特許第5778052号(P5778052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5778052磁気記録媒体に用いる低飽和磁束密度を有する軟磁性膜層用合金およびスパッタリングターゲット材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778052
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体に用いる低飽和磁束密度を有する軟磁性膜層用合金およびスパッタリングターゲット材
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/738 20060101AFI20150827BHJP
   C22C 45/02 20060101ALI20150827BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20150827BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20150827BHJP
   G11B 5/851 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   G11B5/738
   C22C45/02 A
   C23C14/34 A
   C23C14/14 F
   G11B5/851
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-22096(P2012-22096)
(22)【出願日】2012年2月3日
(65)【公開番号】特開2013-161497(P2013-161497A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074790
【弁理士】
【氏名又は名称】椎名 彊
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】松原 慶明
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−287269(JP,A)
【文献】 特開2010−285659(JP,A)
【文献】 特開2008−260969(JP,A)
【文献】 特開2009−070444(JP,A)
【文献】 特開2010−024548(JP,A)
【文献】 特開2011−181140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62− 5/858
C23C 14/00−14/58
C22C 35/00−45/10
H01F 1/12− 1/375
H01F 10/00−10/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
at%で、Y,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Ni,Cu,Al,B,C,Si,P,Zn,Ga,Ge,Snを1種以上、残部CoおよびFeからなり、下記の式(1)〜()を満たすことを特徴とした磁気記録媒体における軟磁性薄膜層用合金。
(1)0.65≦Fe%/(Fe%+Co%)≦0.80
(2)5≦TAM≦25
(3)15≦TAM+TNM≦25
(4)0≦(Nb%+Ta%)/(TAM+TNM)≦0.26
ただし、
TAM=Y%+Ti%+Zr%+Hf%+V%+Nb%+Ta%+B%/2
TNM=Cr%+Mo%+W%+Mn%+Ni%/3+Cu%/3+Al%+C%+Si%+P%+Zn%+Ga%+Ge%+Sn%
【請求項2】
下記の式()を満たすことを特徴とした請求項1に記載の磁気記録媒体における軟磁性薄膜層用合金。
)0.25≦(Nb%+Ta%)/(TAM+TNM)≦0.26
【請求項3】
下記の式()および/または()を満たすことを特徴とした請求項1または請求項2に記載の磁気記録媒体における軟磁性薄膜層用合金。
)0≦Ti%+Zr%+Hf%+B%/2≦ 5
)0<Cu%+Sn%+Zn%+Ga%≦10
【請求項4】
飽和磁束密度が0.5Tを超え1.1T未満であることを特徴とした、請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟磁性薄膜層用合金。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の合金からなる軟磁性薄膜を製造するためのスパッタリングターゲット材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に用いる低飽和磁束密度を有する軟磁性膜層用合金およびスパッタリングターゲット材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録技術の進歩は著しく、ドライブの大容量化のために、磁気記録媒体の高記録密度化が進められており、従来普及していた面内磁気記録媒体より更に高記録密度が実現できる、垂直磁気記録方式が実用化されている。更に、垂直磁気記録方式を応用し、熱やマイクロ波により記録をアシストする方法も検討されている。
【0003】
上記、垂直磁気記録方式とは、垂直磁気記録媒体の磁性膜中の媒体面に対して磁化容易軸が垂直方向に配向するように形成したものであり、高記録密度に適した方法である。そして、垂直磁気記録方式においては、記録感度を高めた磁気記録膜層と軟磁性膜層とを有する2層記録媒体が開発されている。この磁気記録膜層には一般的にCoCrPt−SiO2 系合金が用いられている。
【0004】
また、一般に軟磁性膜層の間にはRu膜が挿入され、軟磁性膜とRu膜の反強磁性結合(以下、AFC結合と記す)により、外部磁場に対する不感域(以下、Hbiasと記す)を持たせてある。例えば特開2011−86356号公報(特許文献1)に開示されているように、磁気記録媒体の使用環境下における外部のノイズ磁場に対する耐性を高めるためである。本発明による軟磁性膜層用合金は、これらの垂直磁気記録方式の媒体に用いることができる。
【0005】
また、従来の軟磁性膜層には、高い飽和磁束密度(以下、Bsと記す)と高いアモルファス形成能(以下、非晶質性と記す)が必須であり、さらに垂直磁気記録媒体の用途や使用環境によっては、高耐食性、高硬度など様々な特性が付加的に要求されてきた。
上記の要求特性の中でも、特に高Bsは重要であり、例えば特許文献1や特開2011−181140号公報(特許文献2)および特開2008−299905号公報(特許文献3)においても高いBsを狙いとしている。このように高いBsが要求されている理由は、記録膜の磁化を安定化させるために一定値以上のBsが必要であることと、大きいHbiasを持たせるためである。
【0006】
しかしながら、高いBsの軟磁性膜を用いることによる弊害もある。高いBsを示す軟磁性膜を用いると、Hbiasが大きくなる傾向があり高い外部ノイズ磁場耐性が得られるが、同時に、記録磁化が着磁された場合に、この軟磁性膜が持つ過度に大きな磁束が周囲に大きく影響し、結果として書き込みに必要なスペースが大きくなり、記録密度の低下を招く。さらに、高いHbiasの膜を用いると、Hbias以上の印加磁場に対する磁化の反応(以下、磁化の立ち上がりと記す)が鈍くなる傾向も見られる。
【0007】
Hbiasおよびそれ以上の磁場に対する磁化の立ち上がりを図1に模式的に示す。一般に書き込み用ヘッドにより記録膜に着磁する場合、軟磁性膜の磁化が飽和するだけの磁界を印加する。したがって、磁化の立ち上がりが鈍くなると、着磁にそれだけ大きな磁場を印加することが必要となってしまう。このように、着磁磁場が大きくなると、過度な周囲への影響が避けられず、結果として小さな領域に限定して記録することが困難となり、やはり記録密度を低下させる原因となってしまう。上記2つの記録密度低下の現象は、いわゆる「書き滲み」とも呼ばれており、一方の現象の抑制でも書き滲み改善効果はあるが、両現象を抑制すると、さらに書き滲み改善効果がある。
【特許文献1】特開2011−86356号公報
【特許文献2】特開2011−181140号公報
【特許文献3】特開2008−299905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のような問題を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、記録膜の磁化を安定させる最低限のBsと考えられる0.5Tを超えるBsを有しながら、比較的低いBsでも高いHbiasを持ち、さらには、高いHbiasでも鋭い磁化の立ち上がりを持つ軟磁性合金を見出せれば、外部磁場に対する高い耐性と、「書き滲み」抑制による、高記録密度が両立できるものと考えた。
【0009】
その発明の要旨は以下の通りである。
(1)at%で、Y,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Ni,Cu,Al,B,C,Si,P,Zn,Ga,Ge,Snを1種以上、残部CoおよびFeからなり、下記の式(1)〜()を満たすことを特徴とした磁気記録媒体における軟磁性薄膜層用合金。
(1)0.65≦Fe%/(Fe%+Co%)≦0.80
(2)5≦TAM≦25
(3)15≦TAM+TNM≦25
(4)0≦(Nb%+Ta%)/(TAM+TNM)≦0.26
ただし、
TAM=Y%+Ti%+Zr%+Hf%+V%+Nb%+Ta%+B%/2
TNM=Cr%+Mo%+W%+Mn%+Ni%/3+Cu%/3+Al%+C%+Si%+P%+Zn%+Ga%+Ge%+Sn%
【0010】
(2)下記の式()を満たすことを特徴とした前記(1)に記載の磁気記録媒体における軟磁性薄膜層用合金。
)0.25≦(Nb%+Ta%)/(TAM+TNM)≦0.26
(3)下記の式()および/または()を満たすことを特徴とした前記(1)または(2)に記載の磁気記録媒体における軟磁性薄膜層用合金。
)0≦Ti%+Zr%+Hf%+B%/2≦ 5
)0<Cu%+Sn%+Zn%+Ga%≦10
【0011】
(4)飽和磁束密度が0.5Tを超え1.1T未満であることを特徴とした前記(1)〜(3)のいずれか1に記載の軟磁性薄膜層用合金。
(5)前記(1)〜(4)のいずれか1に記載の合金からなるスパッタリングターゲット材にある。
【発明の効果】
【0012】
以上述べたように、本発明は、低い飽和磁束密度を有する軟磁性アモルファス合金であり、本合金薄膜の間にRuなどの非磁性薄膜を挿入し反強磁性結合させた多層膜において、外部磁場に対する不感域が大きい合金、さらに、不感域以上の外部磁場に対する磁化の立ち上がりが良好な磁気記録媒体用軟磁性合金およびこの合金の薄膜を作製するためのスパッタリングターゲット材を提供できることにある。このように、本用途の軟磁性合金において、積極的に低いBsを狙う思想は従来にはなかった。この考え方は本発明における最も特徴的な思想である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、Hbiasに及ぼす軟磁性膜組成の影響について検討するため、様々な組成の軟磁性膜について、Hbiasを評価したところ、Bsの大きさだけでなく、Fe%/(Fe%+Co%)によってもHbiasの大きさが変化することがわかった。すなわち、0.5Tを超え、1.1T未満と、従来例よりも比較的低いBsを有する軟磁性膜であっても、所定のFe%/(Fe%+Co%)の範囲にすることにより、高いHbiasが得られることがわかった。
【0014】
次に、Hbias以上の印加磁場による磁化の立ち上がりについても検討したところ、Fe,Co以外の添加元素の内、Nb,Taが多いこと、Ti,Zr,Hf,Bが少ないこと、Cu,Sn,Zn,Gaが少量添加されていることが、影響することがわかった。したがって、これらの元素を所定の添加量にすることにより、高いHbiasを有しながらも、鋭い磁化の立ち上がりを示す効果が付加的に得られることがわかった。
【0015】
このような新たな知見に基づき、従来の垂直磁気記録媒体用の軟磁性膜用合金の要求特性とは全く異なり、比較的低いBsを有しながらも、大きなHbiasを示し、さらに、高いHbiasを有しながらもHbias以上の印加磁場による磁化の立ち上がりの鋭い軟磁性合金を見い出し、従来では困難であった、外部ノイズ磁場に対する高い耐性と、書き滲みの抑制による高記録密度化を両立可能とし、本発明に至った。以下に、本発明合金の限定理由を説明する。
【0016】
0.65≦Fe%/(Fe%+Co%)≦0.80
本合金において、FeおよびCoは、記録膜の磁化を安定させるために最低限必要な磁化を持たせるための元素であり、BsとFe%/(Fe%+Co%)の挙動は、いわゆるスレーターポーリング曲線などに示される。さらに、Fe%/(Fe%+Co%)は、比較的低いBsにおいても、高いHbiasを持たせるための重要な因子でもある。Fe%/(Fe%+Co%)が0.65未満では、同程度のBsを有し、0.65以上の軟磁性膜と比較し、Hbiasが小さくなってしまう。この現象についての詳細な理由は不明であるが、AFC結合には軟磁性膜のBsとともに、磁性元素における3d電子軌道による層間の相互作用が関与していると考えられ、FeとCoの比率によりこれが変化することが影響していると推察される。また、0.80を超えると著しくBsが低下し、十分なHbiasが得られない
【0017】
5≦TAM≦25、15≦TAM+TNM≦25
本合金における、Fe,Co以外の元素の効果について、下記にまとめる。Ti,Zr,Hf,Bは非晶質化の促進とBsの低下をもたらす元素であるとともに、磁化の立ち上がりを大幅に鈍くしてしまう元素でもある。なお、BについてはBs低下および非晶質性増加の効果がTi,Zr,Hfと比較し約1/2であることから、TAMの中ではB%/2として扱うことができる。ただし、スパッタリングターゲット材の中では、Bは特に硬質な化合物(例えば硼化物)を生成し、機械加工の際に加工速度を落とす必要が出てくるため、BをTAMに分類した元素として単独で添加するよりも、複合的に添加することが好ましい。この点を踏まえると、(B/2)/TAMは0.8以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。
【0018】
Y,V,Cr,Mo,WはBsの低下をもたらすとともに、わずかに磁化の立ち上がりを鈍くしてしまう元素でもある。また、Y,Vは非晶質化の促進にも寄与する。Nb,Taは非晶質化の促進とBsの低下をもたらすとともに、磁化の立ち上がりを鋭くする効果がある重要な元素である。Mn,Al,Si,Ge,PはBsの低下をもたらすとともに、磁化の立ち上がりをわずかに鈍くしてしまう元素でもある。Ni,CuはBsの低下幅が小さい元素であり、Cuについては少量添加で磁化の立ち上がりを鋭くする効果もあるが多量の添加は磁化の立ち上がりをわずかに低下させる元素である。
【0019】
なお、Ni,Cuは他のTAMやTNMに分類した元素と比較し、Bsの低下幅が約1/3であることから、TNMの中ではNi%/3、Cu%/3として扱うことができる。Ga,Sn,ZnはBsの低下とともに、少量の添加においては磁化の立ち上がりを鋭くする効果があるが、多量の添加は磁化の立ち上がりをわずかに鈍くする元素である。このように、全ての元素がBsを低下させる効果を有しているとともに、非晶質性改善の効果や磁化の立ち上がりに影響する元素もある。これらの添加量を最適化することにより、本発明合金が得られる。
【0020】
TAMが5未満では十分な非晶質性が得られず、25を超えるとBsが低くなり、十分なHbiasが得られない。好ましくは7以上、23以下、より好ましくは9以上、20未満である。なお、NbとTaはスパッタリングターゲット材において、FeやCoと脆性な金属間化合物を生成するため、TAMとしてNbまたは/およびTaのみを添加する場合は、機械加工時に割れや欠けが発生しないように、加工速度を落とす必要がある。この点を考慮すると、TAMとして、Nbまたは/およびTaのみを添加する場合、TAMは20未満とすることが好ましい。
【0021】
TAM+TNMが15未満ではBsが大きくなるためHbiasは増加するものの、磁化の立ち上がりが鈍くなってしまう。TAM+TNMが25を超えるとBsが小さく、Hbiasが小さくなってしまう。なお、好ましくは17以上、23以下、より好ましくは18以上、21以下である。
【0022】
≦(Nb%+Ta%)/(TAM+TNM)≦0.26
上述したように、Nb,Taは本合金において、磁化の立ち上がりを鋭くする付加的な効果のある重要な元素である。しかし、TAMにはNbとTaの添加量も含まれているため、(Nb%+Ta%)/(TAM+TNM)の上限を0.26とする。なお、好ましくは0.25以上、0.26とする。
【0023】
0≦Ti%+Zr%+Hf%+B%/2≦5、0<Cu%+Sn%+Zn%+Ga%≦10
上述したように、Ti,Zr,Hf,Bは本合金において、磁化の立ち上がりを大幅に鈍くしてしまう元素であることから、その合計量の上限を厳しく規定することにより、より鋭い磁化の立ち上がりが付加的な効果として得られる。Ti%+Zr%+Hf%+B%/2が5を超えると磁化の立ち上がりを鋭くする効果が得られない。好ましくは3以下、より好ましくは0である。
【0024】
上述したように、Cu,Sn,Zn,Gaは本合金において、少量添加において磁化の立ち上がりを鋭くする付加的な効果のある元素であることから、少量の範囲では積極添加することで、より鋭い磁化の立ち上がりが得られる。Cu%+Sn%+Zn%+Ga%が10を超えると、この効果が得られない。好ましくは1以上、8以下、より好ましくは2以上、6以下である。なお、この両式は、いずれか一方のみを満たす場合でも、磁化の立ち上がりを鋭くする付加的な効果が得られる。
【0025】
以上のように様々な元素がBsへの影響以外に磁化の立ち上がりに影響し、その詳細な理由については不明であるが、以下のことが推察される。Hbias以上の印加磁場に対する磁化の立ち上がりの鋭さには、軟磁性合金のスパッタ膜の表面粗さが影響している傾向が見られる。Hbias以上の外部磁場により磁化が立ち上がる現象は、軟磁性膜とRu膜との界面におけるAFC結合が大きな印加磁場に耐えられず磁化反転を起こすと考えられるが、軟磁性膜の表面が粗く、両膜の界面に凹凸が存在すると、局所的に磁化反転が早く起こる部位と、遅く起こる部位が混在する可能性がある。
【0026】
このように、部位により磁化反転挙動に不一致が発生すると、膜全体としては磁化の立ち上がりが緩やかとなってしまう。このため、スパッタ膜の表面粗さと磁化の立ち上がりの鋭さに相関が見られるのではないかと考えられる。さらに、スパッタ膜の表面粗さへの添加元素の影響については、非晶質合金としての自由体積および過剰自由体積が影響している可能性が推察される。これらの両体積は、非晶質合金において原子と原子の間の隙間に相当する体積であり、これが大きい場合、合金中で原子が密に詰まっておらず、したがって、スパッタ膜において原子サイズのレベルでの表面粗さが大きくなると考えられる。
【0027】
なお、両体積には非晶質の安定性が関係する可能性が示唆されているが、本発明において、磁化の立ち上がりを大幅に鈍くするTi,Zr,Hf,Bは特に非晶質を安定化する元素であり、少量添加で磁化の立ち上がりを鋭くするCu,Ga,Sn,Znは非晶質性を低下させる元素である。更に、磁化の立ち上がりを鋭くする重要な元素であるNb,Taは、Ti,Zr,Hf,Bと比較すると、非晶質化を促進する効果が低い元素である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
表1に示す組成でガスアトマイズ法により軟磁性合金粉末を作製した。溶解母材は25kgで減圧Ar中にて誘導溶解し、直径8mmのノズルから合金溶湯を出湯し、直後に高圧Arガスを噴霧しアトマイズした。この粉末を500μm以下に分級し、HIP成形(熱間等方圧プレス)の原料粉末として用いた。HIP成形用ビレットは、直径200mm、長さ10mmの炭素鋼製缶に原料粉末を充填したのち、真空脱気、封入し作製した。この粉末充填ビレットを、温度1100℃、圧力120MPa、保持時間2時間の条件でHIP成形した。その後、成形体から直径95mm、厚さ2mmの軟磁性合金スパッタリングターゲット材を作製した。この軟磁性合金製のスパッタリングターゲット材を用い軟磁性薄膜を作製した。また、Ru薄膜の作製には、市販のRu金属製のスパッタリングターゲット材を用いた。
【0029】
チャンバー内を1×10-4Pa以下に真空排気し、純度99.99%のArガスを0.6Pa投入しスパッタを行なった。まず、洗浄したガラス基板上に20nmの軟磁性合金薄膜(下軟磁性層)を成膜し、その上に0.8nmのRu膜を成膜し、さらにその上に上述した膜と同じ20nmの軟磁性合金薄膜(上軟磁性層)を成膜し、多層膜を作製した。なお、全ての実施例および比較例における多層膜の上下の軟磁性膜には同じ合金を用いた。また、軟磁性膜のBs、結晶構造、表面粗さの評価用として下軟磁性層のみ成膜した単層膜も作製した。
【0030】
このようにして作製した単層膜を試料とし、BsはVSM(試料振動型磁束計)、結晶構造はX線回折、算術平均粗さRa(表面粗さ)はAFM(原子間力顕微鏡)を用いて評価した。結晶構造については、非晶質を○、非晶質の中に一部微結晶が見られるものを△、結晶を×とした。さらに多層膜によりHbiasおよび磁化の立ち上がりの鋭さを評価した。これらの結果は表2に示す通りであった。
【0031】
図1は、多層膜の磁化曲線の模式図である。この図に示すように、Hbiasは多層膜の磁化が立ち上がる時の印加磁場、磁化の立ち上がりの鋭さは、多層膜の磁化が飽和する印加磁場(Hsat)とHbiasの比、すなわちHsat/Hbiasで評価した。図1(a)はHbiasが大きく、磁化の立ち上がりが鋭い例を示し、図1(b)はHbiasが小さく、磁化の立ち上がりが鈍い例を示している。すなわち、この値が小さく1に近いほど磁化の立ち上がりが鋭いことを示す。この値が、1.2未満を◎、1.2以上1.4未満を○、1.4以上1.8未満を△、1.8以上を×とした。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
表1および表2に示すように、No.1〜10は本発明例である、No.11〜21は比較例である。
【0034】
図2は、表2の結果について、多層膜のHbiasを縦軸、単層膜のBsを横軸にプロットした図である。この図中の実線の楕円のとおり、高いHbiasを得るためには、高いBsが必要であることがわかる。なお、この実線の楕円中のデータはいずれもFe%/(Fe%+Co%)が0.65〜0.80の範囲のものである。これに対し、図2中でこの実線の楕円より下に位置する比較例No.11〜13は、Fe%/(Fe%+Co%)が0.5未満であるため、実線楕円内のデータと同等のBsを有しながら、Hbiasは低い値にとどまってしまっている
【0035】
一方、図2中で左下の点線の楕円内に位置する比較例No.14〜18は、Bsが著しく低いためHbiasも低くなってしまっている。また、比較例No.21は、Fe%/(Fe%+Co%)が0.4と低く、TAM+TNMが15未満と小さい組成で、従来技術で多く見られる高Bs組成である。この組成は図2中でにおいて、実線の楕円の右に位置するプロットであり、実線の楕円中の組成と比較し、同等の高いHbiasを得るために、著しく大きいBsを必要としており、このような組成はいわゆる「書き滲み」を引き起こしてしまう。
【0036】
図3は、表2の結果について、多層膜のHbiasを縦軸、単層膜のRaを横軸にプロットし、プロットのマークを、Hbias以上の外部磁場を印加したときの多層膜の磁化の立ち上りの鋭さごとに変化させたものである。この図から、同等のHbiasを有する多層膜であっても、単層膜の表面粗さ(Ra)が大きい場合に、磁化の立上りが劣化することがわかる。
【0037】
次に、表2に示す個々の比較例データについて説明する。比較例No.11〜13はFe%/(Fe%+Co%)値がいずれも低いため、0.80〜0.86TのBsを有しているにもかかわらず、高いHbiasが得られていない。比較例No.1415はFe%/(Fe%+Co%)値が過度に高く、比較例No.1617はTAM+TNMが高く、比較例No.18はTAMおよびTAM+TNMが高いため、いずれもBsが著しく低く、高いHbiasが得られていない。
【0038】
比較例No.19はTAM+TNMが低いためBsが高く、高いHbiasは得られるが、Hbiasを超える外部磁場に対する磁化の立ち上がりが鈍い。比較例No.20はTAMが低く、結晶質であり、結晶粒に起因する単層膜表面の凹凸によりRaが高く、Hbiasを超える外部磁場に対する磁化の立ち上がりが鈍い。比較例No.21は、Fe%/(Fe%+Co%)値が低く、TAM+TNMが低いため、著しくBsが高いにもかかわらず、実施例と同等レベルのHbiasしか得られておらず、このように著しくBsの高い組成は、いわゆる「書き滲み」を起こしてしまう。
【0039】
これらと比較し、実施例No.1〜10はいずれも本発明の範囲内であることから、1.1T未満と従来技術より低いBsでありながら、高いHbiasを有しており、さらに、Hbiasを超える印加磁場に対し鋭い磁化の立ち上りを示すことがわかる。このような組成によって、高い外部ノイズ磁場に対する耐性とBsが過度に高いことによる書き滲みの抑制が両立できる
【0040】
さらに、実施例No.5〜10は、Ti%+Zr%+Hf%+B%/2が5以下および/もしくはCu%+Sn%+Zn%+Ga%が0を超え、10以下であることから、実施例No.1〜4よりも、単層膜の粗さ(Ra)が小さく磁化の立ち上がりが鋭い付加的な効果も得られている。なお、実施例No.9は実施例中で最高のHbiasを有しながらも、Ti%+Zr%+Hf%+B%/2が5以下であることから、実施例No.1〜4と同等程度の磁化の立ち上がりを有していることがわかる。
【0041】
以上のように、記録膜の磁化を安定させる最低限のBsを有しながら、比較的低いBsでも高いHbiasを持ち、さらには、付加的な効果として鋭い磁化の立ち上がりを持つ軟磁性合金であることから、外部磁場に対する高い耐性と、「書き滲み」抑制による、高記録密度の両立が可能となる、低飽和磁束密度を有する軟磁性膜層用合金およびスパッタリングターゲット材を提供することができる極めて優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】多層膜の磁化曲線の模式図である。
図2】単層膜のBsと多層膜のHbiasの相関を示す図である。
図3】Hbias後の磁化の立ち上りの鋭さに及ぼす単層膜のRaと多層膜のHbiasの影響を示す図である。
図1
図2
図3