特許第5783172号(P5783172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5783172
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】二次電池用正極及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20150907BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20150907BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20150907BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20150907BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/131
   H01M4/136
   H01M10/0566
【請求項の数】5
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-517293(P2012-517293)
(86)(22)【出願日】2011年5月25日
(86)【国際出願番号】JP2011061963
(87)【国際公開番号】WO2011148970
(87)【国際公開日】20111201
【審査請求日】2014年3月17日
(31)【優先権主張番号】特願2010-119693(P2010-119693)
(32)【優先日】2010年5月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100097180
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 均
(74)【代理人】
【識別番号】100110917
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 亨
(74)【代理人】
【識別番号】100147393
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 一基
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 康尋
(72)【発明者】
【氏名】薮内 庸介
【審査官】 山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−335971(JP,A)
【文献】 特開2007−019108(JP,A)
【文献】 特開2009−117159(JP,A)
【文献】 特開2007−067088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−62
H01M 10/05−0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、 前記集電体上に積層され、マンガンまたは鉄を含む正極活物質、繊維状炭素、およびバインダーを含有してなる正極活物質層とからなり、
前記正極活物質が、可逆的にリチウムイオンを挿入・放出できるものであり、
前記バインダーが、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位と、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位と、α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位とを含んでなる重合体からなり、
前記(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位の含有割合が、重合体の全重合単位中50〜95質量%であり、
前記酸成分を有するビニルモノマーの重合単位の含有割合が、重合体の全重合単位中1.0〜3.0質量%であり、
前記α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位の含有割合が、重合体の全重合単位中3〜40質量%であり、
前記繊維状炭素の平均繊維径が、0.01〜1.0μmであり、
前記繊維状炭素の平均アスペクト比が、5〜50000である、二次電池用正極。
【請求項2】
前記正極活物質が、鉄を含み、更にオリビン型構造を有する請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項3】
前記酸成分を有するビニルモノマーが、カルボン酸基を有する単量体である請求項1または2に記載の二次電池用正極。
【請求項4】
前記バインダーが、さらに架橋性を有する重合単位を含む請求項1〜3のいずれかに記載の二次電池用正極。
【請求項5】
正極、負極、セパレーター及び電解液を備えてなり、前記正極が、請求項1〜4のいずれかに記載の二次電池用正極である二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用正極に関し、さらに詳しくはリチウムイオン二次電池などに用いられる、高いレート特性とサイクル特性を有する二次電池用正極に関する。また本発明は、かかる電極を有する二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
実用化されている電池の中でも、リチウムイオン二次電池は最も高いエネルギー密度を示し、特に小型エレクトロニクス用に多く使用されている。また、小型用途に加えて自動車用途への展開も期待されている。その中で、リチウムイオン二次電池の高出力化や、サイクル特性などの信頼性のさらなる向上が要望されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の構成材料である正極活物質は、主流として用いられているコバルト系活物質の価格高騰及び埋蔵量に限りがあるといった点から、安価なマンガン、ニッケルを含有する活物質への移行が進んでいる。しかし、今後主流となることが予想されるマンガン系活物質においては、高温、特に40℃以上において、充放電を繰り返すとマンガンイオンが電解液中に溶出し、結果として電池容量が低下することが大きな課題となっている。
【0004】
また、正極から溶出したマンガンイオンが負極表面において還元され析出することにより、樹状の金属析出物を形成し、これがセパレーターを破損することで、電池としての安全性が低下することも大きな問題とされている。
【0005】
また、リチウムイオン二次電池に用いられる電極は、通常、電極活物質層が集電体に積層された構造を有しており、電極活物質層には、電極活物質の他に電極活物質同士及び電極活物質と集電体とを結着させるためバインダーが用いられている。
【0006】
特許文献1には、正極活物質としてオリビン型構造を有するLiFePO、炭素及びバインダーとして(メタ)アクリル酸エステルとα,β−不飽和ニトリル化合物との共重合体を含む正極が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、正極活物質としてオリビン型結晶構造を有するLiFePO、炭素繊維、バインダーとしてポリビニリデンフルオライド(PVDF)を含む正極が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2006/038652号公報(対応米国公報:米国特許出願公開第2008/096109号明細書)
【特許文献2】特開2005−222933号公報(対応米国公報:米国特許出願第2007/275302号明細書)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らの検討により、特許文献1において、正極活物質として使用されているオリビン型構造を有するLiFePOは、正極活物質としては粒径が小さいため、正極活物質層を厚膜化すると、クラックが発生するという問題があることがわかった。また、特許文献2の正極では、上述した正極活物質にマンガン系活物質を用いる場合と同様に、高温下で充放電を繰り返すと鉄イオンが電解液中に溶出し、結果として電池容量が低下するという問題があること、並びに、溶出した鉄イオンが負極表面に樹状析出することにより、電池の安全性が低下するという問題があることがわかった。
【0010】
したがって、本発明は、厚膜化が可能であり、クラックの発生を防止することができ、得られる二次電池のサイクル特性(特に高温サイクル特性)及び安全性を向上させることができる二次電池用正極を提供することを目的としている。また、本発明は、該二次電池用正極を備える二次電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題の解決を目的とした本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)集電体と、前記集電体上に積層され、マンガンまたは鉄を含む正極活物質、繊維状炭素、およびバインダーを含有してなる正極活物質層とからなり、
前記バインダーが、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位と、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位と、α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位とを含んでなる重合体からなり、
前記酸成分を有するビニルモノマーの重合単位の含有割合が、重合体の全重合単位中1.0〜3.0質量%である二次電池用正極。
【0012】
(2)前記正極活物質が、鉄を含み、更にオリビン型構造を有する(1)に記載の二次電池用正極。
【0013】
(3)前記繊維状炭素の平均繊維径が、0.01〜1.0μmである(1)または(2)に記載の二次電池用正極。
【0014】
(4)前記繊維状炭素の平均アスペクト比が、5〜50000である(1)〜(3)のいずれかに記載の二次電池用正極。
【0015】
(5)前記酸成分を有するビニルモノマーが、カルボン酸基を有する単量体である(1)〜(4)のいずれかに記載の二次電池用正極。
【0016】
(6)前記バインダーが、さらに架橋性を有する重合単位を含む(1)〜(5)のいずれかに記載の二次電池用正極。
【0017】
(7)正極、負極、セパレーター及び電解液を備えてなり、前記正極が、(1)〜(6)のいずれかに記載の二次電池用正極である二次電池。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、正極活物質層に繊維状炭素を含有させることによって、正極活物質層の靱性を向上させることができるため、正極活物質層のクラックの発生を防止し、正極活物質層を厚くすることができる。また、正極活物質層に含有させるバインダーが、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位及びα,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位を含んでなる重合体であり、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位の含有割合を所定の割合とすることで、正極活物質より溶出した金属イオン(マンガンイオンまたは鉄イオン)を捕捉することができるため、二次電池のサイクル特性(特に高温サイクル特性)及び安全性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を詳述する。本発明の二次電池用正極は、集電体上に、マンガンまたは鉄を含む正極活物質と、繊維状炭素と、バインダーとを含有してなる正極活物質層を有する。
【0020】
(正極活物質)
本発明で用いられる正極活物質としては、マンガンまたは鉄を含み可逆的にリチウムイオンを挿入・放出できれば特に制限されないが、中でもリチウム含有遷移金属酸化物が好ましい。
【0021】
マンガンを含むリチウム含有遷移金属酸化物としては、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
【0022】
層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、LiMnOやMnの一部を他の遷移金属で置換したLi[Mn1−y]O(ここでx=0.02〜1.2、0<y<1、Mは、Cr、Fe、Co、Ni、Cu等)等が挙げられる。
【0023】
スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、LiMnやMnの一部を他の遷移金属で置換したLi[Mn2−y]O(ここでx=0.02〜1.2、0<y<2、Mは、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、V等)等が挙げられる。
【0024】
オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはLiMnPOやMnの一部を他の遷移金属で置換したLiMn1−yPO(ここでx=0.02〜1.2、0<y<1、Mは、Fe,Co,Ni,Cu,Mg,Zn,V,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Si,B及びMoから選ばれる少なくとも1種)であらわされるオリビン型燐酸リチウム化合物が挙げられる。
【0025】
これらの中でも特にMnイオンの溶出によるサイクル劣化が起こりやすい層状構造を有するLiMnOとその置換物、スピネル構造を有するLiMnとその置換物が、最も好ましくはスピネル構造を有するLiMnとその置換物が、本発明の二次電池のサイクル特性の向上効果が大きい。本発明においては、上記正極活物質を2種以上使用してもよく、またマンガンを含有する正極活物質とマンガンを含有しない正極活物質の混合であっても構わない。更にはマンガンの含有量が多いほどMnイオンの溶出によるサイクル劣化が起こりやすいため、本発明の二次電池用正極によるサイクル特性の向上効果が大きい。本発明において、正極活物質中のマンガン含有量は、好ましくは10〜80質量%であり、更に好ましくは15〜65質量%である。正極活物質中のマンガン含有量を、前記範囲にすることにより、本発明におけるバインダーの酸成分によるマンガンイオンの捕捉効果が顕著に現れる。
【0026】
鉄を含むリチウム含有遷移金属酸化物としては、LiFeXO(ここでXは、周期表の第4族〜第7族、及び第14族〜第17族の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。yは、0<y<2である。)が挙げられる。
【0027】
上記の鉄を含むリチウム含有遷移金属酸化物は、通常、四面体サイトに元素Xが位置し、リチウムは、鉄と共に八面体サイトに位置する構造を有する。上記正極活物質の構造は、サイトまで表記すると{X}・[LiFe]Oと示される(ここで{}内は四面体サイト、[]内は八面体サイトを示す)が、このような構造を与える元素Xとしては、例えば、バナジウムなどの第5族元素や、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマスなどの第15族元素が好ましい。
【0028】
上記の鉄を含むリチウム含有遷移金属酸化物は、六方密充填酸素骨格を持つオリビン型構造または立方密充填酸素骨格を持つスピネルもしくは逆スピネル構造であることが好ましく、オリビン型構造であることが特に好ましい。オリビン型構造と逆スピネルを含めたスピネル構造との違いは酸素イオンが六方密充填か立方密充填かであり、Xの元素の種類によってその安定構造が変わる。例えば、LiFePOではオリビン型構造が安定で、LiFeVOでは逆スピネル構造が安定相となる。
【0029】
オリビン型構造またはスピネル構造を有するLiFeXOは、リチウム化合物、2価の鉄化合物及び元素(X)のアンモニウム塩を混合し、次いで不活性ガス雰囲気下、または還元雰囲気下に焼成することにより製造することができる。リチウム化合物としては、LiCO、LiOH、LiNOなどを挙げることができる。
【0030】
2価の鉄化合物の具体例としては、FeC・2HO、Fe(CHCOO)、FeClなどが挙げられる。元素(X)のアンモニウム塩の具体例としては、(NHHPO、NHPO、(NHPOなどのリン酸塩;NHHSO、(NHSOなどの硫酸塩;などが挙げられる。
【0031】
また、上記の他に、ナシコン型構造を有する鉄化合物も正極活物質として用いることができる。ナシコン型鉄化合物としては、具体的には、LiFe2−n(XO(式中、0≦n<2、好ましくは0≦n≦1である。)で表される化合物が挙げられる。
【0032】
これらの中でも特に、小粒径の正極活物質を用いた電極を歩留まり良く作製できるという発明の効果の発現という点においては、オリビン型構造の鉄化合物がより好ましい。
【0033】
本発明の二次電池用正極の正極活物質層中に含まれる正極活物質の量は、好ましくは80〜99.5質量%であり、より好ましくは90〜99質量%である。正極活物質の量が99.5質量%を超えると、正極活物質層中のバインダー及び導電性付与剤の比率が小さくなるため、正極活物質同士の結着性や正極活物質と後述する集電体との結着性が低下すると共に、電池の出力特性が低下する場合がある。また、正極活物質の量が80質量%未満であると、電池容量が低下する場合がある。
【0034】
本発明の二次電池用正極の正極活物質層中に含まれる正極活物質の粒径(平均粒子径)は、好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.02〜5μmである。正極活物質の粒径が10μmを超えると、スラリー中での分散性が低下し、良好なスラリーを製造することが困難となる。また、正極活物質の粒径が0.01μm未満であると、活物質の導電性が低下し、電池の内部抵抗が大きくなる場合がある。
【0035】
(繊維状炭素)
本発明では、繊維状炭素を用いる。繊維状炭素を用いることにより、正極活物質層の靱性を向上させることができるため、正極活物質層のクラックの発生を防止し、正極活物質層を厚くすることができる。その結果、本発明の二次電池用正極を用いた二次電池の安全性を向上させることができる。
本発明で用いられる繊維状炭素は繊維状であれば本発明の効果を奏することができるが、繊維状炭素の繊維径が大きすぎると電極内の空隙が大きくなり電極密度を高くできないため好ましくない。また繊維径が小さすぎると活物質粒子間に埋没し、電極内のネットワークを形成できず、また活物質間の空隙生成が不能となるため好ましくない。以上の理由から本発明の二次電池用正極に使用することのできる繊維状炭素の平均繊維径は、好ましくは0.01〜1.0μm、より好ましくは0.01〜0.2μmである。繊維状炭素の平均繊維経が上記範囲のものを使用することにより、後述する二次電池正極用スラリーの分散安定性が向上すると共に、高容量の二次電池を作製することができる。
【0036】
繊維状炭素の結晶化度(いわゆる黒鉛化度)は、高い方が好ましい。一般的に炭素材料の黒鉛化度が高いほど、層状構造が発達し、より硬くなり、また導電性も向上するため、二次電池用正極の使用に適している。炭素材料を黒鉛化するには一般的に高温で処理すればよく、その場合の処理温度としては、用いる繊維状炭素によっても異なるが、2000℃以上が好ましく、2500℃以上がさらに好ましい。また、この場合、黒鉛化度を促進させる働きのある黒鉛化助触媒であるホウ素やSiなどを熱処理前に添加しておくことが有効である。助触媒の添加量は特に限定されないが、添加量が少なすぎると効果がでず、多すぎると不純物として残るため好ましくない。好ましい添加量は0.1〜100000ppmであり、さらに好ましくは10〜50000ppmである。
【0037】
これら繊維状炭素の結晶化度は特に限定されないが、X線回折法による平均面間隔d002が、好ましくは0.344nm以下、より好ましくは0.339nm以下であって、結晶のC軸方向の厚さLcが40nm以下のものである。
【0038】
繊維状炭素の繊維長は、長いほど電極内の導電性、電極の強度、電解液保液性が増して好ましいが、長すぎると、電極内の繊維分散性が損なわれるため好ましくない。平均繊維長の範囲は、用いる繊維状炭素の種類や繊維径によっても異なるが、好ましくは0.5〜100μm、より好ましくは1〜50μmである。この平均繊維長の好ましい範囲を平均アスペクト比(平均繊維径に対する平均繊維長の割合)で示すと、5〜50000の範囲であり、10〜15000の範囲がさらに好ましい。繊維状炭素の平均繊維長及び平均アスペクト比が上記範囲のものを使用することにより、後述する二次電池正極用スラリーの分散安定性が向上すると共に、正極活物質層のクラック抑制効果及び正極活物質層における導電パスとしての効果をより高めることができる。
【0039】
繊維状炭素に枝分かれ(分岐状)したものが含まれていると、電極全体の導電性、電極の強度、電解液保液性がさらに増すため好ましい。但し、分岐状繊維が多すぎると繊維長と同様に、電極内の分散性が損なわれるため、適度な割合で含まれていることが好ましい。これらの分岐状繊維の割合は製造方法やその後の粉砕処理である程度制御できる。
【0040】
繊維状炭素の製造方法は特に限定されず、例えば、繊維状に紡糸させた高分子やピッチからなるプリカーサーを熱処理する方法や、ベンゼン等の有機物蒸気を1000℃程度の基板上に直接流し、鉄微粒子等を触媒として炭素結晶を成長させる方法(気相成長法)などが挙げられる。
【0041】
繊維状炭素の含有量は、正極活物質、バインダー及び必要に応じて配合する増粘剤の合計量に対して、好ましくは0.05〜20質量%、より好ましくは0.1〜15質量%、特に好ましくは0.5〜10質量%である。含有量が20質量%を超えると、電極中の活物質比率が小さくなるため、電池容量が小さくなる。含有量が0.05質量%未満では電極のクラック発生を抑制することが困難である。含有量を上記範囲に調整するには、製法において同比率となるように添加することにより行うことができる。
【0042】
繊維状炭素は、電極中での分散状態を制御するために表面処理したものも用いることができる。表面処理の方法は特に限定されないが、酸化処理により含酸素官能基を導入し親水性にしたものや、フッ化処理やシリコン処理により疎水性にしたものが挙げられる。また、フェノール樹脂等のコーティングやメカノケミカル処理等も挙げられる。表面処理しすぎると、繊維状炭素の導電性や強度を著しく損なうことになるため、適度な処理が必要である。酸化処理は、例えば、繊維状炭素を空気中で、500℃、1時間程度加熱することにより行うことができる。この処理により繊維状炭素の親水性度が向上する。
【0043】
(バインダー)
本発明の二次電池用正極は、バインダー中に、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位と、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位と、α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位とを含む。具体的には、前記バインダーとしての重合体中に、前記各重合単位を含むことを特徴とする。
【0044】
本発明において(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。これらの中でも、電解液に溶出せずに電解液への適度な膨潤によるリチウムイオンの伝導性を示すこと、加えて活物質の分散においてポリマーによる橋架け凝集を起こしにくいことから、非カルボニル性酸素原子に結合するアルキル基の炭素数が7〜13のアクリル酸アルキルエステルである、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレートが好ましく、非カルボニル性酸素原子に結合するアルキル基の炭素数が8〜10のオクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレートがより好ましい。
【0045】
本発明において酸成分を有するビニルモノマーの重合単位として好ましいものとしては、−COOH基(カルボン酸基)を有する単量体、−OH基(水酸基)を有する単量体、−SOH基(スルホン酸基)を有する単量体、−PO基を有する単量体、−PO(OH)(OR)基(Rは炭化水素基を表す)を有する単量体、及び低級ポリオキシアルキレン基を有する単量体が挙げられる。
【0046】
カルボン酸基を有する単量体としては、モノカルボン酸及びその誘導体やジカルボン酸、その酸無水物、及びこれらの誘導体などが挙げられる。モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。モノカルボン酸誘導体としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α―アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸などマレイン酸メチルアリル、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸エステル;が挙げられる。
【0047】
水酸基を有する単量体としては、(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オールなどのエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、マレイン酸ジ−2−ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ−4−ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ−2−ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式CH=CR−COO−(C2nO)−H(mは2ないし9の整数、nは2ないし4の整数、Rは水素またはメチル基を表す)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシサクシネートなどのジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−4−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−6−ヒドロキシヘキシルエーテルなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコール(メタ)モノアリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル−2−クロロ−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルエーテルなどの、(ポリ)アルキレングリコールのハロゲン及びヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノールなどの多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテル及びそのハロゲン置換体;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルチオエーテルなどのアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;などが挙げられる。
【0048】
スルホン酸基を有する単量体としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0049】
−PO基及び/又は−PO(OH)(OR)基(Rは炭化水素基を表す)を有する単量体としては、リン酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル−(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
【0050】
低級ポリオキシアルキレン基を有する単量体としては、ポリ(エチレンオキシド)等のポリ(アルキレンオキシド)などが挙げられる。
【0051】
これらの中でも、後述する集電体への密着性に優れること及び、正極活物質から溶出したマンガンイオンまたは鉄イオンを効率良く捕捉するという理由からカルボン酸基を有する単量体が好ましく、中でも、アクリル酸、メタクリル酸などの炭素数5以下のカルボン酸基を有するモノカルボン酸や、マレイン酸、イタコン酸などの炭素数5以下のカルボン酸基を2つ有するジカルボン酸が好ましい。さらには、作製したバインダーの保存安定性が高いという観点から、アクリル酸やメタクリル酸が好ましい。
【0052】
本発明においてα,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位としては、機械的強度及び結着力の向上という観点から、アクリロニトリルやメタクリロニトリルが好ましい。
【0053】
本発明において、バインダーにおける(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位(以下「成分A」と表すことがある。)の含有割合は、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは60〜90質量%である。また、α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位(以下、「成分B」と表すことがある。)の含有割合は、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%である。また、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位(以下、「成分C」と表すことがある。)の含有割合は1.0〜3.0質量%、好ましくは1.5〜2.5質量%である。成分Aの含有割合が95質量%を超えると、バインダーの機械的強度が低下する。また、成分Aの含有割合が50質量%未満であると、バインダーの柔軟性が低下し電極が硬くなるため、クラックの発生を防止することが困難となる。成分Bの含有割合が40質量%を超えると、バインダーの柔軟性が低下し電極が硬くなるため、クラックの発生を防止することが困難となる。また、成分Bの含有割合が3質量%未満であると、バインダーの機械的強度が低下し、電極の密着性が低下する。成分Cの含有量が3.0質量%を超えると、バインダーの製造安定性及び保存安定性が低下する。また、成分Cの含有割合が1.0質量%未満であると、バインダーとしての結着性が不足すると共に、電池の寿命特性が低下する。
【0054】
本発明において、使用するバインダーが、上記の成分A,成分B,成分C以外に、更に架橋性を有する重合単位を含んでいることが好ましい。前記バインダー中に架橋性を有する重合単位を導入する方法としては、バインダー中に光架橋性の架橋性基を導入する方法や熱架橋性の架橋性基を導入する方法が挙げられる。これら中でも、バインダー中に熱架橋性の架橋性基を導入する方法は、極板塗布後に極板に加熱処理を行うことにより、バインダーを架橋させることができ、さらに電解液への溶解を抑制でき、強靱で柔軟な極板を得ることができると共に電池の寿命特性を向上させるため好ましい。バインダー中に熱架橋性の架橋性基を導入する場合において、熱架橋性の架橋性基を有する1つのオレフィン性二重結合を持つ単官能性単量体を用いる方法と、少なくとも2つのオレフィン性二重結合を持つ多官能性単量体を用いる方法がある。1つのオレフィン性二重結合を持つ単官能性単量体に含まれる熱架橋性の架橋性基としては、エポキシ基、N−メチロールアミド基、オキセタニル基、及びオキサゾリン基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、エポキシ基が架橋及び架橋密度の調節が容易な点でより好ましい。
【0055】
エポキシ基を含有する単量体としては、炭素−炭素二重結合およびエポキシ基を含有する単量体とハロゲン原子およびエポキシ基を含有する単量体が挙げられる。
【0056】
炭素−炭素二重結合およびエポキシ基を含有する単量体としては、たとえば、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、o−アリルフェニルグリシジルエーテルなどの不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンモノエポキシド、クロロプレンモノエポキシド、4,5−エポキシ−2−ペンテン、3,4−エポキシ−1−ビニルシクロヘキセン、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエンなどのジエンまたはポリエンのモノエポキシド;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセンなどのアルケニルエポキシド;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル−4−ヘプテノエート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、グリシジル−4−メチル−3−ペンテノエート、3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、4−メチル−3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステルなどの不飽和カルボン酸のグリシジルエステル類;が挙げられる。
【0057】
ハロゲン原子およびエポキシ基を有する単量体としては、たとえば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン、エピフルオロヒドリン、β−メチルエピクロルヒドリンなどのエピハロヒドリン;p−クロロスチレンオキシド;ジブロモフェニルグリシジルエーテル;が挙げられる。
【0058】
N−メチロールアミド基を含有する単量体としては、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0059】
オキセタニル基を含有する単量体としては、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−トリフロロメチルオキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−フェニルオキセタン、2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−4−トリフロロメチルオキセタンなどが挙げられる。
【0060】
オキサゾリン基を含有する単量体としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等が挙げられる。
【0061】
少なくとも2つのオレフィン性二重結合を持つ多官能性単量体としてはアリルアクリレートまたはアリルメタクリレート、トリメチロールプロパン−トリアクリレート、トリメチロールプロパン−メタクリレート、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、ポリグリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ヒドロキノンジアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、または多官能性アルコールの他のアリルまたはビニルエーテル、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリアリルアミン、トリメチロールプロパン−ジアリルエーテル、メチレンビスアクリルアミドおよび/またはジビニルベンゼンが好ましい。特にアリルアクリレート、アリルメタクリレート、トリメチロールプロパン−トリアクリレートおよび/またはトリメチロールプロパン−メタクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、架橋密度が向上しやすいことから、少なくとも2つのオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体が好ましく、更に架橋密度の向上および共重合性が高いという観点の理由でアリルアクリレートまたはアリルメタクリレート等のアリル基を有するアクリレート又はメタアクリレートが好ましい。
【0062】
バインダー中の熱架橋性の架橋性基の含有割合は、重合時の熱架橋性の架橋性基を含有する単量体量として、単量体全量100質量%に対して、好ましくは0.01〜0.5質量%、更に好ましくは0.3〜0.05質量%の範囲である。バインダー中の熱架橋性の架橋性基の含有割合は、バインダーを製造する時の単量体仕込み比により制御できる。バインダー中の熱架橋性の架橋基の含有割合が、上記範囲内にあることで適度な電解液に対する膨潤性を示すことができ、優れたレート特性及びサイクル特性を示すことができる。
【0063】
本発明に用いるバインダーは、上記の成分以外に他の重合単位を含んでいてもよい。他の重合単位とは、他のビニルモノマーに由来する重合単位であり、例えば、これらと共重合可能な単量体としては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、などの2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体; 酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;が挙げられる。
【0064】
本発明に用いるバインダーは、分散媒に分散された分散液または溶解された溶液の状態で使用される。その中でも分散媒に粒子状で分散していることが電解液の膨潤性を抑制するという理由から好ましい。
【0065】
バインダーが分散媒に粒子状で分散している場合において、粒子状で分散しているバインダーの平均粒径(分散粒子径)は、50〜500nmが好ましく、70〜400nmがさらに好ましく、最も好ましくは100〜250nmである。バインダーの平均粒径がこの範囲であると得られる電極の強度および柔軟性が良好となる。また、分散媒としては有機溶媒や水が用いられるが、中でも乾燥速度が速いという理由から分散媒として水を利用することが好ましい。
【0066】
バインダーが分散媒に粒子状で分散している場合において、分散液の固形分濃度は、通常15〜70質量%であり、20〜65質量%が好ましく、30〜60質量%がさらに好ましい。固形分濃度がこの範囲であると、後述する二次電池正極用スラリーを製造する際における作業性が良好である。
【0067】
本発明に用いるバインダーのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−50〜25℃、より好ましくは−45〜15℃、特に好ましくは−40〜5℃である。バインダーのTgが上記範囲にあることにより、優れた強度と柔軟性を有し、高い出力特性の二次電池用電極を得ることができる。なお、バインダーのガラス転移温度は、様々な単量体を組み合わせることによって調製可能である。
【0068】
本発明に用いるバインダーである重合体の製造方法は特に限定はされず、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。重合方法としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの方法も用いることができる。重合に用いる重合開始剤としては、たとえば過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、α,α’−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物、または過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどがあげられる。
【0069】
本発明に用いるバインダーにおいては、これらの重合法において用いられる分散剤は、通常の合成で使用されるものでよく、具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムなどのベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラドデシル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウムなどのスルホコハク酸塩;ラウリン酸ナトリウムなどの脂肪酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテルサルフェートナトリウム塩、ポリオキシエチレンノニルフェニルエ−テルサルフェートナトリウム塩などのエトキシサルフェート塩;アルカンスルホン酸塩;アルキルエーテルリン酸エステルナトリウム塩;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリルエステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体などの非イオン性乳化剤;ゼラチン、無水マレイン酸−スチレン共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、重合度700以上かつケン化度75%以上のポリビニルアルコールなどの水溶性高分子などが例示され、これらは単独でも2種類以上を併用して用いても良い。これらの中でも好ましくは、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムなどのベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラドデシル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩であり、更に好ましくは、耐酸化性に優れるという点から、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムなどのベンゼンスルホン酸塩である。分散剤の添加量は任意に設定でき、モノマー総量100質量部に対して通常0.01〜10質量部程度である。
【0070】
本発明に用いるバインダーが分散媒に分散している時のpHは、5〜13が好ましく、更には5〜12、最も好ましくは10〜12である。バインダーのpHが上記範囲にあることにより、バインダーの保存安定性が向上し、さらには、機械的安定性が向上する。
【0071】
バインダーのpHを調整するpH調整剤は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物、水酸化アルミニウムなどの長周期律表でIIIA属に属する金属の水酸化物などの水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩などの炭酸塩;などが例示され、有機アミンとしては、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミンなどのアルキルアミン類;モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミンなどのアルコールアミン類;アンモニア水などのアンモニア類;などが挙げられる。これらのなかでも、結着性や操作性の観点からアルカリ金属水酸化物が好ましく、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムが好ましい。
【0072】
正極活物質層中のバインダーの含有量は、正極活物質100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部である。二次電池正極中のバインダーの含有量が上記範囲にあることで、正極活物質同士及び正極活物質と集電体との結着性に優れ更に柔軟性を維持しながらも、リチウムイオンの移動を阻害せず抵抗が増大することがない。
【0073】
本発明に用いる正極活物質層には、上記成分のほかに、さらに導電性付与材、補強材、分散剤、レベリング剤、酸化防止剤、増粘剤、電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤、その他結着剤等の、他の成分が含まれていてもよく、後述の二次電池正極用スラリー中に含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られない。
【0074】
導電性付与材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト等の導電性カーボンを使用することができる。黒鉛などの炭素粉末、各種金属のファイバーや箔などが挙げられる。導電性付与材を用いることにより電極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、特にリチウムイオン二次電池に用いる場合に放電負荷特性を改善したりすることができる。
【0075】
補強材としては、各種の無機および有機の球状、板状、又は棒状のフィラーが使用できる。補強材を用いることにより強靭で柔軟な電極を得ることができ、優れた長期サイクル特性を示すことができる。導電性付与材や補強剤の使用量は、正極活物質100質量部に対して通常0.01〜20質量部、好ましくは1〜10質量部である。上記範囲に含まれることにより、高い容量と高い負荷特性を示すことができる。
【0076】
分散剤としてはアニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、高分子化合物が例示される。分散剤は用いる正極活物質や導電性付与材に応じて選択される。正極活物質層中の分散剤の含有割合は、好ましくは0.01〜10質量%である。分散剤量が上記範囲であることにより後述する正極用スラリーの安定性に優れ、平滑な電極を得ることができ、高い電池容量を示すことができる。
【0077】
レベリング剤としてはアルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。前記界面活性剤を混合することにより、後述の二次電池正極用スラリーを集電体に塗工する際に発生するはじきを防止したり、電極の平滑性を向上させることができる。正極活物質層中のレベリング剤の含有割合は、好ましくは0.01〜10質量%である。レベリング剤が上記範囲であることにより電極作製時の生産性、平滑性及び電池特性に優れる。
【0078】
酸化防止剤としてはフェノール化合物、ハイドロキノン化合物、有機リン化合物、硫黄化合物、フェニレンジアミン化合物、ポリマー型フェノール化合物等が挙げられる。ポリマー型フェノール化合物は、分子内にフェノール構造を有する重合体であり、重量平均分子量が200〜1000、好ましくは600〜700のポリマー型フェノール化合物が好ましく用いられる。正極活物質層中の酸化防止剤の含有割合は、好ましくは0.01〜10質量%、更に好ましくは0.05〜5質量%である。酸化防止剤が上記範囲であることにより後述する正極用スラリーの安定性、電池容量及びサイクル特性に優れる。
【0079】
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸およびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸もしくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体などのポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体水素化物などが挙げられる。本発明において、「(変性)ポリ」は「未変性ポリ」又は「変性ポリ」を意味し、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」又は「メタアクリル」を意味する。正極活物質層中の増粘剤の含有割合は、好ましくは0.01〜10質量%である。増粘剤が上記範囲であることにより、後述する二次電池正極用スラリーの集電体への塗工性が良好になる。また、後述する正極用スラリー中の活物質等の分散性に優れ、平滑な電極を得ることができ、優れた負荷特性及びサイクル特性を示す。
【0080】
電解液添加剤は、後述する二次電池正極用スラリー中及び電解液中に使用されるビニレンカーボネートなどを用いることができる。正極活物質層中の電解液添加剤の含有割合は、好ましくは0.01〜10質量%である。電解液添加剤が上記範囲であることによりサイクル特性及び高温特性に優れる。その他には、フュームドシリカやフュームドアルミナなどのナノ微粒子:アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。前記ナノ微粒子を混合することにより電極形成用スラリーのチキソ性をコントロールすることができ、さらにそれにより得られる電極のレベリング性を向上させることができる。正極活物質層中のナノ微粒子の含有割合は、好ましくは0.01〜10質量%である。ナノ微粒子が上記範囲であることによりスラリー安定性、生産性に優れ、高い電池特性を示す。前記界面活性剤を混合することにより二次電池正極用スラリー中の活物質等の分散性を向上させることができ、さらにそれにより得られる電極の平滑性を向上させることができる。正極活物質層中の界面活性剤の含有割合は、好ましくは0.01〜10質量%である。界面活性剤が上記範囲であることにより後述する二次電池正極用スラリーの安定性、電極平滑性に優れ、高い生産性を示す。
【0081】
(集電体)
本発明に用いられる集電体は、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有するとの観点から、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料が好ましい。中でも、リチウムイオン二次電池の正極用としてはアルミニウムが特に好ましい。集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。集電体は、正極活物質層の接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用するのが好ましい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、正極活物質層の接着強度や導電性を高めるために、集電体表面に中間層を形成してもよい。
【0082】
本発明の二次電池用正極を製造する方法としては、上記集電体の少なくとも片面、好ましくは両面に正極活物質層を層状に結着させる方法であればよい。例えば、後述する正極用スラリーを集電体に塗布、乾燥し、次いで、120℃以上で1時間以上加熱処理して電極を形成する。正極用スラリーを集電体へ塗布する方法は特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ジップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。乾燥方法としては例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。
【0083】
次いで、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理により電極の空隙率を低くすることが好ましい。空隙率の好ましい範囲は5〜15%、より好ましくは7〜13%である。空隙率が高すぎると充電効率や放電効率が悪化する。空隙率が低すぎる場合は、高い体積容量を得ることが困難であり、電極が剥がれ易く不良を発生し易いといった問題を生じる。さらに、硬化性の重合体を用いる場合は、硬化させることが好ましい。
【0084】
本発明の二次電池用正極の厚みは、通常5〜150μmであり、好ましくは10〜100μmである。電極厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びエネルギー密度共に高い特性を示す。
【0085】
(二次電池正極用スラリー)
本発明に用いる二次電池正極用スラリーは、マンガンまたは鉄を含む正極活物質と、繊維状炭素と、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位及びα,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位を含む重合体からなるバインダーと、溶媒とを含む。正極活物質、繊維状炭素、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位及びα,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位を含むバインダーとしては、上述したものを用いる。
【0086】
(溶媒)
溶媒としては、本発明に用いるバインダーを均一に溶解または分散し得るものであれば特に制限されない。正極用スラリーに用いる溶媒としては、水および有機溶媒のいずれも使用できる。有機溶媒としては、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;アセトン、エチルメチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどのケトン類;メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素など塩素系脂肪族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのアシロニトリル類;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類:メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール類;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類があげられる。これらの溶媒は、単独で使用しても、これらを2種以上混合して混合溶媒として使用してもよい。これらの中でも特に、本発明に用いるバインダーのや分散性に優れ、電極活物質及び導電性付与剤の分散性にすぐれ、沸点が低く揮発性が高い溶媒が、短時間でかつ低温で除去できるので好ましい。アセトン、トルエン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサン、キシレン、水、若しくはN−メチルピロリドン、またはこれらの混合溶媒が好ましい。また、本発明の効果が、バインダーとして水分散型粒子状高分子を用いた時に顕著に見られることから、特に溶媒として水が好ましい。
【0087】
本発明に用いる二次電池正極用スラリーの固形分濃度は、塗布、浸漬が可能な程度でかつ、流動性を有する粘度になる限り特に限定はされないが、一般的には10〜80質量%程度である。
【0088】
また、二次電池正極用スラリーには、マンガンまたは鉄を含む正極活物質と、繊維状炭素と、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位及びα,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位を含んでなる重合体からなるバインダーと、溶媒のほかに、さらに前述の二次電池用正極中に使用される分散剤や電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤等の他の成分が含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られない。
【0089】
(二次電池正極用スラリーの製法)
本発明においては、二次電池正極用スラリーの製法は、特に限定はされず、上記正極活物質、繊維状炭素、バインダー、及び溶媒と必要に応じ添加される他の成分を混合して得られる。本発明においては上記成分を用いることにより混合方法や混合順序にかかわらず、正極活物質と、繊維状炭素とが高度に分散された正極用スラリーを得ることができる。混合装置は、上記成分を均一に混合できる装置であれば特に限定されず、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどを使用することができるが、中でも高濃度での分散が可能なことから、ボールミル、ロールミル、顔料分散機、擂潰機、プラネタリーミキサーを使用することが特に好ましい。
【0090】
正極用スラリーの粘度は、均一塗工性、スラリー経時安定性の観点から、好ましくは10〜100000mPa・s、より好ましくは100〜50000mPa・sである。上記粘度は、B型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した時の値である。
【0091】
(二次電池)
本発明の二次電池は、正極、負極、セパレーター及び電解液を備えてなり、前記正極は、集電体上に、マンガンまたは鉄を含む正極活物質と、繊維状炭素と、上記バインダーとを含有してなる正極活物質層を有する。
【0092】
前記二次電池としては、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池等挙げられるが、長期サイクル特性の向上・出力特性の向上等性能向上が最も求められていることから用途としてはリチウムイオン二次電池が好ましい。以下、リチウムイオン二次電池に使用する場合について説明する。
【0093】
(リチウムイオン二次電池用電解液)
リチウムイオン二次電池用の電解液としては、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、特に制限はないが、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどが挙げられる。中でも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF、LiClO、CFSOLiが好ましい。これらは、二種以上を併用してもよい。解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0094】
リチウムイオン二次電池用の電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)などのカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;が好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類が好ましい。用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0095】
また前記電解液には添加剤を含有させて用いることも可能である。添加剤としては前述の二次電池正極用スラリー中に使用されるビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物が挙げられる。
【0096】
リチウムイオン二次電池用の電解液中における支持電解質の濃度は、通常1〜30質量%、好ましくは5〜20質量%である。また、支持電解質の種類に応じて、通常0.5〜2.5モル/Lの濃度で用いられる。支持電解質の濃度が低すぎても高すぎてもイオン導電度は低下する傾向にある。
【0097】
また、電解液として、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質や前記ポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、LiI、LiNなどの無機固体電解質を用いることもできる。
【0098】
(リチウムイオン二次電池用セパレーター)
セパレーターとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン製の微孔膜または不織布;無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート;など公知のものを用いることができる。
【0099】
リチウムイオン二次電池用セパレーターとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂や芳香族ポリアミド樹脂を含んでなる微孔膜または不織布;無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート;など公知のものを用いることができる。例えばポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)、及びこれらの混合物あるいは共重合体等の樹脂からなる微多孔膜、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルフォン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂からなる微多孔膜またはポリオレフィン系の繊維を織ったもの、またはその不織布、絶縁性物質粒子の集合体等が挙げられる。これらの中でも、セパレーター全体の膜厚を薄くし電池内の活物質比率を上げて体積あたりの容量を上げることができるため、ポリオレフィン系の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0100】
セパレーターの厚さは、通常0.5〜40μm、好ましくは1〜30μm、更に好ましくは1〜10μmである。この範囲であると電池内でのセパレーターによる抵抗が小さくなり、また電池作成時の作業性に優れる。
【0101】
(リチウムイオン二次電池負極)
リチウムイオン二次電池用負極は、負極活物質及びバインダーを含む負極活物質層が、集電体上に積層されてなる。バインダー及び集電体としては、二次電池用正極で説明したものと同様のものが挙げられる。
【0102】
(リチウムイオン二次電池用負極活物質)
リチウムイオン二次電池負極用の電極活物質(負極活物質)としては、たとえば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メゾカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維などの炭素質材料、ポリアセン等の導電性高分子などが挙げられる。また、負極活物質としては、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の金属やこれらの合金、前記金属又は合金の酸化物や硫酸塩が用いられる。加えて、金属リチウム、Li−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cd等のリチウム合金、リチウム遷移金属窒化物、シリコン等を使用できる。負極活物質は、機械的改質法により表面に導電性付与材を付着させたものも使用できる。負極活物質の粒径は、電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択されるが、初期効率、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、50%体積累積径が、通常1〜50μm、好ましくは15〜30μmである。
【0103】
負極活物質層中の負極活物質の含有割合は、好ましくは90〜99.9質量%、より好ましくは95〜99質量%である。負極活物質層中の負極活物質の含有量を、上記範囲とすることにより、高い容量を示しながらも柔軟性、結着性を示すことができる。
【0104】
リチウムイオン二次電池用負極には、上記成分のほかに、さらに前述の二次電池用正極中に使用される分散剤や電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤等の他の成分が含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られない。
【0105】
(リチウムイオン二次電池負極用バインダー)
リチウムイオン二次電池負極用バインダーとしては特に制限されず公知のものを用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体などの樹脂や、アクリル系軟質重合体、ジエン系軟質重合体、オレフィン系軟質重合体、ビニル系軟質重合体等の軟質重合体を用いることができる。これらは単独で使用しても、これらを2種以上併用してもよい。
【0106】
集電体としては、前述の二次電池用正極用に使用される集電体を用いることができ、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、リチウムイオン二次電池の負極用としては銅が特に好ましい。
【0107】
リチウムイオン二次電池負極の厚みは、通常5〜300μmであり、好ましくは10〜250μmである。電極厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びエネルギー密度共に高い特性を示す。
【0108】
リチウムイオン二次電池負極は、前述のリチウムイオン二次電池正極用と同様に製造することができる。
【0109】
リチウムイオン二次電池の具体的な製造方法としては、正極と負極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をする事もできる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
【実施例】
【0110】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、本実施例における部および%は、特記しない限り質量基準である。実施例および比較例において、各種物性は以下のように評価する。
【0111】
<電池特性:高温サイクル特性>
10セルのフルセルコイン型電池を60℃雰囲気下、0.2Cの定電流法によって4.3Vに充電し、3.0Vまで放電する充放電を繰り返し、電気容量を測定した。10セルの平均値を測定値とし、50サイクル終了時の電気容量と5サイクル終了時の電気容量の比(%)で表される充放電容量保持率を求め、これをサイクル特性の評価基準とし、以下の基準で評価する。この値が高いほど高温サイクル特性に優れている。
A:80%以上
B:70%以上80%未満
C:50%以上70%未満
D:30%以上50%未満
E:30%未満
【0112】
<バインダー特性:保存安定性>
得られたポリマーの水分散液を50日冷暗所下にて保存する(保存前の水分散液の重量をaとする)。50日経過後のポリマーの水分散液を200メッシュにて濾過し、メッシュ上に残った固形物の乾燥重量(残存物の重量をbとする)を求め、保存前の水分散液の重量(a)と、メッシュ上に残った固形物の乾燥重量(b)との比(%)を求め、これをバインダーの保存安定性の評価基準とし、以下の基準で評価する。この値が小さいほどバインダーの保存安定性に優れている。
A:0.001%未満
B:0.001%以上0.01%未満
C:0.01%以上0.1%未満
D:0.1%以上
【0113】
<電極特性:クラック測定>
電極を幅3cm×長さ9cmの矩形に切って試験片とする。試験片の集電体側の面を下にして机上に置き、長さ方向の中央( 端部から4.5cmの位置) 、集電体側の面に直径1mmのステンレス棒を短手方向に横たえて設置する。このステンレス棒を中心にして試験片を活物質層が外側になるように180°折り曲げた。10枚の試験片について試験し、各試験片の活物質層の折り曲げた部分について、ひび割れまたは剥がれの有無を観察し、下記の基準により判定した。ひび割れまたは剥がれが少ないほど、電極がクラックの発生が少なく、安全性に優れることを示す。
A : 10枚中全てにひび割れまたは剥がれがみられない
B : 10枚中1〜3枚にひび割れまたは剥がれがみられる
C : 10枚中4〜9枚にひび割れまたは剥がれがみられる
D : 10枚中全てにひび割れまたは剥がれがみられる
【0114】
(実施例1)
(A)バインダーの製造
重合缶Aに、2−エチルヘキシルアクリレート10.75部、アクリロニトリル1.25部、ラウリル硫酸ナトリウム0.12部、イオン交換水79部を加え、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2部、イオン交換水10部を加え60℃に加温し90分攪拌した後に、別の重合缶Bに2−エチルヘキシルアクリレート67部、アクリロニトリル19部、メタクリル酸2.0部、ラウリル硫酸ナトリウム0.7部、イオン交換水46部を加えて攪拌して作製したエマルジョンを約180分かけて重合缶Bから重合缶Aに逐次添加した後、約120分攪拌してモノマー消費量が95%になったところで冷却して反応を終了し、その後4%NaOH水溶液でpH調整し、バインダーAの水分散液を得た。得られたバインダーAの、ガラス転移温度は−32℃、分散粒子径は0.15μm、バインダーAの水分散液のpHは10.5であった。得られた水分散液を用いてバインダー保存安定性を評価した結果を表1に示す。
【0115】
バインダーA中の、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位の含有割合は78%、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位は2.0%、α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位の含有割合は20%、架橋性を有する重合単位の含有割合は0%であった。
【0116】
(B)正極用スラリーおよび正極の製造
電極活物質としてオリビン型結晶構造のLiFePO(粒径:0.2μm)100部と、炭素繊維(平均繊維径:150nm、平均繊維長:8μm、平均アスペクト比:53、以下「炭素繊維1」と記すことがある。)1部と、アセチレンブラック(HS−100:電気化学工業)5部と、前記バインダーAの水分散液2.5部(固形分濃度40%)と、増粘剤としてのエーテル化度が0.8であるカルボキシメチルセルロース水溶液40部(固形分濃度2%)と、適量の水とをプラネタリーミキサーにて攪拌し、正極用スラリーを調製した。上記正極用スラリーをコンマコーターで厚さ20μmのアルミ箔上に乾燥後の膜厚が70μm程度になるように塗布し、60℃で20分間乾燥後、150℃で2時間加熱処理して電極原反を得た。この電極原反をロールプレスで圧延し、密度が2.1g/cm、アルミ箔および電極活物質層からなる厚みが65μmに制御された正極極板を作製した。作製した極板を用いてクラック発生の測定を行った。結果を表1に示す。
【0117】
(C)電池の作製
前記正極極板を直径16mmの円盤状に切り抜き、この正極の活物質層面側に直径18mm、厚さ25μmの円盤状のポリプロピレン製多孔膜からなるセパレーター、負極として用いる金属リチウム、エキスパンドメタルを順に積層し、これをポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。この容器中に電解液を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのリチウムイオンコイン電池を作製した。なお、電解液としてはエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=1:2(20℃での容積比)で混合してなる混合溶媒にLiPFを1モル/リットルの濃度で溶解させた溶液を用いた。この電池を用いて高温サイクル特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0118】
(実施例2)
(A)バインダーの製造
重合缶Aに、2−エチルヘキシルアクリレート10.75部、アクリロニトリル1.25部、ラウリル硫酸ナトリウム0.12部、イオン交換水79部を加え、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2部、イオン交換水10部を加え60℃に加温し90分攪拌した後に、別の重合缶Bに2−エチルヘキシルアクリレート67部、アクリロニトリル19部、メタクリル酸2.0部、アリルメタクリレート0.2部、ラウリル硫酸ナトリウム0.7部、イオン交換水46部を加えて攪拌して作製したエマルジョンを約180分かけて重合缶Bから重合缶Aに逐次添加した後、約120分攪拌してモノマー消費量が95%になったところで冷却して反応を終了し、その後4%NaOH水溶液でpH調整し、バインダーBの水分散液を得た。得られたバインダーBの、ガラス転移温度は−32℃、分散粒子径は0.15μm、バインダーBの水分散液のpHは10.1であった。得られた水分散液を用いてバインダー保存安定性を評価した結果を表1に示す。バインダーB中の、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位の含有割合は78%、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位は2.0%、α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位の含有割合は20%、架橋性を有する重合単位の含有割合は0.2%であった。
【0119】
正極用バインダーとして、前記バインダーBの水分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、正極極板、リチウムイオンコイン電池を作製した。そして、この極板のクラック測定並びにリチウムイオンコイン電池を用いて高温サイクル特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0120】
(実施例3)
炭素繊維として、炭素繊維1のかわりに、平均繊維径:50nm、平均繊維長:1μm、平均アスペクト比:20である炭素繊維(以下、「炭素繊維2」と記すことがある。)を1部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、正極極板、リチウムイオンコイン電池を作製した。そして、この極板のクラック測定並びにリチウムイオンコイン電池を用いて高温サイクル特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0121】
(実施例4)
炭素繊維として、炭素繊維1のかわりに、平均繊維径:500nm、平均繊維長:100μm、平均アスペクト比:200である炭素繊維(以下、「炭素繊維3」と記すことがある。)を1部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、正極極板、リチウムイオンコイン電池を作製した。そして、この極板のクラック測定並びにリチウムイオンコイン電池を用いて高温サイクル特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0122】
(実施例5)
炭素繊維1の使用部数を5部としたこと以外は、実施例1と同様にして、正極極板、リチウムイオンコイン電池を作製した。そして、この極板のクラック測定並びにリチウムイオンコイン電池を用いて高温サイクル特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0123】
(実施例6)
炭素繊維1の使用部数を8部としたこと以外は、実施例1と同様にして、正極極板、リチウムイオンコイン電池を作製した。そして、この極板のクラック測定並びにリチウムイオンコイン電池を用いて高温サイクル特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0124】
(実施例7)
正極活物質として、オリビン型結晶構造のLiFePOのかわりにスピネルマンガン(LiMn;Mn含有量60%、平均粒子径8μm)100部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、正極極板、リチウムイオンコイン電池を作製した。そして、この極板のクラック測定並びにリチウムイオンコイン電池を用いて高温サイクル特性を評価した。その結果を表1に示す。なお、この時の正極活物質層の密度は2.5g/cmとなるようにした。
【0125】
(実施例8)
正極用バインダーとして、バインダーAの水分散液のかわりにバインダーBの水分散液を用いたこと以外は、実施例7と同様にして、正極極板、リチウムイオンコイン電池を作製した。そして、この極板のクラック測定並びにリチウムイオンコイン電池を用いて高温サイクル特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0126】
(実施例9)
(A)バインダーの製造
重合缶Aに、2−エチルヘキシルアクリレート10.75部、アクリロニトリル1.25部、ラウリル硫酸ナトリウム0.12部、イオン交換水79部を加え、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2部、イオン交換水10部を加え60℃に加温し90分攪拌した後に、別の重合缶Bに2−エチルヘキシルアクリレート67部、アクリロニトリル19部、メタクリル酸2.0部、アリルグリシジルエーテル0.2部、ラウリル硫酸ナトリウム0.7部、イオン交換水46部を加えて攪拌して作製したエマルジョンを約180分かけて重合缶Bから重合缶Aに逐次添加した後、約120分攪拌してモノマー消費量が95%になったところで冷却して反応を終了し、その後4%NaOH水溶液でpH調整し、バインダーEの水分散液を得た。得られたバインダーEの、ガラス転移温度は−32℃、分散粒子径は0.15μm、バインダーEの水分散液のpHは10.1であった。得られた水分散液を用いてバインダー保存安定性を評価した結果を表1に示す。バインダーE中の、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位の含有割合は78%、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位は2.0%、α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位の含有割合は20%、架橋性を有する重合単位の含有割合は0.2%であった。
【0127】
正極用バインダーとして、前記バインダーEの水分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、正極極板、リチウムイオンコイン電池を作製した。そして、この極板のクラック測定並びにリチウムイオンコイン電池を用いて高温サイクル特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0128】
(実施例10)
(A)バインダーの製造
重合缶Aに、2−エチルヘキシルアクリレート10.75部、アクリロニトリル1.25部、ラウリル硫酸ナトリウム0.12部、イオン交換水79部を加え、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2部、イオン交換水10部を加え60℃に加温し90分攪拌した後に、別の重合缶Bに2−エチルヘキシルアクリレート67部、アクリロニトリル19部、メタクリル酸2.0部、エチレングリコールジメタクリレート0.2部、ラウリル硫酸ナトリウム0.7部、イオン交換水46部を加えて攪拌して作製したエマルジョンを約180分かけて重合缶Bから重合缶Aに逐次添加した後、約120分攪拌してモノマー消費量が95%になったところで冷却して反応を終了し、その後4%NaOH水溶液でpH調整し、バインダーFの水分散液を得た。得られたバインダーFの、ガラス転移温度は−32℃、分散粒子径は0.15μm、バインダーFの水分散液のpHは10.1であった。得られた水分散液を用いてバインダー保存安定性を評価した結果を表1に示す。バインダーF中の、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位の含有割合は78%、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位は2.0%、α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位の含有割合は20%、他の重合単位の含有割合は0.2%であった。
【0129】
正極用バインダーとして、前記バインダーFの水分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、正極極板、リチウムイオンコイン電池を作製した。そして、この極板のクラック測定並びにリチウムイオンコイン電池を用いて高温サイクル特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0130】
(比較例1)
炭素繊維を使用しないこと以外は、実施例2と同様にして、正極極板、リチウムイオンコイン電池を作製した。そして、この極板のクラック測定並びにリチウムイオンコイン電池を用いて高温サイクル特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0131】
(比較例2)
炭素繊維を使用しないこと以外は、実施例8と同様にして、正極極板、リチウムイオンコイン電池を作製した。そして、この極板のクラック測定並びにリチウムイオンコイン電池を用いて高温サイクル特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0132】
(比較例3)
(A)バインダーの製造
重合缶Aに、2−エチルヘキシルアクリレート10.75部、アクリロニトリル1.25部、ラウリル硫酸ナトリウム0.12部、イオン交換水79部を加え、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2部、イオン交換水10部を加え60℃に加温し90分攪拌した後に、別の重合缶Bに2−エチルヘキシルアクリレート68部、アクリロニトリル19部、メタクリル酸0.8部、アリルメタクリレート0.2部、ラウリル硫酸ナトリウム0.7部、イオン交換水46部を加えて攪拌して作製したエマルジョンを約180分かけて重合缶Bから重合缶Aに逐次添加した後、約120分攪拌してモノマー消費量が95%になったところで冷却して反応を終了し、その後4%NaOH水溶液でpH調整し、バインダーCの水分散液を得た。得られたバインダーCの、ガラス転移温度は−32℃、分散粒子径は0.15μm、バインダーCの水分散液のpHは10.1であった。得られた水分散液を用いてバインダー保存安定性を評価した結果を表1に示す。バインダーC中の、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位の含有割合は79%、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位は0.8%、α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位の含有割合は20%、架橋性を有する重合単位の含有割合は0.2%であった。
【0133】
正極用バインダーとして、前記バインダーCの水分散液を用いた他は、実施例1と同様にして、正極極板、リチウムイオンコイン電池を作製した。そして、この極板のクラック測定並びにリチウムイオンコイン電池を用いて高温サイクル特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0134】
(比較例4)
(A)バインダーの製造
重合缶Aに、2−エチルヘキシルアクリレート10.75部、アクリロニトリル1.25部、ラウリル硫酸ナトリウム0.12部、イオン交換水79部を加え、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2部、イオン交換水10部を加え60℃に加温し90分攪拌した後に、別の重合缶Bに2−エチルヘキシルアクリレート65.3部、アクリロニトリル19部、メタクリル酸3.5部、アリルメタクリレート0.2部、ラウリル硫酸ナトリウム0.7部、イオン交換水46部を加えて攪拌して作製したエマルジョンを約180分かけて重合缶Bから重合缶Aに逐次添加した後、約120分攪拌してモノマー消費量が95%になったところで冷却して反応を終了し、その後4%NaOH水溶液でpH調整し、バインダーDの水分散液を得た。得られたバインダーDの、ガラス転移温度は−32℃、分散粒子径は0.15μm、バインダーDの水分散液のpHは10.1であった。得られた水分散液を用いてバインダー保存安定性を評価した結果を表1に示す。バインダーD中の、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位の含有割合は76.3%、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位は3.5%、α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位の含有割合は20%、架橋性を有する重合単位の含有割合は0.2%であった。
【0135】
正極用バインダーとして、前記バインダーDの水分散液を用いた他は、実施例1と同様にして、正極極板、リチウムイオンコイン電池を作製した。そして、この極板のクラック測定並びにリチウムイオンコイン電池を用いて高温サイクル特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0136】
【表1】
【0137】
表1の結果より、実施例1〜10の、マンガンまたは鉄を含む正極活物質と、繊維状炭素と、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位及びα,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位を含む重合体からなるバインダーとを含有してなる正極活物質層を有する二次電池用正極では、正極活物質層におけるクラックの発生を防止することができる、すなわち安全性が向上すると共に、電池の高温サイクル特性が良好であることが分かる。また、該バインダーは、その保存安定性が良好である。
一方、繊維状炭素を含有しない比較例1,2の二次電池用正極やバインダー中の酸成分を有するビニルモノマーの重合単位の含有割合が1.0質量%未満であるものを用いた比較例3や3.0質量%を超えるものを用いた比較例4の二次電池用正極では、正極活物質層におけるクラックの発生を防止することが困難であり、電池の高温サイクル特性が低下した。