(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンを含む熱サイクル用作動媒体であって、前記作動媒体全量に対するトリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの合計量の割合が90質量%を超え100質量%以下であり、トリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの合計量に対する、トリフルオロエチレンの割合が10質量%以上65質量%未満、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの割合が5質量%以上50質量%以下、かつジフルオロメタンの割合が30質量%を超え75質量%以下であることを特徴とする熱サイクル用作動媒体。
トリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの合計量に対するジフルオロメタンの割合が30質量%を超え44質量%以下である請求項1記載の熱サイクル用作動媒体。
トリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの合計量に対する2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの割合が5質量%以上40質量%以下である請求項1または2に記載の熱サイクル用作動媒体。
ルームエアコン、店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置、内蔵型ショーケース、別置型ショーケース、業務用冷凍・冷蔵庫、製氷機または自動販売機である請求項5記載の熱サイクルシステム。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
<熱サイクル用作動媒体>
本発明の作動媒体は、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32を含む熱サイクル用作動媒体であって、前記作動媒体全量に対するHFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量の割合が90質量%を超え100質量%以下であり、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量に対する、HFO−1123の割合が10質量%以上70質量%未満、HFO−1234yfの割合が50質量%以下、かつHFC−32の割合が30質量%を超え75質量%以下である熱サイクル用の作動媒体である。
熱サイクルとしては、凝縮器や蒸発器等の熱交換器による熱サイクルが特に制限なく用いられる。
【0021】
本発明の作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32を上記組成範囲で組合せることで、個々の化合物が有する特徴を活かしながら、かつ短所を補完したバランスのとれた作動媒体である。具体的には、従来使用されてきたR410Aの置き換え可能な程度に実用上充分なサイクル性能を有し、地球温暖化係数が低く、さらに自己分解性を有しない作動媒体である。
【0022】
以下、
図1〜3を参照しながら、本発明の実施形態の作動媒体の組成について説明する。
図1は、本発明の熱サイクル用作動媒体がHFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32からなり、他の成分を含まない場合の上記組成範囲、すなわち、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量に対する、HFO−1123の割合が10質量%以上70質量%未満、HFO−1234yfの割合が50質量%以下、かつHFC−32の割合が30質量%を超え75質量%以下の組成範囲(以下、組成範囲(S)ともいう。)を示す三角座標図である。
図1は三辺のそれぞれをHFO−1123、HFO−1234yf、HFC−32の組成(質量%)として示す三角座標図であり、太実線で囲まれた5角形の領域が、本発明の一実施態様の作動媒体の組成範囲(S)である。
【0023】
図1における組成範囲(S)を示す5角形の各辺(S1)〜(S5)はそれぞれ以下の範囲の境界線を示す。ただし、以下の各式において各化合物の略称は、作動媒体全量、すなわち、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量に対する当該化合物の割合(質量%)を示す。
(S1)HFC−32≦75質量%
(S2)0質量%<HFO−1234yf
(S3)30質量%<HFC−32
(S4)HFO−1234yf≦50質量%
(S5)10質量%≦HFO−1123
【0024】
以下に、組成範囲(S)と作動媒体としての性能、具体的には、地球温暖化係数、サイクル性能、温度勾配、自己分解性の関係について説明する。
【0025】
(地球温暖化係数(GWP))
本明細書において、GWPは、特に断りのない限り気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(2007年)の100年の値とする。また、混合物におけるGWPは、組成質量による加重平均とする。
【0026】
本発明の作動媒体が含有するHFO−1234yfおよびHFC−32のGWPはそれぞれ4および675であり、HFO−1123の地球温暖化係数(100年)は、IPCC第4次評価報告書に準じて測定された値として、0.3である。
【0027】
本発明の作動媒体の実施形態における
図1に示す組成範囲(S)において、もっともGWPが高いのは、5角形の右上の角の組成、すなわち、HFO−1123:HFO−1234yf:HFC−32が10質量%:15質量%:75質量%の組成であり、その組成におけるGWPは、(0.3×10+4×15+675×75)/100=506.9と算出できる。R410AにおけるGWPの2087.5に比較して、1/4以下の値である。
【0028】
混合物におけるGWPは上記のとおり各成分の組成質量による加重平均であり、HFO−1123およびHFO−1234yfのGWPがHFC−32のGWPに比べて非常に小さいことから、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32を組合せた組成においては、GWPはHFC−32の含有量に大きく依存する。
【0029】
したがって、作動媒体についてGWPのみを観点におけば、
図1の三角座標図においては、下辺に近いほどGWPが低減された組成となり好ましい。ただし、本発明においては、以下に説明するサイクル性能、温度勾配および自己分解性とのバランスを考慮して、組成範囲(S)において下辺を(S3)30質量%<HFC−32に限定した。
【0030】
本発明の作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32以外の任意成分を10質量%以下の割合で含有できる。任意成分としては、作動媒体のGWPを過剰に増加する成分を含まないことが好ましい。本発明の作動媒体におけるGWPは、500以下が好ましく、300以下がより好ましい。
【0031】
(サイクル性能)
作動媒体におけるサイクル性能としては、成績係数、冷凍能力が挙げられる。
本発明の作動媒体が含有するHFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32の成績係数および冷凍能力について、後述の実施例により測定した、R410Aを基準(1.000)とする相対性能として表1に示す。
【0032】
表1からわかるようにHFO−1123は作動媒体としての冷凍能力に優れるが、成績係数の点で他のHFOに比べて充分でない場合がある。さらに、HFO−1123単体で使用をした場合、臨界温度の観点からは、従来R410Aが使用されていた目的である用途には充分な冷凍サイクル性能が期待できない場合がある。
【0033】
HFO−1234yfは作動媒体としての冷凍能力および成績係数がバランスよく揃ったHFOである。HFO−1234yfの臨界温度(94.7℃)はHFO−1123に比べて高いものの、単独で用いた場合その能力がR410Aに比べ不充分である。
【0034】
また、HFC−32は、成績係数と冷凍能力に優れるものの、HFO−1123やHFO−1234yfに比べてGWPが高い。ただし、R410Aに比べればHFC−32のGWPは格段に低い。
【0036】
ここで、本発明の作動媒体におけるHFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の組成範囲を示す
図1の組成範囲(S)においては、R410Aに対する相対性能としての成績係数(以下、「相対成績係数」ともいう)が1.000以上である組成は、(S5)の辺を含むその近辺の組成である。また、相対成績係数が最も小さい組成は、組成範囲(S)を示す5角形の左下の角の組成である。
【0037】
また、
図1の組成範囲(S)においては、R410Aに対する相対性能としての冷凍能力(以下、「相対冷凍能力」ともいう)が1.000以上である組成は、(S2)の辺を含むその近辺の組成である。また、相対成績係数が最も小さい組成は、組成範囲(S)を示す5角形の最も右に位置する角の組成である。相対冷凍能力は、HFO−1234yfの含有量に大きく依存するといえる。
【0038】
相対成績係数と相対冷凍能力が一定以上の値であり、かつ相対成績係数と相対冷凍能力の積を指標としてこれが一定以上の値であれば、サイクル性能のバランスがとれているといえる。
【0039】
作動媒体としては、相対成績係数が0.958以上かつ相対冷凍性能が0.820以上であることが好ましく、相対成績係数が0.980以上かつ相対冷凍性能が0.950以上であるのがより好ましく、相対成績係数が1.000以上かつ相対冷凍性能が1.000以上であるのが特に好ましい。相対成績係数の観点からは(S2)は5質量%≦HFO−1234yfが好ましく、8質量%≦HFO−1234yfがより好ましい。また、相対成績係数と相対冷凍性能の関係については、相対成績係数と相対冷凍能力がいずれも1.000を下回る場合には、その積が0.950以上であることが好ましい。
【0040】
本発明の作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32以外の任意成分を10質量%以下の割合で含有できる。任意成分としては、作動媒体の相対成績係数や相対冷凍性能を過剰に低下させる成分を含まないことが好ましい。
【0041】
(温度勾配)
作動媒体として混合物を用いる場合、共沸またはR410Aのような擬似共沸の混合物であることが好ましい。非共沸組成物は、圧力容器から冷凍空調機器へ充てんされる際に組成変化を生じる問題点を有している。さらに、冷凍空調機器からの冷媒漏えいが生じた場合、冷凍空調機器内の冷媒組成が変化する可能性が極めて大きく、初期状態への冷媒組成の復元が困難である。一方、共沸または擬似共沸の混合物であれば上記問題が回避できる。
【0042】
混合物の作動媒体における上記性質をはかる指標として、一般に以下に示す「温度勾配」が用いられる。温度勾配は、熱交換器、例えば、蒸発器における蒸発の、または凝縮器における凝縮の、開始温度と終了温度が異なる性質、と定義される。共沸混合冷媒においては、温度勾配は0であり、R410Aのような擬似共沸混合冷媒では、温度勾配は極めて0に近い。
【0043】
温度勾配が大きいと、例えば、蒸発器における入口温度が低下することで着霜の可能性が大きくなり問題である。さらに、熱サイクルシステムにおいては、熱交換効率の向上をはかるために熱交換器を流れる作動媒体と水や空気等の熱源流体を対向流にすることが一般的であり、安定運転状態においては該熱源流体の温度差が小さいことから、温度勾配の大きい非共沸混合媒体の場合、エネルギー効率のよい熱サイクルシステムを得ることが困難である。このため、適切な温度勾配を有する非共沸混合媒体が望まれる。
【0044】
本発明の作動媒体におけるHFO−1123とHFO−1234yfとは共沸しない。後述の実施例に示す方法で測定された、HFO−1123とHFO−1234yfの混合媒体における組成と温度勾配との関係を
図2に示す。また、HFO−1123とHFC−32とは、質量比で99:1〜1:99の組成範囲で共沸に近い擬似共沸混合物であることが本発明者において確認された。
【0045】
上記関係からHFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の混合物は温度勾配を有すると言える。また、上記HFO−1123とHFO−1234yfの関係、およびHFO−1123とHFC−32との関係から、本発明の作動媒体におけるHFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の組成範囲を示す
図1の組成範囲(S)においては、以下のことが確認できる。
【0046】
図1の組成範囲(S)において、(S2)の辺に近づくほど、すなわちHFO−1234yfの含有量が少ないほど、温度勾配は0に近くなり、さらに(S2)の下端、すなわち組成範囲(S)を示す5角形の左下の角の組成が最も温度勾配が小さくなる。反対に、HFO−1234yfの含有量が多いほど、すなわち(S4)の辺に近いほど温度勾配は大きくなる。また、(S4)の下端、すなわち組成範囲(S)を示す5角形の右下の角の組成が最も温度勾配が大きくなる。
【0047】
また、表2に、実施例、比較例で作製した作動媒体のうちでHFO−1234yfの含有量が50質量%となる作動媒体の組成と温度勾配およびGWPを示す。さらに、比較のために、HFO−1123とHFO−1234yfの1:1(質量比)組成の作動媒体とR410Aの温度勾配およびGWPを示す。
【0049】
表2からわかるようにHFO−1234yfの含有量が50質量%と同じ場合であっても、HFO−1123に比べてHFC−32の含有量が多い場合に温度勾配が低い。したがって、本発明の作動媒体として、例えば、
図1の三角座標図においてGWPが低く、かつ温度勾配が低い組成である、組成範囲(S)が選択される。
【0050】
本発明の作動媒体がHFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32とからなる場合の組成範囲(S)においては、
図1と表2を参照すれば、温度勾配は6.6℃未満となり、R410Aに代替させるために、実用上好ましい温度勾配の範囲である。HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32とからなる作動媒体における温度勾配は、5.8℃未満がより好ましい。
【0051】
また、本発明の作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32以外の任意成分を10質量%以下の割合で含有できる。任意成分としては、作動媒体の温度勾配を過剰に引き上げる成分を含まないことが好ましい。本発明の作動媒体における温度勾配は、6℃以下が好ましく、5℃以下がより好ましい。
【0052】
本発明の作動媒体が温度勾配を有する場合の熱サイクルシステムにおける影響について、
図3に示す熱サイクルシステムに該作動媒体を用いた場合を例に以下に説明する。
図3は、本発明の熱サイクルシステムの一例である冷凍サイクルシステムを示した概略構成図である。
【0053】
冷凍サイクルシステム10は、作動媒体(蒸気)を圧縮する圧縮機11と、圧縮機11から排出された作動媒体の蒸気を冷却し液体とする凝縮器12と、凝縮器12から排出された作動媒体(液体)を膨張させる膨張弁13と、膨張弁13から排出された液状の作動媒体を加熱して蒸気とする蒸発器14とを備える。
【0054】
冷凍サイクルシステム10において、作動媒体は、蒸発時、蒸発器14の入口から出口に向かい温度が上昇し、反対に凝縮時、凝縮器12の入口から出口に向かい温度が低下する。冷凍サイクルシステム10においては、蒸発器14および凝縮器12において、作動媒体と対向して流れる水や空気等の熱源流体との間で熱交換を行うことにより構成されている。熱源流体は、冷凍サイクルシステム10において、蒸発器14では「E→E’」で示され、凝縮器12では「F→F’」で示される。
【0055】
ここで、単一媒体や共沸混合媒体を用いた場合には温度勾配がないため、蒸発器14の出口温度と入口温度との温度差がほぼ一定であるが、非共沸混合媒体を用いた場合は、温度差が一定とならない。例えば、蒸発器14で0℃で蒸発させようとした場合、入口温度が0℃よりも低い温度となり、蒸発器14において着霜する問題が生じる。特に、温度勾配が大きいほど、入口温度が低くなり、着霜の可能性が大きくなる。
【0056】
また、冷凍サイクルシステム10に温度勾配が大きい非共沸混合媒体を用いた場合、気液両相の組成が大きく異なることから、システム10内を循環する非共沸混合媒体が漏えいした場合に、その前後でシステム10内を循環する非共沸混合媒体の組成が大きく変化する原因になる。
【0057】
また、例えば、上記冷凍サイクルシステム10に示されるとおり、通常、熱サイクルシステムにおいては、蒸発器14および凝縮器12等の熱交換器を流れる作動媒体と水や空気等の熱源流体とは常に対向流にすることにより熱交換効率の向上をはかる工夫がされている。ここで、起動時を別とし、一般に長期稼働する安定運転状態においては熱源流体の温度差が小さいことから、温度勾配の大きい非共沸混合媒体の場合、エネルギー効率のよい熱サイクルシステムを得ることが困難である。このため、適切な温度勾配を有する非共沸混合媒体が望まれる。
【0058】
上記のとおり、本発明の作動媒体における、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32の組合せの組成範囲は、作動媒体として実用的に使用されうる温度勾配を示す範囲である。
【0059】
(自己分解性)
本発明の作動媒体が含有するHFO−1123は自己分解性を有することが知られている。しかしながら、作動媒体として使用する場合の温度や圧力条件下で、HFO−1123の冷凍サイクル性能を維持しながら耐久性をもって使用できる組成は知られていない。そこで、本発明者らは、HFO−1123の自己分解性については、HFO−1123を含む組成物において、組成物全量に対するHFO−1123の含有量を70モル%以下とすれば、作動媒体として使用する場合の温度や圧力条件下で自己分解を抑制できることを以下のとおり確認した。
【0060】
<HFO−1123の自己分解性の評価>
自己分解性の評価は、高圧ガス保安法における個別通達においてハロゲンを含むガスを混合したガスにおける燃焼範囲を測定する設備として推奨されているA法に準拠した設備を用い実施した。
【0061】
具体的には、外部より所定の温度に制御された内容積650cm
3の球形耐圧容器内にHFO−1123とHFO−1234yf、またはHFO−1123とHFC−32、あるいはHFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32を種々の割合で混合した混合媒体を所定圧力まで封入した後、内部に設置された白金線を溶断することにより約30Jのエネルギーを印加した。印加後に発生する耐圧容器内の温度と圧力変化を測定することにより自己分解反応の有無を確認した。圧力上昇並びに温度上昇が認められた場合に自己分解反応ありと判断した。結果をHFO−1123とHFO−1234yfの混合媒体については表3に、HFO−1123とHFC−32の混合媒体については表4に、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の混合媒体については表5に、それぞれ示す。なお表3〜5中の圧力はゲージ圧である。
【0065】
本発明の実施形態の作動媒体における上記組成範囲(S)は、このようにして確認された自己分解性を有する組成領域を含まない。すなわち、本発明の作動媒体がHFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32のみで構成された上記組成範囲(S)の作動媒体である場合、作動媒体全量に対するHFO−1123の含有量が70モル%以下である。
【0066】
本発明の作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32以外の任意成分を10質量%以下の割合で含有できる。任意成分としては、自己分解性を有しない化合物が好ましく選択される。
【0067】
上記組成範囲(S)を有する作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32がそれぞれ有する特性がバランスよく発揮され、かつそれぞれが有する欠点が抑制された作動媒体である。すなわち、組成範囲(S)を有する作動媒体は、GWPが低く抑えられ、耐久性が確保されたうえで、熱サイクルに用いた際に、温度勾配が小さく、一定の能力と効率を有することで良好なサイクル性能が得られる作動媒体である。
【0068】
本発明の作動媒体を、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32の3つの化合物のみで構成する場合、好ましい組成として、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量に対する、HFO−1123の割合が10質量%以上70質量%未満、HFO−1234yfの割合が50質量%以下、かつHFC−32の割合が30質量%を超え44質量%以下である組成が挙げられる。この組成範囲を組成範囲(P)として以下に説明する。
【0069】
本発明の熱サイクル用作動媒体がHFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32からなる場合の上記組成範囲(P)を
図4の三角座標図に示す。すなわち、
図4は三辺のそれぞれをHFO−1123、HFO−1234yf、HFC−32の組成(質量%)として示す三角座標図であり、三角座標図の略中央の太実線で囲まれた帯状の5角形の領域が本発明の好ましい作動媒体の組成範囲(P)である。
【0070】
図4における組成範囲(P)を示す5角形の各辺(P1)〜(P5)はそれぞれ以下の範囲の境界線を示す。ただし、以下の各式において各化合物の略称は、上記(S1)〜(S5)の場合と同様に、作動媒体全量、すなわち、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量に対する当該化合物の割合(質量%)を示す。
(P1)HFC−32≦44質量%
(P2)0質量%<HFO−1234yf
(P3)30質量%<HFC−32
(P4)HFO−1234yf≦50質量%
(P5)10質量%≦HFO−1123
【0071】
組成範囲(P)における上記(P1)〜(P5)において、(P2)〜(P5)については、組成範囲(S)における(S2)〜(S5)と同様である。組成範囲(P)は、組成範囲(S)よりもHFC−32の含有量の上限が低く、GWPの上限が低い。
図4に示す組成範囲(P)においてもっともGWPが高いのは、5角形の右上の角の組成、すなわち、HFO−1123:HFO−1234yf:HFC−32が10質量%:46質量%:44質量%の組成であり、その組成におけるGWPは、(0.3×10+4×46+675×44)/100=298.9と算出できる。相対成績係数が大きい点から、(P2)は5質量%≦HFO−1234yfが好ましく、8質量%≦HFO−1234yfがより好ましい。
【0072】
また、本発明の作動媒体を、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32の3つの化合物で構成する場合、別の好ましい組成として、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量に対する、HFO−1123の割合が20質量%以上70質量%未満、HFO−1234yfの割合が40質量%以下、かつHFC−32の割合が30質量%を超え75質量%以下である組成が挙げられる。より好ましくは、該組成において、HFC−32の割合の上限を44質量%とした組成が挙げられる。さらに好ましくは、該組成においてHFO−1234yfの割合の下限を5質量%とした組成が挙げられる。このより好ましい組成範囲を組成範囲(M)として以下に説明する。
【0073】
本発明の熱サイクル用作動媒体がHFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32からなる場合の上記組成範囲(M)を
図5の三角座標図に示す。すなわち、
図5は三辺のそれぞれをHFO−1123、HFO−1234yf、HFC−32の組成(質量%)として示す三角座標図であり、三角座標図の略中央左寄りの太実線で囲まれた5角形の領域が本発明のより好ましい作動媒体の組成範囲(M)である。
【0074】
図5における組成範囲(M)を示す5角形の各辺(M1)〜(M5)はそれぞれ以下の範囲の境界線を示す。ただし、以下の各式において各化合物の略称は、上記(S1)〜(S5)の場合と同様に、作動媒体全量、すなわち、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量に対する当該化合物の割合(質量%)を示す。
(M1)HFC−32≦44質量%
(M2)5質量%≦HFO−1234yf
(M3)30質量%<HFC−32
(M4)HFO−1234yf≦40質量%
(M5)20質量%≦HFO−1123
【0075】
組成範囲(M)における上記(M1)〜(M5)において、(M1)、(M3)については、組成範囲(P)における(P1)、(P3)と同様である。組成範囲(M)は、組成範囲(P)に比較してHFO−1234yfの含有量の範囲を、0質量%を超え50質量%以下から、5質量%以上40質量%以下とし、HFO−1123の含有量の下限を10質量%から20質量%に上げたものである。この範囲にあると温度勾配の上限が下がり、相対成績係数×相対冷凍能力の下限が上がる。相対成績係数が大きい点から(M2)は8質量%≦HFO−1234yfがより好ましい。また、相対冷凍能力が大きい点から(M4)はHFO−1234yf≦35質量%がより好ましい。
【0076】
上記組成範囲(M)を有する作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32がそれぞれ有する特性が特にバランスよく発揮され、かつそれぞれが有する欠点が抑制された作動媒体である。すなわち、組成範囲(M)を有する作動媒体は、GWPの上限が300以下に低く抑えられ、耐久性が確保されたうえで、熱サイクルに用いた際に、温度勾配が5.8未満と小さく、相対成績係数および相対冷凍能力が1に近く良好なサイクル性能が得られる作動媒体である。
【0077】
[任意成分]
本発明の作動媒体は、本発明の効果を損なわない範囲でHFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32以外に、通常作動媒体として用いられる化合物を任意に、作動媒体全量の10質量%以下の割合で含有してもよい。本発明の作動媒体がHFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32以外に任意の化合物(任意成分という)を含有する場合においても、作動媒体の温度勾配は「0」とはならず相当の温度勾配を有する。本発明の作動媒体の温度勾配は、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32、および必要に応じて任意成分の混合割合により異なる。
【0078】
任意成分としては、HFC−32以外のHFC、HFO−1123およびHFO−1234yf以外のHFO(炭素−炭素二重結合を有するHFC)が含まれる。
【0079】
(HFC−32以外のHFC)
本発明の作動媒体が任意に含有するHFC−32以外のHFCとしては、例えばHFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32と組み合わせて熱サイクルに用いた際に、温度勾配を下げる、能力を向上させるまたは効率をより高める作用を有するHFCが用いられる。HFC−32以外のHFCが含まれると、より良好なサイクル性能が得られる。
【0080】
なお、HFCは、HFO−1123およびHFO−1234yfに比べてGWPが高いことが知られている。したがって、上記作動媒体としてのサイクル性能の向上に加えて、GWPを許容の範囲にとどめる観点から任意成分のHFCを選択する。
【0081】
オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さい任意成分のHFCとして具体的には炭素数1〜5のHFCが好ましい。HFC−32以外のHFCは、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、環状であってもよい。
【0082】
HFC−32以外のHFCとしては、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタン等が挙げられる。
【0083】
なかでも、HFC−32以外のHFCとしては、オゾン層への影響が少なく、かつ冷凍サイクル特性が優れる点から、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、およびHFC−125が好ましく、HFC−134aおよびHFC−125がより好ましい。
【0084】
ただし、HFC−134aおよびHFC−125は温暖化係数がそれぞれ1430および3500と非常に高い。これらを作動媒体の任意成分として用いる場合には、作動媒体のGWPが許容範囲を超えて引き上げられることがないように留意する。
HFC−32以外のHFCは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
(HFO−1123およびHFO−1234yf以外のHFO)
HFO−1123およびHFO−1234yf以外のHFOとしては、1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132)、2−フルオロプロペン(HFO−1261yf)、1,1,2−トリフルオロプロペン(HFO−1243yc)、トランス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(E))、シス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(Z))、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(E))、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(Z))、3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)等が挙げられる。
【0086】
なかでも、HFO−1123およびHFO−1234yf以外のHFOとしては、高い臨界温度を有し、耐久性、成績係数が優れる点から、HFO−1234ze(E)、HFO−1234ze(Z)が好ましく、HFO−1234ze(E)がより好ましい。
HFO−1123およびHFO−1234yf以外のHFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
本発明の作動媒体が、任意成分を含む場合、その含有量は、10質量%以下であり、8質量%以下が好ましい。
【0088】
任意成分の含有量は、本発明の作動媒体を熱サイクルに用いた際に、耐久性を確保した上で、温度勾配を下げる、能力を向上させるまたは効率をより高める観点、さらには地球温暖化係数を勘案して、上記範囲内で適宜調整される。
【0089】
なお、本発明の作動媒体における、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32による組成範囲は、該3成分のみにより、すでに耐久性、温度勾配、冷凍能力、成績係数、および地球温暖化係数のバランスが整った組成であるため、さらに任意成分を加えてこれらのバランスを崩さずに、いずれかの特性を向上させるには困難が伴う場合がある。特に作動媒体が上記好ましい組成範囲にある場合はより困難である。したがって、本発明においては、潤滑油への溶解性の向上や難燃化等を目的として配合される以下の、その他の任意成分を除いては、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32以外の成分を含まないことが好ましい。
【0090】
(その他の任意成分)
本発明の作動媒体は、上記任意成分以外に、二酸化炭素、炭化水素、クロロフルオロオレフィン(CFO)、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)等を含有してもよい。その他の任意成分としてはオゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さい成分が好ましい。
【0091】
炭化水素としては、プロパン、プロピレン、シクロプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン等が挙げられる。
炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
本発明の作動媒体が炭化水素を含有する場合、その含有量は作動媒体の100質量%に対して10質量%以下であり、1〜5質量%が好ましく、3〜5質量%がさらに好ましい。炭化水素の含有量が下限値以上であれば、作動媒体への鉱物系潤滑油の溶解性がより良好になる。
【0093】
CFOとしては、クロロフルオロプロペン、クロロフルオロエチレン等が挙げられる。本発明の作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、CFOとしては、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CFO−1214ya)、1,3−ジクロロ−1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(CFO−1214yb)、1,2−ジクロロ−1,2−ジフルオロエチレン(CFO−1112)が好ましい。
CFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
本発明の作動媒体がCFOを含有する場合、その含有量は作動媒体の100質量%に対して10質量%以下であり、1〜8質量%が好ましく、2〜5質量%がさらに好ましい。CFOの含有量が下限値以上であれば、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。CFOの含有量が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0095】
HCFOとしては、ヒドロクロロフルオロプロペン、ヒドロクロロフルオロエチレン等が挙げられる。本発明の作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、HCFOとしては、1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HCFO−1224yd)、1−クロロ−1,2−ジフルオロエチレン(HCFO−1122)が好ましい。
HCFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
本発明の作動媒体がHCFOを含む場合、本発明の作動媒体100質量%中のHCFOの含有量は、10質量%以下であり、1〜8質量%が好ましく、2〜5質量%がさらに好ましい。HCFOの含有量が下限値以上であれば、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。HCFOの含有量が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0097】
本発明の作動媒体が上記のような任意成分を含有する場合、作動媒体における任意成分の合計含有量は、作動媒体100質量%に対して10質量%以下であり、8質量%以下が好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0098】
本発明の作動媒体は、ともに地球温暖化への影響が少ないHFOであって、作動媒体としての能力に優れるHFO−1123と、作動媒体としての能力および効率がバランスよく揃ったHFO−1234yfと、GWPが比較的高いもののR410Aより格段に低く、成績係数と冷凍能力に優れるとともに、HFO−1123と共沸または擬似共沸組成を形成するHFC−32を、3成分を混合した際の混合媒体における温度勾配の観点を加味して、それぞれを単独で使用する場合に比べてサイクル性能が向上する割合となるように組み合わせて得られる作動媒体であり、耐久性および地球温暖化への影響を抑えつつ、実用上充分なサイクル性能を有するものである。
【0099】
[熱サイクルシステムへの適用]
<熱サイクルシステム用組成物>
本発明の作動媒体は、熱サイクルシステムへの適用に際して、通常、潤滑油と混合して本発明の熱サイクルシステム用組成物として使用することができる。本発明の作動媒体と潤滑油を含む本発明の熱サイクルシステム用組成物は、これら以外にさらに、安定剤、漏れ検出物質等の公知の添加剤を含有してもよい。
【0100】
(潤滑油)
潤滑油としては、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステム用組成物に用いられる公知の潤滑油が特に制限なく採用できる。潤滑油として具体的には、含酸素系合成油(エステル系潤滑油、エーテル系潤滑油等)、フッ素系潤滑油、鉱物系潤滑油、炭化水素系合成油等が挙げられる。
【0101】
エステル系潤滑油としては、二塩基酸エステル油、ポリオールエステル油、コンプレックスエステル油、ポリオール炭酸エステル油等が挙げられる。
【0102】
二塩基酸エステル油としては、炭素数5〜10の二塩基酸(グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等)と、直鎖または分枝アルキル基を有する炭素数1〜15の一価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール等)とのエステルが好ましい。具体的には、グルタル酸ジトリデシル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジトリデシル、セバシン酸ジ(3−エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0103】
ポリオールエステル油としては、ジオール(エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、ネオペンチルグリコール、1,7−ヘプタンジオール、1,12−ドデカンジオール等)または水酸基を3〜20個有するポリオール(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール、グリセリン、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物等)と、炭素数6〜20の脂肪酸(ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、エイコサン酸、オレイン酸等の直鎖または分枝の脂肪酸、もしくはα炭素原子が4級であるいわゆるネオ酸等)とのエステルが好ましい。
なお、これらのポリオールエステル油は、遊離の水酸基を有していてもよい。
【0104】
ポリオールエステル油としては、ヒンダードアルコール(ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスルトール等)のエステル(トリメチロールプロパントリペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート等)が好ましい。
【0105】
コンプレックスエステル油とは、脂肪酸および二塩基酸と、一価アルコールおよびポリオールとのエステルである。脂肪酸、二塩基酸、一価アルコール、ポリオールとしては、上述と同様のものを用いることができる。
【0106】
ポリオール炭酸エステル油とは、炭酸とポリオールとのエステルである。
ポリオールとしては、上述と同様のジオールや上述と同様のポリオールが挙げられる。また、ポリオール炭酸エステル油としては、環状アルキレンカーボネートの開環重合体であってもよい。
【0107】
エーテル系潤滑油としては、ポリビニルエーテル油やポリオキシアルキレン油が挙げられる。
【0108】
ポリビニルエーテル油としては、アルキルビニルエーテルなどのビニルエーテルモノマーを重合して得られたもの、ビニルエーテルモノマーとオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとを共重合して得られた共重合体がある。
ビニルエーテルモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0109】
オレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとしては、エチレン、プロピレン、各種ブテン、各種ペンテン、各種ヘキセン、各種ヘプテン、各種オクテン、ジイソブチレン、トリイソブチレン、スチレン、α−メチルスチレン、各種アルキル置換スチレン等が挙げられる。オレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0110】
ポリビニルエーテル共重合体は、ブロックまたはランダム共重合体のいずれであってもよい。ポリビニルエーテル油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0111】
ポリオキシアルキレン油としては、ポリオキシアルキレンモノオール、ポリオキシアルキレンポリオール、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールのアルキルエーテル化物、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールのエステル化物等が挙げられる。
【0112】
ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールは、水酸化アルカリなどの触媒の存在下、水や水酸基含有化合物などの開始剤に炭素数2〜4のアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド等)を開環付加重合させる方法等により得られたものが挙げられる。また、ポリアルキレン鎖中のオキシアルキレン単位は、1分子中において同一であってもよく、2種以上のオキシアルキレン単位が含まれていてもよい。1分子中に少なくともオキシプロピレン単位が含まれることが好ましい。
【0113】
反応に用いる開始剤としては、水、メタノールやブタノール等の1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタエリスリトール、グリセロール等の多価アルコールが挙げられる。
【0114】
ポリオキシアルキレン油としては、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールの、アルキルエーテル化物やエステル化物が好ましい。また、ポリオキシアルキレンポリオールとしては、ポリオキシアルキレングリコールが好ましい。特に、ポリグリコール油と呼ばれる、ポリオキシアルキレングリコールの末端水酸基がメチル基等のアルキル基でキャップされた、ポリオキシアルキレングリコールのアルキルエーテル化物が好ましい。
【0115】
フッ素系潤滑油としては、合成油(後述する鉱物油、ポリα−オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等)の水素原子をフッ素原子に置換した化合物、ペルフルオロポリエーテル油、フッ素化シリコーン油等が挙げられる。
【0116】
鉱物系潤滑油としては、原油を常圧蒸留または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、精製処理(溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、白土処理等)を適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油等が挙げられる。
【0117】
炭化水素系合成油としては、ポリα−オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等が挙げられる。
【0118】
潤滑油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
潤滑油としては、作動媒体との相溶性の点から、ポリオールエステル油、ポリビニルエーテル油およびポリグリコール油から選ばれる1種以上が好ましい。
【0119】
潤滑油の添加量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、10〜100質量部が好ましく、20〜50質量部がより好ましい。
【0120】
(安定剤)
安定剤は、熱および酸化に対する作動媒体の安定性を向上させる成分である。安定剤としては、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の安定剤、例えば、耐酸化性向上剤、耐熱性向上剤、金属不活性剤等が特に制限なく採用できる。
【0121】
耐酸化性向上剤および耐熱性向上剤としては、N,N’−ジフェニルフェニレンジアミン、p−オクチルジフェニルアミン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、N−フェニル−1−ナフチルアミン、N−フェニル−2−ナフチルアミン、N−(p−ドデシル)フェニル−2−ナフチルアミン、ジ−1−ナフチルアミン、ジ−2−ナフチルアミン、N−アルキルフェノチアジン、6−(t−ブチル)フェノール、2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール、4−メチル−2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。耐酸化性向上剤および耐熱性向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0122】
金属不活性剤としては、イミダゾール、ベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズチアゾール、2,5−ジメチルカプトチアジアゾール、サリシリジン−プロピレンジアミン、ピラゾール、ベンゾトリアゾール、トルトリアゾール、2−メチルベンズアミダゾール、3,5−ジメチルピラゾール、メチレンビス−ベンゾトリアゾール、有機酸またはそれらのエステル、第1級、第2級または第3級の脂肪族アミン、有機酸または無機酸のアミン塩、複素環式窒素含有化合物、アルキル酸ホスフェートのアミン塩またはそれらの誘導体等が挙げられる。
【0123】
安定剤の添加量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましい。
【0124】
(漏れ検出物質)
漏れ検出物質としては、紫外線蛍光染料、臭気ガスや臭いマスキング剤等が挙げられる。
紫外線蛍光染料としては、米国特許第4249412号明細書、特表平10−502737号公報、特表2007−511645号公報、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等、従来、ハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の紫外線蛍光染料が挙げられる。
【0125】
臭いマスキング剤としては、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の香料が挙げられる。
【0126】
漏れ検出物質を用いる場合には、作動媒体への漏れ検出物質の溶解性を向上させる可溶化剤を用いてもよい。
【0127】
可溶化剤としては、特表2007−511645号公報、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等が挙げられる。
【0128】
漏れ検出物質の添加量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、2質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましい。
【0129】
<熱サイクルシステム>
本発明の熱サイクルシステムは、本発明の作動媒体を用いたシステムである。本発明の作動媒体を熱サイクルシステムに適用するにあたっては、通常、上記熱サイクルシステム用組成物に作動媒体を含有させるかたちで適用する。本発明の熱サイクルシステムは、凝縮器で得られる温熱を利用するヒートポンプシステムであってもよく、蒸発器で得られる冷熱を利用する冷凍サイクルシステムであってもよい。
【0130】
本発明の熱サイクルシステムとして、具体的には、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置および二次冷却機等が挙げられる。なかでも、本発明の熱サイクルシステムは、より高温の作動環境でも安定して熱サイクル性能を発揮できるため、屋外等に設置されることが多い空調機器として用いられることが好ましい。また、本発明の熱サイクルシステムは、冷凍・冷蔵機器として用いられることも好ましい。
【0131】
空調機器として、具体的には、ルームエアコン、パッケージエアコン(店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン等)、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置等が挙げられる。
【0132】
冷凍・冷蔵機器として、具体的には、ショーケース(内蔵型ショーケース、別置型ショーケース等)、業務用冷凍・冷蔵庫、自動販売機、製氷機等が挙げられる。
【0133】
発電システムとしては、ランキンサイクルシステムによる発電システムが好ましい。
発電システムとして、具体的には、蒸発器において地熱エネルギー、太陽熱、50〜200℃程度の中〜高温度域廃熱等により作動媒体を加熱し、高温高圧状態の蒸気となった作動媒体を膨張機にて断熱膨張させ、該断熱膨張によって発生する仕事によって発電機を駆動させ、発電を行うシステムが例示される。
【0134】
また、本発明の熱サイクルシステムは、熱輸送装置であってもよい。熱輸送装置としては、潜熱輸送装置が好ましい。
【0135】
潜熱輸送装置としては、装置内に封入された作動媒体の蒸発、沸騰、凝縮等の現象を利用して潜熱輸送を行うヒートパイプおよび二相密閉型熱サイフォン装置が挙げられる。ヒートパイプは、半導体素子や電子機器の発熱部の冷却装置等、比較的小型の冷却装置に適用される。二相密閉型熱サイフォンは、ウィッグを必要とせず構造が簡単であることから、ガス−ガス型熱交換器、道路の融雪促進および凍結防止等に広く利用される。
【0136】
以下、本発明の実施形態の熱サイクルシステムの一例として、冷凍サイクルシステムについて、上記で大枠を説明した
図3に概略構成図が示される冷凍サイクルシステム10を例として説明する。冷凍サイクルシステムとは、蒸発器で得られる冷熱を利用するシステムである。
【0137】
図3に示す冷凍サイクルシステム10は、作動媒体蒸気Aを圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする圧縮機11と、圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする凝縮器12と、凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする膨張弁13と、膨張弁13から排出された作動媒体Dを加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする蒸発器14と、蒸発器14に負荷流体Eを供給するポンプ15と、凝縮器12に流体Fを供給するポンプ16とを具備して概略構成されるシステムである。
【0138】
冷凍サイクルシステム10においては、以下の(i)〜(iv)のサイクルが繰り返される。
(i)蒸発器14から排出された作動媒体蒸気Aを圧縮機11にて圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする(以下、「AB過程」という。)。
(ii)圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを凝縮器12にて流体Fによって冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする。この際、流体Fは加熱されて流体F’となり、凝縮器12から排出される(以下、「BC過程」という。)。
【0139】
(iii)凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張弁13にて膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする(以下、「CD過程」という。)。
(iv)膨張弁13から排出された作動媒体Dを蒸発器14にて負荷流体Eによって加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする。この際、負荷流体Eは冷却されて負荷流体E’となり、蒸発器14から排出される(以下、「DA過程」という。)。
【0140】
冷凍サイクルシステム10は、断熱・等エントロピ変化、等エンタルピ変化および等圧変化からなるサイクルシステムである。作動媒体の状態変化を、
図6に示される圧力−エンタルピ線(曲線)図上に記載すると、A、B、C、Dを頂点とする台形として表すことができる。
【0141】
AB過程は、圧縮機11で断熱圧縮を行い、高温低圧の作動媒体蒸気Aを高温高圧の作動媒体蒸気Bとする過程であり、
図6においてAB線で示される。
【0142】
BC過程は、凝縮器12で等圧冷却を行い、高温高圧の作動媒体蒸気Bを低温高圧の作動媒体Cとする過程であり、
図6においてBC線で示される。この際の圧力が凝縮圧である。圧力−エンタルピ線とBC線の交点のうち高エンタルピ側の交点T
1が凝縮温度であり、低エンタルピ側の交点T
2が凝縮沸点温度である。ここで、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の混合媒体が非共沸混合媒体である場合の温度勾配はT
1とT
2の差として示される。
【0143】
CD過程は、膨張弁13で等エンタルピ膨張を行い、低温高圧の作動媒体Cを低温低圧の作動媒体Dとする過程であり、
図6においてCD線で示される。なお、低温高圧の作動媒体Cにおける温度をT
3で示せば、T
2−T
3が(i)〜(iv)のサイクルにおける作動媒体の過冷却度(以下、必要に応じて「SC」で示す。)となる。
【0144】
DA過程は、蒸発器14で等圧加熱を行い、低温低圧の作動媒体Dを高温低圧の作動媒体蒸気Aに戻す過程であり、
図6においてDA線で示される。この際の圧力が蒸発圧である。圧力−エンタルピ線とDA線の交点のうち高エンタルピ側の交点T
6は蒸発温度である。作動媒体蒸気Aの温度をT
7で示せば、T
7−T
6が(i)〜(iv)のサイクルにおける作動媒体の過熱度(以下、必要に応じて「SH」で示す。)となる。なお、T
4は作動媒体Dの温度を示す。
【0145】
ここで、作動媒体のサイクル性能は、例えば、作動媒体の冷凍能力(以下、必要に応じて「Q」で示す。)と成績係数(以下、必要に応じて「COP」で示す。)で評価できる。作動媒体のQとCOPは、作動媒体のA(蒸発後、高温低圧)、B(圧縮後、高温高圧)、C(凝縮後、低温高圧)、D(膨張後、低温低圧)の各状態における各エンタルピ、h
A、h
B、h
C、h
Dを用いると、下式(1)、(2)からそれぞれ求められる。
【0146】
Q=h
A−h
D …(1)
COP=Q/圧縮仕事=(h
A−h
D)/(h
B−h
A) …(2)
【0147】
なお、COPは冷凍サイクルシステムにおける効率を意味しており、COPの値が高いほど少ない入力、例えば圧縮機を運転するために必要とされる電力量、により大きな出力、例えば、Qを得ることができることを表している。
【0148】
一方、Qは負荷流体を冷凍する能力を意味しており、Qが高いほど同一のシステムにおいて、多くの仕事ができることを意味している。言い換えると、大きなQを有する場合は、少量の作動媒体で目的とする性能が得られることを表しており、システムの小型化が可能となる。
【0149】
本発明の作動媒体を用いた本発明の熱サイクルシステムによれば、例えば、
図3に示される冷凍サイクルシステム10において、従来から空調機器等で一般的に使用されているR410A(HFC−32とHFC−125の質量比1:1の混合媒体)を用いた場合に比べて、地球温暖化係数を格段に低く抑えながら、QとCOPをともに高いレベル、すなわち、R410Aと同等またはそれ以上のレベルに設定することが可能である。
【0150】
さらに、用いる熱サイクルシステム用組成物が含有する作動媒体の温度勾配が一定値以下に抑えられていることから、圧力容器から冷凍空調機器へ充てんされる際の組成変化や冷凍空調機器からの冷媒漏えいが生じた場合の冷凍空調機器内の冷媒組成の変化を低いレベルに抑えることができる。また、本発明の作動媒体は自己分解性を有しないところ、これを用いた熱サイクルシステムは特別に耐久性を図る措置をとることなく耐久性が高い稼働が可能である。
【0151】
なお、熱サイクルシステムの稼働に際しては、水分の混入や、酸素等の不凝縮性気体の混入による不具合の発生を避けるために、これらの混入を抑制する手段を設けることが好ましい。
【0152】
熱サイクルシステム内に水分が混入すると、特に低温で使用される際に問題が生じる場合がある。例えば、キャピラリーチューブ内での氷結、作動媒体や潤滑油の加水分解、サイクル内で発生した酸成分による材料劣化、コンタミナンツの発生等の問題が発生する。特に、潤滑油がポリグリコール油、ポリオールエステル油等である場合は、吸湿性が極めて高く、また、加水分解反応を生じやすく、潤滑油としての特性が低下し、圧縮機の長期信頼性を損なう大きな原因となる。したがって、潤滑油の加水分解を抑えるためには、熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する必要がある。
【0153】
熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する方法としては、乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト等)等の水分除去手段を用いる方法が挙げられる。乾燥剤は、液状の作動媒体と接触させることが、脱水効率の点で好ましい。例えば、凝縮器12の出口、または蒸発器14の入口に乾燥剤を配置して、作動媒体と接触させることが好ましい。
【0154】
乾燥剤としては、乾燥剤と作動媒体との化学反応性、乾燥剤の吸湿能力の点から、ゼオライト系乾燥剤が好ましい。
【0155】
ゼオライト系乾燥剤としては、従来の鉱物系潤滑油に比べて吸湿量の高い潤滑油を用いる場合には、吸湿能力に優れる点から、下式(3)で表される化合物を主成分とするゼオライト系乾燥剤が好ましい。
【0156】
M
2/nO・Al
2O
3・xSiO
2・yH
2O …(3)
ただし、Mは、Na、K等の1族の元素またはCa等の2族の元素であり、nは、Mの原子価であり、x、yは、結晶構造にて定まる値である。Mを変化させることにより細孔径を調整できる。
【0157】
乾燥剤の選定においては、細孔径および破壊強度が重要である。
作動媒体の分子径よりも大きい細孔径を有する乾燥剤を用いた場合、作動媒体が乾燥剤中に吸着され、その結果、作動媒体と乾燥剤との化学反応が生じ、不凝縮性気体の生成、乾燥剤の強度の低下、吸着能力の低下等の好ましくない現象を生じることとなる。
【0158】
したがって、乾燥剤としては、細孔径の小さいゼオライト系乾燥剤を用いることが好ましい。特に、細孔径が3.5オングストローム以下である、ナトリウム・カリウムA型の合成ゼオライトが好ましい。作動媒体の分子径よりも小さい細孔径を有するナトリウム・カリウムA型合成ゼオライトを適用することによって、作動媒体を吸着することなく、熱サイクルシステム内の水分のみを選択的に吸着除去できる。言い換えると、作動媒体の乾燥剤への吸着が起こりにくいことから、熱分解が起こりにくくなり、その結果、熱サイクルプシステムを構成する材料の劣化やコンタミナンツの発生を抑制できる。
【0159】
ゼオライト系乾燥剤の大きさは、小さすぎると熱サイクルシステムの弁や配管細部への詰まりの原因となり、大きすぎると乾燥能力が低下するため、約0.5〜5mmが好ましい。形状としては、粒状または円筒状が好ましい。
【0160】
ゼオライト系乾燥剤は、粉末状のゼオライトを結合剤(ベントナイト等)で固めることにより任意の形状とすることができる。ゼオライト系乾燥剤を主体とするかぎり、他の乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ等)を併用してもよい。
作動媒体に対するゼオライト系乾燥剤の使用割合は、特に限定されない。
【0161】
さらに、熱サイクルシステム内に不凝縮性気体が混入すると、凝縮器や蒸発器における熱伝達の不良、作動圧力の上昇という悪影響をおよぼすため、極力混入を抑制する必要がある。特に、不凝縮性気体の一つである酸素は、作動媒体や潤滑油と反応し、分解を促進する。
【0162】
不凝縮性気体濃度は、作動媒体の気相部において、作動媒体に対する容積割合で1.5体積%以下が好ましく、0.5体積%以下が特に好ましい。
【0163】
以上説明した本発明の熱サイクルシステムにあっては、本発明の作動媒体を用いることで、耐久性が高く、地球温暖化への影響を抑えつつ、実用上充分なサイクル性能が得られるとともに、温度勾配に係る問題も殆どない。
【実施例】
【0164】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。例1〜14、例37〜56が実施例であり、例15〜36が比較例である。例57は、以下の各実施例、比較例において、相対評価に用いたR410A(HFC−32とHFC−125の質量比1:1の混合媒体)の例であり、参考例である。
【0165】
[例1〜56]
例1〜32、例37〜56において、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32を表6および表7に示す割合で混合した作動媒体を作製し、以下の方法で、温度勾配および冷凍サイクル性能(冷凍能力Qおよび成績係数COP)を測定した。例33、34、35は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32の単一組成の作動媒体、例36はHFO−1123とHFO−1234yfの質量比1:1組成の作動媒体であり上記同様に温度勾配および冷凍サイクル性能(冷凍能力Qおよび成績係数COP)を測定した。
【0166】
[温度勾配、冷凍サイクル性能の測定]
温度勾配、冷凍サイクル性能(冷凍能力および成績係数)の測定は、
図3に示す冷凍サイクルシステム10に作動媒体を適用して、
図6に示す熱サイクル、すなわちAB過程で圧縮機11による断熱圧縮、BC過程で凝縮器12による等圧冷却、CD過程で膨張弁13による等エンタルピ膨張、DA過程で蒸発器14による等圧加熱を実施した場合について行った。
【0167】
測定条件は、蒸発器14における作動媒体の平均蒸発温度を0℃、凝縮器12における作動媒体の平均凝縮温度を40℃、凝縮器12における作動媒体の過冷却度(SC)を5℃、蒸発器14における作動媒体の過熱度(SH)を5℃として実施した。また、機器効率による損失、および配管、熱交換器における圧力損失はないものとした。
【0168】
冷凍能力および成績係数は、作動媒体のA(蒸発後、高温低圧)、B(圧縮後、高温高圧)、C(凝縮後、低温高圧)、D(膨張後、低温低圧)の各状態のエンタルピhを用いて、上記式(1)、(2)から求めた。
【0169】
サイクル性能の算出に必要となる熱力学性質は、対応状態原理に基づく一般化状態方程式(Soave−Redlich−Kwong式)、および熱力学諸関係式に基づき算出した。特性値が入手できない場合は、原子団寄与法に基づく推算手法を用い算出を行った。
【0170】
冷凍能力および成績係数は、後述の例57で上記と同様に測定されたR410Aの冷凍能力および成績係数をそれぞれ、1.000とした場合の相対比として求めた。温度勾配とともに、冷凍能力(対R410A)および成績係数(対R410A)の結果を表6および表7に示す。
【0171】
【表6】
【0172】
【表7】
【0173】
表6および表7に示される結果より、組成が本発明の範囲内である例1〜例14、例37〜例56の作動媒体は、組成が本発明の範囲外である例15〜例36の作動媒体がGWPや温度勾配が高い、あるいはHFO−1123の自己分解反応が発生する可能性があるか、R410Aに相対する冷凍能力や成績係数が総合的に低いレベルにあるのに比べ、GWPおよび温度勾配が低いレベルに抑えられ、かつR410Aに相対する成績係数や冷凍能力が総合的に高いレベルにあり、かつ耐久性が高いことがわかる。
【0174】
GWPおよび温度勾配が低いレベルに抑えられ、R410Aに相対する成績係数や冷凍能力が総合的に高いレベルにあるとは、GWP:510以下、温度勾配:6.6未満、相対成績係数:0.958以上、相対冷凍性能:0.820以上の全ての条件を満たし、さらに、相対成績係数と相対冷凍性能の関係について、相対成績係数と相対冷凍能力がいずれも1.000を下回る場合には、その積が0.950以上であるレベルをいう。
【0175】
[例57]
例57として、上記例1〜56の相対比較の対象となる、R410A(HFC−32とHFC−125の質量比1:1の混合媒体)について、上記と同様の方法で、温度勾配および冷凍サイクル性能(冷凍能力Qおよび成績係数COP)を測定した。冷凍能力および成績係数は表8のとおり1.000である。温度勾配およびGWPの計算結果を表8に示す。
【0176】
【表8】
【0177】
R410Aは、従来から使用されている作動媒体であることから、本実施例においては、サイクル性能はこれを基準として、同等のレベルに達していれば、実用上充分なサイクル性能であると評価した。なお、R410AはHFCのみから構成され、地球温暖化係数が高い。
【0178】
作動媒体の冷凍能力は、装置自体の大きさを決定する要因である。仮にHFO−1123をHFO−1123より冷凍能力の低い化合物、例えば、HFO−1234yfと組合せた場合には、組合せ後の混合物(作動媒体)はHFO−1123単独組成の作動媒体より冷凍能力が低くなる。このため、このような混合物をR410Aに代替させるためにはその冷凍能力の低さを補うために、装置自体の大型化と用いるエネルギーの増加が必要であり好ましくない。
【0179】
すなわち、HFO−1123とHFO−1123より冷凍能力の低い化合物とを組合せることは、本発明の課題を解決する手段としては適当ではない。特に、従来用いられてきたR410Aを用いる装置において機器の置き換えをすることなく作動媒体のみを置き換えることが求められている現状では、装置の大型化が好ましくない。
【0180】
しかしながら、本発明の作動媒体においては、HFO−1123をHFO−1123より冷凍能力の低い化合物であるHFO−1234yfとあえて組合せ、さらにHFC−32を必須成分として加えることで、冷凍能力を所定の値以上とした。
【0181】
成績係数については、HFO−1123単独では充分なレベルとは言えないが、相対成績係数は良好である。成績係数は作動媒体の効率を示し、機器の効率を考える上で非常に重要である。
【0182】
温度勾配の観点からは、HFC−32とHFO−1123が共沸組成または擬似共沸組成を形成することから、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の混合媒体における温度勾配の傾向は、HFO−1123とHFO−1234yfの混合媒体の温度勾配と同様な傾向であり、作動媒体における組成範囲が上記本発明の組成範囲内であれば温度勾配を一定値以下に抑えられることから、R410Aに代替できる。
【0183】
このように、上記結果から本発明の実施例である例1〜14、例37〜56は、R410Aを基準として、サイクル性能は実用上充分なレベルであることがわかる。ここで、HFC−32はGWPが高い化合物である。しかし、GWPの極めて低いHFO−1123およびHFO−1234yfと組合せることで、本発明の作動媒体はR410Aに比べて格段にGWPが低い。
【0184】
さらに、上記のとおりHFO−1123は単独では自己分解性を有するが、本発明は、作動媒体として充分に実用的な範囲の組成で、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32を組合せて、自己分解が抑制され耐久性の高い組成の作動媒体を提供するものである。
【0185】
本発明の作動媒体によれば、前述のように機器の置き換えをすることなくR410A作動媒体のみをGWPが低く耐久性の高い本発明の作動媒体に置き換えることが可能であり、そのような対応が求められている現状に適している。
【課題】R410A代替可能で、地球温暖化係数が小さく耐久性の高い熱サイクル用の作動媒体、およびこれを含む熱サイクルシステム用組成物、並びに該組成物を用いた熱サイクルシステムの提供。
【解決手段】トリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンを含む熱サイクル用作動媒体であって、作動媒体全量に対するトリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの合計量の割合が90質量%を超え100質量%以下であり、トリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの合計量に対する、トリフルオロエチレンの割合が10質量%以上70質量%未満、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの割合が50質量%以下、かつジフルオロメタンの割合が30質量%を超え75質量%以下である熱サイクル用作動媒体。