(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導体と、前記導体上にポリオレフィン系樹脂組成物を被覆した内層と、前記内層の外側に、ポリエステル系樹脂組成物を被覆した外層とからなる被覆層とを備えるノンハロゲン多層絶縁電線において、
前記被覆層は、
摩耗針で荷重9Nを加えながら往復動作を行い、短絡するまでの往復回数が150回以上である耐摩耗性と、
85℃/85%RHの恒温恒湿槽内で30日間静置した後に、自己径による巻付により亀裂が発生しない耐加水分解性と、
IEC60332−1に準拠した燃焼試験を実施した後に、上部支持部から炭化部までの距離のうち、電線上部までの距離が50mm以上かつ電線下部までの距離が540mm以下である難燃性と、
JISC3005に準拠した熱処理後の引張試験における伸び残率が70%以上である耐熱性と、
EN50268.2に準拠した発煙濃度試験により発生する煙による透過率が70%以上である低発煙性と、
EN50305.9.2に準拠した毒性試験による毒性指数が6以下である低毒性と、
EN50305.6.4に準拠した高温時の絶縁抵抗の測定値が600MΩ/km以上である高温時の絶縁抵抗性と
を有することを特徴とするノンハロゲン多層絶縁電線。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(ノンハロゲン多層絶縁電線の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係るノンハロゲン多層絶縁電線の断面図である。
【0015】
本発明の実施形態に係るノンハロゲン多層絶縁電線1は、
図1に示すとおり、導体10と、導体10上に、高密度ポリエチレンと、エチルアクリレート含有量(EA量)が9〜35質量%のエチレンエチルアクリレート共重合体又は酢酸ビニル含有量(VA量)が15〜45質量%のエチレン酢酸ビニル共重合体のいずれかとを50〜90:50〜10の質量比で含有するポリオレフィン系樹脂組成物を被覆した内層20と、内層20の外側に、ポリエステル樹脂を主成分とするベースポリマーを含み、かつ前記ベースポリマー100質量部に対して、ポリエステルブロック共重合体50〜150質量部、加水分解抑制剤0.5〜5質量部、無機多孔質充填剤0.5〜5質量部、及び水酸化マグネシウム10〜30質量部を含むポリエステル系樹脂組成物を被覆した外層30とを備えることが好ましい。
【0016】
導体10としては、絶縁電線において一般に使用されている導体を用いることができる。
【0018】
内層20に使用されるポリオレフィン系樹脂組成物は、高密度ポリエチレンと、エチルアクリレート含有量が9〜35質量%のエチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)又は酢酸ビニル含有量が15〜45質量%のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)のいずれかとを50〜90:50〜10の質量比で含有することが好ましい。
【0019】
上記ポリオレフィン系樹脂組成物中の高密度ポリエチレン及びEEA又はEVAの合計量は、ポリオレフィン系樹脂組成物の65質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が最も好ましい。
【0020】
高密度ポリエチレンを用いる理由は、機械的強度を向上させるためである。高密度ポリエチレンの含量が、エチレンエチルアクリレート共重合体又はエチレン酢酸ビニル共重合体に対する質量比(すなわち、高密度ポリエチレンとエチレンエチルアクリレート共重合体又はエチレン酢酸ビニル共重合体との合計質量中のパーセンテージ)で50%よりも少ないと、耐摩耗性が不十分となり、90%よりも多いと、難燃性が不十分となる。本発明の実施形態における高密度ポリエチレンは特に限定されないが、例えば、密度0.942g/cm
3以上のものが好ましい。
【0021】
エチレンエチルアクリレート共重合体又はエチレン酢酸ビニル共重合体を用いる理由は、燃焼時に炭化層を形成させるためである。エチレンエチルアクリレート共重合体のエチルアクリレート含有量(EA量)を9〜35質量%としたのは、9質量%未満では難燃性が低下し、35質量%より多いと機械特性が著しく低下するためである。また、エチレン酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量(VA量)を15〜45質量%としたのは、15質量%未満では難燃性が低下し、45質量%より多いと機械特性が著しく低下するためである。
【0022】
また、エチレンエチルアクリレート共重合体又はエチレン酢酸ビニル共重合体の含有量を、高密度ポリエチレンに対する質量比(すなわち、高密度ポリエチレンとエチレンエチルアクリレート共重合体又はエチレン酢酸ビニル共重合体との合計質量中のパーセンテージ)で10〜50%に限定したのは、10%未満だと難燃性が不十分となるためである。また、50%を超えると高密度ポリエチレンの含有比率が小さくなり、耐摩耗性が不十分となるためである。
【0023】
内層20に使用されるポリオレフィン系樹脂組成物は、難燃性及び耐摩耗性の発現を損なわない範囲で、高密度ポリエチレン、エチレンエチルアクリレート共重合体及びエチレン酢酸ビニル共重合体以外に他のポリオレフィン系樹脂を含有することができ、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状超低密度ポリエチレン、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−スチレン共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、無水マレイン酸グラフト直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられる。またこれらのポリオレフィン系樹脂は、マレイン酸又はその誘導体で変性しているものを用いても差し支えない。これらは、1種で、又は2種以上混合して使用できる。
【0024】
次に外層30について以下に説明する。
【0025】
外層30に使用されるポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル樹脂を主成分とするベースポリマーを含み、かつ前記ベースポリマー100質量部に対して、ポリエステルブロック共重合体50〜150質量部、加水分解抑制剤0.5〜5質量部、無機多孔質充填剤0.5〜5質量部、及び水酸化マグネシウム10〜30質量部を含むことが好ましい。
【0026】
「ポリエステル樹脂を主成分とするベースポリマー」とは、ベースポリマー中でポリエステル樹脂が最も多い成分であることを意味する。すなわち、ベースポリマー中のポリエステル樹脂の含有量が50質量%以上であることを意味する。好ましくは、70質量%以上であり、より好ましくは、80質量%以上であり、さらに好ましくは、90質量%以上である。ポリエステル樹脂を用いる理由は、耐熱性、耐摩耗性に優れているためである。
【0027】
ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などを用いることができる。本発明の効果を損なわない範囲において、これらを組み合わせて使用することができ、また、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂などと混合して使用することができる。PBN及びPBTを例として以下に具体的に説明する。
【0028】
本発明の実施の形態におけるポリブチレンナフタレート樹脂とは、ナフタレンジカルボン酸、好ましくはナフタレン−2,6−ジカルボン酸を主たる酸成分とし、1,4−ブタンジオールを主たるグリコール成分とするポリエステル、即ち、繰返し単位の全部又は大部分(通常90モル%以上、好ましくは95モル%以上)がブチレンナフタレンジカルボキシレートであるポリエステルである。
【0029】
ポリブチレンナフタレート樹脂は、物性を損なわない範囲で、次の成分の共重合が可能である。
【0030】
酸成分としては、ナフタレンジカルボン酸以外の芳香族ジカルボン酸、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、ジフェニルスルフィドジカルボン酸、ジフェニルスルフォンジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、脂環族ジカルボン酸、例えばシクロヘキサンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸等が例示される。
【0031】
グリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、カテコール、レゾルシンノール、ハイドロキノン、ジヒドロキシジフェニル、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ハイドロキノン、ジヒドロキシジフェニル、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジヒドロキシジフェニルメタン、ジヒドロキシジフェニルケトン、ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ジヒドロキシジフェニルスルフォン等が例示される。
【0032】
オキシカルボン酸成分としては、オキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシジフェニルカルボン酸、ω−ヒドロキシカプロン酸等が例示される。
【0033】
なお、ポリエステルが実質的に成形性能を失わない範囲で3官能以上の化合物、例えばグリセリン、トリメチルプロパン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸、ピロメリット酸等を共重合してよい。
【0034】
本実施の形態におけるポリブチレンナフタレート樹脂の末端カルボキシル基濃度には特に制限はないが、少ない方が望ましい。
【0035】
上記ポリブチレンナフタレート樹脂は、ナフタレンジカルボン酸及び/又はその機能的誘導体とブチレングリコール及び/又はその機能的誘導体とを、従来公知の芳香族ポリエステル製造法を用いて重縮合させて得られる。
【0036】
本発明の実施の形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂とは、ブチレンテレフタレート繰り返し単位を主成分とするポリエステルであって、多価アルコール成分として1,4−ブタンジオール、多価カルボン酸成分としてテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を用いて得られるブチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルである。主たる繰り返し単位とは、ブチレンテレフタレート単位が、全多価カルボン酸−多価アルコール単位中の70モル%以上であることを意味する。更にブチレンテレフタレート単位は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%、更に好ましくは95モル%以上である。
【0037】
ポリブチレンテレフタレート樹脂に用いられるテレフタル酸以外の多価カルボン酸成分の一例としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸、トリメシン酸、トリメリット酸等の芳香族多価カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、或いは上記多価カルボン酸のエステル形成性誘導体(例えばテレフタル酸ジメチル等の多価カルボン酸の低級アルキルエステル類)等が挙げられる。これらの多価カルボン酸成分は、テレフタル酸以外の多価カルボン酸成分として、単独で用いても良いし、複数で用いても良い。
【0038】
ポリブチレンテレフタレート樹脂に用いられる、1,4−ブタンジオール以外の多価アルコール成分の一例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の脂肪族多価アルコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族多価アルコール、ビスフェノールA、ビスフェノールZ等の芳香族多価アルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール等のポリアルキレングリコール等が挙げられる。これら多価アルコール成分は、1,4−ブタンジオール以外の多価アルコール成分として、単独で用いても良いし、複数で用いても良い。
【0039】
本実施の形態で使用するポリブチレンテレフタレート樹脂は、耐加水分解性の観点から、末端カルボキシル基当量が50(equivalent/ton、以下eq/tと記す)以下であることが好ましく、より好ましくは40(eq/t)以下であり、さらに好ましくは30(eq/t)以下である。末端カルボキシル基当量が50(eq/t)を超えると加水分解性の観点で好ましくない。
【0040】
本発明の実施の形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂は、本発明の効果を奏する限りにおいて、単一で用いてもよいし、末端カルボキシル基濃度、融点、触媒量等の異なる複数の混合物で用いてもよい。
【0041】
外層30に使用されるポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステルブロック共重合体を含む。ポリエステルブロック共重合体を添加する理由は、耐熱性を更に高めることと、可とう性を持たせるためである。
【0042】
ポリエステルブロック共重合体は、上記ベースポリマー100質量部に対して50質量部以上150質量部以下の範囲で添加されることが好ましい。50質量部未満では目的とする可とう性が得られず、また150質量部を超えると、低毒性と耐摩耗性が不十分となる。
【0043】
本発明の実施の形態に用いるポリエステルブロック共重合体は、そのハードセグメントは60モル%以上(好ましくは70モル%以上)がポリブチレンテレフタレートを主たる構成成分とするが、他にテレフタル酸以外のベンゼン又はナフタレン環を含む芳香族ジカルボン酸、炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸、テトラメチレングリコール以外の炭素数2〜12の脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ジオール等のジオールが共重合されていてもよく、この共重合割合は、全ジカルボン酸当たり30モル%未満、好ましくは10モル%未満である。この共重合割合は、少ないほど融点も高く好ましいが、柔軟性を増すために共重合することも行われる。しかし、共重合割合が多くなるとポリエステルブロック共重合体とポリブチレンナフタレート樹脂との相溶性が低下し、耐摩耗性が損なわれる恐れがある。
【0044】
一方、ポリエステルブロック共重合体のソフトセグメントとしては、芳香族ジカルボン酸99〜90モル%、炭素数6〜12の直鎖脂肪族ジカルボン酸1〜10モル%であり、ジオール成分が炭素数6〜12の直鎖ジオールであるポリエステルである。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸やイソフタル酸が挙げられる。炭素数6〜12の直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸などが挙げられる。直鎖脂肪族ジカルボン酸の量としては、ソフトセグメントを構成するポリエステルの全酸成分あたり1〜10モル%が好ましく、より好ましくは2〜5モル%である。10モル%以上ではポリブチレンナフタレート樹脂との相溶性が低下してしまう。また、1モル%以下では、ソフトセグメントの柔軟性が損なわれる為、結果として該ポリエステル系樹脂組成物の軟質性が損なわれる。ソフトセグメントを構成するポリエステルは、非晶性もしくは低結晶性である必要が有るため、好ましくは、ソフトセグメントを構成する全酸成分の20モル%以上はイソフタル酸を用いる必要がある。また、ソフトセグメントもハードセグメントと同様に若干の他の成分を共重合することも可能である。しかし、ポリブチレンナフタレート樹脂との相溶性が低下してしまうため、共重合成分量は10モル%以下が好ましく、より好ましくは5モル%以下である。
【0045】
本実施の形態に用いるポリエステルブロック共重合体に於いて、ハードセグメントとソフトセグメントの質量比は、20〜50:80〜50が好ましく、より好ましくは25〜40:75〜60である。ハードセグメントの質量比が上記範囲より多い場合、硬くなって使用しにくいなどの問題が出るので好ましくなく、ソフトセグメントの質量比が上記範囲より多い場合は、結晶性が少なくなり、取り扱いが困難になるので好ましくない。
【0046】
また、ポリエステルブロック共重合体のソフトセグメント及びハードセグメントのセグメント長は、分子量で表現すると、およそ500〜7000であることが好ましく、より好ましくは800〜5000であるが、特に限定されるものではない。このセグメント長は直接測定するのは困難であるが、例えば、ソフトセグメント及びハードセグメントそれぞれを構成するポリエステルの組成と、ハードセグメントを構成する成分からなるポリエステルの融点及び得られたポリエステルブロック共重合体の融点とから、フローリーの式を用いて推定することが出来る。
【0047】
ポリエステルブロック共重合体の融点(T)は、「TO−5>T>TO−60」(TO:ハードセグメントを構成する成分からなるポリマーの融点)の範囲にあるのがよい。すなわち、融点(T)は、TO−5からTO−60の間であることが好ましく、より好ましくはTO−10からTO−50の間、更に好ましくはTO−15からTO−40の間であるようにするのがよい。
【0048】
また、この融点(T)は、ランダム共重合体の融点より10℃以上、好ましくは20℃以上高いことがよい。ランダム共重合体の融点が定められないときは、融点(T)は、150℃以上、好ましくは160℃以上の融点にするのがよい。
【0049】
上記ポリエステルブロック共重合体ではなくランダム共重合体を用いた場合、このポリマーは一般的に非晶性であり、且つガラス転移温度も低いので、水飴状であり、成形性が著しく低下したり、表面がべたべたするなど現実問題として使用できる物ではない。
【0050】
本実施の形態で使用するポリエステルブロック共重合体は、35℃オルトクロルフェノール中で測定した固有粘度が0.6以上であることが好ましく、より好ましくは0.8〜1.5である。これより固有粘度が低い場合は、強度が低くなるため好ましくないからである。
【0051】
本実施の形態で使用するポリエステルブロック共重合体の製造法は、ソフトセグメント及びハードセグメントを構成するポリマーをそれぞれ製造し、溶融混合して融点がハードセグメントを構成するポリエステルよりも低くなるようにする方法が挙げられる。この融点は、混合温度と時間によって変化するので、目的の融点を示す状態になった時点で、リンオキシ酸等の触媒失活剤を添加して触媒を失活させることが好ましい。
【0052】
外層30に使用されるポリエステル系樹脂組成物は、加水分解抑制剤を含む。
【0053】
本発明の実施の形態において使用される好適な加水分解抑制剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩などのカルボジイミド骨格を有する化合物を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0054】
加水分解抑制剤の添加量は、上記ベースポリマー100質量部に対して、0.5〜5質量部であり、好ましくは1〜4質量部、より好ましくは2〜4質量部、さらに好ましくは2〜3質量部である。0.5質量部よりも少ない場合、耐加水分解性を十分に発揮できず、添加量が5質量部よりも多い場合は低毒性を達成できないためである。
【0055】
外層30に使用されるポリエステル系樹脂組成物は、無機多孔質充填剤を含む。無機多孔質充填剤を添加する理由は、外層30の電気特性を更に向上させるためである。
【0056】
無機多孔質充填剤の添加量は、上記ベースポリマー100質量部に対して、0.5〜5質量部であり、好ましくは0.5〜3質量部、より好ましくは0.5〜2質量部、さらに好ましくは0.5〜1質量部である。含有量が少なすぎるとイオンを十分にトラップできず、絶縁抵抗が小さくなり電気特性が劣ってしまう。一方、含有量が多すぎると耐摩耗性が低下し好ましくない。
【0057】
本発明の実施の形態において使用される無機多孔質充填剤は、その充填剤の比表面積が5m
2/g以上であることが好ましい。
【0058】
無機多孔質充填剤としては、焼成クレーが好ましいが、これに限られず、ゼオライト、メサライト、アンスラサイト、パーライト発泡体、活性炭であっても良く、シランや脂肪酸等で表面処理をしても良い。
【0059】
外層30に使用されるポリエステル系樹脂組成物は、水酸化マグネシウムを含む。水酸化マグネシウムを添加する理由は、難燃性を向上させるとともに、低発煙性を持たせるためである。
【0060】
水酸化マグネシウムの添加量は、上記ベースポリマー100質量部に対して、10質量部以上30質量部以下の範囲で添加する必要がある。添加量が10質量部よりも少ない場合、難燃性及び低発煙性を十分に発揮できず、添加量が30質量部よりも多い場合では電線に加工した際に可とう性や耐摩耗性が低下する。
【0061】
本発明の実施の形態において使用される水酸化マグネシウムは特に限定されるものではなく、脂肪酸、脂肪酸金属塩、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン等で表面処理して用いても良く、未処理品を使用しても構わない。
【0062】
ベースポリマーであるポリエステル樹脂に上記各種成分を配合する方法としては、被覆工程の直前までの任意の段階で周知の手段によって行うことができる。最も簡便な方法としては、ポリエステル樹脂と、ポリエステルブロック共重合体、加水分解性抑制剤、無機多孔質充填剤、水酸化マグネシウムなどとを溶融混合押出にてペレットにする方法が採用される。
【0063】
内層20及び外層30に用いられる樹脂組成物には、本発明の効果を奏する限りにおいて、顔料、染料、充填剤、核剤、離型剤、酸化防止剤、安定剤、帯電防止剤、滑剤、その他の周知の添加剤を配合し、混練することもできる。
【0064】
なお、本発明の実施の形態に係る多層絶縁電線1の製造方法としては、内層20の樹脂組成物と外層30の樹脂組成物を別々の工程で押出被覆してもよく、2層同時に押出被覆してもよい。更に必要に応じて押出被覆した多層絶縁電線1を照射架橋しても良い。
【0065】
絶縁体が2層構造(内層20及び外層30)の絶縁電線の絶縁体厚み2層分が0.15〜0.5mmであることが望ましく、内層20の厚みは0.05〜0.2mmが好ましく、外層30の厚みは0.1〜0.3mmが好ましい。
【0066】
また、本発明の実施の形態に係る多層絶縁電線1は、内層20及び外層30を備えている限り2層に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限りにおいて、導体10と内層20の間に絶縁層を介することも可能であり、また、内層20と外層30との間に中間層を備えるものであってもよい。
【0067】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ制限されるものではない。
【実施例】
【0068】
実施例1〜5、比較例1〜9、従来例1に係る多層絶縁電線を以下のように作製した。多層絶縁電線の内層の樹脂組成物及び外層の樹脂組成物の配合組成を表1に示し、それぞれについての評価結果を表2に示す。
〔使用材料〕
・HDPE(高密度ポリエチレン):株式会社プライムポリマー社製、ハイゼックス550P(ハイゼックスは登録商標)
・EEA(エチレンエチルアクリレート共重合体):日本ポリエチレン株式会社製、レクスパールEEA A1150(レクスパールは登録商標)(エチルアクリレート含有量:15質量%)
・PBN(ポリブチレンナフタレート樹脂):帝人化成株式会社製、TQB-OT
・PBT(ポリブチレンテレフタレート樹脂):三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、ノバデュラン5026(ノバデュランは登録商標)
・PEBC(ポリエステルブロック共重合体):帝人化成株式会社製、ヌーベランTRB-EL2(ヌーベランは登録商標)
・加水分解抑制剤:(ポリカルボジイミド)日清紡績株式会社製、カルボジライトHMV-8CA(カルボジライトは登録商標)
・焼成クレー1:(表面処理した焼成カオリン)BASF社製、TRANSLINK 77
・焼成クレー2:(表面処理した焼成カオリン)エンゲルハード社製、SATINTONE SP-33(SATINTONEは登録商標)
・水酸化マグネシウム:協和化学工業株式会社製、キスマ5L(キスマは登録商標)
【0069】
【表1】
〔多層絶縁電線の製造〕
得られた樹脂組成物A及び樹脂組成物Bについて、樹脂組成物Aは80℃で8時間以上、樹脂組成物Bは120℃で8時間以上、熱風恒温槽で乾燥した後、直径1.2mmの錫めっき軟銅線に直接、樹脂組成物Aを0.15mmの被覆厚で押出成形し、更にその外周に樹脂組成物Bを0.10mmの被覆厚で押出成形して実施例、比較例及び従来例の多層絶縁電線を作製した。押出成形には、直径がそれぞれ4.2mm、2.0mmのダイス、ニップルを使用し、押出温度はシリンダ部を220℃〜270℃、ヘッド部を265℃とした。引取速度は10m/分とした。
【0070】
耐摩耗性、耐加水分解性、難燃性、耐熱性、低発煙性、低毒性、高温時の絶縁抵抗の評価は以下のように実施した。
[耐摩耗試験]
作製した多層絶縁電線1(架台43に載せる)に、常温の雰囲気において
図2(a),(b)に示す摩耗試験機40の摩耗針42で荷重9Nを加えながら往復動作を行い、短絡するまでの往復回数を測定した。荷重は錘41で調節した。往復回数が150回以上を合格とし、150回未満を不合格とした。
[耐加水分解性試験]
作製した多層絶縁電線1の導体10を抜いた試料を、85℃/85%RHの恒温恒湿槽内で30日間静置した。その後、自己径による巻付試験を実施し、亀裂が発生しないものを合格(○)、亀裂が発生するものを不合格(×)とした。
[難燃性試験]
作製した多層絶縁電線1をIEC燃焼試験方法(IEC60332−1)に準拠して難燃性の試験を行なった。
図3に示すように多層絶縁電線1を上部支持部1aと下部支持部1bで垂直に保持し、バーナ50の炎を多層絶縁電線1に対して、上部支持部1aから475±5mmの位置で、かつ45°の角度で炎を規定の燃焼時間当てた後、バーナ50を取り除き、炎を消して炭化部1cを調べた。
【0071】
上部支持部1aから炭化部1cまでの距離のうち、電線上部までの距離(
図3におけるα)が50mm以上かつ電線下部までの距離(
図3におけるβ)が540mm以下のものを合格(○)、上記範囲以外のものを不合格(×)とした。
[耐熱性試験]
耐熱性試験は、以下の熱老化処理を行った後、引張試験を行って熱老化特性を測定することにより行なった。
【0072】
熱老化処理;
作製した多層絶縁電線1の導体10を抜いた試料を、恒温槽中にて条件150℃/96hで熱処理し、室温で12時間程度放置した。熱処理は、JISC3005に従うものとする。
【0073】
熱老化特性;
上記熱老化処理後の試料について引張試験を行った(引張速度200mm/minにて測定)。引張試験はJISC3005に従うものとする。伸び残率((熱老化前の伸び/熱老化後の伸び)×100)が70%以上のものを○(合格)とし、伸び残率が70%未満を×(不合格)とした。
[発煙濃度試験]
EN50268.2に従い、多層絶縁電線1を燃焼させた時に発生する煙による透過率の変化を測定した。透過率が70%以上を合格(○)、70%未満を不合格(×)とした。
[毒性試験]
EN50305.9.2に従い、多層絶縁電線1の導体10を抜き取り、残った内層20及び外層30を輪切りにして採り出した試料1gを800℃で燃焼させ、発生するガス5種類(CO、CO
2、HCN、SO
2、NOx)を定量分析し、決められた重み付けにより毒性指数(ITC値)に換算して評価した。ITC値が6以下のものを合格(○)、ITC値が6より大きいものを不合格(×)とした。
[高温時の絶縁抵抗の測定]
EN50305.6.4に従い、多層絶縁電線1 5mを90℃温水中に1時間浸漬後、測定電圧80Vから500Vで実施した。測定値は1kmあたりの絶縁抵抗に換算して評価した。600MΩ/km以上を合格(○)とし、600MΩ/km未満を不合格(×)とした。
[総合判定]
耐摩耗性、耐加水分解性、難燃性、耐熱性、低発煙性、低毒性、高温時の絶縁抵抗の評価結果がすべて合格(○)であったものを合格とし、いずれか1つ以上が不合格(×)であったものを不合格とした。
【0074】
【表2】
表2から、本発明の規定範囲内である実施例1〜5についてはいずれも、耐摩耗性、耐加水分解性、難燃性、耐熱性、低発煙性、低毒性、及び高温時の絶縁抵抗に優れていることが分かる。
【0075】
一方、比較例1は、内層材料がHDPEのみであるため、難燃性が不合格であった。比較例2は、HDPEの添加量が本発明の規定範囲よりも少ないため、耐摩耗性が不合格であった。比較例3は、内層材料がEEAのみであるため、耐摩耗性が不合格であった。比較例4は、水酸化マグネシウムの添加量が本発明の規定範囲よりも多いため、耐摩耗性、耐加水分解性、耐熱性(熱処理後の伸び特性)において不合格であった。比較例5は、水酸化マグネシウムの添加量が少ないため、難燃性、低発煙性、低毒性の点で不合格となる。比較例6は、外層材料のポリエステルブロック共重合体の添加量が多いため、耐摩耗性が不合格であった。比較例7は、ポリエステルブロック共重合体の添加量が少ないため、耐熱性(熱処理後の伸び特性)が不合格であった。比較例8は、外層材料の焼成クレー成分が多いため、耐摩耗性及び耐熱性(熱処理後の伸び特性)の点で不合格であった。比較例9は、外層材料の耐加水分解抑制剤の添加量が多いため、低毒性の点で不合格であった。
【0076】
また、内層及び外層のベースポリマーがポリブチレンナフタレート(PBN)である従来例1では、低毒性及び高温時の絶縁抵抗が不合格であった。
【課題】耐摩耗性、耐加水分解性、難燃性、耐熱性、低発煙性、低毒性、高温時の絶縁抵抗に優れ、特にEN規格(欧州規格)に適合したノンハロゲン多層絶縁電線を提供する。
【解決手段】導体と、前記導体上にポリオレフィン系樹脂組成物を被覆した内層と、前記内層の外側に、ポリエステル系樹脂組成物を被覆した外層とからなる被覆層とを備えるノンハロゲン多層絶縁電線において、前記被覆層は、摩耗針で荷重9Nを加えながら往復動作を行い、短絡するまでの往復回数が150回以上である耐摩耗性と、85℃/85%RHの恒温恒湿槽内で30日間静置した後に、自己径による巻付により亀裂が発生しない耐加水分解性と、IEC60332−1に準拠した燃焼試験を実施した後に、上部支持部から炭化部までの距離のうち、電線上部までの距離が50mm以上かつ電線下部までの距離が540mm以下である難燃性と、JISC3005に準拠した熱処理後の引張試験における伸び残率が70%以上である耐熱性と、EN50268.2に準拠した発煙濃度試験により発生する煙による透過率が70%以上である低発煙性と、EN50305.9.2に準拠した毒性試験による毒性指数が6以下である低毒性と、EN50305.6.4に準拠した高温時の絶縁抵抗の測定値が600MΩ/km以上である高温時の絶縁抵抗性とを有する。