(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンエネルギーの技術開発が急速に進展する中、脱石油、ゼロエミッション、省電力製品の普及等、地球に優しい社会を目指して技術開発が進んでいる。特に、最近脚光を浴びているのが、電気自動車、有事災害が発生した際にエネルギーを供給することのできる大容量の蓄電池、携帯用電子機器等に用いられている二次電池であり、例えば、鉛蓄電池、アルカリ蓄電池、リチウムイオン電池等が知られている。
【0003】
特に、非水電解液系の二次電池であるリチウムイオン電池は、小型化、軽量化、高容量化が可能であり、しかも、高出力、高エネルギー密度であるという優れた特性を有していることから、電気自動車を始め、電動工具等の高出力電源としても商品化されており、次世代のリチウムイオン電池用材料の開発が世界中で活発化している。
また、最近では、エネルギー技術と住宅とのコラボレーションとしてHEMS(ホームエネルギー・マネッジメントシステム)が知られており、スマート家電や電気自動車、あるいは太陽光発電等、家庭の電気に関わる情報と制御システムを集約することで、自動制御、電力需給の最適化等を管理し、賢くエネルギーを消費するシステムが注目されている。
【0004】
ところで、現在実用化されているリチウムイオン電池の正極活物質としては、LiCoO
2、LiMnO
2が一般的である。しかしながら、Coは地球上に偏在し、かつ稀少な資源であること、正極材料として大量に必要になること等を考慮すると、製品とした場合の製造コストが高くなり、かつ安定供給が難しいという懸念がある。そこで、LiCoO
2に代わる正極活物質として、スピネル系の結晶構造を有するLiMn
2O
4、三元系の材料組成のLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2、鉄系化合物である鉄酸リチウム(LiFeO
2)、オリビン構造を有するリン酸鉄リチウム(LiFePO
4)やリン酸マンガンリチウム(LiMnPO
4)等の正極活物質の研究開発が盛んに進められている。
【0005】
このオリビン構造を有する正極活物質は、電子伝導性が十分ではないために、大電流の充放電を行うためには、粒子の微細化、導電性物質との複合化等さまざまな工夫が必要であり、多くの努力がなされている。
しかしながら、粒子の微細化や導電性物質を多量に用いて複合化を行った場合、電極密度の低下を招き、ひいては、電池の密度低下、即ち単位容積当たりの容量低下を引き起こしてしまうという問題点がある。そこで、この問題点を解決する方法として、電子導電性物質である炭素前駆体として有機物溶液を用い、この有機物溶液と電極活物質粒子とを混合した後、乾燥し、得られた乾燥物を非酸化性雰囲気下にて熱処理し、有機物を炭化させることにより、電極活物質粒子の表面を炭素で被覆して電極材料とする、炭素被覆法が見出された。
【0006】
この炭素被覆法は、電極活物質粒子の表面に、炭素を被覆させることが可能で、電極密度を大きく低下させること無く、導電性の向上を図ることができるという優れた特徴を有することから、様々な提案がなされている。
これらの提案の1つに、LiFePO
4からなる粒子の表面を、還元糖の熱分解により生成した炭素により被覆した電極材料がある(例えば、特許文献1)。
この電極材料は、リチウム成分と、Fe成分と、P成分と、還元糖とを含む溶液または懸濁液を噴霧し、加熱することにより、容易に合成することができる。
【0007】
しかし、炭素被覆法で得られた多くの電極材料は、LiFePO
4単体、もしくはLiFePO
4単体に若干の異種元素を含む化合物を添加したものであり、LiFePO
4以外のオリビン構造を有する正極活物質には、炭素が充分に被覆されないという問題があった。
例えば、LiMnPO
4の場合、Mnが炭化反応を抑制する負触媒として働くために、LiMnPO
4では炭素被覆法を適用して電子伝導性を改善することが難しかった。
そして、LiFePO
4は、LiMnPO
4等の他のオリビン構造を有する正極活物質よりも容量やエネルギー密度が低いため、LiFePO
4以外のオリビン構造を有する正極活物質にも炭素を被覆させる方法が求められていた。
【0008】
上記問題を解決するために、粒子の表面にニッケル元素又は鉄元素を存在させることにより、LiMnPO
4の炭素の被覆率を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献2)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の電極材料、ペースト、電極板及びリチウムイオン電池を実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0021】
[電極材料]
本実施形態の電極材料は、炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4(但し、AはCo、Mn、Ni、Cu、Crの群から選択される1種または2種以上、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sc、Y、希土類元素の群から選択される1種または2種以上、0<x≦2、0<y≦1、0≦z≦1.5)粒子からなり、前記Feは、Li
xA
yD
zPO
41molに対して、0.01mol以上かつ0.1mol以下含有され、前記Li
xA
yD
zPO
4粒子表面において、前記Feの存在比(Fe/(Fe+A+D))は、0.02以上かつ0.25以下であることを特徴とする。
【0022】
Aについては、Co、Mn、Niが、Dは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Alが、高い放電電位等の点から好ましい。
ここで、希土類元素とは、ランタン系列であるLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの15元素のことである。
また、Li
xA
yD
zPO
4は、Li
xA
yPO
4であることが好ましく、Li
xMn
yPO
4であることがより好ましい。
【0023】
本実施形態の電極材料は、Feの存在量が、前記Li
xA
yD
zPO
4粒子表面からLi
xA
yD
zPO
4粒子中心部に向かって低下していることが好ましい。
その理由は、AよりもFeの方がLiイオンの伝導性が高いため、このようなFe分布が形成されることにより、Li
xA
yD
zPO
4粒子内にLiイオン伝導パスが形成され、Li
xA
yD
zPO
4粒子内部のLiイオンの拡散性を向上させることができると考えられるからである。
【0024】
また、本実施形態の電極材料は、炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子が複数個凝集した凝集粒子からなることが好ましい。
ここで、「炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子が複数個凝集した凝集粒子」とは、炭素質被膜同士が接触している状態、及びFeを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子同士が接触している状態の双方を意味するが、炭素質被膜同士が接触している状態がより好ましい。
【0025】
接触した状態は特に限定されないが、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子同士または炭素質被膜同士の接触面積が小さく、さらに、接触部分が断面積の小さい頸部状となって強固に接続された状態の凝集体であることが好ましい。すなわち、接触面積が小さくなることで、凝集粒子内に空隙が形成されるため、Liイオンの拡散性がより容易になるため好ましい。また、接触部分が断面積の小さい頸部状となることで、凝集体内部にチャネル状(網目状)の空隙が三次元に広がった構造となるのでより好ましい。
【0026】
本実施形態の電極材料では、Feは、Li
xA
yD
zPO
41molに対して、0.01mol以上かつ0.1mol以下含有され、好ましくは0.03mol以上かつ0.1mol以下含有され、より好ましくは0.05mol以上かつ0.09mol以下含有される。または、FeはP1molに対して、0.01mol以上かつ0.1mol以下含有され、好ましくは0.03mol以上かつ0.1mol以下含有され、より好ましくは0.05mol以上かつ0.09mol以下含有される。
Feが電極材料中に上記範囲で含有されることにより、Li
xA
yD
zPO
4の高容量かつ高エネルギーの特性を阻害せず、かつ、電子伝導性を確保するために必要な炭素質被膜が被覆される。
【0027】
Li
xA
yD
zPO
4粒子表面において、Feの存在比(Fe/(Fe+A+D))は、0.02以上かつ0.25以下であり、好ましくは0.05以上かつ0.20以下であり、より好ましくは0.10以上かつ0.18以下である。
ここで、Li
xA
yD
zPO
4粒子表面において、Feの存在比が上記範囲であることが好ましい理由の詳細は不明ではあるが、次のように考えられる。
【0028】
従来、炭素質被膜がLi
xA
yD
zPO
4粒子表面に均一に形成されるようにするために、Feが粒子表面に均一に分布するように電極材料が作製されていた。そのため、粒子表面におけるFeの存在比率が高いものとなっていた。すなわち、Feの存在比が0.25を超えるほど存在していた。
【0029】
しかし、Li
xA
yD
zPO
4粒子表面において、Feの存在比が0.25より高くなり、炭素質被膜が均一に形成されると、電子伝導性は高くなるものの、リチウムイオンの拡散は阻害されるため、Li
xA
yD
zPO
4粒子の高容量及び高エネルギーの効果を充分に得ることができなくなっていた。
【0030】
ここで、Li
xA
yD
zPO
4粒子表面におけるFeの存在比率が低くなる(Li
xA
yD
zPO
4粒子表面において、Feの存在比が0.25以下になる)、すなわち、Li
xA
yD
zPO
4粒子表面において、AやDの露出部分が多くなり、Feが表面に存在しない部分が多くなると、炭素質被膜が均一に被覆されなくなる。そのため、LiMnPO
4粒子表面において、電子伝導性が高い部分と、リチウムイオンの拡散性が高い部分が混在することとなり、電極材料としては、高容量かつ高エネルギーの効果を得ることができる。
【0031】
また、炭素質被膜が部分被覆されているようなLi
xA
yD
zPO
4粒子であっても、被覆されている部分はFeの存在比率が高いため、電極材料全体として高容量及び高エネルギーの効果を充分に得ることができなかった。
すなわち、Feは、電極材料が高容量及び高エネルギーの効果が得られる程度に、Li
xA
yD
zPO
4粒子表面に散在しているのが好ましいと考えられる。
【0032】
ここで、「高容量」とは、次の方法で測定したリチウムイオン電池の放電電流0.1Cにおける電流容量が、130mAh/g以上であることを意味する。
【0033】
電極材料と、ポリフッ化ビニリデンと、アセチレンブラックとを、質量比が85:10:5となるように混合し、さらに、60質量%となるようにN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を加えてペーストを作製する。
【0034】
次いで、このペーストを、ドクターブレード(ギャップ300μm)を用いて厚み15μmのアルミニウム(Al)箔上に塗布し、乾燥する。
その後、600kgf/cm
2の圧力にて加圧して電極板を作製し、リチウムイオン電池の正極とする。
【0035】
このリチウムイオン電池の正極に対し、負極としてリチウム金属を配置し、これら正極と負極の間に多孔質ポリプロピレンからなるセパレーターを配置し、電池用部材とする。
次いで、この電池用部材を電解液(エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を、濃度1モル/dm
3となるように溶解させた混合液)に浸漬し、リチウムイオン電池を作製する。
【0036】
このようにして作製したリチウムイオン電池を、25℃にて0.1C電流値で充電電圧が4.3Vとなるまで定電流充電を行った後、定電圧充電に切り替えて電流値が0.01Cとなった時点で充電を終了させる。次いで、放電電流0.1Cでの放電を行い、電池電圧が2Vとなった時点で放電を終了させ、その際の電流容量を測定する。
このように、放電電流が0.1Cで測定した電流容量が130mAh/g以上であれば高容量であり、好ましくは138mAh/g以上であり、より好ましくは145mAh/g以上であり、さらに好ましくは153mAh/g以上である。
また、0.1Cでの放電の際に、Feが多く存在することに由来するプラトー電位が現れないことがより好ましい。
【0037】
さらに、上記の手順で作製したリチウムイオン電池を、25℃にて0.1C電流値で充電電圧が4.3Vとなるまで定電流充電を行った後、定電圧充電に切り替えて電流値が0.01Cとなった時点で充電を終了させる。次いで、放電電流3Cでの放電を行い、電池電圧が2Vとなった時点で放電を終了させ、その際の電流容量を測定する。
このように、放電電流が3Cで測定した電流容量が120mAh/g以上であれば高容量であり、好ましくは130mAh/g以上であり、より好ましくは140mAh/g以上である。
【0038】
また、本明細書における「高エネルギー」とは、上記同様に放電電流0.1Cで電流容量を測定した結果から算出される電力容量が、500mWh/g以上であることを意味する。電力容量は、550mWh/g以上であることが好ましい。
【0039】
Feの存在比(Fe/(Fe+A+D))は、飛行時間型二次イオン質量分析計(Time−of−flight secondary ion mass spectrometer:TOF−SIMS)で、FeとAとDについて測定することにより、算出することができる。
例えば、電極材料をインジウムに埋め込んだ試料を作製し、試料の最表面には、多くのLi
xA
yD
zPO
4粒子が表面を揃えた状態で配列され、深さ方向には多くのLi
xA
yD
zPO
4粒子が積層された状態を得る。この試料を、飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)を用いて、Gaイオンビーム(ビーム径:サブミクロン)で、Li
xA
yD
zPO
4粒子1個の大きさの50倍〜200倍程度の領域をスキャンして、試料表面に配列されかつ試料内に積層されたLi
xA
yD
zPO
4粒子を堀削しながら、各深さにおけるFe、A、Dのカウント数を検出し、各深さにおけるFe存在比(Fe/(Fe+A+D))を算出する。
飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)の検出深さはサブnmオーダーであるため、最表面のデータは、Li
xA
yD
zPO
4粒子表面のみに含有されるFe存在比を検出することができる。
【0040】
このようにして測定されるLi
xA
yD
zPO
4粒子最表面のFe存在比は、0.02以上かつ0.25以下であり、好ましくは0.05以上かつ0.20以下であり、より好ましくは0.10以上かつ0.18以下である。
【0041】
上記範囲でFeがLi
xA
yD
zPO
4粒子表面に存在することにより、電子伝導性とリチウムイオン拡散性に優れる結果、高容量かつ高エネルギー効果を有する電極材料が得られる。
【0042】
この炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子の平均粒子径は、0.01μm以上かつ20μm以下が好ましく、より好ましくは0.02μm以上かつ5μm以下である。
ここで、炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子の平均粒子径を上記範囲とした理由は、平均粒子径が0.01μm未満では、Li
xA
yD
zPO
4粒子表面を薄膜状の炭素で充分に被覆することが困難となり、高速充放電における放電容量が低くなり、その結果、充分な充放電性能を実現することが困難となるからである。一方、平均粒子径が20μmを超えると、Li
xA
yD
zPO
4粒子の内部抵抗が大きくなり、その結果、高速充放電における放電容量が不十分なものとなるからである。
【0043】
この炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子の平均粒子径は、このLiMnPO
4粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて観察した場合に、炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子を所定数、例えば、200個、あるいは100個を選び出し、これらのLi
xA
yD
zPO
4粒子各々の最長の直線部分(最大長径)を測定し、これらの測定値を平均して求めてもよい。
また、この炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子を水等の溶媒に分散させて分散液とし、この分散液の個数平均粒子径を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定して平均粒子径としてもよい。
【0044】
一方、この炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子を複数個凝集した凝集粒子とした場合、この凝集粒子の平均凝集粒子径は、0.5μm以上かつ100μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上かつ20μm以下である。
【0045】
ここで、凝集粒子の平均凝集粒子径を上記の範囲とした理由は、平均凝集粒子径が0.5μm未満では、凝集粒子が細かすぎるために舞い易くなり、電極形成用ペーストを作製する際に取り扱いが困難になるからである。一方、平均凝集粒子径が100μmを超えると、電池用電極を作製した際に、乾燥後の電極の膜厚を超える大きさの凝集粒子が存在する可能性が高くなり、したがって、電極の膜厚の均一性を保持することができなくなるからである。
【0046】
この凝集粒子の平均凝集粒子径は、炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子の平均粒子径の測定方法と同様で、SEM等を用いて観察してもよく、水などに分散させてレーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて個数平均粒子径を測定してもよい。
【0047】
この凝集体の体積密度は、水銀ポロシメーターを用いて測定することができ、この凝集粒子を中実とした場合の体積密度の40体積%以上かつ95体積%以下が好ましく、より好ましくは60体積%以上かつ90体積%以下である。
【0048】
このように、この凝集粒子の体積密度を40体積%以上とすることで、凝集粒子が緻密化することにより凝集粒子の強度が増し、例えば、本実施形態の電極材料をバインダー、導電助剤、溶媒と混合して電極スラリーを調製する際に凝集粒子が崩れ難くなり、その結果、電極スラリーの粘度の上昇が抑制され、かつ流動性が保たれることにより、塗工性が良くなると共に、電極スラリーの塗膜における電極材料の充填性の向上を図ることもできる。
【0049】
この炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子では、Li
xA
yD
zPO
4粒子表面の80%以上を炭素質被膜にて被覆されていることが好ましく、90%以上を炭素質被膜にて被覆されていることがより好ましい。
炭素質被膜の被覆率は、透過電子顕微鏡(TEM)、エネルギー分散型X線分光器(EDX)を用いて測定することができる。ここで、炭素質被膜の被覆率が80%未満では、炭素質被膜の被覆効果が不十分となることがある。そのため、そのような電極材料を用いて作製されたリチウムイオン電池では、プラトー電位の低下等により電力容量が低下するため好ましくない。
【0050】
この炭素質被膜の厚みは、0.1nm以上かつ20nm以下であることが好ましい。
この炭素質被膜の厚みを上記の範囲とした理由は、厚みが0.1nm未満であると、炭素質被膜の厚みが薄すぎるために所望の抵抗値を有する膜を形成することができなくなり、その結果、導電性が低下し、電極材料としての導電性を確保することができなくなるからである。一方、厚みが20nmを超えると、電池活性、例えば、電極材料の単位質量あたりの電池容量が低下するからである。
【0051】
この炭素質被膜中の炭素量は、Li
xA
yD
zPO
4粒子100質量部に対して0.5質量部以上かつ5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは1質量部以上かつ2質量部以下である。
ここで、炭素質被膜中の炭素量を上記の範囲に限定した理由は、炭素量が0.5質量部未満では、電池を形成した場合に高速充放電レートにおける放電容量が低くなり、充分な充放電レート性能を実現することが困難となるからである。一方、炭素量が5質量部を超えると、炭素量が多すぎて、Feを含むLi
xA
yD
zPO
4粒子の単位質量あたりのリチウムイオン電池の電池容量が必要以上に低下するからである。
【0052】
このFeを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子の形状は特に限定されないが、球状、特に真球状の粒子からなる電極材料を生成し易いことから、その形状も球状であることが好ましい。
ここで、球状が好ましい理由としては、この炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子とバインダー樹脂(結着剤)と溶媒とを混合して正電極形成用ペーストを調製する際の溶媒量を低減させることができるとともに、この正電極形成用ペーストの集電体への形成も容易となるからである。また、形状が球状であれば、このFeを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子の表面積が最小となり、ひいては、添加するバインダー樹脂(結着剤)の混合量を最小限にすることができ、得られる正電極の内部抵抗を小さくすることができるからである。
【0053】
さらに、このFeを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子の形状を球状、特に真球状とすることで最密充填し易くなるので、単位体積あたりの正極材料の充填量が多くなり、その結果、電極密度を高くすることができ、リチウムイオン電池の高容量化を図ることができるので、好ましい。
【0054】
本実施形態における炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子の表面には、Feが固溶されたLi
xA
yD
zFe
aPO
4が存在していてもよく、粒子内部にLi
xA
yD
zFe
aPO
4が存在していてもよい。
aは、0<a≦1.5、好ましくは0.01≦a≦1.0、より好ましくは0.03≦a≦0.5、さらに好ましくは0.05≦a≦0.1である。
なお、FeとLi
xA
yD
zPO
4のモル比は、ICP発光分析により測定された値を、Pを1molとして換算することにより、算出することができる。また、x、y、z、aは、ICP発光分析により測定された値を、Pを1molとして換算することにより、算出することができる。
【0055】
[電極材料の製造方法]
本実施形態の電極材料の製造方法は特に限定されないが、例えば、Li
xA
yD
zPO
4粒子と、LiFePO
4前駆体粒子と、有機化合物とを混合して分散処理して分散体を作製する工程と、この分散体を乾燥して乾燥体とする工程と、この乾燥体を非酸化性雰囲気下で焼成する工程と、を有する方法が挙げられる。
【0056】
Li
xA
yD
zPO
4粒子は特に限定されないが、例えば、Li源、A源、D源、及びPO
4源を、これらのモル比がx:y:z:1となるように水に投入し、撹拌してLi
xA
yD
zPO
4の前駆体溶液とし、この前駆体溶液を耐圧容器に入れ、高温、高圧下、例えば、120℃以上かつ250℃以下、0.2MPa以上にて、1時間以上かつ24時間以下、水熱処理を行うことにより得られた粒子が好ましい。
この場合、水熱処理時の温度、圧力及び時間を調整することにより、Li
xA
yD
zPO
4粒子の粒子径を所望の大きさに制御することが可能である。
【0057】
この場合、Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、塩化リチウム(LiCl)、リン酸リチウム(Li
3PO
4)等のリチウム無機酸塩、酢酸リチウム(LiCH
3COO)、蓚酸リチウム((COOLi)
2)等のリチウム有機酸塩、の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
これらの中でも、塩化リチウムと酢酸リチウムは、均一な溶液相が得られやすいため好ましい。
【0058】
ここで、A源としては、コバルト化合物からなるCo源、マンガン化合物からなるMn源、ニッケル化合物からなるNi源、銅化合物からなるCu源、クロム化合物からなるCr源の群から選択される1種または2種が好ましい。
【0059】
Co源としてはCo塩が好ましく、例えば、塩化コバルト(II)(CoCl
2)、硫酸コバルト(II)(CoSO
4)、硝酸コバルト(II)(Co(NO
3)
2)、酢酸コバルト(II)(Co(CH
3COO)
2)及びこれらの水和物の中から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
【0060】
Mn源としては、Mn塩が好ましく、例えば、塩化マンガン(II)(MnCl
2)、硫酸マンガン(II)(MnSO
4)、硝酸マンガン(II)(Mn(NO
3)
2)、酢酸マンガン(II)(Mn(CH
3COO)
2)及びこれらの水和物の中から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。これらの中でも、硫酸マンガンは、均一な溶液相が得られやすいため好ましい。
【0061】
Ni源としてはNi塩が好ましく、例えば、塩化ニッケル(II)(NiCl
2)、硫酸ニッケル(II)(NiSO
4)、硝酸ニッケル(II)(Ni(NO
3)
2)、酢酸ニッケル(II)(Ni(CH
3COO)
2)及びこれらの水和物の中から選択された1種または2種以上が好ましい。
【0062】
PO
4源としては、例えば、オルトリン酸(H
3PO
4)、メタリン酸(HPO
3)等のリン酸、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)、リン酸アンモニウム((NH
4)
3PO
4)、リン酸リチウム(Li
3PO
4)、リン酸水素二リチウム(Li
2HPO
4)、リン酸二水素リチウム(LiH
2PO
4)及びこれらの水和物の中から選択される1種または2種以上が好ましい。
特に、オルトリン酸は、均一な溶液相を形成しやすいので好ましい。
【0063】
LiFePO
4前駆体粒子とは、Li源、Fe源、PO
4源及び水が含有された混合液が、LiFePO
4粒子にはならない低い温度で熱処理された状態を意味する。
このようなLiFePO
4前駆体粒子は、Li源、Fe源、及びPO
4源を、これらのモル比が1:1:1となるように水に投入し、撹拌してLiFePO
4粒子の前駆体溶液とし、この前駆体溶液を60℃以上かつ90℃以下で、1時間以上かつ24時間以下、加熱処理されることにより得られる。
【0064】
このようなLiFePO
4前駆体粒子を作製することが好ましい理由は、次に述べる通りである。
熱処理を行わない状態でLi
xA
yD
zPO
4粒子と混合してしまうと、Li源、Fe源、PO
4源が、粒子表面に均一に存在するため、炭素質被膜が均一に形成されやすくなってしまうからである。
一方で、LiFePO
4粒子が形成されるほどの高温で熱処理すると、LiFePO
4粒子の状態では、Li
xA
yD
zPO
4粒子にFeが付着しづらくなるため、所望量のFeをLi
xA
yD
zPO
4粒子の表面に存在させることができなくなるからである。
【0065】
Li源、PO
4源は上記と全く一緒であるので説明を省略する。
Fe源としては、例えば、塩化鉄(II)(FeCl
2)、硫酸鉄(II)(FeSO
4)、酢酸鉄(II)(Fe(CH
3COO)
2)等の鉄化合物またはその水和物や、硝酸鉄(III)(Fe(NO
3)
3)、塩化鉄(III)(FeCl
3)、クエン酸鉄(III)(FeC
6H
5O
7)等の3価の鉄化合物や、リン酸鉄リチウム等を用いることができる。
【0066】
有機化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテル、多価アルコール等が挙げられる。
多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、グリセリン等が挙げられる。
【0067】
Li
xA
yD
zPO
4粒子とLiFePO
4前駆体粒子は、Li
xA
yD
zPO
41molに対して、Feが0.01mol以上かつ0.1mol以下になるように混合すればよい。
有機化合物は、有機化合物中の炭素が、Li
xA
yD
zPO
4粒子100質量部に対して0.5質量部以上かつ5質量部以下となるように混合すればよい。
【0068】
次いで、得られた混合液を分散して分散体とする。
分散方法は特に限定されないが、Li
xA
yD
zPO
4粒子の凝集状態をほぐして、LiFePO
4前駆体粒子が、Li
xA
yD
zPO
4粒子個々の表面に散在して付着しやすくなる程度の分散エネルギーを付与できる装置を用いるのが好ましい。このような分散装置としては、例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー等が挙げられる。
【0069】
次いで、上記の分散体を乾燥して乾燥体とする。
本工程では、分散体から溶媒(水)を散逸させることができれば乾燥方法は特に限定されない。
なお、凝集粒子を作製する場合には、噴霧分解法を用いて乾燥すればよい。例えば、分散体を100℃以上かつ300℃以下の高温雰囲気中に噴霧し、乾燥させ、粒子状乾燥体または造粒状乾燥体とする方法が挙げられる。
【0070】
次いで、上記乾燥体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上かつ1000℃以下、好ましくは800℃以上かつ900℃以下の範囲内の温度にて焼成する。
この非酸化性雰囲気としては、窒素(N
2)、アルゴン(Ar)等の不活性雰囲気が好ましく、より酸化を抑えたい場合には水素(H
2)等の還元性ガスを含む還元性雰囲気が好ましい。
【0071】
ここで、乾燥体の焼成温度を700℃以上かつ1000℃以下とした理由は、焼成温度が700℃未満では、乾燥体に含まれる有機化合物の分解・反応が充分に進行せず、有機化合物の炭化が不充分なものとなり、生成する分解・反応物が高抵抗の有機物分解物となるので好ましくないからである。一方、焼成温度が1000℃を超えると、乾燥体を構成する成分、例えば、リチウム(Li)が蒸発して組成にずれが生じるだけでなく、この乾燥体にて粒成長が促進し、高速充放電レートにおける放電容量が低くなり、充分な充放電レート性能を実現することが困難となるので好ましくないからである。
【0072】
焼成時間は、有機化合物が充分に炭化される時間であればよく、特に制限はないが、0.1時間以上かつ10時間以下とする。
この焼成過程では、鉄は触媒的に作用し、有機化合物は、熱処理の際に分解・反応して炭素を生成し、この炭素はFeがLi
xA
yD
zPO
4粒子のFeが存在する表面部分を起点として付着し、炭素質からなる被膜を形成する。これにより、Feを含むLi
xA
yD
zPO
4粒子の表面が炭素質被膜により覆われ、炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子、または、このLi
xA
yD
zPO
4粒子を複数個凝集した凝集粒子が生成することとなる。
【0073】
これらの焼成過程では、乾燥体にリチウムが含まれる場合には、焼成時間が長くなるにしたがって、リチウムが炭素質被膜に拡散して炭素質被膜内にリチウムが存在することとなり、炭素質被膜の導電性がより一層向上するので好ましい。
【0074】
ただし、焼成時間が長くなり過ぎると、異常な粒成長が生じたり、リチウムが一部欠損した粒子または凝集粒子が生成したりする。そのため、この炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子、または、このLi
xA
yD
zPO
4粒子を複数個凝集した凝集粒子自体の性能が低下し、その結果、この炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子、または、このLi
xA
yD
zPO
4粒子を複数個凝集した凝集粒子を用いた電池特性が低下する原因となるので好ましくない。
以上の方法により、本実施形態の電極材料を作製することができる。
【0075】
上記製造方法は、Li
xA
yD
zPO
4粒子と、LiFePO
4前駆体粒子とを、Li
xA
yD
zPO
41molに対してFeが0.01mol以上かつ0.1mol以下となるように、すなわち、電極材料全体におけるFe量が少なくなるように混合し、さらに分散処理も行っているため、Li
xA
yD
zPO
4粒子の表面にLiFePO
4前駆体粒子が散在して付着しやすくなる。
【0076】
そして、Li
xA
yD
zPO
4粒子の表面にLiFePO
4前駆体粒子が散在して付着している状態で、非酸化性雰囲気下で焼成するため、炭素質被膜はLi
xA
yD
zPO
4粒子表面に形成され、かつ、Li
xA
yD
zPO
4粒子内部にFeが拡散していくことができ、Li
xA
yD
zPO
4粒子表面からLi
xA
yD
zPO
4粒子内部に向かってFeの濃度分布を形成することができる。すなわち、Feの存在量が、Li
xA
yD
zPO
4粒子表面からLi
xA
yD
zPO
4粒子中心部に向かって低下するようにすることができる。
【0077】
[ペースト]
本実施形態のペーストは、本実施形態の電極材料と、導電助剤と、結着剤と、を含有してなることを特徴とする。
【0078】
電極材料は、電極材料と導電助剤と結着剤の合計質量を100質量%とした場合に、85質量%以上かつ98.5質量%以下含有されるのが好ましく、90質量%以上かつ98.5質量%以下含有されるのがより好ましい。
上記の範囲で電極材料が含有されることにより、電池特性に優れた電極を得ることができる。
【0079】
導電助剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素の群から選択される1種または2種以上を用いることができる。
【0080】
導電助剤は、電極材料と導電助剤と結着剤の合計質量を100質量%とした場合に、0.1質量%以上かつ7質量%以下含有されるのが好ましく、0.2質量%以上かつ5質量%以下含有されるのがより好ましく、0.5質量%以上かつ3質量%以下含有されるのがさらに好ましい。
ここで、導電助剤の含有量を上記の範囲とした理由は、導電助剤の含有量が0.1質量%未満では、本実施形態のペーストを用いて電極を形成した場合に、電子伝導性が十分ではなく、電池容量や充放電レートが低下するので好ましくないからである。一方、導電助剤の含有量が7質量%を超えると、電極中に占める電極材料が相対的に減少し、単位体積あたりのリチウムイオン電池の電池容量が低下するので好ましくないからである。
【0081】
結着剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン等の群から選択される1種または2種以上が挙げられる。
【0082】
結着剤は、電極材料と導電助剤と結着剤の合計質量を100質量%とした場合に、0.5質量%以上かつ10質量%以下含有されるのが好ましく、1質量%以上かつ7質量%以下含有されるのがより好ましい。
ここで、結着剤の含有量を上記の範囲とした理由は、結着剤の含有量が0.5質量%未満では、本実施形態のペーストを用いて塗膜を形成した場合に、塗膜と集電体の結着性が十分ではなく、電極の圧延形成時等において塗膜の割れや脱落が生じる場合があり好ましくないからである。
また、電池の充放電過程において塗膜が集電体から剥離し、電池容量や充放電レートが低下する場合があるため好ましくないからである。
一方、結着剤の含有量が10質量%を超えると、電極材料の内部抵抗が増大し、高速充放電レートにおける電池容量が低下する場合があるため好ましくないからである。
【0083】
溶媒は、ペーストを塗布しやすくするために適宜混合すればよい。溶媒の種類は特に限定されず、例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0084】
溶媒は、ペースト中に30質量%以上かつ70質量%以下となるように混合されるのが好ましい。換言すれば、電極材料と導電助剤と結着剤の合計質量は、ペースト中に30質量%以上かつ70質量%以下となるように含有されるのが好ましく、40質量%以上かつ60質量%以下含有されるのがより好ましい。このよう範囲で混合されることにより、電極形成に優れ、かつ電池特性に優れた、電極形成用のペーストを得ることができる。
【0085】
本実施形態のペーストの製造方法は、電極材料、導電助剤、結着剤、溶媒を均一に混合できる方法であれば特に限定されず、例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー、ペイントシェーカー、ホモジナイザー等の混錬機を用いた方法が挙げられる。
【0086】
[電極板]
本実施形態の電極板は、本実施形態のペーストを用いて集電体の一主面に電極が形成されてなることを特徴とする。この電極板は、リチウムイオン電池の正極に用いられるものである。
【0087】
本実施形態の電極板の製造方法は、本実施形態の電極材料を用いて集電体の一方の面に電極を形成できる方法であれば特に限定されない。
例えば、本実施形態のペーストを、集電体の一方の面に塗布して塗膜とし、この塗膜を乾燥し、次いで、加圧圧着することにより、集電体の一方の面に電極が形成された電極板を得ることができる。
【0088】
[リチウムイオン電池]
本実施形態のリチウムイオン電池は、本実施形態の電極板を備えてなることを特徴とする。
【0089】
本実施形態のリチウムイオン電池は、本実施形態の電極板からなる正極と、負極と、セパレーターと、電解液と、を備えてなる。
【0090】
本実施形態のリチウムイオン電池では、負極、電解液、セパレーター等は特に限定されない。
負極としては、例えば、金属Li、炭素材料、Li合金、Li
4Ti
5O
12等の負極材料を用いることができる。
また、電解液とセパレーターの代わりに、固体電解質を用いても良い。
【0091】
電解液は、例えば、エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を、例えば、濃度1モル/dm
3となるように溶解することで作製することができる。
セパレーターとしては、例えば、多孔質プロピレンを用いることができる。
【0092】
本実施形態のリチウムイオン電池では、本実施形態の電極板を正極として用いたので、高容量かつ高エネルギー密度である。
【0093】
以上説明したように、本実施形態の電極材料によれば、電極材料中におけるFeの存在量と、Li
xA
yD
zPO
4粒子表面におけるFe存在比を制御したので、Li
xA
yD
zPO
4粒子の有する、高容量かつ高エネルギー効果を充分に発揮することができる。
【0094】
また、Feの存在量が、Li
xA
yD
zPO
4粒子の表面からLi
xA
yD
zPO
4粒子中心部に向かって低下している場合には、Li
xA
yD
zPO
4粒子内にLiイオン伝導パスが形成され、Li
xA
yD
zPO
4粒子内部のLiイオンの拡散性をより向上させることができる。
【0095】
また、炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLi
xA
yD
zPO
4粒子が複数個凝集した凝集粒子となっている場合には、電極材料内に空隙が形成されるため、Liイオンの拡散性を向上させることができる。
【0096】
本実施形態のペーストによれば、本実施形態の電極材料を含有しているので、このペーストを集電体の一主面に塗布して電極を形成し、電極板とした場合に、高容量かつ高エネルギー密度である電極板を提供することができる。
【0097】
本実施形態の電極板によれば、本実施形態の電極材料を含有しているので、高容量かつ高エネルギー密度である電極板を提供することができる。
【0098】
本実施形態のリチウムイオン電池によれば、本実施形態の電極材料を含有しているので、高容量かつ高エネルギー密度であるリチウムイオン電池を提供することができる。
また、本実施形態のリチウムイオン電池を放電させた場合には、Feが多く存在することに由来するプラトー電位が現れないため、安定した充放電特性が得られる。そのため、本実施形態のリチウムイオン電池を電気自動車や電子機器等に適用した場合に、Feが多く存在することに由来するプラトー電位を補償するような回路を組み込む必要がなくなるため、汎用性の高いリチウムイオン電池を提供することができる。
【実施例】
【0099】
[実施例1]
「LiMnPO
4粒子の作製」
水2L(リットル)に、4molの酢酸リチウム、2molの硫酸マンガン(II)、2molのリン酸を、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて1時間、水熱合成を行った。
次いで、得られた沈殿物を水洗し、LiMnPO
4粒子を得た。
【0100】
「LiFePO
4前駆体粒子の作製」
水に、酢酸リチウムと、クエン酸鉄(III)と、リン酸(H
3PO
4)とを、1:1:1のモル比となるように混合した。
次いで、この混合液を、60℃で24時間加熱処理し、LiFePO
4前駆体粒子を得た。
【0101】
得られたLiMnPO
4粒子と、LiFePO
4前駆体粒子と、ポリビニルアルコールとを、LiMnPO
4に対するFeのモル比(Fe/LiMnPO
4)が0.053となり、LiMnPO
4粒子に対するポリビニルアルコール量(質量比)(PVA/LiMnPO
4)が0.05となるように、混合した。
次いで、この混合液を、サンドミルにより、2500回転で6時間分散し、分散体を得た。
【0102】
次いで、この分散体を180℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、乾燥体を得た。
【0103】
[乾燥体におけるFe存在比の評価]
得られた乾燥体におけるFeの存在比を評価するために、この乾燥体をインジウムに埋め込み、それをTOF−SIMSで、10μm角の領域でスキャンし、FeとMnについて検出し、Feの存在比を算出した。乾燥体の各深さにおけるFeの存在比(Fe/(Fe+Mn))を表1に示す。また、深さとFeの存在比の関係を
図1に示す。
【0104】
得られた乾燥体を、窒素(N
2)雰囲気下、700℃にて1時間焼成し、実施例1の電極材料を得た。
この電極材料を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、LiMnPO
4粒子が複数個凝集した凝集粒子となっていることが確認された。また、炭素質被膜で被覆されている、Feを含むオリビン構造のLiMnPO
4粒子の平均粒子径は55nmであった。
【0105】
「電極材料におけるFe存在比の評価」
得られた電極材料におけるFeの存在比を評価するために、この電極材料をインジウムに埋め込み、それをTOF−SIMSで、10μm角の領域でスキャンし、FeとMnについて検出し、Feの存在比を算出した。電極材料の各深さにおけるFeの存在比(Fe/(Fe+Mn))を表1に示す。また、深さとFeの存在比の関係を
図2に示す。
【0106】
得られた電極材料と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、アセチレンブラック(AB)とを、質量比が85:10:5となるように混合し、さらに、これら固形分の含有量が60質量%となるように、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を加えて実施例1のペーストを作製した。
【0107】
(電極板の作製)
次いで、このペーストを、ドクターブレード(ギャップ300μm)を用いて厚み15μmのアルミニウム(Al)箔上に塗布し、乾燥した。その後、600kgf/cm
2の圧力にて加圧し、電極板を作製し、実施例1のリチウムイオン電池の正極とした。
【0108】
(リチウムイオン電池の作製)
このリチウムイオン電池の正極に対し、負極としてリチウム金属を配置し、これら正極と負極の間に多孔質ポリプロピレンからなるセパレーターを配置し、電池用部材とした。
次いで、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を濃度1モル/dm
3となるように溶解させて電解液を作製した。
次いで、上記の電池用部材を上記の電解液に浸漬し、実施例1のリチウムイオン電池を作製した。
【0109】
(リチウムイオン電池の評価)
実施例1のリチウムイオン電池の充放電特性の評価を行った。
ここでは、実施例1のリチウムイオン電池について、25℃にて、0.1C電流値で充電電圧が4.3Vとなるまで定電流充電を行った後、定電圧充電に切り替えて電流値が0.01Cとなった時点で充電を終了した。その後、放電電流0.1C及び3Cでそれぞれ放電を行い、電池電圧が2Vとなった時点で放電を終了した。その際の0.1Cと3Cにおける電流容量を測定し、かつ、電力容量を算出した。結果を表2に示す。また、0.1Cの放電電流における評価結果を
図3に、3Cの放電電流における評価結果を
図4に示す。
【0110】
[実施例2]
LiMnPO
4に対するFeのモル比(Fe/LiMnPO
4)を0.031した以外は実施例1と同様にして、実施例2の乾燥体を得た。
この乾燥体を実施例1と同様にして、Feの存在比を評価した。結果を表1に示す。また、深さとFeの存在比の関係を
図1に示す。
【0111】
得られた乾燥体を実施例1と同様にして焼成し、実施例2の電極材料を得た。
この電極材料を実施例1と同様にして、Feの存在比を評価した。結果を表1に示す。また、深さとFeの存在比の関係を
図2に示す。
【0112】
実施例1で得られた電極材料を用いる替わりに、実施例2で得られた電極材料を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2のペースト、電極板及びリチウムイオン電池を得た。
実施例1と同様にして測定したリチウムイオン電池の充放電特性の評価結果を、表2並びに
図3及び
図4に示す。
【0113】
[実施例3]
LiMnPO
4に対するFeのモル比(Fe/LiMnPO
4)を0.10とした以外は実施例1と同様にして、実施例3の乾燥体を得た。
この乾燥体を実施例1と同様にして、Feの存在比を評価した。結果を表1に示す。また、深さとFeの存在比の関係を
図1に示す。
【0114】
得られた乾燥体を実施例1と同様にして焼成し、実施例3の電極材料を得た。
この電極材料を実施例1と同様にして、Feの存在比を評価した。結果を表1に示す。また、深さとFeの存在比の関係を
図2に示す。
【0115】
実施例1で得られた電極材料を用いる替わりに、実施例3で得られた電極材料を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例3のペースト、電極板及びリチウムイオン電池を得た。
実施例1と同様にして測定したリチウムイオン電池の充放電特性の評価結果を、表2並びに
図3及び
図4に示す。
【0116】
[比較例1]
水に、実施例1と同様にして得たLiMnPO
4粒子と、Li源と、Fe源と、PO
4源とが1:1:1:1モルの混合比、かつ、LiMnPO
4に対するFeのモル比(Fe/LiMnPO
4)が0.053となるように混合し、サンドミルにより、2500回転で6時間分散処理を行った。
次いで、120℃で1時間水熱合成を行い、得られた沈殿物を水洗し、表面にFeを含むオリビン構造のLiMnPO
4粒子を得た。
【0117】
次いで、得られた粒子とポリビニルアルコールを、LiMnPO
4粒子に対してポリビニルアルコール量(質量比)(PVA/LiMnPO
4)が0.05となるように、混合した。
【0118】
次いで、この混合液を180℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥体を得た。
この乾燥体を実施例1と同様にしてFeの存在比を評価した結果を表1に示す。また、深さとFeの存在比の関係を
図1に示す。
【0119】
得られた乾燥体を実施例1と同様にして焼成し、比較例1の電極材料を得た。
この電極材料を実施例1と同様にして、Feの存在比を評価した。結果を表1に示す。また、深さとFeの存在比の関係を
図2に示す。
【0120】
実施例1で得られた電極材料を用いる替わりに、比較例1で得られた電極材料を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1のペースト、電極板、リチウムイオン電池を得た。
実施例1と同様にして測定したリチウムイオン電池の充放電特性の評価結果を、表2並びに
図3及び
図4に示す。
【0121】
[比較例2]
LiMnPO
4に対するFeのモル比(Fe/LiMnPO
4)を0.18とした以外は実施例1と同様にして、比較例2の乾燥体を得た。
この乾燥体を実施例1と同様にして、Feの存在比を評価した。結果を表1に示す。また、深さとFeの存在比の関係を
図1に示す。
【0122】
得られた乾燥体を実施例1と同様にして焼成し、比較例2の電極材料を得た。
この電極材料を実施例1と同様にして、Feの存在比を評価した。結果を表1に示す。また、深さとFeの存在比の関係を
図2に示す。
【0123】
実施例1で得られた電極材料を用いる替わりに、比較例2で得られた電極材料を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例2のペースト、電極板及びリチウムイオン電池を得た。
実施例1と同様にして測定したリチウムイオン電池の充放電特性の評価結果を、表2並びに
図3及び
図4に示す。
【0124】
[比較例3]
LiMnPO
4に対するFeのモル比(Fe/LiMnPO
4)を0.008とした以外は実施例1と同様にして、比較例3の乾燥体を得た。
この乾燥体を実施例1と同様にして、Feの存在比を評価した。結果を表1に示す。また、深さとFeの存在比の関係を
図1に示す。
【0125】
得られた乾燥体を実施例1と同様にして焼成し、比較例3の電極材料を得た。
この電極材料を実施例1と同様にして、Feの存在比を評価した。結果を表1に示す。また、深さとFeの存在比の関係を
図2に示す。
【0126】
実施例1で得られた電極材料を用いる替わりに、比較例3で得られた電極材料を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例3のペースト、電極板及びリチウムイオン電池を得た。
実施例1と同様にして測定したリチウムイオン電池の充放電特性の評価結果を、表2並びに
図3及び
図4に示す。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
【0129】
実施例1〜3と比較例1〜3の結果より、LiMnPO
4粒子全体に含まれるFeの量が同じであっても、LiMnPO
4粒子表面における存在比が少ない方が、高容量かつ高エネルギーな電池が得られることが確認された。
【0130】
また、実施例1と比較例2の結果より、LiMnPO
4粒子全体に含まれるFeの量が多すぎる場合には、放電の際に、Feが多く存在することに由来するプラトー電位が観察された。すなわち、電極材料中におけるFe量がLiMnPO
41molに対して0.1mol以下である場合には、Feが多く存在することに由来するプラトー電位が現れず、汎用性の高いリチウムイオン電池が得られることが確認された。