにスズをSn/(In+Ga+Sn)で表される原子数比で3原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例8と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および(Ga,In)相で構成されていることが確認された。前記式(3)で表されるGaInO相(−111)のX線回折ピーク強度比は、84%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.71g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO相の平均粒径は2.8μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、85nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、1.8×10−3Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.03213であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0091】
(参考比較例1)
ガリウム含有量をGa/(In+Ga)で表される原子数比で3原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例1と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。酸化物焼結体の密度を測定したところ、7.06g/cmであった。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相のみで構成されていることが確認された。すなわち、この組成では、本発明の実質的にガリウムが固溶したビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および/または(Ga,In)相で構成されている酸化物焼結体が得られないことが判明した。したがって、これ以上のターゲット評価は実施せず、直流スパッタリングによる成膜のみを実施することとした。
直流スパッタリングによって得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、86nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、8.3×10−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.04188であった。以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0092】
(参考比較例2)
ガリウム含有量をGa/(In+Ga)で表される原子数比で40原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例1と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および(Ga,In)相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO相(111)のX線回折ピーク強度比は74%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.54g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO相の平均粒径は4.2μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達経過まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(直流電力密度1.1〜3.3W/cm)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、62nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、3.5×10−3Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.01811であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0093】
(参考比較例3)
平均粒径約3μmの酸化インジウム粉末および酸化ガリウム粉末を用いた以外には条件を変えず、参考例2と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および(Ga,In)相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO相(111)のX線回折ピーク強度比は、42%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.23g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO相の平均粒径は5.8μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。スパッタリングを開始してから、しばらくアーキングは起こらなかったが、積算時間到達が近くなると、しだいにアーキングが起こるようになった。積算時間到達後、ターゲット表面を観察したところ、多数のノジュールの生成が確認された。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。図3に、参考例2とともに、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数を示した。図3より、直流電力増加とともにアーキングが頻発するようになっていることは明らかである。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリングによる成膜を行った。成膜中、しばしばアーキングが起こった。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、71nm/minであった。次に、膜の生成相をX線回折測定によって同定したところ、非晶質であった。膜の比抵抗を測定したところ、4.1×10−3Ωcmであった。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.03323であった。以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0094】
(参考比較例4)
焼結温度を1000℃に変更した以外には条件を変えず、参考例2と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、および(Ga,In)相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO相(111)のX線回折ピーク強度比は、26%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、5.73g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO相の平均粒径は2.1μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリングを実施した。スパッタリングを開始してから、早期にアーキングが起こり、積算投入電力値12.8kWh到達まで、スパッタリングを継続することが不可能となった。ターゲット表面を観察したところ、クラックの発生が確認された。そこで、アーキング発生回数の測定を断念し、低電力での直流スパッタリングを試みた。投入電力が30W程度まではスパッタリング可能であったが、50Wを超えるとアーキングが発生するようになった。よって、実際の膜形成は不可能であると判断された。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0095】
(参考比較例5)
市販のITOターゲット(In−10wt%SnO、住友金属鉱山製)を用いて、直流スパッタリングによる成膜を行った。ITOターゲットの密度を測定したところ、7.11g/cmであった。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、92nm/minであった。次に、膜の生成相をX線回折測定によって同定したところ、非晶質であった。膜の比抵抗を測定したところ、4.9×10−4Ωcmであった。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.04308であった。以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0096】
【表1】
【0097】
「評価」
参考例1〜7より、平均粒径1μm以下に調整した酸化インジウム粉末および酸化ガリウム粉末を用いて、ガリウム含有量をGa/(In+Ga)原子数比で10原子%以上35原子%未満の範囲とし、焼結温度1250〜1400℃にて焼結した酸化物焼結体は、ガリウムが固溶したビックスバイト型構造のIn相と、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、あるいは、ガリウムが固溶したビックスバイト型構造のIn相と、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相と、(Ga,In)相で構成されることが確認された。また、In相(400)とGaInO相(111)とのX線回折ピーク強度比は、8%〜58%であって、GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相からなる結晶粒の平均粒径が5μm以下である微細分散組織が得られることが確認された。
【0098】
特に、参考例1〜4および6では、GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相からなる結晶粒が平均粒径3μm以下のより微細分散された組織となった。また、焼結体密度は6.3g/cm以上であり、いずれも高密度を示した。これらの酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして、直流スパッタリングを実施したところ、長時間の連続スパッタリング後でもスパッタリングの掘れ残りを起点としたノジュールの発生はみられず、直流電力200〜600W(1.10〜3.29W/cm)の範囲で変化させてもアーキングが発生しないことが明らかとなった。
参考例1〜7での成膜速度は81〜93nm/minであり、参考比較例5のITOの成膜速度92nm/minと比較しても遜色なかった。得られた透明導電膜の比抵抗は、2×10−3Ω・cm以下と良好であり、特に参考例1〜3、6および7において、ガリウム含有量をGa/(In+Ga)原子数比で10〜25原子%とした場合には、10−4Ω・cm台のさらに低い比抵抗が得られた。また、膜の波長400nmにおける消衰係数は概ね0.02〜0.03程度で、いずれも0.04以下を示した。ITO膜が0.04を超えることから、参考例1〜7の膜は青色光の吸収が少ないことが確認された。
【0099】
参考例1〜7に対して、参考比較例1、2の相違点は、ガリウム含有量がGa/(In+Ga)原子数比で10原子%以上35原子%未満の範囲にない点である。ガリウム含有量が少ない場合には、GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相からなる結晶粒が形成されず、波長400nmにおける消衰係数は0.04を超えてしまう。一方、ガリウム含有量が多い場合には、成膜速度が著しく低下し、膜の比抵抗も高くなってしまう。したがって、上記の特性のバランスがとれる組成範囲は、ガリウム含有量がGa/(In+Ga)原子数比で10原子%以上35原子%未満であることは明らかである。
参考例1〜7に対して、参考比較例3の相違点は、平均粒径3μmの比較的な粗大な酸化インジウム粉末および酸化ガリウム粉末を用いたことによって、酸化物焼結体に分散されたGaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相からなる結晶粒の平均粒径が5μmを超えたことである。このような組織の酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリングを実施したところ、長時間の連続スパッタリング後にノジュールが発生し、アーキングが頻発することが確認された。すなわち、参考例1〜7のように、平均粒径1μm以下に調整した酸化インジウム粉末および酸化ガリウム粉末を用いて、GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相からなる結晶粒の平均粒径が5μm以下となるよう微細分散された酸化物焼結体の組織が、ノジュール発生とアーキング発生の抑制に有効であることが明らかとなった。
また、参考例1〜7に対して、参考比較例4では、焼結温度が1000℃と低いため焼結が進行せず、GaInO相、あるいは、GaInO相と(Ga,In)相からなる結晶粒の平均粒径は5μm以下ではあったものの、焼結体密度は6.3g/cmに達しなかった。直流スパッタリングにおいては、スパッタリングターゲットにはクラックが発生し、30W程度の低電力によるスパッタリングに限定され、実質的に成膜は不可能であった。すなわち、十分に焼結を進行させるためには、焼結温度1000℃では不足であり、1250〜1450℃が好適であることが明確となった。
【0100】
参考例8、11〜15によって、スズ、ゲルマニウム、あるいは両者を共添加した酸化物焼結体、あるいは透明導電膜についても、参考例1〜7のガリウムとインジウムを含有する酸化物焼結体、あるいは透明導電膜と同様に、良好な特性を示すことが確認された。特に、参考例10および11によって、スズ、ゲルマニウム、あるいは両者を共添加した場合には、ガリウムがより低添加量の組成範囲であっても、参考例1〜7と同様のガリウムおよびスズが固溶したビックスバイト型構造のIn相を母相とし、平均粒径が5μm以下のインジウム、ガリウム、およびスズで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相、あるいは、平均粒径が5μm以下のインジウム、ガリウム、およびスズで構成されたβ−Ga型構造のGaInO相と(Ga,In)相が微細分散した酸化物焼結体が得られ、さらには、この組織がノジュール発生とアーキング発生の抑制に有効であることが確認された。
また、実施例1によって、イオンプレーティング法の場合においても、参考例1〜8と同様に、良好な特性を示す酸化物焼結体、あるいは透明導電膜が得られることが明らかとなった。さらに、参考例9によって、本発明の酸化物焼結体を用いれば、基板がガラスに限定されず、必要に応じて防湿膜の付いた樹脂基板上にも、参考例1〜9と同様の良好な特性を示す透明導電膜が形成されることが分かる。
図1
図2
図3