【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構委託事業「グリーンセンサ・ネットワークシステム技術開発プロジェクト」「グリーンMEMSセンサの開発」、委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。
【0009】
(1)本発明のガスセンサの概略
図1において、1は本発明によるガスセンサを示し、このガスセンサ1は、例えばCO
2を検出対象として検出し得るようになされている。実際上、ガスセンサ1は、図示しない光源からの入射光L1が入射されるプリズム6を有し、プリズム6に入射された入射光L1の照射範囲に金属層7を備えており、この金属層7の表面7a上にイオン液体ILが設けられた構成を有する。
【0010】
実際上、プリズム6は、例えばガラスやアクリル等の透明部材からなり、光源から発した入射光L1が内部に透過し得るようになされている。また、この実施の形態の場合、プリズム6は、ほぼ三角柱状に形成されており、四辺状の入射面6bに入射光L1が入射され得るようになされている。プリズム6は、入射面6bから入射された入射光L1が内部を透過して、他の四辺状の照射面6aに蒸着された金属層7まで到達し得るようになされており、当該金属層7にて入射光L1の経路を変更させた後、他の四辺状の出射面から出射光L2として出射し得るようになされている。
【0011】
また、この金属層7には、壁部3aと天板部3bとから構成された枠体3が表面7aに固着されており、この枠体3によりイオン液体ILが表面7a上にとどめられている。実際上、枠体3は、例えばシリコンにより形成され、その高さが250[μm]に選定されている。また、枠体3は、一辺が10[mm]に選定された額縁状の壁部3aに板状の天板部3bが設けられ、金属層7の表面7aと、壁部3aと、天板部3bとで囲まれた内部空間を形成し、この内部空間にイオン液体ILをとどめるようになされている。
【0012】
ここで、枠体3は、天板部3bに複数の貫通孔10が穿設された構成を有し、
図1のガスセンサ1の一部を拡大したエリアER1に示すように、貫通孔10から外部に内部空間のイオン液体ILを露出させ、当該内部空間のイオン液体ILに、枠体3の外周辺の外気に接触させ得るようになされている。これにより枠体3内に保持されたイオン液体ILは、外気に含まれる検出対象たるガスを吸収し得るようになされている。因みに、枠体3は、天板部3bに穿設される貫通孔10が微小であることから、内部空間に注入されたイオン液体ILが貫通孔10により外気に露出されるものの、その表面張力により貫通孔10から漏れ出ることなく枠体3内にとどまり続け、イオン液体ILを金属層7の表面7a上に安定して保持し得るようになされている。
【0013】
ここで、イオン液体ILが載置される金属層7は、例えばAuやCr/Au部材からなり膜厚は約50nmに選定されている。金属層7は、プリズム6内を透過した入射光L1が入射角θにて照射されると、入射光L1を反射させて経路を変更させ得る。なお、ここで入射角θとは、金属層7の面と直交した垂線に対する入射光L1の角度をいう。かかる構成に加えて、この金属層7は、入射光L1が照射された際、表面7aに載置されたイオン液体ILの誘電率の状態に応じて、表面プラズモン共鳴現象を発生させ得るようになされている。
【0014】
因みに、表面プラズモン共鳴現象とは、プリズム6に入射光L1を入射すると、金属層7を蒸着したプリズム表面において常時発生しているエバネッセント波と、金属層7の表面7aにおいて励起された表面プラズモン波とが共鳴し、金属層7にて反射する出射光L2の光強度(以下、これを反射強度ともいう)が減少する現象をいう。
【0015】
ここで、ガス吸収液体としてのイオン液体ILは、例えば[EMIM][BF
4](1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート)や、[BMIM][BF
4](1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート)、[BMIM][PF
6](1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスファート)、[OMIM][Br](1-n-オクチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド)の他、[Hmpy][Tf
2N]、[Hmim][Tf
2N]、[Bmim][Tf
2N]、[C
6H
4F
9mim][Tf
2N]、[Amim][BF
4]、[Pabim][Bf
4]、[Am-im][DCA]、[Am-im][BF
4]、[BMIM][BF
4]+PVDF、[C
3NH
2mim][CF
6SO
3]+PTFE、[C
3NH
2mim][Tf
2N]+PTFE、[H
2NC
3H
6mim][Tf
2N]+cross-linked
Nylon66、P[VBBI][BF
4]、P[MABI][BF
4]、P[VBBI][Tf
2N]、P[VBTMA][BF
4]、P[MATMA][BF
4]等からなり、検出対象となるガスの種類に応じて当該ガスを吸収可能なイオン液体が適宜選定され得る。
【0016】
ここで、例えば、CO
2を検出可能なガスセンサ1とする場合には、CO
2が吸収可能な[EMIM][BF
4]、[EMIM][BF
4]、[BMIM][BF
4]、[BMIM][PF
6]、[Hmpy][Tf
2N]、[Hmim][Tf
2N]、[Bmim][Tf
2N]、[C
6H
4F
9mim][Tf
2N]、[Amim][BF
4]、[Pabim][Bf
4]、[Am-im][DCA]、[Am-im][BF
4]、[BMIM][BF
4]+PVDF、[C
3NH
2mim][CF
6SO
3]+PTFE、[C
3NH
2mim][Tf
2N]+PTFE、[H
2NC
3H
6mim][Tf
2N]+cross-linked Nylon66、P[VBBI][BF
4]、P[MABI][BF
4]、P[VBBI][Tf
2N]、P[VBTMA][BF
4]、P[MATMA][BF
4]等をイオン液体ILとして用いる。また、NH
3を検出可能なガスセンサ1とする場合には、NH
3が吸収可能な[EMIM][BF
4]など、水を吸収するイオン液体全般をイオン液体ILとして用いる。なお、このイオン液体ILには、例えばPEI(ポリエチレンイミン)を添加してもよい。
【0017】
さらに、上述した実施の形態においては、ガス吸収液体として、イオン液体ILを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えばアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物水溶液等その他種々のガス吸収液体を適用してもよい。なお、ガス吸収液体としてアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物水溶液を用いた場合には、CO
2を吸収することができるので、検出対象をCO
2とするガスセンサを実現できる。
【0018】
このようなイオン液体ILは、検出対象たるガスを吸収すると、当該ガスの吸収量に応じて誘電率が変化し得るようになされている。イオン液体ILが載置された金属層7は、イオン液体ILにて誘電率が変化すると、この誘電率の変化に応じて出射光L2の光強度(反射強度)が変化し得るようになされている。
【0019】
実際上、
図2Aに示すように、金属層7は、例えば外気中に検出対象たるガスが含まれていないとき、イオン液体ILにてガスによる誘電率の変化が生じておらず、入射角θにて照射された入射光L1を反射させて、出射光L2として所定の光強度にて出射し得る。一方、
図2Bに示すように、金属層7は、例えば外気中に検出対象たるガスが含まれているとき、ガスによりイオン液体ILの誘電率が変化し、同じ入射角θにて入射光L1を入射させても、誘電率変化の影響を受けて金属層7の面方向に発生した表面プラズモン波L3がエバネッセント波と共鳴し、出射光L2の光強度(反射強度)を減少させ得る。
【0020】
そして、
図3に示すように、このガスセンサは、出射面6cと対向する位置に出射光L2の光強度を測定する強度計Cを備えており、表面プラズモン共鳴現象により生じる出射光L2の光強度の変化を強度計Cにより測定し得る。ガスセンサ1は、この強度計Cによって、イオン液体ILの誘電率変化に応じて金属層7で生じる表面プラズモン共鳴現象による出射光L2の光強度変化を測定し、その測定結果に基づいて外気に含まれるガスを検出し得るようになされている。
【0021】
実際上、このガスセンサ1は、
図4に示すように、検出対象であるCO
2の濃度が低いとき、例えば入射角θ
sp1にて表面プラズモン共鳴現象により反射強度が減少する測定結果が得られる。これに対して、検出対象であるCO
2の濃度が高い場合、ガスセンサ1では、入射角θ
sp1とは異なる入射角θ
sp2にて表面プラズモン共鳴現象により反射強度が減少する測定結果が得られ、表面プラズモン共鳴現象により反射強度が減少するディップ角が、CO
2の濃度に応じて入射角θ
sp1から入射角θ
sp2へと変化し得る。かくして、このガスセンサ1では、イオン液体ILの誘電率変化に応じて金属層7で生じる表面プラズモン共鳴現象による出射光L2の光強度変化を基に、外気中にCO
2が所定濃度以上含まれているか否かを検出し得るようになされている。また、表面プラズモン共鳴現象により反射強度が減少するディップ角は、CO
2の濃度に応じて変化する。このことから、このガスセンサ1では、出射光L2の光強度の変化量や、ディップ角の変化量に基づいて、外気中に含まれるCO
2の濃度を推測し得るようになされている。
【0022】
(2)ガスセンサの製造方法
次に本発明のガスセンサ1の製造方法について説明する。ここでは、枠体の製造方法について説明した後、この枠体を用いたガスセンサの製造方法について順に説明する。先ず初めに、
図5に示すように、天板部3bとなる厚さ250[μm]のシリコン基板12を用意し、
図6に示すように、650[μm]の間隔で縦横500[μm]の貫通孔13aを有したレジスト層13を、当該シリコン基板12の一面に形成する。また、これとは別に、スピンコート及びパターニングにより、例えば厚さ30[μm]のレジスト部材(日本化薬(株)製KMPR-1035)によってシリコン基板12の他面に壁部3aを形成する。
【0023】
次いで、シリコン基板12の一面に設けたレジスト層13を用いて、当該シリコン基板12をエッチングした後、レジスト層13を除去し、
図7に示すように、複数の貫通孔10を有した天板部3bを形成し、かくして網目状の天板部3bの枠に沿って他面に額縁状の壁部3aが固着された枠体3を形成する。次いで、
図8に示すように、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS:Polydimethylsiloxane)でなる接着層14を、後述するプリズム6上の金属層7に、枠体3を固着させるため、壁部3aの底面部に形成する。
【0024】
次に、このようにして作製した枠体3を用いるガスセンサ1の製造方法について説明する。ここでは、先ず初めに、
図9に示すような三角柱状のガラス(例えばSF11ガラス製、光波長675[nm]で屈曲率1.774)でなるプリズム6を用意した後、四辺状でなる平坦な照射面6aにだけ、
図10に示すようなCr/Au(2[nm]/50[nm])でなる金属層7を蒸着させる。なお、この金属層7の膜厚は、表面プラズモン共鳴の感度を最大にするよう最適化する。
【0025】
次いで、
図11に示すように、予め作製した枠体3の壁部3aを、プリズム6上の金属層7に載置した後、110[℃]で5分、ヒーターにて加熱して接着層14にて枠体3の壁部3aを金属層7に固着させる。次いで、
図12に示すように、スポイト等の注入手段15を介して枠体3の貫通孔10から枠体3の内部空間にイオン液体ILを注入することにより、
図13に示すような本発明のガスセンサ1を製造し得る。
【0026】
(3)検証試験
次に各種検証試験について説明する。ここでは、上述した製造方法に従って、
図14に示すように、金属層7がほぼ水平に保たれて、10[mm]×10[mm]の枠体3内に10[μl]のイオン液体ILを保持させつつ、枠体3の500[μm]×500[μm]の貫通孔10から外部にイオン液体ILを露出させたガスセンサ1を製造した。なお、このガスセンサ1における枠体3の外部への開口率は60[%]とした。
【0027】
そして、
図15に示すような実験装置20を用いてガスセンサ1にて検出対象たるCO
2を検出し得るか否かについて検証を行った。実際上、この実験装置20では、ガス供給装置25を備えており、ガス供給装置25から、ガスセンサ1に設けた隔離室22に所定のCO
2濃度に調整した気体を供給した。ここで、ガス供給装置25は、チャンバ26とガス貯留部27とポンプPとを備えており、ガス貯留部27からチャンバ26内にCO
2が供給され、チャンバ26内の濃度センサ26aの検出濃度を目安に、チャンバ26内にて所定のCO2濃度に調整した気体を生成した。
【0028】
また、ガス供給装置25は、ポンプPによってチャンバ26から隔離室22に供給管23aを介してチャンバ26内の気体を供給しつつ、回収管23bを介して隔離室22から気体をチャンバ26に回収し、気体を循環させるようにした。なお、チャンバ26には排気管28bが設けられており、必要に応じてチャンバ26内の気体を排気管28bから外部へ排気した。隔離室22は、箱体からなり、ガスセンサ1における金属層7上の枠体3全体を覆うようにして金属層7上に設置させ、ガスセンサ1のイオン液体ILを外気から隔離させた。これによりこの実験では、チャンバ26にて生成された所定のCO
2濃度の気体中に、ガスセンサ1のイオン液体ILを配置させた。
【0029】
また、この実験装置20では、波長675[nm]のTM偏光波を発する光源21を設け、このTM偏光波を入射光L1としてプリズム6の入射面6bに照射した。実際には、レーザダイオードからのレーザ光を偏光板により偏光し、スリットにより0.3[nm]のスポットとした入射光L1を光源21によって生成し、これをプリズム6に照射した。また、ここでは、ガスセンサ1のプリズム6の入射面6bから金属層7に向けて入射光L1を照射し、ガスセンサ1の金属層7にて経路を変更させてこれを出射光L2として出射面6cから出射させるようにした。また出射面6cに対向する位置に強度計Cを配置し、この強度計Cにて出射光L2の光強度を測定した。
【0030】
このような実験装置20を用いて、先ず初めにCO
2の濃度が0×10
5[ppm]である気体(すなわちCO
2が含まれていない気体)を隔離室22内に満たし、安定後に光源21からプリズム6に対して入射光L1を照射した後、角分解能0.05[°]で50[°]〜60[°]まで入射光L1の入射角θを変えてゆき、このときの出射光L2の光強度(反射強度)を強度計Cにて測定した。また、隔離室22をリフレッシュした後、CO
2の濃度が5.0×10
5[ppm]である気体を隔離室22内に満たし、安定後に光源21からプリズム6に対して入射光L1を照射した後、再び角分解能0.05[°]で50[°]〜60[°]まで入射光L1の入射角θを変えてゆき、このときの出射光L2の光強度(反射強度)を強度計Cにて測定した。
【0031】
その結果、
図16に示すような結果が得られた。
図16から、最も低い反射強度が表れるディップ角に着目すると、気体中のCO
2濃度が高くなると、ディップ角のシフト量を表すディップ角シフト△θ
spが0.3[°]となり、ディップ角がシフトすることが確認できた。次に、CO
2濃度を1.0×10
5[ppm]、2.5×10
5[ppm]、5.0×10
5[ppm]としたときのディップ角シフト△θ
spを調べたところ、
図17に示すような結果が得らえた。
図17から、このガスセンサ1では、CO
2濃度が高くになるに従って、ディップ角シフト△θ
spも大きくなることが確認でき、かくして、ディップ角シフト△θ
spの大きさを測定することで、外気中におけるCO
2濃度をも推測できることが確認できた。
【0032】
次に、CO
2濃度を変えてからディップ角シフト△θ
spが変化するまでの応答時間について調べたところ、
図18に示すような結果が得られた。
図18から、5.0×10
5[ppm]のCO
2ガスが隔離室22内に供給されたときは、ディップ角シフト△θ
spがCO
2ガス供給から13分後に安定することが分かり、また、1.0×10
5[ppm]のCO
2ガス、2.5×10
5[ppm]のCO
2ガスでは、それぞれ平均的な応答時間が7分と12分であることが分かり、分単位でガス検出を行えることが確認できた。
【0033】
ここで、
図19は、CO
2濃度を0×10
5[ppm]、5.0×10
5[ppm]としたときのガスセンサ1で得られたディップ角シフト△θ
spと、反射強度変化の割合とを比較したグラフである。
図19では、反射強度変化を調べる領域として、表面プラズモン共鳴現象により出射光L2の光強度が低下し始めている入射角θ
1に着目した。
図19に示すように、ガスセンサ1から得られた測定結果としては、ディップ角シフト△θ
spに比べて、入射角θ
1での反射強度変化の割合のほうが大きいことが分かった。このことからガスセンサ1では、ディップ角シフト△θ
spに比べて変化量が大きい反射強度の変化量を測定し、この反射強度の変化量を基に外気中のガスを検出するようにすれば、外気中に僅かなガスが含まれていても、ディップ角シフト△θ
spよりも大きな変化量で簡単に該ガスを検出し得ることが分かった。
【0034】
また、
図20は、隔離室22に6500[ppm]のCO
2濃度の気体を供給し始めたときからの反射強度変化率の時間的変化を調べた結果を示し、ガス供給開始から4分経過後に反射強度変化率が上昇し始め、28分後に安定した値となった。また、反射強度変化率は17[%](10[μW]から11.7[μW]まで)増加した。さらに、
図20から、反射強度変化率が2[%](0.2[μW])未満のとき、反射強度変化率が一旦下がる等の不安的な挙動を示した。従って、ガスセンサ1では、その一例として、CO
2濃度に比例して安定的に反射強度変化率が増加してゆく、2[%]以上の反射強度変化率を用いてCO
2濃度を検出することも好ましく、この場合、約700[ppm]程度(6500[ppm]のCO
2濃度で反射強度変化率17[%]という実験数値から算出したものである)のCO
2濃度まで安定して検出可能であることが分かった。
【0035】
次に、内部空間の大きさが異なる2種類の枠体を用意し、この枠体を設けた2種類のガスセンサにて、CO
2濃度を変えたときに反射強度変化率が変化する反応時間(応答時間)を調べた。実際上、
図21に示すように、先ず初めに、下層シリコン層32上にシリコン酸化膜33を介して上層シリコン層34が設けられたSOIウェハ31を用意する。次いで、微細孔形成技術であるDRIE(Deep Reactive. Ion Etching)にて下層シリコン層32及び上層シリコン層34を加工した後、フッ化水素(HF)により洗浄を行うことで、下層シリコン層32から額縁状の壁部36aを形成し、上層シリコン層34から複数の貫通孔10を有した網目状の天板部36bを形成し、壁部36a上にシリコン酸化膜33aを介して天板部36bが積層された第1の枠体36を作製し、これをデバイスAとした。
【0036】
また、これとは別に、
図22に示すように、感光性樹脂(KMPR-1035)でなる基板41を用意し、微細孔形成技術であるDRIE(Deep Reactive. Ion Etching)にて基板41をパターニングして複数の貫通孔10を有した網目状の天板部42bを作製した。またこの天板部42bの枠に沿って額縁状の壁部42aを形成して第2の枠体42を作製し、これをデバイスBとした。
【0037】
図23に示すように、例えば天板部3bの高さをh1とし、壁部3aの高さをh2として、デバイスA及びデバイスBについても同様に、その高さh1,h2をそれぞれ測定した。その結果、
図23に示す表のように、デバイスAは、天板部36bの高さh1が50[μm]、壁部36aの高さh2が300[μm]となり、ガスセンサ1の金属層7上に固着したとき内部空間に注入できるイオン液体ILの液量が21[μl]であった。一方、デバイスBについては、天板部42bの高さh1が250[μm]、壁部42aの高さh2が35[μm]となり、ガスセンサ1の金属層7上に固着したとき内部空間に注入できるイオン液体ILの液量が12[μl]であった。
【0038】
そして、実験装置20を用い、このようなデバイスAを設けたガスセンサと、デバイスBを設けたガスセンサとについて、CO
2濃度が10[%]、25[%]、50[%]の気体をそれぞれ隔離室22に供給し、ガス供給開始からディップ角が発生するまでの反応時間を調べたところ、
図24に示すような結果が得られた。なお、
図24では、高さh1,h2を合わせた高さをD[μm]として表記している。この
図24の結果から、イオン液体ILの液量が少ないデバイスBを設けたガスセンサのほうが、平均して56[%]反応時間が短く、反応時間が早くなることが確認できた。従って、検出対象のガスに対して反応時間が早いガスセンサを作製する場合には、イオン液体ILの液量を少なくさせればよいことが確認できた。
【0039】
(4)作用及び効果
以上の構成において、このガスセンサ1では、光源から入射される入射光L1の照射範囲に金属層7を備えたプリズム6を有し、このプリズム6の金属層7にて入射光L1の経路を変えて入射光L1を出射光L2として出射する。また、このガスセンサ1では、金属層7の表面7a上に検出対象であるガスを吸収可能なイオン液体ILを設け、このイオン液体ILがガスを吸収することによりイオン液体ILの誘電率が変化し、この誘電率の変化に応じて金属層7で生じる表面プラズモン共鳴現象により出射光L2の光強度が変化する。これによりガスセンサ1では、出射光L2の光強度変化を測定し、この出射光L2の光強度の変化の傾向に基づいて外気中のガスを検出することができる。
【0040】
また、このガスセンサ1では、従来技術のような光吸収経路を必要としないので、その分、小型化を図ることができる。さらに、このガスセンサ1では、CO
2のような分子量の小さいガスであっても、イオン液体ILにて吸収することができ、かつガスを吸収することにより変化するイオン液体ILの誘電率を、金属層7での表面プラズモン共鳴現象により生じる反射強度変化により測定できることから、従来、測定が困難であった分子量の小さいガスであっても検出できる。
【0041】
さらに、本発明のガスセンサ1では、金属層7上に設けるイオン液体ILの種類を変えるだけで、分子量の小さいガスだけでなく、種々の分子量でなるガスをも簡単に検出することができる。このように本発明では、イオン液体ILの誘電率変化を、金属層7での表面プラズモン共鳴現象により生じる光強度変化によって測定することができ、かくして、光強度の変化を基にガスを検出できる新規な構成でなるガスセンサ1を実現できる。
【0042】
また、このガスセンサ1では、金属層7での表面プラズモン共鳴現象により生じるディップ角の変化量を基にガスを検出するようにしたことにより、反射強度が最も小さく認識し易いディップ角を目安として、外気中のガスを容易に検出することができる。さらに、このガスセンサ1では、イオン液体ILを金属層7上に保持させる枠体3を設けるようにしたことにより、金属層7に対して外力が与えられても、イオン液体ILを安定的に金属層7上に保持させ続けることができる。
【0043】
(5)他の実施の形態
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能であり、上述した実施の形態においては、保持手段として、天板部3bに複数の貫通孔10が穿設され、天板部3bと壁部3aとでイオン液体ILを囲んで金属層7に保持させる枠体3を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、パリレン等のようにガスを通過可能な材質からなり、金属層7上に滴下された半球状のイオン液体ILの表面全体を覆って金属層7に保持させる被覆膜を適用してもよい。
【0044】
実際上、
図3との対応部分に同一符号を付して示す
図25のように、このガスセンサ51は、外気が通過可能なパリレン等でなる被覆膜53が金属層7上に形成されており、この被覆膜53内にイオン液体ILが貯留された構成を有する。この場合、ガスセンサ51では、仮に金属層7に対して外力が加えられて傾く等しても、保持手段としての被覆膜53によりイオン液体ILを安定して金属層7に保持させ続けることができる。因みに、このガスセンサ51は、パリレン等の外気が通過可能な被覆材により、被覆膜53を金属層7上に予め形成しておき、当該被覆膜53内にイオン液体ILを注入して密封することにより製造することができる。
【0045】
さらに、その他の実施の形態としては、イオン液体ILを貯留させた箱状の貯留部内に、プリズム6の金属層7を底面として設置して、斜め上方に配置した光源から入射光L1を照射するような構成であってもよく、使用状況に応じて、金属層7を設けたプリズム6と、イオン液体ILとの配置関係を適宜変えたガスセンサを適用してもよい。