特許第5778332号(P5778332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5778332耐曲げ加工性に優れる絶縁電線、それを用いたコイルおよび電子・電気機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5778332
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】耐曲げ加工性に優れる絶縁電線、それを用いたコイルおよび電子・電気機器
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20150827BHJP
【FI】
   H01B7/02 Z
【請求項の数】6
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-265391(P2014-265391)
(22)【出願日】2014年12月26日
【審査請求日】2015年2月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509216094
【氏名又は名称】古河マグネットワイヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(72)【発明者】
【氏名】大矢 真
(72)【発明者】
【氏名】青井 恒夫
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−161607(JP,A)
【文献】 特開昭60−121607(JP,A)
【文献】 特開2009−123418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が矩形で、長辺と短辺と、曲率半径Rcのコーナー部を有する導体の外周上に、熱可塑性樹脂からなる絶縁被覆層を有する絶縁電線であって、
前記導体の横断面の長辺の、前記導体の軸線方向に連続する面に被覆された前記絶縁被覆層の厚さt1(μm)および前記導体の横断面の短辺の、前記導体の軸線方向に連続する面に被覆された前記絶縁被覆層の厚さt2(μm)ならびに前記絶縁被覆層のコーナー部の厚さt3(μm)が下記式(1)の関係にあり、
式(1) t3/{(t1+t2)/2}≧1.2
前記t1(μm)およびt2(μm)が各々独立に20μm以上50μm以下であり、
かつ、前記絶縁電線断面積Sw(mm)に対する前記導体断面積Sc(mm)の比の値が下記式(2)の関係にあることを特徴とする絶縁電線。
式(2) 1.0>Sc/Sw≧0.8
【請求項2】
前記導体の横断面の長辺の長さc1(mm)が4.5mm以下、短辺の長さc2(mm)が3.5mm以下および曲率半径Rc(mm)が0.60mm以下であって、
前記t1(μm)およびc2(mm)、ならびに、t2(μm)およびc1(mm)が、各々下記式(3a)および(3b)の関係にあることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
式(3a) 0<t1/(c2×1000)≦0.02
式(3b) 0<t2/(c1×1000)≦0.02
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が結晶性樹脂であって、かつ23℃での曲げ弾性率が2,000MPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトンおよびポリフェニレンスルフィドからなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の絶縁電線を巻線加工してなるコイル。
【請求項6】
請求項5に記載のコイルを用いてなる電子・電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐曲げ加工性に優れる絶縁電線、それを用いたコイルおよび電子・電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子もしくは電気機器(以下、単に電気機器ということがある)では各種性能、例えば耐熱性、機械的特性、化学的特性、電気的特性等を従来より一段と高度に上げることにより信頼性を高めたものが要求されるようになってきている。このような中で宇宙用電気機器、航空機用電気機器、原子力用電気機器、エネルギー用電気機器、自動車用電気機器用のマグネット電線として用いられるエナメル線などの絶縁電線には、優れた耐摩耗性、耐熱老化特性、耐溶剤性が要求されるようになってきている。
【0003】
また、モーターや変圧器に代表される電気機器は近年、機器の小型化及び高性能化が進展している。そこで、絶縁電線を巻線加工(コイル加工)して、電線を非常に狭い部分へ押しこんで使用する様な使い方が多く見られるようになった。具体的には、絶縁電線をコイル加工した巻線をステータースロット中に何本入れられるかにより、そのモーターなどの回転機の性能が決定するといっても過言ではない。その結果、ステータースロット断面積に対する導体の断面積の比率(占積率)の向上に対する要求が高まっている。
【0004】
占積率を向上させる手段として、近年では導体の断面形状が四角形(正方形や長方形)に類似した平角線を使用することが行われている。
しかし、平角線の使用は、占積率の向上には劇的な効果を示す一方、断面平角のコーナー部がコイル加工等の曲げ加工に対して極端に弱い。そのため、強い圧力をかけての加工によって皮膜が割れてしまう問題がある。特にこのコーナー部の曲率半径が小さいほどこの曲げ加工による皮膜の割れが発生しやすいことがわかっている。
【0005】
平角線を用いた絶縁電線としては、例えば、特許文献1には、絶縁皮膜のコーナー部と辺部における厚さおよび誘電率が所定の関係にあることで、高い部分放電開始電圧を有し、コーナー部の絶縁性を向上させた絶縁電線が提案されている。しかし、部分放電開始電圧を高くするためには、絶縁皮膜を厚く設ける必要があり、結果として占積率が低くなってしまう。
また、特許文献2には、絶縁性皮膜の断面形状を湾曲させることにより、絶縁電線間の空隙を抑制し、占積率を向上させた絶縁電線が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5196532号公報
【特許文献2】特開2012−90441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
モーターとして使用される巻線は、モーター製造時に強い曲げ加工力を加えられる。これに加え小型化のために絶縁皮膜を薄くした場合には、コーナー部分が擦れた場合に皮膜が破れやすい。
また、今後更なる小型化、高占積率化は必至であり、導体の曲率半径を一層小さくしていくことが要求される。
【0008】
したがって、本発明は、絶縁被覆層を薄くすることにより高占積率を有し、かつエッジワイズおよびフラットワイズ曲げ加工性ならびに伸張後の絶縁破壊強度にも優れる絶縁電線を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記の優れた性能を有する絶縁電線を用いることにより、モーター等の製造において、曲げ加工による絶縁被覆層の割れの発生を防止し、高占積率で、曲げ加工後も絶縁破壊電圧の維持に優れる、小型化および高性能化が可能なコイルおよび電子もしくは電気機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、エッジ面を曲げるエッジワイズ曲げ加工性およびフラット面を曲げるフラットワイズ曲げ加工性に着目し、さらに検討を重ねたところ、コーナー部とエッジ面およびフラット面の厚さが特定の関係を有し、エッジ面およびフラット面が特定の厚さを有する絶縁被覆層を用いることで、絶縁電線のエッジワイズおよびフラットワイズ曲げ加工性が向上し、伸張後の絶縁破壊強度にも優れることを見出した。本発明は、これらの知見に基づき、なされたものである。
【0010】
ここで、「エッジ面」とは平角線の横断面の短辺が軸線方向に連続して形成する面を、「フラット面」は平角線の横断面の長辺が軸線方向に連続して形成する面をそれぞれ意味する。
【0011】
すなわち、本発明の上記課題は、以下の手段によって達成された。
(1)断面形状が矩形で、長辺と短辺と、曲率半径Rcのコーナー部を有する導体の外周上に、熱可塑性樹脂からなる絶縁被覆層を有する絶縁電線であって、
前記導体の横断面の長辺の、前記導体の軸線方向に連続する面に被覆された前記絶縁被覆層の厚さt1(μm)および前記導体の横断面の短辺の、前記導体の軸線方向に連続する面に被覆された前記絶縁被覆層の厚さt2(μm)ならびに前記絶縁被覆層のコーナー部の厚さt3(μm)が下記式(1)の関係にあり、
【0012】
式(1) t3/{(t1+t2)/2}≧1.2
【0013】
前記t1(μm)およびt2(μm)が各々独立に20μm以上50μm以下であり、
かつ、前記絶縁電線断面積Sw(mm)に対する前記導体断面積Sc(mm)の比の値が下記式(2)の関係にあることを特徴とする絶縁電線。
【0014】
式(2) 1.0>Sc/Sw≧0.8
【0015】
(2)前記導体の横断面の長辺の長さc1(mm)が4.5mm以下、短辺の長さc2(mm)が3.5mm以下および曲率半径Rc(mm)が0.60mm以下であって、
前記t1(μm)およびc2(mm)、ならびに、t2(μm)およびc1(mm)が、各々下記式(3a)および(3b)の関係にあることを特徴とする(1)に記載の絶縁電線。

【0016】
式(3a) 0<t1/(c2×1000)≦0.02
式(3b) 0<t2/(c1×1000)≦0.02
【0017】
(3)前記熱可塑性樹脂が結晶性樹脂であって、かつ23℃での曲げ弾性率が2,000MPa以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載の絶縁電線。
(4)前記熱可塑性樹脂が、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトンおよびポリフェニレンスルフィドからなる群から選択されることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の絶縁電線。
(5)(1)〜(4)のいずれか1項に記載の絶縁電線を巻線加工してなるコイル。
(6)(5)に記載のコイルを用いてなる電子・電気機器。
【0018】
発明の説明において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本発明の絶縁電線において、導体の「辺」は曲率半径Rを有する導体のコーナー部以外の辺の部分を意味する。
発明の絶縁電線において、また、「導体のコーナー部」とは、曲率半径Rで形成された導体の曲部を意味する。
また、本発明の絶縁電線において、矩形とは、コーナー部に曲率半径Rを有する略長方形を意味する
【発明の効果】
【0019】
本発明の絶縁電線は、高占積率を有し、かつエッジワイズおよびフラットワイズ曲げ加工性ならびに伸張後の絶縁破壊強度にも優れる。
また、本発明のコイルは、用いる絶縁電線が、エッジワイズおよびフラットワイズ曲げ加工性に優れるため、巻線加工時の曲げ加工に起因する絶縁被覆層の割れ発生が防止される。さらに、本発明のコイルを用いた電気機器は、占積率が高く、伸張後も導体のコーナー部の絶縁被覆層の厚さは薄くならない。したがって、電子もしくは電気機器の小型化および高性能化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の絶縁電線の好ましい実施態様を示す概略断面図である。
図2】本発明の絶縁電線の辺部とコーナー部を示す模式図である。
図3】本発明の絶縁電線の別の好ましい実施態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<<絶縁電線>>
本発明の絶縁電線は、断面形状が矩形であって、曲率半径Rcのコーナー部を有する導体の外周上に、熱可塑性樹脂からなる絶縁被覆層を有する。
さらに、導体断面の長辺の辺部に被覆された絶縁被覆層の厚さt1(μm)および短辺の辺部に被覆された絶縁被覆層の厚さt2(μm)ならびに絶縁被覆層のコーナー部の厚さt3(μm)が下記式(1)の関係にあり、
【0022】
式(1) t3/{(t1+t2)/2}≧1.2
【0023】
t1(μm)およびt2(μm)が各々独立に20μm以上50μm以下であり、
かつ、絶縁電線断面積Sw(mm)に対する導体断面積Sc(mm)の比が下記式(2)の関係にある。
【0024】
式(2) 1.0>Sc/Sw≧0.8
【0025】
本発明において、層を構成する樹脂および含有する添加物が全く同じ層で隣接して積層した場合は、これらを合わせて1つの層とする。
また、同一樹脂で構成されていても添加物の種類や配合量が異なる層を積層した場合は、隣接しているか否かに関わらず、それぞれの層を別層とする。
【0026】
以下、本発明の好ましい絶縁電線を、図面を参照して、説明するが、本発明はこれに限定されない。
図1に断面図を示した本発明の好ましい形態の絶縁電線1は、導体11と、導体11の外周上に設けられた絶縁被覆層12を有してなる。また、図2の模式図に示したように、導体の4隅は、曲率半径Rcのコーナー部を有し、絶縁被覆層12は、長辺の辺部の厚さt1(μm)、短辺の辺部の厚さt2(μm)およびコーナー部の厚さt3(μm)を有する。ここで、絶縁被覆層のコーナー部とは、導体のコーナー部を被覆する絶縁被覆層の部位を意味する。
【0027】
ここで、絶縁被覆層の厚さは、走査型電子顕微鏡(SEM)あるいは市販のマイクロスコープ等で測定ができる。観察倍率は絶縁被覆層の厚さに応じて適宜決定できるが、概ね400倍以上が好ましい。
絶縁被覆層の辺部の厚さであるt1(μm)およびt2(μm)は均一であることが望ましい。絶縁被覆層の辺部の厚さが均一な場合、t1とする測定箇所は適宜決定できる。 なお、厚さにばらつきがある場合は平均値を用いるのが好ましい。この場合、均等間隔で5点以上を測定し、平均値を算出するのが望ましい。
絶縁被覆層のコーナー部の厚さt3(μm)は必ずしも均一である必要はなく、コーナー部の頂点の厚さが最大になっていることが好ましい。本発明におけるt3(μm)は、図2に示すように、導体のコーナー部の中心と頂点を結んだ直線上における絶縁被覆層の厚さと定義する。
本発明の絶縁電線においては、2つの長辺の辺部、2つの短辺の辺部、4つのコーナー部が存在するため、各々の辺部およびコーナー部の絶縁被覆層の厚さが異なる場合は、それぞれの平均値をt1(μm)、t2(μm)、t3(μm)とする。
【0028】
また、絶縁被覆層のコーナー部の厚さt3(μm)が、導体断面の長辺の辺部に被覆された絶縁被覆層の厚さt1(μm)および短辺の辺部に被覆された絶縁被覆層の厚さt2(μm)の平均厚さに対して、下記式(1)の関係にあり、
【0029】
式(1) t3/{(t1+t2)/2}≧1.2
【0030】
t1(μm)およびt2(μm)が各々独立に20μm以上50μm以下であり、
かつ、図1の断面図に示した絶縁電線1の断面積Sw(mm)に対する導体11の断面積Sc(mm)が下記式(2)の関係にあることで、曲げ加工性に優れ、モータ成型した際に小型化可能な絶縁電線を得ることができる。
【0031】
式(2) 1.0>Sc/Sw≧0.8
【0032】
図3に断面図を示した本発明の別の好ましい形態の絶縁電線2は、導体11と絶縁被覆層12との間に、内層13を設けたものである。
なお、絶縁電線2においては、絶縁被覆層12および内層13の厚さの合計を、それぞれ長辺の辺部の厚さt1(μm)、短辺の辺部の厚さt2(μm)およびコーナー部の厚さt3(μm)とする。
【0033】
以下、本発明の絶縁電線について、導体から順に説明する。
【0034】
<導体>
本発明における導体は、断面形状が矩形(四角とも称される)であって、曲率半径Rcのコーナー部を有する。
その材質は導電性を有するものであればよく、例えば銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
導体が銅の場合、例えば、導体を溶接する際に、含有酸素に起因する溶接部分におけるボイド発生を防止する観点から、好ましくは銅99.96%以上で、酸素含有量が好ましくは30ppm以下、より好ましくは20ppm以下の低酸素銅または無酸素銅が好ましい。
導体がアルミニウムの場合、必要機械強度を考慮したうえで、用途に応じて様々なアルミニウム合金を用いることができる。例えば回転電機のような用途に対しては、高い電流値を得られる純度99.00%以上の純アルミニウムが好ましい。
【0035】
本発明における導体は断面形状が矩形であるため、断面形状が円形のものと比較して、ステータースロットに対する占積率が高い。
本発明における導体は、コーナー部からの部分放電を抑制するという点から、例えば、図2に示すように、4隅のコーナー部には面取り(曲率半径Rc)を設けた形状を有する。
後述の占積率の観点から、曲率半径Rcは、0.60mm以下が好ましく、0.10mm〜0.40mmの範囲がより好ましい。
【0036】
導体のサイズは絶縁電線、コイルの用途に応じて決めるものであるため特に制限はない。ただし、導体断面の一辺の長さは、幅(長辺)c1は4.7mm以下が好ましく、1.0mm〜4.7mmがより好ましく1.4mm〜4.5mmがさらに好ましい。厚み(短辺)c2は3.5mm以下が好ましく、0.4mm〜3.0mmがより好ましく、0.5mm〜2.5mmがさらに好ましい。
また、断面形状は正方形よりも、長方形が一般的である。
導体の断面形状の大きさは、特に限定はない。ただし、幅(長辺)の長さc1に対する厚み(短辺)の長さc2の比は、c1:c2=1:1〜1:4が好ましい。
なお、本明細書において使用する導体断面の長辺および短辺の長さとは、図2に示すように、コーナー部の面取りが行われる前の長方形における長辺および短辺に相当する。
【0037】
(占積率)
本明細書において占積率とは、下記式で算出される導体占積率であり、絶縁電線1または2の断面積Sw(mm)に対する導体11の断面積Sc(mm)の比を意味する。
【0038】
[導体占積率]=Sc/Sw
【0039】
この導体占積率が高いことで、コイルを製造したときの占積率を向上させ、高性能で小型化可能なモーターを製造できる。
【0040】
<絶縁被覆層>
本発明の絶縁電線は、導体の外周上に、熱可塑性樹脂からなる絶縁被覆層を有する。
【0041】
本発明における絶縁被覆層に用いる熱可塑性樹脂は、ポリアミド(PA)(ナイロン)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(変性ポリフェニレンエーテルを含む)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、超高分子量ポリエチレン等の汎用エンジニアリングプラスチックの他、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアリレート(Uポリマー)、ポリアミドイミド、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)(変性ポリエーテルエーテルケトン(変性PEEK)を含む)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、熱可塑性ポリイミド樹脂(TPI)、ポリアミドイミド(PAI)、液晶ポリエステル等のスーパーエンジニアリングプラスチック、さらに、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)をベース樹脂とするポリマーアロイ、ABS/ポリカーボネート、ナイロン6,6、芳香族ポリアミド樹脂(芳香族PA)、ポリフェニレンエーテル/ナイロン6,6、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート/ポリカーボネート等の前記エンジニアリングプラスチックを含むポリマーアロイが挙げられる。
【0042】
これら樹脂のうち結晶性熱可塑性樹脂は、例えば、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、超高分子量ポリエチレン等の汎用エンジニアリングプラスチック、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)(変性PEEKを含む)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、熱可塑性ポリイミド樹脂(TPI)が挙げられ、好ましい。
これらの樹脂のなかでも、PEEK、変性PEEK、PEKK、PEK、PEKEKKおよびPPSからなる群から選択される樹脂が好ましく、PEEK、変性PEEK、PEKK、PEKおよびPEKEKKからなる群から選択される樹脂がより好ましく、PEEKまたは変性PEEKがさらに好ましい。これらの熱可塑性樹脂は1種単独で用いても良く、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記に示した樹脂名によって使用樹脂が限定されるものではなく、先に列挙した樹脂以外にも、それらの樹脂より性能的に優れる樹脂であれば使用可能であるのは勿論である。
【0043】
具体的には、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、23℃での曲げ弾性率:3,500〜4,500MPa)、変性ポリエーテルエーテルケトン(変性PEEK、23℃での曲げ弾性率:2,800〜4,400MPa)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK、23℃での曲げ弾性率:3800〜4,500MPa)、ポリエーテルケトン(PEK、23℃での曲げ弾性率:4,000〜5,000MPa)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK、23℃での曲げ弾性率:4,000〜4,600MPa)、熱可塑性ポリイミド樹脂(TPI、23℃での曲げ弾性率:2,500〜3,000MPa)およびポリフェニレンスルフィド(PPS、23℃での曲げ弾性率:3,500〜4,200MPa)などが挙げられる。
【0044】
23℃での曲げ弾性率が1,000MPa未満の場合には変形する効果は高くなる。
23℃での曲げ弾性率が800MPa以上の場合には熱可塑性の形状可変の能力を損なうことなく、さらに耐摩耗特性を良好なレベルで維持することが可能である。
熱可塑性樹脂の23℃における曲げ弾性率は、2,000MPa以上が好ましく、3,000MPa以上がより好ましく、3,500MPa以上がさらに好ましい。
この曲げ弾性率の上限値は特に限定されない。なお、導体と絶縁被覆層の間に、熱硬化性樹脂からなるワニスを焼き付けてなる内層を設ける場合には、絶縁被覆層を形成する熱可塑性樹脂の23℃での曲げ弾性率が、内層を形成する熱硬化性樹脂の23℃での曲げ弾性率を大幅に上回らない限り、外側の熱可塑性樹脂への応力の集中が抑えられ、エッジワイズ曲げでの割れの発生を抑制できる点から、5,000MPa以下が好ましい。
よって、本発明における熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂であって、かつ23℃での曲げ弾性率が2,000MPa以上であることが好ましい。
【0045】
熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、PEEKとしてビクトレックスジャパン社製のPEEK450G(商品名、23℃での曲げ弾性率:4,200MPa)、変性PEEKとしてソルベイ社製のアバスパイアAV−650(商品名、23℃での曲げ弾性率:3,700MPa)またはAV−651(商品名、23℃での曲げ弾性率:3,100MPa)、PEKKとしてサイテックインダストリーズ社製のPEKK23℃での曲げ弾性率:4,500MPa)、PEKとしてビクトレックスジャパン社製のHT-G22(商品名、23℃での曲げ弾性率:4,200MPa)、PEKEKKとしてビクトレックスジャパン社製のST-STG45(商品名、23℃での曲げ弾性率:4,100MPa)、TPIとして三井化学社製のオーラムPL450C(商品名、23℃での曲げ弾性率:2,900MPa)、PPSとしてポリプラスチックス社製のジュラファイド0220A9(商品名、23℃での曲げ弾性率:3,800MPa)またはDIC社製のPPS FZ−2100(商品名、23℃での曲げ弾性率:3,800MPa)等の市販品を挙げることができる。
【0046】
また、本発明における絶縁被覆層は、導体断面の長辺の辺部に被覆された絶縁被覆層の厚さt1(以下、絶縁被覆層の長辺厚さt1とも称す)および短辺の辺部に被覆された絶縁被覆層の厚さt2(以下、絶縁被覆層の短辺厚さt2とも称す)ならびに絶縁被覆層のコーナー部の厚さt3が、下記式(1)の関係にある。
【0047】
式(1) t3/{(t1+t2)/2}≧1.2
【0048】
上記式(1)の関係にあることで、伸張後における絶縁電線の絶縁破壊電圧を維持することが可能である。
なお、機構については定かではないものの、伸張前と伸張後の断面形状の観察により、絶縁被覆層において膜厚の薄い部分がより薄くなる現象が発生しており、最も電解集中するコーナー部の絶縁被覆層の膜厚が、伸張後も維持されることにより、伸張後の絶縁破壊電圧が維持されていると考えられる。
【0049】
上記式(1)における左辺:t3/{(t1+t2)/2}の値は、伸張による膜厚減少を抑える観点から1.2以上であり、1.5以上が好ましく、1.8以上がより好ましく、2.1以上がさらに好ましい。なお、上限値は、絶縁皮膜の形状によるモーターに組んだときの整列しやすさの点から2.5以下が好ましい。
【0050】
さらに、本発明における絶縁被覆層の長辺厚さt1および短辺厚さt2は、各々独立して20μm以上50μm以下であり、25μm以上40μm以下が好ましく、25μm以上35μm以下がより好ましい。
なお、厚さt1およびt2にばらつきがある場合、それぞれにおける最小値と最大値の厚さの差は、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。
絶縁被覆層の辺部の厚さがこの範囲内にあることで、絶縁被覆層の厚さは薄く、占積率の高い絶縁電線を得ることができる。
【0051】
また、絶縁被覆層の長辺厚さt1および短辺厚さt2は下記式(2a)および(2b)の関係にあることが好ましい。
【0052】
式(2a) 0≦|t1−t2|/t1≦0.2
式(2b) 0≦|t1−t2|/t2≦0.2
【0053】
上記式(2a)および(2b)の関係にあることで、絶縁電線を伸張した際のコーナー部の絶縁被覆層の膜厚が効果的に維持され、伸張後の絶縁破壊電圧が維持される。
【0054】
本発明における絶縁被覆層は、導体の外周上に、熱可塑性樹脂を押出被覆して設けることが好ましい。
熱可塑性樹脂を押出被覆して設けることにより、絶縁被覆層の厚さt1、t2およびt3が上記式(1)の関係にあるよう任意の厚さに調節することができる。なお、熱可塑性樹脂は、後述の熱硬化性樹脂のようにワニスを塗布、焼き付けて、設けることもできる。
【0055】
本発明の絶縁電線は、導体の外周上に、本発明における絶縁被覆層を単層設けることが好ましい。
これまでの絶縁電線では、密着力および伸張後の絶縁破壊電圧の向上のため、導体と絶縁被覆層との間にエナメル層を設ける必要があった。しかし、本発明では、絶縁被覆層の長辺厚さt1、短辺厚さt2およびコーナー部厚さt3が式(1)の関係にあるようにすることで、エナメル層を設けなくても、強い加工圧を加えても良好な密着力および伸張後の絶縁破壊電圧を有する絶縁電線が得られる。
導体上にエナメル層を設ける工程を省くことで絶縁電線の製造工程を簡略化できるため、導体の外周上に、単層の絶縁被覆層を直接有する、図1で示される絶縁電線1がより好ましい。
【0056】
−導体と絶縁被覆層の関係−
本発明において、絶縁電線断面積Swに対する導体断面積Scの比は、下記式(3)の関係にある。
【0057】
式(3) 1.0>Sc/Sw≧0.8
【0058】
なお、導体断面積Scおよび絶縁電線断面積Swは、走査型電子顕微鏡(SEM)あるいは市販のマイクロスコープ等で測定ができる。観察倍率は絶縁被覆層の厚さに応じて適宜決定できるが、絶縁電線断面積Swは、概ね400倍以上が好ましい。
上記式(3)の関係にあることで、高い占積率の絶縁電線を得ることができる。より優れたモーターの効率向上への効果を得る観点からは、Sc/Swの下限値は、0.85以上が好ましく、0.90以上がより好ましい。
【0059】
導体断面の長辺の長さc1および短辺の長さc2ならびに絶縁被覆層の長辺厚さt1および短辺厚さt2が、下記式(4a)および(4b)の関係にあることも好ましい。
【0060】
式(4a) 0<t1/c2≦0.02
式(4b) 0<t2/c1≦0.02
【0061】
上記式(4a)および(4b)の関係にあることで、エッジワイズおよびフラットワイズ曲げ加工性に優れた絶縁電線を得ることができる。
【0062】
なお、より優れたエッジワイズおよびフラットワイズ曲げ加工性を得る観点からは、上記式(4a)および(4b)の関係にあり、かつ、導体断面の長辺の長さc1が4.5mm以下、短辺の長さc2が3.5mm以下および曲率半径Rcが0.60mm以下であることがより好ましい。
【0063】
2種以上の熱可塑性樹脂を混合して使用する場合は、例えば両者をポリマーアロイ化して相溶型の均一な混合物として使用するか、非相溶系のブレンドを、相溶化剤を用いて相溶状態を形成して使用することができる。
【0064】
本発明において、特性に影響を及ぼさない範囲で、絶縁被覆層を得る原料に、後述の各種添加剤を含有していてもよい。
【0065】
<内層(C)>
本発明においては、導体と絶縁被覆層との間に設けてもよい内層は、伸張後の絶縁破壊電圧の維持、良好な曲げ加工性を有するものであればどのような層であってもよく、例えばエナメル焼付け層が挙げられる。
【0066】
絶縁電線の比誘電率に変化を及ばさず、本発明の特性である高い占積率、伸張後の絶縁破壊電圧の維持、良好な耐曲げ性を得る観点からは、内層の厚さは5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましい。
【0067】
エナメル焼付け層は、樹脂ワニスを導体上に塗布、焼付けして形成したものであり、用いる樹脂ワニスは、熱硬化性樹脂を含有する。
【0068】
熱硬化性樹脂は、導体に塗布し焼き付けて絶縁皮膜を形成できる熱硬化性樹脂であればよく、ポリイミド(PI)、ポリウレタン、ポリアミドイミド(PAI)、熱硬化性ポリエステル、H種ポリエステル、ポリベンゾイミダゾール、ポリエステルイミド(PEsI)、ポリエーテルイミド(PEI)、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などを用いることができる。
本発明では、熱硬化性樹脂として、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドおよびポリエステルイミドからなる群より選択される熱硬化性樹脂が好ましい。
【0069】
ポリイミドは、特に制限はなく、全芳香族ポリイミドおよび熱硬化性芳香族ポリイミドなど、通常のポリイミドを用いることができる。例えば、市販品(商品名:Uイミド(ユニチカ(株)社製)、商品名:U−ワニス(宇部興産(株)社製))を用いるか、常法により、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン類を極性溶媒中で反応させて得られるポリアミド酸溶液を用い、被覆する際の焼き付け時の加熱処理によってイミド化させることによって得られるものを用いることができる。
【0070】
ポリアミドイミドは、熱硬化性のものであればよく、市販品(例えば、商品名:HI406(日立化成(株)社製)、商品名:HCIシリーズ(日立化成(株)社製))を用いるか、常法により、例えば極性溶媒中でトリカルボン酸無水物とジイソシアネート類を直接反応させて得たもの、または、極性溶媒中でトリカルボン酸無水物にジアミン類を先に反応させて、まずイミド結合を導入し、ついでジイソシアネート類でアミド化して得たものを用いることができる。なお、ポリアミドイミドは、他の樹脂に比べ熱伝導率が低く、絶縁破壊電圧が高く、焼付け硬化が可能なものである。
【0071】
ポリエーテルイミドは、分子内にエーテル結合とイミド結合を有するポリマーであればよく、例えば、商品名:ウルテム1000(SABIC社製)などの市販品を用いることができる。
また、ポリエーテルイミドは、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物と分子内にエーテル結合を有する芳香族ジアミン類を極性溶媒中で反応させて得られるポリアミド酸溶液を用い、被覆する際の焼き付け時の加熱処理によってイミド化させることによって得られるものを用いることもできる。
【0072】
ポリエステルイミドは、分子内にエステル結合とイミド結合を有するポリマーであって熱硬化性のものであればよく、例えば、商品名:ネオヒート8600A(東特塗料(株)社製)などの市販品を用いることができる。
また、ポリエステルイミドは、特に限定されないが、例えば、トリカルボン酸無水物とアミンからイミド結合を形成し、アルコールとカルボン酸またはそのアルキルエステルからエステル結合を形成し、そして、イミド結合の遊離酸基または無水基がエステル形成反応に加わることで得られるものを用いることができる。このようなポリエステルイミドは、例えば、トリカルボン酸無水物、ジカルボン酸化合物またはそのアルキルエステル、アルコール化合物およびジアミン化合物を公知の方法で反応させて得たものを用いることもできる。
【0073】
熱硬化性樹脂は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、熱硬化性樹脂被覆(A)が複数の熱硬化性樹脂層からなる場合、各層で互いに異なった熱硬化性樹脂を用いても、異なった混合比率の熱硬化性樹脂を使用してもよい。
【0074】
本発明に用いる樹脂ワニスは、特性に影響を及ぼさない範囲で、気泡化核剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、顔料、染料、相溶化剤、滑剤、強化剤、難燃剤、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、増粘剤、減粘剤およびエラストマーなどの各種添加剤を含有してもよい。また、得られる絶縁電線に、これらの添加剤を含有する樹脂からなる層を積層してもよいし、これらの添加剤を含有する塗料をコーティングしてもよい。
【0075】
樹脂ワニスは、熱硬化性樹脂層の弾性率を向上させるために、ガラスファイバーやカーボンナノチューブなど、大きなアスペクト比を有する粉体を塗料に添加して、焼き付けても良い。このようにすることで、加工時に線の流れ方向に粉体が整列し、曲げ方向に対して強化される。
【0076】
樹脂ワニスは、熱硬化性樹脂をワニス化させるために有機溶媒等を含有する。有機溶媒としては、熱硬化性樹脂の反応を阻害しない限りは特に制限はなく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド系溶媒、N,N−ジメチルエチレンウレア、N,N−ジメチルプロピレンウレア、テトラメチル尿素等の尿素系溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−カプロラクトン等のラクトン系溶媒、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、エチルセロソルブアセテート、エチルカルビトールアセテート等のエステル系溶媒、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム系溶媒、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、クレゾール、フェノール、ハロゲン化フェノールなどのフェノール系溶媒、スルホラン等のスルホン系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
【0077】
これらのうち、高溶解性、高反応促進性等に着目すると、アミド系溶媒、尿素系溶媒が好ましく、加熱による架橋反応を阻害しやすい水素原子をもたない等の点で、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルエチレンウレア、N,N−ジメチルプロピレンウレア、テトラメチル尿素がより好ましく、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドが特に好ましい。
有機溶媒等は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0078】
<絶縁電線の特性>
本発明の絶縁電線は、占積率、エッジワイズおよびフラットワイズ曲げ加工性、伸張後の絶縁破壊電圧の維持特性に優れる。
【0079】
[占積率]
占積率は、絶縁電線1または2の断面積Sw(mm)に対する導体11の断面積Sc(mm)の比を意味する、導体占積率で評価する。
導体占積率が0.90以上1.00未満の絶縁電線を、モーターの効率向上への効果が大きいとして「◎」、0.85以上0.90未満の絶縁電線を効果があるとして「○」、0.80以上0.85未満の絶縁電線を、効果は小さいものの効果があるとして「△」、0.80未満の絶縁電線を、断面形状が円形の導体を用いた絶縁電線と比較して優位性がほとんどないものとして「×」とし、4段階で評価する。なお、「△」以上が合格レベルである。
【0080】
[エッジワイズ曲げ加工性]
エッジワイズ曲げ試験はJIS 3216−3に従って実施する。
なお、絶縁電線の曲げられる部分にフェザー剃刃S片刃(例えば、フェザー安全剃刀株式会社製)を用いて深さ5μmの切込みを入れることで、より厳しい条件でのエッジワイズ曲げを実施する。切込みを入れた絶縁電線を、切込み部分が中心となるように直径1.5mmのステンレス鋼製の棒に巻き付けることによって曲げて判断する。
絶縁被覆層が裂け、導体の面全体に進展した絶縁電線を「×」、絶縁被覆層に亀裂が進展したものの導体までは達していない絶縁電線を「△」、切込み部分も一緒に伸びて切込みが進展していない絶縁電線を「○」とし、3段階で評価する。なお、「△」以上が合格レベルである。
【0081】
[フラットワイズ曲げ加工性]
フラットワイズ曲げ試験はエッジワイズ曲げ加工性の試験を応用して実施する。
なお、絶縁電線の曲げられる部分にフェザー剃刃S片刃(例えば、フェザー安全剃刀株式会社製)を用いて深さ5μmの切込みを入れることで、より厳しい条件でのフラットワイズ曲げを実施する。切込みを入れた絶縁電線を、切込み部分が中心となるようにΦ1.5mmのSUS製の棒に巻き付けることによって曲げて判断する。
絶縁被覆層が裂け、導体の面全体に進展した絶縁電線を「×」、絶縁被覆層に亀裂が進展したものの導体までは達していない絶縁電線を「△」、切込み部分も一緒に伸びて切込みが進展していない絶縁電線を「○」とし、3段階で評価する。なお、「△」以上が合格レベルである。
【0082】
[伸張後絶縁破壊強度]
絶縁電線の耐電圧特性は、オートグラフ(例えば、島津製作所社製)を用いて伸張速度300mm/minで20%伸張し、絶縁破壊試験機を使用して、電圧を測定して評価する。
具体的には、絶縁電線の片側の端末を剥離した部分に接地電極を接続し、端末を剥離した絶縁電線の端からの長さが300mmの部分にアルミ箔を巻き、巻き付けたアルミ箔に高圧側電極を接続する。昇圧速度500V/秒で昇圧して、15mA以上の電流が流れたときの電圧を読み取る。n=5で実施し、その平均値で絶縁破壊電圧を評価する。この値について「長辺の合計皮膜厚さ」と「短辺の皮膜厚さ」の平均値で除することで絶縁破壊強度を算出する。
100V/μm以上を「◎」、80V/μm以上100V/μm未満を「○」、60V/μm以上80V/μm未満を「△」、60V/μm未満を「×」とし、4段階で評価する。なお、「△」以上が合格レベルである。
【0083】
<<絶縁電線の製造方法>>
本発明の絶縁電線は、導体の外周上に、熱可塑性樹脂からなる絶縁被覆層を形成することで製造できる。
なお、導体と絶縁被覆層の間に内層を設ける場合には、導体上に内層を設けた後、絶縁被覆層を形成することで、本発明の絶縁電線を製造できる。
以下に、内層、絶縁被覆層の順に説明する。
【0084】
内層は、例えば、熱硬化性樹脂を含有る樹脂ワニスを導体上に塗布し、焼き付けて形成される。樹脂ワニスを塗布する方法は、常法でよく、例えば、導体形状の相似形としたワニス塗布用ダイスを用いる方法や、導体断面形状が矩形である場合、井桁状に形成された「ユニバーサルダイス」と呼ばれるダイスを用いることができる。
これらの樹脂ワニスを塗布した導体は、常法にて、焼付炉で焼付けされる。具体的な焼付け条件はその使用される炉の形状などに左右されるが、およそ8mの自然対流式の竪型炉であれば、炉内温度400〜650℃にて通過時間を10〜90秒に設定することにより、達成することができる。
【0085】
樹脂ワニスの焼付けは、1回でも、数回繰り返してもよい。数回繰り返す場合は、同一の焼付け条件でもよく、異なる焼付け条件でもよい。
このようにして1層の内層を形成できる。内層を複数層形成する場合には、用いる樹脂ワニスを代えればよい。
【0086】
次いで、内層を形成した導体の外周面上に、熱可塑性樹脂からなる絶縁被覆層を設ける。例えば、内層が形成された導体(エナメル線とも称す)を心線とし、押出機のスクリューを用いて熱可塑性樹脂をエナメル線上に押出被覆することにより絶縁被覆層を形成し、絶縁電線を得ることができる。この際、押出被覆樹脂層の断面の外形の形状が導体の形状と相似形で所定の辺部およびコーナー部の厚みが得られる形状になるように、熱可塑性樹脂の融点以上の温度(非晶性樹脂の場合にはガラス転移温度以上)で押出ダイを用いて熱可塑性樹脂の押出被覆を行う。熱可塑性樹脂層は、有機溶媒等と熱可塑性樹脂を用いて形成することもできる。
【0087】
非晶性の熱可塑性樹脂を用いる場合には、押出成形の他に、有機溶媒等に溶解させたワニスを、導体の形状と相似形のダイスを使用して、エナメル線上にコーティングして焼付けて、形成することもできる。
ワニスの有機溶媒は、上記樹脂ワニスにおいて挙げた有機溶媒が好ましい。
また、具体的な焼付け条件はその使用される炉の形状などに左右されるが、熱硬化性樹脂における条件で記載した条件が好ましい。
【0088】
本発明の絶縁電線は、各種電気機器など、耐高電圧性や曲げ加工性を必要とする分野に利用可能である。例えば、本発明の絶縁電線はコイル加工してモーターやトランスなどに用いられ、高性能の電気機器を構成できる。高電圧領域で使用される分布巻コイルおよび低・中電圧領域で使用される集中巻コイルのどちらにも好ましく用いられ、特に集中巻コイルに好ましく用いられる。具体的には、HVやEVの駆動モーター用の巻線として好適に用いられる。
【実施例】
【0089】
以下に、本発明を実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、これは本発明を制限するものではない。
【0090】
実施例1
本例では、図1に示される絶縁電線1を製造した。
導体には、断面平角(長辺c1:3.2mm×短辺c2:1.7mmで、四隅の面取りの曲率半径Rc=0.3mm)の平角導体11(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
【0091】
押出機のスクリューは、30mmフルフライト、L/D=20、圧縮比3を用いた。
熱可塑性樹脂はポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)(ビクトレックスジャパン社製、商品名:PEEK450G、23℃での曲げ弾性率:4,200MPa)を用い、絶縁被覆層の断面の外形の形状が導体の形状と相似形でかつ表1に記載の辺部およびコーナー部の厚みが得られる形状になるように、押出ダイを用いてPEEKの押出被覆を370℃で行い、導体の外周上に、長辺の厚さt1および短辺の厚さt2がともに、30μmで、4つのコーナー部の厚さt3が40μmで、曲率半径が0.3mmの絶縁被覆層12〔押出被覆樹脂層〕を形成し、PEEK押出被覆樹脂層からなる絶縁電線1を得た。
【0092】
実施例2
本例では、図3に示される絶縁電線2を製造した。
導体には、断面平角(長辺c1:4.5mm×短辺c2:1.8mmで、四隅の面取りの曲率半径Rc=0.3mm)の平角導体11(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
【0093】
内層13の形成に際しては、導体11上に形成される内層の形状と相似形のダイスを使用して、ポリアミドイミド樹脂(PAI)ワニス(日立化成(株)社製、商品名:HI406)を導体11へコーティングし、炉内温度550℃に設定した炉長8mの焼付炉内を、通過時間15秒となる速度で通過させることで、厚さ3μmの内層13を形成し、内層13を有するエナメル線を得た。
【0094】
得られたエナメル線を芯線とし、押出機のスクリューは30mmフルフライト、L/D=20、圧縮比3を用いた。
熱可塑性樹脂は変性ポリエーテルエーテルケトン樹脂(変性PEEK)(ソルベイジャパン(株)社製、商品名:アバスパイア AV−650)を用い、絶縁被覆層の断面の外形の形状が導体の形状と相似形でかつ表1に記載の辺部およびコーナー部の厚みが得られる形状になるように、押出ダイを用いて変性PEEKの押出被覆を370℃で行い、導体の外周上に、長辺の厚さが36μmで、短辺の厚さが34μmで、4つのコーナー部の厚さが50μmで、曲率半径が0.3mmの絶縁被覆層12〔押出被覆樹脂層〕を形成し、変性PEEK押出被覆樹脂層からなる絶縁電線2を得た。
【0095】
実施例3
本例では、図3に示される絶縁電線2を製造した。
導体11には、表1に記載の長辺c1および短辺c2の長さならびにコーナー部の曲率半径Rcを有する平角導体11(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
【0096】
ポリアミドイミド樹脂(PAI)ワニスに代えてポリイミド樹脂(PI)ワニス(ユニチカ(株)社製、商品名:Uイミド)を用いた以外は実施例2と同様にして、厚さ3μmの内層13を形成し、内層13を有するエナメル線を得た。
得られたエナメル線を芯線とし、変性ポリエーテルエーテルケトン樹脂(変性PEEK)に代えてポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)(ビクトレックスジャパン社製、商品名:PEEK450G)を用いた以外は実施例2と同様にして、表1に記載の長辺、短辺およびコーナー部の厚さならびに曲率半径Rrの絶縁被覆層12を形成し、PEEK押出被覆樹脂層からなる絶縁電線2を得た。
【0097】
実施例4
本例では、図1に示される絶縁電線1を製造した。
導体11には、表1に記載の長辺c1および短辺c2の長さならびにコーナー部の曲率半径Rcを有する平角導体11(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
【0098】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)に代えてポリエーテルケトン樹脂(PEK)(ビクトレックスジャパン社製、商品名:HT-G22)を用いた以外は実施例1と同様にして、表1に記載の長辺、短辺およびコーナー部の厚さならびに曲率半径Rrの絶縁被覆層12を形成し、PEKK押出被覆樹脂層からなる絶縁電線1を得た。
【0099】
実施例5
本例では、図3に示される絶縁電線2を製造した。
導体11には、表1に記載の長辺c1および短辺c2の長さならびにコーナー部の曲率半径Rcを有する平角導体11(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
【0100】
ポリアミドイミド樹脂(PAI)ワニスに代えてポリエーテルイミド樹脂(PEI)ワニス(SABIC社製、商品名:ウルテム1000)を用いた以外は実施例2と同様にして、厚さ2μmの内層13を形成し、内層13を有するエナメル線を得た。
得られたエナメル線を芯線とし、変性ポリエーテルエーテルケトン樹脂(変性PEEK)に代えて熱可塑性ポリイミド樹脂(TPI)(三井化学社製、商品名:オーラムPL450C)を用いた以外は実施例2と同様にして、表1に記載の長辺、短辺およびコーナー部の厚さならびに曲率半径Rrの絶縁被覆層12を形成し、PEEK押出被覆樹脂層からなる絶縁電線2を得た。
【0101】
実施例6
本例では、図3に示される絶縁電線2を製造した。
導体11には、表1に記載の長辺c1および短辺c2の長さならびにコーナー部の曲率半径Rcを有する平角導体11(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
【0102】
ポリアミドイミド樹脂(PAI)ワニスに代えてポリエステルイミド樹脂(PEsI)ワニス(東特塗料(株)社製、商品名:ネオヒート8600A)を用いた以外は実施例2と同様にして、厚さ3μmの内層13を形成し、内層13を有するエナメル線を得た。
得られたエナメル線を芯線とし、変性ポリエーテルエーテルケトン樹脂(変性PEEK)に代えて芳香族ポリアミド樹脂(芳香族PA)(ソルベイソルベイスペシャルティポリマーズ社製、商品名:アモデル AT−1001L)を用いた以外は実施例2と同様にして、表1に記載の長辺、短辺およびコーナー部の厚さならびに曲率半径Rrの絶縁被覆層12を形成し、PEEK押出被覆樹脂層からなる絶縁電線2を得た。
【0103】
実施例7
本例では、図1に示される絶縁電線1を製造した。
導体11には、表1に記載の長辺c1および短辺c2の長さならびにコーナー部の曲率半径Rcを有する平角導体11(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
【0104】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)に代えて変性ポリエーテルエーテルケトン樹脂(変性PEEK)(ソルベイジャパン(株)社製、商品名:アバスパイア AV−650)を用いた以外は実施例1と同様にして、表1に記載の長辺、短辺およびコーナー部の厚さならびに曲率半径Rrの絶縁被覆層12を形成し、PPS押出被覆樹脂層からなる絶縁電線1を得た。
【0105】
実施例8
本例では、図1に示される絶縁電線1を製造した。
導体11には、表1に記載の長辺c1および短辺c2の長さならびにコーナー部の曲率半径Rcを有する平角導体11(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
【0106】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)に代えてポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)(帝人社製、商品名:TR8550N)を用いた以外は実施例1と同様にして、表1に記載の長辺、短辺およびコーナー部の厚さならびに曲率半径Rrの絶縁被覆層12を形成し、PPS押出被覆樹脂層からなる絶縁電線1を得た。
【0107】
実施例9
本例では、図1に示される絶縁電線1を製造した。
導体11には、表1に記載の長辺c1および短辺c2の長さならびにコーナー部の曲率半径Rcを有する平角導体11(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
【0108】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)に代えてポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)(DIC(株)社製、商品名:PPS FZ−2100)を用いた以外は実施例1と同様にして、表1に記載の長辺、短辺およびコーナー部の厚さならびに曲率半径Rrの絶縁被覆層12を形成し、PPS押出被覆樹脂層からなる絶縁電線1を得た。
【0109】
比較例1
本例では、絶縁被覆層の長辺および短辺の厚さとコーナー部の厚さが同じで、式(1)の関係を満たさない以外は、図3に示される絶縁電線2の構造を有する絶縁電線を製造した。
導体には、表2に記載の長辺および短辺の長さならびにコーナー部の曲率半径を有する平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
【0110】
実施例2と同様にして、厚さ3μmの内層を形成し、内層を有するエナメル線を得た。
得られたエナメル線を芯線とし、変性ポリエーテルエーテルケトン樹脂(変性PEEK)に代えてポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)(ビクトレックスジャパン社製、商品名:PEEK450G)を用いた以外は実施例2と同様にして、表2に記載の長辺、短辺およびコーナー部の厚さならびに曲率半径Rrの絶縁被覆層を形成し、式(1)の関係を満たさない絶縁電線を得た。
【0111】
比較例2
本例では、絶縁被覆層の長辺および短辺の厚さとコーナー部の厚さが式(1)の関係を満たさず、絶縁被覆層の長辺および短辺の厚さが厚く、絶縁電線断面積に対する導体断面積の比が式(2)の関係を満たさない以外は、図1に示される絶縁電線1の構造を有する絶縁電線を製造した。
導体には、表2に記載の長辺および短辺の長さならびにコーナー部の曲率半径を有する平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
【0112】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)に代えて変性ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)(ソルベイジャパン(株)社製、商品名:アバスパイア AV−650)を用いた以外は実施例1と同様にして、表2に記載の長辺、短辺およびコーナー部の厚さならびに曲率半径Rrの絶縁被覆層を形成し、式(1)および式(2)の関係を満たさず、絶縁被覆層の長辺および短辺の厚さが厚い絶縁電線を得た。
【0113】
比較例3
本例では、絶縁被覆層の長辺および短辺の厚さとコーナー部の厚さが式(1)の関係を満たさない以外は、図1に示される絶縁電線1の構造を有する絶縁電線を製造した。
導体には、表2に記載の長辺および短辺の長さならびにコーナー部の曲率半径を有する平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
【0114】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)に代えてポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)(DIC(株)社製、商品名:PPS FZ−2100)を用いた以外は実施例1と同様にして、表2に記載の長辺、短辺およびコーナー部の厚さならびに曲率半径Rrの絶縁被覆層を形成し、式(1)の関係を満たさない絶縁電線を得た。
【0115】
比較例4
本例では、絶縁電線断面積に対する導体断面積の比が式(2)の関係を満たさない以外は、図1に示される絶縁電線1の構造を有する絶縁電線を製造した。
導体には、表2に記載の長辺および短辺の長さならびにコーナー部の曲率半径を有する平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
【0116】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)に代えてポリエーテルケトン樹脂(PEK)(ビクトレックスジャパン社製、商品名:HT-G22)を用いた以外は実施例1と同様にして、表2に記載の長辺、短辺およびコーナー部の厚さならびに曲率半径Rrの絶縁被覆層を形成し、式(2)の関係を満たさない絶縁電線を得た。
【0117】
比較例5
本例では、絶縁被覆層が熱硬化性樹脂からなり、絶縁被覆層の長辺および短辺の厚さとコーナー部の厚さが同じで、式(1)の関係を満たさず、絶縁被覆層の長辺の厚さが厚い以外は、図3に示される絶縁電線2の構造を有する絶縁電線を製造した。
導体には、表2に記載の長辺および短辺の長さならびにコーナー部の曲率半径を有する平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
【0118】
ポリアミドイミド樹脂(PAI)ワニスに代えてポリエーテルイミド樹脂(PEI)ワニス(SABIC社製、商品名:ウルテム1000)を用いた以外は実施例2と同様にして、厚さ3μmの内層を形成し、内層を有するエナメル線を得た。
得られたエナメル線を芯線とし、変性ポリエーテルエーテルケトン樹脂(変性PEEK)に代えてポリアミドイミド樹脂(PAI)ワニス(日立化成(株)社製、商品名:HI406)を用いた以外は実施例2と同様にして、表2に記載の長辺、短辺およびコーナー部の厚さならびに曲率半径Rrの絶縁被覆層を形成し、絶縁被覆層が熱硬化性樹脂からなり、式(1)の関係を満たさず、絶縁被覆層の長辺の厚さが厚い絶縁電線を得た。
【0119】
比較例6
本例では、絶縁被覆層の長辺および短辺の厚さとコーナー部の厚さが式(1)の関係を満たさず、絶縁電線断面積に対する導体断面積の比が式(2)の関係を満たさず、絶縁被覆層の長辺および短辺の厚さが厚い以外は、図3に示される絶縁電線2の構造を有する絶縁電線を製造した。
導体には、表2に記載の長辺および短辺の長さならびにコーナー部の曲率半径を有する平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
【0120】
ポリアミドイミド樹脂(PAI)ワニスに代えてポリアミドイミド樹脂(PAI)ワニス(日立化成(株)社製、商品名:HI406)を用いた以外は実施例2と同様にして、厚さ3μmの内層を形成し、内層を有するエナメル線を得た。
得られたエナメル線を芯線とし、変性ポリエーテルエーテルケトン樹脂(変性PEEK)に代えてポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)(DIC(株)社製、商品名:PPS FZ−2100)を用いた以外は実施例2と同様にして、表2に記載の長辺、短辺およびコーナー部の厚さならびに曲率半径Rrの絶縁被覆層を形成し、式(1)および式(2)の関係を満たさず、絶縁被覆層の長辺および短辺の厚さが厚い絶縁電線を得た。
【0121】
比較例7
本例では、絶縁被覆層の長辺および短辺の厚さが厚い以外は、図1に示される絶縁電線1の構造を有する絶縁電線を製造した。
導体には、表2に記載の長辺および短辺の長さならびにコーナー部の曲率半径を有する平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
【0122】
実施例1と同様にして、表2に記載の長辺、短辺およびコーナー部の厚さならびに曲率半径Rrの絶縁被覆層を形成し、絶縁被覆層の長辺および短辺の厚さが厚い絶縁電線を得た。
【0123】
上記のようにして製造した絶縁電線の各種特性は、下記の測定および評価によりを行った。
【0124】
[占積率]
占積率は、絶縁電線1の断面積Sw(mm)に対する導体11の断面積Sc(mm)の比を意味する、導体占積率で評価した。
導体占積率が0.90以上1.00未満の絶縁電線を、モーターの効率向上への効果が大きいとして「◎」、0.85以上0.90未満の絶縁電線を効果があるとして「○」、0.80以上0.85未満の絶縁電線を、効果は小さいものの効果があるとして「△」、0.80未満の絶縁電線を、断面形状が円形の導体を用いた絶縁電線と比較して優位性がほとんどないものとして「×」とし、4段階で評価した。なお、「△」以上が合格レベルである。
【0125】
[エッジワイズ曲げ加工性]
エッジワイズ曲げ試験はJIS 3216−3に従って実施した。
なお、各絶縁電線の曲げられる部分にフェザー剃刃S片刃(フェザー安全剃刀株式会社製)を用いて深さ5μmの切込みを入れることで、より厳しい条件でのエッジワイズ曲げを実施した。切込みを入れた各絶縁電線を、それぞれ切込み部分が中心となるようにΦ1.5mmのSUS製の棒に巻き付けることによって曲げて判断した。
絶縁被覆層が裂け、導体の面全体に進展した絶縁電線を「×」、絶縁被覆層に亀裂が進展したものの導体までは達していない絶縁電線を「△」、切込み部分も一緒に伸びて切込みが進展していなかい絶縁電線を「○」とし、3段階で評価した。なお、「△」以上が合格レベルである。
【0126】
[フラットワイズ曲げ加工性]
フラットワイズ曲げ試験はエッジワイズ曲げ加工性の試験を応用して実施した。
なお、各絶縁電線の曲げられる部分にフェザー剃刃S片刃(フェザー安全剃刀株式会社製)を用いて深さ5μmの切込みを入れることで、より厳しい条件でのフラットワイズ曲げを実施した。切込みを入れた各絶縁電線を、それぞれ切込み部分が中心となるようにΦ1.5mmのSUS製の棒に巻き付けることによって曲げて判断した。
絶縁被覆層が裂け、導体の面全体に進展した絶縁電線を「×」、絶縁被覆層に亀裂が進展したものの導体までは達していない絶縁電線を「△」、切込み部分も一緒に伸びて切込みが進展していなかい絶縁電線を「○」とし、3段階で評価した。なお、「△」以上が合格レベルである。
【0127】
[伸張後絶縁破壊強度]
絶縁電線の耐電圧特性は、オートグラフ(島津製作所社製)を用いて伸張速度300mm/minで20%伸張し、絶縁破壊試験機を使用して、電圧を測定して評価した。
具体的には、絶縁電線の片側の端末を剥離した部分に接地電極を接続し、端末を剥離した絶縁電線の端からの長さが300mmの部分にアルミ箔を巻き、巻き付けたアルミ箔に高圧側電極を接続した。昇圧速度500V/秒で昇圧して、15mA以上の電流が流れたときの電圧を読み取った。n=5で実施し、その平均値で絶縁破壊電圧を評価した。この値について「長辺の合計皮膜厚さ」と「短辺の皮膜厚さ」の平均値で除することで絶縁破壊強度を算出した。
100V/μm以上を「◎」、80V/μm以上100V/μm未満を「○」、60V/μm以上80V/μm未満を「△」、60V/μm未満を「×」とし、4段階で評価した。なお、「△」以上が合格レベルである。
【0128】
各絶縁電線の構成と評価結果を、下記表1および2にまとめて示す。
なお、総合評価は、2つ以上の◎評価があり、その他が○評価の場合のものを「◎」、すべての評価基準で○評価もしくは1つ以上の◎評価と△評価が混在したのものを「○」、1つ以上の△評価があり、その他が○評価のものを「△」、いずれかの評価で×判定となったものを「×」とし、4段階で評価した。なお、「△」以上が合格レベルである。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
表1および2における絶縁被覆層および内層の種類は、それぞれ以下の樹脂の略称を記載した。
【0132】
絶縁被覆層
・PEEK:ポリエーテルエーテルケトン樹脂(ビクトレックスジャパン社製、商品名:PEEK450G、23℃での曲げ弾性率:4,200MPa)
・変性PEEK:変性ポリエーテルエーテルケトン樹脂(ソルベイジャパン(株)社製、商品名:アバスパイアAV−650、23℃での曲げ弾性率:3,700MPa)
・PEKK:ポリエーテルケトンケトン樹脂(サイテックインダストリーズ社製、23℃での曲げ弾性率:4,500MPa)
・PEK:ポリエーテルケトン樹脂(ビクトレックスジャパン社製、商品名:HT-G22、23℃での曲げ弾性率:4,200MPa)
・TPI:熱可塑性ポリイミド樹脂(三井化学(株)社製、商品名:オーラムPL450C、23℃での曲げ弾性率:2,900MPa)
・芳香族PA:芳香族ポリアミド樹脂(ソルベイソルベイスペシャルティポリマーズ社製、商品名:アモデル AT−1001L、23℃での曲げ弾性率:2,210MPa)
・PPS:ポリフェニレンスルフィド樹脂(DIC(株)社製、商品名:PPS FZ−2100、23℃での曲げ弾性率:3,800MPa)
・PET:ポリエチレンテレフタレート樹脂(帝人社製、商品名:TR8550N、23℃での曲げ弾性率:2,500MPa)
・PAI:ポリアミドイミド樹脂(日立化成(株)社製、商品名:HI406、23℃での曲げ弾性率:4,900MPa)
【0133】
内層
・PAI:ポリアミドイミド樹脂ワニス(日立化成(株)社製、商品名:HI406)
・PI:ポリイミド樹脂ワニス(ユニチカ(株)社製、商品名:Uイミド)
・PEI:ポリエーテルイミド樹脂ワニス(SABIC社製、商品名:ウルテム1000)
・PEsI:ポリエステルイミド樹脂ワニス(東特塗料(株)社製、商品名:ネオヒート8600A)
【0134】
表1および2から明らかなように、特定の熱可塑性樹脂からなる絶縁被覆層を有し、絶縁被覆層の長辺および短辺の厚さとコーナー部の厚さが式(1)の関係にあり、絶縁被覆層の長辺および短辺が特定の厚さを有し、絶縁電線断面積に対する導体断面積の比が式(2)の関係にある実施例1〜9の絶縁電線は、占積率、エッジワイズおよびフラットワイズ曲げ加工性ならびに伸張後の絶縁破壊強度のいずれにも優れていた。
これに対して、絶縁被覆層の長辺および短辺の厚さとコーナー部の厚さが式(1)の関係を満たさない比較例1および3は、伸張後の絶縁破壊強度を満たさず、絶縁電線断面積に対する導体断面積の比が式(2)の関係を満たさない比較例4は占積率が不十分であり、絶縁被覆層の長辺および短辺の厚さが厚い比較例7は、エッジワイズおよびフラットワイズ曲げ加工性を満たさなかった。熱硬化性樹脂からなる絶縁被覆層を有し、式(1)の関係を満たさない比較例5は、フラットワイズ曲げ加工性および伸張後の絶縁破壊強度を満たさなかった。
また、式(1)の関係を満たさず、絶縁被覆層の長辺の厚さが厚い比較例5は、フラットワイズ曲げ加工性および伸張後の絶縁破壊強度を満たなかった。絶縁被覆層の長辺および短辺の厚さが厚く、式(2)の関係を満たさない比較例6は、占積率、エッジワイズおよびフラットワイズ曲げ加工性を満たさなかった。また、式(1)および(2)の関係を満たさず、絶縁被覆層の長辺および短辺の厚さが厚い比較例2は、占積率、エッジワイズおよびフラットワイズ曲げ加工性ならびに伸張後の絶縁破壊強度のいずれも満たさなかった。
【0135】
以上より、本発明の絶縁電線を用いたモーターコイルおよび電子もしくは電気機器は、巻線加工時の曲げ加工による絶縁電線の絶縁被覆層の割れを低減することができ、伸張後も導体のコーナー部の絶縁破壊強度が維持され、占積率にも優れるため、小型化および高性能化が可能になる。
【符号の説明】
【0136】
1、2 絶縁電線
11 導体
12 絶縁被覆層
13 内層
Rc 導体断面のコーナー部における曲率半径
c1 導体断面の長辺の長さ
c2 導体断面の短辺の長さ
t1 長辺の辺部に被覆された絶縁被覆層の厚さ
t2 短辺の辺部に被覆された絶縁被覆層の厚さ
t3 絶縁被覆層のコーナー部の厚さ
【要約】
【課題】高占積率を有し、かつエッジワイズ及びフラットワイズ曲げ加工性並びに伸張後の絶縁破壊強度にも優れる絶縁電線、それを用いたコイル及び電子・電気機器を提供する。
【解決手段】断面形状が矩形であって、曲率半径Rcのコーナー部を有する導体の外周上に、熱可塑性樹脂からなる絶縁被覆層を有する絶縁電線であって、
前記導体断面の長辺の辺部に被覆された前記絶縁被覆層の厚さt1(μm)および短辺の辺部に被覆された前記絶縁被覆層の厚さt2(μm)ならびに前記絶縁被覆層のコーナー部の厚さt3(μm)が下記式(1)の関係にあり、
式(1) t3/{(t1+t2)/2}≧1.2
前記t1(μm)及びt2(μm)が各々独立に20μm以上50μm以下であり、
かつ、前記絶縁電線断面積Sw(mm)に対する前記導体断面積Sc(mm)の比が下記式(2)の関係にあることを特徴とする絶縁電線、それを用いたコイル及び電子・電気機器。
式(2) 1.0>Sc/Sw≧0.8
【選択図】図1
図1
図2
図3