(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための、窒化物系半導体発光素子を例示するものであって、本発明は、窒化物系半導体発光素子を以下のものに特定しない。ただ、特許請求の範囲に示される部材を、実施例の部材に特定するものでは決してない。特に実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0027】
なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施例、実施形態において説明された内容は、他の実施例、実施形態等に利用可能なものもある。さらに、本明細書において、層上等でいう「上」とは、必ずしも上面に接触して形成される場合に限られず、離間して上方に形成される場合も含んでおり、層と層の間に介在層が存在する場合も包含する意味で使用する。
(実施の形態1)
【0028】
図1及び
図2に、本発明の実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子を示す。この発光素子100は、
図2の断面図に示すように、基板1と、この基板1上に積層された半導体構造10とを有する。半導体構造10は、活性領域3を挟んで積層されたn型半導体層2及びp型半導体層4とを含む。つまり発光素子100は、基板1上に、n型半導体層2、活性領域3、p型半導体層4をこの順に積層して構成される。さらに発光素子100は、p型半導体層4の一部を除去して露出されたn型半導体層2にn側電極7nを形成されると共に、p型半導体層4の主面にはp側電極7pを備える。このn側電極7n及びp側電極7pを介して、n型半導体層2及びp型半導体層4にそれぞれ電力が供給されると、活性領域3より光が出射し、半導体構造10の上方に位置するp型半導体層4側を主発光面側として、すなわち
図1の上方から主に光が取り出される。
【0029】
n型窒化物系半導体層2に電気的に接続するn側電極7nは、パッド電極であり、
図1の平面図に示すように、p型窒化物系半導体層4及び活性領域3の一部が除去されて露出されたn型窒化物系半導体層2の表面上に直接形成される。一方、p型窒化物系半導体層4に電気的に接続するp側電極7pは、p型窒化物系半導体層4の表面上のほぼ全面に形成された透光性電極6aと、透光性電極6a上の一部の領域に形成されたパッド電極(p側パッド電極)6bとからなる。また絶縁性の保護膜9が、n側電極7n及びp側電極7pの上面を除いた、半導体構造10の全表面に被覆される。
(基板1)
【0030】
基板1は、窒化物系半導体をエピタキシャル成長させることができる基板材料であればよく、大きさや厚さ等は特に限定されない。このような基板材料としては、C面、R面、A面のいずれかを主面とするサファイアやスピネル(MgA
l2O
4)のような絶縁性基板、また炭化ケイ素(SiC)、シリコン、ZnS、ZnO、Si、GaAs、ダイヤモンド、及び窒化物系半導体と格子接合するニオブ酸リチウム、ガリウム酸ネオジウム等の酸化物基板が挙げられる。
(n型窒化物系半導体層、活性領域3、p型窒化物系半導体層)
【0031】
n型窒化物系半導体層2、活性領域3、及びp型窒化物系半導体層4としては、特に限定されるものではないが、例えばIn
XAl
YGa
1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y<1)等の窒化ガリウム系化合物半導体が好適に用いられる。
(n側電極7n、p側電極7p)
【0032】
n側電極7nはn型窒化物系半導体層2に、p側電極7pはp型窒化物系半導体層4に、それぞれ電気的に接続して外部から電流を供給する。ここで、窒化物系半導体の中でも好適な窒化ガリウム系化合物半導体はp型になり難く、すなわちp型窒化物系半導体層4は比較的抵抗が高い傾向がある。そのため、電極をp型窒化物系半導体層4上の一部の領域のみで接続すると、窒化物系半導体発光素子100に供給される電流はp型窒化物系半導体層4中で広がり難く、発光が面内で不均一になる。したがって、p型窒化物系半導体層4の面内全体に均一に電流が流れるように、p側電極7pはp型窒化物系半導体層4上により広い面積で接続して設ける必要がある。ただし、上面を窒化物系半導体発光素子100の光取り出し面とするため、p側電極7pで光取り出し効率を低下させないように、p側電極7pは、p型窒化物系半導体層4上に直接に、その全面又はそれに近い面積の領域(ほぼ全面)に形成された透光性電極6aを備える。そして、p側電極7pはさらに透光性電極6a上に、ワイヤボンディング等で外部回路に接続するために、ボンディング性の良好なAu等を表面に備えるパッド電極(p側パッド電極)6bを備える。p側パッド電極6bは、光を多く遮らない程度に、ボンディングに必要な平面視形状及び面積であって、透光性電極6aの平面視形状より小さく、内包されるように、すなわち透光性電極6a上の一部の領域に形成される。
【0033】
一方、低抵抗のn型窒化物系半導体層2には、n側電極7nは、接続面積は少なくてよいので、光を透過させないパッド電極(n側パッド電極)のみで構成することができ、n型窒化物系半導体層2上に直接に形成される。また、本実施形態に係る窒化物系半導体発光素子100は、上面側にn
側電極7nを備えるので、n型窒化物系半導体層2上の当該n
側電極7nを接続するための領域における活性領域3及びp型窒化物系半導体層4が除去されており(
図2参照)、すなわちこの領域は発光しない。したがって、このn側電極(n側パッド電極)7nは、発光量を大きく減少させない程度に、p
側電極7pと同様にボンディングに必要な、そしてn型窒化物系半導体層2との電気的接続に必要な平面視形状及び面積に形成される。n
側電極7n及びp
側電極7pの窒化物系半導体発光素子100の平面視におけるそれぞれの位置は、特に限定しないが、パッド電極
7(7n,7p
)自身や外部回路から接続したワイヤで遮られる光量をより抑制できること、ボンディングの作業性等に基づいて設計すればよい。
(透光性電極6a)
【0034】
p側電極7pにおける透光性電極6aは導電性酸化物からなる。透光性電極6aとして金属薄膜を用いることもできるが、導電性酸化物は金属薄膜に比べて透光性に優れるため、窒化物系半導体発光素子100を発光効率の高い発光素子とすることができる。導電性酸化物としては、Zn,In,Sn,Mgからなる群から選択された少なくとも一種を含む酸化物、具体的にはZnO,In
2O
3,SnO
2,ITOが挙げられる。特にITOは可視光(可視領域)において高い光透過性を有し、また導電率の比較的高い材料であることから好適に用いることができる。
(パッド電極)
【0035】
本実施形態に係る窒化物系半導体発光素子100において、n
側電極7nとp
側電極7pとは同じ積層構造であり、適宜まとめてパッド電極7と称する。
図3の拡大断面図に示すように、パッド電極7は、一般的なものと同様に、外部からワイヤを接続されるためのボンディング層73を最上層(最上面)に備える構成である。そして、本実施形態において、パッド電極7は、最下層に第一金属層71a、第二金属層71bを順に積層したオーミック接触層71を備える。これらの金属層は蒸着法、スパッタ法等の公知の方法によって成膜することができ、また連続的に形成して積層することが好ましい。また、パッド電極7(7n,7p)の平面視形状は特に限定するものではなく、リフトオフ法、フォトリソグラフィを用いたエッチング等により、所望の形状(例えば
図1参照)に形成することができる。
【0036】
オーミック接触層71は、第一金属層71aと第二金属層71bとの2層からなる。第一金属層71aは、n
側電極7nにおいてはn型窒化物系半導体層2に、p
側電極7pにおいては透光性電極6aに、それぞれ接触する層である。第一金属層71aはCrを含む。Crは、n型窒化物系半導体層2及び導電性酸化物である透光性電極6aへの密着性がよく、またn型窒化物系半導体層2にオーミック接触可能な膜を形成する。ただ、Crは導電性酸化物を介してのp型窒化物系半導体層4へのオーミック接触性がない。詳しくは、Crは、加熱されるとp型窒化物系半導体層4へのオーミック接触性が失われる。窒化物系半導体発光素子100は、例えば発光装置としてパッケージに実装される工程で、一般的に300℃程度の加熱処理を経るため、このような熱で特性が劣化しないことを要する。しかし、第一金属層71aは、その上に積層される第二金属層71bからの影響により、特に熱で第二金属層71bに含まれるPtが後記するように拡散されることで、p型窒化物系半導体層4へのオーミック接触性が向上する。すなわちパッド電極7において、第一金属層71a及びその上に積層される第二金属層71bの2層で、n側、p側共通のオーミック接触層71を構成する。
【0037】
半導体発光素子の一層の高出力化を図るには、電極構造の反射率を向上させることが重要となる。しかしながら、本発明者らの行った試験によれば、電極構造の反射率を高めようとすると、電極構造と半導体層との密着性が悪くなる傾向が見られることが判明した。また電極構造を構成する金属の種類によっては、電極構造が腐食する等劣化することもあり、長期に渡って安定的に利用できるような信頼性の確保も重要となる。そこで、本発明者らは鋭意研究を続けた結果、電極材料を適切に選択することで、このような高い反射率と密着性とを維持でき、かつ安定性にも優れた電極構造が得られることを見出し、本発明を成すに至った。このような構造を採用した電極構造の例が、
図3に示されている。この例においては、p
側電極7p及びn
側電極7nを共通としている。この図に示すように、電極構造は、半導体層側より、第一金属層71aと、第二金属層71bと、ボンディング層73で構成される。ここではボンディング層73をAu層とした電極積層構造体としている。
(バリア層81)
【0038】
また電極の表面は、金属ワイヤとの接合面を露出させると共に、周囲を絶縁性の保護膜9で被覆している。このような保護膜9にはSiO
2膜が好適に利用できる。一方、SiO
2膜と電極構造体との密着性を向上させるため、SiO
2膜の被覆部分には密着層82としてNi層が設けられる。また、Ni層をAu層上面に直接設けると、Au層にNiが拡散する可能性があるため、バリア層81としてW層が設けられる。このため電極上面の端縁で、保護膜9を設ける部位には、Au層の上面にW層とNi層が被覆され、保護膜9の剥離を防止している。
(第一金属層71a)
【0039】
第一金属層71aは、Crと、Crよりも反射率の高い第一金属材料M
1とを含んでいる。このように第一金属材料M
1を第一金属層71aに含めることで、第一金属層71aがCrのみで構成される場合に比べて、高い反射率を発揮できる。このような第一金属材料M
1としては、ロジウム、ルテニウム、イリジウム等が利用できる。中でも、ロジウムは反射率と密着性の面から、好ましい。特にCrの第一金属層71aに、第一金属材料M
1としてRhを含有させる際には、CrとRhを同時に放電させることで、パッド電極を半導体層に対して良好な密着性を発揮できる。
【0040】
また第一金属層71aは、第一金属材料M
1を70wt%以上含むことが好ましく、さらに好ましくは90wt%以上含んでいる。ここで、層中に金属材料を含んでいるとは、第一金属層71aがCrと第一金属材料M
1が合金化している状態を指すが、必ずしもCrと第一金属層71aとが完全に合金化していることを要しない。すなわち、部分的に第一金属材料が合金化せず、不純物として混入しているような状態も、本明細書においては包含する意味で使用する。
(窒化物系半導体発光素子のパッド電極の製造方法)
【0041】
本発明に係る窒化物系半導体発光素子のパッド電極の製造方法について、前記実施形態に係る窒化物系半導体発光素子の製造も含めて、
図7を参照して一例を説明する。
(窒化物系半導体層の形成:S10)
【0042】
サファイア基板を基板1として、MOVPE反応装置を用いて、基板1上に、n型窒化物系半導体層2、活性領域3、及びp型窒化物系半導体層4を構成するそれぞれの窒化物系半導体を成長させる(
図7のS11、以下同様)。詳しくは、基板1上に、n型窒化物系半導体層2を構成する、第1のバッファ層と、第2のバッファ層と、n側コンタクト層と、第3のバッファ層と、n側多層膜層とを成長させ、このn側多層膜層の上に活性領域3を成長させた後、さらにp型窒化物系半導体層4を構成する、p側多層膜層と、p側コンタクト層とを順に成長させる。窒化物系半導体の各層を成長させた基板1(以下、ウェハという)を装置の処理室内にて窒素雰囲気で、600〜700℃程度のアニールを行って、p型窒化物系半導体層4を低抵抗化する(S12)。
(n側電極用コンタクト領域の形成:S20)
【0043】
n側電極(n側パッド電極)7nを接続するためのコンタクト領域として、n型窒化物系半導体層2の一部を露出させる。アニール後のウェハ上にフォトレジストにて所定の形状のマスクを形成して(S21)、反応性イオンエッチング(RIE)にて、p型窒化物系半導体層4及び活性領域3、さらにn型窒化物系半導体層2のn側多層膜層、第3のバッファ層を除去して、その表面にn側コンタクト層を露出させる(S22)。エッチングの後、レジストを除去する(S23)。なお、コンタクト領域と同時に、窒化物系半導体発光素子100(チップ)の周縁部(スクライブ領域)をエッチングしてもよい(
図2参照)。
(透光性電極6aの形成:S30)
【0044】
ウェハの全面に、透光性電極6aとしてITO膜をスパッタリング装置にて成膜する(S31)。そして、フォトレジストにて、ITO膜上にその下のp型窒化物系半導体層4の平面視形状(
図1参照)に対応した形状のマスクを形成し(S32)、エッチングして(S33)、p型窒化物系半導体層4上に透光性電極6aを形成する。エッチングの後、レジストを除去する(S34)。次に、窒素雰囲気で500℃程度のアニールを行って、透光性電極6a(ITO膜)のp型窒化物系半導体層4とのオーミック接触性、及び前記コンタクト領域の露出させたn型窒化物系半導体層2の、n
側電極7nへのオーミック接触性を、それぞれ向上させる(S35)。
(パッド電極の形成:S40)
【0045】
露出させたn型窒化物系半導体層2上、及び透光性電極6aのそれぞれにおける所定領域を空けたマスクをフォトレジストにて形成し(S41)、このマスクの上から、スパッタリング装置にて、パッド電極
7(7n,7p
)を構成するCrRh,Pt,Au、さらに下地層8を構成するW,Niの計5層をそれぞれ所定の膜厚ずつ連続的に成膜する(S42)。すなわちこの例では
図3において、第一金属材料M
1をRhとし、第二金属材料M
2を無しとしている。第一金属材料M
1及び第二金属材料M
2は、各実施例において適宜変更できる。その後、レジストをその上の金属膜ごと除去する(S43)と、前記の所定領域にn
側電極7n、p
側電極7pが形成され(リフトオフ法)、またその上に、同じ平面視形状でW,Niの2層の膜が積層された状態となる。
(熱処理:S44)
【0046】
窒素雰囲気で、ウェハに熱処理(アニール)を施して、パッド電極7のn型窒化物系半導体層2および透光性電極6aへの密着性を向上させる。CrRh層71a及びPt層71bのそれぞれの厚さにもよるが、熱処理の温度は、Ptを拡散させるために280℃以上とすることが好ましい。一方、温度が高過ぎると、窒化物系半導体層2,3,4が熱で劣化して、n型窒化物系半導体層2及びp型窒化物系半導体層4の方のオーミック接触性が低下し、さらに、窒化物系半導体発光素子100の発光強度が低下する等の虞があるため、熱処理の温度は500℃以下とすることが好ましい。また、処理時間は、温度及びCrRh層71a等の厚さに応じて設定されるが、10〜20分間程度が好ましい。
(保護膜9の形成:S50)
【0047】
ウェハの全面に、保護膜9としてSiO
2膜をスパッタリング装置にて成膜する(S51)。パッド部としてパッド電極
7(7n,7p
)上のW,Niの膜上の所定領域を空けたマスクをフォトレジストにて形成し(S52)、SiO
2膜をエッチングした(S53)後、レジストを除去する(S54)。残ったSiO
2膜(保護膜9)をマスクとしてNi,Wをエッチングして、パッド部にAu層(ボンディング層)73を露出させる(S55)。
【0048】
ウェハをスクライブやダイシング等で分離して、1個の窒化物系半導体発光素子100(チップ)となる。また、チップに分離する前に、ウェハの裏面から基板1を研削(バックグラインド)して所望の厚さとなるまで薄く加工してもよい。
【0049】
以上の工程による本発明に係る窒化物系半導体発光素子のパッド電極の製造方法は、前記の実施形態に係る窒化物系半導体発光素子について、p側、n側のそれぞれにパッド電極を同時に形成することができるため、生産性が向上する。
【0050】
なお、本発明に係る窒化物系半導体発光素子のパッド電極は、p側、n側の一方のパッド電極のみに適用されて、このとき他方のパッド電極は従来公知の構造(例えばn側:Cr/Pt/Au、p側:Rh/W/Au)としてもよい。また、本発明に係る窒化物系半導体発光素子のパッド電極は、前記実施形態(
図1参照)に係る窒化物系半導体発光素子に限らず、例えばn側電極を導電性基板の裏面(下面)側に設けた窒化物系半導体発光素子に適用することもできる(図示せず)。
[実施例]
【0051】
窒化物系半導体発光素子を作製し、パッド電極の構造について本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(窒化物系半導体発光素子の作製)
【0052】
図1及び
図2に示す構造の窒化物系半導体発光素子100を作製した。平面視形状(
図1参照)は、窒化物系半導体発光素子100全体がX(横)420μm×Y(縦)240μm、そのうちp型窒化物系半導体層4の領域(n側電極用コンタクト領域を内包する概形)がX:370μm×Y:190μmであり、n側、p側の各パッド電極
7(7n,7p
)が径90μm(パッド部径80μm)とした。また、パッド電極
7(7n,7p
)の中心位置は、Y方向全幅の中心に揃え、X方向はn
側電極7nがp型窒化物系半導体層4の領域における端から50μm、p
側電極7pが同端(反対側)から60μmであり、両パッド電極
7(7n,7p
)中心間距離が260μmであった。
(窒化物系半導体層の形成)
【0053】
3インチφのサファイア(C面)からなる基板1上に、MOVPE反応装置にて温度及びガス種を切り替えて、バッファ層、n型窒化物系半導体層2、活性領域3、p型窒化物系半導体層4を構成するそれぞれの窒化物系半導体を順次成長させた。窒化物系半導体の各層を成長させた基板1(以下、ウェハという)を、MOVPE反応装置の処理室にて窒素雰囲気として、600℃のアニールを行った。
(n側電極用コンタクト領域の形成)
【0054】
ウェハを処理室から取り出し、p型窒化物系半導体層4上に所定の形状のレジストマスクを形成し、RIE(反応性イオンエッチング)装置で、
図2に示すように、p型窒化物系半導体層4及び活性領域3、さらにn型窒化物系半導体層2のn側コンタクト層が露出するまでエッチングを行い、レジストを除去した。
(透光性電極6aの形成)
【0055】
ウェハをバッファードフッ酸(BHF、フッ酸/フッ化アンモニウム水溶液)に室温で浸漬した後、スパッタリング装置にて膜厚170nmのITOを成膜した。詳しくはIn
2O
3とSnO
2との焼結体からなる酸化物ターゲットを用い、Ar雰囲気で放電を行ってITO膜をウェハ上に形成した。そして、p型窒化物系半導体層4上のほぼ全面にITO膜が残るように、レジストマスクを形成してエッチングを行い、レジストを除去した。そして、ITO膜のオーミック接触性を向上させるため、窒素雰囲気で500℃のアニールを行い、透光性電極6aとした。
(パッド電極の形成)
【0056】
n側電極用コンタクト領域のn型窒化物系半導体層2(n側コンタクト層)上、及び透光性電極6a上のそれぞれの所定の領域を空けたレジストマスクを形成し、スパッタリング装置にて、ウェハ上に、パッド電極7(7n,7p)用のCr+M
1,Pt+M
2,Au、及び保護膜9の下地層8となるW,Niを連続的に順次成膜した。そして、レジストを除去し(リフトオフ)、n側、p側の各パッド電極
7(7n,7p
)の平面視形状(
図1参照)の6層膜を形成した。パッド電極7の各層の厚さは表1に示す通りである。
【0058】
その後、アニール炉にて窒素雰囲気でウェハにアニールを施した。なお、アニールは10分間単位で行い、20分間行う場合は2回行った。また、280℃のアニールについては電気炉を使用した。
(保護膜9の形成)
【0059】
ウェハ上の全面に保護膜9として、厚さ200nmのSiO
2膜を成膜した。パッド電極
7(7n,7p
)上のパッド部とする領域を空けたレジストマスクを形成して、SiO
2膜をエッチングし、レジストを除去した。さらに下地層8のNi,Wをエッチングして、パッド電極
7(7n,7p
)のAu層73を露出させ、窒化物系半導体発光素子100とした。また、バックグラインド加工にて、ウェハの裏面から基板を研削して総厚85μmとした。
(実施例1〜5)
【0060】
ここで、第一金属材料M
1の含有量と電極構造の反射率を確認するために比較試験を行った。ここでは第一金属材料M
1としてRhを使用し、この含有量を変化させた電極構造体を実施例1〜5として作成し、また比較のため、第一金属層71aをCrのみとした比較例を作成した。具体的には、各実施例において第二金属層71bをPt層、ボンディング層73をAu層とした。また第一金属層71aに含まれるCrの含有量を、実施例1で50wt%、実施例2で30wt%、実施例3で10wt%、実施例4で50wt%、実施例5で2.5wt%とした。また比較例として、第一金属層71aはCr含有量を100%とし、さらに第二金属層71bを同じくPt層とし、これにRu層を介在させてボンディング層73であるAu層を積層した。このようにして得られた各電極構造体の反射率を、波長毎に測定した結果を
図4に示す。この図に示すように、Crの含有量が低くなる程、換言すると第一金属材料M
1であるRhの含有量が多くなる程、反射率が向上した。特に第一金属材料M
1を90wt%以上とすることで、波長400nm以上の領域で反射率50%以上という良好な特性を得られることが判明した。また、より好ましくは第一金属材料M
1を95wt%以上とすることで、さらに良好な反射率を得ることができる。
(第二金属層71b)
【0061】
以上は、第二金属層71bをPtのみとした構成について説明したが、第二金属層71bにも高反射率の第二金属材料M
2を含有させてもよく、これによってさらに高い反射率を発揮できる。第二金属材料M
2も、Crより窒化物系半導体発光素子の発光ピーク波長における反射率が高い金属材料を用いる。このような第二金属材料M
2としては、ロジウム、ルテニウム、イリジウム等が利用でき、中でもロジウムは反射率が高く、好ましい。このような例を実施例6〜10として作成した。ここでは、Ptの含有量を変化させて電極構造体を作成し、反射率を測定している。具体的には、第一金属層71aをCrの含有量を5wt%としたCrとRhの層とし、第二金属層71bとしてPtに含有させるRhの量を変化させた。例として実施例6ではPtの含有量を0wt%、すなわちRhのみとした。また実施例7でPtの含有量を10wt%、実施例8で30wt%、実施例9で50wt%とし、さらに実施例10では100wt%として、Rhを含まない、実施例4と同様の比率とした。この結果を
図5に示す。この図においても、
図4と同様に、比較のため比較例についても図示している。この図に示すように、反射率をさらに高めることに成功し、特に第二金属材料M
2であるRhの含有量を50%以上とすることで、反射率65%以上を達成している。このように、第二金属層71bもPtのみの金属層とせず、Rh等高反射率の第二金属材料M
2を含有させることで、反射率を一層向上できる。ただし、第二金属層71bを合金層とすると、半導体層との密着力が低下する傾向にあるため、このバランスを考慮して選択される。
【0062】
またこれら第一金属材料M
1、第二金属材料M
2は、CrのみならずPtよりも反射率の高い金属材料とすることが好ましい。さらに、第一金属材料M
1と第二金属材料M
2とを同一とすることで、金属材料の拡散による影響を低減でき、好ましい。ただ、反射率を調整するために、第一金属材料と第二金属材料とを異なる金属材料としてもよい。
(膜厚)
【0063】
次に、第一金属層71aの膜厚と密着力の相関関係を確認するための試験を行った。ここでは、第一金属材料M
1として含有率95%のRhを用い、第二金属層71bを50nmのPt層、ボンディング層73を500nmのAu層とし、第一金属層71aの膜厚を0〜50nmまで変化させたときの剥離試験を行った。剥離試験は、LEDチップ1000個程度にワイヤボンディング装置(KAIJO製FB−150DGII)を用いて、φ30μmのAuワイヤをパッド電極にボンディングし、その際にp側パッド電極が下地(ITO膜)から剥がれたサンプル、及び下地から剥れなくてもp側パッド電極を構成する各層間で剥離が発生したサンプルの個数を測定した。また、ワイヤボンディング装置においては、加速的な剥がれ試験を行なうために、ボンディング時の荷重を通常よりも高い値の40gfに設定し、さらに、ボンディングする位置についても通常よりずらした位置に設定して試験を行った。
【0064】
また剥離試験の結果を
図6に示す。
図6に示すように、第一金属層71aの膜厚が10nmよりも薄く、特に5nm以下の領域において剥離率を低く抑えることができ、高い密着力が得られていることが確認された。特に3nm〜5nmの範囲で、優れた密着力を発揮している。
(実施の形態2)
【0065】
以上の例では、第一金属層と第二金属層を備える窒化物系半導体発光素子について説明したが、このような構成に限らず、さらに第三金属層を追加した構造とすることもできる。このような例を、実施の形態2として
図8に示す。この図に示す発光素子のパッド電極は、オーミック接触層71として、第一金属層71aであるCr−M
1層と、その上に形成された第二金属層71bであるPt層と、さらにその上に形成された第三金属層71cであるRu層を備える。さらにオーミック接触層の上には、ボンディング層73としてAu層が形成される。
(第二金属層の薄膜化)
【0066】
ここで第二金属層71bは、その膜厚を薄くすることが好ましい。このように第二金属層71bを薄膜化させることで、光取り出し効率をさらに改善できる。すなわち、このパッド電極は第一金属層71aの下面で光を反射させると共に、第一金属層71aを透過した光については、第一金属層71aと第二金属層71bとの界面で反射させるよりも、寧ろ第二金属層71bを積極的に透過させて、第二金属層71bと第三金属層71cとの界面において半導体層側に光反射させている。このように、第二金属層71bを薄膜化することによって、第一金属層71aを透過した光が第二金属層71bで吸収されることを軽減できる。
(第三金属層71c)
【0067】
さらに第三金属層71cを設けることで、第二金属層71bを透過した光を、第三金属層71cとの界面で反射させることができる。またこの第三金属層71cは、ボンディング層のAuが第一金属層71aや第二金属層71b側に拡散する事態を防止する効果も得られる。このような第三金属層71cに含まれる金属材料としては、Ruの他、RhやIr等が利用できる。好ましくは、後述するパッド電極の剥離を防止する観点から、Ru層とする。
(膜厚)
【0068】
第二金属層71bの膜厚は、10nm未満とすることが好ましく、より好ましくは3nm〜5nmとする。このような膜厚に調整することで、第二金属層71bにおける光吸収を軽減することができる。ここで実施例11として、第一金属層71aを、Cr含有量30%としたRhCr層(3nm)、第二金属層71bをPt層、第三金属層71cをRu層(75nm)、ボンディング層をAu層(500nm)としたパッド電極を試作し、第一金属層71aの膜厚を0〜30nmで変化させた際の反射率を、波長455nmの光を照射して測定した。この結果を表2に示す。この表に示すように、第二金属層の膜厚が10nm未満で高く、特に3nm〜5nmで60%以上を達成できることが確認された。
【0070】
さらに、第一金属層71aと第二金属層71bの総膜厚、すなわちオーミック接触層の膜厚は、50nm以下とするのが好ましく、より好ましくは10nm以下とする。このようにすることで、オーミック接触層から第三金属層71cまで光を十分に透過させて、光を反射させることができる。
【0071】
一方で第三金属層71cの膜厚は、逆に50nmよりも厚くすることが好ましい。これによってオーミック接触層からの光を第三金属層71cとの界面で十分に反射させることができる。より好ましくは75nm以上とし、これによって第三金属層71c上に形成されたボンディング層であるAu層からのAuの拡散を防止できる。
(第一金属層のCr含有率)
【0072】
また一方、上記実施の形態2に係る電極構造においては、第一金属層71aにおけるCrの含有率を高めることが好ましい。本発明者らの行った試験によれば、パッド電極に第三金属層71cを追加する電極構造においては、パッド電極の密着力が低下する傾向にあることが判明した。その一方で、パッド電極の密着性は第一金属層中のCr含有量にも依存し、Cr含有量が多い程密着力が高くなる傾向にあることも明らかとなった。そこで、第三金属層71cを追加する場合は、第一金属層71aにおけるCrの含有率を高く設定することで、パッド電極の密着力を高めて剥離を抑制できる。好ましくは、第一金属層71aにおけるCrの含有率を30%程度又はこれ以上とする。ここで実施例12として、第一金属層71aをRhCr層(3nm)、第二金属層71bをPt層(5nm)、第三金属層71cをRu層(75nm)、ボンディング層をAu層(500nm)としたパッド電極を試作し、第一金属層71aのCr含有量を5%,10%,30%と変化させた際の密着性を測定した。この結果を表3に示す。なお、表3における密着性は、ワイヤボンディング装置(KAIJO製FB−150DGII)を用いて、φ30μmのAuワイヤをパッド電極にボンディングし、その際にパッド電極が下地(ITO膜)から剥がれたサンプル、及び下地から剥れなくてもパッド電極を構成する各層間で剥離が発生したサンプルの個数から剥離率を算出した。
【0074】
また、第三金属層71cは、Rh層とするよりもRu層とすることで、剥離を抑制できることも判明した。さらに、第二電極をPtの合金層でなく、Pt層とすることでも、密着力を高めて剥離を低減できる効果が得られる。
【0075】
さらに、Cr含有率を高めた場合は、第一金属層71aの膜厚を薄くする程、反射率が向上する傾向にあることが判明した。このため第一金属層71aの膜厚は、5nm以下とするのが好ましく、より好ましくは3nm以下とする。
【0076】
なお上記の例においては、Pt層である第二金属層を、光透過させるために薄く形成しているが、この層自体を省略することもできる。このような例を
図9に示す。この図に示す電極構造は、半導体層側から順に、第一金属層71a’、第三金属層71c’を有している。
図3との対比においては、第二金属層71bとしてPtやRhに代えて、Ruを用いた構造と捉えることもできる。
(実施の形態3)
【0077】
上記実施の形態2では、
図8に示したように、半導体層と第一金属層71aとの界面及び第二金属層71bと第三金属層71cとの界面での反射を企図した構造を採用した。ただ本発明はこの構成に限られず、第一金属層での反射に注力させた構造を採用してもよい。このような例を実施の形態3として、
図10に示す。この電極構造においても、
図8と同様、半導体層側から順に、第一金属層71a”、第二金属層71b”、第三金属層71c”を有している。本発明者らの行った試験によれば、第一金属層の膜厚は、一般に薄いほど反射率が高くなる傾向にあることが判明した。しかしながら、薄くしすぎるとパッド電極と半導体層との密着力が低下して剥離し易くなる。本発明者らの行った試験によれば、第一金属層の膜厚が3nm以下になると、剥離が顕著となる。その一方で、第一金属層中に含まれるCrの含有量によっても密着力と反射率の関係が変化する。Cr含有量を5%以下に減らすと、逆に第一金属層の膜厚を厚くすると反射率が上がる現象が見られた。そこで、密着力とのバランスを考慮して、第一金属層の膜厚を10nm程度とすることで、密着力と反射率の両立が可能となり、第一金属層と半導体層との界面で光を反射させて光取り出し効率を改善できる。ここで実施例13として、第一金属層71a”を、Cr含有量10%としたRhCr層、第二金属層71b”をPt層、第三金属層71c”をRu層、ボンディング層をAu層としたパッド電極を試作し、第一金属層71a”の膜厚を変化させた際の反射率(波長455nmの光を照射して測定)および密着性(ワイヤボンディング加速試験によって剥離したサンプル数から剥離率を算出)を測定した。この結果を表4に示す。この表に示すように、第一金属層71a”の膜厚は5nm以上とすることが好ましく、より好ましくは10nm程度とすることで、密着性を高めつつ、十分な反射率を確保できることが確認された。
【0079】
なお、各層の製造時においては、組成が企図したものとなるよう調整しているが、製造された発光素子においては、各層の界面において金属元素が隣接する層中に僅かに拡散したり混じり合う状態となることが考えられるところ、本発明においては、このような界面の状態を層とは扱わない。