特許第5780234号(P5780234)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5780234
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】SOIウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20150827BHJP
   H01L 27/12 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   H01L27/12 B
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-274110(P2012-274110)
(22)【出願日】2012年12月14日
(65)【公開番号】特開2014-120587(P2014-120587A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2014年11月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】阿賀 浩司
(72)【発明者】
【氏名】横川 功
(72)【発明者】
【氏名】石塚 徹
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−347176(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/063402(WO,A1)
【文献】 特開2008−300435(JP,A)
【文献】 特開2006−270039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体単結晶基板からなるボンドウェーハの表面から水素及び希ガスのうち1種類以上のガスイオンをイオン注入してイオン注入層を形成し、該ボンドウェーハのイオン注入した表面とベースウェーハ表面とを酸化膜を介して貼り合わせた後、熱処理炉で剥離熱処理を行い前記イオン注入層でボンドウェーハを剥離することによりSOIウェーハを作製するSOIウェーハの製造方法において、
前記剥離熱処理後、3.0℃/minよりも遅い降温速度で250℃以下まで降温してから剥離後のSOIウェーハ及びボンドウェーハを熱処理炉から取り出すことを特徴とするSOIウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記イオン注入層を形成するボンドウェーハとして、表面酸化膜よりも厚い背面酸化膜を有する半導体単結晶基板を用意し、該表面酸化膜を通して前記イオン注入を行うことを特徴とする請求項1に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記表面酸化膜よりも厚い背面酸化膜を有する半導体単結晶基板として、
半導体単結晶基板の全面に熱酸化膜を形成した後、表面側の熱酸化膜を除去することによって背面側のみに熱酸化膜を有する半導体単結晶基板を作製し、該背面側のみに熱酸化膜を有する半導体単結晶基板を熱酸化することによって作製したウェーハを用いることを特徴とする請求項2に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記背面側のみに熱酸化膜を有する半導体単結晶基板を熱酸化する前に、熱酸化膜が除去された表面側を研磨することを特徴とする請求項3に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記表面酸化膜よりも厚い背面酸化膜を有する半導体単結晶基板として、イオン注入層で剥離したボンドウェーハを再生加工して作製したウェーハを用いることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか一項に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記再生加工を、前記剥離後のボンドウェーハの背面酸化膜を除去せずに行うことを特徴とする請求項5に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記イオン注入を水素イオンとヘリウムイオンの共注入によって行い、該共注入においてヘリウムイオンを水素イオンよりも深く注入することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のSOIウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入剥離法によりSOIウェーハを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン注入剥離法によるSOIウェーハの作製において、SOI層(Silicon On Insulator層、広義にはSemiconductor On Insulator)を形成するボンドウェーハとベースウェーハとを酸化膜を介して貼り合わせた後、イオン注入層で剥離を行うための熱処理(剥離熱処理)を行って剥離すると、剥離直後のSOIウェーハのSOI層表面(剥離面)とボンドウェーハの表面(剥離面)は互いに向き合った状態で剥離熱処理が行われた熱処理炉外へ取り出される(特許文献1等参照)。
【0003】
ボンドウェーハに酸化膜を形成し、ベースウェーハと貼り合わせてSOIウェーハを作製した場合、SOIウェーハはボンドウェーハ表面から剥離熱処理により転写された埋め込み酸化膜によって剥離面側が凸形状に反る一方、剥離後のボンドウェーハは表面酸化膜が無くなり、背面にのみ酸化膜が残ることでSOIウェーハとは逆に剥離面側が凹形状に反る。反りの大きさは転写した酸化膜の厚さよって変わるが、SOIウェーハと剥離後のボンドウェーハでは同程度となる為、ウェーハ間の接触は発生しにくい。
但し、実際にはウェーハ加工時の反り形状の影響もある為、例えば、ボンドウェーハ加工時のウェーハ形状が凸形状の場合、剥離後のボンドウェーハは、背面酸化膜の影響による凹形状からウェーハ加工時の凸形状を差し引きした形状となる。
この場合、SOIウェーハと剥離後のボンドウェーハの反り形状にミスマッチが生じ、SOIウェーハの凸形状の反りの大きさに比べ、剥離後のボンドウェーハの凹形状の反りの大きさが小さくなる。
【0004】
また、剥離を生じさせるイオン注入層を形成するためのイオン注入を、例えば水素イオンとヘリウムイオンの2種類を注入することによって行う、いわゆる共注入により行うイオン注入剥離法においては、水素イオンの注入層で剥離が起こる為、ヘリウムイオンの注入層を水素イオンの注入層よりも深くすると、水素イオンの注入層はSOI側と剥離後のボンドウェーハに分割されるがヘリウムイオンの注入層は剥離後もボンドウェーハに残る。この場合、ヘリウムイオン注入層の存在によって剥離後のボンドウェーハには凸側に反る力が働き、SOIウェーハとの反り形状のミスマッチが生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−283582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、前述したようなイオン注入剥離法を用いたSOIウェーハの製造方法について鋭意研究を行った。その結果、図4に示すように、製造されたSOIウェーハにおいて、SOIウェーハ中央部にSOI膜厚が薄い部分が発生したSOI膜厚異常や、その薄膜部でスクラッチが発生していることがわかった。
【0007】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、スクラッチおよびSOI膜厚異常が抑制されたSOIウェーハを製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、半導体単結晶基板からなるボンドウェーハの表面から水素及び希ガスのうち1種類以上のガスイオンをイオン注入してイオン注入層を形成し、該ボンドウェーハのイオン注入した表面とベースウェーハ表面とを酸化膜を介して貼り合わせた後、熱処理炉で剥離熱処理を行い前記イオン注入層でボンドウェーハを剥離することによりSOIウェーハを作製するSOIウェーハの製造方法において、前記剥離熱処理後、3.0℃/minよりも遅い降温速度で250℃以下まで降温してから剥離後のSOIウェーハ及びボンドウェーハを熱処理炉から取り出すことを特徴とするSOIウェーハの製造方法を提供する。
【0009】
本発明では、まず、熱処理炉からの取り出し温度を250℃以下とするので、取り出し時における酸化膜の形成を抑制できる。ミスマッチによってSOIウェーハの凸形状先端部で剥離後のボンドウェーハと接触していたとしても、そもそも取り出し時における酸化膜の形成がウェーハ全面において抑制される為、従来のようなSOIウェーハの凸形状先端部での膜厚異常の発生を防止できる。
【0010】
また、本発明では、降温速度を3.0℃/分より遅くするので、降温中のウェーハ面内の温度分布を小さく抑えることができ、その為、温度分布に伴うウェーハの変形を少なくすることができる。したがってSOIウェーハのスクラッチの発生を抑制することができる。
このように、本発明によってスクラッチおよび膜厚分布異常を抑制したSOIウェーハを得ることができる。
【0011】
このとき、前記イオン注入層を形成するボンドウェーハとして、表面酸化膜よりも厚い背面酸化膜を有する半導体単結晶基板を用意し、該表面酸化膜を通して前記イオン注入を行うことができる。
【0012】
このようにすれば、酸化膜の膜厚差によって剥離後のボンドウェーハが凹形状になるため、SOIウェーハと剥離後のボンドウェーハとの反り形状のミスマッチを防止し、接触によるスクラッチやSOI膜厚異常の発生をより一層抑制することができる。
【0013】
また、前記表面酸化膜よりも厚い背面酸化膜を有する半導体単結晶基板として、半導体単結晶基板の全面に熱酸化膜を形成した後、表面側の熱酸化膜を除去することによって背面側のみに熱酸化膜を有する半導体単結晶基板を作製し、該背面側のみに熱酸化膜を有する半導体単結晶基板を熱酸化することによって作製したウェーハを用いることができる。
【0014】
このようにすれば、貼り合わせ面である表面側の酸化膜と背面側の酸化膜との間の膜厚差を適宜設定することができる。
【0015】
また、前記背面側のみに熱酸化膜を有する半導体単結晶基板を熱酸化する前に、熱酸化膜が除去された表面側を研磨することができる。
【0016】
このようにすれば、貼り合わせの際の不具合を抑制することができる。
【0017】
また、前記表面酸化膜よりも厚い背面酸化膜を有する半導体単結晶基板として、イオン注入層で剥離したボンドウェーハを再生加工して作製したウェーハを用いることができる。
【0018】
このようにすれば、経済的にSOIウェーハを製造することができる。
【0019】
このとき、前記再生加工を、前記剥離後のボンドウェーハの背面酸化膜を除去せずに行うことができる。
【0020】
このようにすれば、ボンドウェーハの酸化膜の膜厚差の形成を容易に行うことができる。
【0021】
また、前記イオン注入を水素イオンとヘリウムイオンの共注入によって行い、該共注入においてヘリウムイオンを水素イオンよりも深く注入することができる。
【0022】
このようにヘリウムイオンを水素イオンよりも深く注入した場合であっても、本発明であればヘリウムイオン注入層の存在による剥離後のボンドウェーハへの反りの影響を抑制して、SOIウェーハと剥離後のボンドウェーハとの反り形状のミスマッチを防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、イオン注入剥離法での剥離熱処理に関し、剥離したSOIウェーハとボンドウェーハとのミスマッチによる接触を防止することができる。また、ミスマッチ時の熱処理炉からの取り出しの際の酸化膜の形成ムラを防止することができる。それによって、SOIウェーハの凸形状先端部でのスクラッチやSOI膜厚異常の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明のSOIウェーハの製造方法の一例を示すフロー図である。
図2】本発明のSOIウェーハの製造方法の他の一例を示すフロー図である。
図3】実施例1、比較例3−5のSOI膜厚分布の測定結果を示す図である。
図4】SOIウェーハの中央部に発生したSOI膜厚異常とスクラッチを示した測定図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
ここで、本発明者らが本発明を完成させた経緯について詳述する。
本発明者らは、イオン注入剥離法によるSOIウェーハの作製の剥離熱処理において、剥離後のボンドウェーハ(剥がしボンドウェーハ)の凹形状の大きさがSOIの凸形状の大きさよりも小さい時、剥がしボンドウェーハとSOIウェーハの反り形状のミスマッチが生じ、剥離熱処理工程中に、SOI層表面の凸形状の先端部で剥がしボンドウェーハと接触し、SOIウェーハ中央部などにスクラッチやSOI膜厚異常が発生する場合があることを見出した。
【0026】
ボンドウェーハに熱酸化膜を作製して貼り合せる場合、SOIウェーハは埋め込み酸化膜の厚さに比例して剥離面側が凸形状に反る。一方、剥がしボンドウェーハは、表面の酸化膜が剥離により無くなることで背面の酸化膜が作用し、剥離面側が凹形状に反る。
前述したように、通常はSOIウェーハの凸形状の大きさと剥がしボンドウェーハの凹形状の大きさは同程度になり、SOIウェーハの凸の先端部が剥がしボンドウェーハに接触しにくい。
しかしながら、ウェーハ加工時の反り形状の影響等もあり、上記のようなミスマッチが生じる場合がある。
【0027】
本発明者らは、まず膜厚異常が発生するメカニズムを調査した。
その結果、SOI層表面の凸形状先端部の剥がしボンドウェーハとの接触部では、接触しない部分と比べ、酸化膜の形成が抑制されることが分かった。この場合、酸化膜の形成厚さが薄くなり、剥離後のRCA洗浄のSC1洗浄(NHOHとHの混合水溶液による洗浄)において接触した部分から先にSiのエッチングが開始されてしまう。その為、洗浄後では凸形状先端部のSOI膜厚が薄くなる事を突き止めた。
【0028】
そして剥離後のSOI層表面に形成される酸化膜の厚さの不均一性を改善する方法として、熱処理炉での剥離熱処理後、炉外へ取り出す温度を250℃以下とする事で、SOIウェーハ表面の酸化膜の形成を抑制する事を考案した。250℃より高い温度で炉外へ取り出すと、空気中に含まれる酸素により、SOIウェーハ表面に酸化膜が形成されてしまう。その為、ウェーハ接触部と非接触部の酸化膜厚さに不均一性が生じてしまう。
【0029】
そこで、取り出し温度を250℃以下にする事で、そもそも取り出し時の表面酸化膜の形成を抑制することができ、ウェーハ面内の酸化膜厚分布を最小化することができる。したがって、次に行うSC1洗浄でのSiエッチングが面内で均一に行われ、従来のような膜厚異常が発生するのを抑制することができる。
【0030】
また、スクラッチについては、剥離熱処理(例えば400〜600℃)中でSOI層の剥離が生じた後、250℃以下の取り出し温度までの降温速度を3.0℃/minよりも遅くする事で、降温中のウェーハ面内の温度分布を最小化し、ウェーハの変形によるSOIウェーハと剥がしボンドウェーハのこすれを抑制することができる。3.0℃/min以上の降温速度では、降温中の面内の温度分布が大きくなり熱膨張の違いによりウェーハが変形する為にスクラッチが発生し易くなる。
以上のことを本発明者らは見出し、本発明を完成させた。
【0031】
以下、本発明のSOIウェーハの製造方法について詳述する。
(第一の実施態様)
図1に、本発明のSOIウェーハの製造方法の一例を示す。
まず、ボンドウェーハ1として半導体単結晶基板2を用意し、酸化膜3を形成する(図1(A))。
ボンドウェーハとして用いる半導体単結晶基板としては、シリコン単結晶ウェーハを用いることが好ましいが、それ以外にもゲルマニウム単結晶ウェーハ、ゲルマニウムエピタキシャルウェーハ、SiGeエピタキシャルウェーハ、歪シリコンウェーハ、SiC単結晶ウェーハを用いることもできる。ここではシリコン単結晶ウェーハを用いた場合について説明する。
また、酸化膜3の形成方法は特に限定されず、例えば熱酸化によって形成することができる。
【0032】
次に、酸化膜3を形成した半導体単結晶基板1の貼り合わせ面側(表面側)にイオン注入してイオン注入層を形成する(図1(B))。このようなイオン注入層としては、水素および希ガスのうち1種類以上のガスイオンをイオン注入して形成するものを挙げることができる。ここでは水素イオンを注入する場合(水素イオン注入層4)を例に挙げて説明する。
【0033】
次に、例えば20〜30℃程度の室温において、ボンドウェーハ1のイオン注入した表面とベースウェーハ5の表面を酸化膜3を介して貼り合わせ、貼り合わせウェーハ6を形成する(図1(C)、(D))。この場合、貼り合わせの前に、ボンドウェーハとベースウェーハの少なくとも一方のウェーハの貼り合わせ面にプラズマ処理を行うことによって、室温での貼り合わせ強度を向上させることもできる。
尚、ベースウェーハ5としては、例えばシリコン単結晶ウェーハ、又は、表面に絶縁膜を形成したシリコン単結晶ウェーハなどを用いることができる。
【0034】
そして、この貼り合わせウェーハ6を熱処理炉内に挿入して昇温し、所定温度にて剥離熱処理を施す。剥離熱処理の温度としては、例えば400℃以上、好ましくは400〜600℃とすることができる。このような温度範囲であれば、適切に貼り合わせウェーハ6を水素イオン注入層4で剥離を生じさせることができ、剥がしボンドウェーハ1’と、SOI層7を有するSOIウェーハ8を得ることができる(図1(E))。
なお、使用する熱処理炉は例えばバッチ式のものを用いることができる。剥離熱処理を適切にウェーハに施すことができ、かつ、後述するような降温速度で降温できるものであれば良い。
【0035】
上記のように剥離熱処理を行った後、熱処理炉内の温度を3.0℃/minよりも遅い速度で降温する。そして250℃以下まで降温してからSOIウェーハ8および剥がしボンドウェーハ1’を取り出す。
このように3.0℃/minよりも遅い速度で降温することによって、降温中の各々のウェーハの面内温度分布を小さくして、ウェーハの変形によるSOIウェーハ8と剥がしボンドウェーハ1’のこすれを抑制することができ、スクラッチが発生するのを防止することができる。
また、降温速度は2.5℃/min以下がより好ましく、下限値は特に限定されないが、剥離熱処理工程を効率的に行うために、1.0℃/min以上とすることが好ましい。
【0036】
また、取り出し温度を250℃以下にすることによって、取り出し時の表面酸化膜の形成を抑制することができる。したがって、SOIウェーハ8と剥がしボンドウェーハ1’のミスマッチが生じていたとしても、従来のようにSOIウェーハの凸形状先端部において他の部分よりも酸化膜が薄く形成されてしまうこともなく、面内の酸化膜厚分布を最小化することができる。したがって、酸化膜厚の形成ムラを抑制することができ、後の工程のSC1洗浄でのSiエッチングは面内で均一に行われ、従来のようなSOI層の膜厚異常が発生するのを防止することができる。
このようにしてスクラッチが抑制され、しかもSOI膜厚異常の発生が抑制されたSOIウェーハ8を得ることができる。
【0037】
(第二の実施形態)
前述の第一の実施形態ではボンドウェーハとして、半導体単結晶基板の全面に単に熱酸化膜を施した場合について説明した。
しかし本発明は、この他、ボンドウェーハとして、表面酸化膜(貼り合わせ面側の酸化膜)よりも厚い背面酸化膜を有する半導体単結晶基板を用いることもできる。このような場合について図2を参照して説明する。
【0038】
まず、半導体単結晶基板22に背面に酸化膜23’を形成する(図2(A))。このような背面の酸化膜23’としては例えば熱酸化膜が好ましく、その形成方法としては、ボンドウェーハの全面に熱酸化膜を形成した後、ボンドウェーハの貼り合わせ面側の熱酸化膜を除去することによって背面のみに熱酸化膜を有するボンドウェーハを作製する方法が好ましい。
【0039】
この背面の酸化膜23’の形成方法の他の例としては、半導体単結晶基板の全面にほぼ均一な厚さの熱酸化膜を形成した後に、リング状のゴム(オーリング)やPVC等の保護シートを用いて背面の酸化膜を保護した状態で、酸化膜のエッチング液に接触させる方法や、スピンエッチングなどを用いてHF溶液で貼り合わせ面側の熱酸化膜を除去し、背面の酸化膜のみを残す方法を挙げることができる。
【0040】
次に、背面の酸化膜23’を形成した半導体単結晶基板22に、さらに酸化膜を形成する(図2(B))。このような酸化膜としては熱酸化膜が好ましく、その形成方法としては、背面の酸化膜を形成したボンドウェーハの全面を熱酸化する方法が好ましい。これにより、半導体単結晶基板22の貼り合わせ面となる表面側よりも背面側のほうが厚い酸化膜23を有するウェーハが得られる。このような表裏で酸化膜厚さが異なるボンドウェーハ21を作製する。
【0041】
なお、背面の酸化膜の形成や、貼り合わせ面側(表面側)の酸化膜の除去によるボンドウェーハの貼り合わせ面の面粗さの悪化やパーティクルの付着により、貼り合わせの際の不具合が生じる場合には、貼り合わせ面側の酸化膜を除去した後に、CMP等で貼り合わせ面側を研磨する工程を入れ、その後全面の熱酸化を行っても良い(図2の(A)と(B)の間)。
【0042】
上記のようにして、貼り合わせ面となる表面側の酸化膜よりも背面側の酸化膜が厚いボンドウェーハ21であれば、ベースウェーハに貼り合わせる前に予め凹形状を形成し、剥がしボンドウェーハとSOIウェーハとの接触を抑制することができる。また後述のようにヘリウムイオン注入層を形成したとしても、必要以上の反りがボンドウェーハに発生して凸形状となり、ミスマッチが生じるのを抑制することができる。
【0043】
尚、背面の酸化膜を貼り合わせ面の酸化膜よりもどの程度厚く形成するかについては、製造するSOIウェーハの仕様(直径、ベースウェーハ厚さ、BOX層厚さ等)、及び、使用するボンドウェーハの仕様(直径、ウェーハ厚さ等)に基づいて、剥離直後のミスマッチを防止するように(SOIウェーハの凸形状の大きさと剥がしボンドウェーハの凹形状の大きさが同等になるように)、実験や計算によって適宜設定することができる。
【0044】
次に、酸化膜23を形成したボンドウェーハ21の貼り合わせ面側(表面側)にイオン注入してイオン注入層を形成する。
第一の実施態様では水素イオン注入層のみ形成する場合について説明したが、ここでは、水素イオンとヘリウムイオンを両方注入して形成した共注入層を例に挙げて説明する。
このイオン注入として、水素イオンとヘリウムイオンによる共注入を行う場合は、まず、水素イオンを注入して水素イオン注入層24を形成する(図2(C))。次にヘリウムイオンを水素イオン注入層24よりも深い位置に注入してヘリウムイオン注入層24’を形成することが好ましい(図2(D))。このように共注入を行えば、1種類のイオンを単独で注入する時に比べて、注入するイオンの量を減らすことができる。
【0045】
従来のSOIウェーハの製造方法では、水素イオンとヘリウムイオンを共注入すると、ヘリウムイオン注入層の存在により、剥がしボンドウェーハが凸形状となり、SOIウェーハとの反り形状のミスマッチが生じ、スクラッチやSOI膜厚異常が発生していた。
しかし、図2(B)に示すように、背面の酸化膜厚を厚くすることでボンドウェーハの反り形状を貼り合わせ前に予め設定することができるため、ヘリウムイオン注入層24’の存在による影響を最小限に抑制することができる。
【0046】
次に、例えば20〜30℃程度の室温において、ボンドウェーハ21のイオン注入した表面とベースウェーハ25の表面を酸化膜23を介して貼り合わせ、貼り合わせウェーハ26を形成する(図2(E)、(F))。
【0047】
そして、剥離熱処理により、貼り合わせウェーハ26から水素イオン注入層24でボンドウェーハを剥離して剥がしボンドウェーハ21’とすることにより、SOI層27を有するSOIウェーハ28を形成する(図2(G))。剥離熱処理の条件は例えば第一の実施態様と同様に設定することができる。
【0048】
第二の実施態様では、ボンドウェーハとして背面側のほうが表面側よりも厚い酸化膜を有するものを用いたため、剥がしボンドウェーハ21’は、より確実に凹形状に反っており、従来のような剥がしボンドウェーハとSOIウェーハとの形状のミスマッチによる接触を防ぐことができる。
したがって、スクラッチや、Siエッチング後のSOI膜厚異常がより一層抑制されたSOIウェーハをさらに安定して得ることができる。
【0049】
(第三の実施態様)
また、イオン注入剥離法を用いたSOIウェーハの製造方法は、剥がしボンドウェーハを再利用できることが特徴の一つでもある。従って、本発明においても剥がしボンドウェーハ21’等を再生加工して作製したウェーハをボンドウェーハとして用いることができる。このようにすればコスト面で有利である。
【0050】
またこの場合、剥がしボンドウェーハを再生加工する際に、背面の酸化膜を除去しないで再生加工する事で、背面に酸化膜のついたボンドウェーハを作製する。そして、それを熱酸化することによって、貼り合わせ面の酸化膜よりも背面の酸化膜が厚いボンドウェーハを容易に作製することができる。
【0051】
この際、剥がしボンドウェーハの再生加工における貼り合わせ面側の外周未結合部に残る酸化膜の除去については、貼り合わせ面側を直接研磨することで達成されるが、リング状のゴム(オーリング)やPVC等の保護シートを用いて背面の酸化膜を保護した状態で、酸化膜のエッチング液に接触させる方法や、スピンエッチング機を用いて行うこともできる。
【0052】
剥がしボンドウェーハの再生加工の際の背面酸化膜の保護は上記のようにオーリングによりエッチング液やエッチングガスを遮断する処理を行っても良いし、PVC等の保護シートを剥がしボンドウェーハの背面に付けても良いし、ウェーハの回転による遠心力や風圧によりボンドウェーハ背面にエッチング液やエッチングガスが回りこまないようにしても良い。酸化膜のエッチング液としてはHF溶液が望ましい。また、HFのガスによるエッチングでも良い。オーリングの設置位置はボンドウェーハに反りが発生するように外周から数mm程度が望ましいが、許容可能な反りのレベルによっては更に内側で設置しても良い。
【0053】
このように剥がしボンドウェーハを再生して作製した、表面酸化膜よりも背面酸化膜が厚いボンドウェーハに対し、例えば第二の実施態様と同様に図2(C)〜(G)の各工程を行うことによって、スクラッチや、Siエッチング後のSOI膜厚異常がより一層抑制されたSOIウェーハを得ることができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1、比較例1−6)
直径300mmの両面が鏡面研磨されたシリコン単結晶ウェーハからなるボンドウェーハに熱酸化を行って30nmの熱酸化膜を全面に形成し、その熱酸化膜を通して水素のイオン注入を行った。その後、直径300mmのシリコン単結晶ウェーハからなるベースウェーハと貼り合わせて貼り合わせウェーハを作製した。そして、剥離熱処理(500℃、30分、窒素雰囲気)を行い、貼り合わせウェーハからボンドウェーハの一部を剥離しSOIウェーハを製造し、SC1洗浄を施した。
【0055】
なお、降温速度、熱処理炉からの取り出し温度を下記のように設定して行った。
実施例1 降温速度:2.0℃/min、 取り出し温度:250℃
比較例1 降温速度:3.0℃/min、 取り出し温度:250℃
比較例2 降温速度:3.0℃/min、 取り出し温度:225℃
比較例3 降温速度:3.0℃/min、 取り出し温度:500℃
比較例4 降温速度:3.0℃/min、 取り出し温度:360℃
比較例5 降温速度:3.0℃/min、 取り出し温度:295℃
比較例6 降温速度:5.0℃/min、 取り出し温度:250℃
【0056】
これらの実施例1、比較例1−6の各種条件およびスクラッチ発生率、SOI膜厚分布異常発生率について表1に示す。また図3に、実施例1、比較例3−5のSOI膜厚分布の測定結果を示す。
【表1】
【0057】
表1、図3に示すように、本発明の製造方法を実施し、降温速度を3.0℃/minより遅く設定し、かつ、取り出し温度を250℃以下とした実施例1においては、スクラッチ発生率を5%という小さい値に留めることができ、かつ、SOI膜厚分布異常発生率も5%に抑制することができ、スクラッチおよびSOI膜厚異常のない優れたSOIウェーハを歩留り良く製造することができた。
【0058】
一方、本発明とは異なり、従来法のように降温速度が3.0℃/minの比較例1−5は、スクラッチ発生率は、各々、10%、10%、100%、50%、30%であり、実施例1の2〜20倍の値であった。
また降温速度が5.0℃/minの比較例6は、それ以外の条件が同様の実施例1(2.0℃/min)や比較例1(3.0℃/min)と比べてスクラッチ発生率は20%であり、実施例1や比較例1よりもさらに悪かった。
また、本発明と異なり、取り出し温度が250℃より高い比較例3−5では、SOI膜厚分布異常発生率が、各々、100%、100%、50%という高い値だった。
【0059】
(実施例2)
直径300mmの両面が鏡面研磨されたシリコン単結晶ウェーハからなるボンドウェーハに熱酸化を行って150nmの熱酸化膜を全面に形成した。そしてボンドウェーハの背面酸化膜をオーリングで保護した状態でHF水溶液に浸漬して表面酸化膜を除去し、その後、CMP加工により表面の再研磨を行い、再度、熱酸化を行い表面側に30nmの熱酸化膜(埋め込み酸化膜用)を形成した(背面酸化膜は155nmに成長)。表面側の30nmの熱酸化膜を通して水素のイオン注入を行った後、直径300mmのシリコン単結晶ウェーハからなるベースウェーハと貼り合わせた。そして剥離熱処理(500℃、30分、窒素雰囲気)を施してSOIウェーハを製造し、SC1洗浄を施した。
なお、降温速度を2.0℃/分とし、熱処理炉からの取り出し温度を250℃とした。
【0060】
(実施例3)
イオン注入剥離法で剥離したボンドウェーハ(剥がしボンドウェーハであり、背面酸化膜150nm付きのもの)を、背面酸化膜をオーリングで保護した状態でHF水溶液に浸漬して表面酸化膜を除去し、その後、CMP加工により再生加工を行ったウェーハをボンドウェーハとして、熱酸化を行い表面側に30nm熱酸化膜(埋め込み酸化膜用)を形成した(背面酸化膜は155nmに成長)。表面側の30nmの熱酸化膜を通して水素のイオン注入を行った後、直径300mmのシリコン単結晶ウェーハからなるベースウェーハと貼り合わせた。そして剥離熱処理(500℃、30分、窒素雰囲気)を施してSOIウェーハを製造し、SC1洗浄を施した。
なお、降温速度を2.0℃/分とし、熱処理炉からの取り出し温度を250℃とした。
【0061】
(実施例4)
直径300mmの両面が鏡面研磨されたシリコン単結晶ウェーハからなるボンドウェーハに熱酸化を行って150nmの熱酸化膜を全面に形成した。そしてボンドウェーハの背面酸化膜をオーリングで保護した状態でHF水溶液に浸漬して表面酸化膜を除去し、その後、CMP加工により表面の再研磨を行い、再度、熱酸化を行い表面側に30nmの熱酸化膜(埋め込み酸化膜用)を形成した(背面酸化膜は155nmに成長)。30nmの熱酸化膜を通して水素及びヘリウムのイオン注入を行った後、直径300mmのシリコン単結晶ウェーハからなるベースウェーハと貼り合わせた。そして剥離熱処理(500℃、30分、窒素雰囲気)を施してSOIウェーハを製造し、SC1洗浄を施した。
なお、降温速度を2.5℃/分とし、熱処理炉からの取り出し温度を250℃とした。
【0062】
(比較例7)
直径300mmの両面が鏡面研磨されたシリコン単結晶ウェーハからなるボンドウェーハに30nmの熱酸化膜を作製した。そして30nmの熱酸化膜を通して水素及びヘリウムのイオン注入を行った後、直径300mmのシリコン単結晶ウェーハからなるベースウェーハと貼り合わせた。そして剥離熱処理(500℃、30分、窒素雰囲気)を施してSOIウェーハを製造し、SC1洗浄を施した。
なお、降温速度を3.0℃/分とし、熱処理炉からの取り出し温度を350℃とした。
【0063】
実施例2−4、比較例7の各種条件およびスクラッチ発生率、SOI膜厚分布異常発生率について表2に示す。
【表2】
【0064】
表2に示すように、本願発明のようにボンドウェーハとして、表面酸化膜よりも厚い背面酸化膜を有するシリコン単結晶ウェーハを用いた実施例2−4においては、スクラッチ発生率およびSOI膜厚分布異常発生率はいずれも0%であり、優れたSOIウェーハを製造することができた。
また、実施例4ではイオン注入の際に共注入を行ったが、それでもなお、従来品と異なって上記のように優れたSOIウェーハが得られた。
【0065】
一方、比較例7では、降温速度も取り出し温度も本発明と異なり、スクラッチ発生率やSOI膜厚分布異常発生率は、共に高い値(各々、50%、100%)であった。
【0066】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0067】
1、21…ボンドウェーハ、 1’、21’…剥がしボンドウェーハ、
2、22…半導体単結晶基板 3、23…酸化膜、
23’…背面酸化膜、 4、24…水素イオン注入層、
24’…ヘリウムイオン注入層、 5、25…ベースウェーハ、
6、26…貼り合わせウェーハ、 7、27…SOI層、
8、28…SOIウェーハ。
図1
図2
図3
図4