【実施例】
【0073】
以下に、本発明の実施例を用いて、さらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例によって限定されるものではない。
【0074】
<酸化物焼結体の評価>
得られた酸化物焼結体の端材を用いて、アルキメデス法で焼結体密度を求めた。続いて端材の一部を粉砕し、X線回折装置(フィリップス製)を用いて粉末法による生成相の同定を行った。そして、インジウムとガリウムを酸化物として含有する酸化物焼結体については下記の式(1)で、定義されるX線回折ピーク強度比を求めた。
I[GaInO
3相(111)]/{I[In
2O
3相(400)]+I[GaInO
3相(111)]}×100 [%] (1)
ただし、インジウムとガリウムのほかに、さらにスズ、又はゲルマニウムから選ばれる1種以上の添加成分を含有する酸化物焼結体(参考例8、11〜15)については、下記の式(3)で定義されるX線回折ピーク強度比を求めた。
I[GaInO
3相(−111)]/{I[In
2O
3相(400)]+I[GaInO
3相(−111)]}×100 [%] (3)
(式中、I[In
2O
3相(400)]は、ビックスバイト型構造をとるIn
2O
3相の(400)ピーク強度であり、I[GaInO
3相(111)]あるいはI[GaInO
3相(−111)]は、β−Ga
2O
3型構造をとる複合酸化物β−GaInO
3相(111)あるいは(―111)ピーク強度を示す)
粉末の一部を用いて、酸化物焼結体のICP発光分光法による組成分析を行った。さらに、SEM(カールツァイス製)を用いて、酸化物焼結体の組織観察を行った。SEM像の画像解析結果から、GaInO
3相からなる結晶粒の平均粒径を求めた。
【0075】
<透明導電膜の基本特性評価>
得られた透明導電膜の組成をICP発光分光法によって調べた。透明導電膜の膜厚は表面粗さ計(テンコール社製)で測定した。成膜速度は、膜厚と成膜時間から算出した。膜の比抵抗は、四探針法によって測定した表面抵抗と膜厚の積から算出した。膜の生成相は、酸化物焼結体同様、X線回折測定によって同定した。また、消衰係数を分光エリプソメーター(J.A.Woolam製)によって測定し、特に青色光の吸収特性を評価するため、波長400nmの消衰係数を比較した。
【0076】
(参考例1)
酸化インジウム粉末および酸化ガリウム粉末を平均粒径1μm以下となるよう調整して原料粉末とした。ガリウム含有量がGa/(In+Ga)で表される原子数比で10原子%となるようにこれらの粉末を調合し、水とともに樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミルで混合した。この際、硬質ZrO
2ボールを用い、混合時間を18時間とした。混合後、スラリーを取り出し、濾過、乾燥、造粒した。造粒物を、冷間静水圧プレスで3ton/cm
2の圧力をかけて成形した。
次に、成形体を次のように焼結した。炉内容積0.1m
3当たり5リットル/分の割合で、焼結炉内の大気に酸素を導入する雰囲気で、1400℃の焼結温度で20時間焼結した。この際、1℃/分で昇温し、焼結後の冷却の際は酸素導入を止め、1000℃までを10℃/分で降温した。
得られた酸化物焼結体を、直径152mm、厚み5mmの大きさに加工し、スパッタリング面をカップ砥石で最大高さRzが3.0μm以下となるように磨いた。加工した酸化物焼結体を、無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングして、スパッタリングターゲットとした。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および(Ga,In)
2O
3相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO
3相(111)のX線回折ピーク強度比は、8%であった。
酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.97g/cm
3であった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO
3相の平均粒径は2.9μmであった。
次に、アーキング抑制機能のない直流電源を装備した直流マグネトロンスパッタリング装置(アネルバ製)の非磁性体ターゲット用カソードに、上記スパッタリングターゲットを取り付けた。基板には、無アルカリのガラス基板(コーニング♯7059)を用い、ターゲット−基板間距離を60mmに固定した。1×10
−4Pa未満まで真空排気後、アルゴンと酸素の混合ガスを酸素の比率が1.5%になるように導入し、ガス圧を0.5Paに調整した。なお、上記の酸素の比率1.5%において、最も低い比抵抗を示した。
直流電力200W(1.10W/cm
2)を印加して直流プラズマを発生させ、スパッタリングを実施した。投入した直流電力とスパッタリング時間の積から算出される積算投入電力値12.8kwh到達まで、直流スパッタリングを継続的に実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm
2)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を行った。10分間のプリスパッタリング後、スパッタリングターゲットの直上、すなわち静止対向位置に基板を配置し、加熱せずに室温でスパッタリングを実施して、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、93nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、4.9×10
−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.03198であった。以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0077】
(参考例2)
ガリウム含有量をGa/(In+Ga)で表される原子数比で20原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例1と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および(Ga,In)
2O
3相で構成されていることが確認された。次に、
図2に酸化物焼結体のX線回折図を示す。前記式(1)で表されるGaInO
3相(111)のX線回折ピーク強度比は、30%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.84g/cm
3であった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO
3相の平均粒径は2.6μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm
2)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。
図3に、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数を示した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、86nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、7.8×10
−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.02769であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0078】
(参考例3)
ガリウム含有量をGa/(In+Ga)で表される原子数比で25原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例1と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および(Ga,In)
2O
3相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO
3相(111)のX線回折ピーク強度比は、39%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.77g/cm
3であった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO
3相の平均粒径は2.5μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm
2)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、86nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、8.8×10
−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.02591であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0079】
(参考例4)
ガリウム含有量をGa/(In+Ga)で表される原子数比で30原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例1と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および(Ga,In)
2O
3相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO
3相(111)のX線回折ピーク強度比は、49%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.70g/cm
3であった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO
3相の平均粒径は2.8μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm
2)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、84nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、1.4×10
−3Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.02361であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0080】
(参考例5)
ガリウム含有量をGa/(In+Ga)で表される原子数比で34原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例1と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および(Ga,In)
2O
3相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO
3相(111)のX線回折ピーク強度比は、58%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.63g/cm
3であった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO
3相の平均粒径は4.1μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm
2)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、81nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、2.0×10
−3Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.02337であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0081】
(参考例6)
焼結温度を1250℃に変更した以外には条件を変えず、参考例2と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および(Ga,In)
2O
3相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO
3相(111)のX線回折ピーク強度比は28%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.33g/cm
3であった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO
3相の平均粒径は2.4μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm
2)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、83nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、9.1×10
−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.02743であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0082】
(参考例7)
焼結温度を1450℃に変更した以外には条件を変えず、参考例2と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および(Ga,In)
2O
3相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO
3相(111)のX線回折ピーク強度比は、31%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.88g/cm
3であった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO
3相の平均粒径は3.3μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm
2)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、87nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、8.0×10
−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.02776であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0083】
(参考例8)
参考例2と同様のガリウム原子数比、すなわちGa/(In+Ga+Sn)で表される原子数比を20原子%とし、さらに添加成分として、平均粒径1μm以下の酸化スズ粉末をSn/(In+Ga+Sn)で表される原子数比で6原子%添加した以外には条件を変えず、参考例2と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および(Ga,In)
2O
3相で構成されていることが確認された。前記式(3)で表されるGaInO
3相(111)のX線回折ピーク強度比は、51%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.71g/cm
3であった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO
3相の平均粒径は2.9μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm
2)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、89nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、9.1×10
−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.03482であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。なお、酸化スズ粉末の代わりに酸化ゲルマニウム粉末を用いた場合、あるいは、酸化スズ粉末と酸化ゲルマニウム粉末を同時に用いた場合でも、ほぼ同じ結果が得られることを確認した。
【0084】
(実施例1)
成膜方法をイオンプレーティング法に変更し、参考例2と同様の組成の酸化物焼結体からなるタブレットを用いて、成膜を実施した。
酸化物焼結体の作製方法は、参考例2のスパッタリングターゲットの場合とほぼ同様の作製方法であるが、先に述べたように、イオンプレーティング用のタブレットとして用いる場合には、密度を低くする必要があるため、焼結温度を1100℃とした。タブレットは、焼結後の寸法が、直径30mm、高さ40mmとなるよう、予め成形した。得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および(Ga,In)
2O
3相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO
3相(111)のX線回折ピーク強度比は、27%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、4.79g/cm
3であった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO
3相の平均粒径は2.1μmであった。
このような酸化物焼結体をタブレットとして用い、イオンプレーティング法によるプラズマガンを用いた放電をタブレットが使用不可となるまで継続した。イオンプレーティング装置として、高密度プラズマアシスト蒸着法(HDPE法)が可能な反応性プラズマ蒸着装置を用いた。成膜条件としては、蒸発源と基板間距離を0.6m、プラズマガンの放電電流を100A、Ar流量を30sccm、O
2流量を10sccmとした。タブレットが使用不可となるまでの間、スプラッシュなどの問題は起こらなかった。
タブレット交換後、成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、タブレットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度は122nm/minが得られ、ITO相当の高速成膜が可能であることがわかった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、6.5×10
−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.02722であった。以上のタブレット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0085】
(参考例9)
厚さ100μmのPES(ポリエーテルスルホン)フィルム基板上に、予め厚さ100nmの酸化窒化シリコン膜をガスバリア膜として形成し、該ガスバリア膜上に参考例2と同様の工程で膜厚100nmのインジウムとガリウムを含有する酸化物からなる透明導電膜を形成し、透明度導電性基材を作製した。
得られた透明度導電性基材を調べたところ、参考例2と同様に形成された透明導電膜は非晶質であり、比抵抗は7.5×10
−4Ωcm、可視域の平均透過率は85%以上を示したことから、良好な特性が得られたことが確認された。
【0086】
(参考例10)
参考例8のガリウム含有量、すなわちGa/(In+Ga+Sn)で表される原子数比2原子%に変更し、ならびにスズをSn/(In+Ga+Sn)で表される原子数比で10原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例8と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および(Ga,In)
2O
3相で構成されていることが確認された。前記式(3)で表されるGaInO
3相(−111)のX線回折ピーク強度比は、4%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.87g/cm
3であった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO
3相の平均粒径は2.8μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm
2)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、92nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、5.2×10
−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.03891であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。なお、酸化スズ粉末の代わりに酸化ゲルマニウム粉末を用いた場合、あるいは、酸化スズ粉末と酸化ゲルマニウム粉末を同時に用いた場合でも、ほぼ同じ結果が得られることを確認した。
【0087】
(参考例11)
参考例8のガリウム含有量、すなわちGa/(In+Ga+Sn)で表される原子数比を5原子%に変更し、ならびにスズをSn/(In+Ga+Sn)で表される原子数比で10原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例8と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および(Ga,In)
2O
3相で構成されていることが確認された。前記式(3)で表されるGaInO
3相(−111)のX線回折ピーク強度比は、7%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.90g/cm
3であった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO
3相の平均粒径は2.7μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm
2)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、92nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、5.0×10
−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.03711であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0088】
(参考例12)
参考例8のガリウム含有量、すなわちGa/(In+Ga+Sn)で表される原子数比を10原子%に変更し、ならびにスズをSn/(In+Ga+Sn)で表される原子数比で10原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例8と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および(Ga,In)
2O
3相で構成されていることが確認された。また、前記式(3)で表されるGaInO
3相(−111)のX線回折ピーク強度比は、48%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.99g/cm
3であった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO
3相の平均粒径は2.5μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm
2)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、90nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、6.4×10
−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.03663であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0089】
(参考例13)
参考例8のガリウム含有量、すなわちGa/(In+Ga+Sn)で表される原子数比を15原子%に変更し、ならびにスズをSn/(In+Ga+Sn)で表される原子数比で2原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例8と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および(Ga,In)
2O
3相で主に構成されていることが確認された。また、微弱ではあるが、一部、Ga
2In
6Sn
2O
16相の存在も確認された。前記式(3)で表されるGaInO
3相(−111)のX線回折ピーク強度比は、32%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、7.01g/cm
3であった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO
3相の平均粒径は2.6μmであった。また、Ga
2In
6Sn
2O
16相の結晶粒径が3μm以下であることを確認した。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm
2)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、89nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、6.2×10
−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.03402であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0090】
(参考例14)
参考例8のガリウム含有量、すなわちGa/(In+Ga+Sn)で表される原子数比を30原子%に変更し、ならびにスズをSn/(In+Ga+Sn)で表される原子数比で3原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例8と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および(Ga,In)
2O
3相で構成されていることが確認された。前記式(3)で表されるGaInO
3相(−111)のX線回折ピーク強度比は、84%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.71g/cm
3であった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO
3相の平均粒径は2.8μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm
2)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、85nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、1.8×10
−3Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.03213であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0091】
(参考比較例1)
ガリウム含有量をGa/(In+Ga)で表される原子数比で3原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例1と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。酸化物焼結体の密度を測定したところ、7.06g/cm
3であった。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相のみで構成されていることが確認された。すなわち、この組成では、本発明の実質的にガリウムが固溶したビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および/または(Ga,In)
2O
3相で構成されている酸化物焼結体が得られないことが判明した。したがって、これ以上のターゲット評価は実施せず、直流スパッタリングによる成膜のみを実施することとした。
直流スパッタリングによって得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、86nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、8.3×10
−4Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.04188であった。以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0092】
(参考比較例2)
ガリウム含有量をGa/(In+Ga)で表される原子数比で40原子%に変更した以外には条件を変えず、参考例1と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および(Ga,In)
2O
3相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO
3相(111)のX線回折ピーク強度比は74%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.54g/cm
3であった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO
3相の平均粒径は4.2μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達経過まで、直流スパッタリングを実施した。この間、アーキングは起こらず、放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特にみられなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(直流電力密度1.1〜3.3W/cm
2)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を実施した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、62nm/minであった。次に、膜の比抵抗を測定したところ、3.5×10
−3Ωcmであった。膜の生成相は、X線回折測定によって調べた結果、非晶質であることが確認された。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.01811であった。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0093】
(参考比較例3)
平均粒径約3μmの酸化インジウム粉末および酸化ガリウム粉末を用いた以外には条件を変えず、参考例2と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および(Ga,In)
2O
3相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO
3相(111)のX線回折ピーク強度比は、42%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.23g/cm
3であった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO
3相の平均粒径は5.8μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、積算投入電力値12.8kWh到達まで、直流スパッタリングを実施した。スパッタリングを開始してから、しばらくアーキングは起こらなかったが、積算時間到達が近くなると、しだいにアーキングが起こるようになった。積算時間到達後、ターゲット表面を観察したところ、多数のノジュールの生成が確認された。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm
2)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。
図3に、参考例2とともに、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数を示した。
図3より、直流電力増加とともにアーキングが頻発するようになっていることは明らかである。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリングによる成膜を行った。成膜中、しばしばアーキングが起こった。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、71nm/minであった。次に、膜の生成相をX線回折測定によって同定したところ、非晶質であった。膜の比抵抗を測定したところ、4.1×10
−3Ωcmであった。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.03323であった。以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0094】
(参考比較例4)
焼結温度を1000℃に変更した以外には条件を変えず、参考例2と同様の方法で酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn
2O
3相、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、および(Ga,In)
2O
3相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるGaInO
3相(111)のX線回折ピーク強度比は、26%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、5.73g/cm
3であった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、GaInO
3相の平均粒径は2.1μmであった。
この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリングを実施した。スパッタリングを開始してから、早期にアーキングが起こり、積算投入電力値12.8kWh到達まで、スパッタリングを継続することが不可能となった。ターゲット表面を観察したところ、クラックの発生が確認された。そこで、アーキング発生回数の測定を断念し、低電力での直流スパッタリングを試みた。投入電力が30W程度まではスパッタリング可能であったが、50Wを超えるとアーキングが発生するようになった。よって、実際の膜形成は不可能であると判断された。
以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0095】
(参考比較例5)
市販のITOターゲット(In
2O
3−10wt%SnO
2、住友金属鉱山製)を用いて、直流スパッタリングによる成膜を行った。ITOターゲットの密度を測定したところ、7.11g/cm
3であった。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。成膜速度を測定したところ、92nm/minであった。次に、膜の生成相をX線回折測定によって同定したところ、非晶質であった。膜の比抵抗を測定したところ、4.9×10
−4Ωcmであった。また、波長400nmの消衰係数を測定したところ、0.04308であった。以上のターゲット評価結果と成膜評価結果を表1に示した。
【0096】
【表1】
【0097】
「評価」
参考例1〜7より、平均粒径1μm以下に調整した酸化インジウム粉末および酸化ガリウム粉末を用いて、ガリウム含有量をGa/(In+Ga)原子数比で10原子%以上35原子%未満の範囲とし、焼結温度1250〜1400℃にて焼結した酸化物焼結体は、ガリウムが固溶したビックスバイト型構造のIn
2O
3相と、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、あるいは、ガリウムが固溶したビックスバイト型構造のIn
2O
3相と、インジウムとガリウムで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相と、(Ga,In)
2O
3相で構成されることが確認された。また、In
2O
3相(400)とGaInO
3相(111)とのX線回折ピーク強度比は、8%〜58%であって、GaInO
3相、あるいは、GaInO
3相と(Ga,In)
2O
3相からなる結晶粒の平均粒径が5μm以下である微細分散組織が得られることが確認された。
【0098】
特に、参考例1〜4および6では、GaInO
3相、あるいは、GaInO
3相と(Ga,In)
2O
3相からなる結晶粒が平均粒径3μm以下のより微細分散された組織となった。また、焼結体密度は6.3g/cm
3以上であり、いずれも高密度を示した。これらの酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして、直流スパッタリングを実施したところ、長時間の連続スパッタリング後でもスパッタリングの掘れ残りを起点としたノジュールの発生はみられず、直流電力200〜600W(1.10〜3.29W/cm
2)の範囲で変化させてもアーキングが発生しないことが明らかとなった。
参考例1〜7での成膜速度は81〜93nm/minであり、参考比較例5のITOの成膜速度92nm/minと比較しても遜色なかった。得られた透明導電膜の比抵抗は、2×10
−3Ω・cm以下と良好であり、特に参考例1〜3、6および7において、ガリウム含有量をGa/(In+Ga)原子数比で10〜25原子%とした場合には、10
−4Ω・cm台のさらに低い比抵抗が得られた。また、膜の波長400nmにおける消衰係数は概ね0.02〜0.03程度で、いずれも0.04以下を示した。ITO膜が0.04を超えることから、参考例1〜7の膜は青色光の吸収が少ないことが確認された。
【0099】
参考例1〜7に対して、参考比較例1、2の相違点は、ガリウム含有量がGa/(In+Ga)原子数比で10原子%以上35原子%未満の範囲にない点である。ガリウム含有量が少ない場合には、GaInO
3相、あるいは、GaInO
3相と(Ga,In)
2O
3相からなる結晶粒が形成されず、波長400nmにおける消衰係数は0.04を超えてしまう。一方、ガリウム含有量が多い場合には、成膜速度が著しく低下し、膜の比抵抗も高くなってしまう。したがって、上記の特性のバランスがとれる組成範囲は、ガリウム含有量がGa/(In+Ga)原子数比で10原子%以上35原子%未満であることは明らかである。
参考例1〜7に対して、参考比較例3の相違点は、平均粒径3μmの比較的な粗大な酸化インジウム粉末および酸化ガリウム粉末を用いたことによって、酸化物焼結体に分散されたGaInO
3相、あるいは、GaInO
3相と(Ga,In)
2O
3相からなる結晶粒の平均粒径が5μmを超えたことである。このような組織の酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリングを実施したところ、長時間の連続スパッタリング後にノジュールが発生し、アーキングが頻発することが確認された。すなわち、参考例1〜7のように、平均粒径1μm以下に調整した酸化インジウム粉末および酸化ガリウム粉末を用いて、GaInO
3相、あるいは、GaInO
3相と(Ga,In)
2O
3相からなる結晶粒の平均粒径が5μm以下となるよう微細分散された酸化物焼結体の組織が、ノジュール発生とアーキング発生の抑制に有効であることが明らかとなった。
また、参考例1〜7に対して、参考比較例4では、焼結温度が1000℃と低いため焼結が進行せず、GaInO
3相、あるいは、GaInO
3相と(Ga,In)
2O
3相からなる結晶粒の平均粒径は5μm以下ではあったものの、焼結体密度は6.3g/cm
3に達しなかった。直流スパッタリングにおいては、スパッタリングターゲットにはクラックが発生し、30W程度の低電力によるスパッタリングに限定され、実質的に成膜は不可能であった。すなわち、十分に焼結を進行させるためには、焼結温度1000℃では不足であり、1250〜1450℃が好適であることが明確となった。
【0100】
参考例8、11〜15によって、スズ、ゲルマニウム、あるいは両者を共添加した酸化物焼結体、あるいは透明導電膜についても、参考例1〜7のガリウムとインジウムを含有する酸化物焼結体、あるいは透明導電膜と同様に、良好な特性を示すことが確認された。特に、参考例10および11によって、スズ、ゲルマニウム、あるいは両者を共添加した場合には、ガリウムがより低添加量の組成範囲であっても、参考例1〜7と同様のガリウムおよびスズが固溶したビックスバイト型構造のIn
2O
3相を母相とし、平均粒径が5μm以下のインジウム、ガリウム、およびスズで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相、あるいは、平均粒径が5μm以下のインジウム、ガリウム、およびスズで構成されたβ−Ga
2O
3型構造のGaInO
3相と(Ga,In)
2O
3相が微細分散した酸化物焼結体が得られ、さらには、この組織がノジュール発生とアーキング発生の抑制に有効であることが確認された。
また、実施例1によって、イオンプレーティング法の場合においても、参考例1〜8と同様に、良好な特性を示す酸化物焼結体、あるいは透明導電膜が得られることが明らかとなった。さらに、参考例9によって、本発明の酸化物焼結体を用いれば、基板がガラスに限定されず、必要に応じて防湿膜の付いた樹脂基板上にも、参考例1〜9と同様の良好な特性を示す透明導電膜が形成されることが分かる。