【実施例】
【0043】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
〔実施例及び比較例で使用した材料〕
・P(3HB−co−4HB):「PURE PHA POWDER PHA−0600」(分子量約110万Da、3HB:4HB=82:18(モル比))、G5 JAPAN株式会社製
・TEOS(Si(OCH
2CH
3)
4):純度98%、シグマアルドリッチ社製
・エタノール:特級試薬、純度99.5%、和光純薬工業株式会社製
・超純水:mili−Q mili−pore
・塩酸(1規定塩酸調製用):精密分析用、純度35%以上、和光純薬工業株式会社製
・クロロホルム:特級試薬、純度90%以上、和光純薬工業株式会社製
【0045】
〔骨形成誘導フィルム(骨形成誘導材料の一例)の作製〕
(実施例1)
テトラエトキシシラン(TEOS)0.18g、エタノール(EtOH)0.08g、超純水0.02g及び塩酸(1N)0.01gを混合し、その混合物を室温で24時間撹拌して、シリカ前駆体溶液1を得た。また、P(3HB−co−4HB)1gをクロロホルム15.6gに溶解し、その溶液を室温で6時間撹拌して、ポリマー溶液を得た。
【0046】
シリカ前駆体溶液1とポリマー溶液とを混合し、その混合液を室温で6時間撹拌して、ゾル−ゲル反応を進行させた。その後、前記混合液を容器に流し出し、室温で12時間乾燥させることによって、ケイ素を含むP(3HB−co−4HB)からなる骨形成誘導フィルム1を得た。なお、骨形成誘導フィルム1のケイ素含有率は、5質量%であり、その厚みは0.18mmであった。
【0047】
(実施例2)
テトラエトキシシラン(TEOS)0.39g、エタノール(EtOH)0.16g、超純水0.05g及び塩酸(1N)0.02gを混合し、その混合物を室温で24時間撹拌して、シリカ前駆体溶液2を得た。また、実施例1と同じ条件で、ポリマー溶液を作製した。そして、シリカ前駆体溶液2とポリマー溶液とを混合し、その混合液を室温で6時間撹拌して、ゾル−ゲル反応を進行させた。その後、前記混合液を容器に流し出し、室温で12時間乾燥させることによって、ケイ素を含むP(3HB−co−4HB)からなる骨形成誘導フィルム2を得た。骨形成誘導フィルム2のケイ素含有率は、10質量%であり、その厚みは0.15mmであった。
【0048】
(実施例3)
テトラエトキシシラン(TEOS)0.62g、エタノール(EtOH)0.26g、超純水0.08g及び塩酸(1N)0.03gを混合し、その混合物を室温で24時間撹拌して、シリカ前駆体溶液3を得た。また、実施例1と同じ条件で、ポリマー溶液を作製した。そして、シリカ前駆体溶液3とポリマー溶液とを混合し、その混合液を室温で6時間撹拌して、ゾル−ゲル反応を進行させた。その後、前記混合液を容器に流し出し、室温で12時間乾燥させることによって、ケイ素を含むP(3HB−co−4HB)からなる骨形成誘導フィルム3を得た。骨形成誘導フィルム3におけるケイ素含有率は、15質量%であり、その厚みは0.17mmであった。
【0049】
(実施例4)
テトラエトキシシラン(TEOS)0.88g、エタノール(EtOH)0.37g、超純水0.11g及び塩酸(1N)0.04gを混合し、その混合物を室温で24時間撹拌して、シリカ前駆体溶液4を得た。また、実施例1と同じ条件で、ポリマー溶液を作製した。そして、シリカ前駆体溶液4とポリマー溶液とを混合し、その混合液を室温で6時間撹拌して、ゾル−ゲル反応を進行させた。その後、前記混合液を容器に流し出し、室温で12時間乾燥させることによって、ケイ素を含むP(3HB−co−4HB)からなる骨形成誘導フィルム4を得た。骨形成誘導フィルム4のケイ素含有率は、20質量%であり、その厚みは0.17mmであった。
【0050】
(実施例5)
テトラエトキシシラン(TEOS)1.18g、エタノール(EtOH)0.49g、超純水0.14g及び塩酸(1N)0.05gを混合し、その混合物を室温で24時間撹拌して、シリカ前駆体溶液5を得た。また、実施例1と同じ条件で、ポリマー溶液を作製した。そして、シリカ前駆体溶液5とポリマー溶液とを混合し、その混合液を室温で6時間撹拌して、ゾル−ゲル反応を進行させた。その後、前記混合液を容器に流し出し、室温で12時間乾燥させることによって、ケイ素を含むP(3HB−co−4HB)からなる骨形成誘導フィルム5を得た。骨形成誘導フィルム5のケイ素含有率は、25質量%であり、その厚みは0.17mmであった。
【0051】
(実施例6)
テトラエトキシシラン(TEOS)1.52g、エタノール(EtOH)0.63g、超純水0.19g及び塩酸(1N)0.07gを混合し、その混合物を室温で24時間撹拌して、シリカ前駆体溶液6を得た。また、実施例1と同じ条件で、ポリマー溶液を作製した。そして、シリカ前駆体溶液6とポリマー溶液とを混合し、その混合液を室温で6時間撹拌して、ゾル−ゲル反応を進行させた。その後、前記混合液を容器に流し出し、室温で12時間乾燥させることによって、ケイ素を含むP(3HB−co−4HB)からなる骨形成誘導フィルム6を得た。骨形成誘導フィルム6のケイ素含有率は、30質量%であり、その厚みは0.17mmであった。
【0052】
(比較例1)
実施例1と同じ条件で、ポリマー溶液を作製した。その後、前記ポリマー溶液を容器に流し出し、室温で12時間乾燥させることによって、P(3HB−co−4HB)のみからなるフィルム11を得た。フィルム11の厚みは、0.15mmであった。
【0053】
〔フィルム切断面の観察〕
実施例5で得られた骨形成誘導フィルム(ケイ素含有率;25質量%)5の一部を切断し、その切断面を、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)及び走査透過型電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)を用いて観察した。
図4は、実施例5の骨形成誘導フィルム5の切断面におけるTEM画像(暗視野像)を示す図(写真)であり、
図5は、実施例5の骨形成フィルム5の切断面におけるSTEM画像(暗視野像)を示す図(写真)である。
図4及び
図5に示されるように、フィルム5中には、ナノオーダーから2μmm程度の直径を備えたシリカの生成が確認された。なお、実施例5以外の各実施例の骨形成誘導フィルムについても、同様なシリカの生成が確認された。
【0054】
また、STEM画像と同領域のSi分布状況を、エネルギー分散X線分光法(EDS:Energy Dispersive X−ray Spectrometer)を利用して観察した。
図6は、EDSを利用して撮影された実施例5の骨形成誘導フィルム5の切断面におけるSi分布図(写真)である。
図6に示されるように、
図4のTEM画像及び
図5のSTEM画像において、粒子が認められない部分にも、ケイ素(Si)の分布が見られた。つまり、フィルム5中には、微細なシリカクラスターが含有されていることが確かめられた。なお、実施例5以外の各実施例の骨形成誘導フィルムについても、同様なシリカクラスターが含有されていることが確認された。シリカ前駆体溶液の調製方法や、試料(シリカ前駆体溶液とポリマー溶液との混合物)の乾燥時間を、適宜、調節することによって、シリカの粒子径を制御することができる。
【0055】
〔引張試験〕
実施例1の骨形成誘導フィルム1から、5mm×40mmサイズの試験片を切り出し、その試験片を用いて引張試験を行った。引張試験は、引張試験装置(AGS−G、島津製作所社製)を用い、引張速度5mm/minの条件で、破断伸び(ε−Break)を測定した。なお、ε−Break(%)は、試験片の応力−ひずみ曲線において、破断点でのひずみを表す。実施例1の試験片のε−Breakは、820%であった。
【0056】
実施例2〜6及び比較例1の各フィルム2〜6,11についても、実施例1のフィルム1と同様に、それぞれ5mm×40mmサイズの試験片を用意し、各試験片を用いて、引張試験を行った。
図7は、引張試験の結果を、破断伸び(ε−Break(%))と、ケイ素含有率(質量%)との関係でまとめたグラフである。実施例2〜6及び比較例1の各試験片の結果は、実施例1の試験片の結果と共に、
図7のグラフ中に示される。
図7のグラフにおいて、縦軸が破断伸び(ε−Break(%))であり、横軸が各フィルム中のケイ素含有率(質量%)である。
図7に示されるように、フィルム中のケイ素含有率が約30質量%までであれば、少なくとも200%程度の破断伸びを示すことが確かめられた。特に、フィルム中のケイ素含有率(質量%)が、25質量%までであれば、概ね700%を超える破断伸びを示し優れた延伸性を有することが確かめられた。
【0057】
〔水酸アパタイトの生成能の確認〕
実施例1の骨形成誘導フィルム1から、10mm×10mmサイズの試験片を切り出し、その試験片を疑似体液(SBF)中に、37℃で1日間浸漬した。なお、疑似体液(SBF)は、人体の体液(血漿)と類似したイオン濃度を持つ緩衝溶液であり、各イオン濃度は、Ca
2+が2.5mmol/L、Mg
2+が1.5mmol/L、Na
+が142.0mmol/L、K
+が5.0mmol/L、Cl
−が148.8mmol/L、HCO
3−が4.2mmol/L、HPO
42−がmmol/Lである。
【0058】
実施例2〜6及び比較例1の各フィルム2〜6,11についても、実施例1のフィルム1と同様に、それぞれ10mm×10mmサイズの試験片を用意し、各試験片を疑似体液(SBF)中に、37℃で1日間浸漬した。
【0059】
疑似体液(SBF)に浸漬後、実施例1〜6及び比較例1の各試験片の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により観察し、水酸アパタイトの生成の有無を確認した。ここで、実施例5の試験片を例に挙げて説明する。
図8は、疑似体液に浸漬後の実施例5の試験片におけるSEM画像を示す図(写真)であり、
図9は、
図8の拡大図(拡大写真)である。
図8及び
図9に示されるように、疑似体液(SBF)に浸漬後の試験片(骨形成誘導フィルム)の表面には、多数の粒塊が形成されていることが確かめられた。
【0060】
図10は、疑似体液に浸漬後の比較例1の試験片におけるSEM画像を示す図(写真)であり、
図11は、
図10の拡大図(拡大写真)である。
図10及び
図11に示されるように、ケイ素を含有していない比較例1の試験片の表面には、疑似体液(SBF)に浸漬させても、粒塊(
図8及び
図9参照)が形成されないことが確かめられた。
【0061】
次いで、疑似体液(SBF)に浸漬後の実施例5の試験片について、X線回折パターンの解析を行った。
図12は、疑似体液に浸漬後の実施例5の試験片におけるX線回折パターンを示すグラフである。
図12の縦軸は、強度(任意単位)(Intensity(a.u.))を表し、その横軸は、回折角(Diffraction Angle,2θ/degree(CuKα))を表す。
図12には、2つのグラフが示されている。
図12に示される上側のグラフは、疑似体液に浸漬後の実施例5の試験片におけるX線回折パターンに対応する。なお、
図12に示される下側のグラフは、疑似体液に浸漬する前の実施例5の試験片におけるX線回折パターンに対応する。
【0062】
図12に示されるように、疑似体液に浸漬後の試験片のX線回折パターンには、浸漬前と比べて、水酸アパタイトに由来するピーク(回折角:約26°、約32°)が現れることが確かめられた。
【0063】
なお、他の実施例(実施例1〜4,6)の各試験片についても、実施例5と同様に、走査型電子顕微鏡の観察結果等より、水酸アパタイトに由来する多数の粒塊が形成されていることが確かめられた。
【0064】
以上より、実施例1〜6の各骨形成誘導フィルムは、水酸アパタイトの生成能を有し、優れた生体活性を備えることが確かめられた。
【0065】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0066】
(1)例えば、特表2008−500140号公報には、骨折個所の外科的手術として、骨の髄を削り取り、その中に生体吸収材料等で形成された鞘を設けた構造骨組を挿入し、挿入後に構造骨組を拡大し、骨セメントを充填する方法が示されている。本発明の骨形成誘導材料は、所定形状に加工されたものを、例えば、前記公報に記載されている前記鞘に替えて用いてもよい。
【0067】
(2)また、特開2000−262609号公報には、骨折個所等の骨欠損部に骨セメントを充填する際に、骨セメントの漏洩を防止し、かつ硬化時間の遅延を防ぐために、骨セメントのペーストをフィブリンシート、コラーゲンシート、又はポリ乳酸、ポリグリコール酸の単独重合体若しくは共重合体から選択された1種からなる生体吸収性材料で包囲することが示されている。本発明の骨形成誘導材料は、所定形状に加工されたものを、例えば、前記公報に記載されている前記生体吸収性材料に替えて用いてもよい。