特許第5780738号(P5780738)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5780738-豆乳スプレッド 図000004
  • 特許5780738-豆乳スプレッド 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5780738
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】豆乳スプレッド
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20150827BHJP
【FI】
   A23D7/00 500
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-245094(P2010-245094)
(22)【出願日】2010年11月1日
(65)【公開番号】特開2012-95581(P2012-95581A)
(43)【公開日】2012年5月24日
【審査請求日】2013年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(74)【代理人】
【識別番号】100125542
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 英之
(74)【代理人】
【識別番号】100154416
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 進
(72)【発明者】
【氏名】高田 優子
(72)【発明者】
【氏名】内田 孝雄
【審査官】 一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−213637(JP,A)
【文献】 特開昭64−039941(JP,A)
【文献】 五訂 日本食品標準成分表,独立行政法人国立印刷局,2000年12月20日,初版,第64-65頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00−9/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/AGRICOLA/SCISEARCH/FSTA/FROSTI(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆乳に糖類として水あめを混合し、当該豆乳・糖混合水溶液に脂肪油を加えて可溶化してなるスプレッドであって、水分含有量(%(w/w))が18〜24の範囲であり、かつ、タンパク質含有量(%(w/w))及び水分含有量(%(w/w))の積が5〜14の範囲であるスプレッド。
【請求項2】
ボストウィック粘度計による粘度が(cm/30秒)以下である請求項記載のスプレッド。
【請求項3】
L値が53以下である請求項1又は2記載のスプレッド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のスプレッドを用いた食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間にわたって油脂が分離することのない新規な油脂食品に関し、特に、トランス脂肪酸及び乳化剤を含有しないスプレッドに関する。
【背景技術】
【0002】
高価なバターの代用品として用いられているマーガリンやファットスプレッドは、精製した油脂に食塩、粉乳、香料及び乳化剤等を加えて乳化し、水素を付加し硬化することで製造している。水素付加の過程で、健康被害を与える可能性が指摘されているトランス脂肪酸が生じる。トランス脂肪酸を多く摂取することにより、虚血性心疾患の発症及び認知機能の低下のリスクが高まることが報告されており、昨今の消費者の食に対する高い安全性の要求により、トランス脂肪酸を含有する食品は、受け入れ難いものとなりつつある。
【0003】
トランス脂肪酸の含有量を低減させたマーガリンあるいはスプレッドの製造法として、マーガリン等にポリグリセリン脂肪酸エステルを含有させる方法(例えば、特許文献1参照)、部分的に水素添加した油脂を用いる方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。しかしながら、これら従来の方法では、トランス脂肪酸の含有量を低減させることはできるが十分とはいい難い。
【0004】
一方、油脂に水素添加を行わないマーガリンあるいはスプレッドの製造方法としては、豆乳に安定剤を混合することでスプレッド様食品を製造する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、この方法で製造されたスプレッド様食品は、十分な粘度を有さず、本来のマーガリンやスプレッドの用途には不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−125358号公報
【特許文献2】特開2009−89684号公報
【特許文献3】特開2002−281927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、トランス脂肪酸を含有せず、パンやクラッカー等に塗るのに最適な粘度を有するスプレッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定のタンパク質含有量及び水分量を有する豆乳に、糖類、さらに脂肪油を混合し、可溶化して得られるスプレッドが、トランス脂肪酸を含有せず、かつ、一定の保形性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下に関する。
1)豆乳に糖類を混合し、当該豆乳・糖混合水溶液に脂肪油を加えて可溶化してなるスプレッドであって、かつ、水分含有量(%(w/w))が18〜30の範囲となるスプレッド。
2)タンパク質含有量(%(w/w))及び水分含有量(%(w/w))の積が5〜40の範囲となる上記1)記載のスプレッド。
3)粘度が15(cm/30秒)以下である上記1)〜2)記載のスプレッド。
4)豆乳に糖類を混合し、当該豆乳・糖混合水溶液に脂肪油を加えて可溶化してなるスプレッドであって、水分含有量(%(w/w))が18〜24の範囲であり、かつ粘度が5(cm/秒)以下となるスプレッド。
5)タンパク質含有量(%(w/w))及び水分含有量(%(w/w))の積が5〜14の範囲となる上記4)記載のスプレッド。
6)L値が53以下である上記5)記載のスプレッド。
7)上記1)〜6)記載のスプレッドを用いた食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスプレッドは、脂肪油に水素添加処理を行わないため、トランス脂肪酸を実質的に含有しない。また、脂肪油を可溶化し、特定の粘度を有するものであるから、例えば、パンやクラッカー等に塗るのに適する保形性を有する。さらに、脂肪油を可溶化する際に、豆乳自体が持つ可溶化能を利用するものであるから、乳化剤等の添加物を必要としない。また、本発明のスプレッドは、熱変性による乳化分離を起こしにくいため、様々な加工食品へ応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】スプレッドのタンパク質含有量及び水分含有量の積とボストウィック粘度計による粘度(cm/30秒)の相関を表す図である。
図2】スプレッドの水分含有量とボストウィック粘度計による粘度(cm/30秒)の相関を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(豆乳)
本発明のスプレッドに用いる豆乳は、特に限定されることはなく、市販の豆乳を用いることができる。本発明のスプレッドが保形性を有するためには、後述する水分含有量及びタンパク質含有量の割合が特に重要であるため、用いる豆乳としては、タンパク質の含有量が3.0〜6.9%(w/v)の豆乳を用いることが好ましい。
市販の豆乳(豆乳飲料、調整豆乳、無調整豆乳等全ての種類を含む)のタンパク質含有量は1.7〜6.9%(w/v)であることから、必要に応じて上記含有量となるよう市販の豆乳を濃縮処理する。濃縮処理は、減圧処理や薄膜処理等の常法を用いることができる。
【0012】
(糖類)
糖類としては、単糖類、オリゴ糖類、デキストリン、水あめ等の水溶性の糖類を挙げることができ、これらを単独で、あるいは併用して用いることができる。その中でも水あめは、本発明のスプレッドを容易に得ることができ、安価なことから好ましい。
糖類を用いる量は、後述するスプレッドにおけるタンパク質含有量及び水分含有量の積が5〜40の範囲となる量から適宜選択することができる。
【0013】
(脂肪油)
脂肪油は、食用に供することができる任意の脂肪油を用いることができる。例えば、綿実油、胡麻油、菜種油、大豆油、紅花油、ひまわり油、コーン油、コメ油、パーム油、ヤシ油、オリーブ油などの植物性油脂及び、加工精製油脂(中鎖脂肪酸等);鶏油、鯨油、魚油などの動物性油脂;オレンジオイル、レモンオイル、ユズオイル、パブリカオイル等の精油;及びマスタードオイル等のスパイスオイル等が挙げられ、これらを単独あるいは併用して用いることができる。パーム油の加工精製油脂(中鎖脂肪酸)は酸化しにいため、長期保存に適し、スプレッドに用いるのにより好ましい。
用いる脂肪油の量は、スプレッドとして一定の保形性を有するよう調整された量であれば特に限定されることはないが、後述する豆乳・糖混合水溶液1重量部に対して0.5〜2.5重量部であることが好ましい。上記範囲を超える、あるいは下回る量では、スプレッドとしての一定の保形性を有さない。
【0014】
(スプレッド)
本発明のスプレッドは、豆乳に糖類を混合して可溶化能を有する豆乳・糖混合水溶液を得て、さらに当該混合水溶液に脂肪油を混合し、可溶化してなるボストウィック粘度計による粘度(25℃)が15(cm/30秒)以下のスプレッドである。上記粘度のスプレッドは、長期間にわたり保形性を有するため、パンやクラッカー等に容易に塗布することができる。
上記粘度を有するスプレッドにおける水分含有量(%(w/w))は18〜30の範囲であり、タンパク質含有量(%(w/w))及び水分含有量(%(w/w))の積は、5〜40の範囲である。スプレッドの可溶化状態が、長期間安定に存続するためには、水分含有量及びタンパク質含有量と水分含有量の積が上記値となることが極めて重要である。スプレッドの保形性を維持するためには、スプレッド中に一定量のタンパク質が含有されていることを要するが、特定濃度のタンパク質含有量を確保するために豆乳の量を増やすと、豆乳由来の水分量が多くなりすぎ、スプレッドの保形性が維持できない。そのため、水分含有量及びタンパク質含有量と水分含有量の積が上記数値の範囲内となるよう調整する必要がある。スプレッドにおける水分含有量が18を下回る場合、あるいは、タンパク質含有量と水分含有量の積が5を下回る場合、脂肪油が豆乳と増粘多糖類の混合物中に均一に分散せず分離してしまう。一方、水分含有量が30を上回る場合、あるいは、タンパク質含有量と水分含有量の積が40を上回る場合、得られるスプレッドが乳化状態となり、ボストウィック粘度計による粘度が15を超えてしまうため、保形性を有さない。
水分含有量が24を上回る場合及びタンパク質含有量と水分含有量の積が14を上回る場合、スプレッドはやや色が白く濁り、若干の流動性を有するようになる(以下、この状態を「緩い可溶化」という。)。そのため、スプレッドとして、より高い保形性を有し、長期間にわたって脂肪油の浮上分離が起こらない水分含有量は18〜24の範囲であり、また、タンパク質含有量と水分含有量の積は5〜14であり、その際の粘度は5(cm/30秒)以下である。
タンパク質含有量と水分含有量の積の値が上記範囲となるスプレッドは、脂肪油がスプレッド中に均一に分散し可溶化状態となる。その場合、油滴が極めて小さくなるため、スプレッドは白濁せず、構成要素である豆乳本来の色調を有する。ハンター式表色系(Lab)によるL値は、53以下である。水分含有量が18を下回る場合、あるいは、タンパク質含有量と水分含有量の積が、5を下回る場合、脂肪油が豆乳と増粘多糖類の混合物中に均一に分散せず、一部が白濁する結果、L値は53を超える。また、水分含有量が30を上回る場合、タンパク質含有量と水分含有量の積が40を上回る場合、得られるスプレッドが乳化状態となり、L値は53を超える。このため、L値は、得られるスプレッド中に脂肪油が均一に可溶化しているか否かの指標となり得る。
【0015】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
液温25℃(室温)の市販の調製豆乳(フードケミファ社製)7.5gと、液温25℃(室温)の水あめ(マルL;昭和産業社製)42.5gを混和して、可溶化能を有する豆乳・糖混合水溶液を調製した。豆乳・糖混合水溶液1重量部に対し、1重量部の市販のサラダ油をハンドミキサー(50/60Hz;ビジュ社製)を用いて撹拌しながら、少しずつ可溶化して、油脂が均一に分散したスプレッドを得た(本発明1)。また比較例として、調製豆乳5.5gと、水あめ45.0を混和して、豆乳・糖混合水溶液を調製後、当該豆乳・糖混合水溶液1重量部に対し、1重量部のサラダ油を、ハンドミキサーを用いて、上記と同様に油脂食品を調整した(比較例1)。
また、表1の配合表に従い、市販の豆腐用豆乳(フードケミファ社製)、無調整豆乳(フードケミファ社製)及び調整豆乳を用いて、油脂が可溶化したスプレッド(本発明)及び油脂食品(比較例)を得た。
【0017】
【表1】

上記工程で得たスプレッド及び油脂食品を70〜75℃になるまで加温、放冷し、その後の性状を目視にて確認後、ボストウィック粘度計(CSC SCIENTIFIC社製)にて、25℃における粘度(cm/30秒)を測定して、粘度を得た。その性状及び粘度を表2及び図1に示す。
【0018】
【表2】

表2及び図1に示すとおり、水分含有量(%(w/w))が18〜30の範囲となるスプレッド、あるいは、タンパク質含有量(%(w/w))及び水分含有量(%(w/w))の積が5〜40の範囲となるスプレッドは、油脂が均一に可溶化しており、ボストウィック粘度計による粘度が15以下となることで保形性を有することが確認された。また、加熱後においても、油脂の浮上分離が起こらず、従来の乳化剤の課題であった優れた加熱後においても安定であることが確認された。一方、水分含有量が18を下回る場合、あるいは、タンパク質含有量及び水分含有量の積が5を下回る場合、油脂が均一に分散せず、油脂の浮上分離が起こった。また、水分含有量が30を上回る場合、あるいは、タンパク質含有量及び水分含有量の積が40を上回る場合は、油脂は乳化状態となり、ボストウィック粘度計による粘度は15を上回り、保形性を有さず、スプレッドとしては適さない性状であった。
また、上記工程で得られたスプレッド及び油脂食品のうち、本発明1及び3並びに比較例3のL値を測色色差計(ZE−200;日本電色工業社製)を用いて測定した。本発明1及び3のL値は52.6及び46.0であり、比較例3のL値は67.1であった。
【実施例2】
【0019】
無調整豆乳135gに水25gと市販の三温糖50gを混合し、豆乳・糖類混合水溶液を調製した。当該豆乳・糖類混合水溶液に、市販のサラダ油225gを少しずつ加えながら可溶化し、スプレッドを得た。当該スプレッドのタンパク質含有量及び水分含有量の積は5.72であり、ボストウィック粘度計による粘度は2.7(cm/30秒)であった。当該スプレッドに、市販の黒蜜15gを加え、達温70℃まで加熱後、市販の香料0.04gを加えて黒蜜豆乳スプレッドを得た。この黒蜜豆乳スプレッドは、加熱後においても脂肪油の浮上分離が起こらず、パンやクラッカーに塗るのに適する保形性を有していた。
【実施例3】
【0020】
無調整豆乳135gに水25gと市販のグラニュー糖50gを混合し、豆乳・糖類混合水溶液を調製した。当該豆乳・糖類混合水溶液に、市販のサラダ油225gを少しずつ加えながら可溶化し、スプレッドを得た。当該スプレッドのタンパク質含有量及び水分含有量の積は5.72であり、ボストウィック粘度計による粘度は2.7(cm/30秒)であった。当該スプレッドに、市販のゼラチン50gを水50gに加熱溶解したものを加えて、達温70℃まで加熱した。加熱後、市販のバニラエッセンス0.04gを加え、容器に移して成形し、豆乳クリームブリュレを得た。当該豆乳クリームブリュレは、保存後においても脂肪油の浮上分離が起こらず、また、スプレッドの有する可溶化能により、バニラエッセンスの香りが良好に保たれ、優れた風味を呈していた。
図1
図2