【実施例】
【0058】
表1は実験条件と結果とを示す。
【0059】
【表1】
【0060】
まず、実験材として、表1に示した酸素濃度、硫黄濃度、チタン濃度を有するφ8mmの銅線(ワイヤロッド、加工度99.3%)を作製した。φ8mmの銅線は、SCR連続鍛造圧延により、熱間圧延加工を施したものである。Tiは、シャフト炉で溶解された銅溶湯を還元ガス雰囲気で樋に流し、樋に流した銅溶湯を同じ還元ガス雰囲気の鋳造ポットに導き、この鋳造ポットにて、Tiを添加した後、これをノズルを通して鋳造輪と無端ベルトとの間に形成される鋳型にて鋳塊ロッドを作成した。この鋳塊ロッドを熱間圧延加工してφ8mmの銅線を作成したものである。次に、各実験材に冷間伸線加工を施した。これにより、φ2.6mmサイズの銅線を作製した。そして、φ2.6mmサイズの銅線の半軟化温度と導電率とを測定すると共に、φ8mmの銅線における分散粒子サイズを評価した。
【0061】
酸素濃度は、酸素分析器(レコ(Leco(登録商標)酸素分析器)で測定した。硫黄、チタンの各濃度はICP発光分光分析で分析した。
【0062】
φ2.6mmサイズにおける半軟化温度の測定は、400℃以下で各温度1時間の保持後、水中急冷し、引張試験を実施し、その結果から求めた。室温での引張試験の結果と400℃で1時間のオイルバス熱処理した軟質銅線の引張試験の結果を用いて求め、この2つの引張試験の引張強さを足して2で割った値を示す強度に対応する温度を半軟化温度と定義して求めた。
【0063】
実施の形態で述べたとおり、軟質希薄銅合金線内に分散している分散粒子のサイズは小さいことが好ましく、また、軟質希薄銅合金線内に分散粒子が多く分散していることが好ましい。したがって、直径500nm以下の分散粒子が90%以上である場合を合格とした。ここに「サイズ」とは化合物のサイズであり、化合物の形状の長径と短径のうちの長径のサイズを意味する。また、「粒子」とは、前記TiO、TiO
2、TiS、Ti−O−Sのことを示す。また、「90%」とは、全体の粒子数に対しての該当粒子数の割合を示すものである。
【0064】
表1において比較例1は、実験室でAr雰囲気において直径φ8mmの銅線を試作した結果であり、Tiを0〜18mass ppm添加した。Tiを添加していない銅線の半軟化温度が215℃であったのに対し、13mass ppmのTiを添加した銅線の軟化温度は160℃まで低下した(実験した中では最小温度である。)。表1に示す通り、Ti濃度が15mass ppm、18mass ppmに増加するにつれ、半軟化温度も上昇しており、要求されている軟化温度である148℃以下を実現することはできなかった。また、工業的に要求されている導電率は98%IACS以上であったものの、総合評価は不合格(以下、不合格を「×」と表す)であった。
【0065】
そこで、比較例2として、SCR連続鋳造圧延法を用い、酸素濃度を7〜8mass ppmに調整したφ8mm銅線(ワイヤロッド)を試作した。
【0066】
比較例2においては、SCR連続鋳造圧延法で試作した中でTi濃度が最小(つまり、0mass ppm、2mass ppm)の銅線であり、導電率は102%IACS以上であったものの、半軟化温度が164℃、157℃であり、要求されている148℃以下ではなかったことから、総合評価は「×」であった。
【0067】
実施例1においては、酸素濃度と硫黄濃度とが略一致(つまり、酸素濃度:7〜8mass ppm、硫黄濃度:5mass ppm)すると共に、Ti濃度が4〜55mass ppmの範囲内で異なる銅線を試作した。
【0068】
Ti濃度が4〜55mass ppmの範囲では、軟化温度が148℃以下であり、導電率も98%IACS以上102%IACS以上であり、分散粒子サイズは500nm以下の粒子が90%以上であり良好であった。また、ワイヤロッドの表面もきれいであり、いずれも製品性能を満たしていたので、総合評価は合格(以下、合格を「○」と表す)であった。
【0069】
ここで、導電率100%IACS以上を満たす銅線は、Ti濃度が4〜37mass ppmの場合であり、102%IACS以上を満たす銅線は、Ti濃度が4〜25mass ppmの場合であった。Ti濃度が13mass ppmの場合に導電率は最大値である102.4%IACSを示し、この濃度の周辺では、導電率はわずかに低い値であった。これは、Ti濃度が13mass ppmの場合に、銅の中の硫黄分を化合物として捕捉することで、高純度銅(6N)に近い導電率を示すためである。
【0070】
よって、酸素濃度を高くし、Tiを添加することで、半軟化温度と導電率との双方を満足させることができる。
【0071】
比較例3においては、Ti濃度を60mass ppmにした銅線を試作した。比較例3に係る銅線は、導電率は要求を満たすものの、半軟化温度は148℃以上であり、製品性能を満たしていなかった。更に、ワイヤロッドの表面の傷も多く、製品として採用することは困難であった。よって、Tiの添加量は60mass ppm未満が好ましいことが示された。
【0072】
実施例2に係る銅線おいては、硫黄濃度を5mass ppmに設定すると共に、Ti濃度を13〜10mass ppmの範囲で制御して、酸素濃度を変更することにより酸素濃度の影響を検討した。
【0073】
酸素濃度に関しては、2mass ppmを超え30mass ppmまで、大きく濃度が異なる銅線をそれぞれ作製した。ただし、酸素濃度が2mass ppm未満の銅線は生産が困難で安定的に製造できないので、総合評価は「△」とした(なお、「△」は「○」と「×」との中間の評価である。)。また、酸素濃度を30mass ppmにしても半軟化温度及び導電率の双方とも、要求を満たした。
【0074】
比較例4においては、酸素濃度が40mass ppmの場合に、ワイヤロッドの表面の傷が多く、製品として採用することができない状態であった。
【0075】
よって、酸素濃度を2を超え30mass ppm以下の範囲にすることで、半軟化温度、導電率102%IACS以上、分散粒子サイズのいずれの特性も満足させることができ、また、ワイヤロッドの表面もきれいであり、製品性能を満足させることができることが示された。
【0076】
実施例3は、酸素濃度とTi濃度とを互いに近づけた濃度に設定すると共に、硫黄濃度を4〜20mass ppmの範囲内で変更した銅線である。実施例3においては、硫黄濃度が2mass ppmより小さい銅線については、原料の制約上、実現できなかった。しかしながら、Ti濃度と硫黄濃度とをそれぞれ制御することで、半軟化温度及び導電率の双方とも、要求を満たすことができた。
【0077】
比較例5においては、硫黄濃度が18mass ppmであり、Ti濃度が13mass ppmである場合には、半軟化温度が162℃と高く、要求される特性を満足しなかった。また、特に、ワイヤロッドの表面品質が悪く、製品化は困難であった。
【0078】
以上より、硫黄濃度が2〜12mass ppmの範囲の場合には、半軟化温度、導電率102%IACS以上、分散粒子サイズのいずれの特性も満足させることができ、また、ワイヤロッドの表面もきれいであり、製品性能を満足させることができることが示された。
【0079】
比較例6は、6NのCuを用いた銅線である。比較例6に係る銅線においては、半軟化温度が127℃〜130℃であり、導電率が102.8%IACSであり、分散粒子サイズも500nm以下の粒子は全く認められなかった。
【0080】
表2には、製造条件としての溶融銅の温度と圧延温度とを示す。
【0081】
【表2】
【0082】
比較例7においては、溶銅温度が1330℃〜1350℃で、かつ、圧延温度が950〜600℃でφ8mmのワイヤロッドを作製した。比較例7に係るワイヤロッドは、半軟化温度及び導電率は要求を満たすものの、分散粒子サイズに関しては1000nm程度の粒子が存在しており、500nm以上の粒子も10%を超えて存在していた。よって、実施例7に係るワイヤロッドは不適と判定した。
【0083】
実施例4においては、溶銅温度を1200℃〜1320℃の温度範囲で制御すると共に、圧延温度を880℃〜550℃の温度範囲に制御してφ8mmのワイヤロッドを作製した。実施例4に係るワイヤロッドは、ワイヤロッド表面の品質、分散粒子サイズが良好であり、総合評価は「○」であった。
【0084】
比較例8においては、溶銅温度を1100℃に制御すると共に、圧延温度を880℃〜550℃の温度範囲に制御してφ8mmのワイヤロッドを作製した。比較例8に係るワイヤロッドは、溶銅温度が低いことからワイヤロッドの表面の傷が多く製品としては適さなかった。これは、溶銅温度が低いことから、圧延時に傷が発生しやすいことに起因するからである。
【0085】
比較例9においては、溶銅温度を1300℃に制御すると共に、圧延温度を950℃〜600℃の温度範囲に制御してφ8mmのワイヤロッドを作製した。比較例9に係るワイヤロッドは、熱間圧延工程における温度が高いことからワイヤロッドの表面の品質は良好であるものの、分散粒子サイズには大きいサイズが含まれ、総合評価は「×」になった。
【0086】
比較例10においては、溶銅温度を1350℃に制御すると共に、圧延温度を880℃〜550℃の温度範囲に制御してφ8mmのワイヤロッドを作製した。比較例10に係るワイヤロッドは、溶銅温度が高いことに起因して分散粒子サイズに大きなサイズが含まれ、総合評価は「×」になった。
【0087】
(軟質希薄銅合金線の軟質特性)
表3は、無酸素銅線を用いた比較例11に係るワイヤロッドと、低酸素銅に13mass ppmのTiを含有させた軟質希薄銅合金線から作製した実施例5に係るワイヤロッドとについて、異なる焼鈍温度で1時間の焼鈍を施した後のビッカース硬さ(Hv)を測定した結果を示す。
【0088】
【表3】
【0089】
実施例5に係るワイヤロッドは、表1の実施例1に記載した合金組成と同一の合金組成を有する。なお、試料としては、2.6mm径の試料を用いた。表3を参照すると、焼鈍温度が400℃の場合及び600℃の場合に、比較例11に係るワイヤロッドと実施例5に係るワイヤロッドとのビッカース硬さは同等レベルであることが示された。したがって、実施例5に係るワイヤロッドは十分な軟質特性を有すると共に、無酸素銅線との比較においても、特に焼鈍温度が400℃を超える温度範囲においては優れた軟質特性を発揮することが示された。
【0090】
(軟質希薄銅合金線の耐力、及び屈曲寿命についての検討)
表4は、無酸素銅線を用いた比較例12に係るワイヤロッドと、低酸素銅に13mass ppmのTiを含有させた軟質希薄銅合金線を用いて作製した実施例6に係るワイヤロッドとについて、異なる焼鈍温度で1時間の焼鈍を施した後の0.2%耐力値の推移を測定した結果を示す。なお、試料としては、2.6mm径の試料を用いた。また、実施例6に係るワイヤロッドは、表1の実施例1に記載した合金組成と同一の合金組成を有する。
【0091】
【表4】
【0092】
表4を参照すると、焼鈍温度が400℃及び600℃の場合に、比較例12に係るワイヤロッドと実施例6に係るワイヤロッドとの0.2%耐力値が同等レベルであることが示された。
【0093】
図7は、屈曲疲労試験の概要を示し、
図8は、400℃で1時間の焼鈍処理を施した後の、無酸素銅を用いた比較例13に係るワイヤロッドと、低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いて作製した実施例7に係るワイヤロッドとの屈曲寿命を測定した結果を示す。
【0094】
試料としては、0.26mm径の線材に対して焼鈍温度400℃で1時間の焼鈍を施した試料を用い、比較例13に係るワイヤロッドは比較例11に係るワイヤロッドと同一の成分組成を有し、実施例7に係るワイヤロッドは実施例5に係るワイヤロッドと同一の成分組成を有する。
【0095】
屈曲寿命の測定は、屈曲疲労試験を用いて実施した。屈曲疲労試験は、試料に荷重を負荷し、試料表面に引張と圧縮との繰り返し曲げひずみを与える試験である。具体的には、まず、
図7の(A)に示すように、屈曲ヘッド14が備えるクランプ12に試料20を固定すると共に曲げ冶具(つまり、リング10)の間に試料20をセットする。そして、試料20に対し、錘16により荷重を負荷する。次に、
図7の(B)に示すようにリング10を90度回転させることにより試料20に曲げを与える。この操作で、リング10に接している試料20の表面には圧縮ひずみが発生し、圧縮ひずみが発生している表面の反対側の表面には引張ひずみが発生する。
【0096】
その後、再び
図7の(A)の状態(つまり、試料20に曲げが加えられていない状態)に試料20は戻る。続いて、
図7の(C)に示すように、
図7の(B)における場合と反対方向にリング10を90度回転させることにより試料20に曲げを与える。この操作で、リング10に接している試料20の表面には圧縮ひずみが発生し、圧縮ひずみが発生している表面の反対側の表面には引張ひずみが発生する。そして、再び
図7の(A)の状態に試料20は戻る。この屈曲疲労の1サイクル(なお、
図7の(A)の状態から(B)の状態になり、(B)の状態から(A)の状態に戻り、(A)の状態から(C)の状態になり、(C)の状態から(A)の状態に戻るサイクルを1サイクルとする。)に要する時間は4秒である。
【0097】
表面曲げひずみは、「表面曲げひずみ(%)=r/(R+r)×100(%)」から算出される。なお、「R」は、素線曲げ半径(30mm)であり、「r」は、素線半径である。
【0098】
図8に示すように、実施例7に係るワイヤロッドは、比較例13に係るワイヤロッドに比べて高い屈曲寿命特性を示した。
【0099】
図9は、600℃で1時間の焼鈍処理を施した後の、無酸素銅を用いた比較例14に係るワイヤロッドと、低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いて作製した実施例8に係るワイヤロッドとの屈曲寿命を測定した結果を示す。
【0100】
試料としては、0.26mm径の線材に対して焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍を施した試料を用い、比較例14に係るワイヤロッドは比較例11に係るワイヤロッドと同一の成分組成を有し、実施例8に係るワイヤロッドは実施例5に係るワイヤロッドと同一の成分組成を有する。また、屈曲寿命の測定は、
図8に示す測定方法と同様に実施した。その結果、実施例8に係るワイヤロッドは、比較例14に係るワイヤロッドに比べて高い屈曲寿命特性を示した。
【0101】
実施例7、実施例8、比較例13、及び比較例14に係るワイヤロッドの屈曲寿命測定の結果は、いずれの焼鈍条件下においても実施例7及び実施例8に係るワイヤロッドの方が、比較例13及び比較例14に係るワイヤロッドに比べて0.2%耐力値が大きい値を示すことに起因と理解できる。
【0102】
(軟質希薄銅合金線の結晶構造についての検討)
図10は、実施例8に係る試料の幅方向の断面組織を示し、
図11は、比較例14に係る試料の幅方向の断面組織を示す。この
図10及び
図11において、紙面の下側が線材の表面側になる。
【0103】
図10を参照すると、実施例8の結晶構造は、表面部から中央部にかけて全体的に大きさの等しい結晶粒が均一に並んでおり、また、試料の断面方向の表面付近に薄く形成されている層では、結晶粒サイズが内部の結晶粒サイズに比べて極めて小さくなっていることが分かる。一方、比較例14の結晶構造は、全体的に結晶粒の大きさがまばらである。
【0104】
本発明者は、比較例14には形成されていない表層に現れた微細結晶粒層が実施例8の屈曲特性の向上に寄与しているものと考えている。
【0105】
通常、焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を実行すれば、比較例14のように再結晶により均一に粗大化した結晶粒が形成されると理解される。しかし、本実施例においては、焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を実行しても表層には微細結晶粒層が残存している。したがって、本実施例では、軟質銅材でありながら屈曲特性に優れた軟質希薄銅合金材料が得られたと考えられる。
【0106】
また、
図10及び
図11に示す結晶構造の断面写真を基に、実施例8及び比較例14に係る試料の表層における平均結晶粒サイズを測定した。
【0107】
図12は、表層における平均結晶粒サイズの測定方法の概要を示す。
【0108】
図12に示すように、0.26mm径の幅方向断面の表面から深さ方向に10μm間隔で50μmの深さまでの長さ1mmの線上の範囲で、結晶粒サイズを測定した。そして、各測定値(実測値)から平均値を求め、この平均値を平均結晶粒サイズにした。
【0109】
測定の結果、比較例14の表層における平均結晶粒サイズは、50μmであったのに対し、実施例8の表層における平均結晶粒サイズは、10μmであり、大きく異なっていた。表層の平均結晶粒サイズが細かいことにより、屈曲疲労試験による亀裂の進展が抑制され、屈曲疲労寿命が延びたと考えられる(なお、結晶粒サイズが大きいと、結晶粒界に沿って亀裂が進展する。しかし、結晶粒サイズが小さいと亀裂の進展方向が変わるので、進展が抑制される。)。このことが、上述のとおり、比較例と実施例との屈曲特性の面で大きな相違が生じた理由であると考えられる。
【0110】
また、2.6mm径である実施例6及び比較例12の表層における平均結晶粒サイズは、2.6mm径の幅方向断面の表面から深さ方向に50μmの深さのところの長さ10mmの範囲での結晶粒サイズを測定した。
【0111】
測定の結果、比較例12の表層における平均結晶粒サイズは100μmであったのに対し、実施例6の表層における平均結晶粒サイズは20μmであった。
【0112】
本実施例の効果を奏するには、表層の平均結晶粒サイズの上限値としては20μm以下が好ましい。また、製造上の限界値を考慮すると、5μm以上の平均結晶粒サイズであることが好ましい。
【0113】
図13は実施例に係るLOC−Ti材の断面を示し、
図14は比較例に係るOFCの断面を示す。
【0114】
(スピーカーケーブルへの適用)
スピーカーケーブルは、導体と絶縁層とを備えて構成される。例えば、0.26mmの銅素線(軟質希薄銅合金線)を複数本撚り合わせた銅撚り線からなる導体の外周にポリエチレンからなる絶縁層を被覆し、これを2本並列に並べることによりスピーカーケーブルは構成される。この銅素線には、実施例8に係る材料と同一の材料を用いた。
【0115】
ここで、上記素材の製造方法は以下のとおりである。すなわち、溶銅温度を1320℃に制御すると共に、圧延温度を880℃〜550℃に制御してφ8mmのワイヤロッドを作製し、作製したワイヤロッドに伸線加工を施してφ2.6mmの素材にした。このφ2.6mmの素材をφ0.26mmまで伸線加工した後に、焼鈍(400℃、1時間)を施して上記素材を得た。なお、比較例として、素材をOFCとした点以外は上記実施例と同様の製造方法で作製した素材を準備した。
【0116】
また、スピーカーケーブルの他の実施形態としては、0.26mmの銅素線を複数本撚り合わせた銅撚り線からなる導体の外周にポリエチレンの絶縁層を被覆し、これを2本対撚りして、この外周ヘポリエチレンのジャケットを被覆したスピーカーケーブルも作製した。
【0117】
上記2つの形態において、銅素線として、上記実施例7に記載した合金組成と同じものを使用した場合、以下のような効果が認められる。
【0118】
1)導体を、Tiを含み残部が不可避的不純物からなり、表面から50μm深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下である軟質希薄銅合金線にすることで、6N相当の導電率をもち、6Nより優れた屈曲性をもち、6Nよりコストを掛けずにスピーカーケーブルを供給することができる。すなわち、当該ケーブルの導体は400℃×lhrの熱処理後においても、表面の結晶粒径は小さいままで、内部の結晶は2次再結晶化している特徴を有するので、軟銅線でありながら、2次再結晶化した結晶を内部に持ち、かつ屈曲性に優れている。
【0119】
2)これにより、これまでの例においては、結晶の2次再結晶化はできるが、硬銅線のままでは撚線等への加工が困難で、また、断線しやすいものを軟銅線でできるようにしたことで、撚線等への加工が容易になり、かつ
図15に示すように、比較例(OFC)に比べて伸びが出せるので、屈曲に対し、極めて断線しにくいケーブルを供給できる。
【0120】
なお、
図15は、実施例(
図15中の「○」)と比較例(OFC、
図15中の◇)との焼鈍条件と素材の伸びとの関係を明確にしたものである。この実施例は、上記スピーカーケーブルの例に示したものと同様の導体を用いたものである。
図15によると、焼鈍温度400℃、1時間の条件において、伸びが、実施例の場合45%、比較例の場合42.5%であり、実施例の方が比較例に比して伸び特性において優れているといえる。
【0121】
3)また、
図14を参照すると、比較例(OFC)の中にも、結晶粒が大きい箇所を確認できるが、これらの結晶粒組織は単結晶組織ではなく、結晶粒内部には図中、黒色で示される筋状結晶組織(双晶組織)が点在することが分かる。そこで、実施例と比較例(OFC)の単位面積当たりの双晶の数を比較した結果、比較例(OFC)が27.6個/100μm四方であったのに対し、実施例は12.4個/100μm四方であった。これより、実施例の内部の結晶粒は再結晶により大きいものになっていると共に、双晶組織の数もOFCに比べて少なくなっていることから、実施例に係る導体は、OFC材に比較して結晶粒界の数が少ないといえる。
【0122】
4)また、実施例と比較例(OFC)の内部結晶サイズを測定した。測定方法は、切片法である。実施例の内部結晶サイズは、30μmであるのに対し、比較例の内部結晶サイズは、24μmであり、実施例の内部結晶サイズの方が、比較例の内部結品サイズよりもより大きい結晶組織からなっていることが分かった。
【0123】
5)上記3)及び4)から、実施例は、比較例に比して、結晶粒界の数が少なく、内部結晶サイズが大きい結晶組織からなっており、音質・画質の向上の面においてより優れた導体を用いていると言える。
【0124】
6)コストが高いため6Nのスピーカーケーブルを採用しにくかったオーディオマニアや音楽業界に6N相当の導電率をもち、6Nより安価なスピーカーケーブルという選択肢を供給することができ、また、数十mの長いスピーカーケーブルを使用する映画撮影業界、野外コンサートイベント業界において、ケーブルの張り巡らしと巻取りを繰り返しても屈曲特性に優れたスピーカーケーブルを提供することができる。
【0125】
上記実施例では、スピーカーケーブルを用いて説明したが、以下のような他の実施例における導体に使用することもできる。
【0126】
図16は、オーディオケーブルである。オーディオケーブルは、CDプレーヤーのステレオ音声をアンプで再生するとき等に用いられる。このオーディオケーブルは、2本の同軸ケーブル1と2つの入力側ピンジャック2、2つの出力側ピンジャック3を備えて構成される。
【0127】
図17は、ビデオケーブルである。ビデオケーブルは、DBDプレーヤーやビデオデッキの映像とステレオ音声をステレオテレビで再生するとき等に用いられる。このビデオケーブルは、3本の同軸ケーブル4と、3つの入力側ピンジャック5と、3つの出力側ピンジャック6とを備えて構成される。同軸ケーブル4のうち一本は映像用で、残りの二本はオーディオ用である。
【0128】
図18は、スピーカーケーブルである。スピーカーケーブルは、アンプの音声をスピーカーで再生するとき等に用いられる。スピーカーケーブルは、プラス・マイナス用の撚線7を絶縁する2本のケーブル8と、それらを被覆するシース9とを備えて構成される。
【0129】
その他、S端子ビデオケーブル、D端子ビデオケーブル、HDMIケーブルに適用することもできる。
【0130】
なお、導体は撚線に限らず、単線又は束線であってもよく、また、銀めっきした銅線の撚線、エナメル被覆が施された撚線であってもよい。また、絶縁層及びジャケットとしての絶縁素材はポリエチレンに限定されず、例えば、誘電率がポリエチレンよりも低い材料を用いることがより好ましい。また、軟質希薄銅合金線の表面にめっき層を形成してもよい。めっき層としては、例えば、錫、ニッケル、銀を主成分とする材料を適用することができ、いわゆるPbフリーめっきを用いることもできる。
【0131】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。