【実施例】
【0029】
以下に実施例、および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
実施例1(ヒト毛乳頭細胞賦活効果)
毛乳頭細胞を被験物質(H61又はG50)添加下で培養後、生細胞数を測定し、また繊維芽細胞増殖因子(FGF-7)、血管内皮増殖因子(VEGF)産生量をELISA法にて測定した。
【0031】
(1)細胞
ヒト毛乳頭細胞(TOYOBO)は、白色人種、51歳女性由来のヒト頭髪毛乳頭培養細胞を購入して使用した。
【0032】
(2)ヒト頭髪毛乳頭細胞の培養条件
毛乳頭細胞は、付属の毛乳頭細胞専用培地(TOYOBO)を用い、CO
2インキュベーター(5%CO
2、37℃)内で培養した。培養に使用したフラスコはI型コラーゲンコート(Cellmatrix Type I-C、新田ゼラチン)して使用した。細胞の継代には付属の毛乳頭細胞専用サブカルチャーセット(TOYOBO)を用いて細胞をフラスコより剥離し、使用した。
【0033】
(3)被験物質調整
ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ クレモリス H61およびラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ ラクティス G50は、予めそれぞれTYG培地で常法に従って一昼夜培養し、洗浄、加熱処理(121℃、15分間)を行った後、凍結乾燥して得られた乾燥菌体を被検物質とした。なお、当該乾燥菌体0.001mgあたりに含まれる菌数は×10
5レベルであった。
【0034】
各被験物質を100mg/mL濃度となるよう毛乳頭細胞専用培地によく懸濁し、10倍濃縮溶液として使用した。また、濾過滅菌処理において前述懸濁液を遠心分離(12000×g、5分間)し、上清を低吸着タイプの0.45μm濾過滅菌フィルター(Millex-HV、Millex)にて滅菌処理を行った。濾過液を10倍濃縮溶液として使用した。
【0035】
陽性対照のアデノシン(Wako)は25mg/mL濃度となるようジメチルスルホキシド(DMSO)(nacalai tesque)に溶解した。本試験ではアデノシン終濃度25μg/mLとし、このときの溶媒(DMSO)濃度は0.1%になる。
【0036】
(4)細胞賦活試験
細胞を1.2×10
4cells/0.3ml/ウェルで48ウェルプレートに播種した。CO
2インキュベーター内(5%CO
2、37℃)で、1日間培養後、被験物質(0.001mg/mL, 0.1mg/mL, 10mg/mL)を含む培地に置換した。その後、1日間及び3日間培養し、それぞれの細胞の増殖性(viability)を生細胞数測定試薬SF(nacalai tesque)で比較検討した。n=3にて行った。その際、培養上清を回収し、後述のように培養上清中のFGF-7,VEGF産生量をELISA法で測定した。
【0037】
生細胞数測定において、培養上清を除去した細胞に生細胞数測定試薬SFを10%含む培地を添加(300μL/ウェル)した。添加後、30分、90分後に培養上清(100μL/ウェル)を別の96ウェルプレートに移し、マイクロプレートリーダーにて吸光度測定した。90分、30分の値から1時間あたりの吸光度変化量を算出した。
【0038】
培養1日後の結果を
図1に、培養3日後の結果を
図2に示す。図中、‘Non’は未処理対照、‘25μg/mL Ade’はアデノシン25μg/mLを添加した陽性対照(DMSO濃度 0.1%)、‘0.1%DMSO’は前記陽性対照からアデノシンを除いたもの、縦軸は生細胞数と比例関係にある1時間当りの吸光度ABSの変化量(単位:ABS/hr)、をそれぞれ示す。
被験物質処理1日間ではH61株、G50株ともに低濃度域に細胞賦活性が認められた(
図1)。H61株は0.001mg/mLで対照(Non)の1.28倍、G50株は0.1mg/mLで1.24倍であった。一方、被験物質処理3日間ではH61株、G50株ともに0.1mg/mL濃度区で最大の賦活性を示したが、G50株の方がより賦活性を示した(H61株は対照(Non)の1.47倍、G50株は2.21倍)(
図2)。一方、陽性対照であるアデノシンは、1日間の処理で0.1%DMSO区の1.29倍に生細胞数が上昇したが、3日間の処理では細胞の賦活性が認められなかった。
【0039】
なお、培養上清回収前に細胞形態を顕微鏡観察したところ、H61、G50ともに細胞形態の異常は認められないことから大きな細胞毒性はないと判断できる。
【0040】
(5)FGF-7産生試験
細胞を5×10
3cells/0.1ml/ウェルで96ウェルプレートに播種したこと以外は、上述(4)の試験と同様の条件で培養した細胞から回収した培養上清を、測定まで-80℃で保存した。測定時に氷上で解凍し、FGF7 Human ELISA kit(abcam)にて培養上清中のFGF-7量を測定した。予備検討により培養上清を希釈せず、原液を測定することとした。詳細なプロトロールを以下に示す。
【0041】
〔FGF-7測定プロトコール〕
(1)FGF-7標準原液(50ng/ml)をもとに、反応緩衝液を用いて400、133.3、44.44、14.81、4.94、1.65、0.55pg/mlのFGF-7標準溶液を調製する。
(2)FGF-7標準溶液および検体(培養上清)100μLをFGF-7固相化マイクロプレートの各ウェルに添加し、室温にて2時間30分反応する(一次反応)。
(3)ウェル内の溶液を除去し、洗浄液で4回洗浄する。
(4)ビオチン標識抗FGF-7抗体溶液を各ウェルに100μLずつ添加し、室温で60分間反応させる(二次反応)。
(5)ウェル内の溶液を除去し、洗浄液で4回洗浄する。
(6)ストレプトアビジン溶液100μLを各ウェルに添加し、室温で45分反応する。
(7)酵素基質溶液100μLを各ウェルに添加し、遮光・室温下で30分間静置する(発色反応)。
(8)反応停止溶液を各ウェルに50μlずつ添加し、プレートミキサーで1分間混和後、マイクロプレートリーダーで各ウェルの吸光度を測定する(測定波長450nm)。
(9)標準曲線から、検体中のFGF-7濃度を算出する。
【0042】
培養1日後のFGF-7産生量を
図3に、培養3日後のFGF-7産生量を
図4に、それぞれ示す。図中、‘Non’は未処理対照、‘25μg/mL Ade’はアデノシン25μg/mLを添加した陽性対照(DMSO濃度 0.1%)、‘0.1%DMSO’は前記陽性対照からアデノシンを除いたもの、をそれぞれ示す。
図3、4の縦軸は培養上清中の繊維芽細胞増殖因子FGF-7の量(単位:pg/mL)を示す。
処理1日間ではH61株、G50株ともに最高濃度である10mg/mLで顕著にFGF-7の産生を促進していた(H61株は対照(Non)の3.85倍、G50株は7.10倍)が、陽性対照であるアデノシンでは、0.1%DMSO区と比べてFGF-7の産生促進効果は見られなかった(
図3)。処理3日間では、H61株において0.001mg/mL(1μg/mL)、0.1mg/mL(100μg/mL)もFGF-7の蓄積が認められた(それぞれ対照(Non)の1.57倍、1.48倍)(
図4)。しかし、G50株は処理3日間で1μg/mL、100μg/mL濃度において10mg/mL区と同程度まで増加しなかった。陽性対照であるアデノシンは、処理期間3日間で0.1%DMSO区の1.66倍の増加を示した。
【0043】
(6)VEGF産生試験
上述(4)の試験の条件で培養した細胞から回収した培養上清を、測定まで-80℃で保存した。測定時に氷上で解凍し、Human VEGF Quantikine ELISA(R & D Systems)にて培養上清中のVEGF量を測定した。予備検討により培養上清を3倍希釈し測定することとした。詳細なプロトロールを以下に示す。
【0044】
〔VEGF測定プロトコール〕
(1)VEGF標準原液(2000pg/ml)をもとに、反応緩衝液を用いて1000、500、250、125、62.5、31.2、15.6pg/mlのVEGF標準溶液を調製する。
(2)VEGF標準溶液および検体(培養上清)200μLを、50μLの希釈溶液を各ウェルに添加したVEGF固相化マイクロプレートに添加し、室温にて2時間反応する(一次反応)。
(3)ウェル内の溶液を除去し、洗浄液で3回洗浄する。
(4)西洋ワサビペルオキシダーゼ結合VEGF抗体溶液を各ウェルに200μLずつ添加し、室温で2時間反応させる(二次反応)。
(5)ウェル内の溶液を除去し、洗浄液で3回洗浄する。
(6)基質溶液200μLを各ウェルに添加し、室温で20分反応する。
(7)反応停止溶液を各ウェルに50μlずつ添加し、プレートミキサーで1分間混和後、マイクロプレートリーダーで各ウェルの吸光度を測定する(測定波長450nm)。
(8)標準曲線から、検体中のVEGF濃度を算出する。
【0045】
培養1日後のVEGF産生量を
図5に、培養3日後のVEGF産生量を
図6に、それぞれ示す。図中、‘Non’は未処理対照、‘Ade’はアデノシン25μg/mLを添加した陽性対照(DMSO濃度 0.1%)、‘0.1%DMSO’は前記陽性対照からアデノシンを除いたもの、をそれぞれ示す。
図5、6の縦軸は培養上清中の血管内皮増殖因子VEGFの量(単位:pg/mL)を示す。
処理期間1日においてH61、G50ともに産生促進効果を示したが(0.001mg/mL、0.1mg/mL、10mg/mLでH61株は、それぞれ対照(Non)の3.54倍、3.29倍、2.51倍であり、G50株は2.76倍、3.44倍、5.77倍)、なかでもG50の10mg/mLは顕著に増加していた(
図5)。一方、処理期間3日においてもH61、G50ともに0.001mg/mL(1μg/mL)、0.1mg/mL(100μg/mL)濃度で増加を示したが(H61株で対照(Non)の1.93倍、2.01倍、G50株で1.81倍、1.78倍)、10mg/mL濃度は無添加区(Non)と同程度まで減少していた(
図6)。一般に過剰に合成された成分がフィードバック効果により合成が抑制される場合がある。1日目において過剰に分泌されたことで3日目において抑制作用が働いた可能性が考えられる。陽性対照であるアデノシンは、1日処理ではVEGFの産生促進効果は見られなかったが、3日間処理で1.23倍の促進作用を示した。
【0046】
(7)考察
細胞賦活試験においてH61及びG50の毛乳頭細胞への有効性が認められた。しかし、その効果・性質は異なっていた。H61は、細胞賦活試験では処理期間1日で低濃度域で比較的作用を示すことから、細胞分裂を促進する効果があることが考えられる(培養1日は細胞増殖曲線のうち増殖期、培養3日は維持期を検証することになる)。一方、G50は、処理期間3日で顕著に細胞賦活性が現れたことから、細胞の抗老化など細胞維持に関与するものと考えられる。ヘアサイクルにおいて細胞分裂の盛んな成長期にはH61が、分裂を停止し細胞を維持する段階の退行期にはG50が、有効に作用する可能性がある。
【0047】
細胞増殖因子産生に及ぼす効果として、G50は処理期間1日でVEGFの大部分を促進することから、短期的な作用効果があると考えられる。VEGFは血管新生因子であり、成長期だけでなく毛細血管の減少が始まる退行期にも有効であることから、G50は退行期において短期間使用で作用(主に発毛・脱毛抑制作用)を発揮する可能性がある。一方、H61は低濃度であっても処理期間3日でゆるやかにFGF-7の産生を促進することから、長期的効果があると考えられる。FGF-7は毛母細胞分裂を促進することから、ヘアサイクルでの成長期に有効であると考えられる。したがって、H61は成長期において長期間使用で作用(主に育毛作用)を発揮する可能性がある。
【0048】
以上に述べたように、本実施例により、ラクトコッカス属乳酸菌H61、G50はいずれも高い育毛・発毛効果および脱毛抑制効果を奏することが示された。育毛・発毛剤および/または脱毛抑制剤における乳酸菌抽出物の添加濃度は0.001〜10mg/mLとすることが好ましく、0.001〜0.1mg/mL(いずれも乾燥菌体換算)とすることがより好ましいことがわかった。H61とG50はヘアサイクルの中の異なる時期においてそれぞれ顕著な効果を発揮することから、両菌株を併用することによって、より効果の高い育毛・発毛剤および/または脱毛抑制剤を提供できる。また、両菌株の育毛・発毛作用および/または脱毛抑制作用は死菌体(乾燥菌体)の抽出物でも見られることから、幅広い加工処理に対応できると考えられる。
【0049】
実施例2(メラニン産生抑制効果)
マウスB16メラノーマ細胞(以下「B16細胞」と略す。)は、日焼けやシミの原因となるメラニンを産生する特徴を有する。また,α-メラノサイト刺激ホルモン(以下「α-MSH」と略す。)により、メラニン産生が促進されることが知られている。このため、日焼けやシミをターゲットとしたメラニン産生の細胞モデル系として研究などに広く用いられている。本試験では、B16細胞がα-MSH刺激または未刺激条件下で産生するメラニンを測定し、未処置対照のメラニン産生量に対する試験液(H61又はG50を含有)添加時のメラニン産生量からメラニン産生率を求め、メラニン産生抑制作用を評価した。
【0050】
(1)試験液の調製
ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ クレモリス H61およびラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ ラクティス G50は、予めそれぞれTYG培地で常法に従って一昼夜培養し、洗浄、加熱処理(121℃、15分間)を行った後、凍結乾燥して得られた乾燥菌体を検体とした。なお、当該乾燥菌体500μgあたりに含まれる菌数は10
8レベルであった。
【0051】
検体に生理食塩液を加え30秒間かくはんした後、遠心分離(18000g、5分間)し、上清を分取した。これを50mg/mL試験液原液とし、培地で希釈して検体濃度4000、2000及び1000μg/mLの試験液を調製した。
【0052】
(2)試験操作
B16細胞を24ウェルプレートに播種後1日間培養した。4000、2000及び1000μg/mLの各試験液を添加した(検体の終濃度は1000、500及び250μg/mL)。この際、α-MSH刺激条件では、α-MSH(和光純薬工業株式会社)を終濃度5μmol/Lとなるように添加した。培地のみを加えたものを未処置対照、アルブチン(和光純薬工業株式会社)を終濃度1mmol/Lとなるように加えたものを陽性対照として同様に試験を行った。4日間培養後、倒立型位相差顕微鏡にて観察及び撮影した。24ウェルプレートの培養上清を除去し,1mol/L水酸化ナトリウム溶液を加え、80℃、1時間加温し、B16細胞に蓄積したメラニンを抽出した。主な試験条件を表1に示した。
【0053】
【表1】
【0054】
(3)測定方法
マイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e ,Molecular Devices Corporation)を用い、抽出したメラニンの吸光度を405nmにて測定した。
【0055】
(4)算出方法
未処置対照の吸光度に対する各試験液の吸光度から、次式によりメラニン産生率を算出した。陽性対照は各試験液と同様に算出した。
【0056】
メラニン産生率(%)=Sa/CN ×100
Sa:各試験液の吸光度
CN:未処置対照の吸光度の平均値(n=3)
【0057】
(5)結果と考察
メラニン産生抑制試験の結果を表2、3および
図7、8に示す。なお、
図7、8の棒グラフのうち、黒はコントロール(未処置対照)を、ドットはアルブチン1mM添加区(陽性対照)を、斜線は被検物質(H61又はG50)500μg/mL添加区を、それぞれ示す。
H61、G50とも、陽性対照であるアルブチンよりはやや劣るものの、メラニン産生抑制効果を示した。特にα-MSH刺激条件では、乳酸菌無添加の未処置対照に比べて、H61はメラニン産生を68%に抑制し、G50は81%に抑制することができた(いずれも500μg/mL添加時)。このことから、メラニン産生に及ぼす影響は乳酸菌の種類により異なると考えられた。
また、乳酸菌抽出物の添加濃度は250〜1000μg/mLとすることが好ましく、500〜1000μg/mL(いずれも乾燥菌体換算)とすることがより好ましいことがわかった。
なお、アルブチンは発ガン性物質であるハイドロキノンの配糖体であることから、使用濃度によっては安全性に問題がある場合がある。一方、本発明の乳酸菌はいずれも長い食経験を持つラクトコッカス属乳酸菌であり、安全性が高いと思われる。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】