【実施例】
【0024】
次に、実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0025】
以下において「%」とは、特別な記載がない場合、質量%を意味する。
油脂に含まれるトリアシルグリセロールの組成の分析は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)準拠)及び銀イオンカラム−HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105−107(1995)準拠)を用いて行った。
油脂に含まれるTAGの有する構成脂肪酸の分析は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f−96準拠)を用いて行った。
【0026】
<原料油脂>
〔MCT1〕:構成脂肪酸として、カプリン酸(n−デカン酸)のみを有するトリアシルグリセロールであるMCT(トリカプリン)(日清オイリオグループ株式会社社内製)をMCT1とした。
〔MCT2〕:構成脂肪酸として、カプリル酸(n−オクタン酸)またはカプリン酸(n−デカン酸)のみを有するMCTであり、かつ、構成脂肪酸としての上記n−オクタン酸とn−デカン酸との質量比が75:25であるMCT(日清オイリオグループ株式会社社内製)をMCT2とした。
〔SOS油脂1〕:ココアバター(大東カカオ株式会社製、SOS含有量85.3%、StOSt含有量28.6%、SOSの有する構成脂肪酸Sの全量のうち、95質量%以上のSがPあるいはSt)を、SOS油脂1として用いた。
〔SOS油脂2〕:ハイオレイックヒマワリ油とステアリン酸エチルエステルとの間で、1、3位位置特異性リパーゼによりエステル交換を行なった。これにより、トリアシルグリセロールの1位又は3位にステアリン酸が結合するように、反応を実施した。このエステル交換油を分別により、SOS型トリアシルグリセロールの濃度を高めた油脂(日清オイリオグループ株式会社社内製、SOS含有量84.8%、StOSt含有量71.2%、SOSの有する構成脂肪酸Sの全量のうち、95質量%以上のSがPあるいはSt)を、SOS油脂2として用いた。
【0027】
<チョコレートの製造>
表1および2の配合に従って配合された原材料を用いて、実施例1〜4、比較例1〜2のチョコレートを、製造した。すなわち、常法に従って、混合、微粒化(リファイニング)、精練(コンチング)、の各工程を経られた融液状のチョコレートをテンパリング処理(シーディング処理)した。処理後の液状のチョコレートを、成形型を用いて、冷却固化した。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
<チョコレートの評価>
上記の方法により製造した、実施例1〜4および比較例1〜2のチョコレートの型抜け、スナップ性、および口どけについて、以下の評価基準に従って評価した。評価結果を表1、2に示した。
【0031】
<チョコレートの評価方法>
(1)型抜けの評価方法
120gのチョコレートを型に流し込み、10℃で冷却固化後の型離れを、以下の基準に従って評価した。
◎:非常に良好 (ほぼ全て剥離)
○:良好 (僅かに付着部分あり)
▲:一部剥がれない部分有り
×:剥離しない
(2)スナップ性の評価方法
20℃で1週間エージングした後の試料を、以下の基準に従って、5名のパネラーにより、総合的に評価した。
◎:油脂がココアバターのみのチョコレートと同等のスナップ性を有する
○:油脂がココアバターのみのチョコレートに比べ、ややスナップ性が弱い
▲:油脂がココアバターのみのチョコレートに比べ、スナップ性が弱い
×:スナップ性がほとんどない
(3)口どけの評価方法
以下の基準に従って、5名のパネラーにより、総合的に評価した。
◎:好ましいスナップ性と、冷感を伴ったシャープな口どけとを有するため、非常に良好である
○:スナップ性と、冷感を伴ったシャープな口どけとを有するため、良好である。
△:シャープな口どけを有する
▲:ふつうの口どけである
×:口どけが悪い
【0032】
<チョコレート中の油脂の結晶化挙動>
MCT1の結晶化挙動を確認した。MCT1を60℃程度まで加熱して完全に融解した。数グラムの完全に融解したMCT1を、アルミ箔カップに充填した。このカップを8℃の冷風が循環する恒温インキュベーター中で冷却することにより、カップ内のMCT1を固化させた。その後、直ちに、20℃に維持したX線回折装置((株)リガク、試料水平型X線回折装置 Ultima IV)を用いて、固化したMCT1を試料として、低角〜高角領域のX線回折測定を行った。その結果、低角領域では、27Åに大きな長面間隔(ミラー指数で001面)に対応する回折ピークが生じた。これは、文献値にあるトリカプリンのβ型結晶の長面間隔にほぼ一致している。
【0033】
また、高角領域では、まず、4.6Åに、β型結晶に対応する特徴的な回折ピークが生じた。これは、アシル鎖のジグザグな炭素−炭素結合を含む面が平行に並ぶことにより形成された副格子が、安定な三斜晶系であることを示す。高角領域では、さらに、3.9Åおよび3.8Åに、単純飽和TAGのβ型結晶に共通して認められる2本の回折ピークも生じた。これらのことから、単純急冷することにより、MCT1のβ型結晶を生成することができることを確認した。
【0034】
次にMCT1/ココアバター系のブレンド油脂の結晶化挙動をX線回折装置を用いて測定した。以下、この結果を説明する。テンパー型チョコレートの場合と同様、このブレンド油脂中のココアバター(以下、CBとも表す)のV型結晶を生成させることにより、結晶化した安定なブレンド油脂を得ることができる。そのため、この系の油脂ブレンドが冷却固化する前に、28〜30℃に冷却した該油脂ブレンドに、StOStのβ型シード剤を、そのブレンド油脂に対して、1質量%添加混合した。しかる後、3.5g程度のシード剤含有ブレンド油脂を樹脂製成形型に充填した。次いで、この成形型を、上記8℃の恒温インキュベーター中で冷却することにより、上記ブレンド油脂を固化した。その結果の一例として、以下に、MCT1/CB=26/74の質量比を有するように調製された、MCT1およびCB含有油脂ブレンドの結晶化挙動を説明する。
【0035】
固化した該油脂ブレンドの与えるX線回折パターンのうち、低角領域では、65Å、32Å、そして、27Åに明瞭な回折ピークが生じた。65Åの回折ピークは、CBの結晶の001面に、帰属された。32Åの回折ピークは、CBの結晶の002面に、帰属された。そして、27Åの回折ピークは、MCT1の結晶の001面に、帰属された。一方、高角領域では、4.6Åに、β型結晶に特有の強い回折ピークが生じた。これに加えて、4.0Å、3.9Å、そして、3.8Åに、中間的な強度の回折ピークが生じた。これらの回折ピークは、MCT1のβ型結晶、および、CBのβ型結晶に帰属された。つまり、4.0Åの回折ピークは、CBのV型結晶に由来する。3.9Åおよび3.8Åの回折ピークは、MCT1のβ型結晶に由来する回折ピークと、CBのV型結晶に由来する回折ピークとが、オーバーラップすることにより生じた回折ピークである。
【0036】
この結果は、シード剤を添加および混合された該ブレンド油脂が冷却する間に、CB部分のV型結晶およびMCT1単独のβ型結晶が、同時に生じたことを示している。このことは、この油脂ブレンド系の結晶は、CBに由来するβ2−3型結晶、および、MCT1に由来するβ−2型結晶の、共に安定型である2つの結晶を含む共晶であることを示している。
【0037】
さらに、本発明に係るチョコレートは、以下の第1〜第6のチョコレートであってもよい。
上記第1のチョコレートは、油脂含量が25〜65質量%であるチョコレートであって、該油脂中にトリカプリンを5〜50質量%含有するチョコレートである。
上記第2のチョコレートは、前記油脂中のSOS含有量が40〜85質量%である、上記第1のチョコレートである。ただし、SOSは、2位にオレイン酸、1、3位に炭素数16以上の飽和脂肪酸が結合したトリアシルグリセロールである。
上記第3のチョコレートは、前記油脂中のSOS含有量に占めるStOStの含有量が60質量%以下である、上記第1または2のチョコレートである。ただし、StOSは、1,3−ジステアロイル−2−オレオイルグリセローである。
上記第4のチョコレートは、テンパリング処理された、上記第1〜3のうちのいずれかのチョコレートである。
上記第5のチョコレートは、前記チョコレートの油脂中に、前記トリカプリンの油脂結晶と前記SOSの油脂結晶とが共晶状態で存在する、上記第1〜4のうちのいずれかのチョコレートである。
上記第6のチョコレートは、モールド成型された、上記第1〜5のうちのいずれかのチョコレートである。
さらに、本発明に係るチョコレートの製造方法は、油脂含量が25〜65質量%であり、該油脂中にトリカプリンを5〜50質量%含有するように調製した融液状のチョコレートを、テンパリング処理後、冷却固化する、チョコレートの製造方法であってもよい。