(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776872
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】多価アルコールからのヒドロキシケトンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/52 20060101AFI20150820BHJP
C07C 49/17 20060101ALI20150820BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20150820BHJP
【FI】
C07C45/52
C07C49/17 A
!C07B61/00 300
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-4735(P2011-4735)
(22)【出願日】2011年1月13日
(65)【公開番号】特開2012-144492(P2012-144492A)
(43)【公開日】2012年8月2日
【審査請求日】2014年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591110241
【氏名又は名称】クラリアント触媒株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100090516
【弁理士】
【氏名又は名称】松倉 秀実
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】木崎 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 敬三
(72)【発明者】
【氏名】陳 新
(72)【発明者】
【氏名】酒井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智司
【審査官】
上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/150278(WO,A2)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0088317(US,A1)
【文献】
米国特許第03360567(US,A)
【文献】
ZHOU,J. et al.,Selective hydrogenolysis of glycerol to propanediols on supported Cu-containing bimetallic catalysts,Green Chemistry,2010年,Vol.12,p.1835-1843
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 45/52
C07C 49/17
C07B 61/00
CAplus(STN)
CASREACT(STN)
REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する水酸基を有する多価アルコールからヒドロキシケトンを製造する方法であって、酸化ケイ素に担持および/または複合物化された銀触媒を設置した気相流通反応装置を用い、水素共存下、多価アルコールをガス化して供給することによりヒドロキシケトンを製造することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記銀触媒は、BET法により測定された比表面積が50〜600m2/gであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記多価アルコールがグリセリンであって、前記ヒドロキシケトンがヒドロキシアセトンである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
反応が280℃以下で行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
反応が1MPa以下で行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリンなどの多価アルコールから、ヒドロキシアセトンなどのヒドロキシケトンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシアセトン(アセトール、モノヒドロキシアセトン、1−ヒドロキシアセトン等とも言い、何れも同一の化合物を表す)に代表されるヒドロキシケトン類は化成品中間体、医薬品中間体などとして用いられ、化学工業上重要な物質である。
従来、このようなヒドロキシケトンは、ジオールの酸化的脱水素反応(特許文献1、2参照)、あるいは、ヒドロキシカルボン酸の水素添加により合成されていた。
これらの反応は、いずれも生成物にケトン基を有するため、過剰な酸化分解や過剰な還元が生じるという、本質的な問題を有していた。
【0003】
また、ホルムアルデヒド、一酸化炭素および水素からヒドロキシアセトンを製造するという方法が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら当該方法は、反応圧力が高く、反応装置が耐圧装置である必要があることや、触媒にロジウム化合物という貴金属を用いること、さらには反応に溶媒を用いることなど、設備投資が大きく、ランニングコストも高く、経済的に改善の余地を残す方法であった。
【0004】
その他、銅クロマイト、そしてシリカに担持した銅または酸化銅を用いて、グリセリンを気相接触反応させてヒドロキシアセトンを製造する方法が知られている(特許文献4、5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭61−16256号公報
【特許文献2】特許第2875634号公報
【特許文献3】特公平4−11534号公報
【特許文献4】独国特許第4128692号明細書
【特許文献5】特開2007−8850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献4で提案されている方法は、銅クロマイトを触媒として用いたグリセリンからヒドロキシアセトンを製造する方法であって収率が50〜80%程度であり、そして特許文献5で提案されている方法は、クロムを触媒成分として用いることなく、従来の技術と同等の収率でヒドロキシアセトンを得ることができる技術である。しかしながら、未だヒドロキシアセトンの収率は十分ではない。
即ち本発明の目的は、上記従来の技術課題を解決することであり、多価アルコールからヒドロキシケトンを高い選択率で収率よく製造することができる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、銀触媒を用いることにより、高い選択率で収率よく多価アルコールからヒドロキシケトンを製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明のヒドロキシケトンの製造方法は、以下のとおりである。
(1)隣接する水酸基を有する多価アルコールからヒドロキシケトンを製造する方法であって、
酸化ケイ素に担持および/または複合物化された銀触媒
を設置した気相流通反応装置を用い
、水素共存下、多価アルコールをガス化して供給することによりヒドロキシケトンを製造することを特徴とする製造方法。
(2
)前記銀触媒は、BET法により測定された比表面積が50〜600m
2/gであることを特徴とする(
1)に記載の製造方法。
(
3)前記多価アルコールがグリセリンであって、前記ヒドロキシケトンがヒドロキシアセトンである(1)
又は(2)に記載の製造方法。
(
4)反応が280℃以下で行われることを特徴とする(1)〜(
3)のいずれか1つに記載の製造方法。
(
5)
反応が1MPa以下で行われることを特徴とする(1)〜(
4)のいずれか1つに記載の製造方法
。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法により、多価アルコールからヒドロキシケトンを高い選択率で効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法は、隣接する水酸基を有する多価アルコールからヒドロキシケトンを製造する方法である。本発明の製造方法は、隣接する水酸基の脱水反応によりC=O基(カルボニル基)を生成する反応であり、反応総体として脱水反応で進行する。
隣接する水酸基を有する多価アルコールとしては、グリセリンや1,2,3−ブタントリオールなどが挙げられる。グリセリンを原料とする場合、ヒドロキシケトンとしてはヒドロキシアセトンが生成し、1,2,3−ブタントリオールを原料とする場合、ヒドロキシケトンとしては2−ヒドロキシ−3−ブタノン、または1−ヒドロキシ−2−ブタノンが生成する。
【0011】
原料で用いる多価アルコールは、水分を含んでいてもよい。水分を含む場合にはその含有量は特段の限定はないが、通常0重量%よりも大きく98重量%以下であり、好ましくは20重量%以上80重量%以下である。水分を含む場合、上記範囲とすることで、ヒドロキシケトンを高い選択率で得ることができる。
【0012】
本発明の製造方法は、銀触媒を用いることを特徴としている。従来、多価アルコールからヒドロキシケトンを脱水反応により製造する方法においては、特許文献4、5に開示があるように銅または酸化銅を触媒として用いていた。多価アルコールを気相接触反応でヒドロキシケトンを製造する方法において、銅は優れた触媒機能を有している。しかしながら、その収率は未だ十分ではない。本発明者らは検討を重ね、銅触媒は水素存在下においては生成したヒドロキシケトンに水素添加する作用が非常に強いことに着目した。そのため、多価アルコールからの反応が進みヒドロキシケトンが製造されても、その一部が銅触媒の有する水素添加能によりグリコールとなってしまうことから、ヒドロキシケトンの収率が十分ではないという知見を得た。
【0013】
そこで、本発明者らが検討を重ねたところ、銀は水素添加能が非常に小さく、かつ多価アルコールからヒドロキシケトンへの脱水反応にも高い触媒機能を有することを見出し、本発明に想到した。
【0014】
本発明に用いる銀触媒は、市販品をそのまま或いは、市販品を還元したものを用いることができる。また、本発明の銀触媒は、触媒担体に公知の含浸法等により担持されていてもよく、また公知の共沈法等により複合物化されていてもよい。銀触媒が担持および/または複合物化される担体としては、通常触媒の担体として用いられるものであれば特段限定されず、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、シリカアルミナなどが例示される。このうち、酸化ケイ素を用いることが、ヒドロキシケトンの選択率が良好となり好ましい。本発明において担持されるとは、銀触媒が触媒担体表面に保持されていることであり、複合物化されるとは、可溶性銀塩と担体成分の可溶性塩を共沈させ複合物化されていることである。
【0015】
銀触媒は、BET法で測定された触媒の比表面積が50〜600m
2/gであることが好ましい。このような範囲の銀触媒を用いる場合には、銀触媒の表面積が増大し、触媒と原料の反応接点が増加するため、反応率、選択率ともに良好となる。150〜300m
2/gであることがより好ましい。
【0016】
本発明に用いる触媒担体は、市販のものを適宜用いることができる。また、銀を担持および/または複合物化させる方法も特段限定されず、公知の含浸法により担持させる方法や、公知の共沈法により複合物化させる方法などを用いることができる。
【0017】
本発明の製造方法において、担持型銀触媒或いは複合物化型銀触媒を用いる場合には、銀の触媒としての機能を有する程度に銀を含有させればよく、銀の含有量は通常1〜50重量%、好ましくは5〜20重量%である。上記範囲とする場合には、十分な銀の触媒性能を得ることができる。
【0018】
本発明のヒドロキシケトンの製造で使用される反応装置は特に限定されないが、工業的には、原料をガス化して適当な触媒層を通過させておこなう形式の気相流通反応が可能な装置が好ましい。気相流通反応装置を用いる場合、たとえば、気相流通反応装置に所定量の触媒を入れ、これを公知の方法で前処理することにより活性な触媒層を気相流通反応装置内に形成させる。ここに、原料の多価アルコールをガス化し、供給することによりヒドロキシケトンを製造することが可能である。
【0019】
上記の触媒の前処理は、触媒層を活性化させることができる公知の方法を用いることができ、例えば、水素気流中、200℃で30分〜1時間程度熱処理を行う等により、触媒層を活性化させることなどが挙げられる。
【0020】
本発明のヒドロキシケトンの製造方法は、減圧下、大気圧下、或いは加圧下のいずれの条件下でおこなってもよい。本発明における減圧下とは、絶対圧でおおよそ1気圧よりも低い圧力をいう。本発明における大気圧とは、絶対圧でおおよそ1気圧(約0.1MPa)をいうが、厳密に1気圧のみの条件に限られるものではなく、大気圧の範囲と当業者が理解する範囲は、本発明でいう大気圧の範囲である。また、本発明における加圧下とは、絶対圧でおおよそ1気圧よりも高い圧力をいい、その上限は特段設けないが、コスト等の関係から通常20MPa以下、好ましくは5MPa以下、より好ましくは2MPa以下、更に好ましくは1MPa以下である。
また、反応の際にキャリアガスとして水素を共存させることが好ましい。反応系に水素を共存させることにより、触媒の活性を保つことができる。キャリアガスの流入量は反応装置の大きさや、触媒体積に対する単位時間当たりの原料の液空間速度(LHSV:Liquid Hourly Space Velocity;単位、h
-1)などにより適宜設定される。通常キャリアガスと原料の比はモル比で1:1〜100であり、好ましくは1:5〜50である。
【0021】
本発明におけるヒドロキシケトンの製造方法の反応温度は、圧力条件にもよるが、通常多価アルコールが気相状態として存在する温度で行うことが好ましい。具体的には、通常180℃以上、280℃以下で行われ、200℃以上、260℃以下で行われることが好ましい。
【0022】
本発明に用いる触媒の量及びヒドロキシケトン製造の反応時間は、気相流通反応の場合、液空間速度(LHSV)で表される接触時間が0.1から50h
-1の範囲で利用可能であり、触媒の寿命及び収率の観点から好ましくは、0.15から30h
-1の範囲であり、更に好ましくはLHSV値で、0.2から5.0h
-1の範囲である。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例、比較例に用いた固定床常圧気相流通反応装置は内径10mm、全長100mmの反応器を用いた。該反応器は、その上端にキャリアガス導入口と原料流入口があり下端にガス抜け口を有する反応粗液捕集容器(冷却)を有するものである。捕集容器に捕集された反応粗液は、ガスクロマトグラフィーにて測定し、検量線補正後、グリセリンなどの原料の残量、ヒドロキシアセトンなどの生成物の収量を決定し、この値から反応率(モル%)、選択率(モル%)及び収率(モル%)を求めた。
触媒の比表面積は、一般的な窒素吸着装置を用いて、−196℃で試料に物理吸着する窒素量をBET理論により解析して求めた。
【0024】
<実施例1>
(触媒の調製)
硝酸銀(和光純薬製、特級試薬)10.9gを水200mLに溶解し、市販の二酸化ケイ素(富士シリシア化学製、キャリアクトQ10)59.9gに公知の含浸法にて、10重量%の担持量となるように銀を担持し、触媒前駆体を調製した。その後、触媒前駆体を電気炉にて、空気雰囲気下500℃で3時間焼成し、10重量%銀−担持触媒66.1gを得た。得られた銀−担持触媒のBET法で測定した比表面積は245.3m
2/gであった。
【0025】
(ヒドロキシアセトンの製造)
上記調製した触媒7.8mLを固定床常圧気相流通反応装置内に設置した。その後、上部からキャリアガスとして大気圧で水素を30mL/minの流速で流し、220℃で30分間前処理を施した。前処理後、水素流入量を700mL/minに増やし、80重量%グリセリン水溶液を0.25h
-1の液空間速度で触媒層に供給し、220℃でヒドロキシアセトン合成反応を行った。結果を表1に示す。
【0026】
<実施例2>
触媒の調製において、5重量%となるように銀を担持した以外は実施例1と同様にヒドロキシアセトン合成反応を行った。結果を表1に示す。
【0027】
<
比較例1>
触媒の調製において、担体の二酸化ケイ素に替えて酸化アルミニウム(日揮触媒化成社製、N612N)を担体として用いた以外は実施例1と同様にヒドロキシアセトン合成反応を行った。得られた銀−担持触媒のBET法で測定した比表面積は175.9m
2/g
であった。結果を表1に示す。
【0028】
<比較例
2>
触媒の調製において、硝酸銀に替え、硝酸銅(和光純薬製、特級試薬)を用いて銅を担体に担持した以外は実施例1と同様にヒドロキシアセトン合成反応を行った。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
<実施例
3>
ヒドロキシアセトンの製造において、反応温度を240℃とし、グリセリン水溶液を0.50h
-1の液空間速度で触媒層に供給した以外は実施例1と同様にヒドロキシアセトン合成反応を行った。結果を表2に示す。
【0031】
<実施例
4>
触媒の調製において、20重量%となるように銀を担持した以外は実施例
3と同様にヒドロキシアセトン合成反応を行った。結果を表2に示す。
【0032】
<比較例
3>
触媒の調製において、硝酸銀に替え、硝酸銅(和光純薬製、特級試薬)を用いて銅を担体に担持した以外は実施例
3と同様にヒドロキシアセトン合成反応を行った。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
<実施例
5>
ヒドロキシアセトンの製造において、反応温度を250℃とした以外は実施例
3と同様にヒドロキシアセトン合成反応を行った。結果を表3に示す。
【0035】
<実施例
6>
触媒の調製において、20重量%となるように銀を担持した以外は実施例
5と同様にヒドロキシアセトン合成反応を行った。結果を表3に示す。
【0036】
<比較例
4>
触媒の調製において、硝酸銀に替え、硝酸銅(和光純薬製、特級試薬)を用いて銅を担体に担持した以外は実施例
5と同様にヒドロキシアセトン合成反応を行った。結果を表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
<実施例
7〜1
3>
表4に示すように、触媒量、液空間速度、反応温度(前処理温度)、二酸化ケイ素担体のBET比表面積を変更し、30重量%のグリセリン水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にヒドロキシアセトン合成反応を行った。結果を表4に示す。
【0039】
【表4】