特許第5779934号(P5779934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5779934-フッ化カルシウムの回収方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5779934
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】フッ化カルシウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20150827BHJP
   C02F 1/60 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   C02F1/58 M
   C02F1/60
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-68756(P2011-68756)
(22)【出願日】2011年3月25日
(65)【公開番号】特開2012-200687(P2012-200687A)
(43)【公開日】2012年10月22日
【審査請求日】2014年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067839
【弁理士】
【氏名又は名称】柳原 成
(72)【発明者】
【氏名】正岡 融
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 周平
【審査官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−283736(JP,A)
【文献】 特開平05−293475(JP,A)
【文献】 特開平05−170435(JP,A)
【文献】 特開平05−237481(JP,A)
【文献】 特開平11−156355(JP,A)
【文献】 特開2000−072482(JP,A)
【文献】 特開2003−033774(JP,A)
【文献】 特開2005−021855(JP,A)
【文献】 特開2000−218279(JP,A)
【文献】 特開2009−196858(JP,A)
【文献】 特開2010−207797(JP,A)
【文献】 特開2011−131128(JP,A)
【文献】 特開2011−152541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58− 1/64
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイフッ化水素酸およびフッ化水素酸を含有する廃液から炭酸カルシウム充填層により高純度のフッ化カルシウムを回収する方法であって、
ケイフッ化水素酸およびフッ化水素酸を含有する廃液に、前記廃液のpHが5以下となり、かつ、除去対象となるケイフッ化水素酸との反応当量の0.8〜1.5倍となるように無機金属塩を添加し、難溶性のケイフッ化物塩を生成させて分離する前処理工程と、
前処理液を炭酸カルシウム充填層に通液して炭酸カルシウムと反応させ、フッ化カルシウムとして回収する回収工程と
を含むことを特徴とするフッ化カルシウムの回収方法
【請求項2】
無機金属塩がNa、Cs、Rb、Ba塩である請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイフッ化水素酸を含有する廃液からフッ化カルシウムを回収する方法、さらに詳細にはケイフッ化水素酸およびフッ化水素酸を含有する廃液から高純度のフッ化カルシウムを回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体等の工場ではシリコンウエハの酸化膜をフッ化水素酸でウエットエッチングする工程があり、高濃度のフッ化水素酸を含有する廃液が発生する。このような廃液の処理に関しては、環境負荷の低減とリサイクルの観点から、フッ化水素を回収する方法が種々検討されており、特にカルシウム化合物と反応させてフッ化カルシウムとして回収し、無水フッ化水素酸(AHF)等の製造原料とする方法が多く提案されている。このような回収方法では、いかに高純度のフッ化カルシウムを効率よく回収するかに努力が払われているが、ケイフッ化水素酸が含まれる廃液の場合、ケイフッ化水素酸がカルシウム化合物と反応してケイフッ化カルシウムとして析出したり、あるいは分解してケイ酸がゲル状に析出して、回収フッ化カルシウムの純度が低下するので、その対策が重要である。
【0003】
特許文献1(特開平5−237481)には、フッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含有する廃液から高純度のフッ化カルシウムを回収する方法として、廃液中のケイ素濃度を希釈等により低くしてカルシウム化合物と反応させることにより、高純度のフッ化カルシウムを回収することが示されている。しかしこの方法では、廃液中のケイ素濃度を低くする手段として、希釈する方法が示されているが、このような方法では、もともとケイフッ化水素酸を高濃度で含む廃液の処理には適していない。
【0004】
すなわち近年、太陽電池製造におけるシリコンウエットエッチング工程や、シリコンウエハ製造工程におけるガス状フッ化物によるドライエッチング工程などでは、ケイフッ化水素酸およびフッ化水素酸をそれぞれ高濃度で含有する廃液が大量に発生している。このような廃液では、希釈により濃度を調整するようなことは困難である。また希釈により濃度が低くなると、処理容量は増えるので、処理効率は低くなる。
【0005】
特許文献2(特開2009−196858)には、ケイフッ化水素酸およびフッ化水素酸を含有する廃液に、ナトリウム化合物(アルカリ)を混合して中和することにより、ケイフッ化水素酸を分解させて不溶性シリカとフッ化ナトリウム水溶液との混合物が主体のシリカスラリーを生成させ、このシリカスラリーから不溶性シリカを分離し、分離水にカルシウム化合物を添加するとともに、酸を添加してpH2以下に調整して、フッ化カルシウムを析出させて回収する方法が示されている。
【0006】
しかし特許文献2の方法では、次のような問題点がある。
1)シリコンのウエットエッチングにはフッ硝酸系など、強酸を混合した溶液が使用されていて、このような強酸を含む廃水が生じるが、このような廃水をpH7〜10に中和するには、大量のアルカリが必要となる。
2)中和後、フッ化カルシウムとして回収するには廃水のpH2以下に下げる必要があり、大量の酸が必要となる。
3)中和工程、酸添加工程が必要であるため工程が煩雑であり、また設備費やスペースに問題が出る。
4)中和が発生するため冷却設備が必要となる。
【0007】
特許文献3(特開2000−72482)には、フルオロ珪酸およびフッ化水素酸を含
むガラス洗浄廃液に、フッ化物を添加し液中のフルオロ珪酸とフッ化物とを反応させてフルオロ珪酸塩を析出させ、このフルオロ珪酸塩を除去することにより、ガラス洗浄用溶液を再生する方法が示されている。
【0008】
しかし特許文献3の方法は、廃液からフルオロケイ酸を除去して、フッ化水素酸を含むガラス洗浄液として回収する方法であり、フッ化カルシウムとして回収することは示されていない。特許文献3では、回収液のフッ化水素酸純度を高めるために、フッ化物を添加してフッ化水素酸を生成させるので、純度の高い高価なフッ化物を添加する必要がある。またフッ化水素酸の生成によりフッ化水素酸濃度が高くなるので、回収液からフッ化カルシウムを生成させるためには希釈する必要があり、無駄が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−237481号
【特許文献2】特開2009−196858号
【特許文献3】特開2000−72482号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、前記のような従来の問題点を解決するため、安価な材料を用いて、ケイフッ化水素酸含有廃液中のケイフッ化水素酸を容易に除去し、高純度のフッ化カルシウムとして効率よく回収するとともに、フッ化物イオン濃度の低い処理液を得ることができるケイフッ化水素酸含有廃液の処理方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は次のフッ化カルシウムの回収方法である。
(1) ケイフッ化水素酸およびフッ化水素酸を含有する廃液から炭酸カルシウム充填層により高純度のフッ化カルシウムを回収する方法であって、
ケイフッ化水素酸およびフッ化水素酸を含有する廃液に、前記廃液のpHが5以下となり、かつ、除去対象となるケイフッ化水素酸との反応当量の0.8〜1.5倍となるように無機金属塩を添加し、難溶性のケイフッ化物塩を生成させて分離する前処理工程と、
前処理液を炭酸カルシウム充填層に通液して炭酸カルシウムと反応させ、フッ化カルシウムとして回収する回収工程と
を含むことを特徴とするフッ化カルシウムの回収方法
(2) 無機金属塩がNa、Cs、Rb、Ba塩である上記(1)記載の方法。
【0012】
本発明において、処理の対象となるケイフッ化水素酸含有廃液は、構成成分としてケイフッ化水素酸(HSiF)およびフッ化水素酸(HF)を含有する廃液である。このケイフッ化水素酸含有廃液には、他のフッ化物、その他の成分を含んでいてもよい。このようなケイフッ化水素酸含有廃液としては、太陽電池等、HF水溶液でSiをウエットエッチングする工程において排出される廃液があげられるが、他の工程から排出される廃液であってもよい。廃液中のケイフッ化水素酸の濃度は0.01〜10.0w/v%、特に0.013〜6.0w/v%、フッ化水素酸の濃度は0.1〜5.0w/v%、特に0.5〜3.0w/v%の廃液が本発明の処理に適している。本発明において、「w/v%」は「g/100mL」を意味する。
【0013】
本発明では、このようなケイフッ化水素酸およびフッ化水素酸を含有する廃液を処理する際、難溶性のケイフッ化物塩を生成させて分離する前処理工程と、フッ化カルシウムを生成させて回収する回収工程との組合せ処理により、高純度のフッ化カルシウムを効率よ
く回収することができる。
【0014】
前処理工程は、ケイフッ化水素酸およびフッ化水素酸を含有する被処理廃液に、無機金属塩を添加し、難溶性のケイフッ化物塩を生成させて分離する工程である。添加する無機金属塩は、ケイフッ化水素酸と反応して難溶性塩を生成する金属塩であればよいが、特に1価または2価の金属の塩が好ましい。このような無機金属塩としては、Na、Cs、Rb、Ba塩があげられるが、特に酸溶液でも析出物が溶解しないNa塩、Ba塩が好ましい。Ca塩は、添加により析出する塩が酸溶液で溶解しやすいので除かれる。金属の対イオンとなるアニオンは限定されないが、前処理工程および回収工程における析出を妨げないものが好ましく、塩化物、硝酸塩、炭酸塩または重炭酸塩などがあげられる。
【0015】
無機金属塩の添加は、無機金属塩の粉末または水溶液を被処理廃液に添加する。炭酸塩または重炭酸塩の場合は粉末で添加することができ、この場合炭酸ガスの発生により析出物が剥離するため、濃度を低くすることなく反応が速く進むので好ましい。他の塩の場合は通常水溶液の状態で添加するが、その濃度は特に限定されず、通常は1〜50重量%、好ましくは5〜25重量%程度である。
【0016】
前処理工程におけるケイフッ化水素酸と無機金属塩の反応は次の〔I〕式によるものと推測される。
SiF+MxA→MxSiF↓+HA・・・・〔I〕
(〔I〕式中、MはNa、Baなどのカチオン原子を表し、xはその原子数を表し、原子数が1の場合は省略される。AはClなどのアニオン原子を表すが、式中では2価の表示となっている。)
【0017】
無機金属塩は前記〔I〕式に示す通り、添加した分だけケイフッ化水素酸と反応し、直ちに難溶性のケイフッ化物塩となって析出するので、除去対象とするケイフッ化水素酸との反応当量に相当する量を添加すればよい。この添加量は正確でなくてもよく、一般的には反応当量を1とした場合、その0.8〜1.5倍、好ましくは0.9〜1.2倍程度とする。無機金属塩を過剰に添加すると、廃液に含まれるフッ化水素酸が中和され、NaF、BaF等の難溶性の塩が析出する場合があるので、添加後の反応液はpH5以下、好ましくはpH4以下となる添加量とする。析出したケイフッ化物塩は易分離性であるため、沈降分離などの一般的な固液分離により、容易に同伴水が少ない状態で分離し、除去することができる。
【0018】
回収工程は、前処理工程で分離した前処理液をカルシウム化合物と反応させ、前処理液に含まれるフッ化水素酸等のフッ化物イオンをフッ化カルシウムとして回収する工程である。ここで反応させるカルシウム化合物としては、カルシウムの塩化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩または重炭酸塩などがあげられるが、本発明では炭酸カルシウムを用いる。カルシウム化合物を反応させる方法も、粉末または水溶液を被処理廃液に添加して反応させ、析出するフッ化カルシウムを固液分離して回収することもできるが、炭酸カルシウム充填層に前処理液を通液して反応させ、フッ化カルシウムとして回収する方法が採用される。廃水によってはフッ化水素酸濃度がフッ化カルシウム回収法に最適となるよう、希釈してからフッ化カルシウム回収設備に移送する場合があるが、このような廃水の場合、ケイフッ化物塩の溶解度を考慮して、無機金属塩によりケイフッ化物塩を析出させて除去した後に希釈するのが好ましい。
【0019】
回収工程の方法である炭酸カルシウム充填層に前処理液を通液して反応させ、フッ化カルシウムとして回収する方法は、例えば特許第2600569号公報に示されているが、複数の炭酸カルシウム充填層に対して前処理液をシリーズに通液して反応させ、最終段の充填層を出た液を処理液として取出す。そして反応が完結した第1段の充填層からフッ化カルシウムを回収し、新たに炭酸カルシウムを充填して炭酸カルシウム充填層を形成し、これを新たな最終段としてメリーゴーラウンド式に運転する方法である。
【0020】
回収工程におけるフッ化水素酸とカルシウム化合物の反応は次の〔II〕式によるものと推測される。
2HF+CaAx→CaF↓+HAx・・・・〔II〕
(〔II〕式中、Axは一般的にはOH、Cl、COなどのアニオン原子を表、式中では2価の表示となっているが、本発明ではAxはCOである。
【0021】
炭酸カルシウム充填層に前処理液を通液して反応させ、フッ化カルシウムとして回収する際、前処理液中のフッ化水素酸等のフッ化物イオンは、充填層を形成する炭酸カルシウムの粒子中に浸透して順次反応するため、反応させる量を制御しなくても前処理液中のフッ化水素酸等のフッ化物イオンはすべて反応して回収されることになる。
【0022】
また充填層を形成する炭酸カルシウムは、フッ化物イオンが炭酸カルシウムの粒子中に浸透して順次反応するため、炭酸カルシウム粒子の全体がフッ化カルシウムとなるので、充填層の入口側から順次反応が完結する。反応が完結した第1段の充填層全体の充填物をそのままフッ化カルシウムとして回収することができる。回収したフッ化カルシウムは高純度であるため、ドライエッチング等用の無水フッ化水素酸製造原料として利用される。
【0023】
前処理工程で分離したケイフッ化物塩は、そのまま回収して利用したり、あるいは廃棄物として処分することもできるが、中和分解工程でアルカリと反応させてケイフッ化物塩をシリカとフッ化物塩に分解し、分離したフッ化物塩を前処理工程または回収工程へ送って、フッ化物イオンとして反応させることにより、フッ化カルシウムの回収効率をさらに高くすることができる。分離したフッ化物塩はケイフッ化物が除去されているので回収工程へ送ってもよいが、除去できないシリカやケイフッ化物を含む場合は、前処理工程へ送ってさらに反応させるのが好ましい。
【0024】
中和分解工程においてケイフッ化物Na塩をアルカリ(NaOH)と反応させてシリカとフッ化物塩に分解する反応は次の〔III〕式によるものと推測される。
NaSiF+4NaOH→6NaF+SiO↓+2HO・・・〔III〕
【発明の効果】
【0025】
以上の通り本発明によれば、前処理工程でケイフッ化水素酸およびフッ化水素酸を含有する廃液に、廃液のpHが5以下となり、かつ、除去対象となるケイフッ化水素酸との反応当量の0.8〜1.5倍となるように無機金属塩を添加し、難溶性のケイフッ化物塩を生成させて分離した後に、前処理液を炭酸カルシウム充填層に通液して炭酸カルシウムと反応させ、フッ化カルシウムとして回収するようにしたので、安価な材料を用いて、ケイフッ化水素酸含有廃液中のケイフッ化水素酸を容易に除去し、高純度のフッ化カルシウムとして効率よく回収するとともに、フッ化物イオン濃度の低い処理液を得ることができるなどの効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態のケイフッ化水素酸含有廃液の処理方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1において、1は反応槽、2は無機金属塩貯槽、3は固液分離槽、4は回収装置、5は後処理装置である。反応槽1、無機金属塩貯槽2、固液分離槽3は前処理装置を構成する。回収装置4は炭酸カルシウム粒を充填した複数の充填槽4a、4b、4cに上向流でシリーズ通液し、第1段の反応が完結した段階で充填層を入れ替えて最終段に移行するように構成されている。
【0028】
ケイフッ化水素酸およびフッ化水素酸を含有する被処理廃液は、前処理工程としてラインL1から反応槽1に導入し、無機金属塩貯槽2からラインL2を通して無機金属塩を反応槽1に注入して反応させ、反応液をラインL3から固液分離槽3に導入して固液分離する。反応槽1では前記〔I〕式によりケイフッ化物塩が生成するので、これを固液分離槽3で固液分離する。
【0029】
含まれるフッ化水素酸等のフッ化物イオンをカルシウム化合物である炭酸カルシウムと反応させて、前記〔II〕式によりフッ化カルシウムを生成させ、これを回収する。回収装置4は特許第2600569号公報に示されているように、炭酸カルシウム粒を充填した複数の充填槽4a、4b、4cから構成されているので、第1段の充填槽4aから順次上向流でシリーズ通液し、各充填槽4a、4b、4cで順次反応を進行させる。
【0030】
第1段の充填槽4aの反応が完結した段階で、第1段の充填槽4aを切り離し、前処理液を次段の充填槽4b、4cに順次通液して処理を続行する。切り離した前記第1段の充填槽4aで生成したフッ化カルシウムをラインL5から取出して回収し、新たに炭酸カルシウムを充填して炭酸カルシウム充填層を形成する。そしてこの充填層を入れ替えた充填槽4aを充填槽4cの後段に移行させ、これを新たな最終段として接続させてメリーゴーラウンド式に運転する。回収装置4の充填槽4cの流出液はラインL6から後処理装置5に送って、凝集処理等の後処理を行い、処理液をラインL7から系外へ排出する。
【0031】
固液分離槽3で分離したケイフッ化物塩を含む汚泥はラインL8から取出して脱水等の処分をする。脱水ろ液は反応槽1へ返送することができる。またケイフッ化物塩を含む汚泥はラインL8から中和分解槽(図示せず)に導入して処理することもできる。
【0032】
ケイフッ化水素酸と無機金属塩の反応は反応速度が極めて速く、反応後15分以内にケイフッ化物塩を生成し、このケイフッ化物塩は比重が大きく沈降しやすい。このため反応槽1を設けないで固液分離槽3に直接無機金属塩を添加する方法や、反応槽1を設けないで固液分離槽3の手前のラインL3に直接無機金属塩をライン注入する方法でも良い。
【0033】
上記の処理では、純度の高い高価なフッ化物を使用する必要がなく、通常の無機金属塩のような安価な材料を用いることができ、また被処理液を希釈しないでも、ケイフッ化水素酸含有廃液中のケイフッ化水素酸をケイフッ化物塩として容易に除去することができ、これにより高純度のフッ化カルシウムとして効率よく回収するとともに、フッ化物イオン濃度の低い処理液を得ることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例、比較例について説明する。各例中、純度の%はw%である。
【0035】
〔実施例1、2、比較例1〕:
[試験例1];ケイフッ化物塩除去試験
SiFが2.0w/v%、HFが10w/v%、HNOが3.0w/v%含まれる溶液1Lに、以下の無機金属塩を添加した。無機金属塩の添加量は、HSiFに対するモル比で、実施例1がNaClを0.5〜3.0、実施例2がBaCOを0.2〜1.5の比率で水溶液として添加した。添加後、スターラで1時間攪拌し、上澄みのSi濃度をICP発光分析装置で測定した。実施例1、2における無機金属塩の各添加モル比とSi濃度の関係(希釈の影響は補正)を表1に示す。表1に示す通り、無機金属塩添加量の増加に従い、上澄みSi濃度が低下することが確認された。HSiFに対するモル比で、実施例1のNaClは3.0、実施例2のBaCOは1.5で上澄みSi濃度は<100mg/Lとなった。
【0036】
【表1】
【0037】
また比較例1として、48重量%のNaOHをpH7になるまで添加し、上澄みのSi濃度をICP発光分析装置で測定した。比較例1と実施例1、2の上澄Si濃度および無機金属塩使用量の関係(希釈の影響は補正)を、ブランク(無添加)のSi濃度とともに表2に示す。表2に示す通り、比較例1はHSiFだけでなくHFおよびHNOを中和する必要があるため、無機金属塩(NaOH)使用量は実施例1、2に比べ多くなることが分かる。
【0038】
【表2】
【0039】
[試験例2];反応速度試験
表1における実施例2のBaCO添加条件(モル比0.5)で、添加後の反応時間と上澄みSi濃度の関係を求めた。結果を表3に示す。表3より、無機金属塩とHSiFの反応は15分以内で概ね終了することが確認された。
【0040】
【表3】
【0041】
〔実施例3、比較例2〕:
[試験例3];フッ化カルシウム回収試験
SiFが5000mg/L(34.7mmol/L)、HFが10000mg/L(500mmol/L)含まれる溶液に対し、実施例3ではBaCO(分子量197)をHSiFに対するモル比で1.5となるよう粉末で添加し、得た上澄みの溶液50Lを、粒径0.3mm、純度99%以上のCaCO粒子を500g充填した2Lカラムからなる3塔の充填塔に順次上向流でシリーズに通水した。また比較例2では、BaCOを添加せず、同様の試験をした。
【0042】
実施例3および比較例2の通水中、第1段充填塔の入口と第3段充填塔の出口におけるSi濃度(mg/L)、HF濃度(mg/L)およびpHを測定した。また通水後、第1段充填塔から充填物を取出し、乾燥後CaFの純度(%)を測定した。これらの結果を表4に示す。
【0043】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、ケイフッ化水素酸を含有する廃液からフッ化カルシウムを回収する方法、さらにはケイフッ化水素酸およびフッ化水素酸を含有する廃液からケイフッ化物塩を除去し、高純度のフッ化カルシウムを回収する方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1: 反応槽、2: 無機金属塩貯槽、3: 固液分離槽、4: 回収装置、4a、4b、4c: 充填槽、5: 後処理装置。
図1