特許第5777504号(P5777504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5777504炭素繊維用サイジング剤および該サイジング剤で処理された炭素繊維束
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5777504
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】炭素繊維用サイジング剤および該サイジング剤で処理された炭素繊維束
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/59 20060101AFI20150820BHJP
   D06M 13/03 20060101ALI20150820BHJP
   D06M 13/144 20060101ALI20150820BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20150820BHJP
【FI】
   D06M15/59
   D06M13/03
   D06M13/144
   D06M101:40
【請求項の数】13
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2011-282238(P2011-282238)
(22)【出願日】2011年12月22日
(65)【公開番号】特開2013-129946(P2013-129946A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 淳
(72)【発明者】
【氏名】松川 泰治
【審査官】 佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第03/012188(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0019755(US,A1)
【文献】 特開2003−268674(JP,A)
【文献】 特開昭60−221346(JP,A)
【文献】 特開平02−084577(JP,A)
【文献】 特開2007−063739(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0031671(US,A1)
【文献】 特開平7−247151(JP,A)
【文献】 特開2003−247166(JP,A)
【文献】 特開2004−149937(JP,A)
【文献】 特開2007−113141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 − D06M 15/715
D06M 101/40
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体と、前記水性媒体中に分散されたポリアミドと、アセチレン系界面活性剤とを含む、炭素繊維用サイジング剤。
【請求項2】
アセチレン系界面活性剤が、(i)アセチレンアルコール、(ii)アセチレンジオール、(iii)アセチレンアルコールにアルキレンオキサイドを付加した化合物、及び(iv)アセチレンジオールにアルキレンオキサイドを付加した化合物、からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項3】
(i)アセチレンアルコールが、下式(1):
【化1】
〔式中、R及びRは、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜8のアルキル基を示す。〕で表される化合物である、請求項2に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項4】
(ii)アセチレンジオールが、下式(2):
【化2】
〔式中、R及びRは、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜8のアルキル基を示し、R及びRは、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜8のアルキル基を示す。〕で表される化合物である、請求項2又は3に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項5】
(iii)アセチレンアルコールにアルキレンオキサイドを付加した化合物が、下式(3):
【化3】
〔式中、R及びRは、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜8のアルキレン基を示し、iは1〜10の整数を示す。〕で表される化合物である、請求項2〜4のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項6】
(iv)アセチレンジオールにアルキレンオキサイドを付加した化合物が、下式(4):
【化4】
〔式中、R及びRは、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜8のアルキル基を示し、R及びRは、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜8のアルキル基を示し、R及びRは、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜8のアルキレン基を示し、jは1〜10の整数を示し、kは0〜10の整数を示す。〕で表される化合物である、請求項2〜5のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項7】
ポリアミドが、ジアミンとジカルボン酸とが重縮合したポリアミド、ω−アミノ−ω′カルボン酸が重縮合したポリアミド、及び環状ラクタムが開環重合したポリアミドからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項8】
ポリアミド100質量部に対して、アセチレン系界面活性剤が0.02〜20質量部含まれる、請求項1〜7のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項9】
ノニオン性界面活性剤をさらに含む請求項1〜8のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項10】
エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体をさらに含む請求項1〜9のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤により処理された炭素繊維束。
【請求項12】
請求項11に記載の炭素繊維束、及びマトリックス樹脂を含有する、炭素繊維強化樹脂組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の炭素繊維強化樹脂組成物から得られる複合化材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維用サイジング剤および該炭素繊維用サイジング剤で処理した炭素繊維束に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、軽量で高強度、高弾性な力学的性質を持つため、マトリックス樹脂と複合させて繊維強化複合材料として用いられている。
【0003】
炭素繊維は、通常、直径が数ミクロンのモノフィラメントから構成されているが、伸度が小さく脆い繊維であるため機械的摩擦等などによって毛羽が発生しやすく、取り扱いが問題となることが多い。そこで、毛羽の発生抑制等のため、一般にサイジング剤によりサイジング処理を施して使用される(特許文献1および2参照)。
【0004】
炭素繊維用サイジング剤によりサイジング処理を行うことで、炭素繊維の収束性を高めるだけではなく、炭素繊維または炭素繊維束の物理的特性を向上させることができる場合がある。また、炭素繊維表面に存在するサイジング剤を通じて、マトリックス樹脂との相溶性を高め、マトリックス樹脂と炭素繊維の接着性を高めることもできる場合がある。
【0005】
炭素繊維と複合化させるマトリックス樹脂としては、大きくは熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂に大別される。熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする場合、熱硬化性樹脂と比較してリサイクル性能等の成形性に優れる他、高靭性の複合化材料を得やすいため利用価値が大きい。したがって、熱可塑性樹脂を用いた複合化材料は、自動車や航空機向け構造材料等として今後の大幅な需要の拡大が期待されている。
【0006】
このような熱可塑性樹脂との相溶性を高める炭素繊維用サイジング剤として、ポリアミドとPEO(ポリエチレンオキシド)の共重合体である水溶性ポリアミドの検討を行った例がある(特許文献3参照)。このようなポリアミドをベースとしたポリアミド系の炭素繊維用サイジング剤は、ポリアミドやポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート等の各種の熱可塑性樹脂との相溶性を高め、炭素繊維の収束性を高める効果は認められるが、特許文献3でみられる水溶性ポリアミドによる炭素繊維用サイジング剤では、炭素繊維束の物理的特性を向上させる効果は期待できない。
【0007】
一方、炭素繊維用サイジング剤には、水溶性ポリアミドのような溶液タイプや、ポリウレタン型の重合体樹脂を水に分散させた水性分散液タイプのものがある(特許文献4参照)。水性分散液タイプのものを使用した場合、溶液タイプのものを使用する場合と比較して、サイジング処理時に、炭素繊維の表面または炭素繊維束の空隙等に、耐熱性や強度に優れる皮膜を形成させることが容易であるため、炭素繊維または炭素繊維束の物理的強度を良好に向上させ得る。特に、ポリアミド系樹脂の水性分散液は、各種の熱可塑性樹脂との相溶性に優れ、幅広い分野での活用が期待できる。しかし、ポリアミド系樹脂の水性分散液は、安定性が悪いという課題があるため、各種の界面活性剤を添加し、安定性の改良の検討がされている(例えば、特許文献5、特許文献6参照)。しかし、このような界面活性剤を添加したポリアミド系樹脂の水性分散液を炭素繊維用サイジング剤として用いた場合、サイジング処理された炭素繊維に付着した界面活性剤がマトリックス樹脂との接着性を阻害するため、界面活性剤を添加したポリアミド系樹脂の水性分散液でサイジング処理した場合、マトリックス樹脂との接着性に優れた炭素繊維が得られにくいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−360164号公報
【特許文献2】特開2006−188782号公報
【特許文献3】特開平9−3777号公報
【特許文献4】特開平2−6660号公報
【特許文献5】特表平6−506974号公報
【特許文献6】特開2001−270987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、粘度の経時変化が少ない等、安定性に優れ、且つ、マトリックス樹脂との接着性に優れたサイジング炭素繊維束を得ることができる、炭素繊維用サイジング剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成するために鋭意研究を重ね、水性媒体中に分散されたポリアミドとアセチレン系界面活性剤とを含む炭素繊維用サイジング剤が、粘度の経時変化が少ない等、静置安定性に優れ、炭素繊維束に含浸させた際、マトリックス樹脂との接着性に優れた炭素繊維束が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の項に記載の炭素繊維用サイジング剤および該炭素繊維用サイジング剤により処理された炭素繊維束等を包含する。
項1.
水性媒体と、前記水性媒体中に分散されたポリアミドと、アセチレン系界面活性剤とを含む、炭素繊維用サイジング剤。
項2.
アセチレン系界面活性剤が、(i)アセチレンアルコール、(ii)アセチレンジオール、(iii)アセチレンアルコールにアルキレンオキサイドを付加した化合物、及び(iv)アセチレンジオールにアルキレンオキサイドを付加した化合物、からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の炭素繊維用サイジング剤。
項3.
(i)アセチレンアルコールが、下式(1):
【0012】
【化1】
【0013】
〔式中、R及びRは、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜8のアルキル基を示す。〕で表される化合物である、項2に記載の炭素繊維用サイジング剤。
項4.
(ii)アセチレンジオールが、下式(2):
【0014】
【化2】
【0015】
〔式中、R及びRは、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜8のアルキル基を示し、R及びRは、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜8のアルキル基を示す。〕で表される化合物である、項2又は3に記載の炭素繊維用サイジング剤。
項5.
(iii)アセチレンアルコールにアルキレンオキサイドを付加した化合物が、下式(3):
【0016】
【化3】
【0017】
〔式中、R及びRは、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜8のアルキレン基を示し、iは1〜10の整数を示す。〕で表される化合物である、項2〜4のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
項6.
(iv)アセチレンジオールにアルキレンオキサイドを付加した化合物が、下式(4):
【0018】
【化4】
【0019】
〔式中、R及びRは、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜8のアルキル基を示し、R及びRは、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜8のアルキル基を示し、R及びRは、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜8のアルキレン基を示し、jは1〜10の整数を示し、kは0〜10の整数を示す。〕で表される化合物である、項2〜5のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
項7−1.
ポリアミドが、ジアミンとジカルボン酸とが重縮合したポリアミド、ω−アミノ−ω′カルボン酸が重縮合したポリアミド、及び環状ラクタムが開環重合したポリアミドからなる群より選択される少なくとも1種である、項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
項7−2.
ポリアミドが、−[NH(CHCO]−、−[NH(CHNHCO(CHCO]−、−[NH(CHNHCO(CHCO]−、−[NH(CH10CO]−、−[NH(CH11CO]−、および−[NH(CHNHCO−D−CO]−(式中Dは炭素数34の不飽和炭化水素を示す)からなる群より選ばれる少なくとも1種又は2種以上を構造単位とするポリアミドからなる群より選択される少なくとも1種である、項7−1に記載の炭素繊維用サイジング剤。
項7−3.
ポリアミドが、6−ナイロン、66−ナイロン、610−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン、6/66共重合ナイロン、6/610共重合ナイロン、6/11共重合ナイロン、6/12共重合ナイロン、6/66/11共重合ナイロン、6/66/12共重合ナイロン、6/66/11/12共重合ナイロン、及び6/66/610/11/12共重合ナイロンからなる群より選択される少なくとも1種である、項7−2に記載の炭素繊維用サイジング剤。
項8.
ポリアミド100質量部に対して、アセチレン系界面活性剤が0.02〜20質量部含まれる、項1〜7−3のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
項9.
ノニオン性界面活性剤をさらに含む項1〜8のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
項10.
エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体をさらに含む項1〜9のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
項11.
項1〜10のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤により処理された炭素繊維束。
項12−1.
項11に記載の炭素繊維束、及びマトリックス樹脂を含有する、炭素繊維強化樹脂組成物。
項12−2.
マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である、項12−1に記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
項13.
項12−1又は12−2に記載の炭素繊維強化樹脂組成物から得られる複合化材料。
項14.
ポリアミド水性分散液とアセチレン系界面活性剤とを混合する工程を含む、項1〜10のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤の製造方法。
項15.
項1〜10のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤により炭素繊維束をサイジング処理する工程を含む、サイジング炭素繊維束の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の炭素繊維用サイジング剤は、ポリアミドが分散されてなる水性分散液中にアセチレン系界面活性剤が含まれていることを特徴とし、炭素繊維用サイジング剤として最適な構成の組成物であるため、粘度の経時変化が少ない等、静置安定性に優れており、炭素繊維束に含浸させた際、マトリックス樹脂との接着性に優れた炭素繊維束を得ることが可能となる。
【0021】
なお、炭素繊維用サイジング剤において、一度粘度が上昇し始めると、水性媒体等で希釈して炭素繊維用サイジング剤中のポリアミドの濃度を下げない限り、粘度を下げることは難しく、加速的に粘度が増加するおそれが高く、最悪の場合固化して全く使えなくなる場合もあるため、粘度の経時変化が少ない(換言すれば、粘度の増加率が小さい)ことは重要である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の炭素繊維用サイジング剤は、水性媒体と、前記水性媒体中に分散されたポリアミドと、アセチレン系界面活性剤とを含む。本発明の炭素繊維用サイジング剤は、炭素繊維サイジング用組成物(液性組成物)又は炭素繊維サイジング用水性分散液ともいえる。
【0023】
水性媒体としては、水が好ましく、水道水、工業用水、イオン交換水、脱イオン水、純水などの各種の水を用いることができる。特に脱イオン水および純水が好ましい。また、水性媒体としては、本発明の目的が阻害されない範囲において、必要に応じて、水にpH調整剤、粘度調整剤、防かび剤等が適宜添加されたものであってもよい。
【0024】
ポリアミドとしては、公知のもの、又は公知の方法で製造されたものを用いることができる。市販されているものを用いてもよい。
【0025】
より具体的には、本発明に用いられるポリアミドとしては、例えば、ジアミンとジカルボン酸との重縮合、ω−アミノ−ω′カルボン酸の重縮合、又は環状ラクタムの開環重合、等の方法で製造されたポリアミドが挙げられる。つまり、ジアミンとジカルボン酸とが重縮合したポリアミド、ω−アミノ−ω′カルボン酸が重縮合したポリアミド、環状ラクタムが開環重合したポリアミド、等が挙げられる。なお、ここでの重縮合または開環重合の際に、重合調節剤として、ジカルボン酸またはモノカルボン酸を用いることができる。
【0026】
ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、フェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0027】
ジカルボン酸としては、例えば、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、フマル酸、フタル酸、キシリレンジカルボン酸、ダイマー酸(リノール酸やオレイン酸を主成分とする不飽和脂肪酸より合成される炭素数36の不飽和ジカルボン酸)等が挙げられる。
【0028】
ω−アミノ−ω′カルボン酸としては、例えば、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、9−アミノノナン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等が挙げられる。
【0029】
環状ラクタムとしては、例えば、ε−カプロラクタム、ω−エナントラクタムおよびω−ラウリルラクタム等が挙げられる。
【0030】
前記重合調節剤として用いられるジカルボン酸としては、前記のポリアミドの製造に用いられるジカルボン酸と同様であり、例えば、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、フマル酸、フタル酸、キシリレンジカルボン酸、ダイマー酸等が挙げられる。また、モノカルボン酸としては、例えば、カプロン酸、ヘプタン酸、ノナン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸等が挙げられる。
【0031】
本発明においては、ポリアミドの中でも、特に、−[NH(CHCO]−、−[NH(CHNHCO(CHCO]−、−[NH(CHNHCO(CHCO]−、−[NH(CH10CO]−、−[NH(CH11CO]−、および−[NH(CHNHCO−D−CO]−(式中Dは炭素数34の不飽和炭化水素を示す)からなる群より選択される少なくとも1種又は2種以上を構造単位とするポリアミドが、好ましく用いられる。
【0032】
かかるポリアミドの例としては、ナイロンが挙げられ、具体的には、6−ナイロン、66−ナイロン、610−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン、6/66共重合ナイロン、6/610共重合ナイロン、6/11共重合ナイロン、6/12共重合ナイロン、6/66/11共重合ナイロン、6/66/12共重合ナイロン、6/66/11/12共重合ナイロン、又は6/66/610/11/12共重合ナイロン等が例示される。なお、ここでの「/」は各ナイロンの共重合体であることを示すため用いた記号である。例えば、6/66共重合ナイロンは、6−ナイロンと66−ナイロンの共重合ナイロンを表す。
【0033】
またさらに、本発明に用いられるポリアミドの例として、ダイマー酸系ポリアミドや、ポリアミドエラストマーも例示される。ポリアミドエラストマーとしては、具体的には、ナイロンとポリエステルとの共重合体、又はナイロンとポリアルキレンエーテルグリコールとの共重合体である、ポリアミドエラストマーが例示される。当該ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、ポリエチレンオキシドグリコール、ポリプロピレンオキシドグリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール、ポリヘキサメチレンオキシドグリコール等が例示される。また、当該ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が例示される。
【0034】
ポリアミドは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる
なお、ポリアミド系エラストマーは、特に限定されるものではないが、ポリアミドブロック及びポリエーテルブロックを含んでなるブロック共重合体が好ましい。特に、ポリアミド及びポリエーテルが共重合した構造を有するブロック共重合体が好ましく、なかでもポリアミド及びポリエーテルが共重合した構造からなるブロック共重合体が好ましい。ポリエーテルブロックの構成成分としては、例えば、ポリエチレンオキシドグリコール、ポリプロピレンオキシドグリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール、ポリヘキサメチレンオキシドグリコール等のグリコール化合物並びにポリエーテルジアミン等のジアミン化合物等を挙げることができる。これらの構成成分は、2種以上のものが用いられてもよい。このようなポリアミドエラストマーとしては、ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとの結合部の分子構造、すなわち結合形態が異なる数種類のもの、例えば、「(ポリアミドブロック)−CO−NH−(ポリエーテルブロック)」の結合形態を有するポリエーテルブロックアミド共重合体、「(ポリアミドブロック)−CO−O−(ポリエーテルブロック)」の結合形態を有するポリエーテルエステルブロックアミド共重合体等を挙げることができる。
【0035】
ポリアミドエラストマーは、公知であるか、又は公知の方法により容易に製造することができる。例えば、ラクタム化合物、アミノカルボン酸化合物およびジアミン化合物のうちの少なくとも1種とジカルボン酸とを反応させて実質的に両末端がカルボキシル基であるポリアミドブロックを調製した後、このポリアミドブロックにポリエチレンオキシドグリコール等のグリコール化合物若しくはポリエーテルジアミン等のジアミン化合物を添加して加熱することで反応させる方法等を挙げることができる。また、市販品を購入して用いることもできる。市販品としては、例えば、宇部興産株式会社製ポリエーテルブロックアミド共重合体(商品名“UBESTAXPA9044X2”)、アルケマ社製ポリエーテルエステルブロックアミド共重合体(商品名“ペバックス2533SA01”)等を用いることができる。
【0036】
なお、限定的な解釈を望むものではないが、ポリアミド系エラストマーが、ポリアミドブロック及びポリエーテルブロックを含んでなるブロック共重合体である場合、ポリアミドブロックを有する硬質高分子部位(ハードセグメントともいう)と、ポリエーテルブロックを有する軟質高分子部位(ソフトセグメントともいう)とが組み合わされた構造を有すると考えられる。当該硬質高分子部位は、結晶性で融点が高く、また、当該軟質高分子部位は、非晶性でガラス転移温度が低いと考えられる。
【0037】
本発明に用いられるアセチレン系界面活性剤としては、(i)アセチレンアルコール、(ii)アセチレンジオール、(iii)アセチレンアルコールにアルキレンオキサイドを付加した化合物、及び(iv)アセチレンジオールにアルキレンオキサイドを付加した化合物が挙げられる。
【0038】
具体的には、(i)アセチレンアルコールとしては、下式(1):
【0039】
【化5】
【0040】
〔式中、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、炭素数1〜8のアルキル基を示す。〕で表される化合物が好ましい。
【0041】
また、(ii)アセチレンジオールとしては、下式(2):
【0042】
【化6】
【0043】
〔式中、R及びRは、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜8のアルキル基を示し、R及びRは、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜8のアルキル基を示す。〕で表される化合物が好ましい。
【0044】
また、(iii)アセチレンアルコールにアルキレンオキサイドを付加した化合物としては、下式(3):
【0045】
【化7】
【0046】
〔式中、R及びRは前記と同じであり、Rは炭素数1〜8のアルキレン基を示し、iは1〜10の整数を示す。〕で表される化合物が好ましい。
【0047】
また、(iv)アセチレンジオールにアルキレンオキサイドを付加した化合物としては、下式(4):
【0048】
【化8】
【0049】
〔式中、R及びRは前記と同じであり、R及びRは前記と同じであり、R及びRは、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜8のアルキレン基を示し、jは1〜10の整数を示し、kは0〜10の整数を示す。〕で表される化合物が好ましい。
【0050】
本明細書において、炭素数1〜8のアルキル基は、炭素数1、2、3、4、5、6又は7のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がさらに好ましい。また、当該アルキル基は直鎖状又は分岐鎖状であってよい。具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、1−エチルプロピル、イソペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、1,2,2−トリメチルプロピル、3,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル、イソヘキシル、3−メチルペンチル基等が例示される。
【0051】
また、R及びRは、上述の通り同一であっても異なっていてもよい。R及びRは、Rが示すアルキル基が有する炭素数が、Rが示すアルキル基が有する炭素数以下であることが好ましい。また、Rが直鎖状アルキル基であり、Rが分岐鎖状アルキル基であることが好ましい。中でも、Rがメチル、エチル、又はプロピル基であり、Rがイソプロピル又はイソブチル基であることが好ましく、特にRがメチル基、Rがイソブチル基であることが好ましい。
【0052】
また、R及びRは、上述の通り同一であっても異なっていてもよい。R及びRは、Rが示すアルキル基が有する炭素数が、Rが示すアルキル基が有する炭素数以下であることが好ましい。また、Rが直鎖状アルキル基であり、Rが分岐鎖状アルキル基であることが好ましい。中でも、Rがエチル、エチル、又はプロピル基であり、Rがイソプロピル又はイソブチル基であることが好ましく、特にRがメチル基、Rがイソブチル基であることが好ましい。
【0053】
また、R及びRは、上述の通り同一であっても異なっていてもよい。R及びRは、Rが示すアルキル基が有する炭素数が、Rが示すアルキル基が有する炭素数以下であることが好ましい。また、Rが直鎖状アルキル基であり、Rが分岐鎖状アルキル基であることが好ましい。中でも、Rがエチル、エチル、又はプロピル基であり、Rがイソプロピル又はイソブチル基であることが好ましく、特にRがメチル基、Rがイソブチル基であることが好ましい。
【0054】
また、R、R、R、及びRは、それぞれ同一又は異なってよい。RとRは同一であることが好ましい。また、RとRは同一であることが好ましい。中でも、RとRが同一であり、かつRとRが同一であることが好ましい。
【0055】
また、本明細書において、炭素数1〜8のアルキレン基は、炭素数1、2、3、4、5、6又は7のアルキレン基が好ましく、炭素数1〜6のアルキレン基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキレン基がさらに好ましい。また、当該アルキレン基は直鎖状又は分岐鎖状であってよい。具体的には、−CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、
−CH(CH)−、
−CH(CH)CH−、−CHCH(CH)−、
−CH(CH)CHCH−、−CHCH(CH)CH−、−CHCHCH(CH)−、
−CH(CH)CHCHCH−、−CHCH(CH)CHCH−、−CHCHCH(CH)CH−、−CHCHCHCH(CH)−、
−CH(CH)CHCHCHCH−、−CHCH(CH)CHCHCH−、−CHCHCH(CH)CHCH−、−CHCHCHCH(CH)CH−、−CHCHCHCHCH(CH)−、
−CH(CH)CHCHCHCHCH−、−CHCH(CH)CHCHCHCH−、−CHCHCH(CH)CHCHCH−、−CHCHCHCH(CH)CHCH−、−CHCHCHCHCH(CH)CH−、−CHCHCHCHCHCH(CH)−、
−CH(CH)CHCHCHCHCHCH−、−CHCH(CH)CHCHCHCHCH−、−CHCHCH(CH)CHCHCHCH−、−CHCHCHCH(CH)CHCHCH−、−CHCHCHCHCH(CH)CHCH−、−CHCHCHCHCHCH(CH)CH−、−CHCHCHCHCHCHCH(CH)−、
−CH(CHCH)CH−、−CHCH(CHCH)−、
−CH(CHCH)CHCH−、−CHCH(CHCH)CH−、−CHCHCH(CHCH)−、
−CH(CHCH)CHCHCH−、−CHCH(CHCH)CHCH−、−CHCHCH(CHCH)CH−、−CHCHCHCH(CHCH)−、
−CH(CHCH)CHCHCHCH−、−CHCH(CHCH)CHCHCH−、−CHCHCH(CHCH)CHCH−、−CHCHCHCH(CHCH)CH−、−CHCHCHCHCH(CHCH)−、
−CH(CHCH)CHCHCHCHCH−、−CHCH(CHCH)CHCHCHCH−、−CHCHCH(CHCH)CHCHCH−、−CHCHCHCH(CHCH)CHCH−、−CHCHCHCHCH(CHCH)CH−、又は−CHCHCHCHCHCH(CHCH)−で示される基等が例示される。特に−(CH−で示される基(エチレン基)が好ましい。
【0056】
は、上記の通り炭素数1〜8のアルキレン基を示す。また、R及びRは、上述の通り同一又は異なって炭素数1〜8のアルキレン基を示す。
【0057】
iは、上記の通り1〜10(1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10)の整数を示す。好ましくは1〜8の整数を示し、より好ましくは1〜5の整数を示し、さらに好ましくは1〜4の整数を示し、さらにより好ましくは1〜3の整数を示し、特に好ましくは1〜2の整数を示す。
【0058】
jは、上記の通り1〜10(1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10)の整数を示す。好ましくは1〜8の整数を示し、より好ましくは1〜5の整数を示し、さらに好ましくは1〜4の整数を示し、さらにより好ましくは1〜3の整数を示し、特に好ましくは1〜2の整数を示す。
【0059】
kは、上記の通り0〜10(0、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10)の整数を示す。好ましくは0〜8の整数を示し、より好ましくは0〜5の整数を示し、さらに好ましくは0〜4の整数を示し、さらにより好ましくは0〜3の整数を示し、特に好ましくは1〜2の整数を示す。
【0060】
上記式中、j及びkはそれぞれ同一又は異なってよい。また、jとkの和は好ましくは10以下であり、より好ましくは9以下であり、さらに好ましくは7以下であり、よりさらに好ましくは5以下であり、特に好ましくは4以下である。
【0061】
また、(iii)や(iv)の化合物としては、それぞれ、(i)又は(ii)の化合物にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを付加して得られる化合物も例示される。
【0062】
このようなアセチレン系界面活性剤は、公知の化合物であるか、公知の方法により容易に製造することができる。例えば、このような化合物は、レッペ反応と呼ばれる、加圧下で、アセチレンにケトン又はアルデヒドを、アルカリや金属化合物などの触媒の存在下で反応させる方法により得ることができる。
【0063】
また、(iii)や(iv)の化合物は、それぞれ、(i)又は(ii)の化合物にアルキレンオキサイド(例えばエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド)をアルカリや金属化合物などの触媒の存在下で付加重合させることにより得ることができる。
【0064】
また、上記のようなアセチレン系界面活性剤は、市販品を購入して使用することもできる。市販品としては、例えば、エアロプロダクツ製(日信化学社販売)のサーフィノールシリーズ、又はオルフィンシリーズが例示される。例えば、式(1)において、Rがメチル基、Rがイソブチル基の化合物が「サーフィノール61」との商品名で市販されている。また、式(1)において、R及びRがともにメチル基の化合物が「オルフィンB」との商品名で市販されている。また例えば、式(2)において、R及びRが共にメチル基、R及びRが共にイソブチル基の化合物が「サーフィノール104」との商品名で市販されている。また、式(2)において、R〜Rがすべてメチル基の化合物が「オルフィンY」との商品名で市販されている。また、サーフィノール104にエチレンオキサイドを付加したものがサーフィノール400シリーズとの商品名で市販されており、例えば、サーフィノール104に対し、40重量%のエチレンオキサイドが付加された付加物が「サーフィノール440」との商品名で市販されている。サーフィノール440について、エチレンオキサイド付加量を分子量に換算すると、サーフィノール104約1モルに対してエチレンオキサイドが約2モル付加された付加物であり、式(4)において、R及びRが共にメチル基、R及びRが共にイソブチル基、R及びRが共にエチレン基、j及びkが共に1の化合物であることがわかる。
【0065】
アセチレン系界面活性剤は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
本発明におけるアセチレン系界面活性剤の使用量は、ポリアミド100質量部に対して、好ましくは0.02〜20質量部であり、より好ましくは0.05〜15質量部であり、さらに好ましくは、0.1〜10質量部であり、さらにより好ましくは0.5〜10質量部であり、特に好ましくは1〜10質量部である。アセチレン系界面活性剤の使用量が当該範囲内である場合、得られる炭素繊維用サイジング剤の安定性、及び、当該サイジング剤により処理して得られる炭素繊維束とマトリックス樹脂との接着性、の両方がより良好となり得る。
【0067】
限定的な解釈を望むものではないが、本発明においてアセチレン界面活性剤を使用することにより、炭素繊維用サイジング剤の安定性や炭素繊維束としてのマトリックス樹脂への接着性が良くなることの理由については以下のように推察される。
【0068】
すなわち、ポリアミド中のアミド結合は極性が大きく、このため水性分散液中でポリアミドが電解質的な挙動を示し、ポリアミド同士が凝集しやすくなっているところ、アセチレン系界面活性剤中の三重結合が、ポリアミド中のアミド結合と相互作用をし、ポリアミド同士が凝集しやすい傾向を緩和するため、炭素繊維用サイジング剤の安定性が向上すると考えられる。また、このようにポリアミドが凝集しにくくなることにより、サイジング処理時に、炭素繊維と炭素繊維との間に炭素繊維用サイジング剤がボイド等を形成せずに均一に含浸し易くなること、及び、アセチレン系界面活性剤中の三重結合がポリアミドとマトリックス樹脂との相溶性(すなわち水素結合による分子間の接着性)を高めること、等が、当該サイジング剤により処理して得られる炭素繊維束がマトリックス樹脂との接着性に優れる理由として考えられる。
【0069】
本発明の炭素繊維用サイジング剤を製造する方法としては、特に限定されない。例えば、ポリアミドが分散されてなる水性分散液(ポリアミド水性分散液)とアセチレン系界面活性剤とを混合する工程を含む方法により製造することができる。また、アセチレン系界面活性剤を用いて、ポリアミドを乳化して水性分散液を得る工程を含む方法により製造することもできる。
【0070】
ポリアミド水性分散液を製造する方法については、特に限定はなく、水性媒体中にポリアミドを均一に分散できる方法であればよい。
【0071】
例えば、ポリアミドを、例えば機械粉砕法、冷凍粉砕法、湿式粉砕法等の粉砕法により粉砕して得られるポリアミド粉体を水性媒体中に分散させる方法、ポリアミド中の末端カルボキシル基を、塩基性物質を用いて中和し、自己乳化させて、水性分散液を製造する方法、界面活性剤を用いてポリアミドを乳化し水性分散液を製造する方法、等が挙げられる。
【0072】
以下に、代表的な製造例として、ポリアミド中の末端カルボキシル基を、塩基性物質を用いて中和し、自己乳化し、水性分散液を製造する方法について示す。
【0073】
この製造方法では、例えば、容器内にポリアミド、塩基性物質および水性媒体を投入し、これらの混合液を調製する。
【0074】
混合液の調製に用いる容器としては、ポリアミドが水性媒体中で軟化する温度以上の温度に加熱するための加熱手段と、内容物にせん断力を与えることのできる攪拌手段とを備えた、耐圧容器が好ましい。例えば、攪拌機付きの耐圧オートクレーブ等が好ましい。
【0075】
次に、この容器内でポリアミド、塩基性物質および水性媒体を混合して混合液を得る。そして、当該混合液をポリアミドの軟化温度以上に加熱し攪拌して、乳化させ、乳濁液を得る。当該乳濁液を室温まで冷却すると、ポリアミド水性分散液が得られる。
【0076】
水性媒体は、基本的には水であり、水道水、工業用水、イオン交換水、脱イオン水、純水などの各種の水を用いることができる。特に脱イオン水および純水が好ましい。また、当該水性媒体には、本発明の目的が阻害されない範囲において、必要に応じて、pH調整剤、粘度調整剤、防かび剤等が適宜添加されていてもよい。
【0077】
塩基性物質としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物やアンモニア、アミン化合物等が挙げられる。塩基性物質は1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、これらの中でも、分散液の静置安定性が優れる観点から特に水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムが好適に用いられる。
【0078】
塩基性物質の使用量は、得られる水性分散液の粘度の経時変化が少ない等、静置安定性に優れるという観点から、ポリアミドの末端カルボキシル基1モルあたり0.1〜2モルであることが好ましく、0.4〜1モルであることがより好ましい。
【0079】
ポリアミドの使用量は、特に限定されるものではないが、得られるポリアミド水性分散液100質量部に対して0.1〜80質量部に設定するのが好ましく、20〜70質量部に設定するのがより好ましい。
【0080】
また、本願発明の効果を損なわない限り、塩基性物質の代わりに、界面活性剤を用いて、ポリアミド水性分散液を得ることができる。また、塩基性物質と界面活性剤を併用してポリアミド水性分散液を得ることもできる。
【0081】
ポリアミド水性分散液を得るために(つまり、ポリアミドを水性媒体へ分散させるために)使用される界面活性剤としては、上述したアセチレン系界面活性剤の他、アニオン性界面活性剤やノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0082】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪族系ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ロジン酸塩および脂肪酸塩等が挙げられる。
【0083】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルチオエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリグリセリンエステル等を挙げることができる。
【0084】
これらの界面活性剤の中で、得られるサイジング剤の安定性を高めるという観点から、ノニオン系界面活性剤が好適に用いられる。中でも、得られるサイジング剤が耐熱性に優れ、高温で長時間加工しても分解しにくく、当該サイジング剤で処理した炭素繊維束とマトリックス樹脂との接着性が良好という点において、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンミリステルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、等)が好適に用いられる。
【0085】
アニオン性界面活性剤及び/又はノニオン性界面活性剤の使用量は、両界面活性剤の合計が、ポリアミド100質量部に対して、好ましくは10質量部未満、より好ましくは0.1〜8質量部が例示される。但し、これらの界面活性剤の使用は、得られるサイジング剤で処理した炭素繊維束とマトリックス樹脂との接着性に悪影響を及ぼすおそれもあるため、前記量を参考として、比較的多く使用することを避けつつ適宜設定することが望ましい。
【0086】
なお、これらの界面活性剤は、炭素繊維用サイジング剤の製造過程において、ポリアミド水性分散液が得られた後に、さらに添加してもよい。
【0087】
また、本発明の炭素繊維用サイジング剤において、エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸を共重合してなる共重合体(以下「エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体」ともいう)を含ませることにより、炭素繊維用サイジング剤としての安定性、及び、該サイジング剤で処理した炭素繊維束とマトリックス樹脂との接着性をさらに高めることができる。エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体としては、例えば、エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸を共重合した共重合体(より具体的には、エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸のランダム共重合体、ポリエチレンに不飽和カルボン酸がグラフトした共重合体等)が挙げられる。またさらに、エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸以外の成分を加えて共重合した共重合体等が挙げられる。
【0088】
上記エチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、含まれる炭素原子数が6以下の不飽和カルボン酸、ジカルボン酸等を挙げることができる。含まれる炭素原子数が6以下の不飽和カルボン酸としては、具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等が、また、ジカルボン酸としては、具体的にはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が、それぞれ例示される。これらの中でもアクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。なお、エチレン性不飽和カルボン酸は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0089】
エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体において、単量体として用いるエチレンとエチレン性不飽和カルボン酸の比率(共重合比率)は特に限定されないが、両者の合計量を100質量%として、エチレン性不飽和カルボン酸が1質量%程度以上、40質量%程度未満のものが好適に用いられる。特にエチレン性不飽和カルボン酸が、5質量%程度以上、25質量%程度未満のものがさらに好ましい。不飽和カルボン酸の比率が当該範囲の下限以上であれば、得られる炭素繊維用サイジング剤の静置安定性がより向上し得、また、不飽和カルボン酸の比率が当該範囲の上限未満であれば、炭素繊維用サイジングとして炭素繊維束に含浸した際に、炭素繊維束の柔軟性がより向上し得る。
【0090】
エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体の含有量は、特に限定されるものではないが、ポリアミドの合計量100質量部に対して1〜10質量部程度とすることが好ましく、3〜8質量部程度とすることがより好ましい。エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体の含有量が1質量部以上である場合には、炭素繊維用サイジング剤の静置安定性がより向上し得る。また、含有量が10質量部以下である場合には、炭素繊維用サイジング剤で処理して得られる炭素繊維束の柔軟性がより向上し得る。
【0091】
エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体は水性分散液として用いることが好ましい。エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体の水性分散液を調製する方法としては、界面活性剤を使用する方法、自己乳化させる方法、機械的な分散方法等の各種の公知の方法を用いることができる。
【0092】
ここで用いる界面活性剤としては、ポリアミド水性分散液を製造するために用いる界面活性剤と同じものを挙げることができ、これらの界面活性剤を2種以上併用してもよいし、これらの界面活性剤と共重合体を中和するための塩基性物質との併用も可能である。
【0093】
エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体において、エチレン性不飽和カルボン酸の共重合比率が10質量%以上であれば(すなわち、当該共重合体の全原料を100質量%としたとき、エチレン性不飽和カルボン酸が10質量%以上であれば)自己乳化の方法をとることができる。この場合、共重合体を塩基性物質で中和することにより分散が可能となる。中和に使用される塩基性物質としては、例えばアルカリ金属(具体的には水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、アミン化合物(具体的にはアンモニア、モルホリン、トリエチルアミン、アミノアルコール等)が挙げられる。
【0094】
機械的な分散方法では、特に不飽和カルボン酸の共重合比率が10質量%程度以下の場合、補助的に界面活性剤を併用するのが好ましい。
【0095】
なお、エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体は、上記のポリアミド水性分散液の製造において、例えば、容器(好ましくは耐圧容器)にポリアミド、塩基性物質および水性媒体を投入し、これらを混合する際に一緒に加えて混合することができる。
【0096】
また、本発明では、エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体に代えて、または共に、該共重合体の塩を用いることもできる。例えば、アンモニアや水酸化ナトリウム等を用いて、該共重合体を自己乳化させて得られる、該共重合体アンモニウム塩又はナトリウム塩等を用いることができる。より具体的には、例えば、エチレン−アクリル酸共重合体(エチレンとアクリル酸の共重合体)を自己乳化させて得られる、エチレン−アクリル酸共重合体アンモニウム塩又はナトリウム塩等を好ましく用いることができる。
【0097】
本発明の炭素繊維用サイジング剤中のポリアミドの濃度(w/w%)は、0.1〜80質量%であることが望ましく、さらに好ましくは1〜60質量%である。ポリアミドの濃度が80質量%以下であれば、炭素繊維用サイジング剤の安定性がより向上し得る。また、当該合計濃度が0.1質量%以上であれば、炭素繊維束へポリアミドをより付着させやすくなる。
【0098】
本発明の炭素繊維用サイジング剤において、分散されたポリアミド粒子の平均粒子径は、通常、0.1〜20μmである。平均粒子径が0.1μm以上であれば、ポリアミド水性分散液の粘度が高くなりすぎる虞がより少ない(粘度が高いと、移送時等、取扱いにくくなるほか、炭素繊維束へ含浸させる際の作業性が悪くなる可能性がある)。また、20μm以下であれば、水性分散液の安定性がより向上し得る。また、炭素繊維束に、より均一に含浸させやすくなる。なお、この平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定法によるものである。すなわち、ポリアミド水性分散液をレーザー回折式粒度分布測定装置にて測定した際に得られる値である。なお、直径1μmの球と同じ回折・散乱光のパターンを示す被測定粒子は、その形状に関わらず粒子径1μmとして算出をする。
【0099】
なお、本発明の炭素繊維用サイジング剤は、本発明の効果を損なわない限り、他の成分を含んでもよい。例えば、一般に炭素繊維用サイジング剤に含有される成分を含んでもよい。また、市販されるアセチレン系界面活性剤(例えば上記サーフィノールシリーズ、又はオルフィンシリーズ)には、各種有機溶媒やシリカ粉末等が含まれている場合があり、かかる市販のアセチレン系界面活性剤を用いて得られる本発明の炭素繊維用サイジングには、有機溶媒やシリカ粉末が含まれることとなるが、本発明の効果を損なわない限り特に問題ない。当該有機溶媒としては、例えばエチレングリコール、2−エチルヘキサノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が例示される。
【0100】
本発明の炭素繊維用サイジング剤により処理される炭素繊維束としては、特に限定されない。炭素繊維束の炭素繊維の具体例としては、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ等、繊維状であれば種類は特に限らないが、安価なコストを実現できる点と炭素繊維を束ねてなる炭素繊維束から得られる成形体が良好な機械的特性を持つという点で、ポリアクリロニトリル系炭素繊維が好適に用いられる。
【0101】
炭素繊維の形態についても、連続長繊維や連続長繊維をカットした短繊維、粉末状に粉砕したミルド糸等、いずれでも良い。これらは、織物、編み物、不織布等のシート状等に、用途や必要特性に応じて様々に選ぶことができる。
【0102】
炭素繊維束は炭素繊維から構成される。炭素繊維束は、例えば、市販されているものを用いることができる。市販されている炭素繊維束は、毛羽立ちを押さえ作業性を改善するため、予め、エポキシ系化合物等によりサイジング処理が施されているものが通常であるが、本発明においては、これらのサイジング処理剤を溶剤洗浄、乾燥等により除去したものを用いてもよいし、市販されている炭素繊維束をそのまま用いることもできる。もちろん、サイジング処理が施されていない炭素繊維束も用いることができる。
【0103】
本発明の炭素繊維用サイジング剤を炭素繊維束に付着させる方法としては、特に限定されないが、通常のサイジング処理、例えば、炭素繊維用サイジング剤を炭素繊維束に滴下、散布する方法の他、ローラー浸漬法やローラー接触法等を適用して行うこともできる。サイジング剤の炭素繊維束への付着量の調整は、サイジング剤中のポリアミド濃度や界面活性剤濃度等を調整することによってもできる。また、絞りコントローラー等の通過工程の調整等によって調節することもできる。
【0104】
サイジング剤を炭素繊維の表面に付着させた後、続いて乾燥処理によって水分を除去することにより、本発明の炭素繊維用サイジング剤で、サイジング処理した炭素繊維束(サイジング炭素繊維束)が得られる。このときの乾燥処理の方法としては、特に限定されないが、例えば熱風、熱板、ローラー、赤外線ヒーター等の熱媒を用いる方法を選択することができる。
【0105】
上記の通り、本発明のサイジング炭素繊維束は本発明のサイジング剤を付着させ乾燥処理することで得られるものであるので、本発明のサイジング炭素繊維束は、本発明の炭素繊維用サイジング剤のうち水性媒体を除いた成分が付着した炭素繊維束と換言することができる。
【0106】
本発明の炭素繊維用サイジング剤で処理したサイジング炭素繊維束中の炭素繊維用サイジング剤(但し水性媒体は除く)の付着量は、処理前の炭素繊維100質量部に対しての処理後の炭素繊維束の質量増加分にて表すことができる。炭素繊維用サイジング剤(但し水性媒体は除く)の付着量は、処理前の炭素繊維100質量部に対し、0.1〜20質量部であることが望ましく、さらに好ましくは1〜15質量部である。当該付着量が炭素繊維束100質量部に対して20質量部以下であると、より優れた開繊性が得られることが期待でき、また、0.1質量部以上であると、より炭素繊維束の収束性に優れ、加工工程において、機械的な毛羽立ちがより生じにくくなる。
【0107】
本発明の炭素繊維用サイジング剤で処理した炭素繊維束(サイジング炭素繊維束)は、マトリックス樹脂と混合して繊維強化樹脂組成物として用いることができる。よって、本発明は、(α)本発明のサイジング剤で処理したサイジング炭素繊維束、及び(β)マトリックス樹脂、を含有する炭素繊維強化樹脂組成物をも包含する。ここで、マトリックス樹脂は熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のどちらにも特に限定されず、また、一緒に用いてもよいが、得られた成形品の機械的特性かつ成形効率の高いプレス成形または射出成形が可能である熱可塑性樹脂が好ましい。
【0108】
上記(α)成分及び(β)成分を例えば混合して当該炭素繊維強化樹脂組成物を製造することができる。混合割合は特に制限されないが、例えば(β)成分100質量部に対して(α)成分が好ましくは10〜1000質量部程度、より好ましくは30〜300質量部程度である。(α)成分と(β)成分の混合には、これらを均一に混合できる公知の方法を用いることができ、例えば一軸押出し機、二軸押出し機、プレス機、高速ミキサー、射出成形機、引抜成形機等の公知の装置を用いて、常法に従って行うことができる。当該炭素繊維強化樹脂組成物は、その組成、配合方法等により、マトリックス樹脂と炭素繊維との粉末状混合物、この混合物からなる造粒物等の各種の形態で得られる。また、当該炭素繊維強化樹脂組成物による成形品は、公知の方法、例えば当該組成物を金型内で射出成形することにより得ることができる。なお、当該炭素繊維強化樹脂組成物には必要に応じて他の公知の添加剤を併用することも可能である。添加剤の具体例としては、酸化防止剤や耐熱安定剤、耐候剤、離型剤及び滑剤、顔料、染料、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、強化材などが挙げられる。
【0109】
熱可塑性樹脂としては、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等)の他、スチレン系樹脂、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリメチレンメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリエーテルニトリル、フェノールフェノキシ樹脂、フッ素樹脂等が例示される。さらには、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、飽和ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー等も例示される。またさらに、これらの共重合体、変性体、およびこれらを2種類以上ブレンドしたものでもよい。なお、ここでの変性体とは、分子構造内のカルボキシル基等の反応性のある官能基を置換して得られた誘導体や、分子構造内にオキシエチレン基等のジオールを付加させた誘導体をいう。
【0110】
本発明の炭素繊維用サイジング剤は、粘度の経時変化が少ない等、安定性に優れており、さらにまた、当該サイジング剤でサイジング処理した炭素繊維束(サイジング炭素繊維束)とマトリックス樹脂との接着性が優れるという利点も有する。また、接着性が優れるため、当該炭素繊維束とマトリックス樹脂とを混合して得られる炭素繊維強化樹脂組成物を用いて、非常に強度等の機械的特性が良好な複合化材料を製造することができる。このような複合化材料は、自動車や航空機向け等の構造材料用として有用である。
【実施例】
【0111】
次に本発明における実施例、比較例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0112】
炭素繊維用サイジング剤の製造
実施例1
直径50mmのタービン型撹拌羽根を備えた内容積1リットルの耐圧オートクレーブ中に、ポリアミドとして6/66/12共重合ナイロン(融点158℃、末端カルボキシル基125ミリモル/kg)240g、脱イオン水146gおよび10%水酸化ナトリウム水溶液14gを仕込み密閉した。次に、撹拌機を始動し、1000rpmの回転数で撹拌しながらオートクレーブ内部を180℃まで昇温した。内温を180℃に保ちながらさらに30分間撹拌した後、冷却し、内温が90℃に到達した際に、エチレン−アクリル酸共重合体アンモニウム塩の水性分散液(住友精化株式会社製の商品名“ザイクセンA”;固形分濃度25%、アクリル酸の共重合比率21.1%)48gおよび脱イオン水400gを加えた。さらに、室温まで冷却し、この水性分散液中のポリアミドの平均粒子径を回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所、商品名“SALD−2000J”)を用いて測定したところ、1.5μmであった。
【0113】
次に、得られたポリアミド水性分散液にアセチレンジオールとして「サーフィノール104A」(エアープロダクツ社製、日信化学社販売、サーフィノール104/2−エチルヘキサノールの50/50重量比での混合物)4.8gを混合して炭素繊維用サイジング剤(実施例1)を得た。
【0114】
実施例2
実施例1において、「サーフィノール104A」の使用量を0.24gとした以外は、実施例1と同様に操作し、炭素繊維用サイジング剤(実施例2)を得た。
実施例3
実施例1において、「サーフィノール104A」の使用量を0.96gとした以外は、実施例1と同様に操作し、炭素繊維用サイジング剤(実施例3)を得た。
実施例4
実施例1において、「サーフィノール104A」の使用量を24gとした以外は、実施例1と同様に操作し、炭素繊維用サイジング剤(実施例4)を得た。
実施例5
実施例1において、「サーフィノール104A」の使用量を48gとした以外は、実施例1と同様に操作し、炭素繊維用サイジング剤(実施例5)を得た。
実施例6
実施例1において、「サーフィノール104A」4.8gの代わりにアセチレンアルコールとして「サーフィノール61」(エアープロダクツ社製、日信化学社販売)2.4gを用いた以外は、実施例1と同様に操作し、炭素繊維用サイジング剤(実施例6)を得た。
実施例7
実施例1において、「サーフィノール104A」4.8gの代わりにアセチレンジオール(サーフィノール104)にエチレンオキサイドを40重量%の割合で付加した化合物として「サーフィノール440」(エアープロダクツ社製、日信化学社販売)2.4gを用いた以外は、実施例1と同様に操作し、炭素繊維用サイジング剤(実施例7)を得た。
実施例8
実施例1において、得られたポリアミド水性分散液に「サーフィノール104A」4.8gを混合した後、さらにノニオン性界面活性剤であるポリオキシエチレントリデシルエーテル(第一工業製薬株式会社製、商品名“ノイゲンTDS−70”)2.4gを混合した以外は、実施例1と同様に操作し、炭素繊維用サイジング剤(実施例8)を得た。
実施例9
実施例1において、得られたポリアミド水性分散液に「サーフィノール104A」4.8gを混合した後、さらにノニオン性界面活性剤であるエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(株式会社ADEKA製、商品名“プルロニックF108”)2.4gを混合した以外は、実施例1と同様に操作し、炭素繊維用サイジング剤(実施例9)を得た。
比較例1
実施例1において、「サーフィノール104A」を用いなかった以外は、実施例1と同様に操作し炭素繊維用サイジング剤(比較例1)を得た。
比較例2
実施例1において、「サーフィノール104A」4.8gの代わりに、ノニオン性界面活性剤であるポリオキシエチレントリデシルエーテル(第一工業製薬株式会社製、商品名“ノイゲンTDS−70”)2.4gを用いた以外は、実施例1と同様に操作し、炭素繊維用サイジング剤(比較例2)を得た。
【0115】
なお、上記の各例の製造方法から明らかなように、アセチレン系界面活性剤の使用量は、ポリアミド100質量部に対して、実施例1、6、7、8、9は1質量部、実施例2は0.05質量部、実施例3は0.2質量部、実施例4は5質量部、実施例5は10質量部、比較例1、2は0質量部である。
【0116】
炭素繊維用サイジング剤の安定性評価
上記のようにして得られた各炭素繊維用サイジング剤(実施例1〜9及び比較例1〜2)を、25℃に設定した恒温機に1時間保持して、25℃で安定させた後、B型回転式粘度計(回転数60rpm、ローターはNo.2、測定温度25℃)を用い、粘度を測定した。また、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所、商品名“SALD−2000J”)を用いて、実施例1と同様にして平均粒子径を測定した。
【0117】
次に、25℃に設定した恒温機に1ヶ月保存した後、同様に粘度と平均粒子径を測定し、増加率を算出することにより、それぞれの炭素繊維用サイジング剤の静置安定性を評価した。
ここで、静置安定性評価の評価基準は以下のとおりである。
◎:粘度値、粒径値ともにほとんど変化していない。(ともに増加率20%未満程度)
○:粘度値は少し大きくなっているが(増加率50%未満程度)、粒径値はほとんど変化していない(増加率20%未満程度)。
△:粘度値、粒径値ともに少し大きくなっている。(粘度値増加率50%以上、粒径値増加率20%以上)
×:粘度値、粒径値ともに大幅に大きくなっている。(ともに増加率50%以上)
【0118】
炭素繊維束の接着性の検討
ボビンに巻かれた炭素繊維束(三菱レイヨン株式会社製の商品名“パイロフィルTR50SI5L”:フィラメント数15000本、フィラメント径7μm、目付け1000mg/m)をボビンより送り出した後、各炭素繊維用サイジング剤(実施例1〜9及び比較例1〜2)を入れた含浸槽で連続的にローラー浸漬を行った後、熱風乾燥(190℃5分)を行った。ここでは、浸漬後の絞りを調整し、熱風乾燥後の各炭素繊維用サイジング剤の固形分の付着量が、付着前の炭素繊維束の質量を100質量部とした場合に対して5質量部になるように調整した。
【0119】
得られた炭素繊維束をナイロン6シート(面積;15cm×15cm、厚み;0.5mm)上に均一に並べた後、同じナイロン6シートを重ねて置いた。厚さ1mm、一辺長さ15cm正方形の金型に入れた後、加熱温度210℃に設定した油圧プレス機(二名工機株式会社製)で20分間(炭素繊維束に対する圧力;19.8Mpa)プレスを行うことで、1mmの厚みの成形体を作成した。
【0120】
得られた成形体を1cm幅に裁断して試験片として、オートグラフ(島津製作所の商品名“AGS−J”)を用いて、引張速度50mm/minの条件で、炭素繊維束とナイロン6シート面の180度剥離試験を行った。ここでは、剥離強度が1.0N/mm以上であると接着性に優れていると判断した。
【0121】
以上の検討の結果を、下記表1に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
表1から実施例1〜9の各炭素繊維用サイジング剤は、粘度、粒子径の経時変化が少ない等、安定性が優れることがわかった。また、炭素繊維束に含浸させた際、熱可塑性樹脂としてナイロン6との接着性を評価したが、接着性が優れた炭素繊維束が得られていることがわかった。
【0124】
一方、アセチレン系界面活性剤を使用しない炭素繊維用サイジング剤(比較例1〜2)は、粘度や粒子径の経時変化が大きい等、安定性が優れないものであった。また、比較例2では、アセチレン系界面活性剤を使用する代わりに、ノニオン系界面活性剤を用いたが、安定性の他、マトリックス樹脂との接着性も悪いものであった。
【0125】
以上の結果から、本発明の炭素繊維用サイジング剤は、粘度の経時変化が少なく、安定性に優れており、さらに当該サイジング剤で炭素繊維束を処理することにより、マトリックス樹脂との接着性が優れたサイジング炭素繊維束を得ることが可能となることが確認できた。
【0126】
このようにして得られた炭素繊維束は、マトリックス樹脂と混合して繊維強化樹脂組成物を成形した際、マトリックス樹脂との接着力が良好であるため、非常に強度に優れた良好な複合化材料を製造することができる。