【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は次の
フッ化カルシウムの回収方法である。
(1)
ケイフッ化水素酸およびフッ化水素酸を含有する廃液から炭酸カルシウム充填層により高純度のフッ化カルシウムを回収する方法であって、
ケイフッ化水素酸およびフッ化水素酸を含有する廃液に、
前記廃液のpHが5以下となり、かつ、除去対象となるケイフッ化水素酸との反応当量の0.8〜1.5倍となるように無機金属塩を添加し、難溶性のケイフッ化物塩を生成させて分離する前処理工程と、
前処理液を
炭酸カルシウム充填層に通液して炭酸カルシウムと反応させ、フッ化カルシウムとして回収する回収工程と
を含むことを特徴とする
フッ化カルシウムの回収方法。
(2) 無機金属塩がNa
、Cs、Rb、Ba塩である上記(1
)記載の方法。
【0012】
本発明において、処理の対象となるケイフッ化水素酸含有廃液は、構成成分としてケイフッ化水素酸(H
2SiF
6)およびフッ化水素酸(HF)を含有する廃液である。このケイフッ化水素酸含有廃液には、他のフッ化物、その他の成分を含んでいてもよい。このようなケイフッ化水素酸含有廃液としては、太陽電池等、HF水溶液でSiをウエットエッチングする工程において排出される廃液があげられるが、他の工程から排出される廃液であってもよい。廃液中のケイフッ化水素酸の濃度は0.01〜10.0w/v%、特に0.013〜6.0w/v%、フッ化水素酸の濃度は0.1〜5.0w/v%、特に0.5〜3.0w/v%の廃液が本発明の処理に適している。本発明において、「w/v%」は「g/100mL」を意味する。
【0013】
本発明では、このようなケイフッ化水素酸およびフッ化水素酸を含有する廃液を処理する際、難溶性のケイフッ化物塩を生成させて分離する前処理工程と、フッ化カルシウムを生成させて回収する回収工程との組合せ処理により、高純度のフッ化カルシウムを効率よ
く回収することができる。
【0014】
前処理工程は、ケイフッ化水素酸およびフッ化水素酸を含有する被処理廃液に、無機金属塩を添加し、難溶性のケイフッ化物塩を生成させて分離する工程である。添加する無機金属塩は、ケイフッ化水素酸と反応して難溶性塩を生成する金属塩であればよいが、特に1価または2価の金属の塩が好ましい。このような無機金属塩としては、Na
、Cs、Rb、Ba塩があげられるが、特に酸溶液でも析出物が溶解しないNa塩、Ba塩が好ましい。Ca塩は、添加により析出する塩が酸溶液で溶解しやすいので除かれる。金属の対イオンとなるアニオンは限定されないが、前処理工程および回収工程における析出を妨げないものが好ましく、塩化物
、硝酸塩、炭酸塩または重炭酸塩などがあげられる。
【0015】
無機金属塩の添加は、無機金属塩の粉末または水溶液を被処理廃液に添加する。炭酸塩または重炭酸塩の場合は粉末で添加することができ、この場合炭酸ガスの発生により析出物が剥離するため、濃度を低くすることなく反応が速く進むので好ましい。他の塩の場合は通常水溶液の状態で添加するが、その濃度は特に限定されず、通常は1〜50重量%、好ましくは5〜25重量%程度である。
【0016】
前処理工程におけるケイフッ化水素酸と無機金属塩の反応は次の〔I〕式によるものと推測される。
H
2SiF
6+MxA→MxSiF
6↓+H
2A・・・・〔I〕
(〔I〕式中、MはNa、Baなどのカチオン原子を表し、xはその原子数を表し、原子数が1の場合は省略される。A
はClなどのアニオン原子を表すが、式中では2価の表示となっている。)
【0017】
無機金属塩は前記〔I〕式に示す通り、添加した分だけケイフッ化水素酸と反応し、直ちに難溶性のケイフッ化物塩となって析出するので、除去対象とするケイフッ化水素酸との反応当量に相当する量を添加すればよい。この添加量は正確でなくてもよく、一般的には反応当量を1とした場合、その0.8〜1.5倍、好ましくは0.9〜1.2倍程度とす
る。無機金属塩を過剰に添加すると、廃液に含まれるフッ化水素酸が中和され、NaF、BaF
2等の難溶性の塩が析出する場合があるので、添加後の反応液はpH5以下、好ましくはpH4以下となる添加量とす
る。析出したケイフッ化物塩は易分離性であるため、沈降分離などの一般的な固液分離により、容易に同伴水が少ない状態で分離し、除去することができる。
【0018】
回収工程は、前処理工程で分離した前処理液をカルシウム化合物と反応させ、前処理液に含まれるフッ化水素酸等のフッ化物イオンをフッ化カルシウムとして回収する工程である。ここで反応させるカルシウム化合物としては、カルシウムの塩化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩または重炭酸塩などがあげられる
が、本発明では炭酸カルシウムを用いる。カルシウム化合物を反応させる方法
も、粉末または水溶液を被処理廃液に添加して反応させ、析出するフッ化カルシウムを固液分離して回収することもできるが、炭酸カルシウム充填層に前処理液を通液して反応させ、フッ化カルシウムとして回収する方法が
採用される。廃水によってはフッ化水素酸濃度がフッ化カルシウム回収法に最適となるよう、希釈してからフッ化カルシウム回収設備に移送する場合があるが、このような廃水の場合、ケイフッ化物塩の溶解度を考慮して、無機金属塩によりケイフッ化物塩を析出させて除去した後に希釈するのが好ましい。
【0019】
回収工程
の方法である炭酸カルシウム充填層に前処理液を通液して反応させ、フッ化カルシウムとして回収する方法は、例えば特許第2600569号公報に示されているが、複数の炭酸カルシウム充填層に対して前処理液をシリーズに通液して反応させ、最終段の充填層を出た液を処理液として取出す。そして反応が完結した第1段の充填層からフッ化カルシウムを回収し、新たに炭酸カルシウムを充填して炭酸カルシウム充填層を形成し、これを新たな最終段としてメリーゴーラウンド式に運転する方法である。
【0020】
回収工程におけるフッ化水素酸とカルシウム化合物の反応は次の〔II〕式によるものと推測される。
2HF+CaAx→CaF
2↓+H
2Ax・・・・〔II〕
(〔II〕式中、Axは
一般的にはOH、Cl、CO
3などのアニオン原子を表
し、式中では2価の表示となっている
が、本発明ではAxはCO3である。)
【0021】
炭酸カルシウム充填層に前処理液を通液して反応させ、フッ化カルシウムとして回収する際、前処理液中のフッ化水素酸等のフッ化物イオンは、充填層を形成する炭酸カルシウムの粒子中に浸透して順次反応するため、反応させる量を制御しなくても前処理液中のフッ化水素酸等のフッ化物イオンはすべて反応して回収されることになる。
【0022】
また充填層を形成する炭酸カルシウムは、フッ化物イオンが炭酸カルシウムの粒子中に浸透して順次反応するため、炭酸カルシウム粒子の全体がフッ化カルシウムとなるので、充填層の入口側から順次反応が完結する。反応が完結した第1段の充填層全体の充填物をそのままフッ化カルシウムとして回収することができる。回収したフッ化カルシウムは高純度であるため、ドライエッチング等用の無水フッ化水素酸製造原料として利用される。
【0023】
前処理工程で分離したケイフッ化物塩は、そのまま回収して利用したり、あるいは廃棄物として処分することもできるが、中和分解工程でアルカリと反応させてケイフッ化物塩をシリカとフッ化物塩に分解し、分離したフッ化物塩を前処理工程または回収工程へ送って、フッ化物イオンとして反応させることにより、フッ化カルシウムの回収効率をさらに高くすることができる。分離したフッ化物塩はケイフッ化物が除去されているので回収工程へ送ってもよいが、除去できないシリカやケイフッ化物を含む場合は、前処理工程へ送ってさらに反応させるのが好ましい。
【0024】
中和分解工程においてケイフッ化物Na塩をアルカリ(NaOH)と反応させてシリカとフッ化物塩に分解する反応は次の〔III〕式によるものと推測される。
Na
2SiF
6+4NaOH→6NaF+SiO
2↓+2H
2O・・・〔III〕