(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5780223
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】差動信号伝送用ケーブル及び多芯ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 11/06 20060101AFI20150827BHJP
H01B 7/17 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
H01B11/06
H01B7/18 C
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-202633(P2012-202633)
(22)【出願日】2012年9月14日
(65)【公開番号】特開2014-59957(P2014-59957A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2014年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】深作 泉
【審査官】
北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−169251(JP,A)
【文献】
特開2005−142081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/06
H01B 7/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動信号を伝送する一対の中心導体と、
該中心導体の周囲を覆う絶縁体と、
該絶縁体の周囲に縦添え巻きされたシールドテープと、
一方の面に紫外線硬化型粘着剤が塗布され、当該紫外線硬化型粘着剤が塗布された面が内側となるように、前記シールドテープの周囲に螺旋状に巻回された絶縁テープと、
を備えたことを特徴とする差動信号伝送用ケーブル。
【請求項2】
前記紫外線硬化型粘着剤は、紫外線硬化樹脂を含み、紫外線の照射により粘着力が低減する
請求項1記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項3】
複数の差動信号伝送用ケーブルを撚り合わせ、その周囲に保護用のジャケットを設けた多芯ケーブルにおいて、
前記差動信号伝送用ケーブルの少なくとも1つに、請求項1または2記載の差動信号伝送用ケーブルを用いた
ことを特徴とする多芯ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドテープが縦添え巻きされた構造の差動信号伝送用ケーブル及び多芯ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器間における高速電気信号伝送では、差動信号を用いて信号を伝送している。このような差動信号を伝送する差動信号伝送用ケーブルとして、従来より、差動信号を伝送する一対の中心導体の周囲に絶縁体を設け、その絶縁体の周囲に、絶縁体層の一方の面に導体層を設けたシールドテープを巻き付けた構造の差動信号伝送用ケーブルが知られている。
【0003】
このような差動信号伝送用ケーブルにおいて、絶縁体の周囲にシールドテープを螺旋状に巻き付けた場合、絶縁体層と導体層がケーブル長手方向に沿って周期的に配置されることとなるため、シールドテープの巻き付けピッチに起因して共振現象(サックアウト)が発生し、使用できる周波数帯域が制限されてしまうという問題がある。このような問題を避けるため、絶縁体の周囲にシールドテープを縦添え巻きした差動信号伝送用ケーブルが提案されている。
【0004】
シールドテープを縦添え巻きした構造の差動信号伝送用ケーブルでは、シールドテープを絶縁体に密着させて巻き付け、シールドテープの緩みを防止する手段が必要となる。
【0005】
特許文献1では、シールドテープの周囲に、押さえ巻き用の絶縁テープを横巻きした(螺旋状に巻き付けた)構造の差動信号伝送用ケーブルが提案されている。特許文献1では、シールドテープの周囲に粘着面が外側となるように絶縁テープを螺旋状に巻き付け、さらにその外側に、粘着面が内側となるように絶縁テープを螺旋状に、両絶縁テープの巻き方向が互いに反対となるように巻き付けており、2層の絶縁テープの粘着面同士を接着させることで両者を固定して、シールドテープの緩みを防止している。なお、シールドテープには粘着剤は塗布されていない。
【0006】
特許文献2では、押え巻き用の絶縁テープの代わりに紫外線硬化樹脂で被覆し、その直後に紫外線を照射して硬化させシールドテープの緩みを防止する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7790981号明細書
【特許文献2】特開2005−142081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、シールドテープの導体層を接地するためのドレイン線を有さない差動信号伝送用ケーブルにおいては、シールドテープの導体層を接地するために、端末にてシールドテープの導体層を露出させる端末処理を行う必要がある。
【0009】
特許文献2では、シールドテープの外側を紫外線硬化樹脂で被覆しこれを硬化しているため、端末にてシールドテープの導体層を露出させることが困難である。また、特許文献2では、製造時に紫外線硬化樹脂を硬化させる(紫外線を照射する)までの間にシールドテープが緩んでしまう、紫外線硬化樹脂を硬化させるための硬化時間が必要となり量産性が低下してしまう、および、紫外線硬化樹脂を硬化させることにより屈曲特性が悪化してしまう、という問題もある。
【0010】
これに対して、特許文献1では、シールドテープと絶縁テープが直接粘着固定されていないため、シールドテープの導体層を露出させるのが容易である。
【0011】
しかし、特許文献1では、1層目の絶縁テープを巻いた後、2層目の絶縁テープを巻かなければ絶縁テープが固定されないため、製造時に絶縁テープが緩みやすく、その結果、シールドテープが緩んで伝送特性が劣化してしまうおそれがある。このような製造時の絶縁テープの緩みを防止するためには、2層の絶縁テープを1工程で巻く必要があり、製造工程が複雑となり製造コストが高くなってしまう。なお、シールドテープの外側導体層全面に粘着剤等を塗布することで、シールドテープの緩みを防止することも考えられるが、この場合、絶縁テープのみを剥離してシールドテープの導体層を露出させることが困難となり、端末処理および接続作業性が低下するといった問題が生じる。
【0012】
本発明は上記事情に鑑み為されたものであり、製造が容易であり、シールドテープの緩みを防止して伝送特性の劣化を防止でき、かつ、端末にてシールドテープを容易に露出できる差動信号伝送用ケーブル及び多芯ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、差動信号を伝送する一対の中心導体と、該中心導体の周囲を覆う絶縁体と、該絶縁体の周囲に縦添え巻きされたシールドテープと、一方の面に紫外線硬化型粘着剤が塗布され、当該紫外線硬化型粘着剤が塗布された面が内側となるように、前記シールドテープの周囲に螺旋状に巻回された絶縁テープと、を備えた差動信号伝送用ケーブルである。
【0014】
前記紫外線硬化型粘着剤は、紫外線硬化樹脂を含み、紫外線の照射により粘着力が低減してもよい。
【0015】
また、本発明は、複数の差動信号伝送用ケーブルを撚り合わせ、その周囲に保護用のジャケットを設けた多芯ケーブルにおいて、前記差動信号伝送用ケーブルの少なくとも1つに、請求項1記載の差動信号伝送用ケーブルを用いた多芯ケーブルである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、製造が容易であり、シールドテープの緩みを防止して伝送特性の劣化を防止でき、かつ、端末にてシールドテープを容易に露出できる差動信号伝送用ケーブル及び多芯ケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0019】
図1は、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルの斜視図である。
【0020】
図1に示すように、差動信号伝送用ケーブル1は、差動信号を伝送する一対の中心導体2と、中心導体2の周囲を覆う絶縁体3と、絶縁体3の周囲に縦添え巻きされたシールドテープ4と、シールドテープ4の周囲に螺旋状に巻回された押さえ巻き用の絶縁テープ5と、を備えている。
【0021】
本実施の形態では、平行に配置した一対の中心導体2を一括して覆うように絶縁体3を設けてツイナックスコア6を形成し、そのツイナックスコア6の周囲に縦添え巻きでシールドテープ4を設けるようにしている。なお、これに限らず、例えば、中心導体2を絶縁体3で被覆した2本の絶縁電線を平行、あるいは撚り合わせて配置したコアとすることも可能である。
【0022】
本実施の形態では、絶縁体3は、断面視で楕円形状に形成され、その短軸方向における一方の頂部の近傍に、シールドテープ4の幅方向の端部同士を重なり合わせた部分であるオーバーラップ部4aが位置するよう、シールドテープ4が縦添え巻きされている。
【0023】
また、本実施の形態では、シールドテープ4として、PET(ポリエチレンテレフタレート)などからなる絶縁体層と、絶縁体層の一方の面に設けられた導体層とからなるものを用い、導体層が外側となるようにシールドテープ4を絶縁体3の周囲に縦添え巻きした。ただし、これに限らず、シールドテープ4として、導体層のみからなるもの(つまり金属箔)を用いるようにしてもよい。シールドテープ4として導体層のみからなるものを用いることで、絶縁体層の誘電率が内部の電磁界に影響を与えてしまうことがなくなり、伝送特性をより良好にすることができる。
【0024】
シールドテープ4の導体層としては、銅を用いることが望ましい。通常、シールドテープ4の導体層として軽量なアルミニウムが用いられることが多いが、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1はドレイン線を備えておらず、シールドテープ4の導体層に接地用の電線や端子(後述する端末処理端子)等を接続する必要がある。このときの導体層への半田付けを容易とするため、導体層として銅を用いることが望ましい。さらに、導体層に用いる銅としては、伸びや曲げに対する強度が大きい圧延銅箔、あるいは電解銅箔を用いることが望ましい。
【0025】
さて、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1では、絶縁テープ5として、一方の面5aに紫外線硬化型粘着剤が塗布されたものを用い、その紫外線硬化型粘着剤が塗布された面5aが内側となるように、絶縁テープ5をシールドテープ4の周囲に螺旋状に巻回している。絶縁テープ5は、シールドテープ4のオーバーラップ部4aにおいて重なりが上(外側)になっている方から、重なりが下になっている方に向かうように巻き付けられる。
【0026】
本実施の形態では、絶縁テープ5として、PET(ポリエチレンテレフタレート)テープの一方の面に紫外線硬化型粘着剤を塗布したものを用いた。なお、絶縁テープ5のベースとなるテープとしては、紫外線を透過するものを用いる必要がある。
【0027】
紫外線硬化型粘着剤とは、粘着剤中に紫外線硬化樹脂を含むものであり、紫外線を照射すると粘着剤中の紫外線硬化樹脂が硬化して粘着力を失う(あるいは粘着力が低減する)ものである。紫外線硬化型粘着剤としては、例えば、アクリルコポリマーなどの粘着剤に、ウレタンアクリレートオリゴマーなどの紫外線硬化オリゴマーをブレンドしたものが知られている。
【0028】
差動信号伝送用ケーブル1を製造する際には、紫外線硬化型粘着剤に紫外線を照射せずに粘着力を維持した状態で、絶縁テープ5をシールドテープ4の周囲に張力をかけつつ巻き付け、絶縁テープ5をシールドテープ4に直接粘着固定させることで、シールドテープ4の緩みを防止する。
【0029】
本実施の形態で用いる絶縁テープ5は、従来より広く用いられている熱処理により粘着力を生じさせるタイプの絶縁テープとは異なり、特別な処理を行わずとも最初から粘着力があるので、リールに巻いた際の重なり部分で粘着を避けるために、紫外線硬化型粘着剤を塗布した側の面5aに剥離紙が設けられた状態となっている。よって、製造時には、この剥離紙を剥がしながら絶縁テープ5を巻き付けることになる。
【0030】
差動信号伝送用ケーブル1の端末処理を行う際には、まず、絶縁テープ5を除去したい部分に紫外線を照射する。絶縁テープ5に紫外線を照射すると、その紫外線を照射した部分の絶縁テープ5において紫外線硬化型粘着剤が粘着力を失うので、絶縁テープ5をシールドテープ4から容易に剥離させ、シールドテープ4の導体層を露出させることができる。紫外線を照射していない部分の紫外線硬化型粘着剤は粘着力を失わないので、絶縁テープ5を除去した部分から絶縁テープ5が剥がれてしまうことはなく、絶縁テープ5を除去した後もシールドテープ4の緩みを防止できる。
【0031】
紫外線を照射する光源は特に限定するものではなく、紫外線の照射範囲を適宜調整できるものであればどのようなものを用いてもよい。例えば、紫外線レーザを用いて絶縁テープ5に切り込みを形成し、その切り込みの内側(つまり絶縁テープ5を除去する部分)に低出力で紫外線レーザを走査させて紫外線硬化型粘着剤の粘着力を失わせることで、所望の部分の絶縁テープ5を除去することも可能である。
【0032】
本発明の差動信号伝送用ケーブル1を複数本撚り合わせ、その周囲に保護用のジャケットを設けると、本発明の多芯ケーブルが得られる。なお、多芯ケーブルに含まれる全てのケーブルに本発明の差動信号伝送用ケーブル1を用いなければならないというわけではなく、多芯ケーブルに含まれるケーブルの少なくとも1つに差動信号伝送用ケーブル1を用いていれば本発明に含まれる。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1では、絶縁テープ5として、一方の面5aに紫外線硬化型粘着剤が塗布されたものを用い、紫外線硬化型粘着剤が塗布された面5aが内側となるように、シールドテープ4の周囲に絶縁テープ5を螺旋状に巻回している。
【0034】
絶縁テープ5は張力をかけて巻かれるためシールドテープ4と絶縁テープ5は密着しており、かつ、紫外線硬化型粘着剤によりシールドテープ4と絶縁テープ5が直接粘着固定されるため、絶縁テープ5がほつれてシールドテープ4と絶縁体3との密着性が損なわれることがなく、シールドテープ4の緩みを防止して伝送特性の劣化を防止することが可能である。
【0035】
さらに、紫外線硬化型粘着剤は紫外線の照射により粘着力を失うため、紫外線の照射により容易にシールドテープ4から絶縁テープ5を剥離することが可能になり、端末処理時に絶縁テープ5を局所的に除去し、シールドテープ4の導体層を容易に露出させることが可能になる。つまり、差動信号伝送用ケーブル1によれば、接続作業性の向上とシールドテープ4の緩み防止を両立することができる。
【0036】
シールドテープと絶縁テープが直接粘着固定されていない特許文献1では、例えば、シールドテープの導体層を外部の機器等に接続した後にケーブルを引っ張る方向に力が働いた場合などに、シールドテープのみに応力が集中してシールドテープが破断してしまうおそれもあるが、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1では、シールドテープ4と絶縁テープ5が直接粘着固定されているため、絶縁テープ5がシールドテープ4を補強する役割を果たし、シールドテープ4の破断を抑制することが可能になる。
【0037】
さらに、差動信号伝送用ケーブル1では、従来のように2層の絶縁テープを1工程で巻くような複雑な工程が必要なく、製造が容易であり、製造コストも抑制できる。
【0038】
さらにまた、本実施の形態で用いる絶縁テープ5は、熱処理等を行わずとも最初から粘着力があるので、絶縁テープ5の巻きピッチ(周方向の同じ位置まで螺旋状に巻回したときの長手方向の距離)を広くしてもシールドテープ4の緩みを防止することが可能であり、この巻きピッチを大きくすることで、絶縁テープ5を巻回する工程にかかる時間を短縮でき、量産性を向上することが可能になる。差動信号伝送用ケーブル等のケーブルの製造工程では、テープ材を巻回する工程が生産速度を律速することが多く、この工程にかかる時間を短縮できることの効果は大きい。
【0039】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0040】
1 差動信号伝送用ケーブル
2 中心導体
3 絶縁体
4 シールドテープ
5 絶縁テープ