特許第5778316号(P5778316)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778316
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】偏波保持光ファイバ
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/024 20060101AFI20150827BHJP
   G02B 6/036 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   G02B6/024
   G02B6/036 301
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-114391(P2014-114391)
(22)【出願日】2014年6月2日
(62)【分割の表示】特願2008-524841(P2008-524841)の分割
【原出願日】2007年7月12日
(65)【公開番号】特開2014-197214(P2014-197214A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2014年6月20日
(31)【優先権主張番号】60/830,099
(32)【優先日】2006年7月12日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】60/830,098
(32)【優先日】2006年7月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100142712
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 至男
(72)【発明者】
【氏名】宮部 亮
(72)【発明者】
【氏名】味村 裕
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭58−188604(JP,U)
【文献】 特開昭59−007905(JP,A)
【文献】 特開昭61−267707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/024
G02B 6/036
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と、
前記コア部の外周に形成され該コア部よりも屈折率が低いクラッド部と、
を備え、前記コア部の屈折率分布形状は、ステップ型あるいは凹型を成すとともに、該コア部と前記クラッド部との境界において、該クラッド部に対する比屈折率差がゼロの位置から比屈折率差の最大値の3/4となる位置までの形状をα型の屈折率分布形状で近似した場合に、α値が3.5以上の値となる形状を有し、前記クラッド部は、前記コア部を挟んで対向する位置に、該コア部との最短距離がほぼゼロになるように形成された2つの空孔を有し、
前記コア部のコア径をa(μm)、前記空孔の直径をb(μm)、前記コア部と前記空孔の中心間距離をL(μm)とした場合、W=L−(a+b)/2で表される前記コア部と前記空孔との最短距離W(μm)が、−0.1〜0.2μmであり、
前記コア部のクラッド部に対する最大比屈折率差をΔ(%)とした場合に、a≧−24.221×Δ3+51.718×Δ2−40.786×Δ+16.878を満たすとともに、Δが0.32%以上0.85%以下であり、
前記aは5.5μm以上8μm以下であり、
前記bは10μm以上30μm以下であり、
前記コア部の非円率が10%より小さく、
モード複屈折が1.0×10−4以上であり、
カットオフ波長が1300nm以下であり、
波長1550nmにおける直交する2つの偏波軸における電界基底モードの漏れ損失がいずれも0.01dB/km以下である
ことを特徴とする偏波保持光ファイバ。
【請求項2】
前記コア部はゲルマニウムが添加されたシリカガラスからなり、前記クラッド部は純シリカガラスからなることを特徴とする請求項1に記載の偏波保持光ファイバ。
【請求項3】
前記Δが0.47%以上であり、
モード複屈折が2.0×10−4以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の偏波保持光ファイバ。
【請求項4】
1500nm以上の波長においてシングルモード動作することを特徴とする請求項1〜のいずれか1つに記載の偏波保持光ファイバ。
【請求項5】
前記Δおよび前記aは、a≧−25.065×Δ3+63.802×Δ2−58.165×Δ+23.858を満たし、
曲率半径10mmで曲げた場合の波長1550nmにおけるマクロベンディングロスが0.1dB/m以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1つに記載の偏波保持光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドトンネル型の偏波保持光ファイバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏波保持光ファイバとは、光の偏波状態を保持したまま伝搬させる光ファイバである。たとえば、クラッド部に、コア部を挟んで対向するように応力付与材を配置し、実効屈折率が互いに異なる直交軸を形成した応力付与型の偏波保持光ファイバや、楕円状のコア部を備える楕円コア型の偏波保持光ファイバがある。
【0003】
一方、サイドトンネル型の偏波保持光ファイバは、応力付与材を用いない偏波保持光ファイバとして古くから研究され、コア部の屈折率プロファイルを調整することで単一偏波特性が得られることが知られている。たとえば、特許文献1に開示される偏波保持光ファイバは、コア部と空孔との間に間隔を設ける構造とすることで、OH損失や漏れ損失に起因する伝送損失を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−264405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される偏波保持光ファイバは、空孔とコア部との間に間隔を設けることでモード複屈折が小さくなり、偏波保持性が低減するという問題があった。特許文献1には、コア部の屈折率を非常に大きくする、若しくはコア径を小さくすることで、一般の応力付与型偏波保持光ファイバと同等のモード複屈折が得られると記載されているが、コア部の屈折率を大きくするとモードフィールド径が小さくなるので非線形性が大きくなってしまい、またコア径を小さくすると、マクロベンディングロスが非常に大きくなってしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、偏波保持性が高く、かつ伝送損失が低減されたサイドトンネル型の偏波保持光ファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る偏波保持光ファイバは、コア部と、前記コア部の外周に形成され該コア部よりも屈折率が低いクラッド部と、を備え、前記コア部の屈折率分布形状は、ステップ型あるいは凹型を成し、前記クラッド部は、前記コア部を挟んで対向する位置に、該コア部との最短距離がほぼゼロになるように形成された2つの空孔を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバは、上記発明において、前記コア部の屈折率分布形状は、該コア部と前記クラッド部との境界において、該クラッド部に対する比屈折率差がゼロの位置から比屈折率差の最大値の3/4となる位置までの形状をα型の屈折率分布形状で近似した場合に、α値が3.5以上の値となる形状を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバは、上記発明において、前記コア部のコア径をa、前記空孔の直径をb、前記コア部と前記空孔の中心間距離をLとした場合、W=L−(a+b)/2で表される前記コア部と前記空孔との最短距離Wが、−0.1〜0.2μmであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバは、上記発明において、前記コア部のクラッド部に対する比屈折率差をΔ、コア径をaとした場合に、a≧−24.221×Δ3+51.718×Δ2−40.786×Δ+16.878を満たすとともに、Δが0.32%以上であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバは、上記発明において、前記コア部はゲルマニウムが添加されたシリカガラスからなり、前記クラッド部は純シリカガラスからなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバは、上記発明において、前記コア部の非円率が10%より小さいことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバは、上記発明において、モード複屈折が1.0×10−4以上であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバは、上記発明において、モード複屈折が2.0×10−4以上であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバは、上記発明において、1310nm以上の波長においてシングルモード動作することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバは、上記発明において、1500nm以上の波長においてシングルモード動作することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバは、上記発明において、曲率半径10mmで曲げた場合の波長1550nmにおけるマクロベンディングロスが0.1dB/m以下であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバ接続体の製造方法は、上記のいずれかの発明に係る偏波保持光ファイバの端部において前記空孔を潰して前記端部におけるコア部を楕円形状にし、該楕円形状のコア部と応力付与型偏波保持光ファイバとの偏波軸を一致させて、該偏波保持光ファイバと該応力付与型偏波保持光ファイバとを融着接続することを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバ接続体の製造方法は、上記のいずれかの発明に係る偏波保持光ファイバと応力付与型偏波保持光ファイバとの偏波軸を一致させ、該偏波保持光ファイバの端部において前記空孔が潰れないように融着接続を行ない、前記融着接続した偏波保持光ファイバの端部を、前記空孔を潰すように加熱して、前記端部におけるコア部を楕円形状にすることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバ接続体は、上記発明に係る製造方法によって製造された偏波保持光ファイバ接続体であって、融着接続部において、偏波クロストークが−30dB以下であり、接続損失が1.0dB以下であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバ接続体は、上記発明において、前記融着接続部において、偏波クロストークが−35dB以下であり、接続損失が0.5dB以下であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバ接続体は、上記発明に係る製造方法によって製造された偏波保持光ファイバ接続体であって、融着接続部において、偏波クロストークが−30dB以下であり、接続損失が0.5dB以下であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバ接続体は、上記発明において、前記融着接続部において、偏波クロストークが−35dB以下であり、接続損失が0.3dB以下であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバ接続体は、上記発明において、前記偏波保持光ファイバの端部に形成した楕円形状のコア部の長径方向と、前記応力付与型偏波保持光ファイバの2つの応力付与材の中心を通る軸を結んだ方向とが一致していることを特徴とする。
【0025】
また、本発明に係る偏波保持光ファイバ接続体は、上記発明において、前記応力付与型偏波保持光ファイバの非線形係数が10/w/m以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、コア部の屈折率分布形状が、ステップ型あるいは凹型を成し、クラッド部が、前記コア部を挟んで対向する位置に、該コア部との最短距離がほぼゼロになるように形成された2つの空孔を有することによって、偏波保持性が高く、かつ伝送損失が低減されたサイドトンネル型の偏波保持光ファイバを実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の実施の形態1に係る偏波保持光ファイバの断面概略図である。
図2図2は、図1に示す偏波保持光ファイバのA−A線断面における屈折率分布形状を示す図である。
図3図3は、図1に示す偏波保持光ファイバのB−B線断面における屈折率分布形状を示す図である。
図4図4は、コア部と空孔との最短距離の定義を説明する図である。
図5図5は、図1に示すものと構造を有する偏波保持光ファイバにおいて、Wを変化させた際のモード複屈折の変化の様子を示す図である。
図6図6は、図1に示すものと同様の構造を有する偏波保持光ファイバにおいて、屈折率分布形状を規定するα値を変化させた際の漏れ損失の変化の様子を示す図である。
図7図7は、図1に示すものと同様の構造を有する偏波保持光ファイバにおいて、条件Aにおけるコア部の比屈折率差Δとコア径との関係と、条件Aにおける比屈折率差Δとモード複屈折との関係とを示す図である。
図8図8は、図1に示すものと同様の構造を有する偏波保持光ファイバにおいて、条件Bにおけるコア部の比屈折率差Δとコア径との関係を示す図である。
図9図9は、図1に示すものと同様の構造を有する偏波保持光ファイバにおいて、条件Cにおけるコア部の比屈折率差Δとコア径との関係と、条件Cにおける比屈折率差Δとモード複屈折との関係と、条件Aにおけるコア部の比屈折率差Δとコア径との関係と、を示す図である。
図10図10は、実施例2〜14に係る偏波保持光ファイバの特性を示す図である。
図11図11は、本発明の実施の形態2に係る偏波保持光ファイバの断面概略図である。
図12図12は、図11に示す偏波保持光ファイバのC−C線断面における屈折率分布形状を示す図である。
図13図13は、実施例15〜20に係る偏波保持光ファイバの特性を示す図である。
図14図14は、本発明の実施の形態3に係る偏波保持光ファイバ接続体の製造方法を説明する図である。
図15図15は、本発明の実施の形態3に係る偏波保持光ファイバ接続体の製造方法を説明する図である。
図16図16は、製造した偏波保持光ファイバ接続体の融着接続部を、図15において示す方向から見た状態を示す図である。
図17図17は、本発明の実施の形態4に係る偏波保持光ファイバ接続体の製造方法を説明する図である。
図18図18は、製造した偏波保持光ファイバ接続体の融着接続部を、図17において示す方向から見た状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、図面を参照して本発明に係る偏波保持光ファイバおよび偏波保持光ファイバ接続体の製造方法および偏波保持光ファイバ接続体の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、本明細書中におけるカットオフ波長λcとは、ITU−T(国際電気通信連合)G.650で定義するファイバカットオフ波長λcをいう。その他、本明細書で特に定義しない用語についてはITU−T G.650における定義及び測定方法に従うものとする。また、漏れ損失については、光ファイバの断面構造から計算される計算値を示している。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る偏波保持光ファイバの断面概略図である。図1に示すように、この偏波保持光ファイバ10は、コア部11と、コア部11の外周に形成され、コア部11よりも屈折率が低いクラッド部12とを備える。なお、コア部11はゲルマニウムが添加されたシリカガラスからなり、クラッド部12は屈折率調整用のドーパントが添加されていない純シリカガラスからなる。また、クラッド部12は、コア部11を挟んで対向する位置に2つの空孔13を有する。この空孔13は、いずれもコア部11との最短距離がほぼゼロになるように形成されている。なお、この最短距離については後述する。
【0030】
図2は、図1に示す偏波保持光ファイバ10のA−A線断面における屈折率分布形状を示す図である。図2に示すように、コア部11における屈折率分布形状P11は、コア部11内で屈折率が一様なステップ型を成している。また、クラッド部12における屈折率分布形状P12は、クラッド部12内で屈折率が一様な形状を成しており、コア部11のクラッド部12に対する比屈折率差はΔ11である。なお、この比屈折率差Δ11は、下記式(1)で定義される。
【0031】
Δ11={(nc1−nc)/nc1}・100 (1)
ここで、nc1はコア部11の最大屈折率、ncはクラッド部12の屈折率である。
【0032】
また、コア部11のコア径はa1である。このコア径は、コア部11とクラッド部12との境界において、Δ11の1/2の比屈折率差を有する位置でのコア部11の直径として定義する。
【0033】
一方、図3は、偏波保持光ファイバ10のB−B線断面における屈折率分布形状を示す図である。なお、A−A線とB−B線は互いに直交しているものとする。図3に示すように、コア部11およびクラッド部12における屈折率分布形状P11、P12はそれぞれ図2と同様の形状を成しているが、B−B線断面は空孔13を含むため、B−B線断面における屈折率分布形状には、空孔13において屈折率が低下した屈折率分布形状P13が含まれている。なお、空孔13は通常は空気によって満たされているので、空孔13のクラッド部12に対する比屈折率差であるΔ13は、通常は空気のクラッド部12に対する比屈折率差と同一である。
【0034】
ここで、図1〜3に示すように、偏波保持光ファイバ10は、互いに直交するA−A線方向とB−B線方向とで屈折率分布形状が異なるために実効屈折率に差異が生じ、モード複屈折が発生することによって、偏波保持性を有するものとなる。
【0035】
また、偏波保持光ファイバ10は、コア部11との最短距離がほぼゼロになるように空孔13が形成されているので、モード複屈折が大きくなり、偏波保持性が高くなっている。一方、偏波保持光ファイバ10においては、コア部11の屈折率分布形状P11がステップ型を成しているため、コア部11と空孔13との最短距離がほぼゼロであっても、コア部11を伝搬する光のフィールド分布と空孔13との空間的な重なりを最小限に抑えることができる。その結果、空孔13の内壁面に残留したOH基による光の吸収損失の発生や、光の空孔13への漏れ損失の発生が抑制されるので、偏波保持光ファイバ10の伝送損失が低減される。
【0036】
以下、偏波保持光ファイバ10についてさらに具体的に説明する。まず、空孔13の空孔径とコア部11のコア径との関係が、モード複屈折および漏れ損失に与える影響について説明する。空孔部の大きさがコア径の1.5倍の場合と2倍の場合とにおけるモード複屈折を比較すると、2倍の場合のほうが、モード複屈折が10〜15%程度大きく、さらに2倍以上の場合は、空孔径が異なることによるモード複屈折の変化量は10%以下であり、ほとんど変わらない。また、空孔部の大きさがコア径の1.5倍の場合と2倍の場合とにおける漏れ損失を比較すると、2倍の場合のほうが、漏れ損失が200%以上大きいが、さらに2倍以上の場合は、空孔径が異なることによる漏れ損失の変化量は200%よりも小さく、同程度のオーダーとなる。したがって、モード複屈折と漏れ損失との安定性を考慮すれば、空孔部の大きさはコア径の2倍以上が好ましい。
【0037】
つぎに、コア部11と空孔13との距離と、モード複屈折および漏れ損失との関係について説明する。
【0038】
はじめに、図4に示すように、コア部11の中心軸と空孔13の中心軸とを結んだ線上における、コア部11の外周と空孔13の内壁との最短距離をW[μm]と定義する。なお、コア径をa1、空孔径をb1、コア部11と空孔13の中心間距離をLとした場合、Wは、W=L−(a1+b1)/2で表される。
【0039】
図5は、偏波保持光ファイバ10と同様の構造を有し、コア径が6μm、空孔径が25μm、比屈折率差Δ11が0.8%の偏波保持光ファイバにおいて、Wを変化させた際のモード複屈折の変化の様子を示す図である。図5に示すように、Wが小さくなるほどモード複屈折が大きくなる。また、Wを負の値とする、すなわち空孔をコア部に食い込ませるようにすることによって、より大きなモード複屈折が得られる。本実施の形態1に係る偏波保持光ファイバ10は、Wがほぼゼロであるから、モード複屈折が2.4×10−4となり、モード複屈折の値が2.0×10−4である一般的な応力付与型偏波保持ファイバ以上の偏波保持性を実現することができ、製造時のWの変動を考慮しても安定して大きな偏波保持性を得ることができる。なお、たとえば製造の際に、Wが−0.1〜0.2μmの範囲で変動したとしても、モード複屈折が1.6×10−4以上なり、十分に大きい値である。
一方、空孔をコア部に大きく食い込ませるようにすると、漏れ損失が大きくなるので好ましくない。また、Wが−0.1〜0.2μmの範囲で変動した場合を想定すると、Wが0.2μmの場合の漏れ損失は、Wが0μmの場合の約1/10と十分に小さい。さらに、Wが−0.1μmの場合の漏れ損失は、Wが0μmの場合の2倍程度となり、伝送損失に影響を与えない許容範囲内と考えられる0.01dB/kmよりも小さい差であるので、問題とはならない。すなわち、Wが−0.1〜0.2μmの範囲であれば、十分大きなモード複屈折が得られるとともに、漏れ損失も十分小さい。
【0040】
つぎに、偏波保持光ファイバのコア部の屈折率分布形状と漏れ損失との関係についてより具体的に説明する。上述したように、偏波保持光ファイバ10のコア部11における屈折率分布形状P11は、コア部11内で屈折率が一様なステップ型を成している。しかしながら、現実には、屈折率分布形状P11が理想的なステップ型ではなくα型の形状を成す場合がある。
【0041】
なお、α型形状は、α型形状を規定するパラメータであるα値をαとすると、式(2)で定義される。
2(r)=ncore2×{1−2×(Δ/100)×(r/a)^α}
(但し、0<r<a) ・・・ (2)
ただし、rはコア部の中心からの半径方向の位置を示し、n(r)は位置rにおける屈折率、ncoreはコア部のr=0における屈折率、Δは(1)式におけるΔ11、aはコア部の半径を表している。また、記号「^」はべき乗を表す記号である。
【0042】
ここで、偏波保持光ファイバ10のコア部11の屈折率分布形状P11がα型形状を成している場合は、α値が3.5以上であれば、漏れ損失は十分に小さいので好ましい。以下説明する。
【0043】
図6は、偏波保持光ファイバ10と同様の構造を有し、コア部の屈折率分布形状がα型形状を成し、コア径が6.5μm、空孔径が22μm、クラッド部に対するコア部の比屈折率差の最大値が0.6%の偏波保持光ファイバにおいて、屈折率分布形状を規定するα値を変化させた際の漏れ損失の変化の様子を示す図である。図6に示すように、α値が3.5以上であれば、漏れ損失は0.0028dB/kmとなり、確実に0.01dB/km以下となるので好ましい。なお、α値が10以上であれば、α型形状は理想的なステップ形状とほぼ同一となるのでさらに好ましい。
【0044】
なお、α値はコア部全体の屈折率分布形状を規定するパラメータである。しかしながら、コア部とクラッド部との境界におけるコア部の屈折率分布形状が、比屈折率差がゼロの位置から比屈折率差が最大値の3/4となる位置までの形状をα型の屈折率分布形状で近似した場合に、α値が3.5以上の値となるような形状を成していれば、漏れ損失は十分に小さくなる。
【0045】
つぎに、偏波保持光ファイバのコア部の比屈折率差およびコア径と、漏れ損失との関係についてより具体的に説明する。本実施の形態1に係る偏波保持光ファイバ10において、モード複屈折を大きくするためには、コア径を小さくすることが効果的であるが、単にコア径のみを小さくすると、それに従い、光の閉じ込めが弱くなり、マクロベンディングロスが増大するので、コア径を小さくする場合、コア部の比屈折率差を大きくすることが好ましい。
【0046】
図7は、偏波保持光ファイバ10と同様の構造を有し、空孔径が25μmの偏波保持光ファイバにおいて、波長1550nmにおける漏れ損失が0.01dB/kmとなる条件(以下、条件Aとする)におけるコア部の比屈折率差Δとコア径との関係と、条件Aにおける比屈折率差Δとモード複屈折との関係とを示す図である。なお、線L1は、条件Aにおける比屈折率差Δとコア径との関係とを示す線であり、線L2は、条件Aにおける比屈折率差Δとモード複屈折との関係とを示す線である。また、線L2は、コア径をaとして下記式(3)の等号の場合で示され、線L2より右上側の領域は、式(3)の不等号の場合で示される。
【0047】
a≧−24.221×Δ3+51.718×Δ2−40.786×Δ+16.878 (3)
【0048】
したがって、本実施の形態1に係る偏波保持光ファイバ10のコア部11の比屈折率差Δとコア径との関係を、式(3)を満たすようにすれば、波長1550nmにおける漏れ損失が0.01dB/km以下となるので好ましい。
【0049】
また、図7の線L2に示されるように、コア部の比屈折率差とコア径との関係を式(3)で表されるようなものにした場合に、比屈折率差を0.32%以上にすれば、モード複屈折を、実用上十分な値と考えられる1.0×10−4以上にすることができるので好ましく、比屈折率差を0.47%以上にすれば、モード複屈折を2.0×10−4以上にすることができるのでさらに好ましい。
【0050】
つぎに、偏波保持光ファイバのコア部の比屈折率差およびコア径と、マクロベンディングとの関係についてより具体的に説明する。本実施の形態1に係る偏波保持光ファイバ10において、単にコア径のみを小さくすると、それに従い、マクロベンディングも増大するので、コア部の比屈折率差との関係でコア径を小さくすることが好ましい。
【0051】
図8は、偏波保持光ファイバ10と同様の構造を有し、空孔径が25μmの偏波保持光ファイバにおいて、曲率半径10mmで曲げた場合の波長1550nmにおけるマクロベンディングロスが0.1dB/mとなる条件(以下、条件Bとする)におけるコア部の比屈折率差Δとコア径との関係を示す図である。なお、線L3が、条件Bにおける比屈折率差Δとコア径との関係とを示す線である。また、線L3は、下記式(4)の等号の場合で示され、線L3より右上側の領域は、式(4)の不等号の場合で示される。
【0052】
a≧−25.065×Δ3+63.802×Δ2−58.165×Δ+23.858 (4)
【0053】
したがって、本実施の形態1に係る偏波保持光ファイバ10のコア部11の比屈折率差Δとコア径との関係を、式(4)を満たすようにすれば、曲率半径10mmで曲げた場合の波長1550nmにおけるマクロベンディングロスが0.1dB/mとなる。その結果、偏波保持光ファイバ10の配線時の取り扱いが容易となり、またコイル化する際に巻き径を小径にできるので、小型の光ファイバモジュールを作製するのに適するものとなる。
【0054】
つぎに、偏波保持光ファイバのコア部の比屈折率差およびコア径と、カットオフ波長との関係についてより具体的に説明する。
【0055】
図9は、偏波保持光ファイバ10と同様の構造を有し、空孔径が30μmの偏波保持光ファイバにおいて、カットオフ波長が1300nmとなる条件(以下、条件Cとする)におけるコア部の比屈折率差Δとコア径との関係と、条件Cにおける比屈折率差Δとモード複屈折との関係と、波長1550nmにおける漏れ損失が0.01dB/kmとなる条件Aにおけるコア部の比屈折率差Δとコア径との関係と、を示す図である(ただし、この場合におけるクラッド径は60μmである)。なお、線L5は、条件Cにおける比屈折率差Δとコア径との関係とを示す線であり、線L6は、条件Cにおける比屈折率差Δとモード複屈折との関係とを示す線であり、線L4は、条件Aにおける比屈折率差Δとコア径との関係とを示す線である。
【0056】
なお、図9では、空孔とコア部との距離をゼロとしているので、コア径が変わると空孔の中心位置も変化する。また、コア径を固定して比屈折率差Δを小さくすると、偏波保持光ファイバの漏れ損失が大きくなる。なお、図9には示していないが、このとき曲げ損失も大きくなる。一方、コア径を固定して比屈折率差Δを大きくすると、高次モード損失が小さくなり、偏波保持光ファイバがマルチモードファイバとなる。
【0057】
ここで、伝搬する光の波長が長いほうが、漏れ損失が大きく、波長が短いほうが、マルチモード動作しやすい。したがって、図9において線L4、L5で示される関係を計算する際には、偏波保持光ファイバを1.3μm帯域(1280〜1330nm)から1.55μm帯域(1530〜1565nm)で使用することを想定して、比屈折率差Δの上限値、下限値を設定した。すなわち、線L4、L5は、各コア径に対して、比屈折率差Δの下限値については、波長1550nmにおける直交する2つの偏波軸における電界の基底モードのうち、いずれかのモードの漏れ損失が0.01dB/kmとなる比屈折率差Δを示し、比屈折率差Δの大きいほうの限界については、波長1300nmにおいてマルチモード動作する比屈折率差Δを示したものである。
【0058】
ここで、本実施の形態1に係る偏波保持光ファイバ10において、線L5の線上または左下側の領域に対応するようなコア径と比屈折率差Δとの組み合わせにすれば、カットオフ波長が1300nm以下となるので好ましい。また、線L4の線上または右上側の領域に対応するようなコア径と比屈折率差Δとの組み合わせにすれば、漏れ損失が0.01dB/km以下となるので好ましい。したがって、コア径と比屈折率差Δとの組み合わせを、線L4と線L5との間の領域に対応するものにすることが好ましい。
【0059】
また、線L6は、条件C、すなわち偏波保持光ファイバ10がマルチモードとなる臨界条件であって、比屈折率差の大きい方の限界における、比屈折率差Δとモード複屈折との関係とを示す線である。図9に示すように、比屈折率差Δを大きくするほうがモード複屈折を大きくすることができる。また、コア径を固定した際の比屈折率差Δの最適範囲の幅も大きくなり、つまり比屈折率差Δの許容誤差も大きくなるため、偏波保持光ファイバとして低偏波クロストーク、低漏れ損失を実現するという点からは、比屈折率差Δが大きいほうが有利である。しかし、比屈折率差Δを大きくするとモードフィールド径が小さくなり、他の光ファイバとの接続損失が大きくなる場合があるため、適度な比屈折率差Δを選択する必要がある。
【0060】
なお、たとえば比屈折率差Δを0.8%、コア径を6.0μmとした場合は、図9においてデータ点C1によって示される。データ点C1は線L4とL5との間の領域に位置するので、好ましい組み合わせである。また、上記組み合わせの場合のモード複屈折はデータ点C2で表されるものとなり、その値は2.8×10−4と十分に高い値となる。
【0061】
(実施例1)
つぎに、本発明の実施例1として、実施の形態1と同様の構造を有する偏波保持光ファイバを製造した。以下、その製造方法を説明する。はじめに、VAD法を用いてゲルマニウムが添加された多孔質シリカ母材を作製し、これをガラス化してシリカガラスからなるコア母材を作製した。このコア母材の純シリカガラスに対する比屈折率差は半径方向にほぼ一様に0.8%であった。さらに、このコア母材の屈折率分布形状をより理想的なステップ型とするために、コア母材の外周部を所定の厚さだけエッチングで除去した。その後、このコア母材の屈折率分布形状を測定したところ、外周部の位置から比屈折率差が0.7%の位置までほぼ垂直の立ち上がりを示していた。また、このコア母材の屈折率分布形状をα型形状で近似すると、α値は実質的に10以上となっていた。
【0062】
つぎに、このコア母材の外側にクラッド部となる純シリカ層をOVD法により外付けし、再度ガラス化して光ファイバ母材を作製した。なお、この光ファイバ母材は、外径が40mmであり、コア部分の直径が1.92mmであった。つぎに、この光ファイバ母材のクラッドとなる部分に、機械式ドリルにより穿孔し、仕上がり直径がいずれも8mmになるように2つの空孔を形成し、さらに空孔の内面の研磨を行った。なお、2つの空孔は、コア母材を挟んで対向する位置に、コア母材の外周部との最短距離がそれぞれゼロになるように形成した。そして、この光ファイバ母材を、クラッド径が125μmとなるように線引きし、偏波保持光ファイバを作製した。
【0063】
この実施例1に係る偏波保持光ファイバは、コア部のコア径が6μmであり、コア部のクラッド部に対する比屈折率差が0.8%であり、コア部の屈折率分布形状がステップ型形状であった。また、コア部の屈折率分布形状については、コア母材の屈折率分布と同様になるので、α型形状で近似すると、α値は実質的に10以上である。また、2つの空孔の空孔径はいずれも25μmであった。
【0064】
さらに、この実施例1に係る偏波保持光ファイバの光学特性については、以下のとおりである。まず、モード複屈折は2.4×10−4であり、市販の応力付与型の偏波保持光ファイバと同等以上の値であった。また、これに伴う偏波クロストークは−40dB以下であった。また、カットオフ波長λcは1050nmであった。したがって、実施例1に係る偏波保持光ファイバは、波長1.3μm帯域および1.55μm帯域においてシングルモード動作する。また、曲率半径10mmで曲げた場合の波長1550nmにおけるマクロベンディングロスは0.03dB/mであり、小径で曲げた場合でも伝送損失の増加が小さい。また、波長1550nmにおける伝送損失は1.9dB/kmであり、使用条長が数百m程度であるような光部品として用いる場合には十分許容範囲の大きさであった。また、コア部の非円率は1%程度であり、空孔を設けたことによるコア部の変形はほとんどなかった。なお、コア部の非円率が10%より小さければ、漏れ損失の異方性も抑制できるので好ましい。
【0065】
ちなみに、上記実施の形態1、2に係る偏波保持光ファイバの長手方向の一部分において空孔を加熱処理などによって潰し、コア部を楕円状にすることによって、その部分を楕円コア型の偏波保持光ファイバとすることもできる。このように楕円状コア部を形成した部分においては波長分散値が大きく変化する。したがって、形成する楕円状コア部の長さを調整することによって、偏波保持光ファイバの波長分散値を変化させることができる。なお、楕円状コア部を形成した部分においても、光ファイバの偏波保持性、およびシングルモード動作特性は維持される。
【0066】
(実施例2〜14)
つぎに、本発明の実施例2〜14に係る偏波保持光ファイバとして、実施例1に係る偏波保持光ファイバと同様の構造を有するが、コア部の比屈折率差、α値、コア径、および空孔の空孔径を変えた偏波保持光ファイバを製造した。なお、いずれの偏波保持光ファイバにおいてもコア部と空孔との最短距離はゼロとしている。
【0067】
図10は、実施例2〜14に係る偏波保持光ファイバの特性を示す図である。図10において、「Δ11」はコア部の比屈折率差、「α1」はα値、「a1」はコア径を示す。図10に示すように、実施例2〜14に係る偏波保持光ファイバは、いずれもモード複屈折が1.0×10−4以上であり、十分大きな偏波保持性を有していた。特に、実施例8〜14に係る偏波保持光ファイバは、モード複屈折が2.0×10−4以上であり、一般的な応力付与型偏波保持光ファイバと同等以上であった。また、カットオフ波長については、いずれの偏波保持光ファイバも1300nm以下であった。また、実施例3、5、9、11、12、14については、曲率半径10mmで曲げた場合の波長1550nmにおけるマクロベンディングロスが0.1dB/m以下であり、小径での曲げを伴う用途に適用可能な光ファイバであった。また、光ファイバの構造から計算される漏れ損失については、いずれの偏波保持光ファイバも0.01dB/kmであり、伝送損失への影響が問題とならない程度の値であった。
【0068】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2に係る偏波保持光ファイバについて説明する。図11は、本発明の実施の形態2に係る偏波保持光ファイバの断面概略図である。図11に示すように、この偏波保持光ファイバ20は、実施の形態1に係る偏波保持光ファイバ10と同様に、ゲルマニウムが添加されたシリカガラスからなるコア部21と、コア部21の外周に形成され、純シリカガラスからなるクラッド部22とを備え、クラッド部22は、コア部21を挟んで対向する位置に、コア部21との最短距離がほぼゼロになるように形成され2つの空孔23を有する。しかしながら、偏波保持光ファイバ10とは異なり、偏波保持光ファイバ20は、コア部21が中心コア部211と、中心コア部211の外周に形成された、中心コア部211よりも屈折率が高い外側コア部212とを備える。
【0069】
図12は、図11に示す偏波保持光ファイバ20のC−C線断面における屈折率分布形状を示す図である。図12に示すように、中心コア部211における屈折率分布形状P211と、外側コア部212における屈折率分布形状P212は、いずれも屈折率が一様な形状を成しているとともに、コア部21全体としては凹型の屈折率分布形状を成している。また、クラッド部22における屈折率分布形状P22は、屈折率が一様な形状を成している。また、中心コア部211、外側コア部212のクラッド部22に対する比屈折率差は、それぞれΔ21、Δ22であり、Δ22>Δ21である。また、外側コア部212の外径、すなわちコア部21のコア径はa22である。このコア径は、コア部21とクラッド部22との境界において、Δ22の1/2の比屈折率差を有する位置でのコア部21の直径として定義する。また、中心コア部211の直径はa21である。この直径は、中心コア部211と外側コア部212との境界において、(Δ22−Δ21)の1/2の比屈折率差を有する位置での中心コア部211の直径として定義する。
【0070】
一方、偏波保持光ファイバ20のC−C線と直交する断面においては、偏波保持光ファイバ10と同様に空孔23が形成されているので、屈折率分布形状も空孔の屈折率を反映した形状となっている。その結果、偏波保持光ファイバ20は、C−C線方向とこれに直交する方向とで屈折率分布形状が異なるために実効屈折率に差異が生じ、モード複屈折が発生することによって、偏波保持性を有するものとなる。また、偏波保持光ファイバ20は、コア部21との距離がほぼゼロになるように空孔23が形成されているので、偏波保持光ファイバ10と同様に、偏波保持性が高くなっている。また、偏波保持光ファイバ20においては、コア部21の屈折率分布形状が凹型形状を成しているため、偏波保持光ファイバ10と同様に、漏れ損失が低減される。
【0071】
なお、偏波保持光ファイバ10の場合と同様に、コア部21の屈折率分布形状が理想的な凹型形状ではなく、コア部21とクラッド部22との境界においてα型形状を成している場合があるが、比屈折率差がゼロの位置から比屈折率差が最大値の3/4となる位置までの形状をα型の屈折率分布形状で近似した場合に、α値が3.5以上の値となる形状を有すれば、漏れ損失が小さくなる。
なお、このとき式(2)におけるncoreはコア部の最大屈折率、ΔはΔ22とする。また、r=0の屈折率がncore(コア部の最大屈折率)であるとして、比屈折率差が最大値の3/4となる位置までの形状をα型の屈折率分布形状で近似する。
【0072】
(実施例15〜20)
つぎに、本発明の実施例15〜20に係る偏波保持光ファイバとして、実施の形態2と同様の構造を有し、中心コア部および外側コア部の比屈折率差、中心コア部の直径、コア部のコア径およびα値、および空孔の空孔径を変えた偏波保持光ファイバを製造した。
【0073】
図13は、実施例15〜20に係る偏波保持光ファイバの特性を示す図である。図13において、「Δ21」は中心コア部の比屈折率差、「Δ22」は外側コア部の比屈折率差、「α2」はα値、「a21」は中心コア部の直径、「a22」はコア径を示す。ここでα値は、コア部とクラッド部との境界において、比屈折率差がゼロの位置から比屈折率差が最大値の3/4となる位置までの形状をα型の屈折率分布形状で近似した場合のα値である。
【0074】
なお、実施例15〜20に係る偏波保持光ファイバは、それぞれ図10に示す実施例5、9、11、13、14に係る偏波保持光ファイバにおいて、コア部の屈折率分布形状を凹型に変えたものに相当する。以下、対応する実施例を対比して説明する。まず、モード複屈折については、いずれも10−4のオーダーであり、ほとんど変わらない。また、コア部の屈折率分布形状が凹型形状を成している場合、ステップ型形状を成している場合に比べて実効屈折率が低くなるため、マクロベンディングロスは増加する傾向となる。例えば、実施例15や20の場合、Δ21とΔ22との差が小さいため、コア部の屈折率分布形状がステップ型形状を成している場合とあまり変わらないため、実施例5や14の場合に対してマクロベンディングロスの増加が1桁程度である。しかし実施例16〜19の場合、Δ21とΔ22との屈折率差が0.1%と大きいため、対応する実施例9、11、13の場合に比べてマクロベンディングロスも大きく増加する。また、屈折率分布形状を、凹型を成すようにすることによって、カットオフ波長はいずれも短波化する。また、漏れ損失も増加するが、いずれの場合も0.01dB/km以下であり、伝送損失にはほとんど影響しない。
【0075】
(実施の形態3)
つぎに、本発明の実施の形態3に係る偏波保持光ファイバ接続体の製造方法について説明する。本実施の形態3に係る偏波保持光ファイバ接続体の製造方法は、実施の形態1に係る偏波保持光ファイバと、応力付与型偏波保持光ファイバとを融着接続し、偏波保持光ファイバ接続体を製造するものである。
【0076】
図14、15は、本実施の形態3に係る偏波保持光ファイバ接続体の製造方法を説明する図である。はじめに、図14に示すように、実施の形態1に係る偏波保持光ファイバ10の端部を加熱処理し、この端部を楕円コア型偏波保持光ファイバ部30とする。この楕円コア型偏波保持光ファイバ部30は、偏波保持光ファイバ10のコア部11が楕円化した楕円コア部31と、クラッド部12の空孔13が完全に潰れて形成されたクラッド部32とを備える。
【0077】
つぎに、図15に示すように、楕円コア型偏波保持光ファイバ部30と、応力付与型偏波保持光ファイバ40とを、従来の融着接続機を用いて融着接続する。なお、応力付与型偏波保持光ファイバ40は、ゲルマニウムが添加されたシリカガラスからなるコア部41と、純シリカガラスからなるクラッド部42とを備え、クラッド部42に、コア部41を挟んで対向するように応力付与材43が配置されているものである。また、コア部41のクラッド部42に対する比屈折率差は0.35〜0.4%である。
【0078】
なお、この融着接続を行なう際には、融着接続部における偏波クロストークを低くするために、楕円コア型偏波保持光ファイバ部30と、応力付与型偏波保持光ファイバ40との偏波軸を合わせて融着接続を行なう。しかし、楕円コア型偏波保持光ファイバ部30には偏波軸を合わせるための目印が無いため、これらの光ファイバ同士の調芯を行う際は、光ファイバの端面同士を近接させた状態で、単一偏波の光を一方の光ファイバの他方の端面から入射し、光ファイバの間隙部を通過し他方の光ファイバに結合して他方の端面から出力される光のパワーをモニタする。なお、光のパワーをモニタする際には、他方の光ファイバの他方の端面側に、上述した単一偏波の光を透過するような方向に偏光角を設定した偏光子を配置し、この偏光子を通過した光のパワーをモニタする。そして、モニタした光のパワーが最も大きくなるように他方のファイバを回転させることによって両光ファイバの偏波面を合わせて調芯を行い、その後加熱放電融着を行なう。
【0079】
図16は、上記融着接続を行なって製造した偏波保持光ファイバ接続体100の融着接続部を、図15に示す方向D1の方向から見た状態を示す図である。図16に示すように、偏波保持光ファイバ接続体100の融着接続部において、楕円コア型偏波保持光ファイバ部30の楕円コア部31の長軸方向と、応力付与型偏波保持光ファイバ40の応力付与材43の中心を通る軸同士を結んだ方向とが一致しているので、融着接続部の偏波クロストークが低くなる。なお、融着接続部の特性としては、偏波クロストークが−30dB以下であり、接続損失が1.0dB以下であれば実用上十分である。しかし、この偏波保持光ファイバ接続体100を、光の偏波状態の変動が低く、光パワーが高いことが要求される非線形光ファイバとして用いる場合は、偏波クロストークが−35dB以下であり、接続損失が0.5dBであることが好ましい。なお、上述した実施例1に係る偏波保持光ファイバと、一般的な応力付与型偏波保持光ファイバを用いて、本実施の形態3に従って偏波保持光ファイバ接続体を製造したところ、融着接続部における偏波クロストークは−35.2dB、接続損失は0.35dBであった。
【0080】
(実施の形態4)
つぎに、本発明の実施の形態4に係る偏波保持光ファイバ接続体の製造方法について説明する。本実施の形態4に係る偏波保持光ファイバ接続体の製造方法は、実施の形態3とは異なり、実施の形態1に係る偏波保持光ファイバと応力付与型偏波保持光ファイバとの偏波軸を一致させ、偏波保持光ファイバの端部において空孔が潰れないように融着接続を行ない、その後融着接続した偏波保持光ファイバの端部を、空孔を潰すように加熱して、コア部を楕円形状にする。
【0081】
図17は、本実施の形態4に係る偏波保持光ファイバ接続体の製造方法を説明する図である。はじめに、図17に示すように、偏波保持光ファイバ10と、応力付与型偏波保持光ファイバ40とを、互いの偏波軸を合わせた状態で、従来の融着接続機を用いて融着接続する。この場合、偏波保持光ファイバ10に形成されている空孔13が目印となるため、従来の融着接続機に備えられている画像処理機能を用いて、偏波保持光ファイバ10の空孔13の配置方向と応力付与型偏波保持光ファイバ40の応力付与材43の配置方向とが一致するように調芯し、互いの偏波軸を合わせることができる。なお、この融着接続は、偏波保持光ファイバ10の端部において空孔13が潰れない程度の放電強度で行なう。
【0082】
図18は、上記融着接続を行なって製造した偏波保持光ファイバ接続体200の融着接続部を、図17に示す方向D2の方向から見た状態を示す図である。図18に示すように、偏波保持光ファイバ接続体200の融着接続部において、偏波保持光ファイバ10の空孔13の中心を通る軸同士を結んだ方向と、応力付与型偏波保持光ファイバ40の応力付与材43の中心を通る軸同士を結んだ方向とが一致しているので、融着接続部の偏波クロストークが低くなる。
【0083】
本実施の形態4においては、図18に示す状態において、融着接続部Fにさらに加熱処理、あるいは繰り返しの放電を行い、空孔13を完全に潰すとともに、コア部11を楕円化し、所望の偏波保持光ファイバ接続体を製造する。本実施の形態4に係る製造方法によれば、最初の放電による融着接続によって、良好な偏波クロストークを得るとともに、さらにその後の繰り返しの放電等によって、接続損失を極めて低い値とできる。たとえば、実施の形態3の方法と比較すると、空孔を潰した際のコア部の変形が抑制されるため、偏波クロストークが−30dB以下の場合に、容易に接続損失を0.5dB以下とでき、さらには、偏波クロストークが−35dB以下の場合に、容易に接続損失を0.3dB以下とできる。なお、上述した実施例1に係る偏波保持光ファイバと、一般的な応力付与型偏波保持光ファイバを用いて、本実施の形態4に従って偏波保持光ファイバ接続体を製造したところ、融着接続部における偏波クロストークは−36dB、接続損失は0.2dBであった。
【0084】
また、実施例1に係る偏波保持光ファイバと、波長1550nmにおいてモードフィールド径が4.3μmであり、非線形係数が12/w/mであり、偏波クロストークが40dB/mである高非線形性の応力付与型偏波保持光ファイバとを用いて、本実施の形態4に従って偏波保持光ファイバ接続体を製造した。この応力付与型偏波保持光ファイバは、実施例1に係る偏波保持光ファイバと比較してコア径が非常に小さく、融着接続部において大きなモードフィールドミスマッチが生じるが、融着接続部における偏波クロストークは−35.5dB、接続損失は0.4dBと良好な値であった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係る偏波保持光ファイバおよび偏波保持光ファイバ接続体の製造方法ならびに偏波保持光ファイバ接続体は、大容量の光通信システムにおいて用いられる光デバイス等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0086】
10、20 偏波保持光ファイバ
11、21、41 コア部
12、22、32、42 クラッド部
13、23 空孔
30 楕円コア型偏波保持光ファイバ部
31 楕円コア部
40 応力付与型偏波保持光ファイバ
43 応力付与材
100、200 偏波保持光ファイバ接続体
211 中心コア部
212 外側コア部
C1、C2 データ点
D1、D2 方向
F 融着接続部
L1〜L6 線
P11〜P13、P211、P212、P22 屈折率形状
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18