特許第5783609号(P5783609)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5783609
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】グラフェンの改質方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20150907BHJP
【FI】
   C01B31/02 101Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-161320(P2012-161320)
(22)【出願日】2012年7月20日
(65)【公開番号】特開2014-19622(P2014-19622A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2014年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(72)【発明者】
【氏名】原田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼光 永輔
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−041249(JP,A)
【文献】 特開2009−155168(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/113472(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0223094(US,A1)
【文献】 SHAO Yuyan, et al.,Nitrogen-doped graphene and its electrochemical applications,J Mater Chem,英国,2010年 9月21日,Vol.20, No.35,P.7491-7496
【文献】 BARAKET M., et al.,Nitrogen Doping of Graphene Using Electron Beam Generated Plasmas,Proc Annu Tech Conf Soc Vac Coaters,米国,2011年12月27日,Vol.54th,P.367-369
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00−31/36
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiCを加熱することでグラフェンを形成する工程と、
500℃から1100℃までの条件で前記グラフェンを加熱する工程と、
加熱されている前記グラフェンに窒素のラジカルのみを供給して前記グラフェンを窒化する工程と
を少なくとも備えることを特徴とするグラフェンの改質方法。
【請求項2】
請求項1記載のグラフェンの改質方法において、
前記グラフェンを加熱する温度を制御することで窒化した前記グラフェンのシート抵抗を制御することを特徴とするグラフェンの改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンの電気的特性を制御可能とするグラフェンの改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、炭素原子がsp2結合(sp2混成軌道による結合)で同じ面内に結合を作って六角形を形成して平面上に配列した構造のシート状の物質であり、グラファイトを構成する原子層を1層取り出したものといえる。このグラフェンは、非常に高い移動度が期待できるため、シリコンを超える次世代の集積回路用半導体デバイス材料として期待されている。
【0003】
しかし、グラフェンのバンドギャップは0であるため、これをチャネルに用いたトランジスタを作製すると、電子,正孔両方の伝導が現れる両極性動作を示し、ドレイン電流のオン・オフ比が小さく、集積回路用スイッチングデバイスとしては問題がある。このためグラフェンのバンドギャップを発現させてオン・オフ比を大きくするために、2層グラフェンをナノリボン化するなどの技術が検討されている(非特許文献1,非特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、上述した技術では得られるバンドギャップがあまり大きくなく、デバイス化した場合に十分なオン・オフ比が得られていない。さらに、グラフェンを集積回路に応用するためには、n型もしくはp型の制御をはじめ、様々な電気的特性を持つグラフェンが必要である。このような背景から、グラフェンの物性を制御する新たな手法が求められており、近年ではグラフェンに各種元素をドーピングして物性を制御しようとする研究が活発になってきている。例えば、窒素をドーピングすることで、グラフェンの物性が制御できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】E. V. Castro et al. , "Biased Bilayer Graphene: Semiconductor with a Gap Tunable by the Electric Field Effect",Phys. Rev. Lett. , vol.99 ,216802 ,2007.
【非特許文献2】G. Liang et al. , "Performance Projections for Ballistic Graphene Nanoribbon Field-Effect Transistors", IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES, vol.54, no. 4, pp.677-682, 2007.
【非特許文献3】D. Wei et al. , "Synthesis of N-Doped Graphene by Chemical Vapor Deposition and Its Electrical Properties",Nano Lett. , vol.9, no.5, pp.1752-17582009
【非特許文献4】X.Wang et al. , "N-Doping of Graphene Through Electrothermal Reactions with Ammonia", SCIENCE, vol.324, pp.768-771, 2010.
【非特許文献5】Yung-Chang Lin et al. , "Controllable graphene N-doping with ammonia plasma", APPLIED PHYSICS LETTERS, vol.96, 133110, 2010.
【非特許文献6】D. Deng et al. , "Toward N-Doped Graphene via Solvothermal Synthesis", Chem. Mater. , vol.23, pp.1188-1193, 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、これまでのグラフェンへの窒素ドーピング技術としては、気相成長法(非特許文献3参照)、アンモニアとグラフェンの電熱反応(非特許文献4参照)、アンモニアプラズマ(非特許文献5参照)、ソルボサーマル合成(非特許文献6参照)などが報告されている。しかしながら、これらの技術では、形成されているグラフェンの全域にドーピングされてしまい、部分的にドーピングをすることができないという問題がある。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、所望とする箇所に選択的に窒素がドーピングされたグラフェンが形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るグラフェンの改質方法は、SiCを加熱することでグラフェンを形成する工程と、500℃から1100℃までの条件でグラフェンを加熱する工程と、加熱されているグラフェンに窒素のラジカルのみを供給してグラフェンを窒化する工程とを少なくとも備える。
【0009】
上記グラフェンの改質方法において、グラフェンを加熱する温度を制御することで窒化したグラフェンのシート抵抗を制御することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、窒素のラジカルのみを供給するようにしたので、所望とする箇所に選択的に窒素がドーピングされたグラフェンが形成できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施の形態におけるグラフェンの改質方法を説明するためのフローチャートである。
図2図2は、本発明の実施の形態におけるグラフェンの改質を実施するための装置の構成を示す構成図である。
図3図3は、本発明の実施の形態におけるグラフェンの改質方法によるシート抵抗の変化を示す特性図である。
図4図4は、本発明の実施の形態におけるグラフェンの改質方法によるグラフェンの層数変化を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態におけるグラフェンの改質方法を説明するためのフローチャートである。
【0013】
まず、ステップS101で、SiCを加熱することでグラフェンを形成する。例えば、主表面を(0001)としたSiC基板を用い、圧力1×10-5Pa程度の高真空状態で1700℃に加熱することで、SiC基板の表面に数層のグラフェンが形成できる。
【0014】
次に、ステップS102で、形成したグラフェンを加熱する。例えば、300〜1100程度に加熱する。次いで、加熱されているグラフェンに窒素のラジカルのみを供給(照射)して窒化する。
【0015】
以下、より詳細に説明する。まず、ラジカルを供給(照射)するための装置について図2を用いて説明する。この装置は、真空排気可能な処理室201と、処理室201内で基板202を固定するサセプタ203と、サセプタ203に固定された基板202を加熱するための赤外線ヒータ204とを備える。処理室201は、図示しないロードロック室を備え、処理室201内の減圧状態を維持して処理室201内に対する基板202の搬入搬出を可能としている。また、赤外線ヒータ204による加熱温度は、熱電対205により測定されてフィードバック制御され、1100℃程度まで昇温可能とされている。
【0016】
また、処理室201には、ラジカルガン206が接続され、基板202に対して窒素ラジカルを照射可能としている。ラジカルガン206は、供給される窒素ガスよりプラズマを生成し、生成したプラズマ中のイオンを、高電圧が印加されているイオントラップ207で除去し、窒素ラジカルのみが基板202に対して供給されるようにしている。ラジカルガン206としては、例えば、「SVT Associates社RF Plasma Source RF4.50」(オプションのイオントラップも装着)を用いればよい。
【0017】
上述した装置を用い、SiCの基板202の表面に形成されているグラフェンに対してラジカル窒素を照射して窒化する。ラジカル窒化処理時の、ラジカルガン206に対する窒素の供給流量は2.5sccm、プラズマ生成のためのRF出力は300Wとした。なお、sccmは流量の単位であり、0℃・1013hPaの流体が1分間に1cm3流れることを示す。
【0018】
また、ラジカル窒素照射による窒化時の基板温度は、300〜1100℃の範囲で変化させた。実験として、300℃、500℃、700℃、900℃、1100℃の温度条件を設定した。また、各温度条件において各々の窒化時間は、3分とした。なお、SiC基板を、圧力1×10-5Pa程度の高真空状態で1700℃・30分の条件で加熱することで、グラフェンを形成している。
【0019】
上述した各条件で窒化したグラフェンについて、四探針法でシート抵抗を測定した結果を図3に示す。図3には、窒化処理をする前のシート抵抗値と、窒化処理をした後で測定されたシート抵抗値とを示している。窒化処理前のグラフェンのシート抵抗値が、600Ω/□程度であるのに対し、窒化処理をした後のグラフェンでは、どの処理温度条件においてもシート抵抗が増加している。
【0020】
また、より低温でラジカル窒化処理をした場合には高いシート抵抗を示し、高温になるにつれてシート抵抗が低くなる。また、900℃の温度条件で窒化処理したグラフェンは、他の窒化温度条件に対して低いシート抵抗値を示しており、4.53kΩ/□であった。なお、300℃の条件でラジカル窒化処理を行った試料に関してはラマン散乱測定でグラフェンのピークが観測されなかった。このように、本実施の形態によれば、グラフェンのラジカル窒化処理において、処理温度を制御することで、窒化処理されたグラフェンのシート抵抗を数kΩから数十kΩまで制御できる。
【0021】
次に、上述した各処理条件で窒化処理したグラフェンにおける層数を、ラマン散乱測定の結果より見積もった結果について図4を用いて説明する。窒化処理前のグラフェン層数は2〜3ML程度である。図4において、300℃の温度条件で窒化処理したグラフェンの層数が減少しているのは、300℃でラジカル窒化した試料ではGピークが確認できないことと対応している。500〜900℃の範囲では、見積もられる層数はラジカル窒化前と大きな差はない。これに対し、1100℃とより高温でラジカル窒化した試料においては層数が増加している。このように、本実施の形態における処理では、温度条件により、グラフェンの構造が変化していることがわかる。
【0022】
以上に説明したように、本発明では、窒素のラジカルによりグラフェンを窒化するようにした。このため、本発明によれば、例えば、マスクパターンを用いて選択的に窒素のラジカルを照射(供給)することが可能であり、所望とする箇所に選択的に窒素がドーピングされたグラフェンが形成できるようになる。また、グラフェンを加熱する温度を制御することで、窒化したグラフェンのシート抵抗を制御することができる。また、イオンなどの荷電粒子ではなく、ラジカルを照射しているので、グラフェンにおける損傷の発生が抑制できるようになる。
【0023】
従来のグラフェンへの窒素ドーピングは、ナノリボンの形成や、CVD法による金属触媒を用いたドーピング、あるいは化学的な反応を用いたドーピングが主であり、現在のシリコン集積回路のような真空プロセスによる選択的なドーピングが困難であった。本発明は、高真空中でのラジカル窒素照射という新しい手法によりグラフェンの電気的特性が制御可能であることを示したものであり、グラフェンの選択的な改質を可能とし、電子デバイスおよび集積回路の作製プロセスとして適用可能なものである。
【0024】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0025】
201…処理室、202…基板、203…サセプタ、204…赤外線ヒータ、205…熱電対、206…ラジカルガン、207…イオントラップ。
図1
図3
図4
図2