特許第5776906号(P5776906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5776906-光配向性を有する熱硬化膜形成組成物 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776906
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】光配向性を有する熱硬化膜形成組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/30 20060101AFI20150820BHJP
   C08G 18/77 20060101ALI20150820BHJP
   G02F 1/1337 20060101ALI20150820BHJP
   G02F 1/13363 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   C08G18/30 Z
   C08G18/77 Z
   G02F1/1337 520
   G02F1/13363
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-509667(P2012-509667)
(86)(22)【出願日】2011年4月5日
(86)【国際出願番号】JP2011058627
(87)【国際公開番号】WO2011126019
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2014年2月20日
(31)【優先権主張番号】特願2010-89475(P2010-89475)
(32)【優先日】2010年4月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104385
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100163360
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 知篤
(72)【発明者】
【氏名】畑中 真
(72)【発明者】
【氏名】近藤 光正
【審査官】 久保田 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−154096(JP,A)
【文献】 特開2000−275688(JP,A)
【文献】 特開平10−307416(JP,A)
【文献】 特開平10−212405(JP,A)
【文献】 特開平04−342443(JP,A)
【文献】 特開平02−004891(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第00920517(GB,A)
【文献】 特開2004−204017(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0207119(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00−18/87
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分である光配向性基及びヒドロキシ基を有する化合物と、(B)成分であるケイ素イソシアネート化合物とを含有する光配向性を有する熱硬化膜形成組成物であって、
前記(A)成分の光配向性基が光二量化又は光異性化する構造の官能基である、熱硬化膜形成組成物。
【請求項2】
(A)成分の光配向性基がシンナモイル基である請求項1に記載の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物。
【請求項3】
(A)成分の光配向性基がアゾベンゼン構造の基である請求項1に記載の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物。
【請求項4】
(A)成分と(B)成分との配合比が質量比で5:95乃至50:50である、請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物から形成される液晶配向層。
【請求項6】
請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物を用いて得られる位相差層を備えた光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光配向性を有する熱硬化膜形成組成物及びそれから形成される硬化膜に関する。より詳しくは、本発明は、熱硬化膜において、高い透明性、液晶配向能、高い溶剤耐性並びに耐熱性を有するところの熱硬化膜形成組成物及びその熱硬化膜への適用に関するものである。本発明の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物は、特に液晶ディスプレイにおける内蔵位相差層を形成するための重合性液晶配向機能を兼ね備えたカラーフィルタオーバーコート剤や3D液晶ディスプレイ用パターン化位相差膜を形成するための重合性液晶配向材料に好適である。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶表示素子、有機EL(electroluminescent)素子、固体撮像素子などの光デバイスでは、素子表面が製造工程中に溶剤や熱にさらされるのを防ぐために保護膜が設けられる。この保護膜は、保護する基板との密着性が高く、且つ溶剤耐性が高い点だけでなく、耐熱性等の性能も優れていることが要求される。
加えて、この様な保護膜を、カラー液晶表示装置や固体撮像素子に用いられるカラーフィルタの保護膜として使用する場合には、カラーフィルタを透過する光の透過率を維持するために、高い透明性を有する膜であることが必要とされる。
【0003】
一方、近年液晶ディスプレイのセル内に位相差材を導入することで低コスト化、軽量化が検討されており、このような位相差材としては重合性液晶溶液を塗布し配向させた後に、光硬化させた材料が一般に用いられている。この位相差材を配向させるためには下層膜がラビング処理又は偏光UV照射の後、配向性を有するところの材料である必要がある。そのためカラーフィルタのオーバーコート上に液晶配向層を成膜した後、位相差材が形成されている(図1(a)参照)。仮にこの液晶配向層とカラーフィルタのオーバーコートを兼ねる膜(図1(b)参照)を形成できれば、コストの低減、プロセス数の削減等大きな利点が得られることから、液晶配向層とオーバーコートを兼ねうる材料が強く望まれている。
【0004】
一般にカラーフィルタのオーバーコートには、透明性の高いアクリル樹脂が用いられる。そしてこのアクリル樹脂の溶解にはプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコール系溶剤、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル系溶剤、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン等のケトン系溶剤がハンドリング性、塗布性の観点から広く用いられている。また斯かるアクリル樹脂は熱硬化又は光硬化させることにより耐熱性及び溶剤耐性を高める手法がとられている(特許文献1、2)。しかしながら従来の熱硬化性もしくは光硬化性のアクリル樹脂は適当な透明性及び溶剤耐性を有するものの、この種のアクリル樹脂からなるオーバーコートをラビング処理あるいは偏光UV照射しても十分な配向性を示すことはできなかった。
【0005】
一方、液晶配向層には溶剤可溶性ポリイミド又はポリアミック酸からなる材料が通常用いられている。これらの材料はポストベークにより完全にイミド化し、溶剤耐性が付与され、ラビング処理により十分な配向性を示すものになることが報告されている(特許文献3)。
【0006】
また、側鎖にシンナモイル基及びカルコン基等の光二量化部位を有するアクリル樹脂に偏光UV照射することにより十分な液晶配向性を示すことが報告されている(特許文献4)。
【0007】
さらに、光反応性基が結合したポリオルガノシロキサンが報告されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−103937号公報
【特許文献2】特開2000−119472号公報
【特許文献3】特開2005−037920号公報
【特許文献4】特開平9−118717号公報
【特許文献5】特開2009−36966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3に記載の液晶配向層を、カラーフィルタのオーバーコート材として用いるには透明性が低いという問題があった。また、ポリイミド及びポリアミック酸はN−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン等の溶剤に可溶であるが、グリコール系溶剤、エステル系溶剤及びケトン系溶剤に対する溶解性が低く、そのような溶剤が用いられるオーバーコート作製ラインへの適用は難しい。
【0010】
特許文献4に記載の技術においては、偏光照射時の光二量化率が少ないと重合性液晶塗布時にインターミキシングが生じて配向不良となるため、かなりの露光量が必要となる。
特許文献5に記載の技術では、シロキサンポリマーの側鎖に光反応性基が結合しているために光反応性基の表面占有率が低く、十分な配向性を発現するためにはかなりの露光量が必要となる。
【0011】
また、光を照射して液晶配向性を付与する技術において、液晶配向層に通常の偏光UV露光量(例えば100mJ/cm2)を照射したのでは、光二量化反応率が低く十分に架橋されず、溶剤耐性及び耐熱性が低いものとなる。そのため、前記液晶配向層上に位相差材層を形成するために重合性液晶を塗布した際に、該液晶配向層が溶解し、十分な配向性を示すことは出来なかった。また、光二量化反応率を高くするために露光量を1J/cm2以上に増大させると、重合性液晶の配向性は向上するが、露光時間が大変長くなるため実用的な方法とはいえない。さらに、従来の液晶配向層に用いられる材料は、架橋化部位として光二量化部位しか有しない材料であったため、架橋部位の数が全体として少なく、作られる液晶配向層は充分な耐熱性を持つものとはならない。そのため、位相差材の形成後に200℃以上で行われる表示素子の製造工程の際、液晶配向層が大きく収縮することも懸念される。
【0012】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その解決しようとする課題は、硬化膜形成後には高い溶剤耐性、重合性液晶に対する優れた光配向能、十分な耐熱性、並びに高い透明性を示し、しかも硬化膜形成時においては、カラーフィルタのオーバーコートの作製において適用可能なグリコール系溶剤、ケトン系溶剤又は乳酸エステル系溶剤に溶解できる材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の課題を解決するべく鋭意研究を行った結果、本発明を見出すに至った。
すなわち、第1観点として、(A)成分である光配向性基及びヒドロキシ基を有する化合物、(B)成分であるケイ素イソシアネート化合物を含有する光配向性を有する熱硬化膜形成組成物。
第2観点として、(A)成分の光配向性基が光二量化又は光異性化する構造の官能基である第1観点に記載の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物。
第3観点として、(A)成分の光配向性基がシンナモイル基である第1又は第2観点に記載の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物。
第4観点として、(A)成分の光配向性基がアゾベンゼン構造の基である第1又は第2観点に記載の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物。
第5観点として、(A)成分と(B)成分との配合比が質量比で5:95乃至50:50である、第1乃至第4観点のいずれかに記載の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物。
第6観点として、第1乃至第5観点のいずれかに記載の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物から形成される液晶配向層。
第7観点として、第1乃至第5観点のいずれか一項に記載の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物を用いて得られる位相差層を備えた光デバイス。
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物は、高い透明性、高い溶剤耐性、高い耐熱性に加えて、光照射による液晶配向能(光配向性)を有する硬化膜を形成できるため、光配向性の液晶配向膜及びオーバーコートの形成材料として用いることができる。特に、ディスプレイのセル内に位相差材を形成するための重合性液晶を配向させる層とカラーフィルタのオーバーコートの層との両者の特性を兼ね備える「重合性液晶配向層」を一度に形成することが可能となり、製造工程の簡略化及びプロセス数低減による低コスト化等を実現できる。
【0015】
さらに本発明の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物は、グリコール系溶剤、ケトン系溶剤及び乳酸エステル系溶剤に可溶であることから、これら溶剤を主として使用するカラーフィルタのオーバーコート作製ラインに好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】従来技術により液晶配向膜を形成した液晶セル(a)と、本発明の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物を用いて、配向性を有するカラーフィルタ(CF)オーバーコートを形成した液晶セル(b)とを対比して示すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、前述の透明性、溶剤耐性、耐熱性に加えて、光照射による液晶配向能(光配向性)の性能向上を図った点に特徴がある。すなわち、本発明は(A)成分の光配向性基及びヒドロキシ基を有する化合物と、(B)成分であるケイ素イソシアネート化合物を含む熱硬化膜形成組成物に関する。ここで、光配向性を有する熱硬化膜とは、直線偏向光を照射することにより光学的異方性が誘起される、加熱により硬化した膜をいう。
【0018】
以下、各成分の詳細を説明する。
<(A)成分>
(A)成分は光配向性基及びヒドロキシ基を有する化合物である。
本発明において、光配向性基とは光二量化又は光異性化する構造部位の官能基をいう。
【0019】
光二量化する構造とは、光照射により二量体を形成する構造部位の官能基を指し、その具体例としてはシンナモイル基、カルコン基、クマリン基、アントラセン基等が挙げられる。これらのうち可視光領域での高い透明性及び光二量化反応性を有するシンナモイル基が好ましい。また、光異性化する構造部位とは、光照射によりシス体とトランス体とに変わる構造部位を指し、その具体例としてはアゾベンゼン構造、スチルベン構造等からなる部位が挙げられる。これらのうち反応性の高さからアゾベンゼン構造が好ましい。光配向性基及びヒドロキシ基を有する化合物は下記式:
【化1】
で表される。
上記式中、X1は単結合を表すか、共有結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、アミノ結合又は尿素結合を介して結合した炭素原子数1乃至18のアルキレン、フェニレン、ビフェニレン又はシクロヘキシレンを表す。その際、アルキレン、フェニレン及びビフェニレンはハロゲン原子及びシアノ基から選ばれる同一又は相異なった1以上の置換基によって置換されていてもよい。上記式中、X2は水素原子、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1乃至18のアルキル基、フェニル基又はビフェニル基を表す。その際、炭素原子数1乃至18のアルキル基、フェニル基、ビフェニル基、シクロヘキシル基は、共有結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、アミノ結合、尿素結合を介して結合してもよく、フェニル基及びビフェニル基はハロゲン原子及びシアノ基のいずれかによって置換されていてもよい。
1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数1乃至4のアルコキシ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基又はシアノ基を表す。
【0020】
光配向性基及びヒドロキシ基を有する化合物の具体例としては、例えば、4−(8−ヒドロキシオクチルオキシ)けい皮酸メチルエステル、4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)けい皮酸メチルエステル、4−(4−ヒドロキシブチルオキシ)けい皮酸メチルエステル、4−(3−ヒドロキシプロピルオキシ)けい皮酸メチルエステル、4−(2−ヒドロキシエチルオキシ)けい皮酸メチルエステル、4−ヒドロキシメチルオキシけい皮酸メチルエステル、4−ヒドロキシけい皮酸メチルエステル、4−(8−ヒドロキシオクチルオキシ)けい皮酸エチルエステル、4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)けい皮酸エチルエステル、4−(4−ヒドロキシブチルオキシ)けい皮酸エチルエステル、4−(3−ヒドロキシプロピルオキシ)けい皮酸エチルエステル、4−(2−ヒドロキシエチルオキシ)けい皮酸エチルエステル、4−ヒドロキシメチルオキシけい皮酸エチルエステル、4−ヒドロキシけい皮酸エチルエステル、4−(8−ヒドロキシオクチルオキシ)けい皮酸フェニルエステル、4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)けい皮酸フェニルエステル、4−(4−ヒドロキシブチルオキシ)けい皮酸フェニルエステル、4−(3−ヒドロキシプロピルオキシ)けい皮酸フェニルエステル、4−(2−ヒドロキシエチルオキシ)けい皮酸フェニルエステル、4−ヒドロキシメチルオキシけい皮酸フェニルエステル、4−ヒドロキシけい皮酸フェニルエステル、4−(8−ヒドロキシオクチルオキシ)けい皮酸ビフェニルエステル、4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)けい皮酸ビフェニルエステル、4−(4−ヒドロキシブチルオキシ)けい皮酸ビフェニルエステル、4−(3−ヒドロキシプロピルオキシ)けい皮酸ビフェニルエステル、4−(2−ヒドロキシエチルオキシ)けい皮酸ビフェニルエステル、4−ヒドロキシメチルオキシけい皮酸ビフェニルエステル、4−ヒドロキシけい皮酸ビフェニルエステル、けい皮酸8−ヒドロキオクチルエステル、けい皮酸6−ヒドロキシヘキシルエステル、けい皮酸4−ヒドロキシブチルエステル、けい皮酸3−ヒドロキシプロピルエステル、けい皮酸2−ヒドロキシエチルエステル、けい皮酸ヒドロキシメチルエステル、4−(8−ヒドロキシオクチルオキシ)アゾベンゼン、4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)アゾベンゼン、4−(4−ヒドロキシブチルオキシ)アゾベンゼン、4−(3−ヒドロキシプロピルオキシ)アゾベンゼン、4−(2−ヒドロキシエチルオキシ)アゾベンゼン、4−ヒドロキシメチルオキシアゾベンゼン、4−ヒドロキシアゾベンゼン、4−(8−ヒドロキシオクチルオキシ)カルコン、4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)カルコン、4−(4−ヒドロキシブチルオキシ)カルコン、4−(3−ヒドロキシプロピルオキシ)カルコン、4−(2−ヒドロキシエチルオキシ)カルコン、4−ヒドロキシメチルオキシカルコン、4−ヒドロキシカルコン、4’−(8−ヒドロキシオクチルオキシ)カルコン、4’−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)カルコン、4’−(4−ヒドロキシブチルオキシ)カルコン、4’−(3−ヒドロキシプロピルオキシ)カルコン、4’−(2−ヒドロキシエチルオキシ)カルコン、4’−ヒドロキシメチルオキシカルコン、4’−ヒドロキシカルコン、7−(8−ヒドロキシオクチルオキシ)クマリン、7−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)クマリン、7−(4−ヒドロキシブチルオキシ)クマリン、7−(3−ヒドロキシプロピルオキシ)クマリン、7−(2−ヒドロキシエチルオキシ)クマリン、7−ヒドロキシメチルオキシクマリン、7−ヒドロキシクマリン、6−ヒドロキシオクチルオキシクマリン、6−ヒドロキシヘキシルオキシクマリン、6−(4−ヒドロキシブチルオキシ)クマリン、6−(3−ヒドロキシプロピルオキシ)クマリン、6−(2−ヒドロキシエチルオキシ)クマリン、6−ヒドロキシメチルオキシクマリン、6−ヒドロキシクマリンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
また、本発明においては、(A)成分の化合物としては、複数種の光配向性基及びヒドロキシ基を有する化合物の混合物であってもよい。
【0022】
<(B)成分>
(B)成分はケイ素イソシアネート化合物である。
本発明において、ケイ素イソシアネート化合物は下記式:
【化2】
で表される。
上記式中、R3、R4はそれぞれ独立に炭素原子数1乃至6のアルキル基、イソシアネート基、炭素原子数1乃至6のアルコキシ基、フェニル基、ビニル基を表す。
(B)成分のケイ素イソシアネート化合物は、熱硬化性、基材との密着性の点からイソシアネート基を3つ以上有することが好ましい。
【0023】
(B)成分のケイ素イソシアネート化合物の具体例としては、トリメチルシリルイソシアネート、ジメチルシリルジイソシアネート、メチルシリルトリイソシアネート、ビニルシリルトリイソシアネート、フェニルシリルトリイソシアネート、テトライソシアネートシラン、エトキシシラントリイソシアネート等が挙げられる。
【0024】
また、本発明においては、(B)成分のケイ素イソシアネート化合物としては、複数種のケイ素イソシアネート化合物の混合物であってもよい。
【0025】
また、本発明においては、(B)成分のケイ素イソシアネート化合物のイソシアネート基はブロック剤を用いてブロック化されていてもよい。そのようなブロック剤の具体例としてはメチルエチルケトンオキシム、メチルイソブチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ジイソブチルケトンオキシム、アセトンオキシム、ブタナールオキシム、アセトアルデヒドオキシム等のオキシム類、イプシロンカプロラクタム、ヘプタノラクタム等のラクタム類、フェノール、クレゾール等のフェノール類、ピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチルピラゾール等のピラゾール類が挙げられる。
【0026】
<溶剤>
本発明の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物は、主として溶剤に溶解した溶液状態で用いられる。その際に使用する溶剤は、(A)成分及び(B)成分を溶解し、さらに(B)成分と反応しない溶剤であることが必要である。
【0027】
溶剤の具体例としては、例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−ブタノン、3−メチル−2−ペンタノン、2−ペンタノン、2−ヘプタノン、γ―ブチロラクトン、エトキシ酢酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及びN−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0028】
これらの溶剤は、1種単独で又は2種以上の組合せで使用することができる。これら溶剤のうち、シクロヘキサノン、2−ヘプタノン、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチルはカラーフィルタのオーバーコートの作製ラインで適用可能であり、成膜性が良好で、安全性が高いためより好ましい。
【0029】
<その他添加剤>
更に、本発明の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、必要に応じて、増感剤、シランカップリング剤、界面活性剤、レオロジー調整剤、顔料、染料、保存安定剤、消泡剤、酸化防止剤等を含有することができる。
【0030】
<光配向性を有する熱硬化膜形成組成物>
本発明の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物は、(A)成分の光配向性基及びヒドロキシ基を有する化合物と、(B)成分のケイ素イソシアネート化合物とを含有し、所望によりその他添加剤のうち一種以上を含有することができる組成物である。そして、通常は、それらが溶剤に溶解した溶液として用いられる。
【0031】
(A)成分と(B)成分との配合比は質量比で5:95乃至50:50が好ましい。(B)成分の含有量がこの配合比の範囲より過大の場合は液晶配向性が低下し易く、この配合比の範囲より過小の場合は溶剤耐性が低下することにより配向性が低下し易い。
【0032】
本発明の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物を溶液として用いる場合の配合割合、調製方法等を以下に詳述する。
本発明の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物における固形分の割合は、各成分が均一に溶剤に溶解している限り、特に限定されるものではないが、1乃至80質量%であり、好ましくは3乃至60質量%であり、より好ましくは5乃至40質量%である。ここで、固形分とは、光配向性を有する熱硬化膜形成組成物の全成分から溶剤を除いた成分をいう。
【0033】
本発明の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物の調製方法としては、例えば、溶剤に(A)成分と(B)成分とを所定の割合で混合し、均一な溶液とする方法、或いは、この調製法の適当な段階において、必要に応じてその他添加剤を更に添加して混合する方法が挙げられる。保存安定性の観点から、あらかじめ(A)成分と(B)成分をそれぞれ溶剤に溶解させて溶液にしておき、使用前にそれぞれの溶液を混合して使用することが好ましい。
【0034】
また、調製された光配向性を有する熱硬化膜形成組成物の溶液は、孔径が0.2μm程度のフィルタなどを用いて濾過した後、使用することが好ましい。
【0035】
<塗膜、硬化膜及び液晶配向層>
本発明の一態様である光配向性を有する熱硬化膜形成組成物の溶液を基板(例えば、シリコン/二酸化シリコン被覆基板、シリコンナイトライド基板、金属、例えば、アルミニウム、モリブデン、クロムなどが被覆された基板、ガラス基板、石英基板、ITO基板等)やフィルム(例えば、トリアセチルセルロースフィルム、ポリエステルフィルム、アクリルフィルム等の樹脂フィルム)等の上に、回転塗布、流し塗布、ロール塗布、スリット塗布、スリットに続いた回転塗布、インクジェット塗布、印刷などによって塗布し、その後、ホットプレート又はオーブン等で予備乾燥(プリベーク)することにより、塗膜を形成することができる。その後、この塗膜を加熱処理(ポストベーク)することにより、硬化膜が形成される。
【0036】
プリベークの条件としては、例えば、温度70℃乃至140℃、時間0.4乃至60分間の範囲の中から適宜選択された加熱温度及び加熱時間が採用される。加熱温度及び加熱時間は、好ましくは80℃乃至130℃、0.5乃至10分間である。
【0037】
ポストベークとしては、例えば、温度130℃乃至250℃の範囲の中から選択された加熱温度にて、ホットプレート上の場合には1乃至30分間、オーブン中の場合には5乃至90分間処理するという方法が採られる。
【0038】
本発明の光配向性を有する熱硬化性組成物を用いて形成される硬化膜の膜厚は、例えば0.06乃至30μmであり、使用する基板の段差や光学的、電気的性質を考慮し適宜選択することができる。
【0039】
上記のような条件のもとで、本発明の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物を硬化させることにより、基板の段差を十分にカバーすることができ、及び高透明性を有する硬化膜を形成することができる。
【0040】
このようにして形成した光配向性を有する熱硬化膜は偏光UV照射を行うことで液晶材配向層、即ち、液晶性を有する化合物を配向させる層として機能させることができる。
偏光UVの照射方法としては、通常150−450nmの波長の紫外光〜可視光が用いられ、室温又は加熱した状態で垂直又は斜め方向から直線偏光を照射することによって行われる。
【0041】
本発明の光配向性を有する熱硬化膜組成物から形成された液晶配向層は溶剤耐性及び耐熱性を有しているため、液晶配向層上に、位相差材料を塗布した後、液晶の相転移温度まで加熱することで位相差材料を液晶状態とし、それを光硬化させ、光学異方性を有する層を形成することができる。
【0042】
位相差材料としては、例えば、重合性基を有する液晶モノマー及びそれを含有する組成物等が用いられる。そして、液晶配向層を形成する基材がフィルムである場合には、光学異方性フィルムとして有用である。このような位相差材料は水平配向、コレステリック配向、垂直配向、ハイブリッド配向等の配向性を有するものがあり、それぞれ必要とされる位相差に応じて使い分けることができる。
【0043】
また、上記のようにして形成された液晶配向層を有する2枚の基板を、スペーサーを介して液晶配向層が向かい合うように張り合わせた後、それらの基板の間に、液晶を注入して、液晶が配向した液晶表示素子とすることもできる。
【0044】
そのため、本発明の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物は、各種光学異方性フィルム、液晶表示素子に好適に用いることができる。
【0045】
また、本発明の光配向性を有する熱硬化膜形成組成物は薄膜トランジスタ(TFT)型液晶表示素子、有機EL素子等の各種ディスプレイにおける保護膜、絶縁膜等の硬化膜を形成する材料としても有用であり、特に、カラーフィルタのオーバーコート材、TFT型液晶素子の層間絶縁膜、有機EL素子の絶縁膜等を形成する材料としても好適である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものでない。
[実施例で用いる略記号]
以下の実施例で用いる略記号の意味は、次のとおりである。
<A成分(光配向性基及びヒドロキシ基を有する化合物)の溶液>
CIN1:4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)けい皮酸メチルエステルの10重量%シクロヘキサノン溶液
CIN2:けい皮酸6−ヒドロキシヘキシルエステルの10重量%シクロヘキサノン溶液
CIN3:4−ヒドロキシけい皮酸メチルエステルの10%シクロヘキサノン溶液
AZB1:4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)アゾベンゼンの10%シクロヘキサノン溶液
<A成分の比較溶液(光配向性基を有する化合物)>
CIN4:4−(6−メタクリロイルオキシヘキシルオキシ)けい皮酸メチルエステルの10重量%シクロヘキサノン溶液
CIN4B:4−(6−メタクリロイルオキシヘキシルオキシ)けい皮酸メチルエステル
<B成分(ケイ素イソシアネート化合物)の溶液>
SiNCO1:テトライソシアネートシランの10%シクロヘキサノン溶液
SiNCO2:メチルシリルトリイソシアネートの10%シクロヘキサノン溶液
<その他モノマー>
MMA:メタクリル酸メチル
<重合開始剤>
AIBN:α,α’−アゾビスイソブチロニトリル
<溶剤>
CHN:シクロヘキサノン
NMP:N−メチルピロリドン
【0047】
以下の合成例に従い得られたアクリル共重合体の数平均分子量及び重量平均分子量は、日本分光(株)製GPC装置(Shodex(登録商標)カラムKF803L及びKF804L)を用い、溶出溶剤テトラヒドロフランを流量1ml/分でカラム中に(カラム温度40℃)流して溶離させるという条件で測定した。なお、下記の数平均分子量(以下、Mnと称す。)及び重量平均分子量(以下、Mwと称す。)は、ポリスチレン換算値にて表した。
【0048】
<合成例1>
CIN4B 48.0g、MMA 12.0g、重合開始剤としてAIBN 1.3gをCHN 166.8gに溶解し80℃にて20時間反応させることによりアクリル共重合体溶液(固形分濃度27質量%)を得た(P1)。得られたアクリル共重合体のMnは8,700、Mwは18,000であった。
【0049】
<実施例1乃至実施例5及び比較例1又は比較例2>
表1に示す組成にて実施例1乃至実施例5及び比較例1又は比較例2の各組成物を調製し、それぞれについて、溶剤耐性、配向性及び透過率の評価を行った。
【表1】
【0050】
[溶剤耐性の評価]
実施例1乃至実施例5並びに比較例1又は比較例2の各組成物をシリコンウェハにスピンコーターを用いて塗布した後、温度80℃で120秒間ホットプレート上においてプリベークを行い、膜厚0.3μmの塗膜を形成した。膜厚はFILMETRICS社製 F20を用いて測定した。この塗膜を温度180℃で5分間ホットプレート上でポストベークを行い、膜厚0.25μmの硬化膜を形成した。
この硬化膜をCHN又はNMP中に60秒間浸漬させた後、それぞれ温度100℃にて60秒間乾燥し、膜厚を測定した。CHN又はNMP浸漬後の膜厚変化がないものを○、浸漬後に膜厚の減少が見られたものを×とした。
【0051】
[配向感度の評価]
実施例1乃至実施例5並びに比較例1又は比較例2の各組成物をシリコンウェハにスピンコーターを用いて塗布した後、温度80℃で120秒間ホットプレート上においてプリベークを行い、膜厚0.3μmの塗膜を形成した。膜厚はFILMETRICS社製 F20を用いて測定した。この塗膜を温度180℃で5分間ホットプレート上でポストベークを行い、膜厚0.25μmの硬化膜を形成した。
この硬化膜に300乃至400nmの直線偏光を垂直に照射した。この基板上に液晶モノマーからなる位相差材料溶液をスピンコーターを用いて塗布した後、80℃で60秒間ホットプレート上においてプリベークを行い膜厚0.25μmの塗膜を形成した。この基板を窒素雰囲気下1000mJ/cm2で露光した。作製した基板を偏向板に挟み、配向性を示すのに必要な偏光UVの313nmでの露光量を配向感度とした。1000mJ/cm2以上で配向しないものは「配向せず」とした。
【0052】
[光透過率(透明性)の評価]
実施例1乃至実施例5並びに比較例1又は比較例2の各組成物をシリコンウェハにスピンコーターを用いて塗布した後、温度80℃で120秒間ホットプレート上においてプリベークを行い、膜厚0.3μmの塗膜を形成した。膜厚はFILMETRICS社製 F20を用いて測定した。この塗膜を温度180℃で5分間ホットプレート上でポストベークを行い、膜厚0.25μmの硬化膜を形成した。
この硬化膜を紫外線可視分光光度計((株)島津製作所製SHIMADSU UV−2550型番)を用いて波長400nmの光に対する透過率を測定した。
【0053】
[評価の結果]
以上の評価を行った結果を、次の表2に示す。
【表2】
【0054】
実施例1乃至5は、透明性が高く、CHN、NMPのいずれの溶剤に対しても耐性がみられた。またいずれも少ない露光量で配向性を示した。
【0055】
比較例1、2では十分な溶剤耐性が得られず配向感度も大きく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明による光配向性を有する熱硬化膜形成組成物は、光学異方性フィルムや液晶表示素子の液晶配向層の材料として非常に有用であり、カラーフィルタのオーバーコート兼液晶配向膜、位相差フィルム、3D液晶ディスプレイ用パターン化位相差フィルムを形成する材料としても好適である。
図1