特許第5782213号(P5782213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5782213
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】多管式反応器の腐食防止方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20150907BHJP
【FI】
   B01J19/00 H
   B01J19/00 321
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2008-27667(P2008-27667)
(22)【出願日】2008年2月7日
(65)【公開番号】特開2009-183887(P2009-183887A)
(43)【公開日】2009年8月20日
【審査請求日】2011年2月1日
【審判番号】不服2014-20450(P2014-20450/J1)
【審判請求日】2014年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】福井 友基
(72)【発明者】
【氏名】百冨 宣生
(72)【発明者】
【氏名】新田 正範
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊裕
(72)【発明者】
【氏名】富川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】黒田 徹
【合議体】
【審判長】 豊永 茂弘
【審判官】 岩田 行剛
【審判官】 日比野 隆治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−310123(JP,A)
【文献】 特開2006−159197(JP,A)
【文献】 特開平02−057864(JP,A)
【文献】 特開昭58−052934(JP,A)
【文献】 特開2003−064490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J19/00-19/32
C07B61/00
F28D7/00-7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の反応管をシェル内に配置した多管式反応器の腐食防止方法であって、
前記シェル内の前記反応管外に導入される熱媒である亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウムおよび硝酸ナトリウムを含む溶融塩の少なくとも一部を、前記シェル内から抜いた際に、前記シェル内に形成される気相部の水分が0.5〜1体積%、かつ前記気相部の酸素濃度が4〜5体積%になるまで前記シェル内に置換ガスを通気し、前記気相部の水分を0.5〜1体積%、かつ前記気相部の酸素濃度を4〜5体積%に保持する、多管式反応器の腐食防止方法。
【請求項2】
前記置換ガスが、水分が0.5体積%以下のガスである、請求項1に記載の多管式反応器の腐食防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多管式反応器の腐食防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクロレイン、(メタ)アクリル酸等は、触媒が充填された複数の反応管をシェル内に配置した多管式反応器を用いた気相接触酸化反応によって製造される。
該多管式反応器においては、反応管内の温度を調節するために、多管式反応器と熱媒ドラムとの間で循環する熱媒が、シェル内の反応管外に導入される(たとえば、特許文献1)。そして、(メタ)アクロレイン、(メタ)アクリル酸等の製造を終了した際には、熱媒の循環も停止され、熱媒はシェル内から抜き取られ、シェル内には代わりに空気が流れ込む。
【0003】
しかし、シェル内から熱媒を完全に抜き取ることは困難であり、シェル内の反応管外に熱媒が残留する。そして、シェル内に残留する熱媒がシェル内の空気中の水分を吸収するため、該水分によって炭素鋼(シェルの内壁および反応管の外壁。)が腐食する場合がある。特に、熱媒として溶融塩(亜硝酸ナトリウム、硝酸ナトリウムおよび硝酸カリウム。)を用いた場合、溶融塩が吸湿しやすいため、炭素鋼の腐食が起こりやすい。
【特許文献1】特開2001−310123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、シェル内の反応管外に導入される熱媒の少なくとも一部を抜いた状態におけるシェル内の腐食を抑えることができる多管式反応器の腐食防止方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の多管式反応器の腐食防止方法は、複数の反応管をシェル内に配置した多管式反応器の腐食防止方法であって、前記シェル内の前記反応管外に導入される熱媒である亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウムおよび硝酸ナトリウムを含む溶融塩の少なくとも一部を、前記シェル内から抜いた際に、前記シェル内に形成される気相部の水分が0.5〜1体積%、かつ前記気相部の酸素濃度が4〜5体積%になるまで前記シェル内に置換ガスを通気し、前記気相部の水分を0.5〜1体積%、かつ前記気相部の酸素濃度を4〜5体積%に保持することを特徴とする。
【0007】
記置換ガスは、水分が0.5体積%以下のガスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多管式反応器の腐食防止方法によれば、シェル内の反応管外に導入される熱媒の少なくとも一部を抜いた状態におけるシェル内の腐食を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書においては、(メタ)アクロレインとは、アクロレインまたはメタクロレインを意味し、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
【0010】
図1は、(メタ)アクロレイン、(メタ)アクリル酸等の製造装置の一例を示す概略図である。製造装置1は、多管式反応器10と、熱媒を貯留する熱媒ドラム12と、熱媒ドラム12に隣接して設けられた熱媒加熱炉(図示略)と、熱媒から熱を回収する熱交換器14と、多管式反応器10との間で熱媒を循環させるポンプタンク16と、熱媒ドラム12の熱媒を、熱交換器14を経てポンプタンク16に供給する熱媒供給流路20と、多管式反応器10とポンプタンク16との間で熱媒を循環させる熱媒循環流路22と、ポンプタンク16でオーバーフローした熱媒を熱媒ドラム12に返送する熱媒返送流路24と、熱媒循環流路22の最も低い位置から分岐し、多管式反応器10とポンプタンク16との間で循環する熱媒を熱媒ドラム12に回収する熱媒回収流路26と、ポンプタンク16に空気を導入する空気導入流路28と、熱媒回収流路26の途中に設けられた弁30と、空気導入流路28の途中に設けられた弁32とを具備する。
【0011】
多管式反応器10は、図2に示すように、触媒が充填された複数の反応管40と、反応管40を収納するシェル42と、反応管40の入口側に設けられた下部チャンネル44と、反応管40の出口側に設けられた上部チャンネル46と、反応管40の両端を束ねた状態でシェル42に固定されることによって、シェル42と下部チャンネル44、およびシェル42と上部チャンネル46とを仕切る管板48とを具備する。シェル42の周壁には、熱媒導入口50および熱媒排出口52が設けられ、下部チャンネル44には原料ガス導入口54が設けられ、上部チャンネル46には反応ガス排出口56が設けられている。
【0012】
熱媒ドラム12には、熱媒を送り出すポンプ34と、装置の運転を停止している間の熱媒の固化を防止するための蒸気コイル36とが設けられている。
熱交換器14は、多管式反応器10の反応熱で温度が上昇した熱媒から熱を回収し、上昇した分だけ熱媒の温度を下げるものである。熱媒循環流路22および熱媒返送流路24は、多管式反応器10の反応熱で温度が上昇した熱媒がポンプタンク16において優先的にオーバーフローし、熱媒ドラム12に返送されるように配設される。
【0013】
熱媒としては、溶融塩(いわゆるナイター。)、溶融金属、有機熱媒体等が挙げられ、熱安定性、取扱性等の点から、ナイターが好ましい。
ナイターとは、亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム等を含んだ高温用熱媒体であり、通常、亜硝酸ナトリウム40質量%、硝酸ナトリウム7質量%および硝酸カリウム53質量%の混合物が用いられる。
【0014】
つぎに、製造装置1を用いた(メタ)アクロレインの製造、および(メタ)アクリル酸の製造について説明する。
【0015】
(メタ)アクロレインの製造:
多管式反応器10の反応管40内に触媒を充填する。
熱媒ドラム12内の熱媒を熱媒加熱炉との間で循環させ、所定の温度まで加熱する。
熱媒ドラム12内の熱媒をポンプタンク16に連続的に供給する。
該熱媒をポンプタンク16と多管式反応器10との間で循環させることによって、多管式反応器10のシェル42内に熱媒を導入し、反応管40内を所定の反応温度に昇温する。
【0016】
多管式反応器10の下部チャンネル44内に原料ガス導入口54から原料ガスを供給し、該原料ガスを所定の空間速度にて反応管40内を通過させる。
反応管40から排出される(メタ)アクロレインを含む反応ガスは、上部チャンネル46内を通って反応ガス排出口56から排出される。
原料ガスの反応によって発生する反応熱は、シェル42内の熱媒にて回収する。
【0017】
多管式反応器10の反応熱で温度が上昇し、ポンプタンク16に返送された熱媒を、ポンプタンク16において優先的にオーバーフローさせ、熱媒ドラム12に返送する。
熱媒ドラム12内の熱媒の温度が上昇するため、熱媒ドラム12内の熱媒をポンプタンク16に供給する際に、熱交換器14にて熱媒から熱を回収し、多管式反応器10の反応熱で温度が上昇した分だけ熱媒の温度を下げる。
【0018】
触媒としては、モリブデン、ビスマスおよび鉄を含む多元系酸化物触媒粒子等が挙げられる。
原料ガスとしては、イソブチレン、t−ブタノールおよびメチル−t−ブチルエーテルからなる群から選ばれる1種以上のガスの1〜20体積%、分子状酸素の1〜20体積%、水蒸気の0〜40体積%、および不活性ガス(窒素、炭酸ガス等。)を含む混合ガスが挙げられる。
【0019】
反応温度は、通常、300〜450℃である。
空間速度としては、500〜3000hr−1が好ましい。
熱媒の温度は、通常、熱交換器14の出口において、300〜450℃である。
【0020】
(メタ)アクリル酸の製造:
触媒、原料ガス、反応温度、熱媒の温度を変更する以外は、(メタ)アクロレインの製造と同様にして(メタ)アクリル酸の製造を行う。
【0021】
触媒としては、リンモリブデン酸系へテロポリ酸またはその金属塩からなる触媒粒子等が挙げられる。
原料ガスとしては、(メタ)アクロレインの1〜20体積%、分子状酸素の1〜20体積%、水蒸気の3〜40体積%、不活性ガス(窒素、炭酸ガス等。)を含む混合ガスが挙げられる。
反応温度は、通常、200〜400℃である。
熱媒の温度は、通常、熱交換器14の出口において、200〜400℃である。
【0022】
つぎに、製造装置1の運転停止および多管式反応器10の腐食防止方法について説明する。
【0023】
多管式反応器10への原料ガスの供給を停止する。
熱媒ドラム12内の熱媒のポンプタンク16への供給、およびポンプタンク16と多管式反応器10との間での熱媒の循環を停止する。
【0024】
空気導入流路28の弁32および熱媒回収流路26の弁30を開き、ポンプタンク16、多管式反応器10および熱媒循環流路22内の熱媒を、重力によって熱媒ドラム12に自然落下させる。
弁30および弁32を閉じた後、2本の熱媒循環流路22における配管接合部分を、それぞれ一箇所ずつ切り離し、図3に示すように、多管式反応器10のシェル42内へ置換ガスを導入するガス導入口60、およびシェル42内の空気および置換ガスを排出するガス排出口62を形成する。
【0025】
ガス導入口60からシェル42内の反応管40外に置換ガスを導入し、シェル42内の反応管40外の気相部に存在する空気、さらには置換ガスの一部をガス排出口62から排出する。
シェル42内の気相部の水分が所定の濃度以下になるまでシェル42内に置換ガスを通気した後、ガス導入口60およびガス排出口62に閉止板を取り付け、シェル42内の気相部を外気から遮断し、気相部の水分を所定の濃度以下に保持する。
【0026】
置換ガスとしては、水分が0.5体積%以下のガスが好ましい。置換ガスとしては、例えば、不活性ガス(窒素ガス、希ガス、炭酸ガス等。)、乾燥空気等が挙げられ、窒素ガスが好ましい。
【0027】
シェル42内への置換ガスの通気は、シェル42内の気相部の水分が1体積%以下になるまで行い、気相部の水分を1体積%以下に保持することが好ましい。気相部の水分が1体積%以下であれば、シェル42内の腐食を充分に抑えることができる。
気相部の水分は、置換ガスの通気の間、ガス排出口62から排出されるガスの水分を測定することによって確認できる。ガス排出口62から排出されるガスの水分は、カールフィッシャー水分計を用いて測定できる。
【0028】
シェル42内への置換ガスの通気は、シェル42内の気相部の酸素濃度が5体積%以下になるまで行い、気相部の酸素濃度を5体積%以下に保持することが好ましい。シェル42内の気相部の酸素濃度が5体積%以下であれば、シェル42内の腐食(酸化)をさらに抑えることができる。
気相部の酸素濃度は、置換ガスの通気の間、ガス排出口62から排出されるガスの酸素濃度を測定することによって確認できる。ガス排出口62から排出されるガスの酸素濃度は、酸素濃度計を用いて測定できる。
【0029】
以上説明した多管式反応器10の腐食防止方法にあっては、シェル42内の反応管40外に導入される熱媒をシェル42内から抜いた際に、シェル42内に形成される気相部の一部を置換ガスで置換するため、シェル42内の気相部の水分を低減できる。そのため、シェル42内に残留する熱媒がシェル42内の気相部の水分を吸収することによって発生するシェル42の内壁および反応管40の外壁の腐食が抑えられる。
【0030】
なお、本発明の多管式反応器の腐食防止方法は、上述の方法に限定はされない。例えば、置換ガスを、ガス排出口62から導入し、ガス導入口60から排出してもよい。また、多管式反応器10から熱媒循環流路22の配管を切り離し、多管式反応器10のシェル42の熱媒導入口50および熱媒排出口52を、ガス導入口60およびガス排出口62としてもよい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を示す。
〔実施例1〕
多管式反応器10への原料ガスの供給を停止し、メタクロレインの製造を終了した後、熱媒ドラム12内の溶融塩のポンプタンク16への供給、およびポンプタンク16と多管式反応器10との間での溶融塩の循環を停止した。
空気導入流路28の弁32および熱媒回収流路26の弁30を開き、ポンプタンク16、多管式反応器10および熱媒循環流路22内の溶融塩を、重力によって熱媒ドラム12に自然落下させた。
【0032】
弁30および弁32を閉じた後、2本の熱媒循環流路22における配管接合部分を、それぞれ一箇所ずつ切り離し、図3に示すように、多管式反応器10のシェル42内へ窒素ガスを導入するガス導入口60、およびシェル42内の空気および窒素ガスを排出するガス排出口62を形成した。シェル42内の気相部の酸素濃度は21体積%、水分濃度は2.5体積%であった。
ガス導入口60からシェル42内の反応管40外に窒素ガス(水分0体積%)を導入し、シェル42内の反応管40外の気相部に存在する空気、さらには窒素ガスの一部をガス排出口62から排出した。
【0033】
ガス排出口62から排出されるガスの酸素濃度を測定し、該ガスの酸素濃度が4体積%になるまでシェル42内に窒素ガスを通気した。通気終了直前の、ガス排出口62から排出されるガスの水分は0.5体積%であった。通気終了後、ただちにガス導入口60およびガス排出口62に閉止板を取り付け、シェル42内の気相部を外気から遮断し、気相部の水分を0.5体積%、酸素濃度を4体積%に保持した。
30日後、シェル42内を目視にて観察したところ、シェル42の内壁および反応管40の外壁の腐食は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の多管式反応器の腐食防止方法は、メンテナンス等により多管式反応器のシェルから熱媒を抜き取った後の、シェル内の腐食防止対策として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】(メタ)アクロレイン、(メタ)アクリル酸等の製造装置の一例を示す概略図である。
図2】多管式反応器の一例を示す断面図である。
図3図1の製造装置の熱媒循環流路にガス導入口およびガス排出口を形成した様子を示す概略図である。
【符号の説明】
【0036】
10 多管式反応器
40 反応管
42 シェル
図1
図2
図3