(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、CCDやCISなどの撮像素子用基板として、シリコンウェーハ上にエピタキシャル層を気相成長させたエピタキシャルシリコンウェーハが使用されている。このような撮像素子用のエピタキシャルシリコンウェーハでは、ウェーハ中の重金属不純物のレベルを低くすることが非常に重要である。ウェーハ内に重金属不純物が存在すると白キズと呼ばれる撮像素子特有のデバイス特性不良が発生してしまうためである。
【0003】
気相成長によるエピタキシャルシリコンウェーハの製造では、H
2とSi原料ガスを用いてエピタキシャル層を気相成長させる。気相成長によって副生成物も生成され、この副生成物はチャンバー内に堆積する。堆積した副生成物は汚染源になるため、副生成物の除去のために、定期的にチャンバークリーニングが行われる。クリーニングガスとしては、塩化水素ガスが使用されている。
【0004】
気相成長装置を構成する部材として耐腐食性の高い金属を使用した場合でも、塩化水素ガスは腐食性が高いため、高濃度の塩化水素ガス雰囲気では腐食が進んでしまう。そうすると、腐食によって生じた金属塩化物などの汚染金属がウェーハに取り込まれてしまい、結果として、作製するエピタキシャルシリコンウェーハが金属で汚染されることになる。
このような気相成長装置を起因とする金属汚染を低減するために、気相成長装置を構成する部材のうち、ガスに接触し、かつ金属を含む材料からなる部位を、全て非金属の保護膜で覆い、各構成部材の接合部にはTiを含まないO−リングを用いることが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1によれば、上記構成の気相成長装置を用いることにより、ガスと金属の接触を防ぐことができるため、金属汚染が防止される。結果として、白キズの発生が少ない、Mo,W,V,Nbの4元素の合計濃度が4×10
10個/cm
3以下で、かつTiの濃度が3×10
12個/cm
3以下の高品質のエピタキシャルシリコンウェーハを製造できることが報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の方法では、非金属の保護膜でコーティングした部材を、使用頻度に応じて、定期的にコーティングし直す必要が生じるため、その都度、煩雑な作業が発生してしまう不具合を有している。また、ガスと接する金属部分を全て保護膜で完全に覆うことは構造設計上、困難であることが予想される。
【0007】
本発明の目的は、白キズの発生を簡便に抑制し得るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法
及び気相成長装
置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法は、シリコンウェーハ上に気相成長を行ってエピタキシャルシリコンウェーハを製造する方法であって、気相成長が行われる気相成長装置は、少なくとも、チャンバーと、前記チャンバー内に連通して接続され、前記チャンバー内に塩化水素ガスを供給する塩化水素ガス供給設備とを備え、前記塩化水素ガス供給設備には、入口流路から出口流路への塩化水素ガスの流通を調節するダイヤフラムを有するバルブが配置され、前記ダイヤフラムには、Wを含有していない耐食合金材料が使用され、前記チャンバー内のメンテナンス時には前記塩化水素ガス供給設備から前記チャンバー内へと塩化水素ガスが供給されることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、塩化水素ガス供給設備のダイヤフラムを有するバルブを構成するダイヤフラムには、Wを含有していない耐食合金材料が使用される。このため、チャンバークリーニング時に、塩化水素ガス供給設備から腐食性が高い塩化水素ガスを供給して、ダイヤフラムを有するバルブのダイヤフラムが腐食されたとしても、白キズを発生させる影響が大きいと考えられるWは溶出されない。このように、チャンバークリーニング時に、塩化水素ガス供給設備からのチャンバーへのW汚染を低減できるため、結果として、上記気相成長装置を用いることで、白キズの発生を抑制した高品質のエピタキシャルシリコンウェーハを簡便に製造することができる。
【0010】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法では、前記Wを含有していない耐食合金材料が、Wを含有していないCo−Ni−Cr−Mo合金であることが好ましい。
【0011】
本発明によれば、ダイヤフラムに使用されるWを含有していない耐食合金材料として、Wを含有していないCo−Ni−Cr−Mo合金を採用するので、ダイヤフラムを起因とするW汚染を抑制できる。
【0012】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法では、前記ダイヤフラムを有するバルブが、流通する前記塩化水素ガスの圧力を調整可能な圧力調整弁であり、前記圧力調整弁内の流路を構成する部材には、Wを含有していないNi−Cr−Mo合金が使用されることが好ましい。
【0013】
本発明によれば、圧力調整弁内の流路を構成する部材に、Wを含有していないNi−Cr−Mo合金を使用するので、圧力調整弁を起因とするW汚染を抑制できる。結果として、塩化水素ガス供給設備からのチャンバーへのW汚染の導入をより一層低減でき、エピタキシャル層中のW濃度が極めて低いエピタキシャルシリコンウェーハを提供することができる。
【0014】
本発明の気相成長装置は、シリコンウェーハ上に気相成長を行ってエピタキシャルシリコンウェーハを製造する気相成長装置であって、少なくとも、チャンバーと、前記チャンバー内に連通して接続され、前記チャンバー内に塩化水素ガスを供給する塩化水素ガス供給設備とを備え、前記塩化水素ガス供給設備には、入口流路から出口流路への塩化水素ガスの流通を調節するダイヤフラムを有するバルブが配置され、前記ダイヤフラムには、Wを含有していない耐食合金材料が使用され、前記チャンバー内のメンテナンス時には前記塩化水素ガス供給設備から前記チャンバー内へと塩化水素ガスが供給されることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、塩化水素ガス供給設備のダイヤフラムを有するバルブを構成するダイヤフラムには、Wを含有していない耐食合金材料が使用される。このため、チャンバークリーニング時に、塩化水素ガス供給設備から腐食性が高い塩化水素ガスを供給して、ダイヤフラムを有するバルブのダイヤフラムが腐食されたとしても、白キズを発生させる影響が大きいと考えられるWは溶出されない。このように、チャンバークリーニング時に、塩化水素ガス供給設備からのチャンバーへのW汚染を低減できるため、結果として、上記気相成長装置を用いることで、白キズの発生を抑制した高品質のエピタキシャルシリコンウェーハを簡便に製造することができる。
【0016】
本発明の気相成長装置では、前記Wを含有していない耐食合金材料が、Wを含有していないCo−Ni−Cr−Mo合金であることが好ましい。
【0017】
本発明によれば、ダイヤフラムに使用されるWを含有していない耐食合金材料として、Wを含有していないCo−Ni−Cr−Mo合金を採用するので、ダイヤフラムを起因とするW汚染を抑制できる。
【0018】
本発明の気相成長装置では、前記ダイヤフラムを有するバルブが、流通する前記塩化水素ガスの圧力を調整可能な圧力調整弁であり、前記圧力調整弁内の流路を構成する部材には、Wを含有していないNi−Cr−Mo合金が使用されることが好ましい。
【0019】
本発明によれば、圧力調整弁内の流路を構成する部材に、Wを含有していないNi−Cr−Mo合金を使用するので、圧力調整弁を起因とするW汚染を抑制できる。結果として、塩化水素ガス供給設備からのチャンバーへのW汚染の導入をより一層低減でき、エピタキシャル層中のW濃度が極めて低いエピタキシャルシリコンウェーハを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施形態を図面を参照して説明する。
本発明者らは、前記課題を解決すべく、白キズを生じさせる汚染源について鋭意検討した。
チャンバークリーニングに使用する塩化水素ガスは、副生成物の除去効果は大きいが、その一方で、腐食性が高い。このため、塩化水素ガスを供給する塩化水素ガス供給設備が塩化水素ガスによって腐食され、チャンバーへと導入される金属汚染が撮像製品の白キズ特性への影響が大きいと考えた。
また、白キズを生じさせる汚染源となる金属は、Mo、W、Ti、Nb、Taなどの金属が主要因であると考えられていたが、本発明者らは、金属汚染のうち、W汚染が白キズを発生させる影響が最も大きいことを見出した。
そこで、チャンバークリーニング時に、チャンバー内へ塩化水素ガスを供給する塩化水素ガス供給設備、並びに汚染金属としてWについて着目し、鋭意検討した。
【0024】
図1に示すように、本実施形態において、気相成長が行われる気相成長装置1は、少なくとも、チャンバー2と、このチャンバー2内に連通して接続され、チャンバー2内に塩化水素ガスを供給する塩化水素ガス供給設備3とを備えている。この塩化水素ガス供給設備3は、チャンバークリーニング時に、チャンバー2内に塩化水素ガスを供給するために備えられている。
塩化水素ガス供給設備3は、塩化水素ガス供給ユニット31、減圧ユニット32、バルブマニホールドボックス33(Valve Manifold Box:VMB)などがそれぞれ配置され、塩化水素ガスを流通させる配管34により、チャンバー2に連通して接続されている。
減圧ユニット32には、圧力調整弁40と、ダイヤフラムバルブ50と、圧力計60とがそれぞれ設置されている。圧力調整弁40は、流通する塩化水素ガスの圧力を制御するものである。ダイヤフラムバルブ50では、ダイヤフラムにより、塩化水素ガスの流通量を調節する。圧力計60では、圧力調整弁40で減圧される前の塩化水素ガスの圧力と、減圧された後の塩化水素ガスの圧力をそれぞれ測定する。
なお、
図1に示す減圧ユニット32では、圧力調整弁40を2段構成にしているが、1段構成としてもよい。
VMB33では、配管34が複数本に分岐しており、分岐した配管34のそれぞれにダイヤフラムバルブ50が設置された構造を有している。VMB33で分岐したそれぞれの配管34を、複数台のチャンバー2に接続することにより、1基の塩化水素ガス供給設備3で、複数台のチャンバー2に対して、塩化水素ガスが供給可能に構成されている。
【0025】
図2にダイヤフラムバルブ50の概略図を示す。
ダイヤフラムバルブ50は、本体部51と、ダイヤフラム52と、駆動部53とを備えている。本体部51には、塩化水素ガスの流路となる入口流路511と出口流路512、及びダイヤフラム52と接触する弁座513が設けられている。ダイヤフラム52は、本体部51の入口流路511、弁座513及び出口流路512を覆うように配置されている。駆動部53は、ダイヤフラム52を介して本体部51と接続され、ダイヤフラム52の引き上げ、並びに押し付けが可能に構成されている。
ダイヤフラムバルブ50は、駆動部53によってダイヤフラム52を引き上げ、或いはダイヤフラム52を本体部51の弁座513に押し付けることにより、本体部51の入口流路511と出口流路512とを連通或いは遮断する。
【0026】
図3にダイヤフラム52の平面図を示す。
図3に示すように、ダイヤフラム52の形状は凹状であり、ダイヤフラムバルブ50の開閉時に応力がかかる構造になっている。このため、塩化水素ガスの流通時にダイヤフラム52が腐食され易い。腐食された部分はガス化して、チャンバー2内へと導入されるものと推察される。
【0027】
図4に圧力調整弁40の断面概略図を示す。
圧力調整弁40は、本体部41、ダイヤフラム42、調圧ハンドル43とを備えている。本体部41には、塩化水素ガスの流路となる入口流路411と出口流路412、シート413、シールスプリング414が設けられている。ダイヤフラム42は、シート413と接し、かつ入口流路411及び出口流路412を覆うように配置されている。調圧ハンドル43は、ダイヤフラム42を介して本体部41と接続され、調圧スプリング431により、調圧が可能に構成されている。
調圧ハンドル43の締め具合により、調圧スプリング431からダイヤフラム42に物理的な力が加えられる。これにより、流通する塩化水素ガスと接触する領域の空間体積が調整されることで、圧力調整(減圧)が行われる。圧力調整が繰り返し行われることから、圧力調整弁40内のシート413などの流路を構成する部材やダイヤフラム42は、塩化水素ガスの流通時に腐食され易い。ダイヤフラムバルブ50と同様に、腐食された部分はガス化して、チャンバー2内へと導入されるものと推察される。
【0028】
〔配管の検討〕
塩化水素ガス供給設備3の配管34について、以下のような評価試験を行った。
先ず、複数回に渡って使用された配管(以下、中古配管という。)と、未使用の配管(以下、新品配管という。)と、をそれぞれ用意した。配管の材質は、SUS316Lである。SUS316Lの組成を上記表1に示す。なお、中古配管は、溶接有り、溶接無しの2種類について検討した。そして、これらの配管を設置した塩化水素ガス供給設備3から、チャンバー2内へと塩化水素ガスを供給した。
次に、塩化水素ガスの供給を終えた配管内部の表面を、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で撮像した。その結果を
図5に示す。なお、
図5の上段は、新品配管のSEM画像、
図5下段は、中古配管(溶接無し)のSEM画像である。
図5に示すように、配管の材質であるSUS316Lは、耐食性が低いため、中古配管及び新品配管の双方で、若干の腐食が見られた。このうち、中古配管の方が腐食度合は高いことが確認された。
【0029】
また、塩化水素ガス供給後、即ちチャンバークリーニングを終えた後に作製したサンプルについて、誘導結合プラズマ質量分析法(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry:ICP−MS)により金属分析を行った。この金属分析によって、サンプルから各金属(Fe,Ni,Cr,Mn,Ti,Mo,W)が検出されるか、即ち、配管から金属が溶出しているかを判断できる。その結果を
図6に示す。なお、
図6中のDLは検出限界を示す。
図6に示すように、中古配管及び新品配管の双方で、FeやNi、Cr、Moなどの金属が検出された。なお、Mnについては、溶接有りの中古配管のみで金属が検出され、溶接無しの中古配管や新品配管については検出されなかった。また、SUS316Lには、TiやWが含有されていないため、いずれの配管からもTiやWは検出されなかった。
上記結果から、配管34の材料に使用されているSUS316Lは、Wの汚染源ではないことが結論付けられる。
【0030】
〔ダイヤフラムバルブの検討〕
次に、塩化水素ガス供給設備3のダイヤフラムバルブ50について、以下のような評価試験を行った。使用したダイヤフラムバルブ50を構成するダイヤフラム52の材質として、耐食性に優れるCo−Ni−Cr−Mo合金の一つであるSPRON100(セイコーインスツル社製、SPRONは登録商標)を用いた。SPRON100の組成を下記表1に示す。表1に示す通り、SPRON100はWを含む合金材料である。
【0032】
塩化水素ガス供給設備3から、チャンバー2内へと塩化水素ガスを供給した。そして、塩化水素ガスの供給を終えたダイヤフラムバルブ50のダイヤフラム52表面(塩化水素ガスと接触している側)をSEMで撮像した。その結果を
図7に示す。なお、
図7は、
図3の観察領域におけるSEM画像である。
また、塩化水素ガス供給後の、ダイヤフラム52について、エネルギー分散型X線分析法(EDX:Energy Dispersive X−ray spectroscopy)を用いて組成分析を行った。
図8にその結果を示す。
図7に示すSEM画像から、ダイヤフラム52表面が腐食されていることが確認できる。また、
図8に示すように、SPRON100に含有されているWが検出されている。
【0033】
次に、複数回に渡って使用されたダイヤフラム(以下、使用済み品という。)と、未使用のダイヤフラム(以下、未使用品という。)と、をそれぞれ用意した。そして、これらのダイヤフラムについて組成分析を行って、両者を構成する金属組成割合を比較した。
図9にその結果を示す。なお、
図9では、ダイヤフラム52を構成する金属のうち、Co,Fe,Ni,Cr,Mo,Wの6種類を比較した。
図9に示すように、未使用品と比較して、使用済み品では、MoとWの組成割合が低下していることが確認された。この結果から、上記組成割合が低下した元素については、腐食によって、チャンバー2内へと導入されているものと推察される。
【0034】
〔圧力調整弁の検討〕
次に、塩化水素ガス供給設備に設置されている圧力調整弁40について、以下のような評価試験を行った。使用した圧力調整弁40のダイヤフラム42の材質は、耐食性に優れるNi−Cr−Mo合金の一つであるハステロイC22(ヘインズインターナショナル社製、ハステロイは登録商標)を用いた。上記表1に示す通り、ハステロイC22はWを含む合金材料である。
塩化水素ガス供給設備3から、チャンバー2内へと塩化水素ガスを供給した。そして、塩化水素ガスの供給を終えた圧力調整弁40のダイヤフラム42を、SEMで撮像した。その結果を
図10に示す。
また、塩化水素ガス供給後の、圧力調整弁40のダイヤフラム42について、EDXを用いて組成分析を行った。
図11にその結果を示す。
図10に示すSEM画像から、ダイヤフラム42表面が腐食されていることが確認できる。また、
図11に示すように、ハステロイC22に含有されているWが検出されている。
【0035】
次に、圧力調整弁40のダイヤフラム42として、未使用品と使用済み品とをそれぞれ用意し、これらのダイヤフラムについて組成分析を行って、両者を構成する金属組成割合を比較した。
図12にその結果を示す。なお、
図12では、圧力調整弁40のダイヤフラムを構成する金属のうち、Co,Fe,Mo,W,Mnの5種類を比較した。
図12に示すように、未使用品と比較して、使用済み品では、MoとWの組成割合が低下していることが確認された。この結果から、上記組成割合が低下した元素については、腐食によって、チャンバー2内へと導入されているものと推察される。
また、圧力調整弁40を構成する部材のうち、例えば、圧力調整弁40内の流路を構成するシート413などは、従来、ダイヤフラム42と同材質が使用されている。したがって、使用済み品については、これらの部材の腐食によっても、汚染金属がチャンバー2内へと導入されているものと推察される。
【0036】
〔汚染金属種の検討〕
次に、エピタキシャルシリコンウェーハとして、白キズが発生していないサンプルと、白キズが発生したサンプルとをそれぞれ用意し、エピタキシャル層表面のW濃度、並びにMo濃度をICP−MSにより測定した。
図13の右側にW濃度を、左側にMo濃度をそれぞれ示す。
図13において、丸印は白キズが発生しなかったサンプルを、三角印は白キズが少々発生したけれども、撮像素子用として使用可能と判断されたサンプル、バツ印は白キズが発生し、撮像素子用として使用不可能と判断されたサンプルをそれぞれ示す。
図13に示すように、W濃度とMo濃度とを比較すると、Mo濃度は1×10
7atoms/cm
2前後で白キズが発生しなかったのに対し、W濃度は5×10
6atoms/cm
2以下において白キズが発生しないことが確認された。この結果から、Mo汚染に比べて、W汚染の方が、白キズを発生させる影響が大きいと推察される。
【0037】
上記各部材の評価、汚染金属種の検討結果から、チャンバークリーニングの実施によって、ダイヤフラムバルブ50のダイヤフラム52や、圧力調整弁40のダイヤフラム42が腐食されて、塩化水素ガス供給設備3からチャンバー2へとWが導入され、エピタキシャルシリコンウェーハがWで汚染されることが推察される。
【0038】
本発明は、上述のような知見に基づいて完成されたものである。
本実施形態のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法では、ダイヤフラム42,52には、Wを含有していない耐食合金材料が使用される。Wを含有していない耐食合金材料としては、Wを含有していないCo−Ni−Cr−Mo合金、具体的には、SPRON510(セイコーインスツル社製、SPRONは登録商標)が挙げられる。SPRON510の組成を上記表1に示す。
また、圧力調整弁40内の流路を構成する部材には、Wを含有していないNi−Cr−Mo合金が使用される。Wを含有していないNi−Cr−Mo合金としては、MAT21(MMCスーパーアロイ社製、MAT21は登録商標)が挙げられる。MAT21の組成を上記表1に示す。
なお、SPRON510は、SPRON100と比較してMoの組成割合が高い材料である。本来なら、白キズ発生の原因とされるMo汚染を考慮すれば、Mo濃度を高めた材質を適用するべきではない。一方で、上述した本発明者らの検討により、白キズ発生の主な原因がWであることを突き止めることができた。そして、Mo濃度を高めることで耐食性をより向上させ、腐食そのものを抑制するとともに、Wを含まない材料を選定することが有効であるという結論に至った。これら要件を満たすSPRON510を採用することで、本発明の効果が達成される。また、ハステロイC22とMAT21との関係についても、上記と同様のことが言えるため、MAT21を採用することで、本発明の効果が達成される。
【0039】
上記塩化水素ガス供給設備3を備えた気相成長装置1により、シリコンウェーハ上に、気相成長を行い、エピタキシャルシリコンウェーハを作製する。そして、チャンバー2内のメンテナンス時には、塩化水素ガス供給設備3からチャンバー2内へと塩化水素ガスを供給する、チャンバークリーニングが実施される。
【0040】
〔実施形態の作用効果〕
上述したように、上記実施形態では、以下のような作用効果を奏することができる。
(1)塩化水素ガス供給設備3のダイヤフラムバルブ50を構成するダイヤフラム52、圧力調整弁40を構成するダイヤフラム42には、Wを含有していない耐食合金材料が使用される。このため、チャンバークリーニング時に、塩化水素ガス供給設備3から腐食性が高い塩化水素ガスを供給して、ダイヤフラム42,52が腐食されたとしても、白キズを発生させる影響が大きいと考えられるWは溶出されない。このように、チャンバークリーニング時に、塩化水素ガス供給設備3からのチャンバー2へのW汚染を低減できる。結果として、上記気相成長装置1を用いることで、白キズの発生を抑制した高品質のエピタキシャルシリコンウェーハを簡便に製造することができる。
(2)ダイヤフラム42,52に使用されるWを含有していない耐食合金材料として、Wを含有していないCo−Ni−Cr−Mo合金を採用するので、ダイヤフラムを起因とするW汚染を抑制できる。また、ダイヤフラムは材質によっては加工が難しい部材であるが、上記合金であれば、加工が容易であり、従来使用されていた材料と同様の性能を維持できる。
(3)圧力調整弁40内の流路を構成する部材に、Wを含有していないNi−Cr−Mo合金を使用するので、圧力調整弁40を起因とするW汚染を抑制できる。結果として、塩化水素ガス供給設備3からのチャンバー2へのW汚染の導入をより一層低減できる。
【0041】
〔他の実施形態〕
なお、本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の改良ならびに設計の変更などが可能であり、その他、本発明の実施の際の具体的な手順、及び構造等は本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【実施例】
【0042】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0043】
〔実施例1〕
図1に示す気相成長装置1を使用して、エピタキシャルシリコンウェーハを作製し、所定枚数のエピタキシャル処理を終えた後は、チャンバークリーニングを実施するサイクルを繰り返し実施した。そして、上記サイクルを繰り返し実施するにあたって、塩化水素ガス供給設備3の減圧ユニット32、並びにVMB33を構成するダイヤフラムバルブ50におけるダイヤフラム52の材質を変更した実験を行った。具体的には、本実施例1としてWフリーのSPRON510を用い、比較例1としてWを4%含有するSPRON100を用いた実験を行った。
そして、上記サイクルを繰り返し実施して得られたサンプルについて、エピタキシャル層表面のW濃度を測定した。なお、W濃度は、以下のようにして求めた。エピタキシャル層の表面に酸系の溶液を滴下してウェーハ上をスキャンすることにより、エピタキシャル層表面の金属不純物を溶液内に回収した。そして、回収した溶液をICP−MSにて定量分析した。
なお、本実施例1における、塩化水素ガス供給設備3の減圧ユニット32を構成する圧力調整弁40のダイヤフラム42の材質は、Wを4%含有するSPRON100である。また、圧力調整弁40内の流路を構成する部材(シート413など)の材質は、Wを2.5〜3.5%含有するハステロイC22である。
その結果を
図14に示す。図中の太線は、ダイヤフラム52の材質変更を実施した点を示す。なお、
図14中のChは、VMB33にそれぞれ接続したチャンバーA、チャンバーB、チャンバーCでそれぞれ作製したサンプルであることを示す。
【0044】
図14に示すように、ダイヤフラム52の材質としてWを4%含有するSPRON100を用いた比較例1では、エピタキシャル層表面のW濃度は1×10
7atoms/cm
3前後の範囲であった。これに対して、ダイヤフラム52の材質としてWフリーのSPRON510を用いた本実施例では、エピタキシャル層表面のW濃度が1×10
6atoms/cm
3以下のサンプルが得られていることが確認された。この結果から、ダイヤフラムの材質としてWフリーの材料を使用することで、白キズの発生を抑制した高品質のエピタキシャルシリコンウェーハを簡便に製造できることが判る。
【0045】
〔実施例2〕
圧力調整弁40のダイヤフラム42、圧力調整弁40内の流路を構成する部材(シート413など)の材質を、以下に変更した以外は、実施例1と同様にしてエピタキシャルシリコンウェーハのサンプルを作製した。そして、得られたサンプルについて、エピタキシャル層表面のW濃度を測定した。
比較例2:圧力調整弁40のダイヤフラム42の材質は、Wを4%含有するSPRON100、圧力調整弁40内の流路を構成する部材(シート413など)の材質は、Wを2.5〜3.5%含有するハステロイC22。
本実施例2:圧力調整弁40のダイヤフラム42の材質は、WフリーのSPRON510、圧力調整弁40内の流路を構成する部材(シート413など)の材質は、WフリーのMAT21。
なお、本実施例2における、減圧ユニット32並びにVMB33を構成するダイヤフラムバルブ50におけるダイヤフラム52の材質は、Wを4%含有するSPRON100である。
その結果を
図15に示す。図中の太線は、材質変更を実施した点を示す。なお、
図15中のChは、VMB33にそれぞれ接続したチャンバーA、チャンバーB、チャンバーCでそれぞれ作製したサンプルであることを示す。
【0046】
図15に示すように、比較例2では、エピタキシャル層表面のW濃度は5×10
6atoms/cm
3前後の範囲であった。これに対して、本実施例2では、材質変更直後はW濃度にばらつきがあったが、しばらくすると、エピタキシャル層表面のW濃度が1×10
6atoms/cm
3以下にまで低減されたサンプルが得られていることが確認できた。
【解決手段】シリコンウェーハ上に気相成長を行ってエピタキシャルシリコンウェーハを製造する方法であって、気相成長が行われる気相成長装置1は、少なくとも、チャンバー2と、前記チャンバー2内に連通して接続され、前記チャンバー2内に塩化水素ガスを供給する塩化水素ガス供給設備3とを備え、前記塩化水素ガス供給設備3には、入口流路から出口流路への塩化水素ガスの流通を許容又は遮断するダイヤフラムを有するバルブが配置され、前記ダイヤフラムには、Wを含有していない耐食合金材料が使用され、前記チャンバー2内のメンテナンス時には前記塩化水素ガス供給設備3から前記チャンバー2内へと塩化水素ガスが供給されることを特徴とする。