【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来のウエーハ分割(ウエーハブレーキング)方法では、以下のような問題がある。
【0007】
例えば、上記特許文献1に記載のものでは、ウエーハ分割治具を割断予定線に対して平行に当てており、その割断予定線の端から端の全体に一度にウエーハ分割治具が当たるので、割断予定線のライン全体に急激に曲げ応力がかかり、一度にそのライン全体が割れてしまうため、チップ破損が生じる虞があるという問題がある。
【0008】
また、割れた際に割れたことによる衝撃がフィルム内を伝播し、その伝播する形態が割断予定線に垂直に波打つ形で伝播する。場合によっては、割断予定ラインが短くなるウエーハの外周部のチップでは、隣のラインが割断されたことによる副次的な衝撃で割れることや、その割れの衝撃によって、割断予定ラインにそって割れるのではなく、チップ内で割断する場合が存在する。
【0009】
そうしたことから、割断予定ラインに沿って効率よく、大きく衝撃を与えることのない割断が求められる。
【0010】
また、上記特許文献2に記載のものでは、ブレーキング部材を溝の形成方向と異ならせてはいるが、ブレーキング部材が半導体ウエーハの内部にある場合、半導体ウエーハが、ブレーキング部材によってすでに半導体チップに分割された領域とまだ分割されていない領域に二分され、すでに半導体チップに分割された領域では応力が分散されてしまう。また、ブレーキング部材が平行移動していく側では粘着テープが縮み、移動した後の側では粘着テープが伸び、ブレーキング部材の摺動開始付近と摺動終了付近とで、粘着テープにかかるテンションが変化し、ブレーキング中において粘着テープのテンションにばらつきが生じる。
【0011】
具体的には、ブレーキング開始時においては、ブレーキングされて分割された部分は少なく、ブレーキングされていない部分が多い。よって、粘着テープ全体のテンションは比較的大きく、ブレーキング時にかかる粘着テープのテンションは大きい。それに対して、ブレーキング終了時では、すでにブレーキング部材が通過した領域においてはウエーハが分割されており、また半導体チップ間のつながりもないために、ゆるい状態になっている。すなわち、粘着テープ全体にかかるテンションは非常に小さくなる。
【0012】
こうした場合、ブレーキング開始時におけるブレーキング部材が粘着テープに与える摺動抵抗と、ブレーキング終了時におけるブレーキング部材が粘着テープに与える摺動抵抗は粘着テープのテンション状態が大きく異なるため、ブレーキングの割断における曲げ応力もブレーキング開始時とブレーキング終了時に大きく異なることになる。
【0013】
これは、例えばブレーキング開始時には、比較的精度よくブレーキングができるが、ブレーキング終了時にはブレーキングが行われない箇所が出てくるといった問題が生じることがある。
【0014】
このように粘着テープの応力が分散したり、テンションにばらつきが生じると、分割された半導体チップ同士が接触したりチップ配列がずれる等の問題がある。
【0015】
先の問題は、ブレーキング部材がウエーハに対して移動する前後の領域部分におけるテンションばらつきについてであるが、一方で、ウエーハに対して平行移動していくブレーキング部材の左右の領域においても、テンションのばらつきがある。
【0016】
すなわち、ブレーキング部材は直線状であり、それを平行移動するとなると、ブレーキング部材が通る軌跡は、長方形ないしは平行四辺形になる。フレームに粘着テープ貼り付けられたウエーハは、フレーム内周の形状どおり円状である。
【0017】
したがって、こうした場合、直線状のブレーキング部材が平行移動していく過程で、ブレーキング部材の左右の両端部において、初期過程は、ウエーハ部分が少なく、外側のフレームとウエーハの間のフィルム部分が占める割合が大きくなる。すなわち、フィルムの変形は大きくなる。しかし、ブレーキング部材が、ウエーハの中央部に差し掛かると、ウエーハの領域が大きくなり、それに対して、フレームとウエーハ間の粘着テープ(フィルム)の領域が小さくなる。すなわち、フィルムの変形は小さくなる。
【0018】
こうした場合、ブレーキング部材の左右におけるフィルム部分とウエーハ部分の相対的な領域によって、ウエーハにかかるテンションに場所によるばらつきをうみ、こうしたことがブレーキングのばらつきに大きく影響する。
【0019】
また、半導体ウエーハは略円形であり、ウエーハ分割治具(あるいはブレーキング部材)を平行移動する場合には、平行移動の初期及び末端部においてはウエーハ分割治具と半導体ウエーハを貼着したシートを保持するフレームとが干渉しないようにフレーム径を大きくしなければならないという問題もある。さらに、平行移動する場合には、縦横2回分割動作が必要となり、また、縦横の動作以外に向きを代えるための円運動も必要になり、ウエーハ分割治具の動きに無駄が多いという問題もある。
【0020】
なお、これらのことは上記特許文献1においてもウエーハ分割治具を平行に移動しているため同様である。
【0021】
また、デバイス機構として半導体ウエーハの裏面にAl(アルミニウム)やNi(ニッケル)等の金属膜(バックメタル)を形成する場合があり、これらの金属膜は分断性が低く、従来の分割方法では確実に分割することができなかった。
【0022】
本発明はこのような問題に鑑みて成されたものであり、裏面に金属膜が形成されたレーザー改質後の半導体ウエーハをブレーキングする際、チップが破損したり、チップの配列がずれたりすることなく、ウエーハ裏面の金属膜を確実に分割することのできる半導体ウエーハブレーキング装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記目的を達成するために、本発明の半導体ウエーハブレーキング装置は、裏面に金属膜が形成されるとともに、予め形成された分断予定ラインに沿って個々のチップにダイシング加工された半導体ウエーハを、前記金属膜を介して粘着シートに貼着してリング状のフレームにマウントしたワークを固定するフレーム固定手段と、前記半導体ウエーハを前記分断予定ラインにより個々の半導体チップに分割する、その長手方向の中央部が両端部よりも高く形成されたスキージと、前記スキージを、該スキージの中心を前記半導体ウエーハの中心と略一致させるようにして前記粘着シートに押し当てて、前記スキージをその中心の回りに回転させる昇降回転機構と、を備えたことを特徴とする。
【0024】
これにより、例えば
図1に示すように、ブレーキング部材100が移動する軌跡は、フレームFの内周形状と同じ円状になる。すなわち、ブレーキング部材100の両側において、絶えず一定のウエーハ領域W0と、ウエーハWとフレームFの内周部の間のフィルム(粘着テープ)領域S0が存在する。ブレーキング部材100がフィルムS越しにウエーハWを押し上げる上で、フィルムSに絶えず一定の捻る方向のトルクがかかり、その捻りを戻そうとする反力も同時に作用する。その捻る方向にかかる応力は、ウエーハ領域W0とウエーハWが貼り付けられていないフィルム領域S0は、ブレーキング部材100内及びその両端部で同じになることから、ブレーキング初期であれ、ブレーキング終期であれ絶えずフィルムSから受けるトルクは一定であり、安定してウエーハWを割断することができる。
【0025】
また、
図2に示すように、ブレーキング部材100としてスキージを用いた場合に、ブレーキング部材(スキージ)100が回転する際のウエーハWの割れ方のメカニズムは以下のようになる。
【0026】
すなわち、例えば、特許文献1においては、割断予定ラインに平行に全て同時に割っていた。しかし、本願発明の場合は、割断予定ラインに対して、スキージ100がウエーハWに対して図に矢印Vで示すように回転移動する。そうすると、スキージ100が例えば、ウエーハWのX軸上と一致し、その状態から反時計回りに回転しながら、割断する場合に、まずX軸上からY側に一つ上に存在する割断予定ライン110に着目する。当該割断予定ライン110上において、スキージ100はまず割断予定ライン110の最外周部に接することになる。その際に、割断予定ライン110の最外周部に局所応力が作用し、最外周部で微小な割れを起こす。このとき割断予定ラインは最外周部分が割れを起こすが、内周側ではスキージ100が到達していないため割れを起こさない。
【0027】
その後徐々にスキージ100が回転していくに伴って、スキージ100と割断予定ライン110の交点部分は図に矢印Zで示すように徐々に内側に移動していく。それに伴って、ウエーハWにかかる局所応力の部分が移動する。これはウエーハWの割れがスキージ100と割断予定ライン110の交点の移動に沿って起こることを意味する。その結果、割断予定ライン110は特許文献1に記載のように一度に割れるのではなく、スキージ100の回転に伴って、徐々に割れるエリアが内側に入っていくことを意味する。こうすることでウエーハWの全エリア均等かつゆっくりと割れていくことになる。
【0028】
さらに、
図2に示すように、X軸上にあるスキージ100が反時計回りに回転していく場合、第1象限において、外周部からウエーハの割れが徐々に内側に進展していく一方で、第3象限において、Y側で一つ下にある割断予定ラインにおいても、同様のメカニズムでウエーハWの外周部がまず割れて、スキージ100との交点が内側に進行していくにしたがって、ウエーハWも徐々に割れていく。なお、略同時に割れていく部分において、略対称位置で割れが進行する。
【0029】
よって、本願発明においては、先の特許文献2であったようなすでに割れた部分とウエーハが割れていない部分でフィルムのテンションが大きく変化して、初期に効率よく割れていたものが、後半割れミスを多数起こしてしまうという、問題を起こすことはない。これは、
図2を用いて説明したように本願発明においては、絶えず対称位置で割れていくために、割れる位置のバランスがとれているからである。
【0030】
また、スキージで伸ばされたフィルムが戻ろうとしてトルクがかかる応力も、スキージの一方側と他端側にわけることができ、スキージ付近にかかる応力もバランスされている。また、スキージのウエーハに対する相対的な回転運動の際、スキージの両端部分が描く軌跡は円状であるため、特許文献1、2に示すような平行移動に基づく長方形や平行四辺形ではない。これは、特許文献1、2ではスキージ(ブレーキング部材)の長方形や平行四辺形であるためスキージとフレーム内周が干渉していたが、本願の場合はフレーム内周も円状でスキージの運動軌跡も円状であるため、フレームとスキージの干渉を心配する必要はない。
【0031】
また、特許文献1や2の場合は、フレーム内径は円状であるのに対して、ブレーキング部材の移動軌跡は長方形や平行四辺形であるために、フレーム内径を干渉しないように大きく取らなければならなかったが、本願発明の場合、フレームの内径はスキージよりも少し大きい程度で十分であり、フレームに干渉することなく一定のトルクを作用させながら、安定してウエーハを割断することが可能となる。
【0032】
これにより、裏面に金属膜が形成されたレーザー改質後の半導体ウエーハをブレーキングする際、チップが破損したり、チップの配列がずれたりすることなく、ウエーハ裏面の金属膜を確実に分割することが可能となる。
【0033】
また、一つの実施態様として、前記スキージの前記粘着シートに接触する上側の表面は、長手方向の中央部が最も高くなるような丸みをもって形成されていることが好ましい。
【0034】
また、一つの実施態様として、前記スキージの前記粘着シートに接触する上側の表面は、長手方向の中央部が最も高く、両端に向かって直線的に低くなるようにへの字状に形成されたことが好ましい。
【0035】
これにより、スキージからの押圧力のかかりにくい半導体ウエーハの中央部に対しても確実に押圧力を加えることができ、全ての半導体チップを均等に分割していくことが可能となる。
【0036】
また、一つの実施態様として、前記スキージの長手方向の長さは、少なくとも前記半導体ウエーハの径と略同じであることが好ましい。
【0037】
これにより、スキージの運動に伴いスキージがワークのフレームと干渉することがないので、フレームを大型化する必要がない。
【0038】
また、一つの実施態様として、前記スキージの前記粘着シートに接触する表面は、その前記長手方向に垂直な断面が丸みを有していることが好ましい。
【0039】
これにより、スキージの回転により粘着シートを傷つけることなく、スキージをスムーズに回転して半導体チップを金属膜とともに確実に分割することが可能となる。
【0040】
また、一つの実施態様として、前記スキージの前記粘着シートに接触する表面は、前記スキージを回転する際にスティックスリップが発生しないようにコーティングされていることが好ましい。
【0041】
これにより、スキージの回転に伴いスティックスリップを発生させることなく、スキージを回転させ、半導体ウエーハを確実に分割することが可能となる。
【0042】
また、同様に前記目的を達成するために、本発明の半導体ウエーハブレーキング方法は、裏面に金属膜が形成されるとともに、予め形成された分断予定ラインに沿って個々のチップにダイシング加工された半導体ウエーハを、前記金属膜を介して粘着シートに貼着してリング状のフレームにマウントしたワークを固定するフレーム固定工程と、その長手方向の中央部が両端部よりも高く形成されたスキージを、該スキージの中心を前記半導体ウエーハの中心と略一致させるようにして前記粘着シートに押し当てて、前記スキージをその中心の回りに回転させることにより、前記半導体ウエーハを前記分断予定ラインにより個々の半導体チップに分割するブレーキング工程と、を備えたことを特徴とする。
【0043】
これにより、裏面に金属膜が形成されたレーザー改質後の半導体ウエーハをブレーキングする際、チップが破損したり、チップの配列がずれたりすることなく、ウエーハ裏面の金属膜を確実に分割することが可能となる。
【0044】
また、一つの実施態様として、前記スキージの前記粘着シートに接触する上側の表面は、長手方向の中央部が最も高くなるような丸みをもって形成されていることが好ましい。
【0045】
また、一つの実施態様として、前記スキージの前記粘着シートに接触する上側の表面は、長手方向の中央部が最も高く、両端に向かって直線的に低くなるように、への字状に形成されたことが好ましい。
【0046】
これにより、スキージからの押圧力のかかりにくい半導体ウエーハの中央部に対しても確実に押圧力を加えることができ、全ての半導体チップを均等に分割していくことが可能となる。
【0047】
また、一つの実施態様として、前記スキージの長手方向の長さは、少なくとも前記半導体ウエーハの径と略同じであることが好ましい。
【0048】
これにより、スキージの運動に伴いスキージがワークのフレームと干渉することがないので、フレームを大型化する必要がない。
【0049】
また、一つの実施態様として、前記スキージの前記粘着シートに接触する表面は、その前記長手方向に垂直な断面が丸みを有していることが好ましい。
【0050】
これにより、スキージの回転により粘着シートを傷つけることなく、スキージをスムーズに回転して半導体チップを金属膜とともに確実に分割することが可能となる。