【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための本発明の手段について以下に説明する。先ず、請求項1の手段では、質量%で、C:0.15〜0.35%、Si:0.30〜0.95%、Mn:0.10〜1.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.80〜2.30%、Cu:0.30%以下、Al:0.008〜0.500%、O:0.0030%以下、N:0.0020〜0.0300%を含有し、残部Feおよび不可避不純物である化学成分からなる機械構造用鋼の鋼材である。この鋼材では、さらに、質量%で、Si+Cr−2Mnで表されるパラメータが1.05以上であり、かつ、0.7Si+2.5Mn+2.0Crで表されるパラメータが6.30以下であることを特徴とし、この鋼材は面圧疲労強度に優れた機械構造用鋼鋼材である。
【0007】
請求項2の手段では、質量%で、C:0.15〜0.35%、Si:0.30〜0.95%、Mn:0.10〜1.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.80〜2.30%、Cu:0.30%以下、Al:0.008〜0.500%、O:0.0030%以下、N:0.0020〜0.0300%を含有し、さらに、Ni:0.20〜3.00%、Mo:0.05〜0.29%の1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避不純物である化学成分からなる機械構造用鋼の鋼材である。この鋼材では、さらに、質量%で、Si+Cr−2Mnで表されるパラメータが1.05以上であり、かつ、0.7Si+2.5Mn+2.0Cr+2.5Ni+4.0Moで表されるパラメータが6.30以下であることを特徴とし、この鋼材は面圧疲労強度に優れた機械構造用鋼鋼材である。
【0008】
請求項3の手段では、質量%で、C:0.15〜0.35%、Si:0.30〜0.95%、Mn:0.10〜1.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.80〜2.30%、Cu:0.30%以下、Al:0.008〜0.500%、O:0.0030%以下、N:0.0020〜0.0300%を含有し、さらに、Ti:0.020〜0.200%、Nb:0.02〜0.20%、B:0.0003〜0.0050%、のうち少なくとも1種以上を含有し、残部Feおよび不可避不純物である化学成分からなる機械構造用鋼の鋼材である。この鋼材では、さらに、質量%で、Si+Cr−2Mnで表されるパラメータが1.05以上であり、かつ0.7Si+2.5Mn+2.0Crで表されるパラメータが6.30以下であることを特徴とし、この鋼材は面圧疲労強度に優れた機械構造用鋼鋼材である。
【0009】
請求項4の手段では、質量%で、C:0.15〜0.35%、Si:0.30〜0.95%、Mn:0.10〜1.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.80〜2.30%、Cu:0.30%以下、Al:0.008〜0.500%、O:0.0030%以下、N:0.0020〜0.0300%を含有し、さらに、Ni:0.20〜3.00
%を含有し、さらに、Ti:0.020〜0.200%、Nb:0.02〜0.20%、B:0.0003〜0.0050%のうち少なくとも1種以上を含有し、残部Feおよび不可避不純物である化学成分からなる機械構造用鋼の鋼材である。この鋼材では、さらに、質量%でSi+Cr−2Mnで表されるパラメータが1.05以上であり、かつ
0.7Si+2.5Mn+2.0Cr+2.5Niで表されるパラメータが6.30以下であることを特徴とし、この鋼材は面圧疲労強度に優れた機械構造用鋼鋼材である。
【0010】
上記の各請求項の手段における成分の限定理由について、以下に説明する。なお、各成分元素の%は質量%を示す。
【0011】
C:0.15〜0.35%
Cは、機械構造用部品として鋼材の浸炭焼入焼戻し後の芯部強度を確保するために必要な元素である。その範囲は0.15%未満では強度を確保できず、0.35%を超えると靭性が低下するとともに素材の硬度が上昇して加工性が低下する。そこでCは0.15〜0.35%とし、望ましくは0.20〜0.30%とする。
【0012】
Si:0.30〜0.95%
Siは、脱酸に必要な元素であるとともに、鋼に必要な強度、焼入性を付与し、また一定量以上の添加で浸炭異常層深さを浅くする効果があり、その効果を得るため、0.30%以上の添加が必要である。一方、0.95%を超えると素材の硬度を高めるため、加工性を低下させる。そこでSiは0.30〜0.95%とし、望ましくは0.40〜0.85%とする。
【0013】
Mn:0.10〜1.00%
Mnは、焼入性を確保するために必要な元素である。しかし、Mnが0.10%未満では焼入性への効果は十分に得られず、1.00%を超えると機械加工性を低下させる。そこでMnは0.10〜1.00%とし、望ましくは0.20〜0.80%、より望ましくは0.20〜0.55%とする。
【0014】
P:0.030%以下
Pは、スクラップから含有される不可避な元素であるが、粒界に偏析して衝撃強度や曲げ強度などの特性を低下させる。そこでPは0.030%以下とする。
【0015】
S:0.030%以下
Sは、被削性を向上させる元素であるが、非金属介在物であるMnSを生成して横方向の靱性および疲労強度を低下する。そこでSは0.030%以下とする。
【0016】
Cr:0.80〜2.30%
Crは、焼入性を確保するために必要な元素である。しかし、Crが0.80%未満では焼入性への効果を十分に得られず、2.30%を超えると浸炭を阻害し、また素材硬度を上昇させて機械加工性を低下させる。そこでCrは0.80〜2.30%とし、望ましくは1.10〜2.15%とする。
【0017】
Ni:0.20〜3.00%
Niは、焼入性を高め、また、靱性を向上させることにより面圧疲労強度を向上させる作用のある元素である。その効果を得るためには0.20%以上の添加が必要である。また、0.20%以上添加することにより浸炭層の焼入性にも影響を及ぼす。一方、Niは3.00%を超えて含有すると加工性を著しく低下させ、かつ、コストアップとなる。そこでNiは3.00%以下とする。
【0018】
Mo:0.05〜0.29%
Moは、焼入性を高め、また、鋼材の焼戻し軟化抵抗性を高める作用により面圧疲労強度を向上させる元素であり、その効果を得るには0.05%以上の添加が必要である。また、0.05%以上添加することにより浸炭層の焼入性にも影響を及ぼす。一方、Moは0.29%を超えて含有すると加工性を低下させる。そこで、Moは0.05〜0.29%とする。
【0019】
Cu:0.30%以下
Cuは、スクラップから含有される不可避な元素であるが、時効性を有し、強度を上昇させる効果がある。しかし、Cuは0.30%を超えると熱間加工性を低下する。そこで、Cuは0.30%以下とする。
【0020】
Al:0.008〜0.500%
Alは、脱酸材として使用される元素であり、また後述のようにNと結合してAlNとして析出して結晶粒粗大化抑制効果をもたらす。この効果を得るため、Alは0.008%以上の添加が必要である。一方、Alを0.500%を超えて添加すると大型のアルミナ系介在物を形成し、疲労特性および加工性を低下する。そこで、Alは0.008〜0.500%とし、望ましくは0.014〜0.300%とする。
【0021】
B:0.0003〜0.0050%
Bは、極少量の含有によって鋼の焼入性を著しく向上させる元素であり、添加することによって他の合金元素の添加量を減らすことができるため、鋼材コストを下げるのに有効である。Bは、0.0003%未満では焼入性の向上効果が小さく、一方、0.0050%を超えると強度を低下させる。そこで、Bは0.0003〜0.0050%とし、望ましくは、Bは0.0010〜0.0050%とする。
【0022】
O:0.0030%以下
Oは、鋼中に不可避的に含有される元素である。しかし、Oが0.0030%を超えて含有されると酸化物の増加による加工性や疲労強度の低下を招く。そこでOは0.0030%以下とし、望ましくは0.0020%以下とする。
【0023】
N:0.0020〜0.0300%
Nは、鋼中でAlNやNb窒化物として微細析出し、結晶粒粗大化を防止する効果をもたらし、その効果を得るために0.0020%以上添加する必要がある。しかし、0.0300%を超えると窒化物が増加し、疲労強度や加工性が低下する。そこで、Nは0.0020〜0.0300%とし、望ましくは0.0020〜0.0220%とする。ただし、Tiを添加する場合は、TiとNが結合して硬質のTiNを形成し、機械加工性を顕著に損なうので特にTiを添加する鋼においては、Nは0.0020〜0.0100%に規制し、望ましくは0.0020〜0.0080%に規制する。
【0024】
Ti:0.020〜0.200%
Tiは、鋼中のCと結び付いて炭化物を微細に形成し、結晶粒粗大化を防止する効果をもたらすが、その効果を得る場合には、Tiを0.020%以上添加する必要がある。一方、0.200%を超える添加は、機械加工性を損なうため、上限は0.200%とする。
【0025】
Nb:0.02〜0.20%
Nbは、炭化物あるいは窒化物を形成し、結晶粒粗大化防止効果をもたらす。特に鋼中に微細に分散したナノオーダーサイズのNbCまたはNb(C,N)が結晶粒の成長を抑制する。Nbが0.02%未満では、その効果は得られず、0.20%を超えると析出物の量が過剰となり加工性を低下する。そこで、Nbは0.02〜0.20%、望ましくは0.02〜0.12%とする。
【0026】
質量%で、Si+Cr−2Mnで表されるパラメータが1.05以上とする理由
ガス浸炭焼入れによって形成される浸炭異常層は、ガス浸炭雰囲気中に僅かに存在する酸素が部品表面から供給され、この酸素が酸化されやすい元素であるSi、Mn、Crなどと結合して酸化物を形成し、合金元素を消費することにより、その周囲の合金元素を欠乏させて、焼入性を低下させるために生じる。通常、浸炭異常層はガス浸炭の加熱保持中に形成される粒界酸化をともなうため、これが表面欠陥として作用することで面圧疲労強度を低下させると考えられている。しかし、発明者らの鋭意研究により、Si+Cr−2Mnで表されるパラメータが1.05以上となるように制御することにより、面圧疲労強度低下の一因である粒界酸化が低減され、表面付近に緻密な浸炭異常層が形成されることを見出した。
【0027】
質量%で、0.7Si+2.5Mn+2.0Crで表されるパラメータが6.30以下、または0.7Si+2.5Mn+2.0Cr+2.5Ni+4.0Moで表されるパラメータが6.30以下
、もしくは0.7Si+2.5Mn+2.0Cr+2.5Niで表されるパラメータが6.30以下とする理由
0.7Si+2.5Mn+2.0Crで表されるパラメータを6.30以下、または0.7Si+2.5Mn+2.0Cr+2.5Ni+4.0Moで表されるパラメータを6.30以下
、もしくは0.7Si+2.5Mn+2.0Cr+2.5Niで表されるパラメータが6.30以下に制御しておくことで、浸炭層内の焼入性を低く抑えることにより、浸炭異常層の硬さを軟質化できることを見出した。
上記した浸炭異常層の緻密さ、および浸炭層の焼入性に関するパラメータを共に満足することにより、緻密かつ軟質な浸炭異常層を部品同士の接触面間に介在させることで、部品同士を組み付けて馴染ませる際に硬質なマトリクス同士の金属接触を避けることができ、かつ浸炭異常層が適度に摩耗しながら適正な接触面を形成するために良好な潤滑状態を作り出すことができる。また、浸炭異常層が軟質であることにより疲労き裂の進展を抑える作用も発揮される。これらの効果により、面圧疲労強度に優れた機械構造用鋼を得ることができる。また、この優れた効果により、面圧疲労強度向上のためのショットピーニングや微粒子ショットピーニングを省略することも可能であるが、ショットピーニングや微粒子ショットピーニングを行えばさらに面圧疲労強度の改善が図れる。