【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の触媒の存在下、プロピレン、2級アルコール、分子状酸素を接触することにより、過酸化物を使用することなく安全にプロピレンオキシドを製造することが可能となるとともに、特定の工程を経ることにより副生品を再度原料として循環することが可能な製造方法となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、少なくとも下記の工程(A)〜(D)を行うことを特徴とするプロピレンオキシドの製造方法に関するものである。
工程(A):触媒としてパラジウム錯体および結晶性チタノシリケートを用い、プロピレン、2級アルコールおよび分子状酸素を接触し、プロピレンオキシドおよびケトンを生成する工程。
工程(B):工程(A)の後、未反応のプロピレンと分子状酸素を分離する工程。
工程(C):工程(B)の後、プロピレンオキシドを分離する工程。
工程(D):工程(C)の後のケトンと分子状水素を水素化触媒の存在下で接触し、2級アルコールに転化し、該2級アルコールを該工程(A)における2級アルコールとして循環する工程。
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のプロピレンオキシドの製造方法は、少なくとも上記の工程(A)〜(D)を行うことによりプロピレンオキシドを製造するものであり、該工程(A)〜(D)を行うことにより、過酸化物をハンドリングすることなく、安全性かつ経済性に優れる製造方法となるものである。また、該工程(A)〜(D)を行っていれば付加的工程を付随することも可能である。
【0012】
本発明の製造方法の工程(A)は、触媒としてパラジウム錯体および結晶性チタノシリケートを用い、プロピレン、2級アルコールおよび分子状酸素を接触し、プロピレンオキシドおよびケトンを生成する工程であり、プロピレンオキシドを生成すると共に副生品としてケトンを同時に製造する工程である。なお、プロピレンオキシドは、プロピレンの酸化により生成し、ケトンは2級アルコールより生成するものである。
【0013】
該工程(A)においては、触媒としてパラジウム錯体及び結晶性チタノシリケートを用いるものである。ここで、パラジウム錯体単独又は結晶性チタノシリケート単独を触媒として用いてもプロピレンオキシド及びケトンを同時に製造することはできない。
【0014】
該パラジウム錯体としては、パラジウム錯体の範疇に属するものであれば如何なる制限を受けることなく用いることが可能であり、その中でも特に原材料として過酸化水素を用いずに高活性かつ高選択的、さらに安全にプロピレンオキシドを製造することが可能となることから2価のパラジウム錯体であることが好ましい。このような2価のパラジウム錯体は、通常、配位子を有しており、該配位子としては、例えば窒素系配位子、リン系配位子、酸素系配位子等を挙げることができ、その中でも、特に高活性かつ高選択的にプロピレンオキシドの製造が可能となることから、窒素系の芳香族系複素環化合物配位子であることが好ましい。
【0015】
該窒素系の芳香族系複素環化合物配位子としては、例えば、ビピリジン配位子、メチルビピリジン配位子、エチルビピリジン配位子、プロピルビピリジン配位子、ブチルビピリジン配位子、ジメチルビピリジン配位子、ジエチルビピリジン配位子、ジプロピルビピリジン配位子、ジブチルビピリジン配位子、トリメチルビピリジン配位子、トリエチルビピリジン配位子、トリプロピルビピリジン配位子、トリブチルビピリジン配位子、フェニルビピリジン配位子、ジフェニルビピリジン配位子等の二座配位のビピリジン系配位子;ビキノリン配位子、メチルビキノリン配位子、エチルビキノリン配位子、プロピルビキノリン配位子、ブチルビキノリン配位子、ジメチルビキノリン配位子、ジエチルビキノリン配位子、ジプロピルビキノリン配位子、ジブチルビキノリン配位子、トリメチルビキノリン配位子、トリエチルビキノリン配位子、トリプロピルビキノリン配位子、トリブチルビキノリン配位子、フェニルビキノリン配位子、ジフェニルビキノリン配位子等の二座配位のビキノリン系配位子;フェナントロリン配位子、メチルフェナントロリン配位子、エチルフェナントロリン配位子、プロピルフェナントロリン配位子、ブチルフェナントロリン配位子、ジメチルフェナントロリン配位子、ジエチルフェナントロリン配位子、ジプロピルフェナントロリン配位子、トリメチルフェナントロリン配位子、トリエチルフェナントロリン配位子、トリプロピルフェナントロリン配位子、テトラメチルフェナントロリン配位子、テトラエチルフェナントロリン配位子、テトラプロピルフェナントロリン配位子、フェニルフェナントロリン配位子、ジフェニルフェナントロリン配位子、トリフェニルフェナントロリン配位子、ペンタフェニルフェナントロリン配位子、メチルフェニルフェナントロリン配位子、ジメチルフェニルフェナントロリン配位子、ジメチルジフェニルフェナントロリン配位子、バソフェナントロリンジスルホン酸配位子等の二座配位のフェナントロリン系配位子;ピリジン配位子、メチルピリジン配位子、エチルピリジン配位子、プロピルピリジン配位子、ブチルピリジン配位子、ジメチルピリジン配位子、ジエチルピリジン配位子、ジプロピルピリジン配位子、ジブチルピリジン配位子、ジペンチルピリジン配位子、ジヘキシルピリジン配位子、トリメチルピリジン配位子、トリエチルピリジン配位子、トリプロピルピリジン配位子、トリブチルピリジン配位子、テトラメチルピリジン配位子、テトラエチルピリジン配位子、テトラプロピルピリジン配位子、テトラブチルピリジン配位子、ペンタメチルピリジン配位子、ペンタエチルピリジン配位子、ペンタプロピルピリジン配位子、ペンタブチルピリジン配位子、フェニルピリジン配位子、ジフェニルピリジン配位子、トリフェニルピリジン配位子、ペンタフェニルピリジン配位子、ヘキサフェニルピリジンメチルフェニルピリジン配位子等の単座配位のピリジン系配位子;キノリン配位子、メチルキノリン配位子、エチルキノリン配位子、プロピルキノリン配位子、ジメチルキノリン配位子、ジエチルキノリン配位子、ジプロピルキノリン配位子、トリメチルキノリン配位子、トリエチルキノリン配位子、トリプロピルキノリン配位子、トリブチルキノリン配位子、トリペンチルキノリン配位子、トリヘキシルキノリン配位子、テトラメチルキノリン配位子、テトラエチルキノリン配位子、テトラプロピルキノリン配位子、ペンタメチルキノリン配位子、ペンタエチルキノリン配位子、ペンタプロピルキノリン配位子、ペンタブチルキノリン配位子、フェニルキノリン配位子、ジフェニルキノリン配位子、トリフェニルキノリン配位子、ペンタフェニルキノリン配位子等の単座配位のキノリン系配位子、等が挙げられる。
【0016】
そして、特に、高活性かつ高選択的な製造が可能となると共に、触媒としての安定性が高いことから、二座配位子のフェナントロリン系化合物配位子が好ましく、更にジメチルジフェニルフェナントロリン配位子であることが好ましい。
【0017】
また、該2価のパラジウム錯体は、価数を持つため結合可能な置換基を有するものであってもよく、該置換基としては、限定はなく、例えば塩酸基、硝酸基、硫酸基、アセテート基、アセチルアセトナート基等が挙げられ、その中でも高活性かつ高選択的な製造が可能となることから、アセテート基、アセチルアセトナート基が好ましく、特にアセテート基が好ましい。
【0018】
そして、特に過酸化水素を必要とせず、高活性、高選択的にプロピレンオキシドを安全に製造すると同時にケトンも製造することができると共に、安定性の高い触媒となることから、下記一般式(1)で表されるパラジウム錯体であることが好ましい。
Pd(OAc)
2L (1)
(式中、OAcはアセテート基を表し、Lはフェナントロリン系化合物配位子を示す。)
該パラジウム錯体はいかなる方法により調製されたものであってもよく、例えばパラジウム塩と配位子を溶媒中で撹拌する方法が挙げられる。ここで使用する溶媒として、特に制限はなく、例えば後記の反応で使用する溶媒を挙げることができる。また、パラジウム塩としては、例えば塩化パラジウム、臭化パラジウム、よう化パラジウム、水酸化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム等の無機塩;テトラクロロパラジウム酸アンモニウム、ヘキサクロロパラジウム酸アンモニウム、ジアンミンジクロロパラジウム、亜硝酸ジアンミンパラジウム等の無機錯塩;ビス(アセチルアセトナート)パラジウム、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム、塩化アリルパラジウム、ジクロロ(テトラメチルエチレンジアミン)パラジウム、ジクロロビス(ピリジン)パラジウム、ジクロロ(シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロ(エチレンジアミン)パラジウム等の有機錯塩;酢酸パラジウム、シュウ酸パラジウム等の有機酸塩、等が挙げられ、その中でも、触媒活性および選択性が高くなることから、有機酸塩が好ましく、特に酢酸パラジウムが好ましい。
【0019】
該結晶性チタノシリケ−トは、ゼオライト構造を有する結晶性SiO
2(シリカライトと称されることもある。)の結晶格子を形成するケイ素の一部をチタニウムで置き換えた一般式nSiO
2・(1−n)TiO
2で表される合成ゼオライト物質である。ここで、nは通常0.8〜0.999である。該結晶性チタノシリケートの構造は、特に限定するものではなく結晶性チタノシリケートと称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えば国際ゼオライト学会の構造コードで示されるBEA型、DON型、ITQ型、MFI型、MOR型、MWW型等の構造を挙げることができ、その中でも、高活性かつ高選択的にプロピレンオキシド及びケトンを製造することが可能となることから、MFI型の構造であることが好ましい。
【0020】
該結晶性チタノシリケートの合成法としては、例えば特開昭56−96720号公報、特開昭60−127217号公報等に記載の方法により合成することが可能である。
【0021】
また、該結晶性チタノシリケートには、必要に応じて、ホウ素、アルミニウム、リン、カルシウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム等が含まれてもよく、これら金属の酸化物源を加えて、異元素含有の結晶性チタノシリケートとしてもよい。また、該結晶性チタノシリケートは、そのまま使用してもよく、成型して使用してもよい。成型して使用する場合には、一般にはバインダーを用いるが、該バインダーとしては、例えばシリカ、アルミナ等を挙げることができる。
【0022】
該工程(A)においては、触媒として該パラジウム錯体及び該結晶性チタノシリケートを用いることにより、プロピレンオキシド及びケトンの選択性、生産効率に優れた工程となるものである。
【0023】
該工程(A)における該結晶性チタノシリケートの使用量は反応形式により適宜選択することが可能であり、例えば固定床連続流通式でプロピレンオキシド及びケトンの製造を行う場合には、反応速度や熱収支によりその使用量を決定すればよく、その中でも製造の際の反応が効率的に進行することから、重量時間空間速度(WHSV)として、0.01〜1000hr
−1であることが好ましく、特に0.1〜100hr
−1であることが好ましい。ここで、重量時間空間速度(WHSV)とは、単位触媒重量当たりの単位時間(hr)に対するプロピレンの供給量の合計重量を表すものである。また、懸濁床の回分式、または、半回分式でプロピレンオキシド及びケトンの製造を行う場合には、溶媒に対して0.0001〜30重量%であることが好ましく、特に0.001〜10重量%であることが好ましい。
【0024】
該工程(A)における該パラジウム錯体の使用量は、反応形式により適宜選択することが可能であり、例えば固定床連続流通式でプロピレンオキシド及びケトンの製造を行う場合には、反応速度や熱収支によりその使用量を決定すればよく、その中でも製造の際の反応が効率的に進行することから、溶媒に対して0.000001〜30重量%であることが好ましく、特に0.00001〜10重量%であることが好ましい。また、結晶性チタノシリケートとの比は適宜選択することが可能であり、例えば固定床連続流通式でプロピレンオキシド及びケトンの製造を行う場合には、反応速度や熱収支によりその使用量を決定すればよく、結晶性チタノシリケートの重量に対し、0.0001〜1000重量%、反応が効率的に進行することから、好ましくは0.001〜100重量%である。
【0025】
該工程(A)における2級アルコールとしては、2級アルコールの範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えば2−プロパノール、2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、シクロオクタノール、シクロノナノール、シクロデカノール、1−フェニルエタノール、1−フェニルプロパノール、ベンズヒドロール、ジシクロヘキシルメタノール等を挙げることができ、特に製造の際の反応が効率的に進行することから2−プロパノール、2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、1−フェニルエタノール、ベンズヒドロール、ジシクロヘキシルメタノールが好ましい。更に、入手の容易さから2−プロパノールが好ましい。
【0026】
また、2級アルコールの使用量としては、本発明の製造方法が実施できる限りにおいて制限を受けることはなく、特に製造の際の反応が効率的に進行することから、プロピレン1モルに対し0.1〜1000モルが好ましく、特に1〜100モルで用いることが好ましい。
【0027】
該工程(A)における分子状酸素としては、分子状酸素の範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えば酸素ガスからなる純酸素;窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガスで希釈された酸素はもとより、空気であってもよい。また、該分子状酸素の使用量としては、如何なる制限を受けることはなく、特に製造の際の反応が効率的に進行することから、プロピレン1モルに対し0.01〜100モルが好ましく、特に0.1〜50モルが好ましい。また、反応時の酸素圧に制限はなく、例えば常圧〜10MPa、高活性、高選択的かつ触媒の安定性が高いことから、好ましくは0.2〜5MPa、さらに好ましくは0.2〜2MPaである。
【0028】
該工程(A)により得られるケトンは、水素化により2級アルコールとなるものであり、該ケトンとしては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルブチルケトン、エチルプロピルケトン、メチルペンチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、メチルヘキシルケトン、エチルペンチルケトン、プロピルブチルケトン、メチルヘプチルケトン、エチルヘキシルケトン、プロピルペンチルケトン、ジブチルケトン、メチルオクチルケトン、エチルヘプチルケトン、プロピルヘキシルケトン、ブチルペンチルケトン、メチルウンデシルケトン、エチルデシルケトン、プロピルノニルケトン、ブチルオクチルケトン、ペンチルヘプチルケトン、ジヘキシルケトン、メチルトリデシルケトン、エチルドデシルケトン、プロピルウンデシルケトン、ブチルデシルケトン、ペンチルノニルケトン、ヘキシルオクチルケトン、ジヘプチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロノナノン、シクロデカノン、フェニルメチルケトン、フェニルエチルケトン、フェニルプロピルケトン、フェニルブチルケトン、フェニルペンチルケトン、フェニルヘキシルケトン、フェニルヘプチルケトン、フェニルオクチルケトン、フェニルノニルケトン、ジフェニルケトン等が挙げられる。
【0029】
該工程(A)は、液相で行うことが好ましく、その際の溶媒としては如何なる限定を受けるものではなく、上記した2級アルコールを溶媒として用いることも可能である。また、他の溶媒として、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール及びオクタノール等の1級アルコール類;エチレングリコ−ルやプロピレングリコール等のグリコール類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸等のカルボン酸類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、テトラクロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類;ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド等のアミド類、又は水等が用いられる。そして、プロピレンオキシド及びケトンの製造がより効率的に行えることから、ハロゲン化炭化水素類、2級アルコール、エステル類、ニトリル類、アミド類、水を溶媒として用いることが好ましい。
【0030】
該工程(A)の反応温度としては、副反応を抑制しつつ高い反応速度での製造が可能となることから0〜150℃であることが好ましく、更に20〜130℃、特に40〜100℃であることが好ましい。また、反応圧力としては、常圧〜20MPaが好ましく、特に常圧〜5MPaであることが好ましい。なお、プロピレンは気体又は液体のいずれの状態でも用いることができ、液体状態で用いる場合には加圧下で反応すればよい。
【0031】
該工程(A)におけるプロピレン、2級アルコール、分子状酸素および触媒としてのパラジウム錯体、結晶性チタノシリケートの仕込み方法に制限はなく、例えばプロピレン、2級アルコール、分子状酸素および触媒としてのパラジウム錯体、結晶性チタノシリケートを一括して反応装置に仕込む回分式、反応装置にプロピレン、2級アルコール及び分子状酸素を連続的に供給する半回分式、プロピレン、2級アルコール及び分子状酸素を連続的に供給するとともに、未反応ガス及び反応液を連続的に抜き出す固定床又は懸濁床の連続式、等のいずれの方法でも実施できる。
【0032】
本発明の製造方法の工程(B)は、工程(A)の後、得られた反応生成物から未反応のプロピレン及び分子状酸素を分離・回収する工程であり、その際の方法に制限はなく、プロピレン及び分子状酸素は通常気体であることから反応系を開放することにより該反応生成物から分離することが可能である。また、例えばフラッシュ蒸留、減圧法などの方法により分離・回収することができる。そして、該工程(B)により分離した未反応のプロピレン及び/又は分子状酸素は、工程(A)に循環しリサイクルすることもできる。その際は消費されたプロピレンと分子状酸素に対応した量を追加すれば良い。
【0033】
本発明の製造方法の工程(C)は、工程(B)により未反応のプロピレン及び分子状酸素を分離した後に、反応生成物であるプロピレンオキシドを分離・回収する工程であり、例えば蒸留により分離することができる。その際の蒸留条件として、例えば塔底部の温度を40〜120℃とし、圧力を0.01〜0.3MPaで蒸留することにより、プロピレンオキシドを分離・回収することができる。
【0034】
本発明の製造方法の工程(D)は、工程(C)によりプロピレンオキシドを分離した後に残存する副生品であるケトンと分子状水素とを水素化触媒の存在下で接触し、ケトンを2級アルコールに転化し、該2級アルコールを工程(A)に循環しリサイクルする工程である。
【0035】
この際、副生品であるケトンを残存する反応系としては、ケトンを残存するものであれば特に制限はなく、例えば工程(C)によりプロピレンオキシドを分離・回収した反応系をそのまま用いることも可能であり、その中でも、特に生産効率に優れるプロピレンオキシドの製造方法となることから、該工程(C)の後にケトン分離工程(D1)を付随し、分離・回収したケトンを水素化するものであることが好ましく、さらに未反応の2級アルコール分離工程(D2)を付随するものであることが好ましい。該未反応の2級アルコールは、工程(A)に循環しリサイクルすることもできる。
【0036】
該工程(D)における水素化触媒としては、特に制限はなく、例えばパラジウム、白金、クロム、ロジウム、ルテニウム、クロム、ニッケル及びコバルトからなる群より選ばれる金属を含有する水素化触媒であり、これらの金属の粒子、固体、担体に担持された状態でも良く、好ましくは金属状態であることが好ましい。また、ケトンの水素化が効率的に進むことから、ラネーニッケル触媒であることが好ましい。
【0037】
該分子状水素としては、分子状水素の範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えば水素ガスからなる純水素;窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガスで希釈された水素であってもよい。
【0038】
該工程(D)においてケトンの水素化を行う際には溶媒存在下で行うことも可能であり、その際の溶媒としてはケトンの水素化が可能であればいかなる溶媒を用いることも可能であり、その中でも効率よく工程(A)への循環が可能となることから2級アルコールであることが好ましく、特に未反応の2級アルコールを溶媒として用い、ケトンの水素化を行い工程(A)に循環することが好ましい。
【0039】
該工程(D)における水素化反応の条件としては、ケトンの水素化により2級アルコールに転化すれば、特に制限されるものではなく、例えば反応温度30〜180℃、水素圧0.05〜10MPa、水素/ケトン(モル比)=1〜10/1で行うことが可能である。また、重量時間空間速度(WHSV)として、0.1〜10hr
−1が例示できる。また、反応形式としては、例えばバッチ式、半回分式、流通式等が例示される。そして、水素化工程後、必要で有れば副生した水を除去することが好ましく、その際の方法としては、例えば、蒸留や分離膜等を用いた分離等が例示される。
【0040】
本発明の製造方法においては、触媒として用いた結晶性チタノシリケート、パラジウム錯体の分離は、何れの工程で行ってもよく、結晶性チタノシリケートの分離方法としては、例えばろ過や蒸留等の方法が挙げられる。また、パラジウム錯体の分離方法としては、例えば蒸留等の方法により分離することができる。分離した結晶性チタノシリケート、パラジウム錯体は工程(A)に循環しリサイクルすることもできる。
【0041】
本発明のプロピレンオキシドの製造方法の具体的例示として、2級アルコールとして2−プロパノールを用い、ケトンとしてアセトンを生成し、循環した際のフロー図を
図1に示す。
【0042】
ここで、Aは、触媒下にプロピレン、2−プロパノール及び分子状酸素を接触し、プロピレンオキシド及びアセトンを生成する反応工程である。Bは、反応後の生成物から未反応のプロピレン及び分子状酸素を分離する工程である。Cは、生成物であるプロピレンオキシドを分離する工程である。Dは、副生品であるアセトンと分子状水素を水素化触媒の存在下で接触し、2−プロパノールに転化する工程である。そして、1は、プロピレン、2−プロパノールおよび分子状酸素のAへの供給ライン、2は、AからBへの供給ライン。3は、BからCへの供給ライン。4は、Bにより分離された未反応プロピレンの循環ライン。5は、Cにより分離されたプロピレンオキシドの回収ライン。6はCからDへの供給ライン。7は分子状水素の供給ライン。8は、Dからの2−プロパノールの供給ライン。9,10は2−プロパノールの供給ライン。11,12はプロピレンの供給ライン。13は、プロピレン及び2−プロパノールの供給ライン。14は分子状酸素の供給ラインを示す。
【0043】
Aでは、ライン1からプロピレン、2−プロパノール及び分子状酸素を供給し、触媒としてパラジウム錯体および結晶性チタノシリケートと接触し、プロピレンオキシドおよびアセトンを生成する。その際の反応系としては、回分式、半回分式、固定床又は懸濁床の連続式等のいずれの方法でもよい。
【0044】
Bでは、ライン2からAでの反応生成物を供給し、未反応のプロピレンと分子状酸素を分離する。その際の分離法としてはフラッシュ蒸留などの適切な手段により分離することができる。そして、分離したプロピレンは、ライン4によりAに循環できる。
【0045】
Cでは、ライン3によりBでの残存物を供給し、プロピレンオキシドを分離する。その際の分離法としては蒸留等の適切な方法により分離することができる。なお、プロピレンオキシドはライン5により回収される。
【0046】
Dでは、ライン6によりCでの残存物、ライン7により分子状水素を供給し、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウムおよびルテニウムからなる群より選択される金属等を担持した触媒、ラネーニッケル触媒等の水素化触媒の存在下で、アセトンと分子状水素を接触し、2−プロパノールに転化する。そして、該2−プロパノールは、ライン8によりAに循環できる。
【0047】
また、Dでは、必要に応じ、蒸留等の適切な工程を付随しアセトン濃度を高くした混合物のみを2−プロパノールに転化し、先に分離した実質的にアセトンを含まない液と混合し、循環しても良い。