特許第5778053号(P5778053)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5778053質量分析装置及び質量分析装置の調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778053
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】質量分析装置及び質量分析装置の調整方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/42 20060101AFI20150827BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   H01J49/42
   G01N27/62 B
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-22940(P2012-22940)
(22)【出願日】2012年2月6日
(65)【公開番号】特開2013-161666(P2013-161666A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】金井 久亮
(72)【発明者】
【氏名】大西 富士夫
(72)【発明者】
【氏名】幕内 雅巳
【審査官】 桐畑 幸▲廣▼
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−175774(JP,A)
【文献】 特開昭62−188154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/42
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を導入する試料導入室と
該試料導入室に導入された前記試料をイオン化するイオン化室と、
該イオン化室でイオン化された前記試料を該イオンの質量に応じて分離するイオントラッ
プ部と、
該イオントラップ部で分離されたイオンのうち所定の質量を有するイオンを検出する検出
器と、
該検出器で前記イオンを検出して得られたデータを処理するデータ処理部と
を備えた質量分析装置であって、
前記イオントラップ部は、
対向して配置された2組の合計4本のロッド電極を備えたロッド電極部と、
RF信号を発生させるRF信号源と、
該RF信号源で発生させたRF信号を共振増幅して高電圧RF信号を生成して前記ロッド
電極部の4本のロッド電極の中心軸に対して対向する一方の一組のロッド電極対に高電圧
RF信号を印加して他方の一組のロッド電極対に前記一方の一組のロッド電極に印加した
高電圧RF信号とは逆相の高電圧RF信号を印加する共振回路手段と、
前記一方の一組のロッド電極に印加する高電圧RF信号と前記他方の一組のロッド電極
に印加する前記逆相の高電圧RF信号との振幅差と前記共振回路手段の共振周波数を測定
する共振周波数・振幅差測定手段と、
該共振周波数・振幅差測定手段で測定した前記高電圧RF信号の振幅差と前記共振回路手
段の共振周波数の情報に基づいて前記共振回路手段を調整する制御手段とを備え、
前記共振回路手段は、前記RF信号源の駆動周波数と前記共振回路手段の共振周波数とを同調させる周波数同調部と、前記高電圧RF信号の前記振幅差を所定の値に調整するための振幅差調整部とを有し、
前記制御手段は、前記共振周波数・振幅差測定手段で測定した前記高電圧RF信号の振
幅差と前記共振回路手段の共振周波数の情報に基づいて、前記共振回路手段の振幅差調整
部を制御して前記高電圧RF信号の振幅差が小さくなるように調整するとともに、前記共
振回路手段の周波数同調部を制御して前記共振回路の共振周波数を前記RF信号源の駆動
周波数に整合させるように調整する
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
前記共振回路手段の振幅差調整部は、前記ロッド電極部の前記対向する一方の一組のロ
ッド電極対に高電圧RF信号を印加する側に接続する可変容量コンデンサと、前記ロッド電極部の前記対向する他方の一組のロッド電極対に高電圧RF信号を印加する側に接続する可変容量コンデンサとを備えて構成されていることを特徴とする請求項1記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記共振回路手段の振幅差調整部は、前記ロッド電極部の前記対向する一方の一組のロ
ッド電極対に高電圧RF信号を印加する側に並列に接続する第1の複数のコンデンサと、
前記ロッド電極部の前記対向する他方の一組のロッド電極対に高電圧RF信号を印
加する側に前記第1の複数のコンデンサのそれぞれのコンデンサに対応して並列に接続す
る第2の複数のコンデンサと、前記第1の複数のコンデンサ又は該第1の複数のコンデン
サのそれぞれのコンデンサに対応する前記第2のコンデンサの何れかを接地状態に切り替
える複数のスイッチとを備えて構成されていることを特徴とする請求項1記載の質量分析
装置。
【請求項4】
前記共振回路手段の周波数同調部は、前記ロッド電極部の前記対向する一方の一組のロ
ッド電極対に高電圧RF信号を印加する側と前記ロッド電極部の前記対向する他方の一組
のロッド電極対に高電圧RF信号を印加する側とに接続する可変容量コンデンサとを備え
て構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の質量分析装置。
【請求項5】
試料を導入する試料導入室と、
該試料導入室に導入された前記試料をイオン化するイオン化室と、
該イオン化室でイオン化された前記試料を該イオンの質量に応じて分離するイオントラッ
プ部と、
該イオントラップ部で分離されたイオンのうち所定の質量を有するイオンを検出する検出
器と、
該検出器で前記イオンを検出して得られたデータを処理するデータ処理部と
を備えた質量分析装置であって、
前記イオントラップ部は、
対向して配置された2組の合計4本のロッド電極を備えたロッド電極部と、
RF信号を発生させるRF信号源と、
該RF信号源で発生させたRF信号を共振増幅して高電圧RF信号を生成して前記ロッド
電極部の4本のロッド電極の中心軸に対して対向する一方の一組のロッド電極対に高電圧
RF信号を印加して他方の一組のロッド電極対に前記一方の一組のロッド電極に印加した
高電圧RF信号とは逆相の高電圧RF信号を印加する共振回路手段と、
前記一方の一組のロッド電極に印加する高電圧RF信号と前記他方の一組のロッド電極
に印加する前記逆相の高電圧RF信号との振幅差と前記共振回路手段の共振周波数を測定
する共振周波数・振幅差測定手段と、
該共振周波数・振幅差測定手段で測定した前記高電圧RF信号の振幅差と前記共振回路手
段の共振周波数の情報に基づいて前記共振回路手段を調整する制御手段と
を備えた質量分析装置であって、
前記共振回路手段は、前記RF信号源の駆動周波数と前記共振回路手段の共振周波数とを同調させる周波数同調部と、前記高電圧RF信号の前記振幅差を所定の値に調整するための振幅差調整部とを有し、
前記制御手段は、前記共振周波数・振幅差測定手段で測定した前記高電圧RF信号の振
幅差と前記共振回路手段の共振周波数の情報に基づいて前記共振回路手段の振幅差調整部
を制御する振幅差制御部と、前記共振回路手段の周波数同調部を制御する周波数同調制御
部とを備える
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項6】
前記共振周波数・振幅差測定手段は、前記一方の一組のロッド電極に印加する高電圧R
F信号を分圧する第1の分圧部と、該第1の分圧部により前記高電圧RF信号から分圧さ
れたRF信号を整流する第1の整流回路部と、前記他方の一組のロッド電極に印加する前
記逆相の高電圧RF信号を分圧する第2の分圧部と、該第2の分圧部により前記高電圧R
F信号から分圧されたRF信号を整流する第2の整流回路部と、前記第1の整流回路部で
整流して得られた第1の直流信号と前記第2の整流回路部で整流して得られた第2の直流
信号とを加算した信号を求める加算器と、該加算器で求めた前記第1の直流信号と前記第
2の直流信号との加算信号に基づいて前記共振回路手段の共振周波数を求める共振周波数
測定部を有し、前記制御手段は、前記共振周波数測定部で求めた前記共振回路手段の共振
周波数の情報に基づいて前記共振回路手段の共振周波数を前記RF信号源の駆動周波数と同調させるように前記周波数同調部を制御する周波数同調制御部を有することを特徴とする請求項5記載の質量分析装置。
【請求項7】
前記共振周波数・振幅差測定手段は、前記第1の整流回路部で整流して得られた第1の
直流信号と前記第2の整流回路部で整流して得られた第2の直流信号との差信号を求める
減算器と、該減算器で求めた前記第1の直流信号と前記第2の直流信号との差信号に基づ
いて前記共振周波数測定部で求めた前記共振回路手段の共振周波数における前記一方の一
組のロッド電極に印加する高電圧RF信号と前記他方の一組のロッド電極に印加する前記
逆相の高電圧RF信号との振幅の差を求める振幅差測定部を更に有することを特徴とする
請求項6記載の質量分析装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記RF信号源で発生させる高電圧RF信号の周波数を掃引させる駆
動周波数掃引制御部を備えることを特徴とする請求項5乃至7の何れかに記載の質量分析
装置。
【請求項9】
RF信号源で発生させたRF信号を共振回路で共振増幅して高電圧RF信号を生成し、
対向して配置された2組の合計4本のロッド電極を備えたロッド電極部の前記4本のロッ
ド電極のうち該4本のロッド電極の中心軸に対して対向する一方の一組のロッド電極対に
前記生成した高電圧RF信号を印加して他方の一組のロッド電極対に前記一方の一組のロ
ッド電極に印加した高電圧RF信号とは逆相にした状態で前記生成した高電圧RF信号を
印加し,
前記一方の一組のロッド電極に印加した高電圧RF信号と前記他方の一組のロッド電極
に印加した前記逆相の高電圧RF信号との振幅差と前記共振回路の共振周波数を測定し、
該測定した前記高電圧RF信号の振幅差と前記共振回路の共振周波数の情報に基づいて
前記共振回路を調整する
質量分析装置の調整方法であって、
前記ロッド電極に印加した前記高電圧RF信号と前記逆相の高電圧RF信号との振幅差
の情報と前記共振回路の共振周波数との情報に基づいて、前記振幅差が小さくなるように
前記共振回路を調整するとともに、前記共振回路の共振周波数を前記RF信号の周波数に
整合させるように前記共振回路を調整する
ことを特徴とする質量分析装置の調整方法。
【請求項10】
前記振幅差が小さくなるように前記共振回路を調整することを、前記ロッド電極部の前
記対向する一方の一組のロッド電極対に高電圧RF信号を印加する側に接続する可変容量
コンデンサの容量と、前記ロッド電極部の前記対向する他方の一組のロッド電極対に高電
圧RF信号を印加する側に接続する可変容量コンデンサの容量とを調整することにより行
うことを特徴とする請求項9記載の質量分析装置の調整方法。
【請求項11】
前記振幅差が小さくなるように前記共振回路を調整することを、前記ロッド電極部の前
記対向する一方の一組のロッド電極対に高電圧RF信号を印加する側に並列に接続する第
1の複数のコンデンサと、前記ロッド電極部の前記対向する他方の一組のロッド電極対に前記逆相の高電圧RF信号を印加する側に前記第1の複数のコンデンサのそれぞれのコンデンサに対応して並列に接続する第2の複数のコンデンサとの何れかに接地状態を切り替えることにより行うことを特徴とする請求項9記載の質量分析装置の調整方法。
【請求項12】
前記共振回路の共振周波数を前記RF信号の周波数に整合させるように前記共振回路を
調整することを、前記ロッド電極部の前記対向する一方の一組のロッド電極対に高電圧R
F信号を印加する側と前記ロッド電極部の前記対向する他方の一組のロッド電極対に前記逆相の高電圧RF信号を印加する側とに接続する可変容量コンデンサの容量を調整することにより行うことを特徴とする請求項9乃至11の何れかに記載の質量分析装置の調整方法。
【請求項13】
対向して配置された2組の合計4本のロッド電極を有するロッド電極部を備えた質量分
析装置の調整方法であって、
RF信号源で発生させたRF信号を共振増幅して高電圧RF信号を生成する共振回路の共
振周波数を検出し、
該検出した共振回路の共振周波数に同調するように前記RF信号源の駆動周波数を設定し

該設定した駆動周波数で前記RF信号源から発生させたRF信号を前記共振回路で共振増
幅して高電圧RF信号を生成し、
前記ロッド電極部の前記4本のロッド電極のうち該4本のロッド電極の中心軸に対して
対向する一方の一組のロッド電極対に前記生成した高電圧RF信号を印加して他方の一組
のロッド電極対に前記一方の一組のロッド電極に印加した高電圧RF信号とは逆相にした
状態で前記生成した高電圧RF信号を印加し、
前記一方の一組のロッド電極対に印加した前記高電圧RF信号と前記他方の一組のロッ
ド電極対に印加した前記逆相の高電圧RF信号との振幅の差を検出し、
該検出した振幅の差を予め設定した値と比較し、
前記検出した振幅の差が予め設定した値よりも大きい場合には前記振幅の差が小さくな
るように前記共振回路を調整す
ことを特徴とする質量分析装置の調整方法。
【請求項14】
前記検出した振幅の差が予め設定した値よりも大きい場合に前記振幅の差が小さくなる
ように前記共振回路を調整した後に、再度前記共振回路の共振周波数を検出し、該検出し
た共振回路の共振周波数が前記設定したRF信号源の駆動周波数に同調するように前記共
振回路を調整し、該調整した共振回路で共振増幅した高電圧RF信号を前記ロッド電極部
の前記4本のロッド電極のうち該4本のロッド電極の中心軸に対して対向する一方の一組
のロッド電極対に前記生成した高電圧RF信号を印加して他方の一組のロッド電極対に前
記一方の一組のロッド電極に印加した高電圧RF信号とは逆相にした状態で前記生成した
高電圧RF信号を印加し,前記一方の一組のロッド電極対に印加した前記高電圧RF信号
と前記他方の一組のロッド電極対に印加した前記逆相の高電圧RF信号との振幅の差を検
出することを特徴とする請求項13に記載の質量分析装置の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンを捕捉する機能をもつイオントラップ部を備えて物質の組成同定に用いられる質量分析装置及び質量分析装置の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置のイオントラップ部は、双曲面の断面形状を持った複数の電極で構成されており、その電極に高電圧の高周波信号(以下、高電圧RF信号と記す)および直流電圧を印加することで、複数の電極で形成される空間に電場を発生させてイオンを捕捉する。
【0003】
図9を用いて、イオントラップ部のイオンの捕捉原理について説明する。ここでは、イオントラップ部として、双曲面の断面形状を持つ4本の電極柱 (以下、ロッド電極と記す)908a−1,908a−2,908b−1,908b−2を平行に配置して構成されるロッド電極部905を一例として挙げる。また、高電圧RF信号を生成する回路の一例として、高周波信号(以下、RF信号)を出力するRF信号源901と、コイル902a,902bとコンデンサ903a,903b、904および配線の寄生容量などで形成される共振回路906とで構成される回路を示す。
【0004】
4本のロッド電極908a−1,908a−2,908b−1,908b−2の中心軸に対して、対向するロッド電極対908a−1と908a−2に同相の高電圧RF信号を印加し、他方のロッド電極対908b−1と908b−2に、逆相の高電圧RF信号を印加した場合の、中心軸に対して直交するx−y平面におけるイオンの運動方程式は、次式によって表される。
【0005】
【数1】
【0006】
【数2】
【0007】
【数3】
【0008】
【数4】
【0009】
ここで、eはイオンの電荷量を、Vは高電圧RF信号の振幅を、mはイオンの質量数を、rはロッド電極で囲まれた空間に内接する円の半径を、ωは高電圧RF信号の角周波数を、tは時間を表す。
【0010】
一般に、m/eの質量電荷比のイオンをイオントラップ内に捕捉するには、q≦0.908となるように、Vおよびωを決定すればよいことが知られている。
【0011】
しかしながら、上述のようにVおよびωを決定しても、各ロッド電極対に接続されるコイルのインダクタンスやコンデンサの製造バラつきなどにより、各ロッド電極対に印加される高電圧RF信号の振幅に差が生じることがあり、そのような場合には、(数1)および(数2)の運動方程式を満足しなくなるため、イオンのトラップ効率が低下する場合や、所望の質量電荷比を持つイオンを捕捉できない場合がある。
【0012】
この問題を解決する手段として、特許文献1には、4本のロッド電極で構成されるイオントラップにおいて、各ロッド電極に可変コンデンサを設けて、高周波電圧が同一値になるように各可変コンデンサを調整することが可能な線形イオントラップ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−332211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
図10A及び図10Bは、各ロッド電極に接続された可変コンデンサの内、いずれかの可変コンデンサを調整して、高電圧RF信号振幅差を調整した場合の共振周波数と駆動周波数の関係を説明する図である。図10Aは、高電圧RF信号の振幅差を補正していない状態で、周波数同調手段により共振周波数fと駆動周波数fを一致させた場合の高電圧RF信号の周波数特性を示している。共振周波数において、ロッド電極対の高電圧RF信号の振幅に大きな差が生じていることが分かる。図10Bは、図10Aの状態から、可変コンデンサにより高電圧RF信号の振幅差を補正した場合の周波数特性を示している。振幅差補正により振幅差が減少するが、一方で、共振周波数と駆動周波数が不一致となることが分かる。
【0015】
このため、共振周波数fと駆動周波数fを一致させるために、再度、他の可変コンデンサを調整する必要が生じて、調整工数が増大するという課題がある。また、共振周波数と駆動周波数が不一致の状態のまま、イオントラップ装置を動作させた場合には、増幅率の低下による消費電力の増大や、回路の動作マージンの減少により装置が異常動作する可能性がある。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、高電圧RF信号の振幅差を調整した場合においても、共振周波数と駆動周波数のズレを低減し、振幅差の調整工数の低減および駆動周波数と共振周波数のズレによる増幅率の低下などを軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記した課題を解決するために、本発明では、試料を導入する試料導入室と、この試料
導入室に導入された試料をイオン化するイオン化室と、このイオン化室でイオン化された
試料をこのイオンの質量に応じて分離するイオントラップ部と、このイオントラップ部で
分離されたイオンのうち所定の質量を有するイオンを検出する検出器と、この検出器でイ
オンを検出して得られたデータを処理するデータ処理部とを備えた質量分析装置において
、イオントラップ部を、対向して配置された2組の合計4本のロッド電極を備えたロッド
電極部と、RF信号を発生させるRF信号源と、このRF信号源で発生させたRF信号を
共振増幅して高電圧RF信号を生成してロッド電極部の4本のロッド電極の中心軸に対し
て対向する一方の一組のロッド電極対に高電圧RF信号を印加して他方の一組のロッド電
極対に前記一方の一組のロッド電極に印加した高電圧RF信号とは逆相の高電圧RF信号
を印加する共振回路手段と,一方の一組のロッド電極に印加する高電圧RF信号と他方の
一組のロッド電極に印加する逆相の高電圧RF信号との振幅差と共振回路手段の共振周波
数を測定する共振周波数・振幅差測定手段と、この共振周波数・振幅差測定手段で測定し
た高電圧RF信号の振幅差と共振回路手段の共振周波数の情報に基づいて共振回路手段を
調整する制御手段とを備え、共振回路手段は、RF信号源の駆動周波数と共振回路手段の共振周波数とを同調させる周波数同調部と、高電圧RF信号の振幅差を所定の値に調整するための振幅差調整部とを有し、制御手段は、共振周波数・振幅差測定手段で測定した高電圧RF信号の振幅差と共振回路手段の共振周波数の情報に基づいて、共振回路手段の振幅差調整部を制御して高電圧RF信号の振幅差が小さくなるように調整するとともに、共振回路手段の周波数同調部を制御して共振回路の共振周波数をRF信号源の駆動周波数に整合させるように調整するように構成した。
【0018】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、試料を導入する試料導入室と、こ
の試料導入室に導入された試料をイオン化するイオン化室と、このイオン化室でイオン化
された試料をこのイオンの質量に応じて分離するイオントラップ部と、このイオントラッ
プ部で分離されたイオンのうち所定の質量を有するイオンを検出する検出器と、この検出
器でイオンを検出して得られたデータを処理するデータ処理部とを備えた質量分析装置に
おいて、イオントラップ部を、対向して配置された2組の合計4本のロッド電極を備えた
ロッド電極部と、RF信号を発生させるRF信号源と、このRF信号源で発生させたRF
信号を共振増幅して高電圧RF信号を生成してロッド電極部の4本のロッド電極の中心軸
に対して対向する一方の一組のロッド電極対に高電圧RF信号を印加して他方の一組のロ
ッド電極対に一方の一組のロッド電極に印加した高電圧RF信号とは逆相の高電圧RF信
号を印加する共振回路手段と,一方の一組のロッド電極に印加する高電圧RF信号と他方
の一組のロッド電極に印加する逆相の高電圧RF信号との振幅差と共振回路手段の共振周
波数を測定する共振周波数・振幅差測定手段と、この共振周波数・振幅差測定手段で測定
した高電圧RF信号の振幅差と共振回路手段の共振周波数の情報に基づいて共振回路手段
を調整する制御手段とを備え、共振回路手段は、RF信号源の駆動周波数と共振回路手段の共振周波数とを同調させる周波数同調部と、高電圧RF信号の振幅差を所定の値に調整するための振幅差調整部とを有し、制御手段は、共振周波数・振幅差測定手段で測定した高電圧RF信号の振幅差と共振回路手段の共振周波数の情報に基づいて共振回路手段の振幅差調整部を制御する振幅差制御部と、共振回路手段の周波数同調部を制御する周波数同調制御部とを備えて構成した。
【0019】
更に、上記した課題を解決するために、本発明では、RF信号源で発生させたRF信号を共振回路で共振増幅して高電圧RF信号を生成し、対向して配置された2組の合計4本のロッド電極を備えたロッド電極部の4本のロッド電極のうちこの4本のロッド電極の中心軸に対して対向する一方の一組のロッド電極対に前記生成した高電圧RF信号を印加して他方の一組のロッド電極対に前記一方の一組のロッド電極に印加した高電圧RF信号とは逆相にした状態で前記生成した高電圧RF信号を印加し,一方の一組のロッド電極に印加した高電圧RF信号と他方の一組のロッド電極に印加した逆相の高電圧RF信号との振幅差と共振回路の共振周波数を測定し、この測定した高電圧RF信号の振幅差と共振回路の共振周波数の情報に基づいて共振回路を調整する質量分析装置の調整方法において、ロッド電極に印加した高電圧RF信号と逆相の高電圧RF信号との振幅差の情報と共振回路の共振周波数との情報に基づいて、振幅差が小さくなるように共振回路を調整するとともに、共振回路の共振周波数をRF信号の周波数に整合させるように共振回路を調整するようにした。
【0020】
更にまた、上記した課題を解決するために、本発明では、対向して配置された2組の合
計4本のロッド電極を有するロッド電極部を備えた質量分析装置の調整方法において、R
F信号源で発生させたRF信号を共振増幅して高電圧RF信号を生成する共振回路の共振
周波数を検出し、この検出した共振回路の共振周波数に同調するようにRF信号源の駆動
周波数を設定し、この設定した駆動周波数でRF信号源から発生させたRF信号を共振回
路で共振増幅して高電圧RF信号を生成し、ロッド電極部の4本のロッド電極のうちこの
4本のロッド電極の中心軸に対して対向する一方の一組のロッド電極対に前記生成した高
電圧RF信号を印加して他方の一組のロッド電極対に前記一方の一組のロッド電極に印加
した高電圧RF信号とは逆相にした状態で前記生成した高電圧RF信号を印加し,一方の
一組のロッド電極対に印加した高電圧RF信号と他方の一組のロッド電極対に印加した逆
相の高電圧RF信号との振幅の差を検出し、この検出した振幅の差を予め設定した値と比
較し、検出した振幅の差が予め設定した値よりも大きい場合には振幅の差が小さくなるよ
うに共振回路を調整するようにした。

【発明の効果】
【0021】
本願において開示される発明のうち代表的な発明によれば、振幅差調整手段を調整した際に生じる駆動周波数と共振周波数のズレを抑制できることから、温度や湿度が変化した場合においても、質量分析装置を安定動作させることができる。また、調整時間を短縮できることから、質量分析装置の測定スループットを向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る質量分析装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施例1に係るイオントラップ部の構成を説明するブロック図である。
図3A】高圧RF信号振幅を調整する前の共振周波数と駆動周波数の関係を説明するグラフである。
図3B】本発明の実施例1に係るイオントラップ部を適用して高圧RF信号振幅を調整した場合の共振周波数と駆動周波数の関係を説明するグラフである。
図4】本発明の実施例2に係るイオントラップ部の構成を説明するブロック図である。
図5】本発明の実施例2に係るイオントラップ部で抵抗素子を挿入して共振回路のQ値を低下させる構成を説明するブロック図である。
図6】本発明の実施例3に係るイオントラップ部の構成を説明するブロック図である。
図7】本発明の実施例3に係るイオントラップ部の共振周波数・振幅差測定手段と制御手段の詳細な構成を示すブロック図である。
図8】本発明の実施例3に係る振幅差および駆動周波数を調整する処理の流れを説明するフロー図である。
図9】従来の質量分析装置のイオントラップ部の構成を説明するブロック図である。
図10A】高圧RF信号振幅を調整する前の共振周波数と駆動周波数の関係を示す高電圧RF信号振幅と周波数との関係を示すグラフである。
図10B】従来の方式により高圧RF信号振幅を調整した場合の共振周波数と駆動周波数の関係を示す高電圧RF信号振幅と周波数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明のイオントラップ装置が適用された質量分析装置の構成を説明するための図である。質量分析装置は、試料導入室1001、イオン化室1002、イオントラップ部1003、検出器1004およびデータ処理部1005で構成される。試料ガスは、試料導入室1001に導入された後、イオン化室1002でイオン化される。イオン化した試料は、イオントラップ部1003へ移動し、イオントラップ部1003において、イオンの溜め込みと、質量スペクトルを得るための質量スキャン動作が行われる。質量スキャンによりイオントラップ部1003から放出されたイオンは、検出器1004により電気信号に変換され、データ処理部1005にてソフト補正されて、質量スペクトルが得られ、その結果が出力部1006に送られて質量スペクトルの情報が画面1007に表示される構成となっている。
【0024】
次に、イオンストラップ部1003の構成について、複数の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0025】
図2は、本発明によるイオントラップ部1003の第1の実施形態の構成を説明するための図である。第1の実施形態に係るイオントラップ部1003は、RF信号源101とロッド電極部105、共振周波数・振幅差測定手段106、制御手段107、共振回路部109を備えている。
【0026】
RF信号源101は高周波信号(RF信号)を発生させる。ロッド電極部105は、対向して平行に配置されて対をなす2組の合計4本のロッド電極、即ちロッド電極の中心軸に対して対向する一方のロッド電極対108a−1、108a−2と他方のロッド電極対108a−1、108a−2とを備えている。
【0027】
共振回路109は、コイル102a,102bと可変容量コンデンサ103a,103b,104および配線の寄生容量などからなる。
【0028】
共振回路109は、RF信号源101で発生させたRF信号を共振増幅して高電圧RF信号を生成してロッド電極部105の一方のロッド電極対108a−1と108a−2に同相の高電圧RF信号を印加し、他方のロッド電極対108b−1と108b−2に逆相の高電圧RF信号を印加する。共振回路109の可変容量コンデンサ103a及び103bは、RF信号源101で発生させた高電圧RF信号の振幅差を所定の値に調整するための振幅差調整手段として機能する(以下、振幅差調整手段103a及び103bと記す)。可変容量コンデンサ104は、RF信号源101で発生させた高電圧RF信号の駆動周波数と共振回路の共振周波数を同調させる周波数同調手段として機能する(以下、周波数同調手段104と記す)。
【0029】
共振周波数・振幅差測定手段106は、RF信号源101で発生されて一方の一組のロッド電極対108a−1と108a−2に印加される高電圧RF信号と他方の一組のロッド電極対108b−1と108b−2に印加される前記一方の一組のロッド電極対108a−1と108a−2に印加される高電圧RF信号とは逆相の高電圧RF信号とを入力して、それぞれの高電圧RF信号の振幅差及び共振回路の共振周波数を測定する。
【0030】
制御手段107は、振幅差測定手段106で測定した一方のロッド電極対108a−1と108a−2に印加される同相の高電圧RF信号と他方のロッド電極対108b−1と108b−2に印加される逆相の高電圧RF信号との振幅差及び共振回路の共振周波数の結果を基に、振幅差調整手段103a,103bと周波数同調手段104を調整する。即ち、制御手段107は、共振回路の共振周波数の測定結果を基に共振回路109の共振周波数がRF信号源101で発生された高電圧RF信号の駆動周波数に整合するように周波数同調手段104を制御して駆動周波数と共振周波数との周波数ズレを補正すると同時に、一方のロッド電極対108a−1と108a−2に印加される同相の高電圧RF信号の振幅と他方のロッド電極対108b−1と108b−2に印加される逆相の高電圧RF信号の振幅との差が小さくなるように振幅差調整手段106の調整を行う。
【0031】
特に、振幅差調整手段103a,103bを共振回路109の共振周波数が低周波側へシフトするように制御した場合、周波数同調手段104を共振回路109の共振周波数が高周波側へシフトするように制御することで、高電圧RF信号の駆動周波数と共振回路109の共振周波数の周波数ズレを補正することが可能となる。
【0032】
図3A及び図3Bは、本実施例により高圧RF信号の振幅を調整した場合の共振周波数と駆動周波数の関係を説明する図である。図3Aは、高電圧RF信号の振幅差を補正していない状態で、周波数同調手段により共振周波数fと駆動周波数fを一致させた場合の高電圧RF信号の周波数特性を示している。図3Bは、図3Aの状態から、本発明を用いて振幅差を補正した場合の高電圧RF信号振幅の周波数特性である。振幅差を補正した場合においても、共振周波数fと駆動周波数fが一致していることが分かる。
【0033】
本実施例では、振幅差調整手段103a,103bおよび周波数同調手段104として、可変コンデンサを一例として挙げているが、可変コンデンサの形態として、ボリュームにより容量値を調整可能なものでもよいし、スイッチにより容量値を切り替えられるように構成したものでも、本発明の効果を得ることができる。また、可変コンデンサの代わりに、例えばコイルのインダクタンスを調整可能な構造にして、振幅差の測定結果に応じてインダクタンスを制御することでも同様の効果を得ることが可能である。
【実施例2】
【0034】
イオントラップ部1003の第2の実施例は、図2で説明した実施例1における共振回路109の振幅差調整手段103aと103bとを、図4に示したようなコンデンサアレイ401と402及びその間に配置したスイッチ群403で構成される振幅差調整手段400で置き換えた共振回路109’とした。
【0035】
本実施例においては、このような構成とすることにより、振幅差の調整量を変えた場合においても、共振周波数が変動しないように振幅差調整手段を構成したことを特徴とする。
【0036】
即ち、本実施例における振幅差調整手段400は、一方のロッド電極対108a−1,108a−2に一方の端子が接続されているコンデンサ4011〜4014から成るコンデンサアレイ401と、他方のロッド電極対108b−1,108b−2に一方の端子が接続されているコンデンサ4021〜4024から成るコンデンサアレイ402と、コンデンサアレイ401,402において対向する電極の内、いずれかの電極を接地するように構成したスイッチ4031〜4034から成るスイッチアレイ403とを備えて構成されることを特徴とする。
【0037】
各コンデンサの容量をC、一方のロッド電極対108a−1,108a−2から見た容量をC、他方のロッド電極対108b−1,108b−2から見た容量をC、共振回路109’を構成する系全体での容量をCとして、本実施例の動作について説明する。
【0038】
スイッチアレイ403の全てのスイッチ4031〜4034がコンデンサアレイ401のコンデンサ4011〜4014に接続された場合の各容量は、次式で表される。
【0039】
【数5】
【0040】
スイッチアレイ403の一つのスイッチ(例えばスイッチ4031)がコンデンサアレイ402のコンデンサ4021に接続された場合の各容量は、次式で表される。
【0041】
【数6】
【0042】
同様に、スイッチアレイ403の全てのスイッチ4031〜4034がコンデンサアレイ402の各コンデンサ4021〜4024に接続された場合においても、共振回路系全体の容量CTは4Cとなる。つまり、共振回路系全体の容量Cを一定に保ちながら、各ロッド電極対から見た容量を調整することができるので、振幅差を調整した場合においても、共振周波数と駆動周波数のズレを抑制することが可能となる。
【0043】
ここで、(数5)、(数6)は、簡易的に容量値を計算したものであり、厳密にはロッド電極対の間の容量などが含まれるため、実効的な容量は上式とは多少異なるため、従来方法に比べて共振周波数と駆動周波数のズレを抑制できるものの、僅かにズレを生じることもある。もし、共振回路のQ値が非常に高い場合(ex.Q=250)、共振周波数と駆動周波数の僅かなズレによっても、共振回路の増幅率が急激に低下することがある。その場合には、図5に示すように、RF回路101とコイル102a、102bの間に抵抗素子501a,501bを挿入することが、有用な策の一つである。抵抗素子501a,501bを挿入することにより、共振回路のQ値を低下することができるため、共振周波数と駆動周波数のズレに対する共振回路の増幅率の変化感度を落とすことができる。
【0044】
このように振幅差調整手段を構成することにより、周波数同調手段を制御せずとも共振周波数と駆動周波数のズレを抑制することができることから、制御手段の構造を簡略化することが可能となる。また、ここでは、コンデンサアレイの構成を示しているが、同様の特徴をもつ構成であれば、例えば、インダクタンスを調整可能なコイルで構成したコイルアレイなどでも同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0045】
イオントラップ部1003の第3の実施例は、図6にその構成を示すように、基本的な構成は実施例1で説明した図2の構成と類似しているが、RF信号の駆動周波数の周波数掃引機能を備えたRF信号源601を用い、制御手段607でRF信号源601を制御して周波数掃引したときの共振回路の共振周波数を測定すると共に共振周波数における振幅差を測定するように共振周波数・振幅差測定手段606を構成した。
【0046】
また、制御手段607で周波数同調手段604を制御して駆動周波数を共振周波数に整合させるように構成した。図6において、図2と同じ番号を付した構成は、実施例1で説明したのと同様な機能を有する。
【0047】
実施例3を実現するための振幅差測定手段606および制御手段607の構成を図7を用いて説明する。
【0048】
共振周波数・振幅差測定手段606は、分圧回路6061a,6061b、整流回路6062a,6062b、減算器6063、加算器6064、共振周波数測定ブロック6065、振幅差測定ブロック6066を備えている。
【0049】
また、制御手段607は、振幅差制御ブロック6071と周波数同調制御ブロック6072とを備えている。
【0050】
共振周波数・振幅差測定手段606には、各ロッド電極対108a−1,108a−2及び108b−1,108b−2に印加される高電圧RF信号をそれぞれ分岐して入力し、ロッド電極対108a−1,108a−2に印加する高電圧RF信号から分岐した信号を分圧回路6061aで信号振幅を小さくし、ロッド電極対108b−1,108b−2に印加する高電圧RF信号から分岐した信号を分圧回路6061bで信号振幅を小さくする。
【0051】
分圧回路6061aで信号振幅を小さくされたRF信号は、整流回路6062aで直流信号に変換され、分圧回路6061bで信号振幅を小さくされたRF信号は、整流回路6062bで直流信号に変換される。整流回路6062aと6062bとで変換され直流信号は、それぞれ分岐して減算器6063と加算器6064とに入力される。加算器6064から出力された整流回路6062aで変換され直流信号と整流回路6062bで変換され直流信号とを加算した加算信号は、共振周波数測定ブロック6065に入力され、加算信号から共振周波数が検出される。
【0052】
共振周波数測定ブロック6065で検出された共振周波数の情報は、振幅差測定ブロック6066と制御手段607の周波数同調制御ブロック6072に出力される。振幅差測定ブロック6066では、減算器6063から出力された整流回路6062aで変換された直流信号から整流回路6062bで変換され直流信号を減算した減算信号と共振周波数測定ブロック6065で検出された共振周波数情報から、共振周波数における減算信号の値を測定する。
【0053】
制御手段607において、振幅差制御ブロック6071では、共振周波数・振幅差測定手段606の振幅差測定ブロック6066から出力された共振周波数における減算信号値の情報をもとに共振回路109の振幅差調整手段103a,103bを制御する。一方、周波数同調制御ブロック6072では、共振周波数・振幅差測定手段606の共振周波数測定ブロック6065から出力された共振周波数情報をもとに、共振回路109の周波数同調手段104を制御する。
【0054】
図8には、本実施例による振幅差および駆動周波数の調整フローチャートを示す。調整を開始すると、先ず、制御手段607の駆動周波数掃引制御ブロック6073でRF信号源601の駆動周波数を変化させながら、各駆動周波数におけるロッド電極対108a−1,108a−2及び108b−1,108b−2に印加される高電圧RF信号をそれぞれ分岐して共振周波数・振幅差測定手段606に入力し、分圧回路6061aと6061bとでそれぞれ入力した信号の振幅を小さくして、それぞれの信号を整流回路6062aと6062bとで直流信号に変換し、この変換した直流信号を加算器6064に入力して加算し、加算した信号を共振周波数測定ブロック6065に入力して、加算信号が最も大きくなるときのRF信号源601の駆動周波数を共振周波数として検出し(S801)、駆動周波数掃引制御ブロック6073でRF信号源601の駆動周波数を共振周波数に設定する(S802)。
【0055】
一方、振幅差測定ブロック6071において、整流回路6062aと6062bとで直流信号に変換した直流信号を減算器6063に入力して減算した結果と共振周波数測定ブロック6065で検出した共振周波数の情報から、共振周波数におけるロッド電極対108a−1,108a−2に印加される高電圧RF信号の振幅とロッド電極対108b−1,108b−2に印加される高電圧RF信号の振幅の差を求める(S803)。
【0056】
制御手段607の振幅差制御ブロック6071では、振幅差測定ブロック6071で検出した共振周波数において各ロッド電極対に印加する高電圧RF信号の振幅の差を予め設定した値と比較し(S804)、各ロッド電極対に印加する高電圧RF信号の振幅の差が予め設定した値よりも大きい場合には、共振回路109の振幅差調整手段103a,103bを制御して各ロッド電極対に印加する高電圧RF信号の振幅の差が小さくなるように調整し(S805)、この状態でロッド電極対108a−1,108a−2及び108b−1,108b−2に印加される高電圧RF信号をそれぞれ分岐して共振周波数・振幅差測定手段606に入力し、分圧回路6061aと6061bとでそれぞれ入力した信号の振幅を小さくして、それぞれの信号を整流回路6062aと6062bとで直流信号に変換する。
【0057】
この変換した直流信号を加算器6064に入力して加算し、加算した信号を共振周波数測定ブロック6065に入力して共振回路109の共振周波数を検出し(S806)、この検出した共振回路109の共振周波数がRF信号源601の駆動周波数と整合するように周波数同調手段604を調整し(S807)、前記したS803に戻って高電圧RF信号の振幅の差を求める。
【0058】
一方、各ロッド電極対に印加する高電圧RF信号の振幅の差が予め設定した値よりも小さい場合には、RF信号源601の駆動周波数に応じて質量スペクトラムの補正係数を設定して(S808)、調整を終了する。
【0059】
上記した実施例3の説明においては、基本的な構成を実施例1で説明した図2の構成と類似したものとして説明したが、共振回路部109の構成を、実施例2で説明した図4または図5に示したような共振回路部109’の構成にしてもよい。
【0060】
上記構成によれば、共振周波数が変化した場合においても、共振周波数における高電圧RF信号の振幅差を測定できることから、正確な振幅差調整手段の制御が可能となる。また、周波数同調手段において、駆動周波数を調整する方法であることから、例えばディジタル直接合成発振器(Direct Digital Synthesizer)をRF回路に用いることで、共振周波数を調整する場合に比べて、回路サイズが小さくなることや、ディジタル処理による調整が可能になるなどのメリットがある。
【0061】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。さらに、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0062】
101、601、901…RF信号源 102a、102b、902a、902b…コイル 103a、103b、903a、903b…振幅差調整手段 104、604、904…周波数同調手段 105、905…ロッド電極部 106、406、606、906…共振周波数・振幅差測定手段 107、407、607…制御手段 108a−1、108a−2,108b−1、108b−2…ロッド電極対 109、109’…共振回路 6061a、6061b…分圧回路 6062a、6062b…整流回路 6063…減算器 6064…加算器 6065…共振周波数測定ブロック 6066…振幅差測定ブロック 6071…振幅差制御ブロック 6072…周波数同調制御ブロック 6073駆動周波数掃引制御ブロック 401,402…コンデンサアレイ 403…スイッチアレイ 501a、501b…抵抗素子
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B