特許第5776913号(P5776913)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776913
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】製鉄用ヘマタイトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/06 20060101AFI20150820BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20150820BHJP
   B03B 5/28 20060101ALI20150820BHJP
   B01D 35/06 20060101ALI20150820BHJP
   B03B 7/00 20060101ALI20150820BHJP
   C21B 5/00 20060101ALN20150820BHJP
【FI】
   C01G49/06 A
   C22B23/00 102
   B03B5/28 B
   B01D35/06 A
   B03B7/00
   !C21B5/00 302
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-6871(P2014-6871)
(22)【出願日】2014年1月17日
(65)【公開番号】特開2015-134696(P2015-134696A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2015年4月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】小原 剛
(72)【発明者】
【氏名】菅 康雅
(72)【発明者】
【氏名】今村 正樹
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−95788(JP,A)
【文献】 特開2013−151715(JP,A)
【文献】 特開2011−214147(JP,A)
【文献】 特開2001−234255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B1/00−61/00
B01D35/06
B03B7/00
B03C1/00
C01G49/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧酸浸出法を利用したニッケル酸化鉱石の湿式精錬プラントから得られる浸出残渣を原料とする製鉄用ヘマタイトの製造方法であって、
前記浸出残渣を、湿式サイクロンを使用して、分級サイズが、オーバーフローにおいては1μm以下となる設定以上、2μm以下となる設定以下の分離条件で、オーバーフローとアンダーフローとに分離する第1のステップと、
磁力を利用した強磁場磁気分離装置を使用して、前記オーバーフローを、磁場強度が、5〜20[kGauss]の分離条件で、磁性の強い成分と、弱い成分とに分離する第2のステップと、
分離された前記磁性の強い成分を、1150〜1350℃の温度で焼結して焼結体を形成する第3のステップ
の少なくとも前記1〜3のステップを順次行うことを特徴とする製鉄用ヘマタイトの製造方法。
【請求項2】
前記磁性の強い成分が含有する水分の水分率を、10wt%〜17wt%に調整する脱水工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の製鉄用ヘマタイトの製造方法。
【請求項3】
前記第3のステップ後に、前記焼結体の粒径を3〜20mmとする粉砕工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の製鉄用ヘマタイトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製鉄用ヘマタイトの製造方法に関する。
詳しくは、ニッケル酸化鉱石の高温酸浸出(HPAL)法による湿式精錬プラントの最終中和工程から得られるスラリー状態の浸出残渣(以後、テーリングスラリーと称す)から製鉄用ヘマタイトを回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルはステンレスの原料として幅広く用いられているが、その原料となる硫化鉱石の資源枯渇傾向に伴い、低品位の酸化鉱石を精製する技術が開発、実用化されてきている。
具体的には、リモナイトやサプロライトなどのニッケル酸化鉱石を、硫酸溶液とともにオートクレーブなどの加圧装置に入れ、240〜300℃程度の高温高圧下においてニッケルを浸出する、高温加圧酸浸出(High Pressure Acid Leach、以下HPALと表記する。)プロセスと呼ばれる製造プロセスが実用化されている。
【0003】
図3に、その製造工程の概略フロー図を示す。
このHPALプロセスにおける硫酸溶液中に浸出されたニッケルは、中和剤を添加して余剰の酸を中和し、次いで固液分離されて、浸出残渣と分離される。
その後、ニッケルは不純物を分離する工程を経て、水酸化物や硫化物などの形態の中間原料として回収され、この中間原料をさらに精製することにより、ニッケルメタルやニッケル塩化物などの形態で得られる。
なお、余剰の酸を中和する工程では、浸出物は固液分離に適したpHに調整され、次工程の固液分離工程において、CCD(Counter Current Decantation)と呼ばれる設備で、固形分の濃縮および固液分離が行われる。通常CCDでは、連続する複数段のシックナーが使用されている。
【0004】
そのCCDから得られる液体成分(以下、オーバーフローという場合がある。)は、硫化工程に適したpHに調整するために中和工程に回される。そこではpHを調整し、発生する微細な固形物を沈殿除去した後、例えば硫化処理に供され、ニッケル硫化物という中間原料が生成される。
【0005】
このようなHPALプロセスでは、例えばニッケル酸化鉱石の場合、回収目的の有価金属が1〜2重量%以下の低品位鉱石(以下、重量%を%で表記する。)であっても、ほぼ完全にニッケルを浸出できる。即ち、目的金属を従来原料と同程度まで濃縮し、従来原料とほぼ同様の精製方法および工程で目的金属を得ることが出来る。また、このHPALプロセスは、ニッケル酸化鉱石のみでなく、ニッケル硫化鉱や硫化銅鉱石、酸化銅鉱石など他の原料にも適用できる。
【0006】
一方、HPALプロセスでニッケルが回収された後に残される浸出残渣の主な成分は、酸化鉄であり、浸出残渣固形分中の鉄分は、およそ40〜50%程度であり、また、浸出残渣の生産量は中間原料の生産量に対しておよそ50倍から100倍である。これは原料のニッケル酸化鉱石や硫化鉱石に、ニッケルの含有量をはるかに超える量の鉄を含有しているためである。
【0007】
この浸出残渣は、高温で生成されているため化学的環境的には安定な酸化物の状態であるが、現状では特段の利用価値もなく、残渣堆積置場に積立保管されている。
従って、HPALプロセスの操業に伴って発生する、膨大な量の浸出残渣を積立保管するための広大な残渣積立置場が必要となっている。
【0008】
ところで、酸化鉄は鉄鉱石に多く含まれ、製鋼原料としては鉄鉱石が広く利用されている。鉄鋼製錬では酸化鉄が含まれた鉄鉱石を、コークスなどの還元剤と共に高炉に装入、加熱により還元溶融して粗鋼を得る。この粗鋼を転炉で精錬して目的とする鋼を製造している。
一般に、その原料となる鉄鉱石は限られた資源であり、しかも鋼の品質維持に必要な良質な鉄鉱石の入手は次第に難しくなってきている。このため、浸出残渣を鉄鉱石として使用する検討がなされてきている。
【0009】
しかしながら、HPALプロセスの浸出残渣を製鉄原料用に直接用いることは、以下の理由から困難であった。
HPALプロセスの浸出残渣には、酸化鉄以外にも脈石や不純物、特に硫黄が含まれるため、従来の一般的な製鉄プロセスに用いる原料には適さなかった。具体的には、硫黄の品位が高いためである。
特に、製鉄原料に利用できる酸化鉄中の硫黄品位は、個々の製鉄所の設備能力、生産量などによって異なるが、一般には1%未満に抑制することが必要とされている。
【0010】
しかしながら、浸出残渣固形分中には5〜8%程度の硫黄が含有されている。この浸出残渣中の硫黄の由来は、その大部分がHPALプロセスで混入する硫酸カルシウム(石膏)である。
この石膏は、高圧酸浸出で得られた浸出スラリーに残留する遊離硫酸(遊離硫酸とはHPALプロセスで十分な浸出を行うために過剰に加えた硫酸のうち、未反応で残留する酸のことである。)を中和する際に、一般的で安価なカルシウム系の中和剤、例えば、石灰石や消石灰を添加しており、中和剤に含まれるカルシウムと遊離硫酸が反応することで生成し、浸出残渣中に混入しているものである。
なお、浸出残渣固形分中に含有される硫黄の一部(1%程度)は、生成したヘマタイトの粒子中に取り込まれている。
【0011】
この時点で得られるニッケル浸出後の残渣中の固形分は粒径1μm程度のヘマタイトを主とする粒子からなり、固形分中の鉄品位はおよそ30〜40%、硫黄品位はおよそ5〜8%となっている。なお、この時点で得られる浸出残渣の水分率は60%である。
この浸出残渣を製鉄用のヘマタイトとして使用するには、浸出残渣固形分中の鉄品位を50%以上、硫黄品位を1%以下に精製することが必要である。
【0012】
その技術としては、例えば、特許文献1に、浸出残渣を、篩い分けによる分離、湿式サイクロンによる分離、磁性による分離に付して、ヘマタイト混合物中の不純物を除去する技術が記載されており、ヘマタイト中の不純物を除去するために一定の効果が認められた。
しかし、特許文献1に開示される発明で得られるヘマタイトは、製鉄用ヘマタイトとして単独で使用するには満足できるものではなかった。特に鉄品位は高くても40〜45%程度までのものしか得られず、そのため、製鉄用ヘマタイトとして使用するには、より高品位の鉄を含む製鉄用原料と混合する必要があった。なお、特許文献1では物理分離後に得られる浸出残渣の水分率は40%程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2010−095788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような状況を解決するためになされたものであり、製鉄用原料として使用可能なヘマタイト含有物を得ることが可能な浸出残渣の分離方法を提案し、浸出残渣から製鉄用ヘマタイトを生成する製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、湿式サイクロンによる分離ステップと、適正な磁性分離のステップと、適正な焼結のステップを順次おこなうことで、製鉄用原料に適した鉄品位と、硫黄品位を同時に得られることを見出し、本発明の完成に至ったものである。
【0016】
本発明の第1の発明は、高圧酸浸出法を利用したニッケル酸化鉱石の湿式精錬プラントから得られるスラリー状態の浸出残渣を原料とする製鉄用ヘマタイトの製造方法であって、そのスラリー状態の浸出残渣を、湿式サイクロンを使用して、オーバーフローとアンダーフローとに分離する第1のステップと、磁力を利用した強磁場磁気分離装置を使用して、前記オーバーフローを、磁性の強い成分と、弱い成分とに分離する第2のステップと、その分離された磁性の強い成分を、1150〜1350℃の温度で焼結して焼結体を形成する第3のステップの少なくとも1〜3のステップを順次行うことを特徴とする製鉄用ヘマタイトの製造方法である。
【0017】
本発明の第2の発明は、第1の発明における第1のステップの湿式サイクロンにおける分離条件を表す分級サイズが、オーバーフローにおいては1μm以下となる設定以上、2μm以下となる設定以下で、且つ、第2のステップの強磁場磁気分離装置における分離条件を表す磁場強度が、5〜20[kGauss]であることを特徴とする製鉄用ヘマタイトの製造方法である。
【0018】
本発明の第3の発明は、第1及び第2の発明における磁性の強い成分が含有する水分の水分率を、10wt%〜17wt%に調整する脱水工程を含むことを特徴とする製鉄用ヘマタイトの製造方法である。
【0019】
本発明の第4の発明は、第1から第3の発明における第3のステップ後に、形成された焼結体の粒径を3〜20mmとする粉砕工程を含むことを特徴とする製鉄用ヘマタイトの製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製鉄用ヘマタイトの製造方法によれば、製鉄用原料として使用可能な品位のヘマタイト含有物を、酸化鉱石の製錬工程から容易に得ることを可能とし、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のテーリングスラリーから製鉄用ヘマタイトを製造する製造工程フロー図である。
図2】従来のテーリングスラリーから製鉄用ヘマタイトを製造する製造工程フロー図である。
図3】HPALプロセスの製造工程における概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の、製鉄用ヘマタイトの製造方法を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の製鉄用ヘマタイトを製造する製造工程フロー図である。
本発明は、図3のHPALプロセスの製造工程概略フロー図に示されるような高圧酸浸出(HPAL)法を利用したニッケル酸化鉱石の湿式精錬プラントから排出される中和処理したスラリー状態の浸出残渣(以下、図3の「テーリングダム」に貯留される「テーリングスラリー(最終中和残渣)」を意味する。)から有益な成分組成を有する材料を分離するもので、その製造工程が、テーリングスラリーの構成成分を湿式サイクロンを使用して、オーバーフローとアンダーフローとに成分分離する第1のステップと、分離したオーバーフロー成分を、磁力を利用して成分分離する強磁場磁気分離装置を使用して、磁性の強い成分と、弱い成分とに分離し、ヘマタイトケーキを得る第2のステップと、得られたヘマタイトケーキを1150〜1350℃の温度で焼結し、ヘマタイトの焼結体を得る第3のステップの少なくとも1〜3のステップを順次行うことを特徴とするものである。
【0023】
このため、例えば、鉄品位:30〜35%、硫黄(S)品位:3〜10%を含むテーリングスラリーから、鉄品位53重量%程度、硫黄(S)品位1%以下の高鉄品位低硫黄品位の製鉄用ヘマタイトを得ることが可能である。
この品位の組成であれば、単独で製鉄用に供することが可能であり、他の製鉄原料と混合して使用する場合も調整の余裕が大きく使用しやすい。
【0024】
[第1のステップ]
本発明に係る製鉄用ヘマタイトの製造方法に用いる原料は、HPALプロセスにおける浸出残渣スラリーを中和処理したテーリングスラリーを原料として用いるが、その固形分において、鉄はヘマタイト、硫黄(S)は石膏の形として含まれている。
【0025】
さらに、それぞれの粒径は、例えば、ニッケル酸化鉱石をHPAL方式の湿式精錬で処理し、最終中和工程から得られる浸出残渣の固形分に含まれるヘマタイトは1μm程度、石膏は30μm程度の粒径となることが一般的であることから湿式サイクロンの分級サイズの設定として、先ず、オーバーフローの設定は、含まれているヘマタイト及び石膏の粒径によって適宜調整すればよいが、湿式サイクロンの分級サイズが、「オーバーフローが1μm以下となる設定以上、2μm以下となる設定以下となるように設定することが好ましい。
特に、上記範囲において、湿式サイクロンでの分級効果を高めることが可能となる。
【0026】
また、磁性はヘマタイトが弱い磁性をもち、他に磁性を示す成分は含まれていない。なお、その粒径は、例えばレーザー回折方式などにより測定したD50粒径である。以下、単に粒径とよぶ。
本発明では、このようなテーリングスラリーは、湿式サイクロンに装入されると、粒径の大きな石膏の大部分がアンダーフローとして除去される。一方、オーバーフローには粒径の小さいヘマタイトが濃縮される。
【0027】
[第2のステップ]
次に、得られたオーバーフローを、ヘマタイトとクロマイトに分離可能な程度に磁化できる「強磁場磁気分離装置」を用いて分離処理する。
通常の磁力選鉱において使用する磁力は、高々2000[Gauss]程度であるが、例えば、実施例で使用している「強磁場磁気分離装置」では、粉体に対してメッシュを通過する際に磁力を掛ける方式を採用しているため、非常に強力な磁力を掛けることができる。なお、このメッシュは分離対象の粉体に最適な目開きとなるように設定されている。
【0028】
このような構成により、通常の磁力選鉱では実質的に分離が不可能なヘマタイトとクロマイトを分離することが可能となる。また、少量残留している石膏も磁性が無いため、ヘマタイトから分離可能である。
その結果、最終的に、上記磁力選鉱装置の磁性体側の排出物(磁着物)として、鉄:53重量%程度、硫黄(S):1重量%程度の品位を有する製鉄用ヘマタイトが、ヘマタイトケーキとして回収される。
【0029】
さらに、磁力を利用して分離する際の好ましい磁界強度の条件は、5〜20[kGauss]である。
基本的に磁界強度は強いほうが好ましいが、5[kGauss]未満だと、ヘマタイトの分離が不充分になるからである。また、20[kGauss]より大きい場合、それ以上の効果が期待できないばかりでなく、経済的にも好ましくない。
【0030】
[第3のステップ]
回収されたヘマタイトケーキでも製鉄用原料として使用可能であるが、極微粒子で構成されているために、極微粒子のままでは、高炉で目詰まりを起こしやすいので、少量しか用いることが出来ない。そこで、好ましくは、超微粒子の粉であるヘマタイトケーキを焼結して、粗粒子の粉とした方が好ましい。
第2ステップにより形成したヘマタイトケーキは、平均粒径が1μm以下である。このような極微細な粉末は焼結特性が良いため、焼結時に添加する焼結助剤の石灰などが不要になる。焼結は1150〜1350℃で行い、密度が4.0g/cm〜5.0g/cmの焼結体を得る。
【0031】
このヘマタイトの焼結体の密度は、4.0g/cm〜5.0g/cmが好ましい。ヘマタイトの焼結体の密度が4.0g/cm未満であると、ヘマタイトの焼結体内の空孔が多くなり、ヘマタイトの焼結体にクラックが生じる原因となる。また、ヘマタイトの焼結体の密度が5.0g/cmを超えると、このヘマタイトの焼結体内の空孔は大幅に減少し、ヘマタイトの焼結体内部への還元ガスの拡散が遅くなり、還元ガスの還元効率が悪くなるので好ましくない。
【0032】
一方、ヘマタイトの焼結体を得る際の焼結温度が1150℃未満であると、このヘマタイトの焼結体の密度が4.0g/cm未満になってしまい、焼結温度が1350℃よりも高くなると、ヘマタイトの焼結体の密度は5.0g/cmを超えてしまう。
従って、ヘマタイトケーキを焼結する温度は1150〜1350℃が好ましい。
【0033】
このヘマタイトケーキに残留する硫黄の大部分は、中和剤として添加された石膏由来の硫黄ではなく、高温加圧酸浸出の工程で、ヘマタイト粒子の中に取り込まれた硫酸成分の硫黄と考えられており、ヘマタイトケーキを上記1150℃〜1350℃で焼結することにより、高温加圧酸浸出工程の硫酸由来の硫黄はほぼ全量をSOとして除去することが可能である。
即ち、硫黄(S)品位1%以下の高鉄品位低硫黄品位の製鉄用ヘマタイトを得ることができる。
【0034】
このヘマタイトの焼結体の粒径は、3〜20mmとすることが好ましい。
その粒径が3mm未満であると高炉内での目詰まりの原因になり、還元ガスの流れが悪くなる。一方、20mmを超えると、反応時間が長くなり生産性悪化の原因となる。
【0035】
これまで述べたように本発明の製鉄用ヘマタイトの製造方法では、まず湿式サイクロンで分離し、次いで、強磁場磁気分離装置で分離することに最大の特徴を有しているが、湿式サイクロンで分離するステップと、強磁場磁気分離装置で分離するステップとを、単純に組み合わせただけ、例えば、上記と逆の順番では製鉄用ヘマタイトを効率良く回収することは困難である。
【0036】
即ち、強磁場磁気分離装置での分離ステップを先に行うと、粒径が大きく異なる石膏が存在するために、小粒径のヘマタイトとクロマイトに対して、両者を分離するのに十分な磁力を与えることが難しくなるためである。また、使用する強磁場磁気分離装置の磁力を掛ける方式によっても分離が難しくなる。
例えば、粉体に対してメッシュを通過する際に磁力を掛ける方式である実施例でも使用した「強磁場磁気分離装置」では、運転直後から粒径の大きな石膏が上記メッシュを目詰まりさせ、分離操作が進行しなくなるからである。
【0037】
[脱水工程:水分含有量の調整]
一方、本発明の製造方法において、物理分離処理後に得られる磁性の強い成分(水分率40%程度)に、一般的な脱水処理を施して得られるヘマタイトケーキは、その硫黄分が1%未満と低いが、水分含有率は22wt%程度と比較的高いものが得られる。
一般的に固体物質の運送においては、水分含有量が多いと船舶輸送中に液状化現象を引き起こし、船舶の転覆を引き起こす可能性があると言われ、日本海事検定協会の調査結果では、本発明ヘマタイトの運送許容水分値(Transportable Moisture Limit:TML)は17%wt以下であった。このため、船舶搬送する場合に、本発明によるヘマタイトケーキを製造する場合、その水分含有率を下げる必要がある。
【0038】
同時に得られるヘマタイトケーキのヘマタイト粒径は1μm程度と非常に細かいので、発塵の可能性が非常に高い。この発塵は水分量が多くなると少なくなる。水分量を17wt%から下げていくと10wt%程度から発塵が著しく多くなる傾向がみられるので、水分含有量は10wt%〜17wt%が好ましく、ハンドリング時にフレコンを使用するなど防塵対策が可能である場合には、その水分含有量はより低い方が好ましい。
【0039】
そこで、水分含有量の調整を行うと良い。本発明ではヘマタイトケーキから水分を除去して、水分含有量が上記10wt%〜17wt%になるように脱水処理を行う脱水工程を施す。
その脱水方法は、加熱法、フィルタープレス法、遠心分離法などがあるが、水分除去効率の高さや経済性からフィルタープレスによる方法が望ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例、比較例により本発明をより詳細に説明する。実施例、比較例に共通の製造条件及び特性測定を表1に纏めて示す。
【0041】
【表1】
【実施例1】
【0042】
表1記載のテーリングスラリーを分離する際に、本発明を適用し、まず、表1に示す分級条件としてオーバーフローが1.2μm以下となる設定の湿式サイクロンで処理し、得られたオーバーフローを引き続き、上記の磁力選鉱装置で分離した。
固形分の処理量として、10トンのテーリングスラリーを処理し、得られたスラリー状のオーバーフローの重量は9.1トンであった。
磁力選鉱の結果、鉄品位:53%、硫黄(S)品位:0.7%の、固形分重量2.2トンのヘマタイトケーキを得た。ヘマタイトの粒径は0.6μmであった。
そのヘマタイトケーキ(10cm×20cm×1cm)を、1150℃で10分間かけて焼結させた。得られたヘマタイトの焼結体は、密度4.0g/cm、鉄品位54%、硫黄(S)品位:0.08%であった。
【実施例2】
【0043】
表1記載のテーリングスラリーを分離する際に、本発明を適用し、まず、表1に示す分級条件としてオーバーフローが1.2μm以下となる設定の湿式サイクロンで処理し、得られたオーバーフローを引き続き、磁力選鉱装置で分離した。
固形分の処理量は、10トンのテーリングスラリーを処理し、得られたスラリー状のオーバーフローの重量は9.1トンであった。
磁力選鉱で得られたヘマタイトケーキ2.2トンを、高圧フィルタープレス(高圧加熱濾過装置)をすることで、鉄品位:52%、硫黄(S)品位:0.8%、水分率15%、固形分重量2.0トンのヘマタイトケーキを得た。得られたヘマタイト粒径は0.7μmであった。
このヘマタイトケーキ(10cm×20cm×1cm)を、1350℃で10分間かけて加熱させた。得られたヘマタイトの焼結体は、密度5.0g/cm、鉄品位:53%、硫黄(S)品位:0.01%であった。
【実施例3】
【0044】
表1記載のテーリングスラリーを分離する際に、本発明を適用し、まず、表1に示す分級条件としてオーバーフローが1.2μm以下となる設定の湿式サイクロンで処理し、得られたオーバーフローを引き続き、上記の磁力選鉱装置で分離した。固形分の処理量として、10トンのテーリングスラリーを処理した。得られたスラリー状のオーバーフローの重量は9.1トンであった。
磁力選鉱で得られたヘマタイトケーキ2.2トンを高圧フィルタープレス(高圧加熱濾過装置)することで、鉄品位:52%、硫黄(S)品位:0.8%、水分率15%、2.0トンのヘマタイトケーキを得た。得られたヘマタイトの粒径は0.7μmであった。
得られたヘマタイトケーキ(10cm×20cm×1cm)を、1150℃で、10分間かけて焼結させた。
得られた焼結体は、鉄品位:53%、硫黄(S)品位:0.08%、密度4.3g/cmであった。
【実施例4】
【0045】
実施例1の処理条件において、湿式サイクロンの設定を1μm以下、磁力選鉱装置の磁界の強度を5[kGauss]とした以外は、全て同じ方法で実施例4の処理を行った。
得られたスラリー状のオーバーフローの重量は8トンであった。
磁力選鉱処理を行ったところ、鉄品位:52%、硫黄(S)品位:0.8%、固形分重量1.6トンのヘマタイトケーキが得られた。
得られたヘマタイトの粒径は0.5μmであった。
前記ヘマタイトケーキ(10cm×20cm×1cm)を、1150℃で10分間かけて焼結させた後、この焼結体をジョークラッシャーにより粉砕した。粉砕により得られたヘマタイトの焼結体は、密度4.0g/cm、鉄品位:53%、硫黄(S)品位:0.08%、粒径3mmであった。
【実施例5】
【0046】
実施例1の処理条件において、湿式サイクロンの設定を2μm以下、磁力選鉱装置の磁界の強度を20[kGauss]とした以外は、全て同じ方法で実施例5の処理を行った。
得られたスラリー状のオーバーフローの重量は9.3トンであった。
磁力選鉱処理を行ったところ、鉄品位:55%、硫黄(S)品位:0.9%、固形分重量2.3トンのヘマタイトケーキが得られた。そのヘマタイトの粒径は0.9μmであった。
このヘマタイトケーキ(10cm×20cm×1cm)を1150℃で10分間かけて焼結させた後、ジョークラッシャーを使用して粉砕した。
粉砕後に得られたヘマタイトの焼結体は、密度4.0g/cm、鉄品位:56%、硫黄(S)品位:0.08%、粒径20mmであった。
【0047】
(比較例1)
本発明を適用せず、表1記載の磁力選鉱装置を用いた磁力選鉱による分離をしなかったこと、並びに焼結も行わなかったこと以外は、実施例1と同条件で、テーリングスラリーからヘマタイトの製造を行った。
その結果、鉄品位:37%、硫黄(S)品位:5%で、7.9トンの固形分を得ることができたが、製鉄用ヘマタイトとして、単独では利用不可能なヘマタイトしか製造できなかった。
【0048】
(比較例2)
本発明を適用せず、表1記載の湿式サイクロンによる分離をしなかったこと、並びに焼結も行わなかったこと以外は、実施例1と同条件で、テーリングスラリーからヘマタイトの製造を行った。
その結果、磁力選鉱において、表1記載の装置における磁力を印加するメッシュが運転直後に目詰まりしたため、製造を継続することが出来なかった。
【0049】
(比較例3)
実施例1の処理条件において、湿式サイクロンの設定を0.4μm以下、磁力選鉱装置の磁界の強度を4[kGauss]としたこと、及び焼結を行わなかったこと以外は、全て同条件でテーリングスラリーからヘマタイトの製造を行った。
得られたスラリー状のオーバーフローの重量は0.5トンであった。
磁力選鉱処理を行ったところ、鉄品位:49%、硫黄(S)品位:1.2%、固形分重量0.01トンと、非常に少量の低品位ヘマタイトが得られた。
得られたヘマタイト粒径は0.2μmであった。
【0050】
(比較例4)
実施例1の処理条件において、湿式サイクロンの設定を2.5μm以下、磁力選鉱装置の磁界の強度を22[kGauss]としたこと、及び焼結を行わなかったこと以外は、全て同条件でテーリングスラリーからヘマタイトの製造を行った。
得られたスラリー状のオーバーフローの重量は9.3トンであった。
磁力選鉱処理を行ったところ、鉄品位:52%、硫黄(S)品位:1.5%、固形分重量2.1トンと、硫黄(S)品位が高いヘマタイトが得られた。
得られたヘマタイト粒径は1.3μmであった。
【0051】
(比較例5)
焼結温度を1400℃にした以外は、実施例2と同じ条件でテーリングスラリーからヘマタイトの製造を行った。
得られたヘマタイトの粒径は0.6μmであった。
得られたヘマタイトケーキ(10cm×20cm×1cm)を1400℃、10分の焼結を施した。
得られた焼結体は、鉄品位:52%、硫黄(S)品位:0.01%、密度5.2g/cmであった。
【0052】
(比較例6)
焼結温度を1050℃にした以外は実施例2と同じ条件でテーリングスラリーからヘマタイトの製造を行った。
得られたヘマタイトの粒径は0.6μmであった。
得られたヘマタイトケーキ(10cm×20cm×1cm)を、1050℃、10分の焼結を施した。
得られた焼結体は、鉄品位:52%、硫黄(S)品位:0.2%、密度3.8g/cmであった。
図1
図2
図3