特許第5776983号(P5776983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5776983骨形成誘導材料、及び骨形成誘導材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776983
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】骨形成誘導材料、及び骨形成誘導材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/00 20060101AFI20150820BHJP
【FI】
   A61L27/00 F
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-194945(P2012-194945)
(22)【出願日】2012年9月5日
(65)【公開番号】特開2014-50441(P2014-50441A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2013年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】春日 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】岩田 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】平田 仁
【審査官】 小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】 Journal of the Royal Society Interface,2010年,Vol.7,No.44,p453−465
【文献】 Polymer Degradation and Stability,2010年,Vol.95,No.10,p2003−2012
【文献】 Journal of Biomedical Materials Research. Part A.,2009年,Vol.90,No.3,p894−905
【文献】 Acta Biomaterialia,2011年,Vol.7,No.10,p3616−3626
【文献】 Key Engineering Materials,2007年,Vol.330−332,No.2,p1305−1308
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00−27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカノエートと、シリコンアルコキシドとのゾル−ゲル反応生成物からなり、
前記ゾル−ゲル反応生成物に由来するケイ素を含み、
前記ケイ素の含有率が、0.01〜30質量%である骨形成誘導材料。
【請求項2】
前記ポリヒドロキシアルカノエートが、3−ヒドロキシ酪酸と、4−ヒドロキシ酪酸との共重合体を含む請求項1に記載の骨形成誘導材料。
【請求項3】
前記シリコンアルコキシドが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン及び3−アミノプロピルトリエトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる請求項1又は2に記載の骨形成誘導材料。
【請求項4】
前記ケイ素の含有率が、0.1〜28質量%である請求項1〜3の何れか一項に記載の骨形成誘導材料。
【請求項5】
破断伸び(ε‐Break(%))が、200%以上である請求項1〜4の何れか一項に記載の骨形成誘導材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の骨形成誘導材料の製造方法であって、
ポリヒドロキシアルカノエートを含む溶液と、シリコンアルコキシドを含む溶液とを混合し、得られた混合液を撹拌してゾル−ゲル反応を進行させる工程と、
ゾル−ゲル反応が進行した前記混合液を乾燥して、前記ポリヒドロキシアルカノエートと、前記シリコンアルコキシドとのゾル−ゲル反応生成物からなり、前記ゾル−ゲル反応生成物に由来するケイ素を含む骨形成誘導材料を得る工程と、を含む骨形成誘導材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨形成誘導材料、及び骨形成誘導材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨欠損部に埋入されると、骨と反応して直接化学結合する生体活性材料の一種として、生体吸収性材料が知られている。生体吸収性材料は、反応が材料の内部にまで及び次第に骨と置き換えられていく性質を備えている。生体吸収性材料は、新しく骨が生成されるにつれて、生体内で吸収されるか、分解されて体外に排出される。そして、最終的に骨欠損部は自己骨によって修復されることになる。このような生体吸収性材料は非常に有用な生体材料として注目されている。
【0003】
特許文献1には、炭酸カルシウムを含有したポリ乳酸からなる生体吸収性材料が示されている。ポリ乳酸は、生分解性高分子であり、生体内で分解されて排出される性質を備えている。このようなポリ乳酸に炭酸カルシウムを含有させて作製された生体吸収性材料を、疑似体液(SBF:Simulated Body Fluid)中に浸漬させると、その生体吸収性材料の表面には、水酸アパタイトが生成される。つまり、特許文献1に記載の生体吸収性材料は、優れた生体活性を備えていると言える。なお、非特許文献1に示されるように、材料表面の生体活性の評価として、疑似体液(SBF)を用いた浸漬実験によりアパタイト生成能の有無を確認することが有用であることが知られている。
【0004】
ところで、骨膜の修復等が行われる際、骨欠損部を被覆するように生体吸収性材料が骨(患部)に巻き付けられて使用されることがある。このような場合、生体吸収性材料は、骨等の対象物に対して、隙間なく密着(フィッティング)していなければならない。骨等の対象物は、通常、複雑な表面形状を備えているため、生体吸収性材料には、このような対象物とフィッティング可能な高い延伸性が求められている。
【0005】
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA:Polyhydroxyalkanoate)は、特定の菌種から生成される生分解性のポリエステルであり、このPHAには、単独重合体、共重合体を合わせて、百種類以上のポリマーが属することが知られている。代表的なものとしては、例えば、ポリ(3−ハイドロキシブチレート)(P(3HB))、ポリ(3−ハイドロキシブチレート−co−4−ハイドロキシブチレート)(P(3HB−co−4HB))等が挙げられる。PHAの中でも特に、P(3HB−co−4HB)は、高い延伸性を示し、4−ハイドロキシブチレート含有率が16%(モル比)の時、約450%の破断伸びを示すことが知られている(非特許文献2)。
【0006】
最近の生体関連材料の研究技術動向を見ると、材料と骨とを結合させるという材料設計から、本物の骨を再生させるための材料設計に研究内容が移行している。そして、近年、骨形成に及ぼすケイ素の役割が注目されており、ケイ素含有を特徴としたセラミックスの材料設計が行われている(非特許文献3)。例えば、ケイ素の徐放により細胞への遺伝子的働きかけが行われ、骨生成が促進されることが報告されている(非特許文献4)。
【0007】
なお、骨形成能を向上させるために、ポリ乳酸等からなる膜状の生体吸収性材料(生体吸収性膜)に、骨形成伝導剤(特許文献2)、成長因子又は骨形成態発生因子(特許文献3,4)を含有させる試みもあるが、このような因子を取り扱うことは容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−294673号公報
【特許文献2】特開平6−319794号公報
【特許文献3】特表2001−519210号公報
【特許文献4】特開2006−187303号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】T. Kokubo and H. Takadama, "How useful is SBF in predicting in vivo bone bioactivity?", Biomaterials, 27, 2907-2915 (2006)
【非特許文献2】Y. Doi, A. Segawa and M. Kunioka, "Biosynthesis and characterization of poly(3-hydroxybutyrate-co-4-hydroxybutyrate) in Alcaligenes eutrophus", Int. J. Biol. Macromol., 12 (1990)
【非特許文献3】都留寛治、小川哲朗、大串始、「生体関連材料の研究技術および標準化の動向」、セラミックス、41, 549-553 (2006)
【非特許文献4】H. Maeda, T. Kasuga and L. L. Hench, "Preparation of Poly(L-lactic acid)-Polysiloxane-Calcium Carbonate Hybrid Membranes for Guided Bone Regeneration", Biomaterials, 27, 1216-1222 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、骨の形成を誘導する機能を備えつつ、患部等の対象物に対してフィッティング可能な延伸性を備えた骨形成誘導材料、及び骨形成誘導材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、ポリヒドロキシアルカノエートと、ケイ素とを含む骨形成誘導材料が、優れた骨の形成を誘導する機能を備えつつ、患部等の対象物に対してフィッティング可能な優れた延伸性を備えることを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
前記骨形成誘導材料において、前記ポリヒドロキシアルカノエートが、3−ヒドロキシ酪酸と、4−ヒドロキシ酪酸との共重合体を含むものであってもよい。
【0013】
前記骨形成誘導材料において、前記ケイ素が、シリコンアルコキシドのゾル−ゲル反応生成物に由来するものであってもよい。
【0014】
前記骨形成誘導材料において、前記シリコンアルコキシドが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン及び3−アミノプロピルトリエトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種からなるものであってもよい。
【0015】
前記骨形成誘導材料において、前記ケイ素の含有率が、0.01〜28質量%であるものであってもよい。
【0016】
また、本発明者は、ポリヒドロキシアルカノエートを含む溶液と、シリコンアルコキシドを含む溶液とを混合し、得られた混合液を撹拌してゾル−ゲル反応を進行させる工程と、ゾル−ゲル反応が進行した前記混合液を乾燥して、ポリヒドロキシアルカノエートとケイ素とを含む骨形成誘導材料を得る工程と、を含む骨形成誘導材料の製造方法により得られる骨形成誘導材料が、優れた骨の形成を誘導する機能を備えつつ、患部等の対象物に対してフィッティング可能な優れた延伸性を備えることを見出した。
【0017】
前記骨形成誘導材料の製造方法において、記ポリヒドロキシアルカノエートが、3−ヒドロキシ酪酸と、4−ヒドロキシ酪酸との共重合体を含むものであってもよい。
【0018】
前記骨形成誘導材料の製造方法において、前記シリコンアルコキシドが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン及び3−アミノプロピルトリエトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種からなるものであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、骨の形成を誘導する機能を備えつつ、患部等の対象物に対してフィッティング可能な延伸性を備えた骨形成誘導材料、及び骨形成誘導材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、綿状の骨形成誘導材料で、骨片を包む様子が模式的に表された説明図である。
図2図2は、固定部材によって隣り合った腰椎同士を固定した状態が模式的に表された説明図である。
図3図3は、図2の固定部材に骨片を包んだ骨形成誘導材料が巻き付けられた状態が模式的に表された説明図である。
図4図4は、実施例5の骨形成誘導フィルムの切断面におけるTEM画像(暗視野像)を示す図(写真)である。
図5図5は、実施例5の骨形成誘導フィルムの切断面におけるSTEM画像(暗視野像)を示す図(写真)である。
図6図6は、EDSを利用して撮影された実施例5の骨形成誘導フィルムの切断面におけるSi分布図(写真)である。
図7図7は、引張試験の結果を、破断伸び(ε−Break(%))と、ケイ素含有率(質量%)との関係でまとめたグラフである。
図8図8は、疑似体液に浸漬後の実施例5の試験片におけるSEM画像を示す図(写真)である。
図9図9は、図8の拡大図(拡大写真)である。
図10図10は、疑似体液に浸漬後の比較例1の試験片におけるSEM画像を示す図(写真)である。
図11図11は、図10の拡大図(拡大写真)である。
図12図12は、疑似体液に浸漬後の実施例5の試験片におけるX線回折パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔骨形成誘導材料〕
本実施形態の骨形成誘導材料は、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を主成分(ベースポリマー)として含み、PHA以外の成分としてケイ素(Si)を必須成分として含んでいる。
【0022】
PHAは、生分解性材料として知られており、ヒドロキシル基が付随したアルカン酸を構成モノマーとし、それらがエステル結合してポリマーを形成したものからなる。
【0023】
PHAを構成する代表的なモノマーとしては、3−ヒドロキシ酪酸(3HB)、3−ヒドロキシ吉草酸(3HV)、4−ヒドロキシ酪酸(4HB)、3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)、3−ヒドロキシヘキサン酸(3HH)、3−ヒドロキシオクタン酸(3HO)、3−ヒドロキシデカン酸(3HD)、4−ヒドロキシ吉草酸(4HV)等が挙げられる。PHAとしては、これらモノマーを単独で用いてポリマーを形成したものでもよいし、2種以上のモノマーを組み合せて、ランダム又はブロック共重合体を形成したものであってもよい。
【0024】
なお、PHAとしては、延伸性(柔軟性)に優れる等の理由により、P(3HB−co−3HB)、P(3HB−co−4HB)、P(3HB−co−4HV)等の共重合体を用いることが好ましい。共重合体の構成モノマーの比率を適宜調整することによって、PHAに柔軟性(延伸性)を持たせることができる。
【0025】
共重合体の中でも、特に、PHAとしては、ポリ(3−ハイドロキシブチレート−co−4−ハイドロキシブチレート)(P(3HB−co−4HB))が、延伸性(柔軟性)、加工性等に優れるため好ましい。また、P(3HB−co−4HB)の場合、共重合体中の4HBの割合は、モル比で5〜50%が好ましく、10〜20%がより好ましい。これらの比率のPHAは、公知の方法で製造してもよいし、例えば、上市されている商品名「PURE PHA POWDER PHA−0600」(G5 JAPAN社製)等を用いてもよい。
【0026】
PHAの分子量は、50kDa〜3,000kDaが好ましく、300kDa〜1,500kDaがより好ましい。分子量が50kDa未満であると、PHAの分解性が激しくなりすぎることがある。また、分子量が3,000kDaを超えると、PHAの分解が遅くなりすぎることがあり(例えば、数年以上)、骨形成誘導材料の材料として好ましくない。
【0027】
なお、本実施形態の骨形成誘導材料には、本発明の目的を達成できる範囲において、上記PHA以外に、グリコール酸等が添加されていてもよい。
【0028】
骨形成誘導材料の製造時等において、PHAを溶解させるために利用される溶剤としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられる。
【0029】
骨形成誘導材料に含まれるケイ素(Si)は、例えば、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)等のシリコンアルコキシドを用いたゾル−ゲル反応の生成物から得られる。骨形成誘導材料中において、ケイ素(Si)は、シリカやシロキサン等の状態で存在していると推測される。骨形成誘導材料中におけるケイ素の含有率(質量%)は、0.01〜30質量%が好ましく、0.1〜28質量%がより好ましく、0.1〜25質量%が特に好ましい。ケイ素含有率が0.01〜30質量%であると、骨形成誘導材料に最低限、必要な延伸性が確保される。更に、ケイ素含有率が0.1〜28質量%であると、患部に対して良好にフィッティング可能な延伸性を確保することができ、特に、ケイ素含有率が0.1〜25質量%であると、骨形成誘導材料の延伸性が特に優れるものとなる。
【0030】
骨形成誘導材料には、PHA、ケイ素以外に、例えば、リン酸三カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カルシウム、リン酸八カルシウム、リン酸四カルシウム、ピロリン酸カルシウム、塩化カルシウム等の無機物等の生体用として問題のない成分が含まれていてもよい。
【0031】
骨形成誘導材料の製造方法としては、例えば、PHAを含む溶液と、シリコンアルコキシドを含む溶液とを混合し、得られた混合液を撹拌してゾル−ゲル反応を進行させる工程1と、ゾル−ゲル反応が進行した前記混合液を乾燥して、PHAとケイ素とを含む骨形成誘導材料を得る工程2と、を含む方法がある。
【0032】
なお、前記工程1において利用されるPHAを含む溶液(ポリマー溶液)は、クロロホルム、ジクロロメタン等の溶剤に、PHAを任意の濃度で溶解して調製される。また、前記工程1において利用されるシリコンアルコキシドを含む溶液(シリカ前駆体溶液)は、エタノール、メタノール、イソプロパノール等の低級アルコールと、水(超純水)と、酸及び/又は塩基からなる触媒とを混合して調製される。前記触媒としては、例えば、塩酸、酢酸、アンモニア、水酸化ナトリウム等が利用される。
【0033】
前記工程1において、PHAを含む溶液と、シリコンアルコキシドを含む溶液とが、所定の容器内で混合される。そして、前記溶液同士が混合された混合液を撹拌して、前記混合液中において、ゾル−ゲル反応を進行させる。なお、前記混合液の撹拌時間、温度等の諸条件は、目的物(骨形成誘導材料)に応じて、適宜、設定される。
【0034】
前記工程2では、前記工程1においてゾル−ゲル反応が進行した前記混合液の乾燥が行われる。前記混合液が乾燥すると、目的物である骨形成誘導材料が得られる。なお、前記混合液の乾燥時において、前記混合液を所定の容器内に流し出し、所定形状(例えば、フィルム状)の骨形成誘導材料を得てもよい。
【0035】
骨形成誘導材料は、目的に応じて、様々な形態に加工されて用いられてもよい。骨形成誘導材料は、例えば、フィルム状、シート状等の膜状に加工されてもよいし、糸状、紐状に加工されてもよい。また、骨形成誘導材料は、不織布状、綿状、織物状等に加工されてもよいし、塊状に加工されてもよい。
【0036】
骨形成誘導材料は、例えば、生体内で使用されると骨形成誘導材料のPHAが分解されて、PHA中に含まれていたケイ素が徐々に生体内(体液中)に放出される機能を備えている。このように骨形成誘導材料は、ケイ素を徐放することによって、骨再建能力を有効に導き出すことができる。また、骨形成誘導材料は、ケイ素を含むことにより、PHAのみの場合と比べて、親水性が向上している。そのため、骨形成誘導材料は、PHAそのもの等と比べて、体液等となじみ易くなっている。
【0037】
骨形成誘導材料は、体液(疑似体液を含む)や骨組織等と接触すると、それ自身の表面上で、水酸アパタイトを生成させる機能を備えており、生体活性を備えている。つまり、骨形成誘導材料は、骨の形成を誘導する機能(骨再建能力)を備えている。
【0038】
骨形成誘導材料は、骨の形成を誘導する機能を備えた生体吸収性材料であり、骨欠損部の修復や、新たな骨の形成等の様々な用途に用いることができる。
【0039】
ここで、図1図3を参照しつつ、本実施形態の骨形成誘導材料の使用例を説明する。ここでは、脊椎(腰椎)の損傷個所を、綿状に加工された骨形成誘導材料を利用して修復する方法を説明する。図1は、綿状の骨形成誘導材料1で骨片2を包む様子が模式的に表された説明図である。図1に示されるように、適当な大きさに整えられた骨形成誘導材料1を長手状に広げて、その上に、損傷した骨(腰椎)の中から削り出された骨片2が長手方向に沿って並ぶように複数個載せられる。そして、骨片2を包むように骨形成誘導材料1が長手方向に沿って二つ折りにされる。その後、骨形成誘導材料1は骨片2を包んだ状態で、全体的に細長く延びた紐状となるように、形が整えられる。
【0040】
図2は、固定部材3によって隣り合った腰椎4,5同士を固定した状態が模式的に表された説明図である。図2には、チタン製の固定部材3を介して、隣り合った第4腰椎4と第5腰椎5とが固定され、かつ補強されている状態が示されている。固定部材3は、細長く延びた棒状をなし、腰椎の並び方向に概ね沿う形で配される本体部30と、この本体部30の一端から第4腰椎4側に向かって延びると共に、その先端が第4腰椎4に挿し込まれる(螺着される)形で固定される第1固定端31と、本体部30の他端から第5腰椎5側に向かって延びると共に、その先端が第5腰椎5に挿し込まれる(螺着される)形で固定される第2固定端32とを備えている。
【0041】
図3は、図2の固定部材3に骨片2を包んだ骨形成誘導材料1が巻き付けられた状態が模式的に表された説明図である。図3に示されるように、腰椎4,5を固定する固定部材3の表面に、骨片2を包んだ紐状の骨形成誘導材料1が巻き付けられている。本実施形態の骨形成誘導材料1は、特に延伸性に優れるため、腰椎4,5を固定している固定部材3に対してフィッティングさせつつ、巻き付けることができる。図3に示されるように、骨形成誘導材料1は、全体的には、固定部材3を包み込む繭のような形をなしている。なお、固定部材3に対して、複数の骨形成誘導材料1が巻き付けられてもよい。
【0042】
このような骨形成誘導材料1を用いた施術後、時間の経過に伴い、固定部材3の周囲に新しく骨が形成されることになる。その際、骨形成誘導材料1中のPHAは、体内で徐々に分解されて骨に置き換わっていく。このように、腰椎損傷の治療の際、固定部材3の表面を、骨で被覆するために骨形成誘導材料を用いてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
〔実施例及び比較例で使用した材料〕
・P(3HB−co−4HB):「PURE PHA POWDER PHA−0600」(分子量約110万Da、3HB:4HB=82:18(モル比))、G5 JAPAN株式会社製
・TEOS(Si(OCH2CH):純度98%、シグマアルドリッチ社製
・エタノール:特級試薬、純度99.5%、和光純薬工業株式会社製
・超純水:mili−Q mili−pore
・塩酸(1規定塩酸調製用):精密分析用、純度35%以上、和光純薬工業株式会社製
・クロロホルム:特級試薬、純度90%以上、和光純薬工業株式会社製
【0045】
〔骨形成誘導フィルム(骨形成誘導材料の一例)の作製〕
(実施例1)
テトラエトキシシラン(TEOS)0.18g、エタノール(EtOH)0.08g、超純水0.02g及び塩酸(1N)0.01gを混合し、その混合物を室温で24時間撹拌して、シリカ前駆体溶液1を得た。また、P(3HB−co−4HB)1gをクロロホルム15.6gに溶解し、その溶液を室温で6時間撹拌して、ポリマー溶液を得た。
【0046】
シリカ前駆体溶液1とポリマー溶液とを混合し、その混合液を室温で6時間撹拌して、ゾル−ゲル反応を進行させた。その後、前記混合液を容器に流し出し、室温で12時間乾燥させることによって、ケイ素を含むP(3HB−co−4HB)からなる骨形成誘導フィルム1を得た。なお、骨形成誘導フィルム1のケイ素含有率は、5質量%であり、その厚みは0.18mmであった。
【0047】
(実施例2)
テトラエトキシシラン(TEOS)0.39g、エタノール(EtOH)0.16g、超純水0.05g及び塩酸(1N)0.02gを混合し、その混合物を室温で24時間撹拌して、シリカ前駆体溶液2を得た。また、実施例1と同じ条件で、ポリマー溶液を作製した。そして、シリカ前駆体溶液2とポリマー溶液とを混合し、その混合液を室温で6時間撹拌して、ゾル−ゲル反応を進行させた。その後、前記混合液を容器に流し出し、室温で12時間乾燥させることによって、ケイ素を含むP(3HB−co−4HB)からなる骨形成誘導フィルム2を得た。骨形成誘導フィルム2のケイ素含有率は、10質量%であり、その厚みは0.15mmであった。
【0048】
(実施例3)
テトラエトキシシラン(TEOS)0.62g、エタノール(EtOH)0.26g、超純水0.08g及び塩酸(1N)0.03gを混合し、その混合物を室温で24時間撹拌して、シリカ前駆体溶液3を得た。また、実施例1と同じ条件で、ポリマー溶液を作製した。そして、シリカ前駆体溶液3とポリマー溶液とを混合し、その混合液を室温で6時間撹拌して、ゾル−ゲル反応を進行させた。その後、前記混合液を容器に流し出し、室温で12時間乾燥させることによって、ケイ素を含むP(3HB−co−4HB)からなる骨形成誘導フィルム3を得た。骨形成誘導フィルム3におけるケイ素含有率は、15質量%であり、その厚みは0.17mmであった。
【0049】
(実施例4)
テトラエトキシシラン(TEOS)0.88g、エタノール(EtOH)0.37g、超純水0.11g及び塩酸(1N)0.04gを混合し、その混合物を室温で24時間撹拌して、シリカ前駆体溶液4を得た。また、実施例1と同じ条件で、ポリマー溶液を作製した。そして、シリカ前駆体溶液4とポリマー溶液とを混合し、その混合液を室温で6時間撹拌して、ゾル−ゲル反応を進行させた。その後、前記混合液を容器に流し出し、室温で12時間乾燥させることによって、ケイ素を含むP(3HB−co−4HB)からなる骨形成誘導フィルム4を得た。骨形成誘導フィルム4のケイ素含有率は、20質量%であり、その厚みは0.17mmであった。
【0050】
(実施例5)
テトラエトキシシラン(TEOS)1.18g、エタノール(EtOH)0.49g、超純水0.14g及び塩酸(1N)0.05gを混合し、その混合物を室温で24時間撹拌して、シリカ前駆体溶液5を得た。また、実施例1と同じ条件で、ポリマー溶液を作製した。そして、シリカ前駆体溶液5とポリマー溶液とを混合し、その混合液を室温で6時間撹拌して、ゾル−ゲル反応を進行させた。その後、前記混合液を容器に流し出し、室温で12時間乾燥させることによって、ケイ素を含むP(3HB−co−4HB)からなる骨形成誘導フィルム5を得た。骨形成誘導フィルム5のケイ素含有率は、25質量%であり、その厚みは0.17mmであった。
【0051】
(実施例6)
テトラエトキシシラン(TEOS)1.52g、エタノール(EtOH)0.63g、超純水0.19g及び塩酸(1N)0.07gを混合し、その混合物を室温で24時間撹拌して、シリカ前駆体溶液6を得た。また、実施例1と同じ条件で、ポリマー溶液を作製した。そして、シリカ前駆体溶液6とポリマー溶液とを混合し、その混合液を室温で6時間撹拌して、ゾル−ゲル反応を進行させた。その後、前記混合液を容器に流し出し、室温で12時間乾燥させることによって、ケイ素を含むP(3HB−co−4HB)からなる骨形成誘導フィルム6を得た。骨形成誘導フィルム6のケイ素含有率は、30質量%であり、その厚みは0.17mmであった。
【0052】
(比較例1)
実施例1と同じ条件で、ポリマー溶液を作製した。その後、前記ポリマー溶液を容器に流し出し、室温で12時間乾燥させることによって、P(3HB−co−4HB)のみからなるフィルム11を得た。フィルム11の厚みは、0.15mmであった。
【0053】
〔フィルム切断面の観察〕
実施例5で得られた骨形成誘導フィルム(ケイ素含有率;25質量%)5の一部を切断し、その切断面を、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)及び走査透過型電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)を用いて観察した。図4は、実施例5の骨形成誘導フィルム5の切断面におけるTEM画像(暗視野像)を示す図(写真)であり、図5は、実施例5の骨形成フィルム5の切断面におけるSTEM画像(暗視野像)を示す図(写真)である。図4及び図5に示されるように、フィルム5中には、ナノオーダーから2μmm程度の直径を備えたシリカの生成が確認された。なお、実施例5以外の各実施例の骨形成誘導フィルムについても、同様なシリカの生成が確認された。
【0054】
また、STEM画像と同領域のSi分布状況を、エネルギー分散X線分光法(EDS:Energy Dispersive X−ray Spectrometer)を利用して観察した。図6は、EDSを利用して撮影された実施例5の骨形成誘導フィルム5の切断面におけるSi分布図(写真)である。図6に示されるように、図4のTEM画像及び図5のSTEM画像において、粒子が認められない部分にも、ケイ素(Si)の分布が見られた。つまり、フィルム5中には、微細なシリカクラスターが含有されていることが確かめられた。なお、実施例5以外の各実施例の骨形成誘導フィルムについても、同様なシリカクラスターが含有されていることが確認された。シリカ前駆体溶液の調製方法や、試料(シリカ前駆体溶液とポリマー溶液との混合物)の乾燥時間を、適宜、調節することによって、シリカの粒子径を制御することができる。
【0055】
〔引張試験〕
実施例1の骨形成誘導フィルム1から、5mm×40mmサイズの試験片を切り出し、その試験片を用いて引張試験を行った。引張試験は、引張試験装置(AGS−G、島津製作所社製)を用い、引張速度5mm/minの条件で、破断伸び(ε−Break)を測定した。なお、ε−Break(%)は、試験片の応力−ひずみ曲線において、破断点でのひずみを表す。実施例1の試験片のε−Breakは、820%であった。
【0056】
実施例2〜6及び比較例1の各フィルム2〜6,11についても、実施例1のフィルム1と同様に、それぞれ5mm×40mmサイズの試験片を用意し、各試験片を用いて、引張試験を行った。図7は、引張試験の結果を、破断伸び(ε−Break(%))と、ケイ素含有率(質量%)との関係でまとめたグラフである。実施例2〜6及び比較例1の各試験片の結果は、実施例1の試験片の結果と共に、図7のグラフ中に示される。図7のグラフにおいて、縦軸が破断伸び(ε−Break(%))であり、横軸が各フィルム中のケイ素含有率(質量%)である。図7に示されるように、フィルム中のケイ素含有率が約30質量%までであれば、少なくとも200%程度の破断伸びを示すことが確かめられた。特に、フィルム中のケイ素含有率(質量%)が、25質量%までであれば、概ね700%を超える破断伸びを示し優れた延伸性を有することが確かめられた。
【0057】
〔水酸アパタイトの生成能の確認〕
実施例1の骨形成誘導フィルム1から、10mm×10mmサイズの試験片を切り出し、その試験片を疑似体液(SBF)中に、37℃で1日間浸漬した。なお、疑似体液(SBF)は、人体の体液(血漿)と類似したイオン濃度を持つ緩衝溶液であり、各イオン濃度は、Ca2+が2.5mmol/L、Mg2+が1.5mmol/L、Naが142.0mmol/L、Kが5.0mmol/L、Clが148.8mmol/L、HCOが4.2mmol/L、HPO2−がmmol/Lである。
【0058】
実施例2〜6及び比較例1の各フィルム2〜6,11についても、実施例1のフィルム1と同様に、それぞれ10mm×10mmサイズの試験片を用意し、各試験片を疑似体液(SBF)中に、37℃で1日間浸漬した。
【0059】
疑似体液(SBF)に浸漬後、実施例1〜6及び比較例1の各試験片の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により観察し、水酸アパタイトの生成の有無を確認した。ここで、実施例5の試験片を例に挙げて説明する。図8は、疑似体液に浸漬後の実施例5の試験片におけるSEM画像を示す図(写真)であり、図9は、図8の拡大図(拡大写真)である。図8及び図9に示されるように、疑似体液(SBF)に浸漬後の試験片(骨形成誘導フィルム)の表面には、多数の粒塊が形成されていることが確かめられた。
【0060】
図10は、疑似体液に浸漬後の比較例1の試験片におけるSEM画像を示す図(写真)であり、図11は、図10の拡大図(拡大写真)である。図10及び図11に示されるように、ケイ素を含有していない比較例1の試験片の表面には、疑似体液(SBF)に浸漬させても、粒塊(図8及び図9参照)が形成されないことが確かめられた。
【0061】
次いで、疑似体液(SBF)に浸漬後の実施例5の試験片について、X線回折パターンの解析を行った。図12は、疑似体液に浸漬後の実施例5の試験片におけるX線回折パターンを示すグラフである。図12の縦軸は、強度(任意単位)(Intensity(a.u.))を表し、その横軸は、回折角(Diffraction Angle,2θ/degree(CuKα))を表す。図12には、2つのグラフが示されている。図12に示される上側のグラフは、疑似体液に浸漬後の実施例5の試験片におけるX線回折パターンに対応する。なお、図12に示される下側のグラフは、疑似体液に浸漬する前の実施例5の試験片におけるX線回折パターンに対応する。
【0062】
図12に示されるように、疑似体液に浸漬後の試験片のX線回折パターンには、浸漬前と比べて、水酸アパタイトに由来するピーク(回折角:約26°、約32°)が現れることが確かめられた。
【0063】
なお、他の実施例(実施例1〜4,6)の各試験片についても、実施例5と同様に、走査型電子顕微鏡の観察結果等より、水酸アパタイトに由来する多数の粒塊が形成されていることが確かめられた。
【0064】
以上より、実施例1〜6の各骨形成誘導フィルムは、水酸アパタイトの生成能を有し、優れた生体活性を備えることが確かめられた。
【0065】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0066】
(1)例えば、特表2008−500140号公報には、骨折個所の外科的手術として、骨の髄を削り取り、その中に生体吸収材料等で形成された鞘を設けた構造骨組を挿入し、挿入後に構造骨組を拡大し、骨セメントを充填する方法が示されている。本発明の骨形成誘導材料は、所定形状に加工されたものを、例えば、前記公報に記載されている前記鞘に替えて用いてもよい。
【0067】
(2)また、特開2000−262609号公報には、骨折個所等の骨欠損部に骨セメントを充填する際に、骨セメントの漏洩を防止し、かつ硬化時間の遅延を防ぐために、骨セメントのペーストをフィブリンシート、コラーゲンシート、又はポリ乳酸、ポリグリコール酸の単独重合体若しくは共重合体から選択された1種からなる生体吸収性材料で包囲することが示されている。本発明の骨形成誘導材料は、所定形状に加工されたものを、例えば、前記公報に記載されている前記生体吸収性材料に替えて用いてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…骨形成誘導材料、2…骨片、3…固定部材、4…腰椎(第4腰椎)、5…腰椎(第5腰椎)
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