特許第5783176号(P5783176)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5783176-酸性水中油型乳化食品 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5783176
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】酸性水中油型乳化食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/24 20060101AFI20150907BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   A23L1/24 A
   A23D7/00 510
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-522610(P2012-522610)
(86)(22)【出願日】2011年6月27日
(86)【国際出願番号】JP2011064628
(87)【国際公開番号】WO2012002303
(87)【国際公開日】20120105
【審査請求日】2014年4月18日
(31)【優先権主張番号】特願2010-148344(P2010-148344)
(32)【優先日】2010年6月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 聡
(72)【発明者】
【氏名】小口 かおり
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ヒュン ティ マイ リン
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−335897(JP,A)
【文献】 特開2003−102404(JP,A)
【文献】 特開2009−000060(JP,A)
【文献】 特開2005−295821(JP,A)
【文献】 特表2002−538800(JP,A)
【文献】 特表平03−505666(JP,A)
【文献】 特開平08−154612(JP,A)
【文献】 特開2006−115832(JP,A)
【文献】 特開平05−064565(JP,A)
【文献】 特開昭61−021064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/24
A23D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/FSTA/FROSTI(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水相に、非溶解状態の澱粉粒子と油滴が分散している酸性水中油型乳化食品であって、
澱粉粒子の平均粒子径が3〜60μm、
油滴の平均粒子径が1〜20μm、
油滴の平均粒子径と澱粉粒子の平均粒子径との比が(5〜600)/100
である酸性水中油型乳化食品。
【請求項2】
澱粉粒子が、常温で水に不溶性又は難溶性の澱粉もしくは架橋澱粉の粒子である請求項1記載の酸性水中油型乳化食品。
【請求項3】
水相に、DE(dextrose equivalent)12以下の澱粉分解物、加工澱粉及び湿熱処理澱粉から選ばれる1種以上の澱粉処理物を溶解状態で含有する請求項1又は2記載の酸性水中油型乳化食品。
【請求項4】
乳化材として卵黄と、乾燥卵白及び/又は乳蛋白を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の酸性水中油型乳化食品。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の酸性水中油型乳化食品の製造方法であって、澱粉粒子が分散した水相の温度を、該澱粉粒子が完全には溶解しない温度以下とする酸性水中油型乳化食品の製造方法。
【請求項6】
澱粉粒子を水相に分散した状態で60℃以上に加熱することなく製造する請求項5記載の酸性水中油型乳化食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解凍後も安定な乳化状態を有した冷凍耐性に優れた酸性水中油型乳化食品に関する。
【背景技術】
【0002】
マヨネーズや半固体状乳化ドレッシングなどの酸性水中油型乳化食品は、日常の食生活で広く親しまれている。このような酸性水中油型乳化食品の代表的な用途としてはサラダがあるが、近年、その用途が拡大され、冷凍惣菜などの冷凍食品でも利用されている。また、各家庭においても、酸性水中油型乳化食品を用いた食品を冷凍保存し、解凍あるいは温めて食することがなされている。
【0003】
このため、酸性水中油型乳化食品には、冷凍して解凍した後にも安定した乳化状態を維持すること、即ち、冷凍耐性を備えることが望まれており、冷凍耐性の向上を意図した種々の酸性水中油型乳化食品が提案されている。
【0004】
例えば、酸性水中油型乳化食品の冷凍耐性を向上させるために、脱糖処理および65℃以上の熱蔵処理が施された乾燥卵白であって、乾燥卵白水溶液(乾燥卵白1部に対し清水7部)の加熱凝固物の離水率が4%以下のものと、キサンタンガムなどのガム質を酸性水中油型乳化食品に配合すること(特許文献1)や、同様の乾燥卵白と加工澱粉等を酸性水中油型乳化食品に配合すること(特許文献2)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−61号公報
【特許文献2】特開2009−60号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、より一層冷凍耐性が向上した酸性水中油型乳化食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、酸性水中油型乳化食品の水相に澱粉を非溶解状態で特定の粒子径で分散させると、意外にも冷凍耐性が顕著に向上すること、また、非溶解状態の粒子が分散しているにもかかわらず食感に影響を与えないことを見いだした。
【0008】
即ち、本発明は、水相に、非溶解状態の澱粉粒子と油滴が分散している酸性水中油型乳化食品であって、
澱粉粒子の平均粒子径が3〜60μm、
油滴の平均粒子径が1〜20μm、
油滴の平均粒子径と澱粉粒子の平均粒子径との比が(5〜600)/100
である酸性水中油型乳化食品を提供する。
【0009】
また、この酸性水中油型乳化食品の製造方法として、澱粉粒子が分散した水相の温度を、該澱粉粒子が完全には溶解しない温度以下とする酸性水中油型乳化食品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、解凍後も安定な乳化状態を有する酸性水中油型乳化食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1の水中油型乳化食品の顕微鏡写真である。
図2図2は、比較例2の水中油型乳化食品の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0013】
本発明において酸性水中油型乳化食品とは、食用油脂が油滴として水相中に略均一に分散して水中油型の乳化状態が形成され、pHが酸性に調整されたものである。好ましくは、常温流通を可能ならしめるため、pHは4.6以下に調整される。このような酸性水中油型乳化食品であって、粘度が30Pa・s以上に調整されたものに、マヨネーズ、マヨネーズ類、半固体状乳化ドレッシング等がある。
【0014】
本発明の酸性水中油型乳化食品では、常温において、水相に油滴が乳化分散しているだけでなく、澱粉粒子が非溶解状態で分散している。ここで、澱粉粒子を形成する澱粉としては、常温(15〜25℃)で水に不溶性又は難溶性で加熱により溶解する生澱粉もしくは架橋澱粉をあげることができる。好ましくは、その略1wt%水分散液を55℃に加熱後20℃に冷却したときの粘度が、同水分散液を90℃に加熱後20℃に冷却したときの粘度の80%未満となる粘度特性を有するものである。
【0015】
この粘度特性は、より具体的には、澱粉の水分散液を室温で0.1〜3wt%の範囲内に調製し、それを加熱撹拌下で55℃に加熱し、55℃に達温後20℃の室内に静置し、20℃に冷却されたときに測定した粘度と、加熱温度を90℃として同様に加熱冷却後に測定した粘度とから算出される。
【0016】
このような粘度特性を満たす生澱粉としては、加熱溶解性の生澱粉、具体的には、米澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉等をあげることができる。また、架橋澱粉は、澱粉分子中の水酸基のうちいくつかを架橋処理したものであり、架橋方法としては、アセチル化アジピン酸架橋や、アセチル化リン酸架橋等が挙げられる。架橋澱粉の原料となる澱粉の種類には特に限定はなく、例えば、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ(例えば、スイートコーン由来、デントコーン由来、ワキシーコーン由来のコーンスターチ)、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、米澱粉等をあげることができる。本発明においては、これらの1種又は複数種を合わせて使用することができる。
【0017】
なお、上述の澱粉であっても、精製法、加工処理方法等によって冷水可溶性ないし常温可溶性を示すものは、その粒子を水相において非溶解状態で分散させることができないので好ましくない。
【0018】
また、本発明において水相に、非溶解状態の澱粉粒子が分散しているとは、水相に含まれている澱粉の全てが非溶解状態で粒子となっていることは必ずしも必要ではなく、一部、好ましくは全てが非溶解状態で分散していればよい。
【0019】
本発明において、水相で非溶解状態で分散している澱粉粒子の平均粒子径は3〜60μmである。澱粉粒子の平均粒子径がこの範囲より小さ過ぎたり、大き過ぎたりすると冷凍耐性を十分に向上させることができず、好ましくない。
【0020】
ここで、澱粉粒子の平均粒子径は、光学顕微鏡で酸性水中油型乳化食品を観察し、酸性水中油型乳化食品中の無作為に選択した100個の澱粉粒子について粒子径を測定し、その平均値を算出して得ることができる。
【0021】
なお、水相に非溶解状態で分散している澱粉粒子の平均粒子径は、原料となる澱粉の種類や架橋方法、さらに架橋度の影響を受ける。即ち、糊化温度以上に加熱されることなく水相に非溶解状態で分散した澱粉粒子の平均粒子径は、主に、原料となる澱粉の由来に依存する。一方、本来の澱粉粒子の糊化温度以上に加熱されても、架橋により澱粉粒の崩壊が抑制されて粒子状態を維持する架橋澱粉の場合、その水分散液での平均粒子径は主に原料となる澱粉の粉粒の大きさと架橋度に依存する。そこで本発明においては、原料となる澱粉の種類、精製法、架橋度等により異なる種々の平均粒子径の澱粉粒子の中から、平均粒子径が前述の範囲のものを適宜選択したり、フルイにより濾別して使用する。
【0022】
本発明の酸性水中油型乳化食品において、澱粉の配合割合は、当該澱粉の種類にもよるが、無水換算で0.01〜20%が好ましく、より好ましくは0.1〜10%である。澱粉の配合量が少なすぎると冷凍耐性を十分に向上させることができず、反対に多すぎると酸性水中油型乳化食品に滑らかな食感を与え難くなる。
【0023】
本発明の酸性水中油型乳化食品の水相には、上述のように非溶解状態の粒子として澱粉を分散させる他、DE(dextrose equivalent)12以下の澱粉分解物、加工澱粉及び湿熱処理澱粉から選ばれる1種以上の澱粉処理物を溶解状態で含有させることが好ましい。これにより水相の粘度を高め、冷凍時の油脂の結晶化を抑制することができる。
【0024】
ここで、澱粉分解物とは、例えば、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉等の澱粉類を分解して得られるデキストリン、マルトデキストリン、水飴等と称されるものである。DEは澱粉分解物における分解の程度を表す指標であり、DEの値が大きくなるにつれ分解の程度が高くなる。本発明では、分解の程度が低いDE12以下の澱粉分解物を用いることが好ましく、より好ましくは9以下の澱粉分解物を用いる。
【0025】
また、DE12以下の澱粉分解物の配合量は、上述の非溶解状態の澱粉粒子を形成する澱粉の配合量や、他の澱粉処理物の配合量にもよるが、解凍後の乳化状態をより安定化させる点から0.1〜8%が好ましく、0.5〜6%がより好ましい。これに対し、配合量が多すぎると食感が重たくなる傾向があり好ましくない。
【0026】
加工澱粉は、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉等の澱粉に化学的処理を施したものである。本発明において加工澱粉としては、食用として供されているものを種々使用することができる。例えば、澱粉に無水酢酸と無水アジピン酸を作用させてエステル化したアセチル化アジピン酸架橋澱粉、澱粉にオキシ塩化リン又はトリメタリン酸ナトリウムを作用させ、さらに無水酢酸又は酢酸ビニルを作用させてエステル化したアセチル化リン酸架橋澱粉、澱粉に次亜塩素酸ナトリウムと無水酢酸を作用させてエステル化したアセチル化酸化澱粉、澱粉に無水オクテニルコハク酸を作用させてエステル化したオクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、澱粉に無水酢酸又は酢酸ビニルを作用させてエステル化した酢酸澱粉、澱粉に次亜塩素酸ナトリウムを作用させた酸化澱粉、澱粉にプロピレンオキシドを作用させてエーテル化したヒドロキシプロピル澱粉、澱粉にプロピレンオキシドを作用させてエーテル化し、さらにオキシ塩化リン又はトリメタリン酸ナトリウムを作用させてエステル化したヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、澱粉にオキシ塩化リン又はトリメタリン酸ナトリウムを作用させてエステル化し、さらにオルトリン酸又はそのカリウム塩、ナトリウム塩、トリポリリン酸ナトリウムを作用させエステル化したリン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、澱粉にオルトリン酸又はそのカリウム塩、ナトリウム塩、トリポリリン酸ナトリウムを作用させエステル化したリン酸化澱粉、澱粉にオキシ塩化リン又はトリメタリン酸ナトリウムを作用させエステル化したリン酸架橋澱粉などが挙げられる。
【0027】
湿熱処理澱粉は、澱粉を湿熱処理したもので、例えば加熱しても糊化しない程度の水分を含む澱粉粒子を密閉容器中で相対湿度100%の条件下で約100〜125℃に加熱する方法、あるいは第1段階で澱粉を容器中に入れ密閉・減圧し、第2段階で生蒸気を容器内に導入し、加湿加熱する減圧加圧加熱法などにより得ることができる。湿熱処理澱粉としては、市販のものを使用することができる。
【0028】
上述のDE12以下の澱粉分解物、加工澱粉及び湿熱処理澱粉の中でもヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉などの加工澱粉が冷凍耐性を向上させる点で好ましい。
【0029】
また、澱粉処理物の配合量は、DE12以下の澱粉分解物、加工澱粉及び湿熱処理澱粉の合計として、0.3〜15%が好ましく、0.5〜12%がより好ましい。澱粉処理物の配合量が少なすぎると、前述のように非溶解状態の澱粉粒子を分散させても冷凍耐性を十分に向上させることが難しく、反対に多すぎると、食感が重たくなる。
【0030】
一方、水相に分散させる油滴は常温(15〜25℃)で液状の食用油脂から形成することが好ましい。常温で液状の食用油脂としては、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油等をあげることができる。常温で液状の食用油脂を使用することにより、パーム油等の常温で固体の食用油脂を使用する場合に比して油滴の粒子径をコントロールしやすくなる。
【0031】
本発明の酸性水中油型乳化食品における油脂の配合割合は、当該油脂の種類にもよるが、冷凍耐性を十分に向上させる点から、50%以下が好ましく、より好ましくは40%以下である。油脂の配合割合が多いほど、冷凍と解凍により油脂が分離しやすくなるためである。また、油脂の配合量が少ないと冷凍と解凍による油脂の分離は生じにくくなるが、少なすぎると酸性水中油型乳化食品のコクがなくなるため、本発明においては、油脂の配合割合は5%以上が好ましい。
【0032】
また、本発明の酸性水中油型乳化食品では、油滴の平均粒子径を1〜20μmとし、油滴の平均粒子径と前述の澱粉粒子の平均粒子径との比が(5〜600)/100、好ましくは(5〜300)/100である。ここで、油滴の平均粒子径は、光学顕微鏡で酸性水中油型乳化食品を観察し、酸性水中油型乳化食品中の無作為に選択した100個の澱粉粒子について粒子径を測定し、その平均値を算出して得ることができる。油滴の平均粒子径が20μmよりも大きく、油滴の平均粒子径と前述の澱粉粒子の平均粒子径との比が600/100より大きくなると冷凍耐性を十分に向上させ難い場合があるので好ましくない。反対に、油滴の平均粒子径が1μmよりも小さく、かつ油滴の平均粒子径と前述の澱粉粒子の平均粒子径との比が5/100より小さくなると、微細な乳化状態とするための製造コストの上昇に見合うだけの耐冷凍性の向上効果が得られ難いので好ましくない。
【0033】
なお、油滴の粒子径をこのように調整する方法としては、食用油脂を乳化するときのミキサーの種類、撹拌条件、乳化材の添加順序などを調整する方法等をあげることができる。
【0034】
本発明の酸性水中油型乳化食品は、乳化材として、卵黄、全卵、液卵白、乾燥卵白、乳蛋白、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、オクテニルコハク酸化澱粉などを含有することができる。ここで、卵黄としては、例えば、鶏卵を割卵し卵白と分離して得られた生卵黄、当該生卵黄に殺菌処理、冷凍処理、濾過処理、スプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理、ホスフォリパーゼ又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母またはグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理又は亜臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩又は糖類等の混合処理等の1種または2種以上の処理を施したもの等が挙げられる。また、本発明の酸性水中油型乳化食品に卵黄を含有させる態様としては、鶏卵を割卵して得られる全卵、もしくは卵黄と卵白とを任意の割合で混合したもの、又はこれらに上述の処理を施したもの等を含有させる態様をあげることができる。
【0035】
乾燥卵白とは、液卵白を、例えば、噴霧乾燥(スプレードライ)、静置乾燥(パンドライ)、凍結乾燥(フリーズドライ)、真空乾燥等の種々の方法で乾燥したものである。これら乾燥卵白の中でも、本発明においては、熱蔵処理を施した乾燥卵白、好ましくは65〜120℃で1〜20日程度熱蔵処理を施した乾燥卵白を用いると、酸性水中油型乳化食品の解凍後にも安定した乳化状態を保持する冷凍耐性がより向上するので好ましい。なお、上述の熱蔵処理は常法により行うことができる。
【0036】
上記乾燥卵白の原料となる液卵白としては、例えば、卵を割卵して卵黄と分離した生液卵白、これにろ過、殺菌、冷凍、濃縮等の処理を施したものの他、卵白中の特定の成分を除去する処理、例えば、糖分を除去する脱糖処理やリゾチームを除去する処理を行ったもの等を用いることができる。これらの液卵白のなかでも、脱糖処理を行った液卵白を用いることが好ましい。脱糖処理を行わないと、上述した熱蔵処理中に卵白タンパク質中のアミノ基と遊離の糖がメイラード反応を起こし、褐変、不快臭の発生等により品質低下がもたらされる場合があるためである。ここで、脱糖処理は、酵母、酵素、細菌等を用いて常法により行えばよく、液卵白中の遊離の糖含有率が0.1%以下となるように行うことが好ましい。
【0037】
乳蛋白としては、公知の乳蛋白、例えば、ホエー蛋白、カゼイン、それらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等)あるいは乳蛋白の加水分解物等の一種以上を使用することができる。
【0038】
これらの乳化材の中でも、冷凍耐性向上の点から、卵黄と、乾燥卵白及び/又は乳蛋白を併用することがより好ましい。
【0039】
また、本発明の酸性水中油型乳化食品は、酸性水中油型乳化食品に通常用いられている各種原料を適宜選択して含有させることができる。例えば、食酢、クエン酸、乳酸、レモン果汁などの酸味材、グルタミン酸ナトリウム、食塩、砂糖などの各種調味料、動植物のエキス類、からし粉、胡椒などの香辛料、並びに各種蛋白質やこれらの分解物等をあげることができる。
【0040】
本発明の酸性水中油型乳化食品は、常温で水相に非溶解状態で分散する澱粉を水相又は油相に分散し、常法により水相原料と油相原料を混合乳化することにより、あるいは水相と油相を乳化混合後に、常温で水相に非溶解状態となる澱粉を混合分散させることにより、製造することができるが、その際、澱粉を非溶解状態で分散させている水相は、その澱粉を完全には溶解しない温度以下で酸性水中油型乳化食品を製造する。即ち、常温非溶解性、好ましくは前述の加熱溶解性の澱粉を、予め水相に分散させた後、その水相と油相と混合乳化しても、その澱粉を予め油相に分散させた後、その油相を水相と混合乳化しても、混合乳化後には、澱粉は水相で分散するので、水相に澱粉が非溶解状態で分散している本発明の酸性水中油型乳化食品を製造するためには、水相と油相との混合前に、澱粉は、水相に分散させても油相に分散させてもよい。また、水相と油相を混合分散させた後の乳化物に常温非溶解性の澱粉を添加し分散させてもよく、それによっても澱粉は水相に分散する。いずれの場合においても、水相に澱粉が非溶解状態で分散している状態では、その水相を澱粉が完全に溶解する温度には加温しないようにする。なお、ガム質が油相に分散している状態では、その油相を加熱してもガム質は溶解もゾル化もしない。
【0041】
本発明の酸性水中油型乳化食品の製造方法としては、より具体的には、例えば、水相原料として、常温非溶解性の澱粉、好ましくは前述の加熱溶解性の澱粉、乳化材及び調味料を、通常60℃以上に加熱することなく均一に混合し、ミキサー等で撹拌しながら油相原料を注加して粗乳化し、次にコロイドミルなどで仕上げ乳化をした後、ボトル容器やガラス容器などに充填密封する。
【実施例】
【0042】
実施例1〜3及び比較例1〜4
(1)酸性水中油型乳化食品の製造
表1に示す配合割合で仕上がり100kgの酸性水中油型乳化食品を製した。ここで、表1の架橋澱粉としては、ワキシーコーンスターチを原料とした架橋澱粉(商品名「ファリネックスVA70WM」、松谷化学工業株式会社製)、タピオカ架橋澱粉(タピオカ澱粉を原料とした架橋澱粉(商品名「フードスターチHR−7」、松谷化学工業株式会社製)を使用し、実施例2及び3では、これら架橋澱粉を予め清水に分散し、90℃に加熱して冷却したものを澱粉として使用した。
比較例2では、澱粉として、加熱溶解性米澱粉を予め清水に分散し、90℃に加熱溶解して澱粉粒子を消失させた後、冷却したものを使用した。
比較例3では、澱粉粒子の大きさを変えるために馬鈴薯澱粉を用いた。
また、実施例1〜3及び比較例1〜4では、乳蛋白としてホエー蛋白を用いた。
【0043】
酸性水中油型乳化食品の調製方法としては、澱粉処理物を含有させる場合、まず、これらを清水に分散させ、加熱により糊化させた後(品温
90℃)、冷却して糊化澱粉液(品温 20℃)を調製した。澱粉処理物を使用しない場合には、糊化澱粉液の調製を省略して同様に水相部を調製した。この糊化澱粉液と澱粉と植物油以外の原料をミキサーで均一に混合し水相部を調製した。次いで、この水相部を撹拌しながら菜種サラダ油を徐々に注加して粗乳化物を製した。そして、得られた粗乳化物をコロイドミルで仕上げ乳化し、200mL容量のナイロンポリ袋に150gずつ充填密封した。
比較例4では、油滴径の大きさを変化させるために仕上げ乳化を行わなかった。
【0044】
(2)評価
(1)で得た酸性水中油型乳化食品について、冷凍耐性の評価、非溶解状態の澱粉粒子の有無の確認、非溶解状態の澱粉粒子の平均粒子径の計測、油滴粒子の平均粒子径の計測を次のように行い、さらに、澱粉粒子の平均粒子径100に対する油滴の平均粒子径の比を算出した。また、食感も次のように評価した。これらの結果を表1に示す。
【0045】
(2-1)冷凍耐性
(1)で得た酸性水中油型乳化食品を、ナイロンポリ袋に充填密封したまま、−20℃の冷凍庫中で2ヵ月間保存し、その後25℃の室内で8時間以上静置し、解凍後の状態を目視観察し、油分離の有無により次の基準で冷凍耐性を評価した。
【0046】
−:油分離なし
±:表面にわずかににじむ程度の油分離が観察される
+:表面に若干の油分離が観察される
++:著しい油分離が観察される
【0047】
(2-2)澱粉粒子の観察
(1)で得た酸性水中油型乳化食品にヨウ素を添加して澱粉を染色し、光学顕微鏡で観察(倍率:1000倍)し、ヨウ素で染色された澱粉粒子の有無を確認した。実施例1、比較例2の顕微鏡写真を図1図2に示す。
なお、実施例1の酸性水中油型乳化食品を80℃で10分間加熱したものについても同様に顕微鏡で観察した。その結果、澱粉粒子を確認することができなかったため、非溶解状態で分散していた澱粉粒子が溶解したことがわかる。
【0048】
(2-3)澱粉粒子の平均粒子径
(2-2)で澱粉粒子が観察されたものについては、無作為に選択した100個の澱粉粒子について、粒子径を計測し、その平均値を求めた。この場合、5μm以下の粒子は1μm目盛りのスケールで粒子径を計測し、5μmを超える粒子は5μm目盛りのスケールで粒子径を計測した。
【0049】
(2-4)油滴の平均粒子径
(1)で得た酸性水中油型乳化食品について光学顕微鏡で観察(倍率:2000倍)し、無作為に選択した100個の油滴について1μm目盛りのスケールで粒子径を計測し、その平均値を求めた。
【0050】
(2-5)食感
(2-1)で冷凍耐性を評価した酸性水中油型乳化食品について、食感を次の基準により評価した。
○:ざらつきもなく口当たりがよい
△:少しざらつき感がある
×:ざらつき感がある
【0051】
【表1】
【0052】
表1から、澱粉粒子が非溶解状態で分散していると(実施例1〜3)冷凍耐性が良好であること、これに対し澱粉が常温溶解性である場合(比較例1)あるいは澱粉が予め加熱されることにより溶解し、水相に非溶解状態の粒子が残存していない場合(比較例2)では冷凍耐性が劣ることがわかる。
また、実施例1と比較例3から、澱粉粒子の平均粒子径が3〜60μmの範囲にあると冷凍耐性が良好であることがわかり、実施例1と比較例4から、油相平均粒子径と澱粉平均粒子径との比が(5〜600)/100の範囲にあると冷凍耐性が良好であることがわかる。
【0053】
試験例1-1〜1-4
澱粉処理物の添加が冷凍耐性に及ぼす影響を調べるため、表1に示すように、実施例1の組成に対して澱粉処理物の種類と配合量を異ならせた以外は実施例1と同様にして酸性水中油型乳化食品を製造し、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
表1から、水相に、加工澱粉(ヒドロキシプロピル)澱粉、DE12以下の澱粉分解物、又は湿熱処理澱粉を溶解した場合は、馬鈴薯澱粉を溶解した場合に比べて冷凍耐性が向上することがわかる。
【0054】
試験例2-1〜2-3
乳化材の種類が冷凍耐性に及ぼす影響を調べるため、表1に示すように、乳蛋白又は乾燥卵白の配合を異ならせた。即ち、試験例2-1では、乳蛋白としてカゼインを用いた。試験例2-2では、乾燥卵白として、糖含有率が0.1%以下となるように脱糖した液卵白を噴霧乾燥し、75℃で2週間熱蔵した乾燥卵白(pH10)を用いた。
表1から、乳化材として乳蛋白も乾燥卵白も含まない場合(試験例2-3)は、冷凍耐性が劣ることがわかる。
図1
図2